説明

金属回収方法

【課題】金属捕集材の繰り返し使用性能の向上が可能な金属回収方法を提供する。
【解決手段】海水に含まれる金属を吸着する金属捕集材から前記金属を分離回収する金属回収方法において、金属吸着後の前記金属捕集材をアルカリ溶液に浸漬して、前記金属捕集材から前記金属を溶離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び非特許文献1には、ポリエチレン等の基材にアミドキシム基をグラフト重合させて形成された金属捕集材を海中に係留することにより、海水に含まれる極微量のウランやバナジウム等の希少金属を効率良く吸着及び回収する技術が開示されている。
【0003】
従来では、金属捕集材に吸着したウランを金属捕集材から分離・回収する場合、まず塩酸溶液を用いて金属捕集材からアルカリ金属を除去した後、硝酸溶液を用いて金属捕集材からウランを溶離していた。このような分離・回収の処理回数が10回を越えると、金属捕集材の吸着性能が70%程度にまで低下することが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、非特許文献1には、6回の繰り返し使用性能(耐久性能)を有する金属捕集材を、18回、つまり2倍の繰り返し使用性能を有する金属捕集材に替えることでウラン回収コストを半減できることが示されており、金属捕集材の繰り返し使用性能の向上は、ウラン回収コストの削減という観点から非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−178531号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】玉田正男ら モール状捕集システムによる海水ウラン捕集のコスト試算 日本原子力学会和文論文誌,Vol.5,No.4,p.358-363(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において金属捕集材の劣化が早い要因として、酸性溶液を用いて金属捕集材からウランを溶離することが考えられる。すなわち、アミドキシム基を合成する際の副反応によって生成されるイミドジオキシム基は、アミドキシム基を基材に結合させるという重要な役割を担っているが、このイミドジオキシム基は酸性溶液中で非常に分解しやすい性質を有しているため、金属捕集材を酸性溶液に接触させる度にアミドキシム基が基材から分離してしまい、その結果、金属捕集材の吸着性能が低下すると考えられる。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、金属捕集材の繰り返し使用性能の向上を図ることの可能な金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、金属回収方法に係る第1の解決手段として、海水に含まれる金属を吸着する金属捕集材から前記金属を分離回収する金属回収方法において、金属吸着後の前記金属捕集材をアルカリ溶液に浸漬して、前記金属捕集材から前記金属を溶離することを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、金属回収方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記アルカリ溶液として、pH=8.5以上のアルカリ溶液を使用することを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、金属回収方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記金属捕集材は、キレート官能基を基材にグラフト重合させて得られたものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、金属回収方法に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記キレート官能基は、アミドキシム基或いはリン酸基であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属捕集材から金属を分離回収するに当って、金属捕集材をアルカリ溶液に浸漬して、金属捕集材から金属を溶離することにより、効率良く金属を分離回収できると共に、従来のように酸性溶液を使用した場合と比較して金属捕集材の劣化を抑制し、繰り返し使用性能の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】アミドキシム基のウラン吸収容量のpH依存性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態における金属回収方法は以下の通りである。まず、従来技術と同様な手法で金属捕集材を海中に係留する。ここで、金属捕集材としては、特にウランやバナジウム等の希少金属に対して高い吸着性能を示すアミドキシム基或いはリン酸基等のキレート官能基をポリエチレン等の基材にグラフト重合させて得られる繊維状物を用いることが有効である。但し、金属捕集材はこれに限定されるものではない。
【0016】
また、上記の金属捕集材を海中に係留するに当っては、特許文献1に記載されているように、複数の金属捕集材を適切な間隔をおいて積層固定した捕集材カセットを籠に収納し、この籠を海中に垂らしたロープに一定間隔をおいて結合しても良いし、或いは非特許文献1に記載されているように、モール状に成形した金属捕集材を海底に固定したチェーンに接続して海中を浮遊させるようにしても良い。勿論、この他の手法を用いて金属捕集材を海中に係留しても良い。
【0017】
このように金属捕集材を海中に係留することにより、金属捕集材と海水が効率良く接触し、海水に含まれるウラン等の希少金属が金属捕集材に(より詳細にはアミドキシム基に)吸着される。下記(1)式に、金属捕集材とウランの吸着反応式を示す。下記(1)式に示すように、キレート官能基であるアミドキシム基にウランが結合する。
【0018】
【数1】

【0019】
そして、一定期間後、海中から金属捕集材を回収し、地上に設置された金属分離・回収設備を用いて金属捕集材に吸着されているウラン等の希少金属を分離・回収する。具体的には、まず、金属捕集材を0.01Mの塩酸溶液に浸漬して金属捕集材からアルカリ金属を除去した後、そのアルカリ金属除去後の金属捕集材を弱アルカリ溶液(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、薄い水酸化ナトリウム、薄い水酸化カリウム、或いは水酸化カルシウムなどの水溶液)に浸漬して、金属捕集材からウラン等の希少金属を溶離する。
【0020】
図1は、アミドキシム基のウラン吸収容量(ウラン吸着性能を示す指標)のpH依存性を示す特性図である(図1の出典URL:http://www.sciencedirect.com/science?_ob=
ArticleURL&_udi=B6TGK-43N267R-6K&_user=10&_coverDate=12%2F01%2F1987&_rdoc=1&_fmt
=high&_orig=search&_origin=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=0c1009cd4a3fca945cb3ff69a3944467&searchtype=a)。この図1に示すように、pH=8.5以上になるとアミドキシム基に対するウランの吸着はほとんど見られなくなるため、金属捕集材をpH=8.5以上の弱アルカリ溶液に浸漬することにより、金属捕集材からウラン等の希少金属を効率良く溶離できることがわかる。
【0021】
このような弱アルカリ溶液によるウラン分離反応式は下記(2)式で表される。下記(2)式は、ウランに直接アルカリが作用して中性となり、吸着の相関力(電荷の相互作用)が低下することにより、ウランがアミドキシム基から分離することを示している。
【0022】
【数2】

【0023】
一方、従来と同様に、金属捕集材を酸性溶液(例えば塩酸)に浸漬して、金属捕集材からウランを溶離する場合、その酸性溶液によるウラン分離反応式は下記(3)式で表される。下記(3)式は、アミドキシム基の電荷に酸が作用して中性となり、吸着の相関力(電荷の相互作用)が低下することにより、ウランがアミドキシム基から分離することを示している。また、下記(3)式に示すように、金属捕集材の置換基(イミドジオキシム基)が酸と反応しやすく、酸性溶液によるウランの分離・回収では金属捕集材の劣化を招くことがわかる。
【0024】
【数3】

【0025】
すなわち、本実施形態のように、金属捕集材をpH=8.5以上の弱アルカリ溶液に浸漬して、金属捕集材からウラン等の希少金属を分離・回収することにより、効率良くウランを分離回収できると共に、従来のように酸性溶液を使用した場合と比較して金属捕集材の劣化を抑制し、繰り返し使用性能の向上を図ることが可能となる。本願発明者は、上述した金属回収方法によって海水からのウラン回収実験を行ったところ、金属捕集材を10回以上繰り返し使用しても(10回以上、弱アルカリ溶液による分離・回収処理を行っても)、金属捕集材の繰り返し使用性能が低下しないことを確認している。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。例えば、上記実施形態では、金属捕集材から金属を分離・回収するために使用するアルカリ溶液として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、薄い水酸化ナトリウム、薄い水酸化カリウム、或いは水酸化カルシウムなどの弱アルカリ溶液を例示したが、pH=8.5以上のアルカリ溶液であれば、強アルカリ溶液などを使用しても良い。また、必ずしもpH=8.5以上のアルカリ溶液を用いる必要はなく、図1からわかるように、pH>7のアルカリ溶液であれば、アミドキシム基に対するウランの吸着は大きく減少するため、pH>7のアルカリ溶液を使用しても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水に含まれる金属を吸着する金属捕集材から前記金属を分離回収する金属回収方法において、
金属吸着後の前記金属捕集材をアルカリ溶液に浸漬して、前記金属捕集材から前記金属を溶離することを特徴とする金属回収方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液として、pH=8.5以上のアルカリ溶液を使用することを特徴とする請求項1に記載の金属回収方法。
【請求項3】
前記金属捕集材は、キレート官能基を基材にグラフト重合させて得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属回収方法。
【請求項4】
前記キレート官能基は、アミドキシム基或いはリン酸基であることを特徴とする請求項3に記載の金属回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149324(P2012−149324A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10567(P2011−10567)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】