説明

金属基板上にアルミノケイ酸塩−ゼオライト層を形成する方法、被覆基板およびその使用

ネットワーク形成元素としてシリコンと任意選択でアルミニウムとを含有する水反応分散液へと移動するアルミニウム含有基板上に、アルミノケイ酸塩−ゼオライト層を形成する方法であって、前記水反応分散液中にアルミニウムが存在するかしないかにかかわらず、前記水反応分散液中に含まれる前記指定のネットワーク形成元素の合計に対する前記水反応分散液中のアルミニウムのモル比が、任意選択で0、0〜約0.4の範囲とされ、前記アルミニウム含有基板を含む前記水反応分散液が加熱され、アルミノケイ酸塩−ゼオライト形成プロセスに向けて前記アルミニウム含有基板からアルミニウムが抽出され、その場での直接結晶化によって前記アルミニウム含有基板上アルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が形成される方法が記載される。この方法は、5より低いSi/Al比を成立させるために十分な量のSi源と、モル準化学量論値の要件を満たすAl源と、前記アルミニウム含有金属基板とを前記水反応分散液に導入することによって、前記アルミニウム含有基板上にSi/Al比が5より低いアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が形成され、前記水反応分散液のpH値がアルカリ化され、前記アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの前記層が、前記アルミニウム含有金属基板上に結晶化されることを特徴とする。
アルミニウム含有金属基板上のアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの有利なコーティングが、本発明によって得られる。この生成物は、有益な用途向けに、特に、不均一触媒に関してなど、収着に基づく応用分野において、分離および洗浄プロセスにおいて、固定化触媒と併用する収着熱ポンプにおいて、また微量反応技術において提供することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンと任意選択でアルミニウムとがネットワーク形成元素として含まれる水反応分散液に導入されるアルミニウム含有金属基板上に、アルミノケイ酸塩−ゼオライト層を形成する方法に関する。この方法では、水反応分散液中にアルミニウムが存在するかしないかにかかわらず、水反応分散液中に含まれる指定のネットワーク形成元素の合計に対する水反応分散液中のアルミニウムのモル比が、任意選択で0、0〜約0.4にある。アルミニウム含有金属基板を含む水反応分散液を加熱し、アルミノケイ酸塩−ゼオライト形成プロセスに向けてアルミニウム含有金属基板からアルミニウムを抽出し、その場での直接結晶化によってアルミニウム含有基板上アルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を形成する。本発明はさらに、この方法の生成物の有利な用途に関する。
【0002】
さらに、本発明は、アルミニウムが豊富なアルミノケイ酸塩−ゼオライト層がその上に形成されているアルミニウム含有基板の形でこの方法によって得られる生成物に関し、またこのアルミニウム含有基板の有利な用途に関する。
【背景技術】
【0003】
より鉱物学的意味合いにおいて、ゼオライトはケイ酸塩鉱物、特に、複雑な化学構造のアルミノケイ酸塩であり、多孔質四面体ネットワーク(Tネットワーク)の形成を特徴とする。IZA(国際ゼオライト協会)のより一般的な定義によれば、ゼオライトは、ネットワーク密度<1000Å3当たりの19T原子であるTネットワークを有する金属であると理解されている。それらゼオライトは、分子価(molecular value)を推測することができる内部空洞を有する構造を示す。これにより、ゼオライトの多孔質構造内に外来原子(foreign atom)、またはそれぞれ外来分子(foreign molecule)を受け取ることができるというゼオライトの特徴がもたらされる。たとえば、ゼオライトは、大量の水を貯蔵することができ、また加熱するとこの水を放出することができる。ゼオライトは、熱交換器に接触させる熱変換に特に適している。このため、従来技術によれば、十分な成形ゼオライトを、または熱交換器と熱接触している有孔(open−pored)固体に導入されるゼオライトを使用する。そのような従来技術は、たとえばDE 101 59 652 C2に見られる。
【0004】
加えて、ゼオライトは、様々なさらなる用途向けに化学工業において使用される。これらの用途は、たとえば、一般に合成により生成されるゼオライトが数マイクロメートルの結晶サイズを有する粉末の形で使用されるイオン交換プロセスである。加えて、ゼオライトは分子ふるいとしても使用され、ゼオライトをバラ詰めの結晶または成形材料としてろ過システムに導入することができる。
【0005】
ゼオライトに熱を加える、またはそれぞれゼオライトから熱を抽出すべき用途においては、したがってバラ詰めのゼオライトは適していない。というのは、隣接している熱交換器構造に対する不十分な熱接触しか実現することができないからである。加えて、特に吸着用途では、通常収着性として指定される作業媒体を、収着剤(sorbent material)としてのゼオライトに効果的に供給しなければならない。したがって、そのような用途には、粉末として合成されるゼオライトが、結合剤を用いてペレットに成形される。しかしながら、用途に関係があるゼオライトの特性は、不利な形で大多数の結合剤の影響を受ける。加えて、ペレットを使用することで、隣接する熱交換器に対する十分な熱接触を保証することができない。したがって、ゼオライトの層がその上に適用されている熱交換器のシステムが提案されている。基板をゼオライトで被覆する公知の方法では、2段階の手順が典型的である。ここではまず、機械的に、したがって破砕または粉砕ステップを通して後処理することができるゼオライト粉末が合成され、それにより設定粒径を有する粉状ゼオライトが生成される。そのようにして合成または事前合成されるゼオライト材料は、通常結合剤と混合され、その後キャリア基板上に「コーティング」として塗布される。記載の手順における欠点は、特に、複雑な3次元熱交換器構造の場合、熱交換器の全表面上に均一に厚いゼオライト層を塗布することが困難であることである。加えて、そのような事後合成コーティング法は、不都合に多数の製造ステップを有する。加えて、従来の結合剤の大多数が、ゼオライトの関係する特性に影響を及ぼす。というのは、結合分子および粒子がゼオライト結晶の表面に蓄積するからである。また、ゼオライト層において、またゼオライト層から基板へと実現することができる熱伝導が、依然として小さすぎる。
【0006】
米国特許出願公開第2003/0091872A1号には、アルミニウム、ニッケル、鋼鉄、チタンなどの金属上にゼオライト層を製造する方法が記載されている。pH値が中性〜12である水反応分散液中で、従来のケイ酸アルミニウム層が金属上に形成される。この反応分散液もまた、アルミニウムを含有する。基板上へのゼオライトの直接成長(その場結晶化)によって、基板上のゼオライト層の付着力が改善される。溶液中のSi源およびAl源により、基板上に形成しようとするアルミノケイ酸塩−ゼオライトのための構造元素が提供される。アルミニウム含有金属基板の場合、アルミノケイ酸塩−ゼオライトネットワークに基板の一部のアルミニウム原子を組み込むこともできる。
【0007】
アルミニウム含有金属基板上にアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を形成する非常に興味深い提案が、国際特許出願公開第WO2006/08421号からわかる。この従来技術は、上記提示を超越している。ここでは、反応分散液中の特異的なアルミニウムの準化学量論値で作業が行われる。加えて、アルミニウム含有基板上へのゼオライト層の形成において、アルミニウム含有金属基板が導入される水反応分散液中に、ネットワーク形成元素としてリンが含まれることも絶対に必要である。それにより、有利な用途に供給することができるリン酸アルミニウム−ゼオライトが形成される。
【0008】
ステンレス鋼などの金属キャリア上に直接アルミノケイ酸塩ゼオライトを成長させるためにいくつかの試みも行われた。アルミニウムが少ないゼオライト(MFI型)について肯定的な結果が公表された。ここで、キャリア上での結晶化は、不均一核形成によりもたらされる。鋼鉄上に前もって生成されるMFI層への核生成剤(nucleant)埋め込みと、その後のアルミニウムリッチのゼオライトの成長期(R.Monuzら、Microporous and Mesoporous Materials 86(2005)、243−248参照)と、前処理によって表面が際立って拡大した鋼鉄上での結晶化(L.Bonaccorsi、E.Proverbio、Microporous and Mesoporous Materials 74(2004)、221−229参照)とを伴う3段階の異形が、アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩向けの成功法として記載されている。アルミニウムはとりわけ、キャリア材料として興味深い。というのは、このアルミニウムもやはりゼオライトのネットワーク形成元素に相当し、軽く、また非常に優れた熱伝導性を有するからである。これまでは、アルミニウムの準化学量論値を用いると、アルミニウムの少ないゼオライト型MFI(NH3−TPD測定のSi/Al比が15〜16)しかアルミニウムで生成することができなかった(F.Schefflerら、Microporous and Mesoporous Materials 67(2004)、53−59参照)。本発明の意味におけるこれらの実験のアルミニウムリッチのゼオライト層への変換により、アルミニウム含有基板の非制御分解が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】DE 101 59 652 C2公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0091872A1号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R.Monuzら、Microporous and Mesoporous Materials 86(2005)、243−248
【非特許文献2】L.Bonaccorsi、E.Proverbio、Microporous and Mesoporous Materials 74(2004)、221−229
【非特許文献3】F.Schefflerら、Microporous and Mesoporous Materials 67(2004)、53−59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明は、アルミニウム含有金属基板上にアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの有益な層を、被覆基板の用途の可能性を制限することなく形成することができるように、序論に記載されている従来技術をさらに改良するという目的に基づいていた。ゼオライト層とアルミニウム含有金属基板との間の良好な付着力も、ここで得ようとするものである。これは、この方法を単純に実施することにより、また方法ステップほとんどなしで可能となるためである。
【0012】
本発明によれば、序論に記載されている種類の方法によってこの目的に対処する。この方法においては、5より低いSi/Al比の成立に十分な量のSi源と、モル準化学量論値の要件を満たすAl源と、アルミニウム含有金属基板とを水反応分散液に導入することによって、アルミニウム含有金属基板上にSi/Al比が5より低いアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を形成する。水反応分散液のpH値はアルカリ化され、またアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層は、アルミニウム含有金属基板上へと結晶化される。
【0013】
本発明の範囲内で、アルミニウム含有金属基板上にアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を形成した場合、これは可能な限り広範に理解されるべきである。以下のアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトは、ほんの一例として強調されるものであるが、好ましくはFAU(ゼオライトXおよびY)、LTA、CHA、MORおよびGISである。これらの好ましいアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトは、その中におけるSi/Al比が5未満であるという、本発明に基づくさらなる要件を満たす。この比は4より小さい、特に3.5より小さいことが好ましい。Si/Al比は1の値に至ることができるが、原則に基づいて下回ることはできない。これらのゼオライトは、ゼオライトの純質量と関連する25℃における少なくとも12%以上の水分収着能(water sorption capacity)によって、また水蒸気についてのIUPAC TypeI平衡等温線(Singら、Pure Appl.Chem.57(1985)p.603参照)によって区別され、Rodrizez−Reinosoら(Rodrizez−Reinosoら,Studies in Surface Science and Catalysis62(1991)p.685−692参照)による親水性「Group1」吸収材料に関連するものである。アルミニウムの比率がより高いと、一般にアルミニウム含有金属基板上の形成されたゼオライト層の付着力がより確実となる。
【0014】
本発明の目的は、提示した通り、アルミニウム含有金属基板上に指定要件のアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を形成することである。ここではまた、この基板は関連のある制限を何ら受けない。基本的に、この基板は金属アルミニウムの基板でよい。合金の形成には他の元素を含ませることができる。典型的なアルミニウム合金は、たとえば、AlFe1.5Mn0.5またはAlMg3である。基本的に、たとえばシリコンなど、適用事例それぞれについての効果を目的として、特殊合金成分を含ませることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
アルミニウムが水反応分散液中に存在せず、上記準化学量論モル比がその場合0である、または対応する値が少なくとも0.4を下回るような量でのみ存在することが特に重要である。準化学量論値が生成ゼオライト中に存在するSi/Al比に関係し、この比がアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトについて1から5まで変化することがある場合には、準化学量論指数(substoichiometric quotient)の段階的表示Al/(Al+Si)が好都合である。このため、対応する数字が本記載に続く表1に見られ、これらの数字から、反応分散液中のアルミニウムの化学量論比(Al/(Al+Si)とゼオライト組成(丸められた数字)との間に相関関係を見ることができる。上記モル比が0.05を下回る、特に0.02を下回る場合には有利であることが判明している。準化学量論モル比が0である場合、すなわち、水反応分散液がAl源を直接含有しない場合、特に好ましいことがある。
【0016】
この化学量論比の要件は、技術的に以下のように説明される。ここで、前記層のその場(in situ)での直接結晶化が、アルミニウム含有金属基板上に起こる。この直接結晶化は、本方法の生成物が所望の特性、特に、アルミニウム含有金属基板の表面上の形成されるゼオライト層が優れた付着力を示す本質的な理由である。この化学量論値が、たとえば0である場合、これは、アルミニウム含有金属基板から、直接結晶化ゼオライト層の形成用のネットワーク形成アルミニウムだけが抽出されることを意味する。ここで、元素のアルミニウムがAl3+に酸化され、水反応分散液中では水素が、ここでは等価に形成される。その場合、Al3+は主に、対イオンとして(OH)-と共に基板表面の領域に存在し、そこでさらに反応することができる。これにより、アルミニウム含有基板の表面と形成されるアルミノケイ酸塩−ゼオライトとの間に、特に優れた固着(anchoring)がもたらされる。国際特許出願公開第WO2006/084211号では、既に言及し、また言及しようとしている上記準化学量論モル比が非常に詳細に取り扱われている。
【0017】
本発明による方法教示を実現する際、本発明により目的とする成功を収めるためには、アルミニウム含有基板に何ら破壊的分解が起きないよう特に注意を払うことが、必要またはそれぞれ好ましい条件の選択において特に重要である。特に、基板が本方法の完了後にもやはり、その後の用途において定められている要件を満たすことがここでは重要である。したがって、基板は、その成形時に必要な機械的安定性を、またはそれぞれ所望の完全性(integrity)を有し続けるはずである。
【0018】
示したように、使用する水反応分散液はSi源を含有する。ここでは関連のある制限は規定されていない。Si源は、好ましくはケイ酸、ケイ酸塩および/またはケイ酸エステルである。本発明による方法の実用的実施のために、水反応分散液にAl源を添加する場合には、上記要件を考慮に入れると、このAl源が酸化アルミニウム水和物、特に疑似ベーマイト、および/またはアルミン酸アルミニウムである場合には有利である。
【0019】
本発明による方法を実施する際、既存の水反応分散液をアルカリ化する。というのは、さもないとアルミニウムリッチの金属アルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が生成されないからである。当業者は、水反応分散液のpH値をどのようにアルカリ化するかについては概して自由である。これは、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類、塩基性Na塩および/またはアルミン酸ナトリウムでよい。水反応分散液のpH値は、特にAl含有量が90%を超えるAl合金においては、9より大きく設定され、かつ/または13.8未満に設定されることが好ましい。
【0020】
個々の場合には、シリコンおよび/またはアルミニウムのコロイド源を使用することが有利である。その鉱化のためにフッ化物塩またはフッ酸を添加することが、ここでは好都合であることがあり、その場合、水反応分散液が7よりも大きいpH値を有していなければならないことを考慮に入れなければならない。
【0021】
さらに、水反応分散液が有機テンプレート、またはそれぞれ構造を方向付ける有機剤を含有する場合には、有利となることがある。これは特に、アミン類、またはそれぞれアンモニウム塩もしくはクラウンエーテルである。それらはまた、とりわけ「鋳型分子(template molecule)」と文献中で表されている(Stephen G.Wilson、「Templating in Molecular Sieve Synthesis(Elsevier Science P.V.より)」参照)。
【0022】
個々の場合には、本発明による方法を実施する場合、アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層の形成において、結晶化を加速させることが好ましいことがある。これは、使用している反応分散液がアルミニウム含有基板に対して高い攻撃性を有する場合に特に有利である。この場合、種結晶または熟成ゲル(aged gel)を添加することが、閉じたゼオライト層をより迅速に得るためには好都合である。熟成ゲルは、この層のそれぞれの標的ゼオライトを粉末状に形成することが可能で、また室温で数時間後には、既にゼオライト発達の核形成相であるが、ゼオライト成長相には到達しない反応分散液である。ゲルの高い粘度により加えて、アルミニウム含有金属基板上に直接種結晶を塗布することが可能となる。
【0023】
本発明による方法は、好ましくは高い温度で実施する。水反応分散液およびその中に位置するアルミニウム含有金属基板を、50〜200℃、特に70〜130℃の温度まで、加熱すると好都合である。100℃の温度を超える場合には、閉じた系内で、したがってオートクレーブ内で反応を行うことが必要となることがある。
【0024】
発明者らにより、水反応分散液の体積に対するアルミニウム含有基板の表面の比率(cm2/cm3)に注意を払うことが、本発明による方法の有利な実施には特に好都合であることが確認されている。この比率を0.03〜20、特に0.1〜15、とりわけ好ましくは1〜8に設定する場合が好ましいことが判明する。この比率が0.1未満、特に0.03未満である場合、過剰な量の水反応分散液が得られ、この水反応分散液がアルミニウム含有金属基板に破壊的影響を及ぼすことがある。加えて、アルミニウム含有基板を覆う大きすぎる容量により、反応分散液における望ましくない結晶成長が支持され層成長が抑制されることが示された。値15、特に20を超える場合には、アルミノケイ酸塩−ゼオライト結晶でアルミニウム含有基板を十分に覆うための十分な反応物が得られない。
【0025】
アルミニウム含有金属基板上に本発明により形成するゼオライト層をどの程度厚いかに関して疑問が生じることがある。得られる生成物のその後の用途がこの決定要因となる。ここで本発明は優れた柔軟性を示す。本発明の実施形態においては、この層の厚さを所望のやり方で設定することができ、たとえば、約5〜50μmでよい。とりわけ厚いコーティングの形成には、未使用の水反応分散液で層成長を継続させることが好都合である。
アルミニウム含有金属基板上へのアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの直接結晶化の後は、残存反応分散液から被覆基板を取り除くことが必要となるだけである。有利には、洗浄によって被覆基板から残存反応分散液を取り除く。本発明による方法で構造を方向付ける有機剤またはそれぞれ有機テンプレートを使用される場合には、この有機剤またはそれぞれ有機テンプレートを、妥当な場合洗浄後に仮焼によってさらに取り除く可能性がある。
【0026】
本発明による方法を詳細に上述した。アルミノケイ酸塩−ゼオライトで被覆されているアルミニウム含有金属基板の形でその後得られる生成物は新規で、記載の従来技術には開示されていない。したがって、本発明は、ゼオライトで被覆されているアルミニウム含有金属基板も対象とし、この基板は、Si/Al比が5未満、特に4未満であるアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を有するが、この値が3.5未満である場合がとりわけ好ましい。この比に関する上記説明は、それに応じてここでも当てはまる。本発明にとって好ましいアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの性質にも同じことが当てはまる。これら指示した値は、その後の処理なしの合成型のゼオライトにも当てはまる。
【0027】
本発明により得られる、アルミノケイ酸塩−ゼオライトで被覆されているアルミニウム含有金属基板は、様々な用途、好ましくは、特に不均一触媒に関する収着に基づく応用分野に、分離および洗浄プロセスにおいて、固定化触媒と併用する収着熱ポンプにおいて、また微量反応技術において利用可能である。この羅列は限定的ではない。
【発明の効果】
【0028】
要約すると、従来技術と比較して本発明によって実現することができる利点は、次のように提示することができる。1.アルミニウム含有金属基板上に有って、Alリッチのアルミノケイ酸塩が存在する薄く親水性のアルミノケイ酸塩−ゼオライト層が入手しやすい。これらの層は、より多くの格子電荷を帯び、したがってAlが少ないゼオライトよりも明らかに親水性である。2.FAUなど従来の吸着剤を、金属アルミニウム上に確実に直接結合している緻密層(非常に優れた熱伝導性)として初めて生成することができる。3.本発明による方法は、結合マトリックスとしての外来ゼオライト層が不要な1段階合成である。4.考慮に入れようとする本発明によるアルミノケイ酸塩−ゼオライトが、テンプレートなしで、したがって仮焼なしで入手しやすい。5.アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が、金属Alキャリア上にかなりしっかりと形成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1a】未処理アルミニウムキャリアや、96時間および163時間処理したアルミニウムキャリアのX線回折図形を示す図であって、アルミニウム反射に加えて、熱水処理したキャリアの回折図形が、ギスモンド沸石(GIS)−ゼオライト構造のピークを示す図である。
【図1b】ゼオライトP2、ICDD Data Bank、PDF Number 80−0700を用いた163時間後の生成物の反射の比較を示す図である。
【図2a】上面の結晶層のSEM写真を示す図である。
【図2b】断面の結晶層のSEM写真を示す図である。
【図2c】Si/Al比2.3が算定された結晶層のEDX分析を示す図である。
【図3a】未処理アルミニウムキャリアや、96時間および163時間処理したアルミニウムキャリアのX線回折図形を示す図であって、アルミニウム反射に加えて、熱水処理したキャリアの回折図形が、ギスモンド沸石(GIS)−ゼオライト構造のピークを示す図である。
【図3b】ゼオライトP1、ICDD Data Bank、PDF Number 71−0962を用いた163時間後の生成物の反射の比較を示す図である。
【図4a】上面の結晶層のSEM写真を示す図である。
【図4b】断面の結晶層のSEM写真を示す図である。
【図4c】結晶層のEDX分析を示す図であって、Si/Al比2.5が算定された図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明による方法の上記提示の助けを借りて、とりわけ上記実施形態を考慮に入れ、また下記説明的実施例を考慮に入れると、当技術分野における専門家は、難なくうまく本発明を実施することが可能である。
【0031】
【表1】

【実施例1】
【0032】
バッチ調製
溶液バッチは、2種の溶液から生成した。
【0033】
溶液A:
メタケイ酸ナトリウム五水和物(Na23Si・5H2O、アルドリッチ社)6gを、撹拌下H2O70gに添加し、透明の溶液が得られるまで一緒に撹拌した。その後この溶液に、トリエタノールアミン(C615NO3≧99%、Carl Roth GmbH社)42.35gを添加し、約30分間撹拌した。
【0034】
溶液B:
NaOH(≧99%、Carl Roth GmbH社)0.78gをH2O49.34gと混合した。この混合物を、透明の溶液が得られるまで撹拌した。溶液Aに撹拌下溶液Bを添加し、約30分間均質化した。得られた反応バッチはpH値13.1を有し、酸化物の比率で以下の組成:1.0SiO2:1.2Na2O:5.9C615NO3:140H2Oを有していた。
【0035】
合成
アルミニウムキャリアをアセトンで洗浄し、乾燥させ、ステンレス鋼オートクレーブ内に設置し、合成溶液で覆った。オートクレーブを閉じ、95℃まで空気循環オーブン内でa)96時間(実施例1a)、またはそれぞれb)163時間(実施例1b)加熱した。その後、オーブンからオートクレーブを取り出し、冷却し、開放した。アルミニウムキャリアを取り出し、脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥させた。
【0036】
分析
熱水処理したアルミニウムキャリアを、X線粉末回折法(XRD)、走査電子顕微鏡法(SEM)およびエネルギー分散X線分光法(EDX)によって分析した。ここで図面は以下を示す。
【0037】
図1aは、未処理アルミニウムキャリアや、96時間および163時間処理したアルミニウムキャリアのX線回折図形を示す。アルミニウム反射に加えて、熱水処理したキャリアの回折図形が、ギスモンド沸石(GIS)−ゼオライト構造のピークを示す。
図1bは、ゼオライトP2、ICDD Data Bank、PDF Number 80−0700を用いた163時間後の生成物の反射の比較を示し、
図2aは、上面の結晶層のSEM写真を示し、
図2bは断面の結晶層のSEM写真を示し、
図2cは、Si/Al比2.3が算定された結晶層のEDX分析を示す。
【実施例2】
【0038】
バッチ調製:
溶液バッチは、2種の溶液から生成した。
【0039】
溶液A:
ナトリウム水ガラス(25.5〜28.5%SiO2、AppliChem GmbH社)7.5gを、撹拌下H2O75gに添加し、透明の溶液が得られるまで撹拌した。その後この溶液に、トリエタノールアミン(C615NO3≧99%、Carl Roth GmbH社)10.29gを添加した。均質化を約30分間行った。
【0040】
溶液B:
NaOH(≧99%、Carl Roth GmbH社)1.03gを、H2O30.52gに添加し、透明の溶液が得られるまで一緒に撹拌した。溶液Aに撹拌下溶液Bを添加した。均質化を約30分間行った。得られた反応バッチはpH値12.7を有し、酸化物の比率で以下の組成:1.0SiO2:0.66Na2O:2.0C615NO3:180H2Oを有していた。
【0041】
合成
熱水合成は、実施例1に記載されているように行った。
【0042】
分析
熱水処理したアルミニウムキャリアを、X線粉末回折法(XRD)、走査電子顕微鏡法(SEM)およびエネルギー分散X線分光法(EDX)によって分析した。ここで図面は以下を示す。
【0043】
図3aは、未処理アルミニウムキャリアや、96時間および163時間処理したアルミニウムキャリアのX線回折図形を示す。アルミニウム反射に加えて、熱水処理したキャリアの回折図形が、ギスモンド沸石(GIS)−ゼオライト構造のピークを示す。
図3bは、ゼオライトP1、ICDD Data Bank、PDF Number 71−0962を用いた163時間後の生成物の反射の比較を示し、
図4aは、上面の結晶層のSEM写真を示し、
図4bは断面の結晶層のSEM写真を示し、
図4cは結晶層のEDX分析を示す。ここでは、2.5のSi/Al比が算定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク形成元素としてシリコンと任意選択でアルミニウムとを含有する水反応分散液へと移動するアルミニウム含有金属基板上に、アルミノケイ酸塩−ゼオライト層を形成する方法であって、前記水反応分散液中にアルミニウムが存在するかしないかにかかわらず、前記水反応分散液中に含まれる前記指定のネットワーク形成元素の合計に対する前記水反応分散液中のアルミニウムのモル比が、任意選択で0、0〜約0.4の範囲とされ、前記アルミニウム含有金属基板を含む前記水反応分散液が加熱され、アルミノケイ酸塩−ゼオライト形成プロセスに向けて前記アルミニウム含有金属基板からアルミニウムが抽出され、その場での直接結晶化によって前記アルミニウム含有金属基板上アルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が形成される方法において、
5より低いSi/Al比を成立させるために十分な量のSi源と、モル準化学量論値の要件を満たすAl源と、前記アルミニウム含有金属基板とを前記水反応分散液に導入することによって、前記アルミニウム含有金属基板上にSi/Al比が5より低いアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が形成され、
前記水反応分散液のpH値がアルカリ化され、前記アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの前記層が、前記アルミニウム含有基板上に結晶化されることを特徴とする方法。
【請求項2】
Al源としての前記基板に含有される前記アルミニウムに加えて、酸化アルミニウム水和物、特に疑似ベーマイト、および/またはアルミン酸ナトリウムが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ケイ酸、ケイ酸塩および/またはケイ酸エステルが、Si源として使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類、塩基性Na塩および/またはアルミン酸ナトリウムが、アルカリ性条件を設定するために使用されることを特徴とする、前記請求項の一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水反応分散液のpH値が、特にAl含有量が90%を超えるAl合金においては、9より大きく設定され、かつ/または13.8未満に設定されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水反応分散液の体積に対する前記アルミニウム含有基板の表面の比率(cm2/cm3で)が、0.03〜20、特に1〜8に設定されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項7】
Si/Al比が4より小さく、特に3.5より小さいアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトが形成されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項8】
LTA、FAU、CHA、MORまたはGISの形のアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層が、前記アルミニウム含有基板上に形成されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水反応分散液中に含有されているネットワーク形成元素のシリコンおよびアルミニウムの合計に対する、前記水反応分散液中に準化学量論値で存在するアルミニウムのモル比が、0.05を下回る、特に0.02を下回ることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水反応分散液が、有機テンプレート、またはそれぞれ構造を方向付ける有機剤を含有することを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項11】
前記構造を方向付ける有機剤が、アミン類またはそれぞれアンモニウム塩もしくはクラウンエーテルの形で存在することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記シリコンおよび/または前記アルミニウムのコロイド源の場合、その鉱化のためにフッ化物塩またはフッ酸が添加されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
前記水反応分散液およびその中に位置する前記アルミニウム含有基板が、50〜200℃の、特に70〜130℃の温度まで加熱されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの前記層の前記形成において前記結晶化の加速のために、種結晶または熟成ゲルが添加されることを特徴とする、前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項15】
Si/Al比が5未満であるアルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトの層を有することを特徴とする、ゼオライトで被覆されているアルミニウム含有基板。
【請求項16】
前記Si/Al比が4未満、特に3.5未満であることを特徴とする、請求項15に記載のゼオライトで被覆されているアルミニウム含有基板。
【請求項17】
前記アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトが、LTA、FAU、CHA、MORまたはGISの形で存在することを特徴とする、請求項15または16に記載のゼオライトで被覆されているアルミニウム含有基板。
【請求項18】
吸着を基礎とする応用分野における、請求項15から17の一項に記載の、アルミニウムリッチのアルミノケイ酸塩−ゼオライトで被覆されている前記アルミニウム含有基板の用途。
【請求項19】
分離および洗浄プロセスにおける、固定化触媒と併用する収着熱ポンプにおける、また微量反応技術における、不均一系触媒に関する請求項18に記載の用途。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公表番号】特表2012−519148(P2012−519148A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552355(P2011−552355)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001255
【国際公開番号】WO2010/099919
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511214657)ソルテック アーゲー (1)
【Fターム(参考)】