説明

金属基複合材料およびその製造方法

【課題】放電プラズマ焼結法を利用することにより、製造過程での分散粒子のダメージを少なくし、高い熱伝導率を有する金属基複合材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明による金属基複合材料の製造方法は、融点が10 ℃〜200 ℃異なる2種類の金属粒子(低融点金属粒子と高融点金属粒子)と分散粒子との混合体を用い、該混合体を低融点金属粒子の状態図における固‐液共存領域の固相線に沿って昇温させて焼結することに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属基複合材料の製造方法および金属基複合材料に関し、より詳細には、融点に10 ℃〜200 ℃の差を有する2種類の金属粒子と分散粒子との混合体を、該2種類の金属粒子の固‐液共存領域において焼結する金属基複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超LSIの高集積化・高速化に伴って超LSIを用いた小型電子機器における内部発熱の問題はより深刻になり、温度上昇による超LSIチップ自体の誤動作が深刻な問題となりつつある。例えばノートパソコンの場合、筐体はA4サイズ、B5サイズ、さらにはより小型化が進んでいるが、同時にCPUのクロック周波数やハードディスクドライブの回転数は増加しており、発熱量が増大している。デジタルカメラの分野では、CCDの画素数向上や動画撮影機能を充実させながらも消費電力の低減が図られているため、単位体積あたりの発熱密度はほぼ一定である。しかしながら、本体の体積自体も小さくなる傾向にあるため放熱面積が小さくなり、結果として温度上昇率の増加を招いている。このような背景から、高熱伝導材料の開発が切望されている。一般に、セラミックと比較して、金属(銀、銅、アルミニウム等)は熱伝導率が高いため、放熱材料のベース材料として用いられることが多い。ところが、熱膨張係数もまた、セラミックに比べて大きい。したがって、金属ベースの放熱材料を熱源に接合して用いる場合、加熱された時の、熱源と放熱材料の熱膨張係数の差による界面剥離による熱伝達効率の低下がもう一つの問題となっている。この問題を解決するため、すなわち、高熱伝導率と低熱膨張率の両立を実現する観点から、各種低熱膨張セラミックス粒子(窒化アルミニウム、炭化ケイ素、等)を金属中に充填する方法も提案されているが、充填した場合の熱伝導特性の低下の抑制も合わせて切望されている。
【0003】
最近、下記特許文献1および2に示されるように、600 W/mK以上の高熱伝導率を有する炭素繊維強化型アルミニウム基複合材料が開発された。ただし、600 W/mKは炭素繊維の長手方向の熱伝導率であり、炭素繊維と垂直方向の熱伝導率は20〜50
W/mKと極端に低い。高熱伝導性ジョイントとしては有効だが、材料全体としての放熱特性は銀や銅を下回る。
【0004】
これに対して発明者は、上記の問題を解決する3次元的に均一な高熱伝導性を有する材料として、現存する材料中最も高い熱伝導率(2000
W/mK)を有するダイヤモンド粒子を金属中に分散した、ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料に注目した。この材料は過去に、ダイヤモンド粒子のプリフォームの隙間に吸引含浸法で溶融Cuを導入して作製された例(ダイヤモンド粒子の体積分率55
%で420 W/mKの熱伝導率)、および、超高圧・超高温プレスを用いて、ダイヤモンド粉とCu粉の混合粉末を4〜5
GPaの加圧下において1423 Kで成形した例(ダイヤモンド体積分率50
%〜80 %で226〜742 W/mKの熱伝導率)が報告されているが、いずれもダイヤモンド粒子を多く含有する割には高熱伝導率が得られておらず、熱伝導率の実測値はMaxwell−Euckenの式による計算値の40%〜60%程度しか満足していない。
【0005】
ここで、Maxwell−Euckenの式(非特許文献1を参照)による計算値とは、次式
【0006】
【数1】

【0007】
上記のように計算値の40
%〜60 %程度しか満足していない理由は、従来の吸引含浸成形および超高圧・超高温プレス成形というプロセシング技術に起因するものと思われる。すなわち、ダイヤモンド粒子と銅マトリックスとを密着させようとするあまり、溶融状態(1200
℃>温度>1150 ℃)のCuとダイヤモンド粒子とが長時間(>15分)直接接触するため、成形中にダイヤモンド粒子が劣化し、ダイヤモンド粒子そのものの熱伝導率が低下する。発明者はダイヤモンド粒子の表面に予めマトリックスとなる金属を被覆しておき、該金属被覆ダイヤモンド粒子を焼結することで比較的良好な焼結体が得られることを確認している。しかしながら、大幅な製造コストの増加や製造プロセスの複雑化に加え、厚い金属被覆を均一に施すことは困難である。
【0008】
また、発明者らは融点に10
℃〜200 ℃の差を有する2種類の金属粒子とダイヤモンド粒子との混合体を、直流パルス電流又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流の通電によって焼結し、ダイヤモンド分散型金属基複合材料を製造する方法を考案している。しかしながら、該方法によって製造されるダイヤモンド分散型金属基複合材料の熱伝導率は、Maxwell−Euckenの式による計算値の80%程度が限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−200676号公報
【特許文献2】特開2006−307358号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.Eucken:Fortchg. Gebiete Ingenieurw. B3 Forschungsheft, 16(1932) 353・360.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そもそも複合材料の発想は、あまり熱伝導性は良くない(熱伝導率が10〜400 W/mK)が、柔らかく柔軟性を有する金属(銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)等)中に、硬いが、そのマトリックス金属の熱伝導率を遥かに凌ぐ高い熱伝導率を有する粒子(熱伝導率が1000〜2000 W/mK)を分散させて、高い熱伝導率を有しつつ加工性に富む材料を作ろうとするのが目的である。しかしながら、高い熱伝導率を有する分散粒子は値段の高いものが多く、粒子体積分率(複合材料中で粒子がしめる体積の割合)は低い値のほうが良い。それ以外にも、高い熱伝導率を有する分散粒子は硬くて脆い物が多い。従って、分散粒子を入れすぎた場合、CuやAlのように粘りのある材料をマトリックス金属として選んでも、複合化したときに脆くなる。可能であれば高熱伝導率と粘りを両立したいため、少ない分散粒子体積分率で高熱伝導率を確保することが必要になる。ところが、従来の吸引含浸法や超高温・超高圧プレス成形法のように、複合化処理中に分散粒子が高温に長時間さらされるとダメージを受けて劣化するため、複合材料の高熱伝導率確保のため、粘りをやや犠牲にしてでも多くの分散粒子を埋め込まねばならない。その結果、複合材料のコスト高や脆化を招くことになる。
【0012】
本発明は、かかる従来の吸引含浸法や超高温・超高圧プレス成形法により形成された金属基複合材料の上記のような問題点に鑑み成されたものであって、その目的とするところは、Maxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の高い熱伝導率を有する金属基複合材料を簡便に製造する方法、およびMaxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の高い熱伝導率を有する金属基複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、融点が10 ℃〜200 ℃異なる2種類の金属粒子(低融点金属粒子と高融点金属粒子)と分散粒子との混合体を用い、該混合体を低融点金属粒子の状態図における固‐液共存領域の固相線に沿って昇温させて焼結することを特徴とする金属基複合材料の製造方法が提供される。この発明によれば、分散粒子体積分率が低くても熱伝導率の高い金属基複合材料を短時間で製造することができる。低融点金属粒子にはアルミニウム合金粒子を、高融点金属粒子には純アルミニウム粒子を用いるのが好ましい。また、低融点金属粒子の状態図における固‐液共存領域の固相線に沿った昇温は、1.17 ℃/s以下の昇温速度で行うことが好ましい。また、分散粒子には窒化アルミニウム、炭化ケイ素、グラファイト粒子、種々の形状を有するカーボンファイバー等を用いることができるが、ダイヤモンド粒子を用いることが好ましい。焼結方法としては、直流パルス電流又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流を流して焼結することが好ましい。
【0014】
分散粒子の体積分率は5 Vol.%〜85Vol.%であることが好ましく、より好ましくは10 Vol.%〜80 Vol.%、最も好ましくは10 Vol.%〜60 Vol.%であるとよい。また、分散粒子の直径は1μm〜3000μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜500μm、最も好ましくは20μm〜500μmであるとよい。なお、分散粒子の直径の上限が、後述する実施例と比較して、極めて大きくなっているが、購入価格が高額であることを考慮しなければ、技術的には使用可能な数値である。
【0015】
また、高融点金属粒子の直径は1μm〜3000μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜500μm、最も好ましくは20μm〜500μmであるとよい。また、上記発明において、低融点金属粒子の直径は500μm以下であることが好ましく、より好ましくは300μm以下、最も好ましくは100μm以下であるとよい。なお、金属粒子の直径の上限が、後述する実施例と比較して、極めて大きくなっているが、技術的には使用可能な数値である。
【0016】
また、融点の10 ℃〜200 ℃異なる2種類の金属粒子の混合粉末において、融点の低い方の金属粒子(低融点金属粒子)の占める体積分率は0.1 Vol.%〜50 Vol.%であることが好ましく、より好ましくは0.5Vol.%〜35 Vol.%、最も好ましくは1.0 Vol.%〜20 Vol.% であるとよい。なお、該混合粉末と分散粒子とを混合し、金属基複合材料を製造するための混合体を調整する。
【0017】
また、本発明の金属基複合材料は、例えば、本発明の金属基複合材料の製造方法によって製造することができ、熱伝導率がMaxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の値を有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属基複合材料の製造方法によれば、製造過程での分散粒子のダメージを少なくし、緻密かつ高い熱伝導率を有する金属基複合材料を製造することができる。また、本発明の金属基複合材料は、熱伝導率がMaxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属基複合材料の焼結過程を説明する模式図であり、[A]は高融点金属粒子、低融点金属粒子、およびダイヤモンド粒子の拡大断面図、[B]は焼結開始前の状態を示す焼結型の断面図であり、[C]は焼結後の状態を示す焼結型の断面図である。
【図2】[A]は本発明の金属基複合材料の焼結方法を実施する放電プラズマ焼結装置の概略説明図、[B]は焼結型の縦断面図、[C]は焼結型の横断面図である。
【図3】一般的な焼結法における、アルミニウム合金粉末の組成と温度の変化を示す図である。
【図4】本発明における、アルミニウム合金粉末の組成と温度の変化を示す図である。
【図5】ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度とダイヤモンド体積分率との関係を示すグラフである。
【図6】ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の、Al/ダイヤモンド界面近傍の走査電子顕微鏡写真である。
【図8】ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率について、ダイヤモンド体積分率依存性の実験値と理論値の比較を示すグラフである。
【図9】窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度と窒化アルミニウム粒子体積分率との関係を示すグラフである。
【図10】窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率について、窒化アルミニウム粒子体積分率依存性の実験値と理論値の比較を示すグラフである。
【図11】炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度と炭化ケイ素粒子体積分率との関係を示すグラフである。
【図12】炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率について、炭化ケイ素粒子体積分率依存性の実験値と理論値の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明による金属基複合材料の製造方法および金属基複合材料について、金属基複合材料がダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料である場合を想定して説明する。まず、図1[A]に示すように、高融点金属粒子1と、高融点金属粒子1より10 ℃〜200 ℃融点の低い低融点金属粒子2と、ダイヤモンド粒子3との混合体を所定量用意する。ここで、用いるダイヤモンド粒子3の体積分率は、好ましくは、5 Vol.%〜85 Vol.%である。その理由は、体積分率が上記範囲より多いと、ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料のマトリックスとなる金属が、成型中にダイヤモンド粒子間隙を埋め尽くす量に達せず、材料中にポアを残存することとなる為であり、また、上記範囲より少なすぎると、成形後の材料中のダイヤモンド粒子の体積分率が極端に低下し、ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料の熱伝導率が低くなってしまうためである。
【0021】
ダイヤモンド粒子3のより好ましい体積分率は10 Vol.%〜80 Vol.%である。この体積分率は、例えばマトリックス金属が銅の場合およびアルミニウムの場合でも同じである。ダイヤモンド粒子3の最も好ましい体積分率は10 Vol.%〜60 Vol.%である。その理由は、この範囲内であれば、ダイヤモンド粒子の体積分率が大きすぎる場合に生ずると考えられる、昇温中に低温域で荷重を付加した場合に発生しやすいダイヤモンド粒子3そのものの破損を防げるからである。また、ダイヤモンド粒子3の体積分率が小さすぎる場合に生ずると考えられる、成形中での、ダイヤモンド粒子3の複合材料中での分散の均一性の乱れも防ぐことが出来るからである。
【0022】
ダイヤモンド粒子3の直径は、好ましくは、1μm〜3000μmである。その理由は、ダイヤモンド粒子3の直径が上記範囲よりも小さいと、マトリックスとダイヤモンドとの界面の増加による熱伝導効率の低下を招くからであり、また上記範囲より大きすぎると、複合材料中でのダイヤモンド粒子3同士の接触や、成形中の金属粒子の塑性変形によるダイヤモンド粒子間隙への充填が不足することにより、複合材料中へのポアや未接合部分の残存を来たすこととなるからである。ダイヤモンド粒子3のより好ましい直径は、10μm〜500μmであり、さらに好ましくは、20μm〜400μmである。その理由は、この範囲にすると、高温域における短時間でのダイヤモンドの劣化を防止でき、マトリックスとダイヤモンドとの界面の増加による熱伝導効率の低下を防止でき、また、昇温中において低温域で荷重を付加した場合のダイヤモンドの破損を阻止できるからである。加えて、市場で容易に入手可能なことも理由である。
【0023】
高融点金属粒子1の直径は、好ましくは、1μm〜3000μmである。その理由は、高融点金属粒子1の直径が上記範囲よりも小さいと、金属粒子の比表面積の増加により、金属粒子表面上に存在する酸化膜の絶対量が増え、それが複合材料中に残存することにより熱伝導効率の低下を招くからであり、また上記範囲より大きすぎると、複合材料中に多量のポアの残存をもたらし、材料の熱伝導効率の低下を招くからである。高融点金属粒子1のより好ましい直径は、10μm〜500μmであり、さらに好ましくは、20μm〜400μmである。その理由は、この範囲にすると、金属酸化被膜の多量の残存や、ポアの残存による複合材料の熱伝導率の低下を防止できるからである。加えて、市場で容易に入手可能なことも理由である。
【0024】
低融点金属粒子2の直径は、好ましくは、500μm以下である。その理由は、低融点金属粒子2の直径が上記範囲よりも大きいと、溶融後の凝固収縮により複合材料中に多量のポアの残存をもたらし、複合材料の熱伝導効率の低下を招くからである。低融点金属粒子2のより好ましい直径は、10μm〜500μmであり、さらに好ましくは、20μm〜400μmである。その理由は、この範囲にすると、金属酸化被膜の多量の残存や、ポアの残存による材料の熱伝導率の低下を防止できるからである。加えて、市場で容易に入手可能なことも理由である。
【0025】
高融点金属粒子1と低融点金属粒子2を混合し、混合粉末を調整する。該混合粉末において、低融点金属粒子2の占める体積分率は0.1 Vol.%〜50 Vol.%であることが好ましく、より好ましくは0.5Vol.%〜35 Vol.%、最も好ましくは1.0 Vol.%〜20 Vol.% であるとよい。なお、混合粉末とダイヤモンド粒子3とを混合し、ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料8を焼結するための混合体を調整する。
【0026】
このように形成された高融点金属粒子1と低融点金属粒子2とダイヤモンド粒子3との混合体を所定量、図2[B]および[C]に示される円筒状のグラファイト(又は導電性セラミック)製のダイ5内で下パンチ6および上パンチ7の間に装入する。このようにして所定量の高融点金属粒子1と低融点金属粒子2とダイヤモンド粒子3との混合体が装入されたダイ5および下パンチ6、上パンチ7を、図2[A]に示されるように、パルス通電加圧装置10の真空チャンバー11内で一対の通電加圧電極12の間に、上パンチ6および下パンチ7の外端が通電加圧電極12の対応する端部にそれぞれ接触するように、セットする。
【0027】
このパルス通電加圧装置10は、放電プラズマ焼結法又はパルス通電加圧焼結法(プラズマ活性化焼結法又は放電焼結法とも呼ばれる)の原理を応用した加圧焼結装置であるが、市販の放電プラズマ焼結装置(例えば、SPSシンテックス(株)製、DR.Sinter)を使用してもよい。所定量の高融点金属粒子1と低融点金属粒子2とダイヤモンド粒子3との混合体が装入されたダイ5および下パンチ6、上パンチ7をセットした後、真空チャンバー11内を所定の真空度の雰囲気に保ち、パルス通電加圧接合装置10の加圧装置15により一対の通電加圧電極12を介して所定量の混合粉末に所定の範囲の圧力を加えた状態の下で、電源装置16から通電電極に所定の電圧、電流の直流パルス電流(直流電流と直流パルス電流の重畳電流でも良い)を流す。
【0028】
上記所定の真空状態とは、好ましくは、100 Pa以下の真空度、より好ましくは、10 Pa以下の真空度を言う。その理由は、真空状態が100 Paを超えると、金属粒子表面の急速酸化が起こり、金属粒子の塑性流動や金属粒子同士の接合を阻害し、成形後の強度低下を招く恐れがあるからである。また、10 Pa以下の真空度を保つことにより、マトリックス金属の酸素吸収による脆化をほとんど防止でき、成形体としての変形能の低下を避けることができるからである。
【0029】
所定の圧力とは、使用する金属粒子の種類によっても異なるが、高融点金属粒子1として銅を用いた場合、好ましくは1 kPa〜1.5 GPaで、アルミニウムを用いた場合、好ましくは1 kPa〜1.2 GPaである。その理由は、いずれも圧力が上記範囲より低いと成形後の材料中に未接合部分が残存することとなるからであり、また、上記範囲より高すぎるとカーボン(グラファイト)又は導電性セラミックダイの破損、もしくは、材料のパンチとダイとの間の隙間への侵入が起こるからである。アルミニウムの好ましい上限値が銅の好ましい上限値より小さいのは、アルミニウムは加工硬化したときの耐力が、銅よりも小さいためである。圧力のより好ましい値は、銅を用いた場合、2.5 kPa〜500 MPaであり、アルミニウムを用いた場合、2.5 kPa〜400 MPaである。
【0030】
さらに、直流電圧は、好ましくは、0.1 V〜10.0 Vであり、直流パルス電流は金属粒子の種類および直径並びに粒子の焼結に必要な昇温速度によって異なるが、銅およびアルミニウムの場合、好ましくは、1 A〜30000 Aである。その理由は、電流値が上記範囲より低すぎると、放電不十分による複合材料中の未接合部分の残存が発生することになるからであり、その範囲より高すぎると、複合材料製造中の金属粒子の大量溶融によるポアの複合材料中への残存やダイヤモンド粒子の劣化による熱伝導率の低下を来たすこととなるからである。電流のより好ましい値は、50 A〜25000 Aである。
【0031】
上記のように直流パルス電流を流すと、高融点金属粒子1と低融点金属粒子2とダイヤモンド粒子3との混合体は昇温し始める。該混合体の温度が所定の値に達したら、その温度(恒温保持温度)を所定の温度範囲内に、所定の時間(恒温保持時間)、所定の昇温速度で加熱保持するように、通電電極を通して流すパルス電流を調節する。粒子の温度は粒子に近接して設けた温度センサによって測定しても、公知の間接的に測定する温度センサでもよい。
【0032】
室温から低融点金属粒子2の融点までの昇温速度は、用いる金属粒子の種類によって異なるが、銅、あるいは、アルミニウムである場合、好ましくは、0.1 K/s〜8.3 K/sである。その理由は、昇温速度が上記範囲より低すぎると、放電不十分により粒子表面が充分活性化されず、接合強度の低下や複合材料中の未接合部分の残存が発生することになるからであり、高すぎると複合材料製造中の金属粒子の大量熔融によるポアの複合材料中への残存や、ダイヤモンド粒子の劣化による熱伝導率の低下をきたすこととなるからである。より好ましい昇温速度は、0.5 K/s〜2.5 K/sである。
【0033】
また、恒温保持温度は、低融点金属粒子2の融点よりも高く、高融点金属粒子1の融点より低い温度範囲である。恒温保持中の昇温速度は、好ましくは1.17 K/sであり、より好ましくは、1.00 K/sである。その理由は、昇温速度がこの範囲より高いと、固相率が低過ぎ(液相率が高過ぎ)、パンチとダイとの隙間からの液相(溶融金属)の排出や、ダイヤモンド粒子の不均一分散等が生じるからである。
【0034】
高融点金属粒子1および低融点金属粒子2が、それぞれアルミニウムおよびアルミニウム合金である場合には、恒温保持温度範囲は、アルミニウム合金の融点以上でアルミニウムの融点(660 ℃)未満であるが、より好ましくは、アルミニウム合金の融点直上である。アルミニウムの融点は660 ℃であり、アルミニウム合金の融点は660 ℃より低くなる。本発明の目的は、2種類の金属粒子をマトリックス金属として用い、成形中の固‐液共存状態を利用して、ポア中に溶融金属を充填し、かさ密度の高い緻密な成形体を得ることにある。したがって、成形中には、アルミニウムマトリックスが部分溶融した固‐液共存状態が実現されねばならない。
【0035】
高融点金属粒子1および低融点金属粒子2が、それぞれアルミニウムおよびアルミニウム合金である場合に、好ましい昇温速度を1.17K/sとした理由は、溶融した低融点金属粒子2の体積が増えていくか、減っていくかの境界点が1.17K/sであるからである。溶融した低融点金属粒子2の体積が増え続けると、ダイとパンチとの隙間から浸み出すため、これを防止するためには1.17K/s以下の昇温速度を用いる必要がある。また、昇温速度が1.17K/s以下の場合、製造効率等を無視すれば、昇温速度は特に限定されない。
【0036】
溶融した低融点金属粒子2の体積が増えていくか、減っていくかの境界点を1.17K/sとした理由を下記に説明する。混合体が低融点金属粒子2の融点直上(この場合、融点+1℃(1K))まで加熱された時、各々の低融点金属粒子2は、該粒子全体が液相となる。この時点で、液相状態の低融点金属粒子2と固相状態の高融点金属粒子1は直接接触しているため、それらの合体による再合金化が直ちに開始する。液相状態の低融点金属粒子2と固相状態の高融点金属粒子1が完全に合体して凝固が完了するのに必要な時間は、液相状態となった低融点金属粒子2が真球形状であり、かつ、その全表面が隣接する固相と完全に密着していると仮定すれば、下記に示すAdamsの式(数式2)を用いて計算できる(C.M.Adams,H.F.Tayler:Trans.A.F.S.,65(1957)170を参照)。
【0037】
【数2】

【0038】
数式2を用いて液相部分の凝固時間を計算すると、低融点金属粒子2の初期の粒子直径が500μmの場合は0.852秒、300μmの場合は0.307秒、100μmの場合は0.034秒、50μmの場合は0.009秒、30μmの場合は0.003秒、10μmの場合は0.0003秒である。
【0039】
凝固速度は凝固時間の逆数となり、低融点金属粒子2の初期の粒子直径が500μmの場合は1.17 K/s、300μmの場合は3.26 K/s、100μmの場合は29.36 K/s、50μmの場合は117.43 K/s、30μmの場合は326.17 K/s、10μmの場合は2935.7 K/sとなる。
【0040】
昇温速度が凝固速度を上回ると、液相部分と隣接する高融点金属粒子1の界面に生成した再合金化部分の溶融が、凝固よりも早く進行し、混合体全体の液相含有率が増加していく。最終的には、低融点金属粒子2のみならず、高融点金属粒子1もすべて溶融して液相状態となり、多量の液相の存在によるダイとパンチとの隙間への溶融金属の浸み出しや、(特に、ダイヤモンド粒子体積分率の少ない場合に顕著になる)ダイヤモンド粒子の重力偏析を招くことになる。よって、昇温速度は凝固速度を超えてはならない。凝固速度は、上述の如く低融点金属粒子2の直径が大きいほど遅くなる。本発明では、用いる低融点金属粒子2の直径を500μm以下と限定しているため、昇温速度は、1.17 K/s以下となる。
【0041】
ここで、本発明の金属基複合材料の製造方法における昇温プロファイルと従来の焼結方法における昇温プロファイルとの違いを、図3および図4に示すAl−Si二元系状態図(状態図中の矢印は、アルミニウム合金(Al−Si)粉末の組成と温度の変化を示す)を用いて説明する。図3は90 Vol.%の純Al粉末と10 Vol.%のAl−Si合金粉末との混合粉末に対して一般的な焼結を行った場合であり、Al−Si合金の融点を超えた時点で昇温を停止させると、わずかな時間だけ固−液共存状態となる。この状態で粉末の隙間に液相が回り込むが、直ぐに純Alと液相のAl−Si合金とが合金化して固相のみとなる。
【0042】
図4は90 Vol.%の純Al粉末と10 Vol.%のAl−Si合金粉末との混合粉末に対して本発明を適用した場合であり、Al−Si合金の融点を越えたのち、純Alの融点近くまでゆっくり昇温を続ける。この結果、固相線に沿って溶融と凝固とが繰り返し起こり、混合粉末の温度が上昇していき、昇温を止めた時点ですべて固化する。本発明によれば、微量の液相を含む固‐液共存状態が持続すると考えられ、混合粉末の隅々まで液相が行き渡ると考えられる。
【0043】
上記放電プラズマ焼結は次のような過程を経て進行し、最終製品であるダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料が得られる。すなわち図1[B]に示されるように、所定の圧力を加えた状態で、直流パルス電流を流すと、金属粒子(高融点金属粒子1および低融点金属粒子2)同士の隙間および該金属粒子とダイヤモンド粒子との隙間で火花放電しながら焼結が進行する。火花放電の生じた場所は局所的高温状態となるため、金属粒子の表面部分で局所的な、溶融、蒸発、凝縮が繰り返し起こり、接合部分の塑性変形とあいまって、急速に接合が進行する。
【0044】
これに加えて、低融点金属粒子2の融点以上の温度域では、低融点金属粒子2は金属粒子そのものが溶融し、高融点金属粒子1と再合金化するが、低融点金属粒子2の融点以上かつ高融点金属粒子1の融点以下の温度範囲で加熱されながら徐々に昇温されることにより、固‐液共存状態が持続し、液相がダイヤモンド粒子の隙間に侵入し、ポアを充填する。そのため、かさ密度の極めて高い成形体を得ることが可能となる。そして、最終的には図1[C]に示されるような、ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料8が得られる。
【0045】
高融点金属粒子1および低融点金属粒子2として、それぞれアルミニウムおよびアルミニウム合金を用いた場合、ダイヤモンド分散型アルミニウム基複合材料を製造することができる。該ダイヤモンド分散型アルミニウム基複合材料におけるダイヤモンドの体積分率は10 Vol.%〜60 Vol.%であり、熱伝導率はMaxwell−Euckenの式による計算値の90%以上である。ダイヤモンド分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は、例えば、一般的なレーザーフラッシュ法で計測することができる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例および比較例を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
0.230 gの純Al粉末粒子、0.026 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.221 gのダイヤモンド粉末粒子の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0047】
実施例2
0.211 gの純Al粉末粒子、0.023 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.252 gのダイヤモンド粉末粒子の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0048】
実施例3
0.192 gの純Al粉末粒子、0.021 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.282 gのダイヤモンド粉末粒子の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0049】
実施例1で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は40.0 Vol.%、実施例2で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は45.0 Vol.%、実施例3で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は50.0 Vol.%であった。レーザーフラッシュ法にてこれらの複合材料の室温における熱伝導率を測定した結果、実施例1で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は431 W/mK、実施例2で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は503 W/mK、実施例3で製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は552 W/mKであった。この結果は、実施例1、2および3によって製造されたダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料が、Maxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の熱伝導率を有するということを意味している。
【0050】
実施例1〜実施例3で作製したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の、かさ密度とダイヤモンド粒子体積分率の関係を示せば、図5のグラフのようになる。●で示されているのが実施例1〜実施例3で作製したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の値である。また、比較として、固相のみで焼結させたダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の値を△、600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の値を○で示している。本発明を用いて製造されたダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料は、極めて高いかさ密度を有していることが分かる。
【0051】
実施例1および実施例3で作製した、40 Vol.%および50 Vol.%のダイヤモンド粒子体積分率を有する、ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の走査電子顕微鏡写真を示せば図6のようになる。
【0052】
実施例1および実施例3で作製した、40 Vol.%および50 Vol.%のダイヤモンド粒子体積分率を有する、ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の、ダイヤモンド粒子/Alマトリックス界面近傍の走査電子顕微鏡写真を示せば図7のようなる。
【0053】
実施例1〜実施例3で作製した、40 Vol.%、45 Vol.%および50 Vol.%のダイヤモンド粒子体積分率を有する、ダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率を、実験値と理論値を比較して示すと図8のグラフのようになる。図中で、曲線はMaxwell−Euckenの式による理論値(計算値)、○は600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値、●が本発明を用いて製造したダイヤモンド粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値である。
【0054】
実施例4
0.211 gの純Al粉末粒子、0.023 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.233 gの窒化アルミニウム粉末粒子(東洋アルミニウム株式会社製、熱伝導率λ=56W/mK、文献:Liang Qiao,Heping Zhou,Cuiwei Li:Materials Science and Engineering B99 (2003) 102−105)の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0055】
実施例5
0.192 gの純Al粉末粒子、0.021 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.261 gの窒化アルミニウム粉末粒子(東洋アルミニウム株式会社製、熱伝導率λ=56W/mK、文献:Liang Qiao,Heping Zhou,Cuiwei Li:Materials Science and Engineering B99 (2003) 102−105)の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0056】
実施例4で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は45.0 Vol.%、実施例5で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は50.0 Vol.%であった。レーザーフラッシュ法にてこれらの複合材料の室温における熱伝導率を測定した結果、実施例4で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は124 W/mK、実施例5で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は120 W/mKであった。この結果は、実施例4および5によって製造された窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料が、Maxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の熱伝導率を有するということを意味している。
【0057】
実施例4および実施例5で作製した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の、かさ密度と窒化アルミニウム粒子体積分率の関係を示せば、図9のグラフのようになる。図中で、○は600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度、●が本発明を用いて製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度である。
【0058】
実施例4および実施例5で作製した、45.0 Vol.%および50.0 Vol.%の窒化アルミニウム粒子体積分率を有する、窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率を、実験値と理論値を比較して示すと図10のグラフのようになる。図中で、曲線はMaxwell−Euckenの式による理論値(計算値)、○は600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値、●が本発明を用いて製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値である。
【0059】
実施例6
0.211 gの純Al粉末粒子、0.023 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.233 gの炭化ケイ素粉末粒子(International Ceramic Engineering社製、純度98.1%、熱伝導率λ=114 W/mK、文献:NIST Sciences & Technical Data Bases)の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0060】
実施例7
0.192 gの純Al粉末粒子、0.021 gのAl−5%Si合金粉末粒子、および、0.258 gの炭化ケイ素粉末粒子(International Ceramic Engineering社製、純度98.1%、熱伝導率λ=114 W/mK、文献:NIST Sciences & Technical Data Bases)の混合体を用意し、汎用型グラファイトダイセット中にセットした。この状態で試料部分の寸法と形状は、直径10 mm、高さ4 mmの円盤状である。このように汎用型グラファイトダイセット中にセットされた混合体に対して、放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス(株)製SPS1020)を用いて、室温から530 ℃までの昇温過程での昇温速度1.5 K/s、530〜630℃の恒温保持過程での昇温速度0.05 K/s、恒温保持時間2100秒、真空度2 Paの条件で、放電プラズマ焼結を行なった。測温はK型熱伝対をグラファイトダイ中に挿入し、試料表面から5 mmの位置のダイ温度を測定することにより行なった。加圧力は80 MPaとした。また、パルスの電圧は2.5 Vで、昇温時における直流パルス電流は700 A、恒温保持中の電流は500 Aであった。
【0061】
実施例6で製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は45.0 Vol.%、実施例7で製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の粒子体積分率は50.0 Vol.%であった。レーザーフラッシュ法にてこれらの複合材料の室温における熱伝導率を測定した結果、実施例6で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は149 W/mK、実施例7で製造した窒化アルミニウム粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率は145 W/mKであった。この結果は、実施例6および7によって製造された炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料が、Maxwell−Euckenの式による計算値の90%以上の熱伝導率を有するということを意味している。
【0062】
実施例6および実施例7で作製した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の、かさ密度と炭化ケイ素粒子体積分率の関係を示せば、図11のグラフのようになる。○は600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度、●が本発明を用いて製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料のかさ密度である。
【0063】
実施例6および実施例7で作製した、45.0 Vol.%および50.0 Vol.%の炭化ケイ素粒子体積分率を有する、炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の熱伝導率を、実験値と理論値を比較して示すと図12のグラフのようになる。図中で、曲線はMaxwell−Euckenの式による理論値(計算値)、○は600℃で恒温保持して固‐液共存状態を一瞬で終了させて製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値、●が本発明を用いて製造した炭化ケイ素粒子分散型アルミニウム基複合材料の実験値である。
【0064】
本発明の産業上の利用可能な分野としては、下記のものが挙げられる。例えば、(1) 電子機器における、超LSIチップ、LSIを実装した回路基盤、表示素子におけるバックライト、バッテリー等の放熱用冷却フィン、(2) PCハードディスク用冷却フィン、(3) デジタルカメラ用冷却フィン等である。
【符号の説明】
【0065】
1…高融点金属粒子
2…低融点金属粒子
3…ダイヤモンド粒子
4…熱伝対
5…ダイ
6…下パンチ
7…上パンチ
8…ダイヤモンド粒子分散型金属基複合材料
10…パルス通電加圧装置
11…真空チャンバー
12…通電加圧電極
15…加圧装置
16…電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が10 ℃〜200 ℃異なる2種類の金属粒子(低融点金属粒子と高融点金属粒子)と分散粒子との混合体を用い、
前記混合体を前記低融点金属粒子の融点以上であって前記高融点金属粒子の融点未満の温度で焼結する金属基複合材料の製造方法であって、
前記混合体を、前記低融点金属粒子の状態図における固‐液共存領域の固相線に沿って昇温させることを特徴とする金属基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記2種類の金属粒子が純アルミニウム粒子と純アルミニウムよりも10 ℃〜200 ℃融点の低いアルミニウム合金粒子であり、
前記混合体を、前記アルミニウム合金粒子の状態図における固‐液共存領域の固相線に沿って、1.17 ℃/s以下の昇温速度で昇温させることを特徴とする請求項1に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記分散粒子がダイヤモンド粒子であることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記混合体に直流パルス電流又は直流パルス電流と直流電流の重畳電流を流して前記混合体を焼結することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記分散粒子の体積分率が10 Vol.%〜60 Vol. %であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記分散粒子の直径が1μm〜3000μmであり、
前記高融点金属粒子の直径が1μm〜3000μmであり、
前記低融点金属粒子の直径が500μm以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合体に含まれる前記2種類の金属粒子の混合粉末において、前記低融点金属粒子の体積分率が0.1 Vol.%〜50 Vol.%であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の金属基複合材料の製造方法。
【請求項8】
分散粒子の体積分率が10 Vol.%〜60 Vol.%であり、
熱伝導率がMaxwell−Euckenの式による計算値の90%以上であることを特徴とする金属基複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−202902(P2010−202902A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47563(P2009−47563)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(505301941)SPSシンテックス株式会社 (10)
【出願人】(507103994)株式会社マイクロブライト (3)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】