説明

金属塩、電極保護膜形成剤、それを用いた二次電池用電解質、及び二次電池

【課題】 正極における保護膜形成能力を有し、安全性に優れる電極保護膜形成剤に有用な金属塩、かかる金属塩を用い電極保護膜形成剤、及び、二次電池用電解質、更には二次電池を提供すること。
【解決手段】
成分(A)及び(B)よりなることを特徴とする金属塩。
(A)金属カチオン
(B)下記一般式(1)で示されるシアノメタンスルホナート系アニオン
【化1】
OSOCF(3−n)(CN) (1)
(ここで、nは1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属塩に関し、更には、電極保護膜形成能力を有し優れた電解質性能を有する電極保護膜形成剤、かかる金属塩を含有する二次電池用電解質、及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、携帯電話、PDAなどの情報電子機器において、電池やキャパシタなどの蓄電デバイスの普及は著しく、より快適な携帯性を求め、小型化、薄型化、軽量化、高性能化が急速に進んでいる。特に、リチウム二次電池に代表される二次電池は、次世代の自動車として期待される電気自動車においても、その適用が検討されており、更なる高容量化、高出力化が必要となっている。
【0003】
リチウム二次電池は、正極と負極の間に電解質を挟持して構成されるが、かかる電解質は、プロピレンカーボネートやジエチルカーボネートなどの有機溶媒に、LiPFやLiBFなどのリチウム塩と、電極保護膜形成剤などの添加剤を溶解して製造される。
【0004】
電極保護膜形成剤としては、一般的に、ビニレンカーボネートなどが使用されているが、負極に保護膜を形成できるものの正極への保護機能は無く、正極活物質の電位領域を十分に活用できていない。例えば、正極活物質として、酸化電位が5V以上(vs Li/Li)の高性能材料が開発されているが、かかる正極活物質を含有する正極材料表面で有機溶剤やリチウム塩のカウンターアニオンが酸化分解するため、これら正極活物質を活かせない。また、過充電状態においても電池の安全性を確保するためにも、耐酸化電位が6V以上(vs Li/Li)、更には0.1Vでも耐酸化電位の高い電解質が望まれている。更に、上述した電気自動車用電池においては安全性の確保が至上命題であり、ショートによる発火や暴発の危険性を回避するためにも、有効な電極保護膜形成材料が要望されている。
【0005】
上述した電池の高性能化と安全性確保の点から、各種の電極保護膜形成材料が提案されており、例えば、1、3−プロパンスルトンなどの化合物が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−367675号公報
【特許文献2】特開2002−373704号公報
【特許文献3】特開2005−026091号公報
【特許文献4】特開2007−134282号公報
【特許文献5】特開2009−140641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜5の開示技術では、ビニレンカーボネートと同様に、負極にSEI(Solid Electrolyte Interface)を形成して還元側の使用電位を拡大するものの、正極に有効な保護膜は形成できない。
【0008】
そこで、本発明ではこのような背景下において、正極における保護膜形成能力を有し、安全性に優れる電極保護膜形成剤に有用な金属塩、かかる金属塩を用いた電極保護膜形成剤、及び、二次電池用電解質、更には二次電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者らはかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、金属カチオンとシアノ基を有するスルホナート系アニオンよりなる金属塩が、正極における保護膜形成能に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、成分(A)及び(B)よりなる金属塩に関するものである。
(A)金属カチオン
(B)下記一般式(1)で示されるシアノメタンスルホナート系アニオン
【0011】
(化1)
OSOCF(3−n)(CN) (1)
(ここで、nは1〜3の整数である。)
【0012】
更に、本発明は、前記金属塩を含有する電極保護膜形成剤、更に、二次電池用電解質、並びに、かかる金属塩を正極と負極との間に挟持してなる二次電池、とりわけリチウム二次電池に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属塩は、正極保護膜形成能を有するものであり、電極保護膜形成剤に有効であり、更に安全性に優れ、電池特性に優れる二次電池用電解質、及び二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の金属塩のESI−MS(−)を示すチャート図である。
【図2】実施例1の金属塩の13C−NMRを示すチャート図である。
【図3】実施例1の金属塩の19F−NMRを示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において使用される一価や二価は、それぞれの金属カチオンの安定な価数を表すものである。
【0016】
本発明の金属塩は、金属カチオン(A)と、下記一般式(1)で示されるシアノメタンスルホナート系アニオン(B)よりなる金属塩である。
【0017】
(化2)
OSOCF(3−n)(CN) (1)
(ここで、nは1〜3の整数である。)
【0018】
本発明の金属カチオン(A)としては、例えば、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、銀カチオン等の一価の金属カチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、銅カチオン等の二価の金属カチオン、アルミニウム等の三価の金属カチオンなどが挙げられ、これらの金属カチオンの中でも、電解液に対する溶解度の点からリチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等の一価の金属カチオンが好ましく、特に純度の点からナトリウムカチオン、リチウムカチオンが好ましい。
【0019】
本発明で用いる金属カチオンとして、同価の異なる金属カチオンを併用したり、一価の金属カチオンと二価の金属カチオンを併用したりして、金属塩の混合物とすることも可能である。
【0020】
本発明のシアノメタンスルホナート系アニオン(B)としては、上記一般式(1)において、nが、好ましくは、電極保護膜形成能力の点から1または2であり、特に好ましくは、電解質の導電率の点から1である。
【0021】
本発明の金属塩の特筆すべき効果は、電池の充放電を行った場合に、アニオンの微量の分解生成物が、正極材料表面に電気化学的に安定なSEI(Solid Electrolyte Interface)を形成し、電極を保護すると同時に、電解質の更なる分解を抑止する点にある。この効果により、本来正極活物質が有する広い電位領域の使用が可能になり、かつ電池の電位窓を安定化させることができる。
【0022】
本発明のアニオンがいかなる機構でSEIを形成するかは明らかでないが、アニオンのシアノ基やフッ素、及び/または硫黄が電極表面と反応することにより安定なSEIを形成するものと推測される。なお、上述したビニレンカーボネートなどの電極保護膜形成剤は、一般的に、負極に保護膜を形成して還元電位を安定化させるが、本発明の金属塩は、正極に保護膜を形成して酸化電位を安定化させることができる。当然のことながら、両者を併用することにより、広範囲な電位で安定に動作する電池を製造することができる。
【0023】
以下に、本発明の金属塩の具体的な製造例を、n=1の場合を例にとって説明する。かかる金属塩の化学式は、Mm+m−[OSOCFCN]である。ここで、Mがリチウム、ナトリウム、カリウム等の一価の金属カチオンの場合、mは1である。また、Mがマグネシウム、カルシウム、銅等の二価の金属カチオンの場合、mは2である。
【0024】
ハロゲン化ジフルオロアセトアミドに、通常1〜10等量、好ましくは1〜5等量の炭酸水素ナトリウムと、通常1〜10等量、好ましくは1〜5等量の亜ジチオン酸の金属塩を加えた後、超純水を加え、室温〜70℃、好ましくは室温〜40℃で1〜5時間、好ましくは2〜4時間撹拌を行うことで2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルフィン酸の金属塩を得ることができる。ハロゲン化ジフルロロアセトアミドとしては、例えば、クロロジフルロロアセトアミド、ブロモジフルオロアセトアミド、ヨードジフルロロアセトアミドが好ましく、特に反応性の点からブロモジフルロロアセトアミド、ヨードジフルオロアセトアミドが好ましい。反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが好ましく、溶解度の点からアセトニトリル、アセトンが好ましい。
【0025】
次に、2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルフィン酸の金属塩に対して通常1〜10等量の酸化剤を加え水中で攪拌し、通常室温〜60℃、好ましくは室温〜40℃で通常数分〜数時間、好ましくは1〜2時間反応させ、2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルホン酸の金属塩が得られる。酸化剤としては、例えば、クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過酸化水素などが好ましく、特に水への溶解度の点から過酸化水素水が好ましい。
【0026】
更に、2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルホン酸の金属塩に、通常−20℃〜室温、好ましくは−15℃〜室温で、脱水剤を1〜10等量、好ましくは1〜5等量を加え数分〜数時間、好ましくは10分〜2時間撹拌した後、室温〜100℃、好ましくは50〜80℃に加熱し、溶媒及び副生成物を減圧留去することで、1−シアノ−1,1−ジフルオロメタンスルホン酸の金属塩が得られる。脱水剤としては、例えば、塩化チオニル、五酸化二リン、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、ピリジンなどが挙げられるが、反応性の点から五酸化二リン、無水トリフルロロ酢酸が好ましく、特に精製の点から無水トリフルオロ酢酸が好ましい。
【0027】
得られた1−シアノ−1,1−ジフルオロメタンスルホン酸よりなる金属塩は、生成するハロゲン化金属や不純物を除去するため、精製することが好ましい。精製の手法は、例えば、濾過、抽出、洗浄、カラムクロマトグラフ、再沈殿、再結晶、吸着などの手法があげられる。これらの中でも、電気化学特性向上の点から、再結晶が好ましい。更に、得られた金属塩は、電気化学特性向上の点から、真空乾燥することが好ましく、更に乾燥雰囲気下で保管されることが好ましい。
【0028】
かくして本発明の金属塩が得られるが、本発明の金属塩は、電極保護膜形成機能に優れるものであり、電極保護膜形成剤として非常に有用である。
そして、本発明においては、本発明の金属塩と、リチウム塩を電解液に配合することにより電極保護膜形成機能を有する二次電池用電解質、とりわけリチウム二次電池用電解質を形成することができる。
本発明の金属塩がリチウム塩の場合は、該リチウム塩を電解液に配合するだけで電解質を形成することができる。
【0029】
リチウム塩としては、例えば、LiBF、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiPF、LiOH、LiCO2H、LiCO2CH3、LiCO2CF3、LiSO2CH3、LiSO2CF3、LiCN、LiN(CN)2、LiC(CN)、LiSCN、LiN(SO2CF32、LiN(SO2F)2等が挙げられる。これらの中でも、有機溶剤に対する溶解度の点から、LiBF、LiPF、LiCO2H、LiCO2CH3、LiCO2CF3、LiSO2CH3、LiSO2CF3、LiN(SO2CF32が好ましく、さらに好ましくは、カウンターアニオンの安定性の点からLiBF、LiPF、LiCO2H、LiCO2CH3、LiCO2CF3、LiSO2CH3、LiSO2CF3が好ましい。
【0030】
本発明で使用される電解液としては、有機溶媒、イオン液体など公知のものが使用できる。有機溶媒としては、例えば、カーボネート系溶媒(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)、アミド系溶媒(N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N−メチルピロジリノン等)、ラクトン系溶媒(γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン等)、アルコール系溶媒(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジグリセリン、ポリオキシアルキレングリコールシクロヘキサンジオール、キシレングリコール等)、エーテル系溶媒(メチラール、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、アルコキシポリアルキレンエーテル等)、ニトリル系溶媒(ベンゾニトリル、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等)、燐酸類及び燐酸エステル溶媒(正燐酸、メタ燐酸、ピロ燐酸、ポリ燐酸、亜燐酸、トリメチルホスフェート等)、2−イミダゾリジノン類(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、ピロリドン類、スルホラン系溶媒(スルホラン、テトラメチレンスルホラン等)、フラン系溶媒(テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン等)、ジオキソラン、ジオキサン等が挙げられ、これらの単独あるいは2種以上の混合溶媒が使用できる。これらの中でもカーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、フラン系溶媒、スルホラン系溶媒が、得られる電解質の導電率の点で好ましく、特にスルホラン系溶媒が電池の安全性の点でより好ましく用いられる。
【0031】
また、イオン液体としては、例えば、アニオンとして、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、BF4-、BF3CF3-、BF325-、PF6-、NO3-、CF3CO2-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(FSO22-、(CF3SO2)(FSO2)N-、(CN)2-、(CN)3-、(CF3SO23-、(C25SO22-、AlCl4-、Al2Cl7-などを含有するイオン液体が挙げられる。これに対応するカチオンとしては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム等のジアルキルイミダゾリウム系カチオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウム等のトリアルキルイミダゾリウム系カチオンなどのアルキルイミダゾリウム系カチオンが挙げられ、イミダゾリウム系カチオン以外では、4級アンモニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、4級ホスホニウム系カチオンなどを含有するイオン液体が挙げられる。これらのイオン液体は1種または2種以上併用して用いることができる。これらの中でもイミダゾリウム系カチオンよりなるイオン液体が、得られる電解質の導電率の点で好ましく用いられる。
【0032】
本発明の電解質における金属塩の含有量は、電解質全体を100重量%とした場合に、0.1〜20重量%が好ましく、より好ましくは、0.2〜10重量%、更に好ましくは、0.3〜5重量%、特に好ましくは、0.3〜3重量%である。金属塩が少なすぎると、電解質の電極保護膜形成能力が低下する傾向にあり、多すぎると高粘度化により高速充放電が困難となる傾向にある。
【0033】
かくして本発明の金属塩を用いてなる本発明の電解質が得られるが、かかる電解質の耐酸化電位は、6V以上(vs Li/Li+)であることが好ましい。耐酸化電位のより好ましい範囲は6.5V以上、更に好ましくは6.8V以上、特に好ましくは7V以上である。耐酸化電位が小さすぎると、高容量、高出力が必要な自動車用電池への適用が困難となる傾向がある。
【0034】
なお、ここでいう耐酸化電位は後述する手法で測定されるものであるが、電解質の微量の分解に伴い検出されるピークを無視するものとする。通常、該測定中に電極保護膜が形成される際には微小な電流ピークが観測されるが、このピークは本発明の趣旨を損なうものではなく、繰り返し測定を行い十分な電極保護膜が形成された後は消滅するものである。具体的には、電流密度1mA/cm未満のピークは無視するものとする。
【0035】
本発明の電解質は、導電率が25℃において5mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは7mS/cm以上、更に好ましくは9mS/cm以上、特に好ましくは10mS/cm以上である。なお、25℃での導電率の上限は通常、100mS/cmである。25℃における導電率が、小さすぎると電池の高速充放電が困難となる傾向がある。
【0036】
更に、本発明においては、低温での導電率が重要であり、例えば、電解質の−20℃での導電率は、0.01mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mS/cm以上、更に好ましくは1mS/cm以上、特に好ましくは2mS/cm以上である。なお、−20℃での導電率の上限は通常、10mS/cmである。−20℃における導電率が小さすぎると、寒冷地での電池の動作が困難となる傾向がある。
【0037】
かくして本発明の電解質が得られるが、使用される金属塩は1種のみでも2種以上併用してもよく、例えば、金属カチオンが異なるものや、一般式(1)においてnの異なるもの等を2種以上併用することが挙げられる。
【0038】
本発明の金属塩を用いて得られる電解質には、必要に応じて、本発明以外の公知の電極保護膜形成剤を配合してもよい。
【0039】
本発明以外の電極保護膜形成剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、1,3−プロパンスルトン、エチレンサルファイト、トリエチルボレート、ブチルメチルスルフォネートなどが挙げられる。この中でも、負極側に安定なSEIを形成する点から、ビニレンカーボネートが特に好ましい。
【0040】
かかる電極保護膜形成剤の含有量としては、電解質全体を100重量部とした場合に、0.1〜5重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.2〜3重量部、特に好ましくは0.3〜1重量部である。かかる含有量が多すぎると電解質の導電率が低下する傾向があり、少なすぎるとリチウム二次電池の電位窓の安定化の効果が得難い傾向がある。
【0041】
次に、本発明の電解質を用いて得られる二次電池、とりわけリチウム二次電池について説明する。
本発明では、上記で得られる本発明の電解質を正極と負極との間に挟持してリチウム二次電池を製造する。
【0042】
かかる正極については、複合正極であることが好ましい。複合正極とは、正極活物質に、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤、及び、必要に応じてイオン導電性ポリマーを混合した組成物を、アルミニウム箔などの導電性金属板に塗布したものである。
【0043】
正極活物質としては、無機系活物質、有機系活物質、これらの複合体が例示できるが、無機系活物質あるいは無機系活物質と有機系活物質の複合体が、電池のエネルギー密度が大きくなる点から好ましい。
【0044】
無機系活物質として、3V系ではLi0.3MnO2、Li4Mn512、V25、LiFePO、LiMnO等、4V系ではLiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi1/2Mn1/22、LiNi0.8Co0.22、LiMnPO、LiMnO等、5V系ではLiMnO、LiNi0.5Mn1.5等の金属酸化物、TiS2、MoS2、FeS等の金属硫化物、これらの化合物とリチウムの複合酸化物が挙げられる。有機系活物質としてはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等の導電性高分子、有機ジスルフィド化合物、カーボンジスルフィド、活性硫黄等が用いられる。
【0045】
負極については、例えば、集電体に負極活物質を直接塗布した金属系負極、合金系の集電体にポリフッ化ビニリデンなどの結着材で導電性高分子、炭素体、酸化物などの活物質を塗布した負極等が挙げられる。
【0046】
負極活物質としては、例えば、リチウム金属やシリコン金属、アルミニウム、鉛、スズ、シリコン、マグネシウム等の金属とリチウムとの合金、SnO2、TiO2などの金属酸化物、ポリピリジン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、あるいはこれらの誘導体よりなるカチオンドープ可能な導電性高分子、リチウムを吸蔵可能な炭素体などが挙げられるが、中でも特に、本発明の電解質を用いる場合は、エネルギー密度が高いリチウム金属とシリコン金属が好ましい。
【0047】
本発明においては、かかるリチウム金属を用いる場合では、リチウム金属の厚みとしては1〜500μmが好ましく、更には10〜100μmが好ましく、特には20〜50μmが好ましい。リチウム金属としては薄いリチウム箔を使用することが経済的で好ましい。
【0048】
本発明のリチウム二次電池は、電解質を上記の正極及び負極の間に挟持させることにより製造されるが、短絡防止の点からセパレーターを使用することが好ましい。具体的には、セパレーターに電解質を含浸させ、正極と負極とで挟み込むことによりリチウム二次電池が得られる。
【0049】
セパレーターとしては、リチウムイオンのイオン移動に対して低抵抗であるものが用いられ、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物より選ばれる1種以上の材質からなる微多孔膜、有機若しくは無機の不織布又は織布が挙げられる。これらの中では、短絡防止や経済性の点で、ポリプロピレンやポリエチレンよりなる微多孔膜とガラス不織布が好ましい。
【0050】
本発明のリチウム二次電池の形態としては、特に限定するものではないが、コイン、シート、円筒等、種々の形態の電池セルが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
各特性の測定条件は以下の通りである。
【0052】
(導電率)
測定用セルとして東亜DKK社製、CG−511B型セルを用いて、電解質に5時間浸漬後、電気化学測定システム「ソーラートロン1280Z」(英国ソーラートロン社製)を用い、交流インピーダンス法で測定した。交流振幅は5mV、周波数範囲は20k〜0.1Hzで測定した。
【0053】
(耐酸化電位)
測定用セルとしてビーエーエス社製 V−4Cボルタンメトリー用セルを用い、電極はビーエーエス社製のものを用いた。作用極にはグラッシーカーボン(直径1mm)、対極は白金、参照電極にはリチウムを用いた。電位掃引速度は5mV/sec、温度は25℃で実施した。測定装置は電気化学測定システム「ソーラートロン1280Z」(英国ソーラートロン社製)を用いた。限界電流密度を±1mA/cmとし、+1mA/cmに到達する電位を耐酸化電位(V)とした。
【0054】
実施例1
〔金属塩(I)の製造〕
(1)ヨードジフルオロアセトアミドの製造
500mLのエレンマイヤーフラスコにヨードジフルオロ酢酸エチル200gを入れ、ジエチルエーテル120mLを加えて溶かし、氷冷しながら28%アンモニア水溶液97.1gを加えた。その溶液を室温で3時間撹拌した後、エーテル200ml、超純水100mlを加えて抽出を行い、エーテル層を捕集した。更に水層をエーテル50mlで2回洗い、エーテル層を捕集し、先のエーテル層と一緒に捕集し、濃縮を行った。得られたものにヘキサン50mlを加え、孔径0.45μmのメンブランフィルター(日本ミリポール社製)により減圧濾過を行い、残渣を回収し、50℃真空乾燥3時間を行うことでヨードジフルオロアセトアミド129g(収率73%)を得た。
【0055】
(2)2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルフィン酸ナトリウムの製造
アルゴン雰囲気下、500mLのエレンマイヤーフラスコに(1)で得たヨードジフルオロアセトアミド49.7gを入れ、アセトニトリル300mlを加えて溶かし、炭酸水素ナトリウム38.0g、亜ジチオン酸ナトリウム59.0g、超純水300mlを順に加え、室温で2時間撹拌を行った後、濾過、濃縮を行った。得られたものにメタノール100mlを加え、濾過し、ろ液を濃縮し、60℃真空乾燥3時間行うことで2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルフィン酸ナトリウム40.6g(収率100%)を得た。
【0056】
(3)2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルホン酸ナトリウムの製造
2Lのエレンマイヤーフラスコに(2)で得た2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルフィン酸ナトリウム40.0gを入れ、超純水1Lを加えて溶かし、30%過酸化水素52ml、タングステン酸ナトリウム二水和物179mgを順次加え、室温で2時間撹拌した後、泡が出なくなるまで酸化マンガンを加え、室温で30分撹拌し、濾過を行い、濾液を濃縮し、60℃真空乾燥3時間行うことで2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルホン酸ナトリウム25g(収率81%)を得た。
【0057】
(4)1−シアノ−1,1−ジフルオロメタンスルホン酸ナトリウムの製造
アルゴン雰囲気下、200mlの四つ口丸底フラスコに(3)で得た2−アミノ−1,1−ジフルオロ−2−オキソエタンスルホン酸ナトリウム15.5gを入れ、脱水ジメチルホルムアミド110mlを加えて溶かし、5℃を超えないように無水トリフルオロ酢酸14.1mlを加え、氷冷中30分撹拌した後、80℃に加熱し、溶媒及び副生成物を減圧留去し、残留物を80℃で真空乾燥2時間行った後、室温まで放冷し、脱水アセトニトリル30mlで溶解させ、ジクロロメタン60mlを加え再結晶させ、孔径0.45μmのメンブランフィルター(日本ミリポール社製)により減圧濾過を行い、残渣を回収し、アセトニトリル100mlを加え溶解させ、孔径0.45μmのメンブランフィルター(日本ミリポール社製)により減圧濾過を行い、濾液を濃縮し、60℃真空乾燥3時間行うことで白色粉末の1−シアノ−1,1−ジフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(金属塩(I))7.66g(50%)を得た。
【0058】
得られた金属塩(I)を下記の分析装置を用いて同定を行った。
即ち、分析装置については、質量分析は日本電子社製「JMS-T100LP AccuTOF LC-plus」を用い、NMRはVarian社製、「Unity−300」(溶媒:重水)を用いて測定した。チャートの帰属について主なものを以下に示す。なお、ESI−MS(−)、13C−NMR及び19F−NMRチャートは図1〜3に示す。
【0059】
・ESI−MS(−)
m/z=155.95333
13C−NMR
110.34ppm[t,Hz=41.7Hz,CN]
107.20ppm[t,Hz=279.1Hz,CF
19F−NMR
−99.57ppm[s,CF
【0060】
〔電解質(I)の製造〕
得られた金属塩(I)(1−シアノ−1,1−ジフルオロメタンスルホン酸ナトリウム)0.37g(0.001モル)とLiPF7.6g(0.05モル)を、電解液としてエチレンカーボネート(50体積%)/ジメチルカーボネート(50体積%)100gに溶解し、電解質(I)を得た。
得られた電解質(I)の諸特性は表1に示されるとおりである。低温においても高い導電率と、広い電位窓を有するものであり、電気化学特性に優れていることが確認された。
また、得られた電解質(I)は、例えば、以下のようにして、リチウム二次電池を製造することが可能であり、リチウム二次電池用の電解質として有用である。
【0061】
〔リチウム二次電池の製造〕
(1)正極の作製
LiCoO2粉末9.0g、ケチェンブラック0.5g、ポリフッ化ビニリデン0.5gを混合し、更に1−メチル−2−ピロリドン7.0gを添加して乳鉢でよく混合し、正極スラリーを得る。得られる正極スラリーをワイヤーバーを用いて厚さ20μmアルミニウム箔上に大気中で塗布し、100℃で15分間乾燥させた後、更に、減圧下130℃で1時間乾燥して、膜厚30μmの複合正極を作製する。
【0062】
(2)電池の組立
上記の電解質(I)を、セパレーター(セルガード社製セルガード#2400、厚さ20μm)と複合正極に含浸させて、複合正極の上にセパレーター、負極としてのリチウム箔(厚さ50μm)の順で重ね、2032型コインセルに挿入し封缶し、リチウム二次電池を得る。
【0063】
実施例2
実施例1と同様にして得られた金属塩(I)0.74g(0.002モル)とLiPF7.6g(0.05モル)をエチレンカーボネート(50体積%)/ジメチルカーボネート(50体積%)100gに溶解して電解質(II)を調製し、実施例1と同様に評価した。
【0064】
実施例3
実施例1と同様にして得られた金属塩(I)0.74g(0.002モル)とLiPF15.2g(0.1モル)をエチレンカーボネート(50体積%)/ジメチルカーボネート(50体積%)100gに溶解して電解質(III)を調製し、実施例1と同様に評価した。
【0065】
比較例1
LiPF7.6g(0.05モル)をエチレンカーボネート(50体積%)/ジメチルカーボネート(50体積%)100gに溶解して電解質を調製し、実施例1と同様にして評価した。
結果は表1に示されるとおりである。
【0066】
【表1】

【0067】
上記の実施例及び比較例の評価結果から明らかなように、比較例の電解質に対して、実施例の電解質は、低温での導電率に優れるうえ、耐酸化電位に優れ、広い電位窓を有するものであり、このため、二次電池、とりわけリチウム二次電池の電解質として非常に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の金属塩は、電極保護膜形成機能に優れたものであり、高導電率や広電位窓を有するなどの電解質としての性能に優れ、更に、安全性に優れたものであり、二次電池用、とりわけリチウム二次電池用の電解質として非常に有用である。また、他の二次電池、一次電池、キャパシタ、コンデンサー、アクチュエーター、エレクトロクロミック素子、各種センサー、色素増感太陽電池、燃料電池用の電解質としても有用であり、更に、帯電防止剤、重合開始剤、イオン交換膜用材料、イオンガラス用材料としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)及び(B)よりなることを特徴とする金属塩。
(A)金属カチオン
(B)下記一般式(1)で示されるシアノメタンスルホナート系アニオン
(化1)
OSOCF(3−n)(CN) (1)
(ここで、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
成分(B)がシアノフルオロメタンスルホナート系アニオンであることを特徴とする請求項1記載の金属塩。
【請求項3】
成分(A)が一価の金属カチオンであることを特徴とする請求項1または2記載の金属塩。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の金属塩からなることを特徴とする電極保護膜形成剤。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の金属塩を含有してなることを特徴とする二次電池用電解質。
【請求項6】
請求項5記載の二次電池用電解質を正極と負極との間に挟持してなることを特徴とする二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−114934(P2013−114934A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260738(P2011−260738)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】