説明

金属塩化物ガス発生装置、ハイドライド気相成長装置、及び窒化物半導体テンプレート

【課題】意図しない不純物の混入を抑制した金属塩化物ガス発生装置、ハイドライド気相成長装置、及び窒化物半導体テンプレートを提供する。
【解決手段】金属塩化物ガス発生装置としてのHVPE装置1は、Ga(金属)7aを収容するタンク(収容部)7を上流側に有し、成長用の基板11が配置される成長部3bを下流側に有する筒状の反応炉2と、ガス導入口64aを有する上流側端部64からタンク7を経由して成長部3bに至るように配置され、上流側端部64からガスを導入してタンク7に供給し、ガスとタンク7内のGaとが反応して生成された金属塩化物ガスを成長部3bに供給する透光性のガス導入管60と、反応炉2内に配置され、ガス導入管60の上流側端部64を成長部3bから熱的に遮断する熱遮蔽板9A、9Bとを備え、ガス導入管60は、上流側端部64と熱遮蔽板9Bとの間で屈曲された構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塩化物ガス発生装置、ハイドライド気相成長装置、及び窒化物半導体テンプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)などの窒化物ガリウム化合物半導体は、赤色から紫外の発光が可能な発光素子用材料として注目を集めている。これらの窒化物ガリウム化合物半導体の結晶成長法の一つに、金属塩化物ガスとアンモニアを原料とするハイドライド気相成長法(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)がある。
【0003】
HVPE法の特徴としては、他の成長法(有機金属気相成長法(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)や分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy法)で典型的な数μm/hrの成長速度と比較して格段に大きな10μm/hr以上から100μm/hr以上の成長速度が得られる点が挙げられる。このため、GaN自立基板(特許文献1参照)やAlN自立基板の製造に良く用いられる。ここで、「自立基板」とは、自らの形状を保持でき、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいう。
【0004】
また、窒化物半導体からなる半導体発光素子(発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)など)は、通常サファイア基板上に形成されるが、その結晶成長に際しては、基板の表面にバッファ層を形成した後、その上にn型層を含む10〜15μm程度の厚いGaN層を成長し、その上にInGaN/GaN多重量子井戸の発光層(合計で数100nm厚)、p層(200〜500nm厚)の順に成長が行われる。発光層の下側のGaN層が厚いのは、サファイア基板上のGaNの結晶性を改善するなどのためである。その後、電極形成などを行い最終的には後述する図7のような素子構造が形成される。MOVPE法での成長の場合、結晶成長工程は典型的には6時間程度の時間を要するが、このうちの半分程度は、テンプレート部分と呼ばれる発光層の下側のGaN層を成長するために必要な時間である。
【0005】
以上のことから、テンプレート部分の成長に成長速度の格段に速いHVPE法を適用できれば、大幅な成長時間の短縮が可能となり、LED用のウエハの製造コストを劇的に低減することが可能となる。しかし、製造コストを低くできるHVPE法でテンプレート部分を成長させると、意図しない不純物の混入が多く、現状では良質のテンプレートを作製するのが困難である。
【0006】
窒化物半導体を製造するために用いられるHVPE装置は、一般に、主原料としてGa、NH3ガス、HClガスが用いられる。また、膜の生成を有効に行うことができる必要成長温度は1000℃以上と高温である。このため、ガス導入管や反応炉の材料としては、高温で反応性の高いNH3ガスやHClガスに対して化学的耐性と耐熱性を有する、例えば石英が用いられる。具体的には、HVPE装置は、後述する図8に示すような構造を有しており、上流側の原料部と下流側の成長部とに分けられた円筒状の石英製の反応炉を有し、反応炉の上流側の開放端をステンレス鋼(SUS)製の上流側フランジで閉塞し、反応炉の下流側の開放端をSUS製の下流側フランジで閉塞し、上流側フランジを貫通して原料部から成長部に向けて石英製のガス導入管を設置している。石英製のガス導入管を上流側フランジに直接取り付けることはできないため、ガス導入管の上流側の端部の外側にSUS製の配管を接続し、この配管を上流側フランジに取り付けている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3886341号公報
【特許文献2】特開2002−305155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記構成のHVPE装置では、最も高温になる成長部からの輻射熱がSUS製の配管に伝わって配管部分が高温になり、配管部分の構成材料が窒化物半導体テンプレートに意図しない不純物として混入する場合がある。つまり、配管が高温になると、配管内を流れるガスが配管の構成材料と反応しやすくなり、このガスによって配管部分の構成材料が削り取られ(腐食され)、この削り取られた特にこれらは、腐食性ガスであるNH3やHClが流れる配管部分からの不純物混入が顕著である。
【0009】
本明細書や請求項において、「窒化物半導体テンプレート」あるいは単に「テンプレート」とは、基板と発光層の下側を構成するGaN層やバッファ層などの窒化物半導体層を含んだものを意味する。さらに、テンプレート部分とは、「窒化物半導体テンプレート」中の窒化物半導体層を意味します。
【0010】
したがって、本発明の目的は、窒化物半導体テンプレートへの意図しない不純物の混入を抑制した金属塩化物ガス発生装置、ハイドライド気相成長装置、及び窒化物半導体テンプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、1000℃以上で使用される金属塩化物ガス発生装置を用いて作製した窒化物半導体テンプレートに意図しない不純物が混入する原因が、ガス導入口のSUS配管が高温になることにあることを発見した。意図せずに混入している不純物は、ガス導入口のSUS配管が高温になることによって配管を流れるガスにより、配管の構成材料が腐食され、不純物として混入していることを発見した。
【0012】
ヒータからの輻射熱を抑えることで、ある程度ガス導入口のSUS配管部分の温度上昇を抑えることができる。しかし、上記方法には、限界があることが分かった。その理由は、ガス導入管の材料、具体的には石英が透光性を有する材料であることで、ガス導入管が光導波路となりガス導入口のSUS配管部分が高温になり、その影響によって意図しない不純物の混入があることを発見した。(「光導波路現象」とは、ガス導入管が光導波路となって輻射熱を導波させる現象をいう)
【0013】
このため、ガス導入口のSUS配管部分の温度上昇を抑えるために、先ずは最も高温になる成長部とガス導入口の間に熱遮蔽板を設けて輻射熱による温度上昇を抑制した。更に熱遮蔽板を過ぎた頃(熱遮蔽板と上流側端部の間)からガス導入管を屈曲させてガス導入口の位置を変え、ガス導入口のSUS配管部分が高温になることを抑制することで、不純物の混入が抑制されることを見出した。ガス導入管の下流側で発生した輻射熱(具体的には、金属塩化物ガス発生装置の成長部側からの輻射熱)は、熱遮蔽板やガス導入管の屈曲された構造によって抑制され、上流側端部に熱が伝わりにくくなり、上流側端部の温度上昇を抑制する。ガス導入管から導入するガスに上流側端部の配管構成材料が不純物として混入するのを抑制する。
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、金属を収容する収容部を上流側に有し、成長用の基板が配置される成長部を下流側に有する筒状の反応炉と、ガス導入口を有する上流側端部から前記収容部を経由して前記成長部に至るように配置され、前記上流側端部からガスを導入して前記収容部に供給し、前記ガスと前記収容部内の前記金属とが反応して生成された金属塩化物ガスを前記成長部に供給する透光性のガス導入管と、前記反応炉内に配置
され、前記ガス導入管の前記上流側端部を前記成長部から熱的に遮断する熱遮蔽板とを備え、前記ガス導入管は、前記上流側端部と前記熱遮蔽板との間で屈曲された構造を有する金属塩化物ガス発生装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記金属塩化物ガス発生装置を備えたハイドライド気相成長装置を提供する。
【0016】
また、本発明は、基板と、塩素を含む窒化物半導体層を有する窒化物半導体テンプレートであって、前記塩素を含む窒化物半導体層は、鉄濃度が1×1017cm-3以上含まない窒化物半導体テンプレートを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、窒化物半導体テンプレートへの意図しない不純物の混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るHVPE装置の概略の構成例を示 す図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施の形態に係る窒化物半導体テンプレートの断面図である。
【図3】図3は、FeのSIMS分析結果を示すグラフである。
【図4】図4は、CrのSIMS分析結果を示すグラフである。
【図5】図5は、NiのSIMS分析結果を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施例に係る半導体発光素子用エピタキシャルウエハの断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る半導体発光素子の断面図である。
【図8】図8は、比較例1に係るHVPE装置を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本発明の変形例4に係るショットキーバリアダイオードを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0020】
[実施の形態の要約]
本実施の形態に係る金属塩化物ガス発生装置は、金属を収容する収容部を上流側に有し、成長用の基板が配置される成長部を下流側に有する筒状の反応炉と、ガス導入口を有する上流側端部から前記収容部を経由して前記成長部に至るように配置され、前記上流側端部からガスを導入して前記収容部に供給し、前記ガスと前記収容部内の前記金属とが反応して生成された金属塩化物ガスを前記成長部に供給する透光性のガス導入管とを備えた金属塩化物ガス発生装置において、前記反応炉内に配置され、前記ガス導入管の前記上流側端部側と前記成長部側とを熱的に遮断する熱遮蔽板とを備え、前記ガス導入管は、前記上流側端部と前記熱遮蔽板との間で屈曲された構造を有する。
【0021】
上記ガス導入管は、ガス導入口から塩化物ガスを導入するものでもよい。また、上記熱遮蔽板は、カーボン又は石英から形成されたものでもよい。上記上流側端部は、金属から形成されたものでもよい。
【0022】
成長部からの輻射熱は熱遮蔽板によって妨げられ、ガス導入管の上流側端部の温度上昇を抑制する。ガス導入管は、上流側端部と熱遮蔽板との間で屈曲された構造を有することで、成長部からの輻射熱が上流側端部に伝わりにくくなり、上流側端部の温度上昇をより一層抑制する。
【0023】
また、本実施の形態に係るハイドライド気相成長装置(以下「HVPE装置」という。)は、上記金属塩化物ガス発生装置を備えたものである。上記金属塩化物ガス発生装置が有する前記ガス導入管は、石英から形成されたものでもよい。
【0024】
また、本実施の形態に係る窒化物半導体テンプレートは、基板と、塩素を含む窒化物半導体層を有する窒化物半導体テンプレートであって、前記塩素を含む窒化物半導体層は、鉄濃度が1×1017cm-3以上含まないものである。窒化物半導体テンプレートは、異種基板上に、異種基板とは異なる材料であって、互いに同種の材料からなる複数の窒化物半導体層を形成したものである。
【0025】
上記窒化物半導体テンプレートは、X線回折(XRD:X‐ray diffraction)の(0004)面の半値幅(FWHM:full width at half maximum)が200秒以上300秒以下が好ましい。上記窒化物半導体テンプレートは、Si濃度が5×1018〜5×1019cm-3の範囲でSiがドープされたSiドープGaN層を備えたものでもよい。
【0026】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るHVPE装置の概略の構成例を示す図である。このHVPE装置1は、上流側の原料部3aと下流側の成長部3bに分かれており、それぞれが別々の原料部ヒータ4a、成長部ヒータ4bによりそれぞれ約850℃、1100℃に加熱される。
【0027】
また、HVPE装置1は、円筒状の反応炉2を有し、反応炉2の上流側の開放端がSUS製の上流側フランジ8Aで閉塞され、反応炉2の下流側の開放端がSUS製の下流側フランジ8Bで閉塞されている。そして、上流側フランジ8Aを貫通して原料部3aから成長部3bに向けて、V族ライン61、III族(AlとGa)ライン62、ドーピングライン63の4系統のガス供給ライン6が設置されている。
【0028】
V族ライン61、III族ライン62及びドーピングライン63は、同様のガス導入管60によって構成されている。ガス導入管60は、ガス導入口64aを有する上流側端部64から成長部3bに至るように配置されている。ただし、III族ライン62は、後述する収容部としてのタンク7を経由して成長部3bに至るように配置されている。上流側端部64は、SUS等の金属から形成されている。ガス導入管60は、例えば透光性を有する高純度の石英から形成されている。石英製のガス導入管60を上流側フランジ8Aに直接取り付けることはできないため、ガス導入管60の上流側の端部の外側にSUS製の配管を接続した上流側端部64を上流側フランジ8Aに取り付けている。
【0029】
V族ライン61からは、窒素原料としてのアンモニア(NH3)とともに、キャリアガスとして水素、窒素あるいはこれらの混合ガスが供給される。
【0030】
III族ライン62からは、塩化水素(HCl)とともに、キャリアガスとして水素、窒素あるいはこれらの混合ガスが塩化物ガスとして供給される。III族ライン62の途中には、金属ガリウム(Ga)融液7aを収容した収容部としてのタンク7が設置されており、ここでHClガスと金属Gaが反応して金属塩化物ガスとしてのGaClガスが生成され、GaClガスが成長部3bへと送り出される。
【0031】
ドーピングライン63からは、ドーピングを行わない場合など、例えばアンドープGaN層13(un−GaN層)成長時には水素/窒素の混合ガスが導入され、n型GaN層(SiドープGaN層14)成長時にはSi原料としてのジクロロシラン(水素希釈、100ppm)とHClガスと水素、窒素が導入される。また、ドーピングライン63からは、成長後にHVPE装置1内に付着したGaN系の付着物を除去するベーキング時には、塩酸ガスと水素、窒素が導入される。
【0032】
成長部3bには、3〜100r/min程度の回転数で回転するトレー5が設置され、そのガス供給ライン6のガス出口60aと対向した面(設置面)5a上にサファイア基板11が設置される。サファイア基板11以降に流れた原料ガスは、最下流部から排気管2aを介して排気される。本実施の形態及び実施例での成長は全て常圧の1.013×105Pa(1気圧)にて実施した。
【0033】
タンク7、及びトレー5の回転軸5bは、高純度石英製であり、トレー5は、SiCコートのカーボン製である。
【0034】
また、このHVPE装置1は、ガス供給ライン6の反応炉2への入口付近の温度上昇を抑えるため、つまり上流側端部64を成長部3bから熱的に遮断するため、反応炉2内の最も高温になる成長部3bと原料部3aとの間に第1の熱遮蔽板9Aを配置し、上流側フランジ8Aと第1の熱遮蔽板9Aとの間に第2の熱遮蔽板9Bを配置している。成長部3bとガス供給ライン6のガス導入口64aとの間に第1及び第2の熱遮蔽板9A、9Bを配置することで、成長部3bからの輻射熱を熱遮蔽板9A、9Bによって遮蔽し、ガス供給ライン6のガス導入口64a(上流側端部64)付近の温度上昇を抑制することができる。
【0035】
また、ガス供給ライン6は、第1及び第2の熱遮蔽板9A、9Bを通過する位置は、反応炉2の径方向のほぼ中心付近としているが、上流側フランジ8Aを通過する位置は、反応炉2の径方向の中心から偏心するように途中で屈曲(湾曲)させている。
【0036】
すなわち、ガス供給ライン6は、直管構造ではなく屈曲しており、ガス導入口64aと高温成長領域の成長部3bの間に第1及び第2の熱遮蔽板9A、9Bが配置されている。ガス供給ライン6は、成長部3bから第2の熱遮蔽板9Bまでは直管部であり、第2の熱遮蔽板9Bを過ぎた辺り(熱遮蔽板9Bと上流側端部の間)から屈曲している。
【0037】
第1及び第2の熱遮蔽板9A、9Bは、例えばカーボン又は石英から形成されているが、ガス導入口64a側(9B)は石英製、成長部3b側(9A)はがカーボン製が好ましい。また、熱遮蔽板9A、9Bは、数が多ければ多いほど熱遮蔽効果があるが、あまり多過ぎると熱遮蔽効果は薄れる。このため、熱遮蔽板9の数は2〜5枚程度が好ましい。
【0038】
ガス導入管60の偏芯量(屈曲させた管の中心間距離(直管部の中心と屈曲部の中心の間の距離))は、大きければ大きいほど効果がある。本実施の形態では、ガス導入管60は、例えば、10〜20mm程度偏芯(屈曲)させている。ガス導入管60の直径以上の長さで偏芯させることが好ましい。例えばガス導入管60の直径が10mmであれば、最低でも偏芯量10mmで偏芯させ、ガス導入管60の直径が20mmであれば、最低でも偏芯量20mmで偏芯させることが好ましい。
【0039】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、ガス導入管60のガス導入口64a(上流側端部64)付近の温度上昇が抑制されるので、SUS製の上流側端部64から不純物がガス導入管60内に入り込むのを防ぐことができる。
【0040】
[第2の実施の形態]
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る窒化物半導体テンプレートの断面図である。
【0041】
この窒化物半導体テンプレート10は、図1に示すHVPE装置1を用いて製作したものであり、サファイア基板11を有し、このサファイア基板11上にAlNバッファ層12を形成し、AlNバッファ層12上に第1層としてアンドープGaN層13を形成し、アンドープGaN層13上に第2層としてSiドープGaN層14を形成したものである。アンドープGaN層13及びSiドープGaN層14は、GaNテンプレート層(テンプレート部分)の一例である。
【0042】
窒化物半導体テンプレート10は、アンドープGaN層のみであると結晶性は良くなる。しかし窒化物半導体テンプレート10は、電流が流れる部分であるので、当然Siなどn型不純物を添加する必要がある。このため窒化物半導体テンプレート10のSi濃度は、5×1018〜5×1019cm-3が好ましい。本実施の形態では、Si濃度を1×109cm-3とした。すなわち本実施の形態は、Si濃度を低くして、結晶性を向上させたものではなく、Si濃度を19乗台添加しても、意図しない不純物の混入を抑制してX線回折(XRD)の(0004)面の半値幅(FWHM)を狭くし、結晶性が良好な窒化物半導体テンプレートを得るようにしたものである。
【0043】
(第2の実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、意図しない不純物の混入を抑制できる上記金属塩化物ガス発生装置の開発により、高効率の半導体発光素子に好適に用いることができる窒化物半導体テンプレートを提供することができる。また、窒化物半導体をHVPE法で形成することにより、成長時間を格段に短縮することに成功している。このため低コストで高性能の発光素子用テンプレートを提供することができる。つまりこの窒化物半導体テンプレートは、高輝度の半導体発光素子に有用なテンプレートである。
【0044】
次に、本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
まず、本発明の実施例1について説明する。実施例1においては、図1に示すような構成のHVPE装置1を用いて図2に示す窒化物半導体テンプレートを作製した。実施例1では、熱遮蔽板は、ガス導入口64a側に1枚目の石英製の第2の熱遮蔽板9Bを配置し、成長部3b側に2枚目のカーボン製の第1の熱遮蔽板9Aを配置した。
【0046】
サファイア基板11は、厚さが900μm、直径が100mm(4インチ)のものを用いた。まず、サファイア基板11上にAlNバッファ層12を約20nm成膜し、AlNバッファ層12上にアンドープGaN層13を約6μm成長し、アンドープGaN層13上にSiドープGaN層14を約2μm成長した。
【0047】
HVPE成長は、以下のように実施した。サファイア基板11をHVPE装置1のトレー5にセットした後、純窒素を流し、反応炉2内の大気を追い出す。次に、水素3slmと窒素7slmの混合ガス中で基板温度を1100℃として10分間保持した。その後、III族ライン62からトリメチルアルミニウム(TMA)とキャリアガスとして水素、窒素を流し、V族ライン61からNH3、水素を流してAlNバッファ層12を成長した。更にアンドープGaN層13を60μm/hrの成長速度で成長した。この際に流すガスとしては、III族ライン62からHClを50sccm、水素を2slm、窒素を1slm、V族ライン61からNH3を2slmと水素を1slmとした。成長時間は、6min間である。
【0048】
第1層のアンドープGaN層13の成長後、基本の成長条件は第1層と同じで、ドーピングライン63からSi原料のジクロロシランを2min間導入して第2の層のSiドープGaN層14を成長した。その後NH3を2slmと窒素を8slm流しつつ、基板温度を室温付近まで冷却した。その後、数10分間窒素パージを行い、反応炉2内を窒素雰囲気としてから、窒化物半導体テンプレート10を取り出した。
【0049】
上記のように製作された実施例1の窒化物半導体テンプレート10をX線回折(XRD)の(0004)面の半値幅(FWHM)は、237.8秒が得られた。また不純物を分析するため、SIMS分析を行った。SIMS分析を行った元素は、SUS部品起因による不純物として考えられる、Fe,Cr,Niの3種類とした。
【0050】
図3は、FeのSIMS分析結果を示す。従来との比較のため、図3には比較例1の結果も示す。実施例1のアンドープGaN層(un−GaN)13及びSiドープGaN層(Si−GaN)14のFe濃度は、約2×1015となり、後述する比較例1の2.5〜8.0×1017に比べて約2桁低くなったことが確認された。
【0051】
図4は、CrのSIMS分析結果を示す。従来との比較のため、図4には比較例1の結果も示す。実施例1のアンドープGaN層(un−GaN)13及びSiドープGaN層(Si−GaN)14のCr濃度は、1×1014程度(2×1014検出下限)となり、比較例1の0.2〜2×1015に比べて約1桁程度に低くなったことが確認された。
【0052】
図5は、NiのSIMS分析結果を示す。従来との比較のため、図5には比較例1の結果も示す。比較例1ではSIMS分析で検出可能な濃度であったものが、実施例1のアンドープGaN層(un−GaN)13及びSiドープGaN層(Si−GaN)14のNi濃度は、SIMS分析の検出下限(4.0×1015cm―3)となった。
【実施例2】
【0053】
本発明の実施例2について説明する。実施例2においては、図1に示すような構成のHVPE装置1を用いて図2に示す窒化物発光素子用テンプレートを作製した。実施例2では、アンドープGaN層13及びSiドープGaN層14を成長させる際のIII族ラインガス流量をHCl50sccm、水素2.5slm、窒素0.5slmとした以外は実施例1と同様の成長条件で窒化物半導体テンプレート10を製作した。この窒化物半導体テンプレート10をX線回折(XRD)による(0004)面の半値幅(FWHM)は、203.8秒であった。アンドープGaN層13、SiドープGaN層14の不純物の濃度は、Fe濃度7.0×1014〜9.0×1015cm-3程度、Cr濃度は、6.0×1013〜8.0×1014cm-3程度、Ni濃度についても実施例1と同様に比較例1に比べ低濃度に抑えられており、(0004)面の半値幅が狭くなったことが分かる。
【0054】
以上のようにX線回折(XRD)の(0004)面の半値幅(FWHM)が低くなり、結晶性が良くなったことが分かり、その原因が不純物混入の抑制に成功したことであることが確認された。また、HVPE装置1により成長したアンドープGaN層13及びSiドープGaN層14には、Clが含まれていることを確認した。
【0055】
この結果より、窒化物半導体テンプレート10が、不純物の低減によって良質になったことが確認できた。本結果の効果を更に確認するため、実施例1、2で製作した窒化物半導体テンプレート10上に、MOVPE法にて発光素子用のエピタキシャル成長を行い、半導体発光素子(図7参照)まで製作して効果の確認を行った。
【0056】
(半導体発光素子の製造方法)
次に、半導体発光素子の製作方法について図面を参照して説明する。
【0057】
図6は、本発明の実施例に係る半導体発光素子用エピタキシャルウエハの断面図、図7は、本発明の実施例に係る半導体発光素子の断面図である。
【0058】
具体的には図2に示す窒化物半導体テンプレート10上にn型GaN層21を成長し、n型GaN層21上にInGaN/GaN多重量子井戸層22を6ペア成長し、InGaN/GaN多重量子井戸層22上にp型AlGaN層23及びp型GaNコンタクト層24を成長し、上記の積層構造成長後に、反応炉2の温度を室温付近に下げ、図6に示す半導体発光素子用エピタキシャルウエハ20をMOVPE装置より取り出した。
【0059】
その後、得られた半導体発光素子用エピタキシャルウエハ20の表面をRIE(Reactive Ion Etching)により部分的に除去し、窒化物半導体テンプレート10のn型GaN層の一部を露出させてTi/Al電極31を形成した。さらにp型GaNコンタクト層24上にNi/Au半透明電極32および電極パッド33を形成して、図7に示す半導体発光素子としての青色LED素子30を作製した。
【0060】
半導体発光素子(青色LED素子)30の発光特性を通電電流20mAにて評価した所、発光ピーク波長は約450nmであり、順方向電圧3.25V、発光出力15mWを達成した。また、半導体発光素子(青色LED素子)30の信頼性試験を、室温、50mA通電の条件で1000hrの通電試験を実施した。その結果、相対出力は98%であり、十分に良い信頼性特性を有していることも確認された。ただし、相対出力=(168時間通電後の発光出力/初期発光出力)×100である。
【0061】
(比較例1)
図8は、比較例1に係るHVPE装置100を示す。比較例1として、図8に示すような構成のHVPE装置100を用いた。
【0062】
比較例1のHVPE装置1は、図1に示すHVPE装置1とは、ガス供給ライン6は、直線状になっており、熱遮蔽板9A、9Bを設けていない点が相違し、他は図1に示すHVPE装置1と同様に構成されている。
【0063】
比較例1で製作した窒化物半導体テンプレートの構造は、実施例で示した図1と同じであり、成長条件等も同じである。また比較例1で製作した半導体発光素子用エピタキシャルウエハ20(図6参照)及び半導体発光素子(青色LED素子)30(図7参照)の構造及び製作、成長条件も実施例1と同じである。つまりHVPE装置の構成以外は、全て実施例と同じである。
【0064】
上記のように製作された窒化物半導体テンプレート10をX線回折(XRD)による(0004)面の半値幅(FWHM)は、450.1秒であった。つまり実施例1は、比較例1に比べて約半減したことが分かる。不純物濃度に関しては、実施例1で既に示しているので省略する(図3から図5参照)。
【0065】
半導体発光素子(青色LED素子)30の発光特性を通電電流20mAにて評価した所、発光ピーク波長は約452nmであり、順方向電圧は3.21V、発光出力は10mWであった。つまりFe,Cr,Niなどの不純物の混入によって、結晶欠陥が多くなり、その結果として半値幅も広い。このため内部量子効率が悪化して、発光出力が低くかったことが分かる。言い換えれば実施例1によって、不純物の混入を抑制したことで、内部量子効率がアップして発光出力が高まったことが分かる。
【0066】
また、比較例1についても半導体発光素子(青色LED素子)30の信頼性試験を、室温、50mA通電の条件で1000hrの通電試験を実施した。その結果、相対出力は83%であり、信頼性があまり良くないことが確認された。結晶性が悪いため、信頼性が良くないのは当然の結果である。ただし、相対出力=(168時間通電後の発光出力/初期発光出力)×100である。
【0067】
(比較例2)
比較例2として、図8に示すような構成のHVPE装置1を用いた。比較例2で製作した窒化物半導体テンプレート10の構造、また比較例2で製作した半導体発光素子用エピタキシャルウエハ20(図6参照)及び半導体発光素子(青色LED素子)30(図7参照)の構造及び製作、成長条件も実施例1と同じである。
【0068】
しかし、意図しない不純物の混入を防止するため、成長温度を900℃にした。つまり成長部の温度を900℃とした以外は、全て比較例1と同じである。
【0069】
上記のように製作された窒化物半導体テンプレート10をX線回折(XRD)の(0004)面の半値幅(FWHM)は、432.5秒であった。不純物濃度は、図示しないが実施例1より若干多い程度であった。つまり成長温度を低くしたことで意図しない不純物を低下できたが、(0004)面の半値幅(FWHM)が広くなってしまった。
【0070】
半導体発光素子(青色LED素子)30の発光特性を通電電流20mAにて評価した所、発光ピーク波長は約451nmであり、順方向電圧は3.22V、発光出力は10mWであった。つまり成長温度を低くしてFe,Cr,Niなどの意図しない不純物の混入を抑制した場合は、結晶欠陥が多くなり、その結果として半値幅が広くなる。このため内部量子効率が悪化して、発光出力が低くかったことが分かる。
【0071】
また、比較例2についても半導体発光素子(青色LED素子)30の信頼性試験を、室温、50mA通電の条件で1000hrの通電試験を実施した。その結果、相対出力は84%であり、信頼性があまり良くないことが確認された。結晶性が悪いため、信頼性が良くないのは当然の結果である。ただし、相対出力=(168時間通電後の発光出力/初期発光出力)×100である。
【0072】
(変形例1)
本実施の形態は、平坦なサファイア基板を用いたが、サファイア基板に凹凸を形成した所謂PSS基板(Patterned Sapphire Substrate)を用いても同様の効果が得られる。
【0073】
(変形例2)
本発明は、成長速度として60μm/hrであるが、成長速度は300μm/hr程度まで上げても、適用可能である。
【0074】
(変形例3)
本発明は、基板上に設けるGaN系膜に関するものであるため、バッファ層がAlNではなくても本発明の意図する効果は得られる。
【0075】
(変形例4)
図9は、本発明の変形例4に係るショットキーバリアダイオードを示す断面図である。ショットキーバリアダイオード40は、サファイア基板41を有し、このサファイア基板41上にn型GaN層43を3.5〜8μm成長し、n型GaN層43上にオーミック電極45及びショットキー電極46を形成したものである。
【0076】
n型GaN層43は、例えばSiをドープしたものであり、キャリア濃度は、4×1017cm-3である。
【0077】
オーミック電極45は、n型GaN層43上に、例えば厚さ20nmのTi層、厚さ200nmのAl層をこの順で形成したTi/Alからなる2層構造となっている。
【0078】
ショットキー電極46は、n型GaN層43上に、例えば厚さ50nmのNi層、厚さ500nmのAu層をこの順で形成したNi/Auからなる2層構造となっている。
【0079】
なお、本発明は、上記実施の形態、上記実施例、上記変形例に限定されず、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々に変形実施が可能である。例えば、上記実施の形態及び上記実施例では、金属塩化物ガス発生装置をHVPE法に適用した場合について説明したが、他の成長法に適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1、100…HVPE装置、10…窒化物半導体テンプレート、2…反応炉、2a…排気管、3a…原料部、3b…成長部、4a…原料部ヒータ、4b…成長部ヒータ、5…トレー、5b…回転軸、6…ガス供給ライン、7…タンク、7a…Ga融液、8A…上流側フランジ、8B…下流側フランジ、9…熱遮蔽板、9A…第1の熱遮蔽板、9B…第2の熱遮蔽板、11…サファイア基板、12…AlNバッファ層、13…アンドープGaN層、14…SiドープGaN層、20…半導体発光素子用エピタキシャルウエハ、21…n型GaN層、22…InGaN/GaN多重量子井戸層、23…p型AlGaN層、24…p型GaNコンタクト層、30…半導体発光素子(青色LED素子)、31…Ti/Al電極、32…Ni/Au半透明電極、33…電極パッド、40…ショットキーバリアダイオード、41…サファイア基板、43…n型GaN層、45…オーミック電極、46…ショットキー電極、60…ガス導入管、60a…ガス出口、61…V族ライン、62…III族ライン、63…ドーピングライン、64…上流側端部、64a…ガス導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を収容する収容部を上流側に有し、成長用の基板が配置される成長部を下流側に有する筒状の反応炉と、
ガス導入口を有する上流側端部から前記収容部を経由して前記成長部に至るように配置され、前記上流側端部からガスを導入して前記収容部に供給し、前記ガスと前記収容部内の前記金属とが反応して生成された金属塩化物ガスを前記成長部に供給する透光性のガス導入管と、
前記反応炉内に配置され、前記ガス導入管の前記上流側端部を前記成長部から熱的に遮断する熱遮蔽板とを備え、
前記ガス導入管は、前記上流側端部と前記熱遮蔽板との間で屈曲された構造を有する金属塩化物ガス発生装置。
【請求項2】
前記ガス導入管は、前記ガス導入口から塩化物ガスを導入する請求項1に記載の金属塩化物ガス発生装置。
【請求項3】
前記熱遮蔽板は、カーボン又は石英から形成された請求項1又は2に記載の金属塩化物ガス発生装置。
【請求項4】
前記上流側端部は、金属から形成された請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属塩化物ガス発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属塩化物ガス発生装置を備えたハイドライド気相成長装置。
【請求項6】
前記金属塩化物ガス発生装置が有する前記ガス導入管は、石英から形成された請求項5に記載のハイドライド気相成長装置。
【請求項7】
基板と、塩素を含む窒化物半導体層を有する窒化物半導体テンプレートであって、
前記塩素を含む窒化物半導体層は、鉄濃度が1×1017cm-3以上含まない窒化物半導体テンプレート。
【請求項8】
X線回折(XRD)の(0004)面の半値幅(FWHM)が200秒以上300秒以下である請求項7に記載の窒化物半導体テンプレート。
【請求項9】
Si濃度が5×1018cm-3以上5×1019cm-3以下の範囲でSiがドープされたSiドープGaN層を備えた請求項7又は8に記載の窒化物半導体テンプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58741(P2013−58741A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174592(P2012−174592)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】