説明

金属多孔体の製造方法

【課題】 少ない犠牲テンプレートの量で簡便に金属多孔性材料を製造でき、且つ得られる金属多孔体の形状やポーラスの大きさを容易に制御可能な金属多孔性材料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 下記工程を有する金属多孔体の製造方法。
(I)(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加えることにより前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程、
(II)前記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液とを混合して、金属イオンを自発的に還元させるか又は還元剤により還元させて、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程、
(III)前記複合体を水溶性有機溶剤で洗浄し、焼結する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーのヒドロゲルをテンプレートとして用いる金属多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属又は貴金属酸化物多孔性材料などの金属多孔性材料は、触媒、電気化学、バイオフィルター、熱散逸などの分野で広く利用されている。
【0003】
従来、これら金属多孔性材料は、金属イオンを多孔性の不溶物、例えば、アルミナ、軽石中に含浸させた後、それを熱還元しての製造が成されていた。
【0004】
また、最近では、貴金属ナノ粒子を有機系テンプレート、例えば、澱粉、合成高分子ゲル、樹脂、卵シェル膜、セルロースアセテート膜、木綿セルロース、あるいはバクテリア中に分散し、その複合体を熱で焼結することによる金属多孔性材料の製造方法(特許文献1〜2、非特許文献1〜4)が関心を集めている。
【0005】
しかし、上記した貴金属イオンを多孔性のアルミナまたは軽石中に含浸させる金属多孔性材料の製造法、及び有機系テンプレートに金属ナノ粒子を複合させる金属多孔性材料の製造法は、その工程が煩雑であり、いずれの方法においても多くの支持物を消費するので、環境有益性にも乏しい。
【0006】
金属多孔性材料の製造における有機系支持物は、焼結過程で犠牲される形式であるので、これは犠牲型テンプレートとして有用である。犠牲型テンプレート方式での金属多孔性材料の製造法として、金属イオンを前駆体として用い、テンプレート中に金属イオン取り込ませると同時にそれをその場でナノ粒子化させ、そこから得られた複合体を焼結処理する方法が開示されている(非特許文献5)。それによれば、例えば、デキストリンをテンプレートに用い、その溶液に金属イオンを分散させた後、そこから得られるのり状ものを高温焼結することで、金属イオンを金属多孔性材料へ変換することができる。
【0007】
しかし、この方法では、一定量の金属イオンを処理するのに、多くの犠牲型テンプレートを燃やさなければならない欠点がある。したがって、該方法においても環境有益性に乏しいという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−64404号公報
【特許文献2】特開2003−193110号公報
【特許文献3】特開2004−34414号公報
【非特許文献1】D.G.Shchukin, et al.J Phys Chem B,(2003),107,p952−957
【非特許文献2】M.Breulmann et al. Adv Mater,(2000),12,p502−507
【非特許文献3】R.A.Caruso et al. Adv Mater,(2000),12,p1921−1923
【非特許文献4】D.G.Shchukin et al.Adv Funct Mater,(2003)13,p789−794
【非特許文献5】D.Walsh et al.Nature Mater,(2003),2,p386−390
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、少ない犠牲テンプレートの量で簡便に金属多孔性材料を製造する方法を提供することにあり、さらには、少ない犠牲テンプレートの量で簡便に金属多孔性材料を製造でき、且つ得られる金属多孔体の形状やポーラスの大きさを容易に制御可能な金属多孔性材料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、金属多孔体を得るための犠牲テンプレートとして、金属イオンと強い配位結合を形成する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーのヒドロゲルを使用する。直鎖状ポリエチレンイミンは水中可溶であるが、室温では繊維状結晶を形成し、それらの繊維の三次元空間での配置により、少量のポリマー量でも物理的なヒドロゲルを与えることが可能である。
【0011】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーからなるヒドロゲル中に、金属イオン水溶液を混合させると、金属イオンは該親水性ポリマー中のポリエチレンイミン骨格に配位されるが、全体のゲル状態は維持される。この際、金属イオンは該ポリエチレンイミン骨格により自発還元反応を引き起こし、あるいは必要に応じて還元剤を加えることにより、金属イオンが金属ナノ粒子に変換され、該親水性ポリマーと金属との複合体が得られる。
【0012】
これで得られる複合体を焼結することにより、上記親水性ポリマーが焼却されると同時に、その中に分散していた金属ナノ粒子間での溶融が進み、結果的には多孔性金属材料が与えられる。その過程において、ヒドロゲル中のポリマー濃度とその中に含ませた金属イオンの濃度の比を変えることで、得られる金属多孔体の形状、ポーラスの大きさなどを変えることも可能である。
【0013】
上記のように、金属イオンをソースとして、それを少量の親水性ポリマーで形成できるヒドロゲル中に効率的に配位固定させると同時に、金属イオンを金属へ還元し、ワンポットで親水性ポリマーと金属の複合体を作り上げることができ、この複合体を焼結することで容易に多孔性金属材料が与えられる。
【0014】
すなわち本発明は、下記工程を有する金属多孔体の製造方法により上記課題を解決するものである。
(I)(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加えることにより前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程、
(II)前記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液とを混合して、金属イオンを自発的に還元させるか又は還元剤により還元させて、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程、
(III)前記複合体を水溶性有機溶剤で洗浄し、焼結する工程。
【0015】
さらに本発明は、下記工程を有する金属多孔体の製造方法により上記課題を解決するものである。
(i)(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加えることにより前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程、
(ii)前記ヒドロゲルと金属ナノ粒子とを混合して、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程
(iii)前記複合体を水溶性有機溶剤で洗浄し、焼結する工程。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、少ない親水性ポリマー量でヒドロゲルを形成でき、且つ該親水性ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格が効率よく金属イオンを配位固定できることから、少ない犠牲テンプレート量で金属多孔体を得ることができる。また、該ヒドロゲルは直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーにより容易に与えられ、且つ容易に金属との複合体を形成できることから、簡便に金属多孔体を得ることができる。
【0017】
また、本発明の製造方法によれば、ヒドロゲル中のポリマー濃度とその中に含ませた金属イオンの濃度の比などを制御することにより、得られる金属多孔体の全体の形状や、多孔体内外の構造の制御などが可能である。
【0018】
さらに、本発明の金属多孔体の製造方法によれば、焼結温度制御により、ポーラス間の金属フレーム同士を融合させることができる。その結果、金属フレームに単結晶状のドメインの誘導およびナノポーラスの誘導が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[ヒドロゲルを得る工程(I)、(i)]
本発明の製造方法においては、工程(I)又は(i)として、金属多孔体の犠牲テンプレートとなる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程を有する。
【0020】
(直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー)
本発明でいう直鎖状ポリエチレンイミン骨格とは、二級アミンのエチレンイミン単位を主たる構造単位とするポリマー骨格をいう。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格は水中可溶であるが、室温では繊維状のポリマー結晶を形成し、それらの繊維が三次元空間で配置されることにより、少量のポリマー量で物理的なヒドロゲルを与える。該骨格中においては、エチレンイミン単位以外の構造単位が存在していてもよいが、ポリマー結晶を形成させるためには、ポリマー鎖の一定鎖長が連続的なエチレンイミン単位であることが好ましい。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格の長さは、該骨格を有するポリマーが結晶を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適にポリマー結晶を形成するためには、該骨格部分のエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上であることが好ましく、20〜10000の範囲であることが特に好ましい。
【0021】
本発明において使用するポリマーは、その構造中に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するものであればよく、その形状が線状、星状または櫛状であっても、水の存在下で結晶体を与えることができる。
【0022】
また、これら線状、星状または櫛状のポリマーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格のみからなるものであっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格からなるブロック(以下、ポリエチレンイミンブロックと略記する。)と他のポリマーブロックとのブロックコポリマーからなるものであってもよい。他のポリマーブロックとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどの水溶性のポリマーブロック、あるいは、ポリスチレン、ポリオキサゾリン類のポリフェニルオキサゾリン、ポリオクチルオキサゾリン、ポリドデシルオキサゾリン、ポリアクリレート類のポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどの疎水性のポリマーブロックを使用できる。これら他のポリマーブロックとのブロックコポリマーとすることで、ポリマー結晶の形状や特性を調整することができる。
【0023】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、ブロックコポリマーである場合の該ポリマー中における直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合は、ポリマー結晶を形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適にポリマー結晶を形成するためには、ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の割合が40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーは、その前駆体となるポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を有するポリマー(以下、前駆体ポリマーと略記する。)を、酸性条件下またはアルカリ条件下で加水分解することで容易に得ることができる。従って、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの線状、星状、または櫛状などの形状は、この前駆体ポリマーの形状を制御することで容易に設計することができる。また、重合度や末端構造も、前駆体ポリマーの重合度や末端機能団を制御することで容易に調整できる。さらに、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをブロックコポリマーとし、該前駆体中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を選択的に加水分解することで得ることができる。
【0025】
前駆体ポリマーは、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法、あるいは、マクロモノマー法などの合成方法により合成が可能であり、合成方法や開始剤を適宜選択することにより、線状、星状、あるいは櫛状などの各種形状の前駆体ポリマーを合成できる。
【0026】
ポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を形成するモノマーとしては、メチルオキサゾリン、エチルオキサゾリン、メチルビニルオキサゾリン、フェニルオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマーを使用できる。
【0027】
重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を使用できる。これら重合開始剤は、多くのアルコール類化合物の水酸基を他の官能基に変換させることで得られる。なかでも、官能基変換として、臭素化、ヨウ素化、トルエンスルホン酸化、およびトリフルオロメチルスルホン酸化されたものは重合開始効率が高いため好ましく、特に臭化アルキル、トルエンスルホン酸アルキルが好ましい。
【0028】
また、ポリ(エチレングリコール)の末端水酸基を臭素あるいはヨウ素に変換したもの、またはトルエンスルホニル基に変換したものを重合開始剤として使用することもできる。その場合、ポリ(エチレングリコール)の重合度は5〜100の範囲であることが好ましく、10〜50の範囲であれば特に好ましい。
【0029】
また、カチオン開環リビング重合開始能を有する官能基を有し、かつ光による発光機能、エネルギー移動機能、電子移動機能を有するポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、またはピレン骨格のいずれかの骨格を有する色素類は、得られるポリマーに特殊な機能を付与することができる。
【0030】
線状の前駆体ポリマーは、上記オキサゾリンモノマーを1価または2価の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。このような重合開始剤としては、例えば、塩化メチルベンゼン、臭化メチルベンゼン、ヨウ化メチルベンゼン、トルエンスルホン酸メチルベンゼン、トリフルオロメチルスルホン酸メチルベンゼン、臭化メタン、ヨウ化メタン、トルエンスルホン酸メタンまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、5−(4−ブロモメチルフェニル)−10,15,20−トリ(フェニル)ポルフィリン、またはブロモメチルピレンなどの1価のもの、ジブロモメチルベンゼン、ジヨウ化メチルベンゼン、ジブロモメチルビフェニレン、またはジブロモメチルアゾベンゼンなどの2価のものが挙げられる。また、ポリ(メチルオキサゾリン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、または、ポリ(メチルビニルオキサゾリン)などの工業的に使用されている線状のポリオキサゾリンを、そのまま前駆体ポリマーとして使用することもできる。
【0031】
星状の前駆体ポリマーは、上記したようなオキサゾリンモノマーを3価以上の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。3価以上の重合開始剤としては、例えば、トリブロモメチルベンゼン、などの3価のもの、テトラブロモメチルベンゼン、テトラ(4−クロロメチルフェニル)ポルフィリン、テトラブロモエトキシフタロシアニンなどの4価のもの、ヘキサブロモメチルベンゼン、テトラ(3,5−ジトシリルエチルオキシフェニル)ポルフィリンなどの5価以上のものが挙げられる。
【0032】
櫛状の前駆体ポリマーを得るためには、多価の重合開始基を有する線状のポリマーを用いて、該重合開始基からオキサゾリンモノマーを重合させることができるが、例えば、通常のエポキシ樹脂やポリビニルアルコールなどの側鎖に水酸基を有するポリマーの水酸基を、臭素やヨウ素等でハロゲン化するか、あるいはトルエンスルホニル基に変換させた後、該変換部分を重合開始基として用いることでも得ることができる。
【0033】
また、櫛状の前駆体ポリマーを得る方法として、ポリアミン型重合停止剤を用いることもできる。例えば、一価の重合開始剤を用い、オキサゾリンを重合させ、そのポリオキサゾリンの末端をポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリプロピルアミンなどのポリアミンのアミノ基に結合させることで、櫛状のポリオキサゾリンを得ることができる。
【0034】
上記により得られる前駆体ポリマーのポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格の加水分解は、酸性条件下またはアルカリ条件下のいずれの条件下でもよい。
酸性条件下での加水分解は、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌することにより、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。得られた塩酸塩を過剰のアンモニウム水で処理することで、塩基性のポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが望ましい。また、反応温度は80℃前後が望ましい。
【0035】
アルカリ条件下での加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、ポリオキサゾリンをポリエチレンイミンに変換させることができる。アルカリ条件下で反応させた後、反応液を透析膜にて洗浄することで、過剰な水酸化ナトリウムを除去し、ポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる水酸化ナトリウムの濃度は1〜10mol/Lの範囲であればよく、より効率的な反応を行うには3〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。また、反応温度は80℃前後が好ましい。
【0036】
酸性条件下またはアルカリ条件下での加水分解における、酸またはアルカリの使用量は、ポリマー中のオキサゾリン単位に対し、1〜10当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、3当量程度とすることが好ましい。
【0037】
上記加水分解により、前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格となり、該ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが得られる。
【0038】
また、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと他のポリマーブロックとのブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをポリオキサゾリン類からなる直鎖状のポリマーブロックと、他のポリマーブロックとからなるブロックコポリマーとし、該前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状のブロックを選択的に加水分解することで得ることができる。
【0039】
他のポリマーブロックが、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などの水溶性ポリマーブロックである場合には、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)が、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)やポリ(N−アセチルエチレンイミン)に比べて、有機溶媒への溶解性が高いことを利用してブロックコポリマーを形成することができる。即ち、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンを、前記した重合開始化合物の存在下でカチオン開環リビング重合した後、得られたリビングポリマーに、さらに2−エチル−2−オキサゾリンを重合させることによって、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる前駆体ポリマーを得る。該前駆体ポリマーを水に溶解させ、該水溶液にポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックを溶解する水とは非相溶の有機溶媒を混合して攪拌することによりエマルジョンを形成する。該エマルジョンの水相に、酸またはアルカリを添加することによりポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックを優先的に加水分解させることにより、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとを有するブロックコポリマーを形成できる。
【0040】
ここで使用する重合開始化合物の価数が1および2の場合には、直鎖状のブロックコポリマーとなり、それ以上の価数であれば星型のブロックコポリマーが得られる。また、前駆体ポリマーを多段のブロックコポリマーとすることで、得られるポリマーも多段のブロック構造とすることも可能である。
【0041】
(結晶性ポリマーフィラメントからのヒドロゲル化工程)
本発明の製造方法における工程(I)又は(I)は、上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーを使用して、(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加える方法により前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程である。
【0042】
上記(イ)の方法においては、まず直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーを一定量水系溶媒と混合し、該混合液を加熱することにより、該親水性ポリマーの透明な水系溶媒溶液を得る。次いで、加熱状態の該親水性ポリマーの水系溶媒溶液を室温に冷やすことによりヒドロゲルを容易に得ることができる。該ヒドロゲルは、剪断力等の外力により変形を生じるが、概ねの形状を保持できるアイスクリームのような状態を有し、多様な形状に変形させることが可能である。
【0043】
上記(イ)の方法における親水性ポリマーを一定量水系溶媒との混合液の加熱温度は100℃以下が好ましく、90〜95℃の範囲であることがより好ましい。また、親水性ポリマーと水系溶媒との混合液中の親水性ポリマー含有量は、ヒドロゲルが得られる範囲であれば特に限定されないが、0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、安定形状の結晶体からなるヒドロゲルを得るためには0.1〜10質量%の範囲がさらに好ましい。このように、本発明においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーを使用することにより、ごく少量のポリマー濃度でヒドロゲルを形成することができる。
【0044】
ここで使用する水系溶媒とは、水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶媒をいい、該ヒドロゲルの調製時に、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を使用することで、有機溶剤を含有したヒドロゲルが得られる。該親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、ピロリドンなどの水溶性有機溶剤を取りあげることができる。
【0045】
有機溶剤の含有量は、水の体積に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、1〜3倍の範囲であればより好ましい。
【0046】
また、上記(ロ)の方法は、直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーを有機溶媒に溶解し、該溶液に水を加える方法により前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る方法である。得られるヒドロゲルは上記(イ)と同様に水系溶媒を含有するヒドロゲルである。
【0047】
上記(ロ)の方法において加える水の量は、ヒドロゲルが得られる範囲であれば特に制限されないが、上記親水性ポリマーの溶解に使用した有機溶媒の0.2〜10倍量の範囲であることが好ましい。
【0048】
上記いずれの方法によっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーは、一次構造中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格が、水系溶媒中で結晶性を発現してナノメートルオーダーの繊維状ポリマー結晶(以下、該結晶を繊維状ナノ結晶と略記する。)を形成し、該繊維状ナノ結晶表面に存在するフリーなエチレンイミン鎖により、繊維状ナノ結晶同士が水素結合による物理的な結合で繋がれて空間に配置され、各種形状の三次元形状に成長して結晶性ポリマーフィラメントを形成していると考えられる。該結晶性ポリマーフィラメントは、水の存在下での結晶性ポリマーフィラメント同士の物理的な結合により三次元網目構造を有するヒドロゲルを形成し、さらに結晶性ポリマーフィラメント同士を架橋剤で架橋することにより化学的な架橋結合を有する架橋ヒドロゲルを形成することもできる。これらは水の存在下で生じるため、結果的には該三次元網目構造中に水系溶媒を包含したヒドロゲルが与えられる。
【0049】
ここでいう三次元網目構造とは、通常の高分子ヒドロゲルと異なり、マイクロ、またはナノスケールの結晶同士が、その結晶表面に存在するフリーなエチレンイミン鎖の水素結合により、物理的に架橋化された網目構造をいう。
【0050】
従来広く使用されてきたポリエチレンイミンは、環状エチレンイミンの開環重合により得られる分岐状ポリマーであり、その一次構造には一級アミン、二級アミン、三級アミンが存在する。従って、分岐状ポリエチレンイミンは水溶性であるが、結晶性は持たないため、分岐状ポリエチレンイミンを用いてヒドロゲルを作るためには、架橋剤による共有結合により網目構造を与えなくてはならない。しかしながら本発明に使用するポリマーが骨格として有する直鎖状ポリエチレンイミンは、二級アミンだけで構成されており、該二級アミン型の直鎖状ポリエチレンイミンは水溶性でありながら、優れた結晶性を有する。
【0051】
このような、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は、そのポリマー骨格中のエチレンイミン単位に含まれる結晶水数により、ポリマー結晶構造が大きく異なることが知られている(Y.Chatani et al.、Macromolecules、1981年、第14巻、p.315−321)。無水のポリエチレンイミンは二重螺旋構造を特徴とする結晶構造を優先するが、モノマー単位に2分子の水が含まれると、ポリマーはzigzag構造を特徴とする結晶体に成長することが知られている。実際、水中から得られる直鎖状ポリエチレンイミンの結晶は一つのモノマー単位に2分子水を含む結晶であり、その結晶は室温状態では水中不溶である。
【0052】
本発明における直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーの結晶は、上記の場合と同様に直鎖状ポリエチレンイミン骨格の結晶発現により形成されるものであり、ポリマーが線状、星状、または櫛状などの形状であっても、一次構造に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーであれば、結晶性ポリマーフィラメントが得られる。
【0053】
本発明におけるポリマー結晶の存在はX線散乱により確認でき、広角X線回折計(WAXS)における2θ角度値で20°,27°,28°近傍の結晶性ヒドロゲル中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に由来するピーク値により確認される。
【0054】
また、本発明におけるポリマー結晶の示差走査熱量計(DSC)における融点は、上記親水性ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の一次構造にも依存するが、概ねその融点が45〜90℃で現れる。
【0055】
本発明における結晶性ポリマーフィラメントは、その結晶を構成するポリマー構造の幾何学的な形状や、分子量、一次構造中に導入できる非エチレンイミン部分、さらにはポリマー結晶の形成条件などの影響により各種形状を取り得ることができ、例えば繊維状、ブラシ状、星状などの形状を有する。このため、本発明の製造方法においては、該結晶性ポリマーフィラメントの三次元網目構造からなるヒドロゲルを犠牲テンプレートとして使用するため、得られる金属多孔体のポーラス構造を多様な構造に制御できる。
【0056】
上記結晶性ポリマーフィラメントの形状は、親水性ポリマーと水系溶媒との混合液を加熱することにより得られる親水性ポリマーの水系溶媒溶液の温度を、室温まで低下させる過程により調整することができる。親水性ポリマーの水系溶媒溶液の温度を低下させる過程は、得られるヒドロゲル中のポリマー結晶の形状に強く影響を与えるため、異なる温度低下過程によりヒドロゲル中のポリマーの結晶形態を変化させることができ、これにより上記結晶性ポリマーフィラメントの形状を変化させることができる。
【0057】
例えば、上記の親水性ポリマーの水系溶媒溶液の温度を、濃度を一定として多段階的に低下させた場合、ヒドロゲル中における結晶性ポリマーフィラメントの形態を、ファイバー状の形態とすることができる。これを急冷した後、室温に戻した場合には、花弁状の結晶性ポリマーフィラメント形態とすることができ。また、これをドライアイス上のアセトンで再度急冷して、室温に戻した場合、波状の結晶性ポリマーフィラメント形態とすることができる。このように、本発明のヒドロゲル中における結晶性ポリマーフィラメント形態を、各種形状に設定することができ、これをテンプレートとする金属多孔体を多様なポーラス構造に制御できる。
【0058】
また、上記結晶性ポリマーフィラメントの形状は、水系溶媒中の親水性有機溶媒の種類や濃度によっても変化させることができる。例えば、水中では繊維状の広がりを有する分岐状の結晶性ポリマーフィラメント形態であっても、一定量のエタノールが含まれた場合、繊維が収縮したような球状の結晶性ポリマーフィラメント形態を得ることができる。
【0059】
さらにヒドロゲル調製時に、他の水溶性ポリマーを加えることでも、結晶性ポリマーフィラメントの形態を変えることができる。また、ヒドロゲルの粘性を増大させ、ヒドロゲルの安定性を向上させることにも有効である。該水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンなどを取りあげることができる。
【0060】
水溶性ポリマーの含有量は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの質量に対し、0.1〜5倍の範囲であることが好ましく、0.5〜2倍の範囲であればより好ましい。
【0061】
また、上記方法で得られたヒドロゲルに架橋剤を加えることにより、ヒドロゲル中のポリマー結晶表面同士を化学結合でリンクさせた架橋ヒドロゲルを得ることができる。該架橋ヒドロゲルは、形状安定性が高いことから、金属多孔体のポーラス構造を安定に形成することができる。
【0062】
前記架橋剤としては、アミノ基と室温状態で反応できる2官能基以上を含む化合物を使用でき、アルデヒド類架橋剤、エポキシ類架橋剤、酸クロリド類、酸無水物、エステル類架橋剤などを用いることができる。アルデヒド類架橋剤としては、例えば、マロニルアルデヒド、スクシニルアルデヒド、グルタリルアルデヒド、アジホイルアルデヒド、フタロイルアルデヒド、イソフタロイルアルデヒド、テレフタロイルアルデヒドなどがあげられる。また、エポキシ類架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリシジルクロライド、グリシジルブロマイドなどがあげられる。酸クロリド類としては、例えば、マロニル酸クロリド、スクシニル酸クロリド、グルタリル酸クロリド、アジホイル酸クロリド、フタロイル酸クロリド、イソフタロイル酸クロリド、テレフタロイル酸クロリドなどがあげられる。また、酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、スクシニル酸無水物、グルタリル酸無水物などがあげられる。また、エステル類架橋剤としては、マロニル酸メチルエステル、スクシニル酸メチルエステル、グルタリル酸メチルエステル、フタロイル酸メチルエステル、ポリエチレングリコールカルボン酸メチルエステルなどがあげられる。
【0063】
架橋反応は、得られたヒドロゲルを架橋剤の溶液に浸す方法にでも、架橋剤溶液をヒドロゲル中に加える方法でも可能である。この際、架橋剤は系内での浸透圧変化と共に、ヒドロゲル内部へ浸透し、そこで結晶体同士を水素結合で繋いでエチレンイミンの窒素原子との化学反応を引き起こす。
【0064】
架橋反応は、ポリエチレンイミン結晶体表面のフリーなエチレンイミンとの反応により進行するが、その反応を結晶内部では起こらないようにするためには、ヒドロゲルを形成する結晶体の融点以下の温度で反応を行うことが望ましく、さらには架橋反応を室温で行うことが最も望ましい。
【0065】
架橋反応を室温で進行させる場合には、ヒドロゲルを架橋剤溶液と混合した状態で放置しておくことで、架橋ヒドロゲルを得ることができる。架橋反応させる時間は、数分から数日でよく、概ね一晩放置することで好適に架橋が進行する。
【0066】
架橋剤量はヒドロゲル形成に用いるポリエチレンイミン骨格を有するポリマー中のエチレンイミンユニットのモル数に対し、0.05〜20%であればよく、それが1〜10%であればさらに好適である。
【0067】
[親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程(II)、(ii)]
本発明の製造方法においては、工程(II)又は(ii)として、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程を有する。
【0068】
上記親水性ポリマーと金属との複合体は、(II)前記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液とを混合して、金属イオンを自発的に還元させるか又は還元剤により還元させて、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程、又は(ii)前記ヒドロゲルと金属ナノ粒子とを混合して、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程により得られる。
【0069】
上記(II)の工程においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーからなるヒドロゲル中と金属イオンの水系溶媒溶液を混合させることにより、ゲル状態は維持されたまま、金属イオンが該親水性ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に配位される。この際、金属イオンの該ポリエチレンイミン骨格による自発還元、又は還元剤による還元により、金属イオンが金属に変換され、該親水性ポリマーと金属との複合体が得られる。
【0070】
使用する金属イオンの水系溶媒溶液としては、水溶性の金属化合物を水系溶媒溶液に溶解したものを使用できる。該水溶性の金属化合物としては水溶性の遷移金属化合物を好ましく使用でき、遷移金属カチオンと酸根アニオンとの塩類のもの、または遷移金属が酸根のアニオン中に含まれるものなどを用いることができる。該金属イオンの水系溶媒溶液の濃度は、モル濃度で0.05〜20Mであることが好ましく、1〜5Mであることが好ましい。
【0071】
金属イオンの金属種としては、銅、銀、金、白金、パラジウム、マンガン、ニッケル、ロジウム、コバルト、ルテニウム、レニウム、モリブデン、錫、亜鉛、鉄、チタン、バナジウム、クロミウム、オセニウム、イリジウムなどを好ましく使用できる。
【0072】
金属イオンをヒドロゲル中に濃縮する際には、ゲル中のポリマー濃度が高いほど、また、該ポリマーに対し、金属イオンの混合比を高くするほど、濃縮される金属イオンの量は増大する。本発明によれば、ヒドロゲル中に含まれるポリエチレンイミン骨格のエチレンイミン単位のモル数に対し、1〜30倍量の金属イオンを濃縮させることができる。
【0073】
ヒドロゲルを金属イオン溶液に浸漬する場合には、その金属イオンの量はエチレンイミン単位に対し、できる限り過剰であることが望ましく、50倍程度であることが特に好適である。
【0074】
上記金属の中でも、特に、銀、金、白金、パラジウムの金属イオンはポリエチレンイミンに配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元され、非イオン性の金属ナノ粒子に変換されるため好ましい。加熱温度は100℃以下であればよく、60〜80℃であることが特に好ましい。従って、上記の金属イオンを還元するには、ヒドロゲルを金属イオン溶液と混合するだけで行うことができる。即ち、金属イオンをヒドロゲル中で濃縮し、それを還元剤溶液と混合するような工程を経ずに、複合体を得ることができる。
【0075】
また、上記金属を還元する際、ヒドロゲルを一種以上の金属イオンと混合し、異なる金属イオンを同時にそのヒドロゲル中に濃縮させた後、それらの異なるイオンを還元することにより、異なる金属が含まれた複合体を得ることができる。
【0076】
これら金属イオンのように自発的に還元しない金属、あるいは自発的な還元が不十分である金属を使用する場合には、還元剤により、前記ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に配位結合した遷移金属イオンを還元させることにより複合体を形成させることができる。また、上記の自発的に還元する金属イオンを使用する場合においても、必要に応じて他の還元剤を併用して還元させることもできる。
【0077】
該工程において使用できる還元剤としては、水素、水素化硼素ナトリウム、水素化硼素アンモニウム、アルデヒド、ヒドラジンなどが例として挙げられる。還元剤を用いて金属イオンを還元する際には、還元剤を水中または親水性溶剤中溶解させ、それをヒドロゲルと混合することが望ましい。
【0078】
上記の還元により、金属イオンはヒドロゲル中金属クラスタを経由してナノ粒子状またはナノワイヤ状の金属が得られ、該金属と上記親水性ポリマーとの複合体を与える。
【0079】
該金属の大きさは、還元反応の温度を適宜調節することにより調整でき、ナノワイヤ状のものであれば太さが2〜20nm程度の範囲、ナノ粒子状のものであれば、粒径が2〜20nm程度の範囲のものを容易に形成することができる。
【0080】
還元反応の時間は金属イオン種類により異なるが、概ね、24時間であれば十分である。室温条件ではできる限り、反応時間を長くし、加熱条件では基本的に1時間であれば十分であるが、金属イオン種類により、数時間にすることも好適である。
【0081】
本工程(II)において、上記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液とを混合する体積比としては、ヒドロゲルの体積1に対し、金属イオンの水系溶媒溶液を0.01〜5倍量の範囲とすることが好ましい。この際、ヒドロゲルのゲル安定性を高めるために、金属溶液の体積は小さい方が好ましく、また金属イオン溶液濃度が高いことが好ましい。
【0082】
本工程(II)において得られる親水性ポリマーと金属との複合体の状態(ゲル、形状、非流動性)安定性を高めることは、その後の焼結工程に非常に有益である。従って、架橋化ヒドロゲル、または他の水溶性ポリマーを含むヒドロゲルを用いることで、得られる複合体の状態安定性を高めることができる。
【0083】
本工程(II)によると、上記のように金属ナノ粒子を簡便に製造できることから、予め金属ナノ粒子を製造する必要がなく、金属ナノ粒子を別途使用する製法に比べて容易に金属多孔体を製造できる利点がある。
【0084】
また、本発明の製造方法においては、上記(ii)の工程のように金属ナノ粒子を使用してもよく、前記ヒドロゲルと金属ナノ粒子とを混合する工程によっても上記親水性ポリマーと金属との複合体を製造できる。
【0085】
金属ナノ粒子を使用する場合には、金属ナノ粒子の量はヒドロゲルのゲル安定性を維持する範囲なら特に限定する必要がないが、ヒドロゲルを構成するポリマー重量に対し、1〜50倍量であれば好ましく利用できる。
【0086】
使用する金属ナノ粒子の大きさは特に制限されないが、2〜50nmの範囲のものは、焼結時に溶融しやすく、ポーラス構造の形成が容易であるため好適に使用できる。
【0087】
上記工程(II)又は(ii)により得られる親水性ポリマーと金属との複合体中の金属は、酸化金属であってもよく、該酸化金属は空気酸化させることで得られる。該酸化工程は焼結工程により同時に行うことができる。
【0088】
[複合体の焼結工程(III)、(iii)]
【0089】
本発明の製造方法においては、(III)又は(iii)の工程として、上記工程(II)又は(ii)で得られた親水性ポリマーと金属との複合体を焼結する工程を有する。該工程(III)又は(iii)により、該複合体から、有機成分が除かれ、金属多孔体が得られる。
【0090】
本工程(III)又は(iii)の焼結工程においては、水を含む複合体を水溶性有機溶剤で洗浄してから用いることが望ましい。これにより、加熱過程での急激な水蒸気発生を押さえることができ、好適に多孔構造を形成できる。
【0091】
ここで使用する水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランなどを好適に用いることができる。
【0092】
焼結する方法に特に制限はないが、例えば、複合体を加熱炉にかけて室温から温度上昇させ、目的温度で一定時間処理する方法などが挙げられる。
【0093】
焼結温度は使用する金属種により適宜調整すればよく、概ね300〜1000℃の範囲で設定すればよく、500〜800℃範囲であれば、好適に各種金属の焼結が可能である。目的温度までの温度上昇速度は緩やかに上昇させることが好ましく、例えば1〜3時間かけて上昇させてもよい。
【0094】
焼結時間も使用する金属種により適宜調整すればよく、0.5〜10時間であれば充分焼結が可能であり、通常は、0.5〜3時間程度の範囲であれば好適に焼結できる。
【0095】
本発明の製造方法では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーのヒドロゲルをテンプレートとして使用することにより、少ない親水性ポリマー量でヒドロゲルを形成でき、且つ該親水性ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格が効率よく金属イオンを配位固定できることから、少ない犠牲テンプレート量で金属多孔体を得ることができる。また、該親水性ポリマーは多様なモルフォロジーの結晶性ポリマーフィラメント形態を容易に制御できるため、ポーラス構造を容易に制御することが可能である。
【0096】
さらに、本発明の金属多孔体の製造方法によれば、焼結温度制御により、ポーラス間の金属フレーム同士を融合させることができる。その結果、金属フレームに単結晶状のドメインの誘導およびナノポーラスの誘導が可能となる。
【0097】
本発明の製造方法により得られる金属多孔体は、マイクロメートルオーダーのポーラス構造を有することから、触媒、電気化学、バイオフィルター、熱散逸、導電体などに有用である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0099】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した金属多孔体をガラススライドに乗せ、それをキーエンス製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0100】
(合成例1)
<線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50000,平均重合度5000,Aldrich社製)3gを、5Mの塩酸水溶液12mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0101】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー結晶粉末を濾過し、その結晶粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は2.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5000と同様である。
【0102】
(製造例1)
<L−PEIヒドロゲルからの複合体の製造>
合成例1で得られたL−PEI粉末を一定量秤量し、それを一定量の蒸留水中に分散させ、その分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、L−PEI濃度が1%の完全透明な水溶液を得た。その水溶液を室温に放置し、自然に室温までに冷やし、不透明なL−PEIヒドロゲル(G1)(L−PEI濃度1%)を得た。得られたヒドロゲルは、剪断力を加えると変形を生じるが、概ねの形状を保持できるヒドロゲルであった。得られたヒドロゲル(G1)1gを、5mLの0.1M硝酸銀水溶液と混合し、その混合物を室温で72時間静置した。その混合物をアセトンで洗浄してL−PEI/銀の複合体(A1)を得た。
【0103】
(製造例2)
製造例1において使用したL−PEIヒドロゲル(G1)1gを、1mLの2M硝酸銀水溶液と混合した以外は製造例1と同様にして、L−PEI/銀の複合体(A2)を得た。
【0104】
(製造例3)
製造例1における水溶液のL−PEI濃度を5%にした以外は製造例1と同様にして、L−PEIヒドロゲル(G2)(L−PEI濃度5%)を得た。得られたヒドロゲル(G2)1gを、1mLの0.1M硝酸銀水溶液と混合し、その混合物を室温で72時間静置した。その混合物をアセトンで洗浄してL−PEI/銀の複合体(A3)を得た。
【0105】
(実施例1)
製造例1で得られた複合体(A1)を焼却炉にセットして、室温から温度上昇(15℃/min)させて500℃にて30分加熱し、銀の多孔体(S1)を得た。得られた銀の多孔体(S1)の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0106】
(実施例2)
製造例2で得られた複合体(A2)を焼却炉にセットして、室温から温度上昇(15℃/min)させて500℃にて30分加熱し、銀の多孔体(S2)を得た。得られた銀の多孔体(S2)の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0107】
(実施例3)
製造例3で得られた複合体(A3)を焼却炉にセットして、室温から温度上昇(15℃/min)させて500℃にて30分加熱し、銀の多孔体(S3)を得た。得られた銀の多孔体(S3)の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0108】
(製造例4)
<架橋化L−PEIヒドロゲルからの複合体の製造>
合成例1で得られたL−PEI粉末を一定量秤量し、それを一定量の蒸留水中に分散させ、その分散液を90℃に加熱し、L−PEI濃度が5%の完全透明な水溶液を得た。得られた水溶液を円筒状のアルミホイル容器にて室温まで冷やし、カラム状のヒドロゲルを得た。このカラム状ヒドロゲルを10mLのグルターアルデヒド水溶液(1%)中に含浸させ、3日間静置した。カラム状のヒドロゲルは固体状態となり、これを水で洗浄した。このカラム状固体をスライスして1cm×0.5cm×0.2cmの大きさの切片とし、これを5mL、1Mの硝酸銀水溶液中に3日間含浸した。切片を取り出し、アセトンで洗浄して、L−PEI/銀の複合体(A4)を得た。
【0109】
(製造例5)
製造例4における1M硝酸銀水溶液の代わりに2M硝酸銀水溶液を使用した以外は製造例4と同様にしてL−PEI/銀の複合体(A5)を得た。
【0110】
(実施例4)
製造例4で得られた複合体(A4)を焼却炉にセットして、室温から温度上昇(15℃/min)させて500℃にて30分加熱し、銀の多孔体(S4)を得た。得られた銀の多孔体(S4)の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0111】
(実施例5)
製造例5で得られた複合体(A5)を焼却炉にセットして、室温から温度上昇(15℃/min)させて500℃にて30分加熱し、銀の多孔体(S5)を得た。得られた銀の多孔体(S5)の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0112】
上記実施例のとおり、本発明の製造方法によれば、少ない犠牲テンプレートの量で簡便に金属多孔性材料を製造できる。また、製造条件を適宜変えることにより、得られる金属多孔体の形状やポーラスの大きさを容易に制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施例1で得られた銀多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた銀多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた銀多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例4で得られた銀多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例5で得られた銀多孔体の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を有する金属多孔体の製造方法。
(I)(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加えることにより前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程、
(II)前記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液とを混合して、金属イオンを自発的に還元させるか又は還元剤により還元させて、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程、
(III)前記複合体を水溶性有機溶剤で洗浄し、焼結する工程。
【請求項2】
前記金属イオンの金属種が遷移金属である請求項1に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンの金属種が、金、銀、白金のいずれかである請求項1に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記(I)の工程の後に、(I’)前記ヒドロゲルに架橋剤を加える工程を有する請求項1〜3のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法。

【請求項5】
前記(II)の工程の後に、(II’)前記ヒドロゲルと金属イオンの水系溶媒溶液との混合物に金属イオン還元剤を加える工程を有する請求項1〜4のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法。)
【請求項6】
前記(III)の工程において焼結する温度が300〜1000℃の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項7】
下記工程を有する金属多孔体の製造方法。
(i)(イ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと水系溶媒とを混合し、該混合液を加熱した後冷却するか、又は(ロ)直鎖状のポリエチレンイミン骨格を有する親水性ポリマーと有機溶媒を混合し、該混合液に水を加えることにより前記親水性ポリマーのヒドロゲルを得る工程、
(ii)前記ヒドロゲルと金属ナノ粒子とを混合して、前記親水性ポリマーと金属との複合体を得る工程
(iii)前記複合体を水溶性有機溶剤で洗浄し、焼結する工程。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子の金属種が、遷移金属である請求項7に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子の金属種が、金、銀、白金のいずれかである請求項7に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記(i)の工程の後に、(i’)前記ヒドロゲルに架橋剤を加える工程を有する請求項7〜9のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記(iii)の工程において焼結する温度が300〜1000℃の範囲である請求項7〜10のいずれかに記載の金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−22367(P2006−22367A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200467(P2004−200467)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】