説明

金属多孔体の製造方法

【課題】電極基板や触媒担持体、フィルター等に用いられる金属多孔体を少ない工程で低コストのもとに製造することができる金属多孔体の製造方法を提供すること。
【解決手段】相異なる2種類以上の金属元素から成る合金を不活性ガス雰囲気、あるいは真空下で加熱して、一方の元素を揮発させて除去する。例えば、ニッケル−亜鉛系合金を用いて、当該合金素材をアルゴンガス気流中において600〜900℃程度に加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電極基板や触媒担持体、フィルター、金属複合材等に好適に用いられる金属多孔体の製造方法、特に素材合金の表層側のみを多孔質化することも可能な金属多孔体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属多孔体は、従来から、耐熱性を必要とするフィルターや、電池用極板、さらには、触媒担持体や、金属複合材など、様々の用途に利用されており、このような金属多孔体の製造技術については、多くの文献に開示されている。
これら従来の金属多孔体の製造方法としては、Fe酸化物粉末と、金属Cr、Cr合金、Cr酸化物から選ばれる粉末の1種以上と、熱硬化性樹脂及び希釈剤を主成分とするスラリーを作製し、発泡構造の樹脂芯体にこのスラリーを塗着した後、乾燥し、その後非酸化性雰囲気中で焼成を行うようにする方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−064404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法においては、スラリーを作製して発泡体に塗布するという複数の工程を経ることになるため、生産手順が増えてしまい、製造時間の増加等を招き、製造コスト増大をもたらしてしまう。
さらに、余剰のスラリーを除去する工程をも必要とすることから、一層製造の困難性を増大させ、余剰スラリー発生による歩留まり低下をも招くという問題がある。
【0004】
本発明は、従来の金属多孔体の製造方法における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、簡便で、金属多孔体を安価に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、素材合金を真空、あるいは不活性ガス雰囲気中で加熱することによって、素材合金が多孔質化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、上記知見に基づくものであって、本発明の金属多孔体の製造方法は、相異なる少なくとも2種類の元素から成る合金、例えばニッケル(Ni)と亜鉛(Zn)の合金を不活性ガス雰囲気中、又は真空下で加熱することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2種以上の異なる元素から成る合金を不活性ガス雰囲気中又は真空下で加熱するようにしており、加熱によって一方の成分元素が揮発し、素材合金の表層側から順次除去されることから、素材合金の表層部には残りの成分元素を主体とする多孔質領域を形成することができ、真空あるいは不活性雰囲気下で加熱処理するだけの簡単な操作によって、合金素材から金属多孔体を安価に製造することができるという優れた効果がもたらされる。
また、処理時間を調整することによって、素材全体を多孔質化することも、表層部のみを多孔質化して素材合金の中心部を非孔質のままに残すこともでき、当該金属多孔体の種々の用途に対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の金属多孔体の製造方法について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り、質量百分率を表すものとする。
【0009】
本発明の金属多孔体の製造方法は、上記したように、2種以上の相異なる元素から成る合金を加熱して、素材合金の一方の成分元素を除去させるものであるが、加熱する雰囲気としては、アルゴン(Ar)、窒素などの不活性ガス雰囲気、又は真空中であることを要する。
【0010】
このような雰囲気中で加熱を実施することによって、酸化などの副反応を起こすことなく、素材合金の表層側から合金中の一方の元素を除去して多孔質領域を形成することができる。
なお、本発明において、「真空」とは、0.01〜1Torr程度の真空度であればよい。
【0011】
このようにして形成された多孔質領域は、μmオーダーのサイズでほぼ均一に細孔が形成されており、その細孔同士が互いに連結された状態となっていて、細孔表面積も大きいことから、例えば、この細孔内に白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などの触媒能を有する貴金属を含浸法など、公知の方法によって担持することができ、当該多孔体を触媒担体に適用することができる。
【0012】
また、素材合金を構成する元素は、融点もしくは蒸気圧、又はその両方が異なることが好ましい。
【0013】
すなわち、合金に含まれる元素のうち最も融点が低い元素に対して、加熱処理温度をその融点よりも高い温度とすることによって、最も融点が低い元素を簡便に表層側から除去して、多孔質領域を形成することができる。
同様に、合金中に含まれる元素のうち最も蒸気圧が高い元素に対して、雰囲気圧力を大気圧よりも低い圧力とすることにより、素材合金の表層側から最も蒸気圧が高い元素をより簡便に除去して多孔質領域を形成することができる。
【0014】
本発明の金属多孔体の素材として用いられる合金としては、とりわけニッケル(Ni)と亜鉛(Zn)の合金であることが好ましい。
【0015】
この場合には、亜鉛の融点よりも高い温度、例えば、700℃で真空加熱することによって、亜鉛が素材合金の表面から順次除去され、上記特徴を備え、実質的にニッケルから成る多孔質領域を形成することができる。
このときの加熱温度範囲としては、600〜900℃程度とすることが好ましく、加熱時間としては、素材合金のサイズや、多孔質化する領域の厚さにもよるが、概ね4〜6時間程度が適当である。
【0016】
このとき、多孔質領域が素材合金の表面から内部に形成されていく速度は、1時間あたり0.5mm程度である。
また、素材合金におけるニッケルと亜鉛の組成比についても、特に限定されないが、亜鉛含有量が多いほど、得られる金属多孔体の空隙率が大きくなり、見掛け密度の低い多孔体が製造されることになるため、形成される金属多孔体の用途に応じて含有させる亜鉛量を設定することによって、任意の空隙率を有する多孔質領域を形成させることができる。
【0017】
なお、本発明の製造方法において、加熱に用いる装置については、目的とする温度で加熱できるものでありさえすれば、公知の加熱手段、例えば市販の電気炉などを用いればよい。
また、素材合金の大きさについても、特に制限はなく、上記加熱手段への収納の可否によって、適宜設定することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0019】
(実施例1)
素材合金として、80%亜鉛−20%ニッケルの組成を有し、50mm×10mm×2mmの大きさの合金を使用した。
この素材合金をオーブン中に設置し、アルゴンガスを流しながら室温から加熱を開始し、900℃に昇温した。アルゴンガスの流量は1L/min.とし、2時間の処理によって、表層部に多孔質領域を備えた金属多孔体を得た。
【0020】
得られた金属多孔体の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察した。そのSEM像を図1に示す。
図1から明らかなように、試料(素材合金)の表層側に多孔質領域が形成されていることが確認された。
【0021】
また、得られた多孔体の元素組成分布を表すオージェ電子像を図2(a)及び(b)に示す。
表層部の多孔質領域は、内部と比較して亜鉛が減少し、相対的にニッケルが多い組成に成っていることが分かる。
【0022】
(実施例2)
アルゴンガスの流量を10L/min.としたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、表層部に多孔質領域を備えた本例の金属多孔体を得た。
【0023】
得られた金属多孔体の表面状態をSEM観察し、その結果を図3(a)及び(b)に示す。
図3(a)及び(b)から明らかなように、素材合金の表層側に多孔質領域が形成されていることが分かる。
【0024】
(実施例3)
加熱温度を800℃としたこと以外は、上記実施例2と同様の走査を繰り返し、表層部に多孔質領域を備えた本例の金属多孔体を得た。
【0025】
得られた金属多孔体の表面状態を同様にSEM観察し、その結果を図4に示す。
この図から明らかなように、素材合金の表層側に多孔質領域が形成されていることが確認された。
【0026】
また、図5は、得られた金属多孔体の多孔質領域における細孔径分布を測定した結果を示すものであって、この図から、1.5μm径の細孔による容積が最も大きく、次いで5μm径の細孔による容積が多いことが判った。
【0027】
(実施例4)
素材合金として、50%亜鉛−50%ニッケルの組成の合金を用いたことを除いて、上記実施例1と同様の走査を繰り返し、同様に表層部に多孔質領域を備えた本例の金属多孔体を得た。
【0028】
得られた金属多孔体の断面をSEM観察した結果を図6に示す。
この図から明らかなように、同様に素材合金の表層側に多孔質領域が形成されていることが確認された。
【0029】
(実施例5)
素材合金として、65%亜鉛−35%ニッケルの組成の合金を用いたことを除いて、上記実施例1と同様の走査を繰り返し、同様に表層部に多孔質領域を備えた本例の金属多孔体を得た。
【0030】
得られた金属多孔体の断面SEM像を図7に示す。
この図から明らかなように、素材合金の表層側に同様に多孔質領域が形成されていることが分かる。
【0031】
以上、実施例に基づいて説明したように、本発明の製造方法を用いることにより簡便に金属多孔体を形成できる。なお、上記実施例においては、多孔質領域を素材合金の表層部に形成し、芯部を中実状態のままにした例を示したが、処理時間を延長することによって、素材合金全体を多孔質化することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1によって得られた金属多孔体の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1によって得られた金属多孔体の断面におけるNi(a)及びZn(b)の元素分布を示すオージェ電子像(AES)である。
【図3】(a)本発明の実施例2によって得られた金属多孔体の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。(b)図3(a)の拡大電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例3によって得られた金属多孔体の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例3によって得られた金属多孔体の細孔径分布を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例4によって得られた金属多孔体の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例5によって得られた金属多孔体の断面を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相異なる少なくとも2種類の元素から成る合金を不活性ガス雰囲気中又は真空下で加熱することを特徴とする金属多孔体の製造方法。
【請求項2】
相異なる少なくとも2種類の元素の融点及び/又は蒸気圧が相違することを特徴とする請求項1に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項3】
上記合金がニッケルと亜鉛の合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−204806(P2007−204806A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24260(P2006−24260)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)