説明

金属多孔体及び製造方法

【課題】 特定の部分に応力の集中を起こさず、仮に金属層が薄い場合であっても、強度のある金属多孔体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、セル膜が除去されセル骨格のみを備える三次元網状構造のウレタンフォームに、チクソトロピー性を有するスラリーを含浸し、そのスラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させることにより、セル骨格表面上に骨格層を形成し、その骨格層を含む三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、骨格層表面上に金属層を形成し、ウレタンフォームを熱分解する、三次元網状構造の金属多孔体及びその製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ウレタンフォームなどの三次元網状構造体で通気性の高い樹脂骨格に、金属粉をバインダーで付着させてから不活性雰囲気中高温に昇温して、粉末冶金法に従い金属粉同士を焼結する方法、又は電気めっきにより樹脂骨格表面を析出させる方法により、三次元網状構造を有する金属多孔体を得る方法が知られている。これらは、ニッケル水素電池などの2次電池集電体、オイルミスト、煤煙、又は内燃機関からの排気ガス中の有害成分を捕捉する耐熱フィルターなどとして利用されている。
【0003】
これらに関連する先行技術として、特許文献1、2、3などがある。特許文献1では、金属粉末を泡だて前の発泡体に混合し、その発泡体を熱分解し金属粉末を焼結して電極を製造する方法が開示されている。
また、特許文献2では、電気めっきを利用するものの内、樹脂骨格に無電解メッキを施してから電気めっきを行うことが開示されている。
また、特許文献3では、電気めっきを利用するものの内、樹脂骨格に導電塗料を塗布してから電気めっきを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−067836号公報
【特許文献2】特開昭57−174484号公報
【特許文献3】特開昭61−223196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の先行技術では、電池電極として利用する場合、ウレタンフォームなどの樹脂成分の残留は充放電寿命の低下などの電気特性悪化につながることが見いだされ、また、耐熱フィルターとして利用する場合、多孔性骨格の内部に残されたウレタン等の樹脂成分は高温時に熱分解し、可燃性ガスを発生するため、火災などの災害につながる危険があることが見いだされた。そのため、三次元網状構造のテンプレートとなるウレタンフォーム等の連通多孔性樹脂は、熱分解して酸化し二酸化炭素等の気体成分として除去する必要がある。上記の先行技術では、ニッケル等の耐熱金属の表面の酸化物層を還元雰囲気下、高温で処理することで再生する方法が開示されている。
【0006】
めっき法では、導電塗料が十分電気抵抗が低く、適切に陽極が配置され、過度の電流密度にならない限り、樹脂多孔体骨格を被覆し樹脂を熱分解して得られる金属多孔体のめっき膜厚は、フォーム体シートの位置によらず、積算電流量に比例する。また、得られた金属多孔体の曲げ強度は、高い相関で付着金属量(多孔体の見かけ密度)に比例することが知られている。これは、空孔率が90%以上に及ぶ多孔体の骨格構造が同じでその周りに付着する金属層の膜厚のみが増加する構造のため、剛性や強度が膜厚に比例するためである。
しかしながら、付着金属量が少なく、金属層が薄い領域ではこの比例関係がなく、予想される値よりも低い強度しか示さず、金属層が厚い領域では曲がるだけで折れないのに対し、薄い領域では小さな曲げ変形量で割れてしまう、脆性的な破壊挙動を示す。発明者らが、破面を鋭意観察した結果、ウレタンフォーム多孔体の骨格断面が鋭角な頂点を持つ三角形に近い形状であるため、ウレタンフォーム多孔体が熱分解してできる金属多孔体の骨格断面の空洞が同じ鋭角な頂点を持つ三角形に近い形状となる結果、この頂点部分に応力が集中して、破壊が発生するとの知見を得た。この事情は、金属粉を骨格表面に付着させる焼結型の製造方法をとる金属多孔体においても同様である。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、特定の部分に応力の集中を起こさず、仮に金属層が薄い場合であっても、強度のある金属多孔体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、セル膜が除去されセル骨格のみを備える三次元網状構造のウレタンフォームに、チクソトロピー性を有するスラリーを含浸し、前記スラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させることにより、前記セル骨格表面上に骨格層を形成し、前記骨格層を含む三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、前記骨格層表面上に金属層を形成し、前記ウレタンフォームを熱分解する、三次元網状構造の金属多孔体の製造方法、及び、セル膜が除去されセル骨格のみを備える三次元網状構造のウレタンフォームに、チクソトロピー性を有するスラリーを含浸し、前記スラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させることにより、前記セル骨格表面上に骨格層を形成し、前記骨格層を含む三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、前記骨格層表面上に金属層を形成し、前記ウレタンフォームを熱分解する、ことにより得られる三次元網状構造の金属多孔体が提供される。
これによれば、特定の部分に応力の集中を起こさず、強度のある金属多孔体の製造方法であって、製造収率のよい製造方法を提供することができ、またこの製造方法により、かかる金属多孔体を提供できる。
【0009】
さらに、前記スラリーのチクソトロピック指数は、3以上30以下であることを特徴としてもよい。
これによれば、確実に特定の部分に応力の集中を起こさない金属多孔体の製造方法を提供できる。
【0010】
さらに、前記スラリーは、水膨潤性粘土鉱物を含むことによりチクソトロピー性を示すこと、前記スラリーは、アクリルエマルジョン及びヘキサメタリン酸を含み、前記アクリルエマルジョンの2倍の重量の黒鉛もしくはニッケル粉を含むことによりチクソトロピー性を示すこと、前記スラリーは、アクリルエマルジョン及び界面活性剤を含み、気液混合による機械発泡によりチクソトロピー性を示すこと、又は、前記スラリーは、ポリビニルアルコール、界面活性剤、及びシクロヘキサンによるオイルインウォータ型エマルジョンを含むことによりチクソトロピー性を示すこと、を特徴としてもよい。
これによれば、様々な方法によりチクソトロピー性を有するスラリー提供することができる。
【0011】
さらに、前記スラリーが導電性を有する場合には、前記めっきは電気めっきであり、前記スラリーが非導電性を有する場合には、前記めっきは、まず無電解めっきを行い、その後電気めっきを行うことを特徴としてもよい。
これによれば、スラリーの導電性の有無にかかわらず、強度のある金属多孔体の製造方法を提供することができる。
【0012】
別の観点によれば、上記課題を解決するために、骨格のみを備える三次元網状構造を有する金属多孔体であって、前記骨格は、中空部と、前記中空部の周囲に骨格層と、前記骨格層の周囲に金属層と、を備え、前記金属層の内面は、前記骨格の横断面視で略三角形であり、前記略三角形の頂点は曲率を有することを特徴とする金属多孔体が提供される。
この構成によれば、特定の部分に応力の集中を起こさず、強度のある金属多孔体を提供することができる。
【0013】
別の観点によれば、上記課題を解決するために、上記金属多孔体を使用したことを特徴とする電池用電極基板が提供される。
この構成によれば、強度が高く、製造費用も安価な多孔体を使用した電池用電極基板を提供することができる。
【0014】
別の観点によれば、上記課題を解決するために、上記金属多孔体を使用したことを特徴とする耐熱性フィルターが提供される。
この構成によれば、強度が高く、製造費用も安価な多孔体を使用した耐熱性フィルターを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、特定の部分に応力の集中を起こさず、仮に金属層が薄い場合であっても、強度のある金属多孔体及びその製造方法であって、製造収率のよい製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明に係る製造方法について説明する。
本発明に用いられるウレタンフォームにおいては、多孔体の目的や用途等に応じて、その密度やセル数は適宜選択される。また、その大きさや形状も、同様に適宜選択される。
【0017】
ウレタンフォームは、通常、多面体構造を備えるセルからなり、セル骨格とセル膜からなるが、本発明に用いられるウレタンフォームは、溶解処理等によりセル膜の除去(除膜処理)を行い、実質的に、三次元網状構造を有する骨格のみからなるものである。
【0018】
バインダーの溶液を準備し、以下に述べるように、選択的に導電性フィラーや他の添加物を混合し、撹拌し、チクソトロピー性を発現するスラリーを作成する。チクソトロピー性(揺変性)とは、掻き混ぜることにより粘度が低下し、放置することにより粘度が元に戻ろうとする性質を言う。スラリーにチクソトロピー性を発現させるためには、さまざまな方法が考えられる。例えば、単位水量に対して多めのフィラーなど配合したり、水膨潤性粘土鉱物を配合したり、気液混合により機械発泡したり、液液混合により行うことができる。
【0019】
従来の三次元網状構造を有する金属多孔体の骨格断面の空洞は、鋭角な頂点を持つ三角形に近い形状である骨格断面を有するウレタンフォーム多孔体の骨格が熱分解することにより形成される。これは、三次元網状構造を有するウレタンフォームに、従来の(チクソトロピー性のない)スラリーを含浸し、ウレタンフォームをロールなどで絞ることにより、ウレタンフォームに所定量のスラリーを付着させても、スラリーの粘度が低いと、特に、ウレタンフォーム多孔体の骨格のほぼ三角形の鋭角な頂点部分には、スラリーの付着量は少なく、骨格となる層の厚みがその部分だけ薄くなってしまう。この部分の存在が原因となって、小さな曲げ変形量で割れてしまうなどの脆性を有することとなっていた。一方、単にスラリーの粘度を高くすると、ウレタンフォーム多孔体全体に十分スラリーを含浸させることができず、ウレタンフォーム多孔体の骨格のほぼ三角形の鋭角な頂点部分だけでなく、他の骨格表面部分にもスラリーを行き渡らすことができない。
【0020】
そこで、チクソトロピー性を有するスラリーを使用すると、含浸する時には粘度を小さくしておくことにより、ウレタンフォーム多孔体全体に十分スラリーを含浸させることができる。さらに、含浸後、ウレタンフォーム多孔体の骨格にスラリーを付着させ、固定することによりスラリーの粘度が大きくなり、スラリーはウレタンフォーム多孔体の骨格表面上でゲル化する。それに伴い表面張力も大きくなるので、ウレタンフォーム多孔体の骨格のほぼ三角形の鋭角な頂点部分にも、スラリーが十分に付着し、骨格となる層の厚みが他の部分と変わらないものとなると共に、尖がった頂点部分が丸み(曲率)を持って形成される。この後工程において、めっきにより金属層を析出させるとその丸み(曲率)を持った頂点部分にも、他の部分と同様に金属層を形成できる。この結果、この頂点部分に応力が集中することがなく、そこから破壊が発生することを避けることができる。
【0021】
なお、上述の水膨潤性粘土鉱物とは、層状の結晶を持つ無機物であり、層間にナトリウム等のアルカリ金属イオンを有し、この層間に水が浸入すると容易に層間が離れ、厚さが非常に薄い物質を含むスラリーとなる。水膨潤性粘土鉱物は、このような微分散凝集構造により、チクソトロピー性を発現する。水膨潤性粘土鉱物とは、例えば、ベントナイト、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、スチブンサイト、ソーコナイト、及びノントロナイトなどのスメクタイト系粘土や、バーミキュライト、ハロイサイト、及び膨潤性マイカなどの天然粘土であるが、これに限定されない。
【0022】
また、選択的に添加される導電性フィラーは、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維(粉)、耐熱金属粉(ニッケル、クロム、ステンレス、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステン、モリブデンなど)、炭化チタン、炭化クロムなどの導電性金属炭化物、耐熱金属めっきガラス粒子などを用いることができるが、これに限定されない。
【0023】
導電性フィラーを添加した場合には、導電性のあるスラリーとなり、添加しない場合は、非導電性のあるスラリーとなる。スラリーの配合は、例えば、アクリルエマルジョンなどの粘結剤とヘキサメタリン酸などの分散剤を混合したものであるが、これに限定されず、非導電性のエマルジョンやヒドロゲルを与える水系配合物でもよいし、導電性のフィラーを含有する水系導電塗料でもよい。また、加熱によりウレタンフォームとともに熱分解し、酸化される有機物を含んでもよく、熱分解しない無機分を残すものでもよい。
【0024】
また、スラリーのチクソトロピック指数は、3以上30以下であることが好ましい。3未満では骨格を十分に太くすることができず、30を超えるとその配合は、含浸するスラリーのウレタンフォームに対する比率が大きくなってしまい、ウレタンフォームの骨格が太くなりやすく、目詰まりしがちで、通気性が低下するからである。また、より好ましくは4以上15以下であり、さらに好ましくは5以上9以下である。より骨格を十分に太くすることができると共に、よりよい通気性も確保できる。
【0025】
次に、上記の方法により作成したスラリーを、上記の三次元網状構造のウレタンフォームに含浸し、例えば、そのウレタンフォームをロールなどで絞ることにより、ウレタンフォームに所定量のスラリーを付着させる。付着させるスラリーの量は、ウレタンフォームの重量を基準として2〜5倍とされ、付着量が少ないと、取り扱えないほどに強度が低くなる。また、付着量が多いと重量が重くなる。なお、所定量は、金属多孔体の目的や用途等に応じて、適宜選択される。
【0026】
次に、上記スラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させ、付着したスラリーに含まれる水分を脱水する。乾燥後の水分は少ないほど好ましい。付着した脱水後のスラリーは、ウレタンフォームのセル骨格の表面上に骨格層を形成する。
【0027】
次に、前工程で作成された、骨格層を有する三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、骨格層の表面上にニッケルなどの金属層を形成する。導電性フィラーを添加した場合には、導電性のあるスラリーとなり、添加しない場合は、非導電性のあるスラリーとなっているので、スラリーが導電性を有する場合には、直接電気めっきを行うことができる。一方、スラリーが非導電性を有する場合には、まず無電解めっきを行いわずかな金属層を析出し、その後電気めっきを行うことにより、充分な金属層を形成することができる。これにより、スラリーの導電性の有無にかかわらず、強度のある金属多孔体の製造方法を提供することができる。
【0028】
なお、金属層の厚さは、金属多孔体の目的や用途等に応じて、適宜選択される。但し、金属層は、後工程でウレタンフォームが熱分解処理された後も、多孔体が形状を保持するためには、100kg/m3以上が必要である。
【0029】
次に、金属層が形成されたウレタンフォームを加熱することにより、ポリウレタンの樹脂成分を熱分解する。これにより、ウレタンフォームのポリウレタン樹脂が熱分解すると共に、骨格層が強固に焼結されることとなる。
上記の工程を行うことにより、強度の大きい三次元網状構造の金属多孔体が作成された。
【0030】
上述の工程を経て得られた金属多孔体は、通常、洗浄・乾燥の後、さまざまな用途に用いられることとなり、最終的に、特定部分に応力が集中することがなく、そこから破壊が発生することを避けることができ、強度のある金属多孔体を提供することができる。かかる製造方法によれば、製造収率も高い。
【0031】
また、従来の三次元網状構造を有する金属多孔体の骨格断面の空洞は、鋭角な頂点を持つ三角形に近い形状である骨格断面を有するウレタンフォーム多孔体の骨格が熱分解することにより形成されるので、その骨格断面の空洞及びその周りに形成された金属層の内側も同様に鋭角な頂点を持つ三角形に近い形状である。上記の方法により製造された、三次元網状構造の金属多孔体の骨格は、中空部と、その中空部の周囲に骨格層と、その骨格層の周囲に金属層とを備える骨格であり、その骨格層の外面と接する金属層の内面は、その骨格の横断面視でほぼ三角形であり、そのほぼ三角形の頂点は曲率(丸み)を有することを特徴とする金属多孔体である。
【0032】
即ち、ウレタンフォーム多孔体の骨格のほぼ三角形の鋭角な頂点部分にも、スラリーが十分に付着するので、骨格となる層の厚みが他の部分と変わらないものとなると共に、尖がった頂点部分が丸み(曲率)を持って骨格層が形成される。そうすると、その骨格層の周囲に形成される金属層の頂点部分においても、その骨格層と接する金属層の内面において、同様の丸み(曲率)を持つこととなる。この結果、この頂点部分という特定の部分に応力が集中することがなく、そこから破壊が発生することを避けることができ、強度のある金属多孔体を提供することができる。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
粘結剤のアクリルエマルジョン(Lx852:日本ゼオン製:固形分45%)22g、分散剤のヘキサメタリン酸2gに、水31gを加えてバインダー組成物を調製した。黒鉛(人造黒鉛微粉末UF−G5:昭和電工製:ボールミルにて湿式粉砕し、平均粒径0.8μmに調整)45gをさらに配合して、上記バインダー組成物に混合し、10分ラボミキサーにより300rpmで撹拌した。
【0034】
この配合物の粘度測定の結果、1rpmで4540mPa・s、10rpmで557mPa・sであり、TIは8.2となり、フィラー(黒鉛)が大量に含まれているので、チクソトロピー性の高い配合物であった。なお、フィラーが微細なほど高いチクソトロピー性を有するので、平均粒径を調整した。
【0035】
200×250×10mmに裁断されたウレタンフォーム(セル膜を除去したエステル系ウレタンフォームであって、密度30Kg/m3、セル数8個/25mm)に対して、スラリーの乾燥重量と上記ウレタンフォームの重量とが同じ量付着するように含浸し、100°C30分乾燥した。
【0036】
外形寸法200×250mm、枠幅10mm、厚さ1.5mmのステンレス製の枠2枚でウレタンフォームを挟み込み、スルファミン酸ニッケル450g/L、塩化ニッケル5g/L、ホウ酸40g/L及びピット防止剤(日本化学産業製、ピットレス−S)5ml/Lからなるスルファミン酸ニッケル浴を20L建浴し、陽極としてデポラライズニッケルを用いて、40°C、電流密度5A/dm2(陽極)でめっきして、めっきによる重量増が約100gになるまで析出させた。
【0037】
得られためっき体を、大気中650°C10分間、引き続き雰囲気炉にて水素分圧1000hPa、1000°C20分間処理して、ウレタンフォームを熱分解及び酸化除去し、さらにニッケル金属骨格を還元して金属多孔体を得た。
【0038】
<実施例2>
ケイ酸リチウム水溶液(n=3.6、濃度23%)及びケイ酸ナトリウム(n=3.0、濃度39%)を混合して、(0.48Li2O・0.52Na2O)・3.4SiO2組成で、濃度が29%の混合アルカリケイ酸塩水溶液80gを調製した。これにニッケル粉(住友金属鉱山製:SNP−YH(0.2μm品))19.2gを加えて十分に混合し、さらにスメクタイト(クニピアF:クニミネ製)0.8gを加えて強く撹拌した。
【0039】
この配合物の粘度測定の結果、1rpmで3110mPa・s、10rpmで543mPa・sであり、TIは5.7となり、水膨潤性粘土鉱物であるスメクタイトを含んでいるので、チクソトロピー性の高い配合物であった。
【0040】
200×250×10mmに裁断されたウレタンフォーム(セル膜を除去したエステル系ウレタンフォームであって、密度30Kg/m3、セル数13個/25mm)に対して、スラリーの乾燥重量と上記ウレタンフォームの重量とが同じ量付着するように含浸し、150°C30分乾燥した。
【0041】
次に電気めっきをし、引き続きウレタンフォームを除去し、金属多孔体を得るが、これらは、実施例1における方法と同じである。
【0042】
<実施例3>
アクリルエマルジョン(Lx852:日本ゼオン製:固形分45%)100gと界面活性剤(FR−14:オレイン酸カリウム:花王社製)5.0gを添加して撹拌した。具体的には、家庭用泡立て器(DB−2263:貝印社製)を使用して、空気を巻き込んで10分間発泡させ、密度を0.33g/cm3に調製した。
【0043】
この配合物の粘度測定の結果、1rpmで3460mPa・s、10rpmで640mPa・sであり、TIは5.4となり、気液混合により機械で発泡させたので、チクソトロピー性の高い配合物であった。なお、気液混合によりチクソトロピー性を発現させるのはこれに限定されず、微細な油相を水相中に安定化させればよく、また界面活性剤を含有させて空気又は不活性気体を液相中に安定化させてもよい。
【0044】
200×250×10mmに裁断されたウレタンフォーム(セル膜を除去したエステル系ウレタンフォームであって、密度30Kg/m3、セル数20個/25mm)に対して、スラリーの乾燥重量と上記ウレタンフォームの重量とが同じ量付着するように含浸し、100°C30分乾燥した。
【0045】
外形寸法200×250mm、枠幅10mm、厚さ1.5mmのステンレス製の枠2枚でウレタンフォームを挟み込み、35%塩酸180ml/Lのプレディップ槽、パラジウム・スズ触媒(奥野製薬工業製)のキャタリスト槽、35%塩酸200ml/L槽、水洗、アクセラレータX(奥野製薬工業製)0.5g/L+98%硫酸100ml/Lからなる表面活性化槽、水洗、無電解めっき浴(化学ニッケルHR−T:奥野製薬工業製:35°C10分間)の順にて、無電解ニッケルめっきを行った。
【0046】
次に電気めっきをし、引き続きウレタンフォームを除去し、金属多孔体を得るが、これらは、実施例1における方法と同じである。
【0047】
<実施例4>
PVOH(日本合成化学製)5%溶液20gと界面活性剤(エマゾールL−120V:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート:花王社製)1.0gを添加して撹拌した。具体的には、上記高分子水溶液をミキサーにて200rpmで撹拌しながら、シクロヘキサン40gを分液ロートにより徐々に添加して全量を投入してO/W型エマルジョンを形成し、5分間このクリーム状のエマルジョンの撹拌を継続した。
【0048】
この配合物の粘度測定の結果、1rpmで3220mPa・s、10rpmで464mPa・sであり、TIは6.9となり、液液混合によりO/W型エマルジョンを形成したので、チクソトロピー性の高い配合物であった。なお、液液混合によりチクソトロピー性を発現させるのはこれに限定されず、微細な油相を水相中に安定化させればよく、また界面活性剤を含有させて油相を分散相として安定させて取り込んでもよい。
【0049】
有機チタン化合物(マツモト交商製:オルガチックスTC−400:チタントリエタノールアミネート)0.2gを加えて1分分散させ、すぐに、200×250×10mmに裁断されたウレタンフォーム(セル膜を除去したエステル系ウレタンフォームであって、密度30Kg/m3、セル数30個/25mm)に対して、ウレタンフォームと同じ重量(15g)が付着するように含浸し(合計30g)、1時間放置してゲル化させた。エタノール浴に浸漬してシクロヘキサンを抽出し(3回繰り返し)、その後60°Cの熱風循環オーブンにて30分間残留溶媒を除去した。さらに、次のめっきの前処理として、過剰な触媒の吸着を防ぐため、35%塩酸180ml/L浴中に浸してPVOHゲルを平衡させた。
【0050】
次に無電解ニッケルめっきをし、引き続き電気めっきをし、さらにウレタンフォームを除去し、金属多孔体を得るが、これらは、実施例3における方法と同じである。
【0051】
<比較例>
粘結剤のアクリルエマルジョン(Lx852:日本ゼオン製:固形分45%)22g、分散剤のヘキサメタリン酸2gに、水26gを加えてバインダー組成物を調製した。黒鉛(人造黒鉛微粉末UF−G5:昭和電工製)30gを上記バインダー組成物に混合し、10分ラボミキサーにより300rpmで撹拌した。
【0052】
この配合物の粘度測定の結果、1rpmで332mPa・s、10rpmで230mPa・sであり、TIは1.4となり、実験例1に比べ黒鉛が大量には含まれていないので、チクソトロピー性は高くない配合物であった。
200×250×10mmに裁断されたウレタンフォーム(セル膜を除去したエステル系ウレタンフォームであって、密度30Kg/m3、セル数13個/25mm)に対して、同じ量が付着するように含浸し、100°C30分乾燥した。
【0053】
次に電気めっきをし、引き続きウレタンフォームを除去し、金属多孔体を得るが、これらは、実施例1における方法と同じである。
【0054】
<実施例と比較例の対比>
上述のようにして作成した実施例1〜4と比較例における金属多孔体は、以下のような密度、チクソトロピック指数(TI)及び曲げ強度を有する。なお、曲げ強度の評価方法は後述する。
【0055】
表1に示すように、実施例1〜4は、TIの小さい比較例に比べて、密度においてほぼ同等であるが、曲げ強度においては1.5〜1.7倍の強度を有していることがわかる。これから、本発明は、特定の部分に応力の集中を起こさず、強度のある金属多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【0056】
【表1】

【0057】
<測定・評価方法>
曲げ試験は、社団法人日本厨房工業会 業務用厨房設備に付属するグリス除去装置の技術基準(JAEA1994−9)記載の3点曲げ強度試験に従う。試験サンプルは、15cm×5cm×厚さ1cmとした。
【0058】
また、粘度測定は、E型回転式粘度計(R−100:東機産業製)を使用し、水温30°Cにて温度調整した配合系の粘度を、回転子の回転数1rpmと10rpmで測定した。本明細書においては、この2つの測定値の比をチクソトロピック指数(TI)と呼ぶ。即ち、TIは次式により計算される。
TI=回転数1rpmにおける粘度/回転数10rpmにおける粘度
【0059】
<電池用電極基板>
電池用電極基板においては、空孔率がパンチングメタル等と比較して大きくとれるために活物質の充填量を増加でき、また、空孔が三次元網状構造を有するために充填した活物質の保持力が大きいので、金属多孔体が電池用電極基板として好適に用いられる。
本発明に係る金属多孔体を電池用電極基板に使用すると、強度が高く、製造費用も安価な金属多孔体を使用した電池用電極基板を提供することができる。
【0060】
<耐熱性フィルター>
例えば、厨房用の油除去フィルターや内燃機関の排気浄化装置などにおいては、三次元網状構造を有する金属多孔質フィルターが好適に用いられている。
本発明に係る金属多孔体をこのような耐熱性フィルターに使用すると、強度が高く、製造費用も安価な金属多孔体を使用した耐熱性フィルターを提供することができる。
【0061】
尚、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル膜が除去されセル骨格のみを備える三次元網状構造のウレタンフォームに、チクソトロピー性を有するスラリーを含浸し、
前記スラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させることにより、前記セル骨格表面上に骨格層を形成し、
前記骨格層を含む三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、前記骨格層表面上に金属層を形成し、
前記ウレタンフォームを熱分解する、
三次元網状構造の金属多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーのチクソトロピック指数は、3以上30以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーは、水膨潤性粘土鉱物を含むことによりチクソトロピー性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーは、アクリルエマルジョン及びヘキサメタリン酸を含み、前記アクリルエマルジョンの2倍の重量の黒鉛もしくはニッケル粉を含むことによりチクソトロピー性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーは、アクリルエマルジョン及び界面活性剤を含み、気液混合による機械発泡によりチクソトロピー性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーは、ポリビニルアルコール、界面活性剤、及びシクロヘキサンによるオイルインウォータ型エマルジョンを含むことによりチクソトロピー性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーが導電性を有する場合には、前記めっきは電気めっきであり、前記スラリーが非導電性を有する場合には、前記めっきは、まず無電解めっきを行い、その後電気めっきを行うことを特徴する請求項1乃至6いずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
骨格のみを備える三次元網状構造を有する金属多孔体であって、
前記骨格は、
中空部と、
前記中空部の周囲に骨格層と、
前記骨格層の周囲に金属層と、
を備え、
前記金属層の内面は、前記骨格の横断面視で略三角形であり、前記略三角形の頂点は曲率を有することを特徴とする金属多孔体。
【請求項9】
セル膜が除去されセル骨格のみを備える三次元網状構造のウレタンフォームに、チクソトロピー性を有するスラリーを含浸し、
前記スラリーを含浸したウレタンフォームを乾燥させることにより、前記セル骨格表面上に骨格層を形成し、
前記骨格層を含む三次元網状構造の多孔体にめっきを行うことにより、前記骨格層表面上に金属層を形成し、
前記ウレタンフォームを熱分解する、
ことにより得られる三次元網状構造の金属多孔体。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の金属多孔体を使用したことを特徴とする電池用電極基板。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の金属多孔体を使用したことを特徴とする耐熱性フィルター。

【公開番号】特開2012−111988(P2012−111988A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260227(P2010−260227)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】