説明

金属多孔質体の製造方法

【課題】簡易な方法で、所望の微細孔、特にナノメータオーダの微細孔を有する金属多孔質体を提供する。
【解決手段】第1の金属材料を含有する金属粒子であって、該金属粒子の平均粒子径が50nm〜1μmの範囲内にある第1の金属粒子と、第2の金属材料を含有する第2の金属粒子の前駆体である金属塩又は金属錯体とを準備する工程と、前記第1の金属粒子及び前記金属塩又は金属錯体を混合して混合物を得る工程と、前記混合物を加熱することによって、前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料が第2の金属粒子として生成し、前記第2の金属粒子を結合剤として前記第1の金属粒子を結合して、金属多孔質体を得る金属多孔質体生成工程とを有する、金属多孔質体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にエネルギーデバイスへの応用が可能な金属多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比表面積の大きな金属多孔質体は、触媒やガス吸蔵材、ガスセンサ、キャパシタ、選択透過膜等として使用されている。これらの用途においては、比表面積が高いほど各用途における機能性が向上する。
【0003】
従来、金属多孔質体を製造するに際しては、高温焼成時に金属粒子が相互に凝集しやすくなるので、多孔質化に制約が加わり、特にナノメータオーダの微細孔を有する金属多孔質体を製造するのは困難であった。
【0004】
このような状況に鑑みて、特許文献1には、ポリビニルアルコールのフィルムにニッケル化合物を分散吸着させた後、還元性又は非酸化性雰囲気中で加熱して、ポリビニルアルコールを分解消失させると共にニッケル化合物を金属Niに還元することにより、ニッケル多孔質体を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、金属ベース化合物及びポリマーを含む粒子を溶媒中に分散させた後、得られた分散液を基材上に塗布した後、溶媒を除去して多孔性の金属含有材料を提供することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、予め所定の大きさの多孔質基体を準備し、この多孔質基体に対してナノ粒子を含むスラリー及びエアロゾルを供給し、多孔質基体に対して多孔質焼結ナノ粒子の層を形成する方法が開示されている。また、特許文献4には、カップリング剤又は該カップリング剤の反応物を含む下地層を備える基材の、当該下地層上に、結合剤を含まない金属ナノ粒子コロイド溶液からなる塗膜を形成し、この塗膜を焼結することによって多孔質膜を形成することが開示されている。
【0006】
特許文献5には、多孔質基体上に、焼結可能粒子の懸濁物を塗布した後、この焼結可能粒子を焼結することによって、多孔質基体上に多孔質膜を形成することが開示されている。また、特許文献6には、異なる粒径のものを含む金属粉体(大粒径金属粉体及び小粒径金属粉体)を焼結し、金属粉体の間に空気室を形成することにより多孔質材料を形成することが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、多孔質体を製造するに際し、母材となる金属粒子のサイズの制御に何ら注意が払われておらず、加熱による有機フィルム消失の過程で金属粒子の溶融も生じる可能性があるので、母材の溶融制御が困難になることや、金属粒子によって形成される微細孔のサイズにも制限があった。また、特許文献2に記載の方法においても、金属含有ポリマー粒子の熱処理により、ポリマーの分解及び除去を行い、母材となる金属粒子を焼結するので、細孔サイズを制御するためには、分散液の濃度や温度制御などを厳密に行う必要があり、製造方法が煩雑になるという問題があった。
【0008】
特許文献3に記載の方法では、多孔質基体に対してナノ粒子を含むスラリーを供給して表層のみに多孔質体を製造するものであるため、全体としてナノメータオーダの微細孔を有する金属多孔質体を製造することは困難である。また、特許文献に記載の方法においても、下地層によって多孔質膜の固定化と細孔の形成を行っているので、3次元的な構造を有する多孔質体の製造には不向きである。特許文献5に記載の方法においては、粒子の懸濁物を用いる製造方法であるため、多孔質体を所定の厚みにするためには、被覆と焼結を数回繰り返す必要があり、形成する細孔サイズの制御は、分散液の濃度や温度制御などを厳密に行う必要があり、製造方法が煩雑になるという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献6に記載の方法では、目的とする多孔質体を得るための原料となる金属粉体が、数10nm〜1μm程度の粒子径のものになると、焼結過程での金属粒子の溶融が生じやすいため、その制御が困難であり、所望する微細孔を有する金属多孔質体を製造することは困難であった。
【0010】
また、数十ナノメートルオーダの粒子サイズの金属粒子を製造する方法として、液相反応を利用した技術が報告されている(例えば、特許文献7〜9参照)。特許文献7では、ポリオール溶液に、還元剤、分散剤、およびニッケル塩を添加して混合溶液を製造する工程と、混合溶液を撹拌および加熱する工程と、混合溶液を反応させてニッケルナノ粒子を生成する工程と、を含むニッケルナノ粒子の製造方法が開示されている。特許文献8では、ニッケル前駆物質、有機アミンおよび還元剤を混合した後、加熱することでニッケルナノ粒子を得る技術が開示されている。特許文献9では、金属塩の還元をマイクロ波照射によって行っている。これらの従来技術は、金属多孔質体の製造方法については何ら教えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−239028号公報
【特許文献2】特表2008−532913号公報
【特許文献3】特表2006−509918号公報
【特許文献4】特開2010−37464号公報
【特許文献5】特表2010−505043号公報
【特許文献6】特開2010−53414号公報
【特許文献7】特開2009−024254号公報
【特許文献8】特開2010−037647号公報
【特許文献9】特開2000−256707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、簡易な方法で、所望の微細孔、特にナノメータオーダの微細孔を有する金属多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明の金属多孔質体の製造方法は、
第1の金属材料を含有する金属粒子であって、該金属粒子の平均粒子径が50nm〜1μmの範囲内にある第1の金属粒子と、第2の金属材料を含有する第2の金属粒子の前駆体である金属塩又は金属錯体とを準備する工程と、
前記第1の金属粒子及び前記金属塩又は金属錯体を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱することによって、前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料が第2の金属粒子として生成し、前記第2の金属粒子を結合剤として前記第1の金属粒子を結合して、金属多孔質体を得る金属多孔質体生成工程と、
を具えることを特徴とする。
【0014】
また、前記金属塩が、カルボン酸塩であること、又は前記金属錯体が、カルボン酸塩及び1級の有機アミンとの金属錯体であることのいずれかであってもよい。
【0015】
更に、前記第1の金属粒子の質量m1の、前記金属塩又は金属錯体中の第2の金属材料の質量m2に対する比m1/m2が、9.5/0.5〜5/5の範囲であってもよい。
【0016】
更にまた、前記第1の金属材料は、ニッケル、コバルト、鉄及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一つであること、又は前記第1の金属材料及び前記金属塩若しくは前記金属錯体中の第2の金属材料はニッケルであること、あるいは前記金属塩又は金属錯体中の第2の金属材料は、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一つであることのいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属多孔質体の製造方法は、特定の粒子径を有した第1の金属粒子と、加熱によって生成する第2の金属粒子とを用いることにより、第1の金属粒子は溶融が抑制され、その原形を留めたまま、金属多孔質体の母材を形成することが可能となる。例えば、金属多孔質体の母材となる金属粒子が、その表層部のみならず、金属粒子の内部まで溶融が進行しやすい場合であっても、第2の金属粒子を介在させることにより、特段の加熱制御を行うことなく、簡便に所望の金属多孔質体を提供することができる。
【0018】
また、高融点の金属粒子を用いて金属多孔質体の母材を形成する場合であっても、第2の金属粒子を介在させることにより、比較的低温での金属多孔質体の形成が可能となる。このように、本発明に係る金属多孔質体の製造方法は、簡易な方法で、所望の微細孔、特にナノメータオーダの微細孔を有する金属多孔質体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
[第1の金属粒子及び第2の金属粒子の前駆体の準備工程]
本実施形態においては、最初に、第1の金属材料を含有する金属粒子であって、該金属粒子の平均粒子径が50nm〜1μmの範囲内、好ましくは50nm〜500nmの範囲内、より好ましくは50nm〜400nmの範囲内、更に好ましくは50nm〜200nmの範囲内にある第1の金属粒子と、第2の金属材料を含有する第2の金属粒子の前駆体である金属塩又は金属錯体とを準備する。
【0021】
(第1の金属粒子)
第1の金属粒子は、目的とする金属多孔質体の母材を構成するものであって、金属多孔質体の形成後も、その原形が判別できる状態となっていることが望ましい。第1の金属粒子の平均粒子径の下限値を50nmとすることによって、第1の金属粒子の内部への溶融進行を抑制しやすくなり、母材を構成する第1の金属粒子の原形が完全に消失することを防ぐことができる。また、第1の金属粒子の平均粒子径が1μmを超えると、第1の金属粒子同士によって形成される空隙が大きくなり、第2の金属粒子による結合機能が低下する傾向となる。
【0022】
本発明に係る金属多孔質体において、ナノメートルオーダの微細孔の形成を容易とするためには、その上限値が400nmであることが好ましく、さらには200nmであることが好ましい。ここで、平均粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒子径である。また、金属粒子の粒子径は、一次粒子径(凝集せずに完全に独立した1個の金属粒子の粒子径)のみならず、凝集粒子の粒子径(複数の金属粒子が凝集して1個の金属粒子と見做したときの粒子径)を意味する。
【0023】
第1の金属粒子は、第1の金属材料を含有する。この第1の金属材料は、特に制限なく使用可能であるが、第2の金属粒子が生成して結合剤として機能する際に、第1の金属粒子そのものの溶融が抑制されるように選択されることが好ましい。このような観点から、第1の金属粒子に含有する第1の金属材料は、1気圧(101,325Pa)での融点が1000℃以上の金属元素を主成分として含有していることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含有することがよい。
【0024】
このような金属元素として、例えばニッケル(融点;1455℃)、コバルト(融点;1495℃)、鉄(融点;1535℃)、銅(融点;1083℃)、金(融点;1063℃)、白金(融点;1770℃)、パラジウム(融点;1550℃)、ロジウム(融点;1966℃)、イリジウム(融点;2454℃)、ルテニウム(融点;2500℃)、タングステン(融点;3390℃)、モリブデン(融点;2619℃)、バナジウム(融点;1730℃)、ニオブ(融点;2437℃)等が挙げられ、これらを単独又は2種以上を含有していてもよい。これらの中でも、入手が容易であって安価なニッケル、コバルト、鉄及び銅が好ましい。
【0025】
その他の金属元素として、例えば亜鉛、錫、銀等を含有してもよく、また水素元素、炭素元素、酸素元素、窒素元素、硫黄元素等の金属元素以外の元素を含有してもよいし、これらの合金であってもよい。さらに、第1の金属粒子は、単一の金属粒子で構成されていてもよく、2種以上の金属粒子の混合物であってもよい。
【0026】
なお、本発明が定義する融点は、金属材料(バルク材)の固有値(例えば、文献値)から確認することができる。ここに、上記に例示した金属元素の1気圧での融点の数値は、化学便覧 基礎編II(改訂3版 丸善出版)より引用した。
【0027】
第1の金属粒子は、2種類以上の化学種によって構成されるコア−シェル構造(Core−shell)や、2種類以上の化学種同士が互いに結合して複合化した構造であってもよく、例えば2種の化学種によって構成されるコア−シェル構造では、上記の第1の金属材料が任意の化学種の周囲を取り囲んでいるような構造である。
【0028】
また、第1の金属粒子は、多孔質に起因した特性と相伴って、金属多孔質体の特性に影響を与える。したがって、特に、最終的に得る金属多孔質体を触媒やガス吸蔵材、ガスセンサ、キャパシタ等の用途に用いる場合、第1の金属材料は、ニッケル、コバルト等とすることが好ましい。
【0029】
(第2の金属粒子の前駆体)
第2の金属粒子の前駆体は、第2の金属材料を含有する金属塩又は金属錯体であるが、後の加熱により、金属塩又は金属錯体中の第2の金属材料が第2の金属粒子として生成し、これが目的とする金属多孔質体の母材となる第1の金属粒子に対して結合剤として機能するものである。第2の金属粒子の結合剤としての機能は、例えば、加熱によって生成する第2の金属粒子の初期段階の微小な核が、固体状態若しくは溶融状態で凝集して結晶化又は固体化することによって、あるいは一旦結晶化若しくは固体化した後に溶融して再結晶化又は再固体化することによって、第1の金属粒子を結合すると考えられる。
【0030】
第2の金属材料は、第2の金属粒子の前駆体が加熱により分解し、第2の金属粒子を生成するものであればその材質に制限はないが、例えば、金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、錫、ロジウム、イリジウム等の金属種を用いることができる。また、これらの金属種の合金(例えば、ニッケル−銅合金など)を用いることもできる。さらに、第2の金属粒子の前駆体は、単一であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。特に、金、銀及び銅などは電気的良導体であるので、最終的に得た金属多孔質体を特に電極、キャパシタ等に用いた場合、母材である第1の金属粒子(例えば第1の金属材料としてニッケル等)の電気的特性を劣化させることがないので好ましい。
【0031】
第2の金属粒子の前駆体としては、前記金属の塩や金属錯体もののなどを用いることができる。金属の塩としては、例えば水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、β―ジケトナト塩などを挙げることができる。この中でも、加熱過程での解離温度(又は分解温度)が比較的低いカルボン酸塩を用いることが好ましい。
【0032】
また、金属塩は、粉末のまま使用してもよいし、溶媒に溶解した状態にして使用してもよい。例えば、溶媒に溶解する場合には、金属塩を溶解できる有機溶媒を用いることが好ましく、特に限定されないが、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。このなかでも特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)は、金属塩を溶解することにより、金属イオンとの錯体を容易に形成することができるので、この場合は金属塩を金属錯体として使用することができる。1級アミンにより金属錯体を形成させることによって、金属塩の状態で還元する場合と比較して、より低温で還元できるので有利である。1級アミンは、金属イオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。この場合に使用する金属塩としても、上記同様の理由からカルボン酸塩であることが好ましい。
【0033】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、金属錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0034】
また、第1の金属粒子の質量m1の、金属塩又は金属錯体中の第2の金属材料の質量m2に対する比m1/m2が、9.5/0.5〜5/5、さらには9/1〜7/3の範囲であることが好ましい。m1/m2が、上記下限値より低いと、第2の金属粒子の絶対量が多くなりすぎ、形成した金属多孔質体の細孔を塞いでしまい、ナノメートルオーダの微細孔を有する金属多孔質体を得ることが困難となり、上記上限を超えると、第2の金属粒子の絶対量が少なくなって、第1の金属粒子を結合させることが困難となる。
【0035】
なお、第2の金属材料を第1の金属材料と同じ金属から構成した場合においては、目的とする金属多孔質体において、母材と結合剤とが同じ金属から構成されることになるので、異種金属が混合されることによる、金属多孔質体の目的とする性能劣化などの不利益を防止することができる。例えば、金属多孔質体の用途が触媒やガス吸蔵材、ガスセンサ、キャパシタ等の場合、第2の金属材料は、第1の金属材料と同じニッケル、コバルト、銅等とすることが好ましく、より好ましくはニッケルがよい。
【0036】
また、第2の金属粒子は、第2の金属粒子の前駆体を加熱により解離(分解)することによって生成するので、この加熱温度において第1の金属粒子の溶融が抑制されている状態がよく、第2の金属粒子の前駆体の解離温度(又は分解温度)と第1の金属粒子の溶融温度の差を十分に大きいことが好ましい。第1の金属粒子を上述したニッケル等から構成し、第2の金属粒子を含む前駆体を上述した金属塩等から構成することにより、上記温度差を十分に大きくとることができ、上述した加熱温度の設定を容易に行うことができる。
【0037】
<第1の金属粒子の製造方法>
上記第1の金属粒子は、気相法や液相法などの方法により製造することもでき、その方法については特に限定されない。気相法では、例えば、気化部、反応部、冷却部を有する反応装置を用いるとともに、原料として金属塩化物を用い、この金属塩化物を気化部で加熱気化した後にキャリアガスで反応部に移送し、ここで水素と接触させることによって粒子状に金属を析出させ、その後、得られた金属粒子を冷却部で冷却するようにして得ることができる。例えば、ニッケルの金属粒子を製造する場合は、反応温度を950℃〜1100℃程度に制御する。
【0038】
この方法における粒径制御は、例えばキャリアガスの流速を制御することによって実施できる。一般に、キャリアガスの流速を上昇させれば、得られる金属粒子の粒径は小さくなる傾向がある。
【0039】
また、気相法は液相法に比べて製造コストが高価になりがちであるので、液相法を適用することは有利である。液相法のなかでも、金属多孔質体の空隙率を向上させるために、好ましくは第1の金属粒子の粒子径分布が狭いもの、より好ましくは第1の金属粒子の粒子径分布が狭いもの及び第2の金属粒子の粒子径分布が狭いものを選択することがよい。このような粒子径分布が狭い金属粒子を短時間で容易に製造する方法として、下記の工程A〜C;
A)第1の金属材料の前駆体である金属塩を有機溶媒に溶解して、金属錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
B)前記錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱して、前記第1の金属粒子のスラリーを得る工程、
C)前記第1の金属粒子のスラリーから前記第1の金属粒子を単離する工程、
を具えることが好ましい。
【0040】
工程A)錯化反応液生成工程:
(金属塩)
金属塩の種類は特に限定されず、得られる金属粒子の金属材料の種類に応じて選定することができる。金属塩として、例えば水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、β−ジケトナト塩等が挙げられる。この中でも、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低いカルボン酸塩を用いることが好ましい。
【0041】
(有機溶媒)
有機溶媒は、金属塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。このなかでも特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)は、金属塩との混合物を溶解することにより、金属イオンとの錯体を形成することができ、金属錯体(又は金属イオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、加熱による還元温度が高温の金属塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、金属イオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0042】
常温で液体の1級アミンは、金属錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0043】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液における金属錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成する金属粒子の粒径を制御することができる。金属粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られる金属粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0044】
1級アミンは、還元反応後の生成したナノ粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、金属錯体を還元して金属粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミンの量は、金属塩1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られる金属粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0045】
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンと金属イオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0046】
錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば50℃〜160℃の範囲内に加熱して反応を行う。この加熱は、後に続く金属錯体(又は金属イオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記上限を適宜設定することができる。
【0047】
工程B)金属粒子スラリー生成工程:
本工程では、金属塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱し、錯化反応液中の金属イオンを還元して金属粒子のスラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られるナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0048】
本工程では、マイクロ波が反応液内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、金属錯体(又は金属イオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。
【0049】
均一な粒径を有する金属粒子を生成させるには、錯化反応液生成工程の加熱温度を特定の範囲内で調整し、金属粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎると金属錯体の生成と金属(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、金属粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、金属粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎると金属(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、金属粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0050】
金属粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることは、本発明の好適な実施の形態である。
【0051】
工程C)金属粒子単離工程:
本工程では、マイクロ波照射によって加熱して得られる金属粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、金属粒子が得られる。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係る第1の金属粒子の製造方法によれば、多量の還元剤を使用することなく、簡便な方法で、均一な粒子径を有する金属粒子を製造できるが、上述した製法によって得られたものに限定されるものではなく、適宜市販のものを用いることができる。
【0053】
[金属多孔質体生成工程]
本工程では、第1の金属粒子及び第2の金属粒子の前駆体(以下、第2の前駆体ともいう。)である金属塩又は金属錯体を混合した後、この混合物を加熱して、金属塩又は金属錯体中の第2の金属材料から得られる第2の金属粒子によって、これが結合剤となって第1の金属粒子を結合して、金属多孔質体を得る。
【0054】
混合方法は、特に限定されず、第1の金属粒子及び第2の前駆体のそれぞれを粉末の状態で混合してもよく、スラリーの状態にして混合してもよく、ペースト状態にして混合してもよい。また、汎用の混練機、撹拌機、分散機、乳化装置等を用いてもよい。このようにして得られた混合物は、後工程の加熱の前に、所定の容器に入れられるか、あるいは所定の基材上に堆積又は塗布し、必要に応じ、乾燥させる。乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば30〜150℃の範囲内の温度で乾燥を行うことがよい。
【0055】
また、上記の混合物を加熱して第2の前駆体を解離(又は分解)させる前に、例えば0.1MPa〜10MPaの範囲内で加圧して所定の成型体を形成しておくことが好ましい。この成型体は、例えば所定の容器に入れた混合物を加圧することも形成できるし、所定の基材上に堆積させた状態の混合物をプレスすることによって形成することもできる。なお、加圧は、続く加熱による第2の前駆体を解離(又は分解)させる際にも継続して行うこともできる。
【0056】
加熱処理は、例えば150℃〜600℃の範囲内、好ましくは170℃〜400℃の範囲内にて行うことができる。この温度は、第1の金属粒子を完全には溶融させずに、第2の前駆体を解離(又は分解)させることができる温度に適宜設定すればよい。加熱処理は、例えば窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中、1〜5KPaの真空中、大気中、又は水素ガス中で行うことができ、第1の金属粒子の種類や得られる金属多孔質体の使用目的によって適宜選択すればよい。また、必要に応じ、加圧又は熱プレスを併用して加熱を行ってもよい。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0058】
[金属粒子の平均粒子径]
金属粒子の平均粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径を求め、平均粒子径を算出した。
【0059】
[5%熱収縮温度]
5%熱収縮温度は、試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、これを窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収率の温度とした。
【0060】
(合成例1)
144.9gのジメチルミリスチルアミンに18.5gのギ酸ニッケル二水和物を加え、窒素フロー下、120℃で10分間加熱することによって、ギ酸ニッケルと1級の有機アミンとの金属錯体溶液1を得た。
【0061】
(合成例2)
4200gのエチレングリコールに50gのステアリン酸ナトリウムを加え、窒素フロー下、85℃で10分間加熱し、その後、この溶液に、800gのエチレングリコールに28gの硝酸銀を溶かした溶液を添加して、ステアリン酸銀を含むターピネオールスラリーの金属錯体溶液2を得た。
【0062】
(実施例1)
第1の金属粒子として、20gのニッケル粒子1a(JFEミネラル社製、商品名;NFP201、ニッケル含有率;99wt%、平均粒子径;200nm、比表面積;3.4m/g、5%熱収縮温度;400℃)を準備し、合成例1で得られた金属錯体溶液1の5gとを、自転公転式ミキサー(シンキー社製)によって10分間混練した後、そのスラリーをガラスプレートに塗布し、水素/窒素雰囲気(水素3%)に調整された雰囲気制御炉で、300℃で3時間加熱処理し、目的とする金属多孔質体1を得た。
【0063】
得られた金属多孔質体1の窒素吸収等温線からBET法によって比表面積を求めたところ、1.5m/gであることが判明した。さらに、DH法(Dollimore-Heal法)で求められたメソ細孔分布から、細孔径約40nmをピークとし、1〜60nm程度の細孔分布を有することが判明した。
【0064】
(実施例2)
実施例1における20gのニッケル粒子1aの代わりに、20gのニッケル粒子2a(JFEミネラル社製、商品名;NFP401、ニッケル含有率;99wt%、平均粒子径;400nm、比表面積;1.7m/g)を用いたこと、及び5gの金属錯体溶液1の代わりに、8gの金属錯体溶液1を用いた以外は、実施例1と同様にして金属多孔質体2を得た。
【0065】
得られた金属多孔質体2の窒素吸収等温線からBET法によって比表面積を求めたところ、0.8m/gであることが判明した。さらに、DH法(Dollimore-Heal法)で求められたメソ細孔分布から、細孔径約62nmをピークとし、2〜90nm程度の細孔分布を有することが判明した。
【0066】
(実施例3)
合成例1で得られた金属錯体溶液1に、さらに96.6gのジメチルミリスチルアミンを加え、マイクロ波を用いて180℃で10分間加熱することによって、ニッケル粒子スラリー3を得た。
【0067】
ニッケル粒子スラリー3を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、ヘキサンとメタノールとを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル粒子3a(ニッケル含有率;98wt%、平均粒子径;71nm、比表面積;12m/g、5%熱収縮温度;290℃)を得た。
【0068】
実施例1における20gのニッケル粒子1aの代わりに、20gのニッケル粒子3aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金属多孔質体3を得た。
【0069】
得られた金属多孔質体の窒素吸収等温線からBET法によって比表面積を求めたところ、2.6m/gであることが判明した。さらに、DH法(Dollimore-Heal法)で求められたメソ細孔分布から、細孔径約28nmをピークとし、1〜32nm程度の細孔分布を有することが判明した。
【0070】
(実施例4)
実施例3と同様にして、ニッケル粒子4a(ニッケル含有率;98wt%、平均粒子径;71nm、比表面積;12m/g、5%熱収縮温度;290℃)を得た。
【0071】
実施例1における20gのニッケル粒子1aの代わりに、20gのニッケル粒子4aを用いたこと、及び5gの金属錯体溶液1の代わりに、合成例2で得られた金属錯体溶液2の5gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金属多孔質体4を得た。
【0072】
得られた金属多孔質体4の窒素吸収等温線からBET法によって比表面積を求めたところ、3.7m/gであることが判明した。さらに、DH法(Dollimore-Heal法)で求められたメソ細孔分布から、細孔径約22nmをピークとし、1〜30nm程度の細孔分布を有することが判明した。
【0073】
上述した実施例から明らかなように、本発明によれば、互いに平均粒子径の異なる第1の金属粒子及び第2の金属を含む前駆体を準備すれば、その後、これら金属粒子及び前駆体を混合及び加熱するという、いわゆる通常の粉末冶金等における汎用の焼結技術を用いるのみで、目的とする微細孔を有する金属多孔質体を得ることができる。すなわち、湿式法のような複雑な製法を用いることなく、極めて簡易に微細孔を有する金属多孔質体を得ることができる。
【0074】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属材料を含有する金属粒子であって、該金属粒子の平均粒子径が50nm〜1μmの範囲内にある第1の金属粒子と、第2の金属材料を含有する第2の金属粒子の前駆体である金属塩又は金属錯体とを準備する工程と、
前記第1の金属粒子及び前記金属塩又は金属錯体を混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱することによって、前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料が第2の金属粒子として生成し、前記第2の金属粒子を結合剤として前記第1の金属粒子を結合して、金属多孔質体を得る金属多孔質体生成工程と、
を具えることを特徴とする、金属多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩が、カルボン酸塩であることを特徴とする、請求項1に記載の金属多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記金属錯体が、カルボン酸塩及び1級の有機アミンとの金属錯体であることを特徴とする、請求項1に記載の金属多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の金属粒子の質量m1の、前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料の質量m2に対する比m1/m2が、9.5/0.5〜5/5の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに一に記載の金属多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の金属材料は、ニッケル、コバルト、鉄及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の金属多孔質体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の金属材料及び前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料は、ニッケルであることを特徴とする、請求項5に記載の金属多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記金属塩又は前記金属錯体中の第2の金属材料は、金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の金属多孔質体の製造方法。

【公開番号】特開2012−246521(P2012−246521A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117886(P2011−117886)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】