説明

金属多層膜のX線反射率プロファイル解析方法及び記憶媒体

【課題】 磁気ヘッドなどに用いられる金属多層膜の構造評価に有効な、金属多層膜のX線反射率プロファイルの新しい解析法を提供する。
【解決手段】 金属多層膜のX線反射率プロファイルの解析のための各層の膜厚の初期値t1 i 〜t3 i として、蛍光X線測定から求めた各層の膜厚を用いるようにする。この初期値t1 i 〜t3 i としては、蛍光X線測定により得られた各層の付着量F1 〜F3 を各層の材料の理論密度ρ1 i 〜ρ3 i で割って算出した値を採用するのが有利である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンピュータの磁気記録装置の読み取り部である磁気ヘッドなどに用いられる金属多層膜の構造評価のための解析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】金属多層膜の構造を解析する方法としては、X線反射率測定法及び蛍光X線装置を用いる方法がある。これらのうちで、X線反射率測定法は、金属多層膜の膜構造を非破壊で評価できる方法として近年注目されている。
【0003】X線反射率測定による金属多層膜の構造解析は、理論上では反射率プロファイルを解析することで可能である。しかし、X線に対する屈折率の近い層が積層した多層膜では、それらの分離が難しく、そして評価値が解析に用いた初期値に大きく依存してしまうという問題がある。その上、実際の測定データは様々なエラーを含んでいるため、非現実的な評価値に陥る場合があるが、このような場合、これまでは、解析者が初期値を適当な値に変更するなどして対処していたため、同じ測定データを解析しても、解析結果が解析者により異なることも少なくなかった。
【0004】更に、これまでの解析プログラムによるX線反射率プロファイルの解析においては、計算上フィッティングがうまくいっていても、構造パラメータが非現実的な値をとり得るという問題、また、X線反射率プロファイルの解析結果に部分的にフィッティングの度合いが悪い個所があっても、解析プログラムの特性上、実測値と計算結果とのずれの度合いを表すR値が解析の過程で極小値をとればフィッティングが終了してしまうという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように、金属多層膜に対する従来のX線反射率プロファイルの解析においては、屈折率の近い層が積層している場合に解析に用いるフィッティングパラメータの初期値に大きく左右されやすいこと、非現実的な構造パラメーターを取る可能性のあること、そして部分的にフィッティングの度合いが悪くてもフィッティングが終了してしまう場合があること、等の問題があった。
【0006】そこで、本発明は、こうした問題を解決して、金属多層膜の構造解析に有効なX線反射率プロファイルの新しい解析方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の金属多層膜のX線反射率プロファイル解析方法は、金属多層膜のX線反射率プロファイルの解析時に、各層の膜厚の初期値として、蛍光X線測定から求めた各層の膜厚を用いることを特徴とする。
【0008】蛍光X線測定から求めた各層の膜厚としては、蛍光X線測定により得られた各層の付着量を各層の材料の理論密度で割って算出した値を採用することができる。こうすることで、真値に近いフィッティングパラメータの組み合わせからフィッティングを開始することができる。
【0009】更に、フィッティングの過程において、(1)フィッティングパラメータである各層の膜厚と密度が、それらの積(即ち「膜厚×密度」)が蛍光X線測定により得られる各層の付着量に等しいという条件を満足する値を常にとるという条件、及び(2)フィッティングパラメータである各層の界面ラフネス値がもう一つのフィッティングパラメータである各層の膜厚値を超えないという条件、のうちの一方又は両方を付加することにより、解析結果が非現実的なパラメータの組み合わせに陥ることを防ぐことができる。
【0010】また、X線反射率測定を行った角度範囲を少なくとも二つの領域に分割し、それらの分割領域ごとに実測値と計算結果とのずれの度合いを表すR値を算出して、R値の大きな領域(フィッティングの度合いが不良の領域)についてその領域のみでフィッティングを行い、その結果得られたフィッティングパラメータを使って測定角度範囲全体にわたり再度フィッティングを行うことで、全体のフィッティング精度を向上させることができる。更なる精度の向上のため、角度範囲の分割から測定角度範囲全体にわたる角度のフィッティングまでの操作を繰り返してもよい。
【0011】
【発明の実施の形態】次に、図面を参照して、本発明を更に説明する。ここでは、簡単のため、図1に示すような、各層の膜厚t1 〜t3 、密度ρ1〜ρ3 、界面ラフネスσ1 〜σ3 の3層からなる積層膜に対する場合を例にとり説明する。また、このX線反射率プロファイル解析のフローチャートを図2に示す。このときの反射率のデータは、θi 〜θf の角度範囲で測定するものとする。
【0012】まず、蛍光X線測定により求めた各層の付着量F1 〜F3 を各層の理論密度ρ1 i 〜ρ3 i で割り算出した膜厚t1 i 〜t3 i を、解析のための初期値として用いる。蛍光X線測定は、試料に含まれる各元素の特性X線を検出して構造を解析するため、屈折率が近い層が近接して配置されていても各層の分離評価が容易に行え、各層の付着量をも求めることができる。そこで、本発明では、蛍光X線測定により求めた各層の付着量の値を利用することにする。また、界面ラフネスの情報は蛍光X線測定からは求まらないため、適当な値を初期値σ1 i 〜σ3 iとする。これらの初期値を用いて、測定角度θi からθi +α(αは測定角度θの増分に相当する適当な値)までの解析範囲についてフィッティングする。このとき、(1)各層についてt×ρ=Fとなること、且つ(2)各層の界面ラフネスσが各層の膜厚tを超えないこと、という条件のもとにフィッティングを行う。これらの条件(1)と(2)のうちのどちらか一方だけを適用してフィッティングすることも、言うまでもなく本発明の範囲内に含まれる。
【0013】これらの条件のもと、解析角度範囲でのR値が最小となるパラメータの組み合わせが算出されたら、解析角度範囲をα度広げ、θi からθi +2α度までとして、再びフィッティングを行う。以後、これを繰り返し、測定角度範囲θi 〜θf のフィッティングが終了した時点で、最終的な評価値t1 f 〜t3 f 、ρ1 f〜ρ3 f 、及びσ1 f 〜σ3 f が求まる。
【0014】図3(a)及び(b)に、シリコン基板上に50Å(5nm)厚のTa層、100Å(10nm)厚のCu層、そして60Å(6nm)厚のTa層を積層した金属積層膜に対するX線反射率の測定結果及びプロファイル解析結果の一例を示す。図3(a)のプロファイルは、図2のフローチャートで説明した解析手法で最初に得られたものである。この場合には、2θが6度以下の領域は比較的よくフィッティングされているが、それ以上の広角側に実測値とのずれがみられる。このように部分的にフィッティングの度合いの悪い領域が残るフィッティングは、真の構造を評価できていないと考えられる。そこで、図中の破線で示すように、解析範囲をいくつかの領域に分け(図3(a)の場合■〜■の四つの領域)、それぞれの領域範囲でのR1 〜R4 値を算出する。ここでは、R値の計算に次式を用いた。
【0015】
【数1】


【0016】また、計算反射率強度Ical を求めるのには公知の計算式を使用した。
【0017】図3(a)の場合、■の領域のR値(R4 )は、この領域のフィッティングの度合いが他の領域より悪いので、他の領域より極端に大きな値となる。そこで、■の領域のみでフィッティングを行い、その結果得られたパラメータを用いて、■以外の領域についてそれぞれのR値(R1 〜R3 )を算出したところ、■の領域のR4 が他の領域のR1 〜R3 とほぼ同じになった。このようにしてフィッティングした結果を図3(b)に示す。この図の場合には、図3(a)に比べて、全領域にわたりフィッティングが良好であることが分かる。更に、必要に応じて全範囲で再びフィッティングを行い、そして上述の作業を繰り返すことにより、解析範囲全体にわたりフィッティングが良好なパラメータの組み合わせに到達することができる。
【0018】この解析方法は、コンピユータ読み取り可能なCD−ROM又はフロッピ−ディスク(FD)などの記憶媒体に記憶された、この解析方法を実施するための手順をコンピユータに実行させるプログラムを使用して、コンピュータにより自動で実施することにより、簡便かつ高速の解析を可能にする。
【0019】一例として、そのような記憶媒体は、金属多層膜のX線反射率プロファイルをコンピュータに解析させるためのプログラムに、解析のための各層の膜厚の初期値として蛍光X線測定から求めた各層の膜厚を用いるという条件を付加したものを記憶した記憶媒体でよい。
【0020】この記憶媒体の記憶するプログラムには、X線反射率プロファイルの解析のためフィッティングする過程において、(1)フィッティングパラメータである各層の膜厚と密度が、それらの積(即ち「膜厚×密度」)が蛍光X線測定により得られる各層の付着量に等しいという条件を満足する値を常にとるという条件、及び(2)フィッティングパラメータである各層の界面ラフネス値がもう一つのフィッティングパラメータである各層の膜厚値を超えないという条件、のうちの一方又は両方を更に付加することもできる。
【0021】また、上記記憶媒体の記憶するプログラムには、X線反射率測定を行った角度範囲を少なくとも二つの領域に分割し、それらの分割領域ごとに実測値と計算結果とのずれの度合いを表すR値を算出して、R値の大きな領域(フィッティングの度合いが不良の領域)についてその領域のみでフィッティングを行い、その結果得られたフィッティングパラメータを使って測定角度範囲全体にわたりフィッティングを行うという条件を付加してもよい。
【0022】以上説明した本発明は、例えばハードディスク用磁気ヘッド及び媒体の如き金属薄膜構造体を備えた機器類の構造の評価、管理に広く応用可能である。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、これまで正確に膜構造を評価することが困難であった金属多層膜の構造解析が正確に行えるようになる。その結果として、スピンバルブ膜などのMR素子において、種々の膜構造(膜厚、界面ラフネスなど)とMR特性との関係を把握する物理的な見地に立った研究、更には、工場でのデバイス製造プロセスにおける不良膜の早期検出など、応用面においても大きく寄与することができる。
【0024】また、このような解析方法を自動で行うプログラムにより、簡便かつ高速に解析が可能となり、実際の製造プロセスで利用可能な評価技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】X線反射率プロファイルの解析を行う金属多層膜を説明する図。
【図2】X線反射率プロファイルの解析の流れを説明するフローチャート。
【図3】X線反射率の測定結果とプロファイル解析結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属多層膜のX線反射率プロファイルの解析のための各層の膜厚の初期値として、蛍光X線測定から求めた各層の膜厚を用いることを特徴とする金属多層膜のX線反射率プロファイル解析方法。
【請求項2】 前記各層の膜厚の初期値として、蛍光X線測定により得られた各層の付着量を各層の材料の理論密度で割って算出した値を採用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 X線反射率プロファイルの解析のためフィッティングする過程において、(1)各層の膜厚と密度が、それらの積が蛍光X線測定により得られる各層の付着量に等しいという条件を満足する値を常にとるという条件、及び(2)各層の界面ラフネス値が各層の膜厚値を超えないという条件、のうちの一方又は両方を付加する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 X線反射率測定を行った角度範囲を少なくとも二つの領域に分割し、それらの分割領域ごとに実測値と計算結果とのずれの度合いを表すR値を算出して、R値の大きな領域についてその領域のみでフィッティングを行い、その結果得られたフィッティングパラメータを使って測定角度範囲全体にわたりフィッティングを行うことを含む、請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】 金属多層膜のX線反射率プロファイルをコンピュータに解析させるためのプログラムであって、解析のための各層の膜厚の初期値として蛍光X線測定から求めた各層の膜厚を用いる条件を付加したプログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項6】 前記各層の膜厚の初期値として蛍光X線測定により得られた各層の付着量を各層の材料の理論密度で割って算出した値を採用する、請求項5記載の記憶媒体。
【請求項7】 X線反射率プロファイルの解析のためフィッティングする過程において、(1)各層の膜厚と密度が、それらの積が蛍光X線測定により得られる各層の付着量に等しいという条件を満足する値を常にとるという条件、及び(2)各層の界面ラフネス値が各層の膜厚値を超えないという条件、のうちの一方又は両方が前記プログラムに付加されている、請求項5又は6記載の記憶媒体。
【請求項8】 X線反射率測定を行った角度範囲を少なくとも二つの領域に分割し、それらの分割領域ごとに実測値と計算結果とのずれの度合いを表すR値を算出して、R値の大きな領域についてその領域のみでフィッティングを行い、その結果得られたフィッティングパラメータを使って測定角度範囲全体にわたり再度フィッティングを行うという条件が前記プログラムに付加されている、請求項5から7までのいずれか一つに記載の記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−121582(P2000−121582A)
【公開日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−292009
【出願日】平成10年10月14日(1998.10.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】