説明

金属容器

【課題】耐摩耗性、耐衝撃性などに優れた塗膜を有し、高圧ガスボンベなどに好適に使用することができる金属容器を提供すること。
【解決手段】表面上に着色塗膜を有する金属容器であって、当該金属容器の表面上にさらに透明ガラス質塗膜が形成されていることを特徴とする金属容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器に関する。さらに詳しくは、例えば、高圧ガスボンベなどとして好適に使用することができる金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体関連の技術分野においては高純度ガスが必要とされるため、当該高純度ガスが充填される高圧ガスボンベの内面には清浄処理が施されている(例えば、特許文献1参照)。この高圧ガスボンベは、半導体装置を扱うクリーンルームに搬入されることがあり、その外面に汚れなどが付着している場合には、クリーンルーム内の空気を汚染することになるため、その外面に対しても清浄であることが求められている。
【0003】
一般に、高圧ガスボンベなどの金属容器の表面上の主な汚れは、当該金属容器を運搬したり、取り扱うときに他の部材と衝突したり、擦れたりすることによって生じる表面塗膜の破片、剥離片などや、塗膜の剥がれによって金属容器の金属面が露出し、腐食することによって生じる錆などである。したがって、近年、クリーンルーム内でも使用することができる金属容器として、金属容器の表面から塗膜の破片や剥がれなどが生じないようにするために、耐衝撃性および耐摩耗性に優れた塗膜を有する金属容器の開発が待ち望まれている。
【0004】
従来、金属板との密着性および耐衝撃性が良好な塗膜を形成する塗料として、ポリエステル樹脂、ゴム状弾性体樹脂およびビニル重合体を含有する金属板被覆用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、前記金属板被覆用樹脂組成物は、ゴム状弾性体樹脂などの樹脂成分が用いられているため、耐衝撃性が良好であるが、その反面、形成された塗膜は、硬質でないことから、他の部材と衝突させたり擦れたりしたときに塗膜に傷がついたり塗膜片が生じたりし、金属容器の金属面が露出することによって腐食することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−302489号公報
【特許文献2】特開2009−96853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、耐衝撃性などに優れた塗膜を有し、高圧ガスボンベなどに好適に使用することができる金属容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 表面上に着色塗膜を有する金属容器であって、当該金属容器の表面上にさらに透明ガラス質塗膜が形成されていることを特徴とする金属容器、
(2) 透明ガラス質塗膜が、オルガノポリシロキサン、アルコキシシランおよび有機金属化合物を含有する塗料で形成されてなる前記(1)に記載の金属容器、および
(3) 金属容器が、高圧ガスボンベである前記(1)または(2)に記載の金属容器
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属容器は、耐摩耗性、耐衝撃性などに優れた塗膜を有し、高圧ガスボンベなどに好適に使用することができる。したがって、本発明の金属容器によれば、耐摩耗性、耐衝撃性などを維持するために着色塗膜を繰り返して更新する頻度を大幅に削減することができる。さらに、本発明の金属容器は、必要により金属容器の表面に貼付されるシールラベルを、実用上支障なく金属容器の表面に密着させることができるとともに、所望により金属容器の表面から容易に剥がすことができる利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の金属容器は、その表面上に着色塗膜を有するものであり、当該金属容器の表面上にさらに透明ガラス質塗膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
金属容器、なかでも高圧ガス用金属容器は、容器保安規則に従って、その内部に充填されるガスの種類を外部から識別することができるようにするために所定の色彩を有する着色塗膜が形成されている。本発明に用いられる金属容器には、このような高圧ガス用金属容器をはじめ、表面上に着色塗膜を有する種々の金属容器を用いることができる。
【0012】
金属容器の種類には特に限定がなく、例えば、前記したような高圧ガス用金属容器をはじめ、その表面塗膜に耐摩耗性、耐衝撃性などの物性が要求される金属容器を好適に用いることができる。また、金属容器の材質にも特に限定がなく、その材質としては、例えば、鉄、銅、黄銅、ステンレス鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0013】
金属容器の表面上に形成されている着色塗膜に使用される塗料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタン塗料、アクリル塗料、エポキシ塗料、エポキシウレタン塗料、ポリエステル塗料などが挙げられる。前記塗料の中では、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、アクリル塗料が好ましい。また、金属容器の表面上に形成されている着色塗膜の膜厚についても特に限定がなく、その金属容器の用途などに応じて適宜設定することが好ましいが、当該着色塗膜の膜厚は、通常、15〜30μm程度である。
【0014】
表面上に着色塗膜を有する金属容器の当該表面上に形成される透明ガラス質塗膜は、例えば、オルガノポリシロキサン、アルコキシシランおよび有機金属化合物を含有する塗料を用いて形成させることができる。
【0015】
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、式(I):
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数7〜18のアラルキル基を示す)
で表されるシロキサニル基を有するオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。シロキサニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
式(I)で表されるシロキサニル基を有するオルガノポリシロキサンにおいて、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数7〜18のアラルキル基である。したがって、R1とR2とは、それぞれ同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。R1とR2との組合せとしては、例えば、R1が炭素数1〜12のアルコキシ基であり、R2が炭素数1〜12のアルキル基である組合せ、R1が炭素数1〜12のアルコキシ基であり、R2が炭素数6〜18のアリール基である組合せ、R1およびR2のいずれもが炭素数1〜12のアルコキシ基である組合せなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、アミノ基などの置換基を有していてもよい。
【0019】
1およびR2のうちの少なくとも1つの基は、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成させる観点から、炭素数1〜12のアルコキシ基または炭素数6〜18のアリールオキシ基であることが好ましく、炭素数1〜12のアルコキシ基であることがより好ましい。また、塗膜に撥水性および撥油性を付与する観点から、R1およびR2のうちの少なくとも1つの基は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基または炭素数7〜18のアラルキル基であることが好ましい。したがって、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成させるとともに、形成された塗膜に撥水性および撥油性を付与する観点から、R1が炭素数1〜12のアルコキシ基であり、R2が炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基または炭素数7〜18のアラルキル基であることが好ましい。
【0020】
炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アルキル基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0021】
炭素数1〜12のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アルコキシ基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がより好ましい。
【0022】
炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アリール基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0023】
炭素数6〜18のアリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アリールオキシ基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数6〜12のアリールオキシ基が好ましい。
【0024】
炭素数7〜18のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アラルキル基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数7〜12のアラルキル基が好ましい。
【0025】
オルガノポリシロキサン1分子中における式(I)で表されるシロキサニル基の数は、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、好ましくは1〜400、より好ましくは1〜200、さらに好ましくは3〜100、より一層好ましくは5〜50である。
【0026】
また、式(I)で表されるシロキサニル基を有するオルガノポリシロキサンの末端基としては、例えば、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基、炭素数7〜18のアラルキル基、シリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数6〜18のアリールオキシ基および炭素数7〜18のアラルキル基としては、前記で例示したものを挙げることができる。
【0027】
前記シリル基としては、例えば、シリル基をはじめ、メチルシリル基、エチルシリル基、プロピルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジプロピルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基などの炭素数1〜4のアルキル基を1〜3個有するシリル基;メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジエトキシシリル基、ジプロポキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基などの炭素数1〜4のアルコキシ基を1〜3個有するシリル基;メトキシメチルシリル基、エトキシメチルシリル基、プロポキシメチルシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジプロポキシメチルシリル基、トリメトキシメチルシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基、プロポキシジメチルシリル基などの炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜4のアルキル基を有するシリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0028】
式(I)で表されるシロキサニル基を有するオルガノポリシロキサンの末端基のなかでは、硬質塗膜を形成する観点から、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基およびシリル基が好ましく、炭素数1〜12のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がさらに好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基が特に好ましい。
【0029】
アルコキシシランとしては、例えば、式(II):
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、R3は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数7〜18のアラルキルオキシ基、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基または炭素数7〜18のアラルキル基を示す)
で表されるアルコキシシランなどが挙げられる。アルコキシシランは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
式(II)において、R3は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜18のアリールオキシ基または炭素数7〜18のアラルキルオキシ基である。R3は、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基または炭素数7〜18のアラルキル基であることが好ましい。
【0033】
式(II)において、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基または炭素数7〜18のアラルキル基である。したがって、R4、R5およびR6は、それぞれ同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0034】
式(II)において、R3、R4、R5およびR6のうちの少なくとも1つの基は、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましい。
【0035】
式(II)において、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アルキル基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。
【0036】
式(II)において、炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アリール基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0037】
式(II)において、炭素数7〜18のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アラルキル基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数7〜12のアラルキル基が好ましい。
【0038】
式(II)において、炭素数1〜12のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アルコキシ基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
【0039】
式(II)において、炭素数6〜18のアリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アリールオキシ基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数6〜12のアリールオキシ基が好ましい。
【0040】
式(II)において、炭素数7〜18のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、フェニルエチルオキシ基、メチルベンジルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基などが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。前記アラルキルオキシ基のなかでは、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、炭素数7〜12のアラルキルオキシ基が好ましい。
【0041】
式(II)で表されるアルコキシシランの好適な例としては、メトキシメチルシラン、エトキシメチルシラン、プロポキシメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジプロポキシメチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、プロポキシジメチルシラン、イソオクチルトリメトキシシランなどの炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜12のアルキル基を有するシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシランは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
アルコキシシランの量は、オルガノポリシロキサン100重量部あたり、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、の観点から、好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上であり、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、好ましくは80重量部以下、より好ましくは60重量部以下である。
【0043】
有機金属化合物は、オルガノポリシロキサンおよびアルコキシシランの硬化剤としての性質を有するものである。
【0044】
有機金属化合物としては、例えば、式(III):
(R7)M(R8) (III)
(式中、Mは金属原子、R7は炭素数1〜10のアルキル基、R8は炭素数1〜18のアシルオキシ基または炭素数1〜8のアルコキシ基、mはR7の個数を示す0または正の整数、nはR8の個数を示す0または正の整数であり、mとnとの和はMの原子価を示す)
で表されるアルキル金属脂肪酸塩や金属アルコキシドなどが挙げられる。当該有機金属化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
式(III)において、Mは、金属原子である。好適な金属原子としては、例えば、チタン、スズ、ジルコニウム、アルミニウム、コバルトなどが挙げられる。これらのなかでは、硬化速度を高め、塗膜性能を向上させる観点から、チタン、スズおよびアルミニウムが好ましい。
【0046】
式(III)において、R7は、炭素数1〜10のアルキル基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、エチルヘキシル基、n−オクチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。R7のなかでは、炭素数6〜10のアルキル基が好ましい。
【0047】
式(III)において、Rは、炭素数1〜18のアシルオキシ基または炭素数1〜8のアルコキシ基である。炭素数1〜18のアシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ヘプタノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ドデカノイルオキシ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。Rのなかでは、炭素数10〜14のアシルオキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
【0048】
式(III)において、mはR7の個数を示す0または正の整数である。nは、R8の個数を示す0または正の整数である。mとnとの和は、金属原子Mの価数を示す。
【0049】
有機金属化合物の量は、アルコキシシラン1モルあたり、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成する観点から、好ましくは0.001〜1.5モルであり、より好ましくは0.01〜1.0モルである。
【0050】
前記塗料は、オルガノポリシロキサン、アルコキシシランおよび有機金属化合物を混合することによって調製することができるが、必要により、有機溶媒を用いることができる。
【0051】
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、イソノナンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
有機溶媒の量は、特に限定されないが、通常、分散安定性を向上させる観点から、塗料における不揮発分の含有量が10重量%以上、好ましくは15重量%以上となり、塗工性を向上させる観点から40重量%以下、好ましくは30重量%以下となるように調整することが望ましい。
【0053】
なお、前記塗料には、必要により、形成される塗膜の平滑性を向上させるとともに、着色塗膜に対する濡れ性を向上させる観点から、表面平滑剤を用いることが好ましい。
【0054】
表面平滑剤としては、例えば、イソパラフィン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリットなどの炭化水素化合物、ヘプタノール、オクタノールなどのアルコール系溶媒、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。表面平滑剤のなかでは、形成される塗膜の平滑性を高める観点から、イソパラフィン系炭化水素化合物が好ましい。イソパラフィン系炭化水素化合物としては、形成される塗膜の平滑性を高める観点から、炭素数9〜12のイソパラフィン、ソルベントナフサ、ミネラルスピリットなどが好ましい。
【0055】
表面平滑剤の量は、オルガノポリシロキサン、アルコキシシランおよび有機金属化合物の合計量100重量部あたり、表面平滑性を高める観点から、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上、さらに好ましくは5重量部以上であり、耐摩耗性および耐衝撃性に優れた塗膜を形成するとともに、塗工時に塗料の液だれが生じることを抑制する観点から、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。
【0056】
透明ガラス質塗膜は、例えば、金属容器の表面上に形成されている着色塗膜上に前記塗料を塗布することによって形成させることができる。
【0057】
前記塗料を塗布する方法としては、例えば、エアースプレー法、ロールコーター法、フローコーター法、ディッピング法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。塗膜を形成させた後、形成された塗膜を乾燥させることにより、透明ガラス質塗膜を形成させることができる。形成された塗膜の乾燥は、そのまま大気中に放置することによって行なうことができるほか、例えば、50〜100℃程度の温度で10〜30分間程度加熱することによって行なうことができる。
【0058】
形成される乾燥後の透明ガラス質塗膜の厚さは、金属容器の種類などによって異なるので一概には決定することができないことから当該金属容器の種類に応じて適宜調整することが好ましいが、通常、3〜20μm程度である。
【0059】
以上のようにして得られる金属容器の表面上に形成されたガラス質塗膜は、耐摩耗性、耐衝撃性などに優れているので、当該ガラス質塗膜が表面上に形成されている金属容器は、例えば、高圧ガスボンベなどに好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
製造例1
基材として、縦100mm、横100mm、厚さ3mmのマンガン鋼板を用い、この鋼板の一方表面上に、白色ウレタン塗料〔大日本塗料(株)製、商品名:ビューウレタンSS〕を乾燥後の塗膜の厚さが30μm程度となるように塗布し、70℃の大気中で30分間加熱した後、7日間大気中で放置することによって自然乾燥させて塗膜を形成させ、従来の塗膜が形成されている基材を得た。
【0062】
製造例2
製造例1で用いた白色ウレタン塗料〔大日本塗料(株)製、商品名:ビューウレタンSS〕の代わりに白色アクリル樹脂系塗料〔(株)フェクト製、商品名:SSコート水性〕を用いたこと以外は製造例1と同様にして、従来の塗膜が形成されている基材を得た。
【0063】
実施例1
式(I)において、Rがメトキシ基、Rがメチル基、末端基がメチル基およびオルガノポリシロキサン1分子中におけるシロキサニル基の平均数が20であるオルガノポリシロキサン12.5g、メチルトリメトキシシラン5.0g、スズテトライソプロポキシド0.75g、チタンテトライソプロポキシド0.2g、有機溶媒としてトルエン50gおよびミネラルスピリット20gを混合することにより、塗料を調製した。
【0064】
次に、製造例1で得られた基材の塗膜上に、乾燥後の塗膜の厚さが10μm程度となるように前記塗料を塗布し、70℃で30分間加熱した後、7日間大気中で放置することによって自然乾燥させて塗膜を形成させ、透明ガラス質塗膜が形成されている試験片2枚を作製した。
【0065】
実施例2
式(I)において、Rメトキシ基、Rがメチル基、末端基がアルコキシ基およびオルガノポリシロキサン1分子中におけるシロキサニル基の平均数が40であるオルガノポリシロキサン12.5g、イソオクチルトリメトキシシラン5.0g、ジオクチルスズラウレート0.75g、チタンテトライソプロポキシド0.2g、有機溶媒としてトルエン50gおよびミネラルスピリット20gを混合することにより、塗料を調製した。
【0066】
次に、実施例1と同様にして、製造例1で得られた基材の塗膜上に前記塗料を塗布し、透明ガラス質塗膜が形成されている試験片2枚を作製した。
【0067】
実施例3
式(I)において、Rがメトキシ基、Rがメチル基、末端基がメチル基およびオルガノポリシロキサン1分子中におけるシロキサニル基の平均数が20であるオルガノポリシロキサン12.5g、メチルトリメトキシシラン5.0g、スズテトライソプロポキシド0.18g、チタンテトライソプロポキシド0.05g、有機溶媒としてトルエン50gおよびミネラルスピリット20gを混合することにより、塗料を調製した。
【0068】
次に、製造例2で得られた基材の塗膜上に、乾燥後の塗膜の厚さが10μm程度となるように前記塗料を塗布し、70℃で30分間加熱した後、7日間大気中で放置することによって自然乾燥させて塗膜を形成させ、透明ガラス質塗膜が形成されている試験片2枚を作製した。
【0069】
実施例4
式(I)において、Rメトキシ基、Rがメチル基、末端基がアルコキシ基およびオルガノポリシロキサン1分子中におけるシロキサニル基の平均数が40であるオルガノポリシロキサン12.5g、イソオクチルトリメトキシシラン5.0g、ジオクチルスズラウレート0.18g、チタンテトライソプロポキシド0.05g、有機溶媒としてトルエン50gおよびミネラルスピリット20gを混合することにより、塗料を調製した。
【0070】
次に、実施例3と同様にして、製造例2で得られた基材の塗膜上に前記塗料を塗布し、透明ガラス質塗膜が形成されている試験片2枚を作製した。
【0071】
参考例1
製造例1で得られた基材を比較用の試験片とし、その試験片2枚を作製した。
【0072】
参考例2
製造例2で得られた基材を比較用の試験片とし、その試験片2枚を作製した。
【0073】
実験例
実施例1、実施例2、参考例1および参考例2で得られた各試験片を用い、各試験片に形成されている塗膜の物性を以下の方法に基づいて評価した。その結果を表1に示す。
【0074】
〔耐摩耗性〕
JIS K7204に記載の摩耗輪による摩耗試験方法に準じて評価した。気温18〜19℃、相対湿度55〜58%の雰囲気中で、テーバー摩耗試験機〔東洋精機(株)製、MODEL5130〕に摩耗輪CS−10を取り付け、荷重500gで250回試験片を回転させ、試験片の試験前後の質量を測定し、摩耗損失量を求めた。
【0075】
〔耐衝撃性〕
各塗板を、温度20℃±1、相対湿度75±2%の恒温恒湿室内で24時間放置した後、JIS K5600−5−3(1999)に規定のデュポン衝撃試験器を用いて試験片の塗膜を上向きにし、質量500gのおもりを20cmの高さから撃心(1/2インチ)の上に落とし、塗膜に割れまたは剥がれが発生しているかどうかを確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:形成されている塗膜に割れおよび剥がれの発生が認められない。
×:形成されている塗膜に割れまたは剥がれの発生が認められる。
【0076】
〔透明性〕
各実施例で得られた各試験片を用いて形成されている塗膜を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:形成されているガラス質塗膜が透明であり、鋼板の表面上に形成されている白色ウレタン塗料の塗膜を明確に認識することができる。
△:形成されているガラス質塗膜がやや濁りのある透明であり、鋼板の表面上に形成されている白色ウレタン塗料の塗膜を認識することができる。
×:形成されているガラス質塗膜が不透明である。
【0077】
〔シールラベル粘着特性〕
縦50mm、横50mmのシールラベル〔小林クリエイト(株)〕を試験片に貼り付け、室内で7日間経過後、当該シールラベルを剥がしたときの状態を観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:シールラベル全体が密着しているが、一度で全体を剥がすことができる。
△:シールラベル全体が密着しているが、一度で剥がすことができず、ラベルが破れて数度に分けて剥がす必要がある。
×:シールラベル全体が密着しているが、容易に剥がすことができず、ラベルが破れて剥がれない紙片が残る。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示された結果から、実施例1および2で得られた試験片は、透明ガラス質塗膜が形成されているので、参考例1で得られた試験片と対比して、耐摩耗性が格段に向上し、さらに耐衝撃性にも優れていることがわかる。また、実施例3および4で得られた試験片についても、実施例1および2で得られた試験片と同様に透明ガラス質塗膜が形成されているので、参考例2で得られた試験片と対比して、耐摩耗性が格段に向上するとともに、製造例2で得られた基材が有している耐衝撃性が損なわれずに維持されていることがわかる。
【0080】
また、各実施例でえられた試験片は、いずれも、シールラベル粘着特性の測定結果から、実用上支障なくシールラベルを試験片の表面上に密着させることができるとともに、所望により試験片から容易に剥がすことができることがわかる。
【0081】
したがって、各実施例で得られた透明ガラス質塗膜が形成された金属容器は、金属容器を運搬したり、取り扱うときに他の部材と衝突したり、擦れたりすることにより、塗膜の破片や剥離片などが生じがたく、さらに塗膜の剥がれによって金属容器の金属面が露出し、腐食することも防止することができることから、例えば、クリーンルーム内などでも好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に着色塗膜を有する金属容器であって、当該金属容器の表面上にさらに透明ガラス質塗膜が形成されていることを特徴とする金属容器。
【請求項2】
透明ガラス質塗膜が、オルガノポリシロキサン、アルコキシシランおよび有機金属化合物を含有する塗料で形成されてなる請求項1に記載の金属容器。
【請求項3】
金属容器が、高圧ガスボンベである請求項1または2に記載の金属容器。

【公開番号】特開2012−42046(P2012−42046A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270087(P2010−270087)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】