説明

金属帯板の形状測定装置

【課題】金属帯板の形状を板幅端部まで精度良く測定でき、調整も容易で部品の交換だけで長期間使用できる金属帯板の形状測定装置を提供する。
【解決手段】金属帯板1が走行するラインに両端を回転自在に支持され金属帯板1に押し込むように設置されるロール10,100において、ロール10,100は、少なくとも1本以上の円周方向から傾斜した方向の溝21と溝21以外の部分であるランド部22が表面に形成された内側ロール20、又は、少なくとも2本以上の円周方向の溝201と溝201以外の部分であるランド部202が表面に形成された内側ロール200に円筒40を嵌合し、ランド部22,202にはロール10,100の軸方向に穴23を形成し、穴23にランド部22,202に作用する金属帯板1への押し込み荷重を測定するセンサー30を設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯板の形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属帯板の形状測定装置における形状測定ロールとして、例えば、下記特許文献1に開示されるように、回転自在に構成した1本の無垢ロールの表面近傍に軸方向に平行な穴を設け、この穴の中に金属帯板への押し込み荷重を測定するセンサーが設置されるものがある(下記特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2005−515456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては次の問題点が存在する。
(1)ロールは無垢ロールであって、金属帯板に押し込み運転すると表面が摩耗し傷が付き、これが製品帯板の表面の傷に繋がるため、定期的に表面を研磨しなげればならない。このため、軸方向と平行に設けた穴面と表面の距離は研磨ごとに小さくなる。しかし、穴に設けたセンサーは穴のつぶれ量で荷重を測定しているために穴面と表面の距離によって感度が大きく変わり研磨ごとに調整が必要になる。
【0005】
また、最初にこの距離を大きくしておくと穴がつぶれなくなり、センサーでの測定ができなくなるため、最初から距離を小さくしておかないといけないから、必然的に研磨代は小さくしなければならない。すなわち、高価なロールをわずか数ミリメータだけ研磨すると廃棄しなければならない。
【0006】
(2)軸方向に平行で胴長を貫通しない穴の先端付近にセンサーを設置すると、センサー位置の穴のつぶれは穴がない部分に拘束されて小さくなるため、センサーが感知する荷重が小さくなり形状測定精度が悪化する。
【0007】
(3)軸方向に平行で胴長を貫通する穴の途中にセンサーを設置すると、板縁付近の穴のつぶれは板縁より外側の部分に拘束されて小さくなるため、最も重要な板幅端部付近の形状測定精度が悪化する。
(4)ロール表面に設けた穴に設置する多数のセンサーの調整は軸端からしかできず、多くの労力と熟練を必要とする。
【0008】
以上のことから、本発明は、金属帯板の形状を板幅端部まで精度良く測定でき、調整も容易で部品の交換だけで長期間使用できる金属帯板の形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する第1の発明に係る金属帯板の形状測定装置は、
金属帯板が走行するラインに両端を回転自在に支持され該金属帯板に押し込むように設置されるロールにおいて、
該ロールは、
少なくとも1本以上の円周方向から傾斜した方向の溝と該溝以外の部分であるランド部が表面に形成された内側ロール、又は、少なくとも2本以上の円周方向の溝と該溝以外の部分であるランド部が表面に形成された内側ロールに円筒を嵌合し、
前記ランド部には前記ロールの軸方向に穴を形成し、該穴に前記ランド部に作用する前記金属帯板への押し込み荷重を測定するセンサーを設置する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属帯板の形状を板幅端部まで精度良く測定でき、調整も容易で部品の交換だけで長期間使用できる金属帯板の形状測定装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定装置の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本発明に係る金属帯板の形状測定装置の構造について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置の構造を示した透視側面図である。なお、図1においては、ハッチングが施されている部分は後述する形状測定ロール(ロール)10の軸方向における断面を示しており、破線で示した部分は後述する内側ロール20を側面から見たときに内側ロール20の内部に位置する部分であることを示している。
【0012】
図1に示すように、形状測定ロール10は、円周方向から傾斜した方向の溝21が表面に複数形成された内側ロール20を備えている。なお、溝21は1本形成するようにしてもよいし、軸方向に螺旋状に1本又は複数の溝を形成するようにしてもよい。また、溝21の底部の形状は、図1に示すような形状に限定されない。内側ロール20の表面の溝21が形成されていない部分はランド部22となっている。
【0013】
内側ロール20は、内部が中空となっている円筒40が嵌合されている。内側ロール20は、内側ロール20が回転自在となるように、内側ロール20の両端を軸受が内蔵された軸受箱50,51を介して支持架台60,61により支持されている。内側ロール20のランド部22の表面近傍には軸方向に穴23を形成する。穴23には、金属帯板1(図4,5,6参照)への押し込み荷重を測定するためのセンサー30が設置されている。
【0014】
なお、金属帯板1の巻き付け荷重を測定するセンサー30は、内側ロール20に円筒40を装着する前に設置する。また、ランド部22の穴23は両側の溝21に開口しているので、両側から細かい調整を容易に行うことができる。このため、センサー30の設置状態に伴う測定精度の低下を防ぐことができる。
【0015】
図2は、図1においてA−Aで示す断面における断面図である。
図2に示すように、第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、センサー30は円周方向に90度の間隔で設置されており、形状測定ロール10が1回転する間にセンサー30により4回測定することとなる。つまり、ランド部22は円周方向から傾斜しているので、円周方向に90°ピッチで設置したセンサー30は、軸方向ではランド部22のピッチの1/4づつずれていることになる。したがって、板幅方向では金属帯板1の張力をランド部22のピッチの1/4の短いピッチで測定することになる。なお、この測定回数は1回転中に1回以上であれば何回であっても良く、測定回数を増やす場合にはセンサー30を設置する円周方向のピッチを狭くすればよい。
【0016】
このように、第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、金属帯板1への押し込み荷重を測定するセンサー30はランド部22に形成された穴23に設置されているため、金属帯板1の幅方向の位置におけるランド部22の位置は、形状測定ロール10の回転とともに変化することとなる。すなわち、ランド部22に形成する穴23を複数形成することにより、センサー30による軸方向における測定間隔をランド部22の間隔よりも狭くすることができる。したがって、金属帯板1の形状を精度よく測定することができる。
【0017】
センサー30は、センサー30からの測定信号に基づき金属帯板1の形状を測定する演算処理装置(図示省略)と接続されている。なお、センサー30と演算処理装置との接続方法は、上記特許文献1等に示されるような従来周知の方法により接続すればよいため、接続方法についての詳細な説明は省略する。
【0018】
ここで、第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置における金属帯板1の形状測定原理について説明する。
金属帯板1には予め張力が付与されているが、金属帯板1の形状が均一でない場合、板幅方向全体の平均張力と各位置の張力とにずれが生じる。このため、形状測定ロール10を張力を付与した金属帯板1に押し込むと、各位置の張力に比例した反力(押し込み力)が形状測定ロール10に作用する。
【0019】
形状測定ロール10は内部のランド部22に設置したセンサー30でこの反力(押し込み力)を測定し、各位置の張力は各反力の測定値から演算して求める。そして、金属帯板1の形状は各位置における張力と板幅方向全体の平均張力との差に比例するため、まず板幅方向全体の測定値を平均して平均張力を求め、次に平均張力と各位置の張力との差を演算し、この演算結果から金属帯板1の形状に変換することで、金属帯板1の形状を測定することができる。
【0020】
上述したように、張力を付与した金属帯板1に形状測定ロール10を押し込むと、形状測定ロール10の表面にはその部分の張力に比例する押し込み荷重が作用する。そして、内側ロール20に形成された溝21の部分に位置する円筒40に作用する押し込み荷重と、ランド部22の部分に位置する円筒40に作用する押し込み荷重は、共にランド部22で受け持つことになる。
【0021】
ここで、ランド部22とその両側の各溝21の幅の半分の和を受け持ち幅ΔWとし、この受け持ち幅ΔWの部分の張力をσとする。測定荷重をP、巻き付け角をθ、金属帯板1の厚さをHとすると、張力σは下記式(1)により表すことができる。
σ=P/{2H・ΔW・sin(θ/2)} ・・・ (1)
そして、ランド部22の穴23に設置したセンサー30は、従来の内側ロール20に溝21が形成されない場合に比べ、大きな荷重を受けることとなるため、センサー30における測定精度を高めることができる。
【0022】
このように、第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、ランド部22の両側には溝21があるので、センサー30を設置する穴23のつぶれ量は従来の無垢ロールに形成される軸方向の穴(上記特許文献1参照)のように近傍の状態に拘束されることがない。このため、穴23のつぶれ量は金属帯板1の幅方向における位置に関わらず、ランド部22上の金属帯板1の幅方向における各位置に作用する荷重に比例するので、金属帯板1の幅方向の端部まで精度よく形状を測定することできる。
【0023】
また、第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、金属帯板1は、金属帯板1の幅方向の全体で円筒40と接触するため、金属帯板1の表面に傷等が生じることを防止することができる。なお、円筒40の肉厚が厚すぎる場合、円筒40の剛性によってセンサー30を設置した穴23のつぶれ量が減少してしまう。このため、金属帯板1の表面に傷等が生じることを防止することがでさえすれば円筒40の肉厚は薄い方がよく、例えば、円筒40の肉厚は20mm以下とすることが望ましい。
【0024】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置の構造を示した透視側面図である。なお、図3において、図1と同じの部位を指し示す符号については、図1と同一の符号を付するものとする。なお、図3においては、ハッチングが施されている部分は後述する形状測定ロール(ロール)100の軸方向における断面を示しており、破線で示した部分は後述する内側ロール200を側面から見たときに内側ロール200の内部に位置する部分であることを示している。
【0025】
図3に示すように、第2の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、形状測定ロール100における内側ロール200には、複数の円周方向の溝201が表面に複数形成されており、各溝201の間にはランド部202が形成されている。なお、その他の構成等については第1の実施形態と同様あるためここでの説明は省略する。
【0026】
このように、第2の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置においては、内側ロール200の円周方向に溝201及びランド部202を形成しているため、センサー30による軸方向における測定間隔は、各ランド部202の間隔と同じにすることができる。
【0027】
次に、本発明に係る金属帯板の形状測定装置における形状測定ロール10,100の配置例について説明する。
図4は、本発明に係る金属帯板の形状測定装置における形状測定ロール10,100を金属帯板1が走行するライン内に設置するための配置例を示した図である。
図4に示すように、形状測定ロール10,100の前後にデフレクターロール70,71を配置することにより、金属帯板1に形状測定ロール10,100を押し込むようにする。
【0028】
図5は、各圧延機80,81間に形状測定ロール10,100を設置した配置例を示した図である。
図5に示すように、金属帯板1は圧延機80,81により押えられているため、形状測定ロール10,100を圧延機80,81のパスラインよりも高くするだけで形状測定ロール10,100を金属帯板1に押し込むこととなる。なお、大きな巻き付け角を得たい場合には、形状測定ロール10,100の前方にデフレクターロール(図示省略)を設置するようにしても良い。
【0029】
図6は、圧延機82の出側へ形状測定ロール10,100を設置した配置例を示した図である。
図6に示すように、金属帯板1を巻き取っている巻き取り装置90は走行ラインよりも下側に位置しているため、デフレクターロール70,71(図4参照)を設置することなく形状測定ロール10,100を金属帯板1に押し込むことができる。
【0030】
以上のように本発明に係る金属帯板の形状測定装置によれば次の効果が得られる。
(1)金属帯板1への押し込み力を測定するセンサー30を設置する内側ロール20,200に円筒40を装着しているため、円筒40を研磨して廃棄する状態になっても、円筒40のみを交換すればよく、経済的でありながら常に安定した測定状態を保持することができる。
【0031】
(2)ランド部22,202は両側を溝21,201に挟まれているため、ランド部22,202を流れる金属帯板1への押し込み荷重による各ランド部22,202の変形は隣接するランド部22,202の影響を受けない。このため、金属帯板1の幅方向の端部の形状まで正確に測定することができる。
【0032】
(3)ランド部22,202が受ける金属帯板1への押し込み荷重は、ランド部22,202とその両側にある溝21,201の部分の合計となるため、荷重が増幅されてセンサー30による測定を容易にすることができる。
【0033】
(4)金属帯板1への押し込み荷重を測定するセンサー30は、内側ロール20,200に円筒40を装着する前に設置する。また、ランド部22,202に形成した穴23は両側の溝21,201に開口しているため、両側から細かい調整を容易に行うことができる。このため、センサー30の設置状態に伴う測定精度の低下を防ぐことができる。
【0034】
これらの効果により、金属帯板1の形状測定装置の測定精度が大きく向上するとともに、耐用年数も大幅に伸びるため、高品質な金属帯板1を安定して容易に製造できることとなり、このことによる利益は計り知れないものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、金属帯板が走行するライン内に設置される金属帯板の形状測定装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置の構造を示した透視側面図である。
【図2】図1においてA−Aで示す断面における断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る金属帯板の形状測定装置の構造を示した透視側面図である。
【図4】本発明に係る金属帯板の形状測定装置における形状測定ロールを金属帯板が走行するライン内に設置するための配置例を示した図である。
【図5】各圧延機間に形状測定ロールを設置した配置例を示した図である。
【図6】圧延機82の出側へ形状測定ロールを設置した配置例を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
1 金属帯板
10,100 形状測定ロール(ロール)
20 円周方向から溝とランド部をもつ形状測定ロールの内側ロール
21 内側ロールに設けた円周方向から傾斜した溝
22 内側ロールのランド部
23 ランド部に設けた穴
30 荷重測定センサー
40 内側ロールに嵌合した円筒
50,51 軸受を内蔵した軸受箱
60,61 軸受箱を保持する架台
70,71 走行する金属帯板を形状測定ロールに巻き付かせるためのデフレクターロール
80,81,82 圧延機
90 圧延された金属帯板の巻き取り装置
200 円周方向の溝とランド部をもつ形状測定ロールの内側ロール
201 内側ロールに設けた円周方向の溝
202 内側ロールのランド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯板が走行するラインに両端を回転自在に支持され該金属帯板に押し込むように設置されるロールにおいて、
該ロールは、
少なくとも1本以上の円周方向から傾斜した方向の溝と該溝以外の部分であるランド部が表面に形成された内側ロール、又は、少なくとも2本以上の円周方向の溝と該溝以外の部分であるランド部が表面に形成された内側ロールに円筒を嵌合し、
前記ランド部には前記ロールの軸方向に穴を形成し、該穴に前記ランド部に作用する前記金属帯板への押し込み荷重を測定するセンサーを設置する
ことを特徴とする金属帯板の形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−2183(P2010−2183A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158614(P2008−158614)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】