説明

金属微粒子の製造方法

【課題】所望の粒子径に制御された金属微粒子を簡便に製造することのできる、金属微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属化合物が溶解あるいは分散している液中で、ゼラチンの存在下、前記金属化合物が持つ金属イオンを還元することにより、金属微粒子を得る方法において、前記ゼラチンの種類を選択することによって前記金属微粒子の粒子径を制御することを特徴とする、金属微粒子の製造方法。粒子径の制御とともに粒子径分布の制御をも行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属微粒子の製造方法に関し、詳しくは、金属イオンを還元して金属微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子の製造方法としては、バルク金属を粉砕することによって微粒子を調製する物理法と、溶液中の金属イオンを還元することにより微粒子を調製する化学法(湿式法)が知られているが、均一な粒径の微粒子を得るためには化学法の方が一般に優れている。
【0003】
このような化学法として、例えば、少なくとも、銅イオン、ハロゲンイオンおよび有機物分散媒が溶解している還元反応溶液において、銅イオンの還元反応により粒子径が1〜500nmの範囲にある銅微粒子を析出させることを特徴とする銅微粒子の製造方法が知られている(特許文献1参照)。また、保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して金属微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする金属微粒子の製造方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−231564号公報
【特許文献2】特開2009−19256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術は、粒径が小さく、粒度分布が比較的狭く、分散安定性に優れ、かつ、デンドロイト化が抑制された銅微粒子を、簡便かつ大量に生成できる金属微粒子の製造方法であるとされ、上記特許文献2の技術は、一般的な湿式法により得られる保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液から保護コロイドを除去することで、金属微粒子を凝集させ、ろ過を容易とするものとされている。
【0006】
このように、従来技術としては、粒径を小さくすることや、金属微粒子の回収方法の改善などに関するものだけであり、粒子径を広範囲で制御するための方法については一切提案されてこなかったのであるが、金属微粒子の粒径は、如何なる用途に用いるかなどによって求められる値が異なるものであり、今後は、目的に応じて粒子径を制御することが必要となってくる。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、所望の平均粒子径に制御された金属微粒子を簡便に製造することのできる、金属微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、金属化合物が溶解あるいは分散している液中で、ゼラチンの存在下、前記金属化合物が持つ金属イオンを還元することにより、金属微粒子を得る方法において、前記保護コロイドとして加水分解の有無や程度、および/または、化学修飾の有無や内容が異なるゼラチンを用いたとき、すなわち、種類の異なるゼラチンを用いたとき、その種類によって、得られる金属微粒子の平均粒子径が相関的に変動することを見出し、その確認を経て、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる金属微粒子の製造方法は、金属化合物が溶解あるいは分散している液中で、ゼラチンの存在下、前記金属化合物が持つ金属イオンを還元することにより、金属微粒子を得る方法において、前記ゼラチンの種類を選択することによって前記金属微粒子の粒子径を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
以下において、「ゼラチン」とは、抽出したままの状態のゼラチンのみでなく、これを加水分解して低分子量化したものや、これらのゼラチンに対して化学修飾を施したもの、のすべてを含む概念であり、特に断る必要があるときにのみ、「加水分解ゼラチン」とか「修飾ゼラチン」とか言うこととする。また、金属化合物とは、錯体をも含む概念であり、金属化合物が持つ金属イオンとは、錯イオンをも含む概念である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望の平均粒子径に制御された金属微粒子を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図2】本発明の実施例2で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図3】本発明の実施例3で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図4】本発明の実施例4で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図5】本発明の実施例5で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図6】本発明の実施例6で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【図7】本発明の実施例7で得られた各金属微粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0014】
〔金属化合物〕
本発明にかかる金属微粒子の製造方法は、遷移金属元素、典型金属元素のいずれにも適用でき、例えば、種々の用途に汎用的に用いられている、周期表第VIII族に属する鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金や、周期表第IB族に属する銅、銀、金などへの適用が好ましい。中でも、導電性に優れる金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケルが好ましく、銅、銀、ニッケルがより好ましく、特に、廉価な銅が好ましい。また、これらは、1種に限らず、2種以上組み合せても良く、合金であっても良い。
【0015】
本発明にかかる金属微粒子の製造方法では、金属化合物が持つ金属イオンを還元することにより金属微粒子を得るようにするが、本発明により得ようとする金属微粒子の種類に応じて、例えば、上記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、酸化物などの金属化合物を水系溶剤あるいは有機溶剤に溶解あるいは分散させるようにする。
【0016】
前記溶液に錯化剤を添加しても良く、この場合、前記錯化剤としては、特に限定されないが、例えば、配位子のドナー原子が、金属イオンまたは金属と結合して金属錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄などが挙げられる。
【0017】
窒素がドナー原子である錯化剤としては、アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミンなどの1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、および、ピペリジン、ピロリジンなどのイミン類などの2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどの3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するものなど)、窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジンなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)およびシアン化合物、アンモニアおよびアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなど)、オキシム類などが挙げられる。
【0018】
酸素がドナー原子である錯化剤としては、カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などのオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸などのモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸などのジカルボン酸類、安息香酸などの芳香族カルボン酸類など)、ケトン類(例えば、アセトンなどのモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトンなどのジケトン類など)、アルデヒド類、アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類など)、キノン類、エーテル類、リン酸(正リン酸)およびリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸など)、スルホン酸またはスルホン酸系化合物などが挙げられる。
【0019】
硫黄がドナー原子である錯化剤としては、脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタンなど)、脂環式チオール類(シクロヘキシルチオールなど)、芳香族チオール類(チオフェノールなど)、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピランなど)、チオシアナート類およびイソチオシアナート類、無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素など)などが挙げられる。
【0020】
2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、アミノ酸類(ドナー原子が窒素および酸素:例えば、グリシン、アラニンなどの中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸類)、アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素および酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)など)、アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素および酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど)、ニトロソ化合物およびニトロシル化合物(ドナー原子が窒素および酸素)、メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄および酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸など)、チオグリコール類(ドナーが硫黄および酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコールなど)、チオン酸類(ドナーが硫黄および酸素)、チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄および酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、アミノチオール類(ドナーが硫黄および窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミンなど)、チオアミド類(ドナー原子が硫黄および窒素:例えば、チオホルムアミドなど)、チオ尿素類(ドナー原子が硫黄および窒素)、チアゾール類(ドナー原子が硫黄および窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾールなど)、含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素および酸素:システイン、メチオニンなど)などが挙げられる。
【0021】
上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウムなどのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸などのエステルなどが挙げられる。
【0022】
〔ゼラチン〕
本発明に用いるゼラチンは、牛や豚などの哺乳動物の骨、皮部分や、サメやティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する原料から従来公知の方法で得ることができ、具体的には、例えば、熱水抽出、アルカリ処理、酸処理などによって得ることができる。
【0023】
本発明は、ゼラチンの種類を選択することによって、得られる金属微粒子の粒子径を制御する点に特徴を有するが、ゼラチンの種類を選択することには、例えば、ゼラチンの平均分子量の大小の選択や、ゼラチンに対する化学修飾の有無の選択か、および/または、化学修飾の内容の選択や、ゼラチンを得るための原料の種類の選択などが含まれる。
【0024】
加水分解ゼラチンは、コラーゲンに抽出処理を行った後に加水分解処理することにより得ることができる。加水分解ゼラチンを得るための加水分解方法としては、従来公知の方法が採用でき、例えば、酵素を用いる方法、酸やアルカリで化学的に処理する方法などによって加水分解を行うことができる。
【0025】
前記酵素としては、ゼラチンのペプチド結合を切断する機能を有する酵素であればよい。通常、タンパク質分解酵素あるいはプロアテーゼと呼ばれる酵素である。具体的には、例えば、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼなどが挙げられ、これらを単独あるいは複数種類を組み合わせて使用することができる。
【0026】
前記チオールプロテアーゼとしては、例えば、植物由来のキモパパイン、パパイン、プロメライン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼなどが挙げられる。前記セリンプロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンDなどが挙げられる。前記酸性プロテアーゼとしては、ペプシン、キモシンなどが挙げられる。
【0027】
前記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。
【0028】
前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0029】
酵素を用いる場合、加水分解処理前のゼラチン100重量部に対して0.01〜5重量部用いることが好ましく、加水分解の温度条件としては30〜70℃、処理時間としては0.5〜24時間が好ましい。
【0030】
酸またはアルカリを用いる場合、ゼラチン溶液をpH3以下またはpH10以上とすることが好ましく、加水分解の温度条件としては50〜90℃、処理時間としては1〜8時間が好ましい。
【0031】
酵素により加水分解した場合には、処理後に酵素失活を行う。酵素失活は加熱により行うことができ、加熱温度としては、例えば、70〜100℃である。
【0032】
酸やアルカリにより加水分解した場合には、中和剤による中和やイオン交換樹脂などによる脱塩を行う。
【0033】
前記加水分解処理を終えた段階では、加水分解ゼラチンは加水分解処理液中に溶解あるいは分散した状態である。この溶液に、通常採用される各種の精製処理を施すことができる。
【0034】
前記精製処理としては、特に限定されないが、例えば、活性炭を添加することにより色調、風味の改良、不純物除去を行ったり、ろ過や遠心分離などの従来公知の固液分離処理を施して不純物除去を行ったりすることができる。
【0035】
本発明で用いる上記ゼラチンは、化学修飾がなされたもの、すなわち、ゼラチンが持つ各アミノ酸残基の側鎖や、末端アミノ基、末端カルボキシル基などが化学的に修飾されたものであっても良い。
【0036】
本発明者の検討によって、ゼラチンに対する化学修飾の有無や内容に基づく金属微粒子の粒子径制御に関し、窒素元素や硫黄元素、特に硫黄元素の存在が重要な役割を果たすということ、具体的には、これらの元素、特に硫黄元素が多く存在するゼラチンほど粒子径の大きな金属微粒子が得られるということが今回初めて判明した。この知見によれば、窒素元素や硫黄元素を有する化合物、特に硫黄元素を有する化合物による化学修飾が、平均粒子径の制御に有効である。このような化合物によってゼラチンが持つアミノ酸残基の側鎖を化学修飾し、例えば、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、ニトリル基、イソニトリル基、ジイミド基、シアノ基、イソシアネート基、ニトロ基などの窒素元素を含む官能基、チオール基、スルホン基、スルフィド基、ジスルフィド基などの硫黄元素を含む官能基、チオイソシアネート基、チオアミド基などの窒素元素と硫黄元素の両方を含む官能基を導入することで、その官能基の種類や量により、得られる金属微粒子の平均粒子径を様々に制御できる。
【0037】
一般的な化学修飾の手法として、例えば、ゼラチン水溶液に水溶性カルボジイミドを添加して、ゼラチンが持つカルボキシル基を活性化し、そこに任意のアミノ化合物を反応させてアミド化する方法が採用できる。この方法によって、例えば、メチオニンなどの硫黄元素を含有するアミノ酸やリジンなどの窒素元素を含有するアミノ酸を簡易に導入することができる。前記水溶性カルボジイミドとしては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミド・p−トルエンスルホン酸塩(CMC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などが挙げられる。
【0038】
本発明に適用できるゼラチンとしては、加水分解処理がなされ、かつ、化学修飾がなされたものであってもよいが、この場合、加水分解した後に化学修飾したものであってもよいし、化学修飾した後に加水分解したものであっても良い。
【0039】
本発明では、ゼラチンの平均分子量の大小を選択することにより金属微粒子の平均粒子径を制御することができるが、平均分子量の大小は、重量平均分子量や数平均分子量などの測定方法によらず、いずれを基準にしても良い。具体的には、例えば、用いるゼラチンの重量平均分子量は2000〜200000であることが好ましい。また、ゼラチンの数平均分子量は200〜60000であることが好ましい。平均分子量が小さすぎると保護コロイドとしての機能が充分に果たせないおそれがあり、平均分子量が大きすぎると平均粒子径の制御が困難となるおそれや、また、保護コロイドの示す有機含有量が多くなりすぎるおそれがある。ゼラチンの重量平均分子量は、より好ましくは150000以下であり、さらに好ましくは100000以下であり、特に好ましくは5000〜20000である。また、ゼラチンの数平均分子量は、より好ましくは50000以下であり、さらに好ましくは30000以下であり、特に好ましくは500〜20000である。このように、加水分解により低分子量化された加水分解ゼラチンが好ましい理由は、このようなゼラチンを用いれば、得られる金属微粒子の粒子径分布のばらつきが小さいものとなるからである。なお、本発明における「平均分子量」は、実施例において後述する「パギイ法」によって測定される値である。
【0040】
本発明では、ゼラチンの量をも選択することによって、よりきめ細やかな粒子径制御が可能である。特に限定されないが、例えば、その添加量を、金属化合物100重量部に対し5〜60重量部の範囲とすることができる。
【0041】
〔還元処理〕
本発明にかかる金属微粒子の製造方法における還元処理としては、特に限定されず、例えば、還元剤を添加することによって行っても良いし、還元剤を用いない電解還元などによる還元処理であっても良い。
【0042】
前記還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジンなどのヒドラジン系還元剤や、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、アルデヒド類、アルコール類、アミン類、糖類などが挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。還元剤の還元作用を促すために、必要に応じて、温度やpHを調整するようにしても良い。例えば、還元温度は10〜50℃が好ましく、pHは11.5〜12.5が好ましい。また、還元剤の使用量は、金属イオンを還元するのに適した量であれば、特に限定されず、例えば、金属化合物に含まれる金属元素1モルに対し0.2〜5モルの範囲とすることができる。
【0043】
電解還元を行う場合、陰極材料としては、白金、カーボンなどの棒状、板状電極、ドット電極のようなナノ構造電極が例示でき、陽極としては、銅、カーボン、白金などの棒状・板状・網状の形状電極が例示できる。なお、陰極表面付近に析出した粒子を脱離、回収するために陰極に超音波振動などの揺動を与えることが可能な構造とすることもできる。電流密度は好ましくは0.01〜100kA/dm、より好ましくは0.1〜50kA/dm程度であり、直流のほかパルス電流とすることもできる。還元温度は、10〜70℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。還元温度は、高温になるほど還元反応速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒径は小さくなる傾向がある。
【0044】
具体的には、例えば、上記した電極を有する浴中に、金属イオン、保護コロイド、錯化剤などを含む溶液を調製し、上記した条件で電解還元反応を行い、還元反応終了後、カソード表面付近に析出した金属微粒子を回収する。
【0045】
いずれの還元処理を採用する場合においても、ハロゲンイオン存在下で行うことにより、デンドロイト状の凝集を抑制し、粒子径分布の狭い金属微粒子が得られやすいので、これにより、金属微粒子の粒子径分布を制御することができる。ハロゲンイオンは、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンおよび沃素イオンから選択される1種または2種以上であり、イオン性ハロゲン化物が該ハロゲンイオンの供給源となることができ、その具体例としては、塩化水素、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化水素、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化第一銅、臭化第二銅、沃化水素、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化第一銅、沃化第二銅、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化第一銅、フッ化第二銅、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化アンモニウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化アンモニウム、沃化カルシウム、沃化バリウム、沃化アンモニウム、弗化アンモニウムなどが挙げられる。これらは2種以上であってもよい。上記ハロゲンイオンのうち特に好ましいのは、塩素イオンである。ハロゲンイオンの濃度は、溶液中において0.002〜1.0モル/リットル(L)が好ましい。ハロゲンイオンの濃度が前記0.002モル/L未満では一価ないし二価の銅イオン性化合物の混入という不都合を生じ、1.0モル/Lを超えるとハロゲンイオンの除去に不都合を生じる場合がある。より好ましいハロゲンイオンの濃度は、0.005〜0.2モル/Lである。
【0046】
また、いずれの還元処理を採用した場合においても、金属微粒子を析出させた後は、ろ過や遠心分離などによる金属微粒子の回収、洗浄、乾燥などの通常の処理を行うことができる。
【0047】
〔金属微粒子の用途〕
本発明にかかる金属微粒子の製造方法により得られる金属微粒子は、所望の平均粒子径を有するものであり、金属微粒子が使用される一般的な用途、例えば、塗料、インキ、金属微粒子ペーストなどとして好適に利用できる。より具体的には、平均粒子径が10〜50nmのものであれば塗料などに好適に利用でき、平均粒子径が30〜500nmのものであれば金属微粒子ペーストなどに好適に利用できる。なお、ここにいう平均粒子径の値は、後述の実施例記載の方法で測定される値を基準としている。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
下記実施例において、ゼラチンの平均分子量、金属微粒子の平均粒子径は、以下の測定方法により算出した値である。
【0050】
<ゼラチンの平均分子量>
ゼラチンやその加水分解物の重量平均分子量や数平均分子量は、パギイ法により測定した。ここで「パギイ法」とは、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過法によって、試料溶液のクロマトグラムを求め、分子量分布を推定する方法である。具体的には、以下の方法により測定した。
【0051】
試料2.0gを100mL容メスフラスコに取り、0.1Mリン酸二水素カリウムと0.1Mリン酸水素二ナトリウムの等量混合液からなる溶離液を加えて1時間膨張させた後、40℃で60分間加熱して溶かし、室温に冷却後、溶離液を正確に10倍に希釈して、得られた溶液を検液とした。
【0052】
前記検液のクロマトグラムを以下のゲル濾過法により求めた。
【0053】
カラム:Shodex Asahipak GS 620 7Gを2本直列に装着したものを用いた。
【0054】
流速:1.0mL/分
カラム温度:50℃
測定波長:230nm
分子量既知のプルラン(P−82、昭和電工社製)で溶出時間を求めて検量線を作成した。その後、ゼラチンを分析し、検体の重量平均分子量と数平均分子量を下式から求めた。下式において、Siは各ポイントでの吸光度、Miは溶出時間Tiでの分子量である。
【0055】
重量平均分子量=(ΣSi×Mi)/ΣSi
数平均分子量=ΣSi/(ΣSi/Mi)
<金属微粒子の平均粒子径>
SEM写真観察により視野から無作為に粒子を選択して平均粒子径を求めた。
【0056】
〔製造例1〕
「G−0749K」(魚由来のゼラチン、重量平均分子量110000、数平均分子量24000、新田ゼラチン社製)200gを50℃の温水1800gに溶解し、WSC(水溶性カルボジイミド、同仁化学社製)46gを添加し、さらにメチオニン48gを添加して、50℃、pH7.0の条件で2時間反応させた。つぎに、化学修飾後のゼラチン90gを60℃の温水210gに溶解した。前記ゼラチンゾルにパパイン(タンパク質分解酵素、メルク社製)9mgを添加し、前記酵素の加水分解最適条件下となるように温度60℃、pH7.0に調整して、90分間加水分解処理を行った後、ゾルを75℃に加熱することにより、酵素を失活させた。
【0057】
酵素を失活後、乾燥・粉末化し、化学修飾および加水分解がなされたゼラチンを得た。
【0058】
得られたゼラチンの重量平均分子量は9600、数平均分子量は2100であった。
【0059】
〔製造例2〕
製造例1において、メチオニン48gに代えて、リジン44gを用いた以外は同様にして、化学修飾および加水分解がなされたゼラチンを得た。このゼラチンの重量平均分子量は9100、数平均分子量は2200であった。
【0060】
〔製造例3〕
「G−0749K」(魚由来のゼラチン、重量平均分子量110000、数平均分子量24000、新田ゼラチン社製)90gを60℃の温水210gに溶解した。前記ゼラチンゾルにパパイン(タンパク質分解酵素、メルク社製)9mgを添加し、前記酵素の加水分解最適条件下となるように温度60℃、pH7.0に調整して、90分間加水分解処理を行った後、ゾルを75℃に加熱することにより、酵素を失活させた。
【0061】
酵素を失活後、乾燥・粉末化し、加水分解ゼラチンを得た。
【0062】
得られたゼラチンの重量平均分子量は12500、数平均分子量2700であった。
【0063】
〔製造例4〕
製造例3において、酵素量を27mg、加水分解処理時間を100分間に変更したこと以外は同様にして、重量平均分子量5900、数平均分量700の加水分解ゼラチンを得た。
【0064】
〔実施例1〜4〕
上記製造例1〜4のゼラチンを保護コロイドとして用いて、以下の操作により、各金属微粒子を製造した。
【0065】
保護コロイド3.2gを水100mLに完全に溶解させたのち、金属化合物としての亜酸化銅7.17g、錯化剤としての2−アミノエタノール183mgを添加し、次いで、25重量%アンモニア水でpH11に調整した。この溶液を60℃で30分加熱撹拌し、さらに、還元剤としてのヒドラジン一水化物11.7mLを添加したのち2時間加熱撹拌を続けた。
【0066】
〔実施例5〕
「G−0749K」(魚由来のゼラチン、重量平均分子量110000、数平均分子量24000、新田ゼラチン社製)を用いたこと以外は、実施例1〜4と同様にして、金属微粒子を製造した。
【0067】
〔実施例6〕
「G−0750」(魚由来のゼラチン、重量平均分子量170000、数平均分子量39000、新田ゼラチン社製)を用いたこと以外は、実施例1〜4と同様にして、金属微粒子を製造した。
【0068】
〔実施例7〕
「G−0746K」(牛由来のゼラチン、重量平均分子量190000、数平均分子量50000、新田ゼラチン社製)を用いたこと以外は、実施例1〜4と同様にして、金属微粒子を製造した。
【0069】
〔結果〕
各実施例1〜7で得られた金属微粒子の平均粒子径を表1に示すとともに、各実施例1〜7で得られた各金属微粒子について、各SEM写真を図1〜7に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
上記表1および図1〜7から明らかなように、化学修飾、平均分子量の影響により、得られる金属微粒子の平均粒子径に差が生じることが分かる。
【0072】
具体的には、実施例1,2は、化学修飾を施した後に、平均分子量をほぼ同程度に調整して、化学修飾の内容の選択が金属微粒子の平均粒子径に与える影響を見たものであるが、硫黄元素を含む化合物により化学修飾した実施例1のほうが相対的に粒子径が大きく、窒素元素を含む化合物により化学修飾した実施例2のほうが相対的に粒子径が小さくなっていることが分かる。したがって、これらの結果からは、これら硫黄元素や窒素元素の割合によって、得られる金属微粒子の平均粒子径を制御することができ、特に硫黄元素の割合の影響が大であることが理解できる。
【0073】
また、実施例3〜7に見るように、平均分子量の小さい実施例ほど、相対的に平均分子量の大きい実施例よりも、得られる金属微粒子の平均粒子径が小さくなっていることが分かる。
【0074】
図1〜7に見るように、未処理のゼラチン、特に平均分子量の大きなゼラチンを用いた実施例よりも、加水分解により低分子量化したり、化学修飾を行った実施例のほうが、粒子径のばらつきが小さく、粒子径分布も制御できていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、金属微粒子が適用される種々の分野、例えば、低融点金属はんだ、金属微粒子ペーストなどに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物が溶解あるいは分散している液中で、ゼラチンの存在下、前記金属化合物が持つ金属イオンを還元することにより、金属微粒子を得る方法において、前記ゼラチンの種類を選択することによって前記金属微粒子の粒子径を制御することを特徴とする、金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粒子径の制御とともに粒子径分布の制御をも行う、請求項1に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ゼラチンの種類の選択が、ゼラチンの平均分子量の大小の選択である、請求項1または2に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ゼラチンの種類の選択が、ゼラチンに対する化学修飾の有無の選択か、および/または、化学修飾の内容の選択である、請求項1から3までのいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ゼラチンの種類の選択が、ゼラチンを得るための原料の選択である、請求項1から4までのいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52284(P2011−52284A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202945(P2009−202945)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】