説明

金属微粒子分散体、導電性基板及びその製造方法

【課題】基材上にパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板を与えることができ、かつ分散性が高く、低粘度であるためインクジェット適性が向上すると共に、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結可能な金属微粒子分散体を提供する。
【解決手段】少なくとも金属微粒子、分散剤、溶媒を含む分散体であって、前記金属微粒子の平均一次粒径が30nm超100nm以下であり、かつ前記分散剤が分子量300〜500の脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物である金属微粒子分散体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子分散体、それを用いた導電性基板及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、基材上にパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板を与えることのできる金属微粒子分散体であって、分散性が高く、インクジェット適性が良好であり、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結が可能な金属微粒子分散体、それを用いて得られた前記性状を有する導電性基板、及びこのものを効果的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に導電性の配線を施した回路基板を製造するためには、金属箔を貼り合せた基材上にフォトレジスト等を塗布し、所望の回路パターンを露光し、ケミカルエッチングによりパターンを形成する方法が用いられてきた。この方法では、導電性の配線として金属箔を用いることができるため、体積抵抗率が小さく、高性能の導電性基板を製造することができるが、該方法は工程数が多く、煩雑であるとともに、フォトレジスト材料を要するなどの欠点がある。
【0003】
これに対し、金属微粒子を分散させた塗料でパターンを直接基材に印刷する方法が注目されている。このような基材に直接パターンを印刷する方法は、フォトレジスト等を用いる必要がなく、きわめて生産性の高い方法である。例えば、特許文献1には、粒子径が200nm未満の金属酸化物及び分散媒を含む金属酸化物分散体であって、分散媒が、多価アルコール及び/またはポリエーテル化合物を含有する金属酸化物分散体が提案されている。特許文献1によれば、該金属酸化物分散体を用いることで、比較的低温での処理で、基板上に金属薄膜を形成することが可能としている。具体的には、平均粒径30nmの酸化第二銅ナノ粒子を、分散媒であるエチレングリコールに分散させた酸化第二銅微粒子分散体を、スライドガラス上に、長さ2cm、幅1cm、厚み20μmになるように塗布し、焼成温度200℃で銅薄膜を形成している(特許文献1、実施例2参照)。
【0004】
ところで、金属微粒子のなかでも、銅微粒子は、良好な電気伝導性を有し、かつ廉価であるために、プリント配線基板などの回路を形成する部材などとして利用することが種々検討されている。プリント配線基板の回路などを形成する方法としては、銅微粒子を分散媒に分散させ、インキ化し、スクリーン印刷やインクジェット方式による印刷によって、基板上に回路を形成し、次いで、加熱して金属微粒子を融着させる方法がある。特に、インクジェット方式の描画は、版を使用せずにパターンを形成できるため、オンデマンドでのパターン形成、パターン修正などに応用することができることから、好適な手法である(特許文献2参照)。
このような方法により、回路等を形成する場合に、銅微粒子の分散性が重要である。すなわち、銅微粒子の一次粒子が著しく凝集した状態であったり、二次粒子の大きさや、形状が不揃いであると、回路等を形成した際に欠陥が生じやすい。また、インクジェット方式により基板上に回路を形成する場合には、インクジェットプリンタのヘッドの吐出ノズルに詰まりが生じたり、吐出曲がりが生じるなどして、微細パターンの形成に不具合が生じる場合があった。しかし、上記した特許文献1では、インクジェット方式による印刷適性についての詳細な説明や検討はなされてなく、必ずしもインクジェット印刷適性に優れるものではなかった。
【0005】
一方、特許文献3には、離型性耐熱基板上に、平均粒子径1〜100nmの導電性金属系粒子を含む分散液をインクジェット記録方式で印刷し、焼成することにより形成された幅200μm以下の配線からなる配線回路を有することを特徴とする転写用配線回路板が開示されており、インクジェット記録方式で印刷後の焼成温度は130〜250℃が好ましいとされている。そして、導電性金属系微粒子を含む分散液における分散剤として、アルキルアミン、カルボン酸アミド及びアミノカルボン酸塩などの中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましいと記載されており、具体的にはアルキルアミンとして、オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの第1級アミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミンなどの第2級アミン、ドデシルジメチルアミン、ジドデシルモノメチルアミン、ステアリルジメチルアミンなどの第3級アミンなどが例示され、カルボン酸アミドやアミノカルボン酸塩として、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイルアミノエチルグリシンなどが例示されているが、ポリエーテル構造を有する分散剤は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2003/51562号パンフレット
【特許文献2】特開2002−324966号公報
【特許文献3】特開2010−135692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、基材上にパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板を与えることのできる金属微粒子の分散体であって、分散性が高く、インクジェット適性が良好であり、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結が可能な金属微粒子、特に銅微粒子分散体、それを用いて得られた前記性状を有する導電性基板及びこのものを効果的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
平均一次粒径が所定の範囲にある前記の金属微粒子を含み、かつ主骨格中にポリオキシエチレン(EO)又はポリオキシプロピレン(PO)を有し、かつ分子量が所定の範囲にある脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物を分散剤として含有する金属微粒子分散体が、前記目的に適合し得ること、そして基材上に、当該分散体を含む塗布液をパターン状に印刷して焼成処理することにより、パターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板が効率よく得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも金属微粒子、分散剤、分散媒を含む分散体であって、前記金属微粒子の平均一次粒径が30nm超100nm以下であり、かつ前記分散剤が分子量300〜500の脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物である金属微粒子分散体、
(2)基材上に、上記(1)に記載の金属微粒子分散体を用いて設けられてなるパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板、
(3)上記(2)に記載の導電性基板の製造方法であって、基材上に、上記(1)に記載の金属微粒子分散体を含む塗布液をパターン状に印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理してパターン状の金属微粒子焼結膜を形成する導電性基板の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材上にパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板を与えることのできる金属微粒子分散体であって、分散性が高く、低粘度であるためインクジェット適性が向上すると共に、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結が可能な金属微粒子分散体、それを用いて得られた前記性状を有する導電性基板、及びこのものを効果的に製造する方法を提供することができる。また、本発明の金属微粒子分散体によれば、特にマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマによる焼成によっても、厚膜であり、かつ基材界面まで焼結された焼結膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の銅微粒子分散体の焼結膜の表面のSEM写真である。
【図2】実施例1の銅微粒子分散体の焼結膜の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の金属微粒子分散体について説明する。
[金属微粒子分散体]
本発明の金属微粒子分散体は、少なくとも金属微粒子、分散剤、分散媒を含む分散体であって、前記金属微粒子の平均一次粒径が30nm超100nm以下であり、かつ前記分散剤が分子量300〜500の脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物であることを特徴とする。
【0013】
(金属微粒子)
本発明の金属微粒子分散体に含まれる金属微粒子とは、金属状態の微粒子に加えて、合金状態の微粒子も含むものを指す。この金属微粒子を構成する金属の種類としては、導電性を有するものであれば特に制限されるものではないが、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持できる点から、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、スズ、鉄、クロム、コバルト、モリブデン及びマンガンなどが挙げられ、これらのうち、金、銀、銅、及びニッケルが好ましく、導電性及び経済性を加味すると、銅及び銀、特に銅が好ましい。これらの金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して、又は合金化して使用してもよい。
【0014】
<金属微粒子の調製方法>
上記金属微粒子の調製方法としては種々の方法があるが、メカノケミカル法などによる金属粉を粉砕して得る物理的な方法;CVD法や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法と呼ばれる方法で作製できる。
【0015】
本発明の金属微粒子分散体においては、該金属微粒子の平均一次粒径は30nm超100nm以下の範囲にあることを要する。この平均一次粒径が上記の範囲内であると、分散剤が少なくてすみ、かつ当該金属微粒子分散体を用いて製造した導電性基板において、金属微粒子同士の融着が十分に進行し、非常に高い導電性を得ることができる。
なお、上記平均一次粒子径は電子顕微鏡を用いて測定したものであり、通常、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)により測定した観察像から統計処理により算出する。
【0016】
<銅微粒子>
本発明における金属微粒子としては、前述したように、特に銅微粒子が好ましく挙げられる。
銅微粒子は、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持でき、また導電性の他に、経済性、耐マイグレーション性にも優れている。なお、ここで銅微粒子とは、金属の状態のものをいうが、表面が酸化されている微粒子をも含むものである。
本発明においては、金属微粒子として銅微粒子を用いる場合、その平均一次粒径は、前述したように30nm超100nm以下であることを要する。
この銅微粒子の調製方法としては、前述した金属微粒子の調製方法で説明したように各種の方法を採用することができるが、本発明においては、前述した化学還元法により銅微粒子を製造する方法、すなわち錯化剤及び保護コロイドの存在下、2価の銅酸化物と還元剤とを、分散媒中で混合する方法が好ましい。
【0017】
《錯化剤》
当該銅微粒子の調製方法で用いられる錯化剤とは、該錯化剤が有する配位子のドナー原子と銅イオン又は金属銅とが結合して銅錯体化合物を形成するものである。ドナー原子としては、窒素、酸素、及び硫黄が好適に挙げられ、これらは1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
より具体的には、窒素がドナー原子である錯化剤として、アミン類、イミダゾール及びピリジンなどの窒素含有複素環式化合物、ニトリル類、シアン化合物、アンモニア、アンモニウム化合物、オキシム類などが挙げられる。
【0018】
また、酸素がドナー原子である錯化剤として、カルボン酸類、ケトン類、アルデヒド類、アルコール類、キノン類、エーテル類、リン酸、リン酸系化合物、スルホン酸、スルホン酸系化合物などが挙げられる。
さらに、硫黄がドナー原子である錯化剤として、脂肪族チオール類、脂環式チオール類、芳香族チオール類、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類、硫黄含有複素環式化合物、チオシアナート類、イソチオシアナート類、無機硫黄化合物などが挙げられる。
【0019】
また、2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、窒素と酸素を有するものとしてアミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類、ニトロソ化合物、ニトロシル化合物;硫黄と酸素を有するものとして、メルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、チオン酸類、チオ炭酸類;硫黄及び窒素を有するものとして、アミノチオール類、チオアミド類、チオ尿素類、チアゾール類;硫黄、窒素及び酸素を有するものとして、含硫黄アミノ酸類などが挙げられる。
【0020】
錯化剤の配合量としては、2価の銅酸化物100質量部に対して、0.001〜20質量部程度である。この範囲内であると銅の高い分散性が得られる。なお、この範囲内で錯化剤の配合量を少なくすることで、銅微粒子の一次粒子径を小さくすることができ、一方、配合量を多くすることで、銅微粒子の一次粒子径を大きくすることができる。本発明では、2価の銅酸化物100質量部に対して、錯化剤の配合量を0.05〜15質量部の範囲とすることがより好ましい。
【0021】
《保護コロイド》
当該銅微粒子の調製方法で用いられる保護コロイドは、生成した銅微粒子の分散安定化剤として作用するものであり、種々のものを用いることができる。具体的には、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ナトリウム、カゼイン酸アンモニウムなどのタンパク質系;デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース系;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのビニル系;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウムなどのアクリル酸系;ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
これらのうち、分散安定性などの点から、タンパク質系保護剤が特に好ましい。
保護コロイドの配合量としては、2価の銅酸化物100質量部に対して、1〜100質量部の範囲であることが好ましく、2〜50質量部の範囲がさらに好ましい。この範囲内であると、生成した銅微粒子が分散安定化しやすい。
【0022】
《還元剤》
上記銅微粒子の調製方法で用いられる還元剤は、還元反応中に1価の銅酸化物が生成しないように、還元力が強いものを使用することが好ましい。具体的には、ヒドラジン及びヒドラジン化合物などのヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられる。特にヒドラジン系還元剤は、還元力が強く好ましい。
これらは、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を併用することもできる。
また、還元剤の使用量は、2価の銅酸化物中に含まれる銅1モルに対して、0.2〜0.5モルの範囲であることが好ましい。0.2モル以上であると、還元が十分に進行し、銅微粒子が得られる。一方、5モル以下であると、所望の粒子径の銅微粒子が得られる。以上の観点から、好ましい還元剤の使用量は、2価の銅酸化物中に含まれる銅1モルに対して、0.3〜2モルの範囲であることが好ましい。
【0023】
《分散媒》
銅微粒子を調製する際の分散媒としては、水及び/又は有機系分散媒を用いることができる。有機系分散媒としては、ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)などのエーテル類などが好ましく挙げられる。これらの分散媒は、一種を単独で、又は複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
《銅微粒子の調製》
銅微粒子を調製する際の反応温度としては、10℃〜分散媒の沸点の範囲であることが好ましく、所定の一次平均粒径の銅微粒子を得る観点から、40〜95℃の範囲が好ましく、80〜95℃の範囲がさらに好ましい。また、pHは3〜12の範囲であることが好ましく、反応時間は、還元剤の濃度等により異なるが、通常、10分〜6時間程度である。
【0025】
(分散剤)
本発明の金属微粒子分散体に含まれる分散剤としては、分子量が300〜500の範囲にある脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物が用いられる。
当該分散剤は、分子量が300〜500の低分子量であるにもかかわらず、金属微粒子の分散性に優れ、インクジェット適性が良好であり、焼成温度の低減化が可能で、厚膜でもクラックの発生が抑制されるなどの効果を奏する。
【0026】
(脂肪族アルコールポリエーテル化合物)
本発明の金属微粒子分散体において、分散剤の一つとして用いられる脂肪族アルコールポリエーテル化合物は、分子量が300〜500の範囲であって、主骨格中にポリオキシエチレン(EO)又はポリオキシプロピレン(PO)を含む(直鎖状)脂肪族アルコールポリエーテル化合物であって、(EO)の場合はエチレンオキシドの付加率が2以上8未満、(PO)の場合はプロピレオキシドの付加率が2以上6未満であるものが好ましい。
また、当該(直鎖状)脂肪族アルコールポリエーテル化合物は、その炭化水素基が直鎖状又は分岐状の構造を有し、かつ飽和であっても不飽和であってもよく、その炭素数が8〜24であるものが好ましい。
【0027】
このような構造を有する(直鎖状)脂肪族アルコールポリエーテル化合物は、金属微粒子、特に化学還元法で調製された銅微粒子を良好に分散させることで、高い導電性と緻密性を有する導電膜を形成することができる。さらに、μmオーダーという厚膜の導電膜でも、クラックの発生を抑制でき、低い焼成温度で、基材界面まで充分に焼結させることが可能となる、効果を奏する。
当該(直鎖状)脂肪族アルコールポリエーテル化合物の化学構造は、下記一般式(1)で表すことができる。
【0028】
【化1】

【0029】
式中、R1は炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を示し、A−Oはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を示す。該A−Oがオキシエチレン基の場合は、エチレンオキシドの付加率nは2以上8未満が好ましく、オキシプロピレン基の場合は、プロピレンオキシドの付加率nは2以上6未満が好ましい。
前記R1のうちの炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、例えば各種のオクチル基(2−エチルヘキシル基を含む)、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、テトラコシル基などが挙げられ、炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基としては、例えば各種のオクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基(オレイル基を含む。)、イコセニル基、ドコセニル基、テトラコセニル基などが挙げられ、炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキニル基としては、例えば各種のオクチニル基、ドデシニル基、テトラデシニル基、ヘキサデシニル基、オクタデシニル基、イコシニル基、ドコシニル基、テトラコシニル基などが挙げられる。
このような脂肪族アルコールポリエーテル化合物としては、例えば下記式(1−a)で表される分子量451の化合物
【0030】
【化2】

【0031】
が、花王(株)より、「エマルゲン108」として市販されている。
【0032】
(脂肪族アミンポリエーテル化合物)
本発明の金属微粒子分散体において、他の分散剤として好ましく用いられる脂肪族アミンポリエーテル化合物は、分子量が300〜500の範囲であって、主骨格中にポリオキシエチレン(EO)又はポリオキシプロピレン(PO)を含む脂肪族アミンポリエーテル化合物であって、(EO)の場合はエチレンオキシドの付加率が2以上8未満、(PO)の場合はプロピレオキシドの付加率が2以上6未満であるものが好ましい。
また、当該脂肪族アミンポリエーテル化合物は、その炭化水素基が直鎖状又は分岐状の構造を有し、かつ飽和であっても不飽和であってもよく、その炭素数が8〜24であるものが好ましい。
当該脂肪族アミンポリエーテル化合物の分散剤の効果については、前述した(直鎖状)脂肪族アルコールポリエーテル化合物の場合と同様な効果を奏する。
当該脂肪族アミンポリエーテル化合物の化学構造は、下記一般式(2)で表すことができる。
【0033】
【化3】

【0034】
式中、R2は炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を示し、A1−O及びA2−Oは、それぞれオキシエチレン基又はオキシプロピレン基を示す。該A1−O及びA2−Oがオキシエチレン基の場合は、エチレンオキシドの付加率「p+q」は2以上8未満が好ましく、オキシプロピレン基の場合は、プロピレンオキシドの付加率「p+q」は2以上6未満が好ましい。
前記R2のうちの炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、前記一般式(1)におけるR1の説明で例示した基と同じものを挙げることができ、炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基としては、前記一般式(1)におけるR1の説明で例示した基と同じものを挙げることができ、炭素数8〜24の直鎖状若しくは分岐状のアルキニル基としては、前記一般式(1)におけるR1の説明で例示した基と同じものを挙げることができる。
このような脂肪族アミンポリエーテル化合物としては、例えば下記一般式(2−a)で表される分子量494の化合物
【0035】
【化4】

【0036】
が、日油(株)より、「ナイミーンL207」として市販されている。
【0037】
本発明の金属微粒子分散体は、その金属濃度が5質量%〜90質量%の範囲が好ましく、この範囲となるように分散媒の量が決定される。金属濃度が5質量%以上であると十分な導電性が得られ、90質量%以下であると、金属微粒子の分散性が確保される。以上の観点から、金属微粒子分散体中の金属濃度は10〜60質量%の範囲がより好ましい。
【0038】
本発明の金属微粒子分散体における前述した分散剤の含有量は、該分散体全量に対して、1質量%以上であることが好ましい。この含有量が1質量%以上であると、金属微粒子の分散性が確保される。該含有量が多すぎると焼成などによって、分散剤由来の有機物の除去が困難になる上、経済的にも不利となる。以上の観点から、当該分散剤の含有量は、1〜50質量%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%の範囲である。
【0039】
《金属微粒子分散体の調製》
金属微粒子分散体を調製するには、上記した分散媒中に、上記の金属微粒子と分散剤とを、それぞれ所定の割合で加え、例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミルなどを用いて分散処理することにより、調製することができる。
このようにして得られた金属微粒子分散体は、分散性が高く、低粘度であるためインクジェット適性が向上すると共に、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結が可能となる。特にマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマによる焼成によっても、厚膜であり、かつ基材界面まで焼結された焼結膜を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の導電性基板について説明する。
[導電性基板]
本発明の導電性基板は、基材上に、前述した本発明の金属微粒子分散体を用いて設けられてなるパターン状の金属微粒子焼結膜を有することを特徴とする。
なお、ここで、パターン状の金属微粒子焼結膜は、以下「導電パターン」と記載することがある。なお、ここで「導電パターン」という場合には、金属微粒子がいわゆる金属状態で導電性を有する場合をいう。
【0041】
(基材)
本発明の導電性基板において用いる基材としては、導電性基板に用いられるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラス等のガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料を用いることができ、さらに高分子材料、紙などを用いることもできる。また、本発明では後に詳述するように、金属微粒子が低温で焼結されて導電性薄膜が形成されるため、基材に損傷を与えることがなく、高歪点ガラスなど耐熱性の高い特殊なガラスを使わなくてもよく、耐熱性の低い通常のソーダライムガラス等であっても使用することができる。さらには、プラスチックなどの高分子材料や紙も基材とすることができ、特に樹脂フィルムを用いることができる点で非常に有用である。
【0042】
ここで用いられる樹脂フィルムとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、液晶性高分子化合物などを挙げることができる。
【0043】
基材の厚さについては特に制限はないが、樹脂フィルムなどのプラスチック基材の場合には、通常10〜300μmの範囲である。10μm以上であると、導電パターンを形成する際に基材の変形が抑制され、形成される導電パターンの形状安定性の点で好適である。また、300μm以下であると巻き取り加工を連続して行う場合に、柔軟性の点で好適である。
一方、基材が無機材料である場合には、通常0.1〜10mm程度、好ましくは0.5〜5mmである。
【0044】
本発明の導電性基板は、前記の基材上に、前述した本発明の金属微粒子分散体を用いて、パターン状の金属微粒子焼結膜を設けてなるものであって、該金属微粒子焼結膜は、厚みが0.01〜100μm程度、好ましくは0.1〜50μm程度であり、より好ましくは1〜10μm程度である。
また、本発明の導電性基板における、金属微粒子焼結膜のパターン(導電パターン)の体積抵抗率は、1.0×10-4Ω・cm以下であることが好ましい。
なお、前記パターン状の金属微粒子焼結膜の形成方法については、後述する本発明の導電性基板の製造方法において詳述する。
【0045】
本発明の導電性基板は、基材上に密着性よく設けられたパターン状の金属微粒子焼結膜を有し、信頼性、及び導電性に優れた導電性基板である。
このような、本発明の導電性基板を用いた電子部材としては、表面抵抗の低い電磁波シールド用フィルム、導電膜、フレキシブルプリント配線板などに有効に利用することができる。
【0046】
次に、本発明の導電性基板の製造方法について説明する。
[導電性基板の製造方法]
本発明の導電性基板の製造方法は、基材上に、前述した本発明の金属微粒子分散体を含む塗布液をパターン状に印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理してパターン状の金属微粒子焼結膜を形成することを特徴とし、前記焼成処理が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマによる焼成工程を含むことが好ましい。
【0047】
(金属微粒子分散体を含む塗布液)
本発明の製造方法で用いられる塗布液は、上述の本発明の金属微粒子分散体を含むことが特徴である。本発明の金属微粒子分散体は、上述のように、特定の分散剤を用いることによって、分散性が高く、安定性の高いものである。それと同時に、インクジェット方式による印刷を行う場合に、吐出安定性が高く、良好なパターニング適性が得られる。
また、当該塗布液には、上述の金属微粒子分散体に加えて、塗工適性を向上させるためにさらに分散媒を加えてもよい。ここで用いる分散媒は、金属微粒子分散体の製造過程で用いた分散媒と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0048】
また、該塗布液には、金属微粒子分散体の他に、界面活性剤、可塑剤、防カビ剤等の添加剤を適宜配合することができる。また、更に分散性を高めるため、他の低分子量の分散剤を配合してもよい。
これらのうち、界面活性剤は、金属微粒子の分散性をさらに高めたり、塗工性を向上させることができるため、好適に配合される。界面活性剤として、具体的には、4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤;エーテル型、エステル型、エーテルエステル型などのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
さらに、造膜性を高めること、印刷適性を付与すること、及び分散性を高めることを目的として、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、あるいはウレタン樹脂等を樹脂バインダーとして塗布液に添加してもよい。また、必要に応じて、粘度調整剤、表面張力調整剤、あるいは安定剤等を添加してもよい。
【0049】
本発明における塗布液中の固形分濃度は、基材に塗布する方法に応じて、適宜決定される。例えば、インクジェット方式の場合には、固形分濃度が5〜60質量%となるように調整される。この範囲であると、粘度が十分に低く、基材への塗布液の印刷が容易である。
【0050】
(印刷方法)
基材上に塗布液を印刷し、印刷層を形成する方法としては特に制限されず、グラビア印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、グラビアオフセット印刷などの方法を用いることができる。これらのうち、微細なパターニングを行うことができるという観点から、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、及びグラビアオフセット印刷が好ましい。特に、本発明の金属微粒子分散体は、分散性に優れているため、インクジェットの吐出ノズルに詰まりが生じたり、吐出曲がりが生じることがなく、インクジェット印刷に適している。
また、本発明の方法によれば、基材上に塗布液を所望のパターンに直接印刷することができるため、従来のフォトレジストを用いた手法に比較して、著しく生産性を向上させることができる。
【0051】
基材上の塗布液は印刷後、通常の方法で乾燥を行ってもよい。乾燥後の印刷部分の膜厚は用途等に応じ、適宜塗布量や金属微粒子の平均一次粒子径等を変化させて制御することができるが、通常、0.01〜100μmの範囲、好ましくは0.1〜80μmの範囲であり、より好ましくは1〜50μmの範囲である。
【0052】
(焼成処理)
本発明の製造方法における焼成は、金属又は金属化合物微粒子が融着して、金属微粒子焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限はなく、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、あるいはレーザーなどを用いて行ってもよい。これらの焼成方法のなかでも、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマ(以下「マイクロ波表面波プラズマ」と称することがある。)により行うことが好ましい。焼成にマイクロ波表面波プラズマを用いることで、基材への熱ダメージを少なくすることができる。また、基材の表面が粗化することを防ぐことができるため、透明基材を用いる場合には、導電パターンが形成された部分以外の基材の透明性が確保される。
また、マイクロ波表面波プラズマによる焼成処理は、大面積の処理が可能で、短時間の焼成処理が可能であるため、生産性が極めて高い。
【0053】
さらに、マイクロ波表面波プラズマを用いた焼成は、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行うのが、金属微粒子焼結膜の導電性の観点から好ましい。
特に、本発明においては、マイクロ波表面波プラズマを、還元性ガスの雰囲気下で発生させることが好ましく、とりわけ水素ガス雰囲気下で発生させることが好ましい。これにより、金属微粒子表面に存在する絶縁性の酸化物が還元除去され、導電性能の良好な導電パターンが形成される。
【0054】
還元性雰囲気を形成する還元性気体としては、水素、一酸化炭素、アンモニアなどのガス、あるいはこれらの混合ガスが挙げられるが、特に、副生成物が少ない点で水素ガスが好ましい。
なお、還元性気体には、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスを混合して用いれば、プラズマが発生し易くなるなどの効果がある。
【0055】
マイクロ波表面波プラズマ処理の前に、金属微粒子分散体を含む塗布液を印刷した印刷層に含まれる分散剤等の有機物を除去するために、大気下または酸素を含む雰囲気下、50〜200℃程度の温度で1分〜2時間程度焼成することが好ましい。この焼成により、有機物が酸化分解除去され、マイクロ波表面波プラズマ処理において、金属微粒子の焼結が促進される。ただし、本発明では、上述のように、分散剤として特定のものを用いることによって、焼成処理をより低温にしたり、該マイクロ波表面波プラズマ処理の前の焼成処理を省略することができる。
【0056】
(マイクロ波表面波プラズマの発生方法)
前記マイクロ波表面波プラズマの発生方法に特に制限はなく、例えば減圧状態の焼成処理室の照射窓からマイクロ波エネルギーを供給し、該焼成処理室内に照射窓に沿う表面波プラズマを発生させる無電極プラズマ発生手段を用いることができる。
【0057】
前記プラズマ発生手段としては、例えば焼成処理室の照射窓から周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給し、該処理室内に、電子温度が約1eV以下、電子密度が約1×1011〜1×1013cm-3のマイクロ波表面波プラズマを発生させることができる。
なお、マイクロ波エネルギーは、一般に周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるが、例えば、2450MHzの電磁波が用いられる。この際、マイクロ波発振装置であるマグネトロンの精度誤差などのために2450MHz/±50MHzの周波数範囲を持っている。
【0058】
(マイクロ波表面波プラズマの効果)
このようなマイクロ波表面波プラズマは、プラズマ密度が高く、電子温度が低い特性を有し、前記印刷層を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な金属微粒子焼結膜を形成することができる。マイクロ波表面波プラズマは、処理面に対して、面内で均一の密度のプラズマが照射される。その結果、他の焼成方式と比べて、面内で部分的に粒子の焼結が進行するなど、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、面内処理室内に電極を設ける必要がないので、電極由来の不純物のコンタミネーションを防ぐことができ、また処理材料に対して異常な放電によるダメージを防ぐことができる。
さらに、マイクロ波表面波プラズマは、電子温度が低いため、基材をエッチングする能力が小さく、プラスチック基材に対するダメージを小さくすることができると推察される。
【0059】
マイクロ波表面波プラズマは、樹脂基材に対する金属微粒子焼結膜の密着性を高めるのに好適である。この理由としては、マイクロ波表面波プラズマは、金属微粒子焼結膜との界面で水酸基やカルボキシル基などの極性官能基を発生させやすいためと推測される。特にポリエステル基材に対して、還元性ガス雰囲気下で発生するプラズマを用いた場合には、基材のエステル結合に、還元性ガスを有するガスのプラズマが反応し、基材の界面側に改質が起こり、極性の高い反応基が多く発生するために、金属微粒子焼結膜と基材の界面での密着性が向上するものと推察している。
したがって、従来のように、基材表面をあらかじめプラズマ処理等により粗化して、導電パターンとの密着性を向上させる方法に比較しても、本発明の方法は、基材と導電パターントの界面が平滑であり、かつ密着性が高い点で優れている。
【0060】
このように、マイクロ波表面波プラズマにより、焼成処理されて形成された金属微粒子焼結膜は、厚みが0.01〜100μm程度、好ましくは0.1〜50μm程度であり、より好ましくは1〜10μm程度である。
【0061】
本発明の導電性基板は、上述のように、基材上に、金属微粒子分散体を含む塗布液をパターン状に印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理してパターン状の金属微粒子焼結膜を形成してなる導電性基板である。
また、本発明の導電性基板における、金属微粒子焼結膜のパターン(導電パターン)の体積抵抗率は前述したように、1.0×10-4Ω・cm以下であることが好ましい。
本発明の導電性基板は、基材上に密着性よく設けられたパターン状の金属微粒子焼結膜を有し、信頼性、及び導電性に優れた導電性基板である。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
なお、合成例で得られた粉体状銅微粒子の平均一次粒子径、並びに実施例で得られた銅微粒子分散体の粘度と表面張力、及び焼結膜の膜厚と焼結深度と表面抵抗を、以下に示す方法により測定した。
【0063】
(1)銅微粒子の平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)(「S−4800(型番)」,(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用い、同装置に付属するSTEMによる観察像により、加速電圧30kV、エミッション電流10μAにて、銅微粒子の観察を行い、その平均一次粒子径について、得られた画像から任意の粒子100個を抽出し、その粒径を計測し、平均することにより求めた。
【0064】
(2)銅微粒子分散体の粘度及び表面張力
(a)粘度
銅微粒子分散体の温度25℃における粘度を、レオメーター(株式会社アントンパール・ジャパン製)を用いて、せん断速度1000(1/s)の条件で測定した。
(b)表面張力
銅微粒子分散体の温度24〜26℃における表面張力を、動的表面張力計(SITA社製)を用いて、最大泡圧法により周期0〜10Hzの範囲で測定した。
【0065】
(3)銅微粒子分散体のインクジェット印刷適性の評価
銅微粒子分散体のインクジェット印刷適性について、インクジェットプリンタ(「DMP−2831(型番)」,FUJIFILM Dimatix社製)を用いて、吐出量:10pLのカートリッジヘッドで印刷し、該カートリッジヘッドの吐出曲がりや詰まりを観察し、印刷適性を評価した。
【0066】
(4)焼結膜の膜厚、焼結深度及び表面抵抗
(a)膜厚及び焼結深度
走査型電子顕微鏡(「S−4800(型番)」,(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用い、加速電圧1kV、加速電流10μAで観察を行った。イオンミリングを用いて試料を切断し、断面観察を行い、焼結膜の膜厚を測定した。また、焼結膜が深さ方向に均一に焼成できているかどうかを、観察像を目視にて確認することで評価した。
(b)表面抵抗
表面抵抗計(「ロレスタGP(型番)」,(株)ダイアインスツルメンツ製,PSPタイププローブ)を用いて、金属微粒子焼結膜に4探針を接触させ、4探針法にて表面抵抗を測定した。
【0067】
合成例
酸化第二銅64g、保護コロイドとしてゼラチン5.1gを650mLの純水に添加・混合し、15質量%のアンモニア水を用いて混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温させた。昇温後、撹拌しながら錯化剤として1質量%のメルカプト酢酸溶液6.4gと80質量%のヒドラジン一水和物75gを150mLの純水に混合した液を添加して、1時間かけて酸化第二銅を反応させ、銅微粒子を得た。
濾液を洗浄・乾燥して、粉体状の銅微粒子を得た。得られた銅微粒子の平均一次粒子径は50nmであった。
【0068】
実施例1 金属微粒子分散体の作製
容量140mLのマヨネーズ瓶に、前記式(1−a)で表される分子量451の分散剤「エマルゲン108(商品名)」(花王株式会社製)6gとブチルカルビトールアセテート30gを計量して、撹拌した。分散剤が溶解してから合成例で得られた銅微粒子を24g加えて撹拌した。直径0.3mmのジルコニアビーズ150gを加えて、瓶に蓋をして、ペイントシェーカーにて4時間処理することで分散体を得た。
この分散体の25℃の粘度は5.5mPa・s、26℃の表面張力は38.6mN/mであり、また、該分散体の上記規定のインクジェット印刷適性は、カートリッジヘッドの吐出曲がりや詰まりがなく、良好であった。
また、得られた分散体をポリイミドフィルム(「カプトン300H(商品名)」,東レ・デュポン株式会社製)に、バーコートで塗布し、大気焼成230℃・0.5時間により、分散体中の銅微粒子以外の成分を除去した。次いで、水素ガスを導入圧力20Paで導入しながら、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(「MSP−1500(型番)」,ミクロ電子株式会社製)を用いて、マイクロ波出力800Wで5分間焼成し、その表面に焼結膜を有する導電性基板を得た。該基板の表面の温度を熱電対で測定したところ、表面波プラズマによる焼成前は25℃に保持されており、焼結後(プラズマ照射終了後)は270℃に到達していたが、焼結膜にクラックなどは観察されなかった。また、基板界面まで焼結が進行しており、該焼結膜の膜厚は2.3μmであり、表面抵抗は4.0×10-2 Ω/□であった。該焼結膜の表面及びその断面をSEMで観察した際のSEM写真を各々図1及び図2に示す。図2より、焼結膜の膜厚が2.3μmであることが確認できる。
【0069】
実施例2 金属微粒子分散体の作製
容量140mLのマヨネーズ瓶に、前記式(2−a)で表される分子量494の分散剤(「ナイミーンL207(商品名)」,日油株式会社製)6gとブチルカルビトールアセテート30gを計量して、撹拌した。分散剤が溶解してから合成例で得られた銅微粒子を24g加えて撹拌した。直径0.3mmのジルコニアビーズ150gを加えて、瓶に蓋をして、ペイントシェーカーにて4時間処理することで分散体を得た。
この分散体の25℃の粘度は8.5mPa・s、25℃の表面張力は35.7mN/mであり、また、該分散体の上記規定のインクジェット印刷適性は、カートリッジヘッドの吐出曲がりや詰まりがなく、良好であった。
また、実施例1と同様な条件で、ポリイミドフィルム上に焼結膜を形成させて、導電性基板を得た。該基板の表面の温度を熱電対で測定したところ、表面波プラズマによる焼成前は25℃に保持されており、焼結後(プラズマ照射終了後)は270℃に到達していたが、焼結膜にクラックなどは観察されなかった。また、基板界面まで焼結が進行しており、該焼結膜の膜厚は2.1μmであり、表面抵抗は4.5×10-2Ω/□であった。
【0070】
比較例1
分散剤にポリエーテル部位を含むが分子量が300未満であるポリオキシエチレンラウリルアミン(「アミート102(商品名)」,花王株式会社製,分子量:273.44)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして分散体を作製したところ、分散体の分散安定性が低く、数日で粒子が沈降・分離してしまった。
【0071】
比較例2
分散剤に、分子量は300〜500の間であるが、ポリエーテル部位を含まないペンタエリスリトールモノオレエート(「エキセパールPE−MO(商品名)」,花王株式会社製,分子量:388.572)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして分散体を作製したところ、全く分散せず、分散体が得られなかった。
【0072】
比較例3
容量140mLのマヨネーズ瓶に、分散剤としてポリエーテル部位の付加率が大きく、分子量が2560の「ソルボンTR843(商品名)」(東邦化学工業製)3gを用い、さらにブチルカルビトールアセテート(BCA)33gを計量して、撹拌した。分散剤が溶解してから合成例で得られた銅微粒子を24g加えて撹拌した。直径0.3mmのジルコニアビーズ150gを加えて、瓶に蓋をして、ペイントシェーカーにて4時間処理することで分散体を得た。
この分散体を用いて、実施例1と同様な条件で、ポリイミドフィルム上に膜を形成させて、基板を得た。該基板の表面の温度を熱電対で測定したところ、表面波プラズマによる焼成前は25℃に保持されており、焼結後(プラズマ照射終了後)は300℃に到達していたが、膜にクラックなどは観察されなかった。また、表面付近しか焼結できず、膜中は未焼結のままであった。該膜の膜厚は2.3μmであり、表面抵抗は8.0×10-2Ω/□であった。
なお、前記「ソルボンTR843」の化学構造を下記式(3)に示す。
【0073】
【化5】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金属微粒子分散体は、基材上にパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板を与えることができ、かつ分散性が高く、低粘度であるためインクジェット適性が向上すると共に、焼成温度が低い上、厚膜でもクラックの発生が抑制され、基材界面まで焼結可能な金属微粒子分散体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属微粒子、分散剤、分散媒を含む分散体であって、前記金属微粒子の平均一次粒径が30nm超100nm以下であり、かつ前記分散剤が分子量300〜500の脂肪族アルコールポリエーテル化合物及び/又は脂肪族アミンポリエーテル化合物である金属微粒子分散体。
【請求項2】
前記脂肪族アルコールポリエーテル化合物がポリオキシエチレン(EO)又はポリオキシプロピレン(PO)構造を含む化合物であり、EOの場合はエチレンオキシドの付加率が2以上8未満、POの場合はプロピレンオキシドの付加率が2以上6未満である請求項1に記載の金属微粒子分散体。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールポリエーテル化合物の炭化水素基が直鎖状又は分岐状の構造を有し、かつ飽和又は不飽和であり、その炭素数が8〜24である請求項1又は2に記載の金属微粒子分散体。
【請求項4】
前記脂肪族アミンポリエーテル化合物がポリオキシエチレン(EO)又はポリオキシプロピレン(PO)構造を含む化合物であり、EOの場合はエチレンオキシドの付加率が2以上8未満であり、POの場合はプロピレンオキシドの付加率が2以上6未満である請求項1に記載の金属微粒子分散体。
【請求項5】
前記脂肪族アミンポリエーテル化合物の炭化水素基が直鎖状又は分岐状の構造を有し、かつ飽和又は不飽和であり、その炭素数が8〜24である請求項1又は4に記載の金属微粒子分散体。
【請求項6】
分散剤の含有量が、分散体全量に対して1質量%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項7】
前記金属微粒子を構成する金属が金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、錫、鉄、クロム、コバルト、モリブデン及びマンガンの中から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項8】
前記金属微粒子が銅微粒子である請求項7に記載の金属微粒子分散体。
【請求項9】
前記分散媒が脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類及びアルコール類の中から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜8のいずれかに記載の金属微粒子分散体。
【請求項10】
基材上に、請求項1〜9のいずれかに記載の金属微粒子分散体を用いて設けられてなるパターン状の金属微粒子焼結膜を有する導電性基板。
【請求項11】
請求項10に記載の導電性基板の製造方法であって、基材上に、請求項1〜9のいずれかに記載の金属微粒子分散体を含む塗布液をパターン状に印刷して印刷層を形成し、該印刷層を焼成処理してパターン状の金属微粒子焼結膜を形成する導電性基板の製造方法。
【請求項12】
前記焼成がマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマによる焼成工程を含む請求項11に記載の導電性基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−214641(P2012−214641A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81154(P2011−81154)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】