説明

金属微粒子分散液とそれを用いた配線およびその形成方法

【課題】 PDP等の表示装置における表示のコントラストや色調に悪影響を及ぼさない上、導電性に優れた配線を形成することができる金属微粒子分散液と、この金属微粒子分散液を使用して形成される配線と、当該配線の形成方法とを提供する。
【解決手段】 金属微粒子分散液は、平均粒子径Φmが100nm以下である金属微粒子と、平均粒子径Φiが300nm以下である黒色の無機微粒子とを含有する。配線は、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有する。配線の形成方法は、金属微粒子分散液を、基板上に印刷または塗布した後、加熱処理するか、またはレーザー照射して焼き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に配線等を形成するために用いる金属微粒子分散液と、この金属微粒子分散液を用いて基板上に形成される配線と、その形成方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野において、回路基板を製造するために、基板表面に導体回路等の金属層をパターン形成する方法として、従来は、フォトリソグラフ法によってパターン形成したレジスト膜を利用する形成方法が一般的に用いられてきた。しかし、この形成方法では、フォトリソグラフ法によるレジスト膜の形成に要する工程数が極めて多く、製造作業に手間がかかることなどから、回路基板の生産性が低くなり、製造コストが高くつくという問題があった。
【0003】
そこで、粒径が100nm以下というごく微細な金属微粒子を、必要に応じて、界面活性剤等で処理した状態で、分散媒中に分散して金属微粒子分散液を作製し、この金属微粒子分散液を、インクジェット印刷法等の印刷方法によって、基板の表面に、所定のパターン形状となるように印刷した後、熱処理して回路パターンを形成することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、上記回路パターンの形成方法を、プラズマディスプレイパネル(PDP)用のアドレス電極の形成に利用することが提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002−299833号公報(特許請求の範囲、第0013欄〜第0015欄)
【特許文献2】特開2002−324966号公報(特許請求の範囲、第0013欄)
【特許文献3】特開2002−334618号公報(特許請求の範囲、第0012欄)
【特許文献4】特開2003−317611号公報(特許請求の範囲、第0006欄〜第0008欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属微粒子分散液に配合される金属微粒子としては、その導電性や製造コスト等を考慮して、銀の微粒子が一般的に使用される。しかし、銀微粒子を含む金属微粒子分散液を用いて、前記PDP等の各種表示装置における、アドレス電極等の配線を、ガラス基板の表面に直接にパターン形成した場合には、当該配線と、ガラス基板との界面が白色ないし灰白色を呈したり、黄色を呈したりする。白色ないし灰白色は、銀微粒子を焼結した際の、銀自体の色であり、黄色は、例えばガラス基板をフロート法で製造した際に、基板の表面に残留する錫と、銀との反応によって生じた色である。
【0005】
そして、特に、基板を表示装置の表面側に使用した際に、アドレス電極等の配線が、上記のように白色ないし灰白色を呈すると、外光を反射して、表示のコントラストが低下するという問題があり、また、配線が黄色を呈する場合には、カラー表示の色調が本来の色調からずれて、表示の全体が黄色味を帯びるという問題がある。
本発明の目的は、PDP等の表示装置における表示のコントラストや色調に悪影響を及ぼさない上、導電性に優れた配線を形成することができる金属微粒子分散液と、この金属微粒子分散液を使用して形成される配線と、当該配線の形成方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、平均粒子径Φmが100nm以下である金属微粒子と、平均粒子径Φiが300nm以下である黒色の無機微粒子とを含有することを特徴とする金属微粒子分散液である。
請求項2記載の発明は、含有する金属微粒子の体積Vmと、無機微粒子の体積Viとの比Vi/Vmが、Vi/Vm=0.03〜5.0である請求項1記載の金属微粒子分散液である。
【0007】
請求項3記載の発明は、平均粒子径Φm、Φiの比Φi/Φmが、Φi/Φm=0.2〜5.0である金属微粒子と無機微粒子とを含有する請求項1記載の金属微粒子分散液である。
請求項4記載の発明は、金属微粒子が、銀、白金、金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む微粒子である請求項1記載の金属微粒子分散液である。
【0008】
請求項5記載の発明は、無機微粒子が、銅、コバルト、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、およびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物または炭化物の微粒子であるか、またはカーボンである請求項1記載の金属微粒子分散液である。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成され、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有することを特徴とする配線である。
【0009】
請求項7記載の発明は、金属微粒子分散液を基板上に印刷または塗布した後、加熱処理するか、またはレーザー照射して焼き付けることで、請求項6記載の配線を製造することを特徴とする配線の形成方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明においては、金属微粒子分散液中に含有させた金属微粒子によって良好な導電性を確保しながら、黒色の無機微粒子によって、外光を反射しにくい上、無彩色で、表示の色調に影響を及ぼさない灰色ないし黒色に着色された配線を形成することができる。したがって、請求項1記載の発明によれば、PDP等の表示装置における表示のコントラストや色調に悪影響を及ぼさない上、導電性に優れた、アドレス電極やバス電極等の配線を形成することが可能となる。
【0011】
なお、請求項1記載の発明において、金属微粒子の平均粒子径Φmが100nm以下に限定されるのは、Φmが100nmを超える金属微粒子は、金属微粒子分散液に対する分散安定性が低下して、長期間の保存によって沈殿等を生じるためである。また、無機微粒子の平均粒子径Φiが300nm以下に限定されるのは、Φiが300nmを超える無機微粒子は、金属微粒子分散液に対する分散安定性が低下して、長期間の保存によって沈殿等を生じるためである。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、金属微粒子の体積Vmと、無機微粒子の体積Viとの比Vi/Vmを、Vi/Vm=0.03〜5.0の範囲内とすることで、金属微粒子による導電性の付与と、黒色の無機微粒子による着色とのバランスをとって、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色を呈する上、導電性に優れた配線を形成することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、金属微粒子と無機微粒子の平均粒子径の比Φi/Φmを、Φi/Φm=0.2〜5.0の範囲内とすることで、金属微粒子による導電性の付与と、黒色の無機微粒子による着色とのバランスをとって、黒色か、または、できる限り黒色に近い色を呈する上、導電性に優れた配線を形成することができる。
請求項4記載の発明によれば、金属微粒子として、銀、白金、金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む、導電性に優れた微粒子を使用することで、より一層、導電性に優れた配線を形成することができる。
【0014】
請求項5記載の発明によれば、無機微粒子として、銅、コバルト、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、およびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物または炭化物からなる黒色の微粒子か、またはカーボンブラックを使用することで、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色を呈する配線を形成することができる。
【0015】
請求項6記載の発明の配線は、上記本発明の金属微粒子分散液を使用して形成され、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有するため、上記連続体組織によって導電パスを形成して良好な導電性を維持しつつ、この連続体組織中に分散した無機微粒子によって、外光を反射しにくい上、無彩色で、表示の色調に影響を及ぼさない灰色ないし黒色に着色された配線を形成することができる。
【0016】
請求項7記載の発明によれば、上記のように良好な特性を有する配線を、本発明の金属微粒子分散液を基板上に印刷または塗布した後、焼き付けるだけの簡単な工程で、効率よく形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔金属微粒子分散液〕
本発明の金属微粒子分散液は、平均粒子径Φmが100nm以下である金属微粒子と、平均粒子径Φiが300nm以下である黒色の無機微粒子とを含有することを特徴とする。このうち、金属微粒子としては、配線に導電性を付与することができる種々の金属の微粒子がいずれも使用可能である。
【0018】
しかし、できるだけ導電性に優れた配線を形成することを考慮すると、金属微粒子としては、銀、白金、金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む微粒子、具体的には、上記金属のいずれか1種からなる微粒子、2種以上の金属の合金からなる微粒子、2種以上の金属の複合体、例えば、1種または2種以上の金属からなる核体の表面に、1種または2種以上の金属からなる、1層または2層以上の被覆層を形成した微粒子等が好適に使用される。また、これらの微粒子を2種以上、混合して使用してもよい。
【0019】
金属微粒子の形状は、球状、粒状、棒状、針状、箔片状等の種々の形状とすることができるが、金属微粒子分散液の流動性を向上して、例えば、インクジェット印刷法によって所定のパターン形状となるように印刷する際に、ノズルの目詰まり等が生じるのを防止することを考慮すると、球状または粒状が好ましい。
金属微粒子の平均粒子径Φmが100nm以下に限定されるのは、Φmが100nmを超える金属微粒子は、金属微粒子分散液に対する分散安定性が低下して、長期間の保存によって沈殿等を生じるためである。なお、金属微粒子の平均粒子径Φmは、表面が平滑で厚みが均一であると共に、緻密で、かつ導電性に優れた配線を形成することや、インクジェット印刷法によって所定のパターン形状となるように印刷する際にノズルの目詰まり等を生じるのを防止することを考慮すると、上記の範囲内でも、特に、90nm以下であるのが好ましい。
【0020】
一方、金属微粒子の平均粒子径Φmの下限値については、特に限定されず、金属としての性質を有しうる最小の粒径のものまで使用可能であるが、所定の厚みを有する金属層を、効率よく形成することを考慮すると、平均粒子径Φmは1nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのがさらに好ましい。
金属微粒子は、金属微粒子分散液中での分散性を高めるために、その表面を、分散剤で処理してもよい。分散剤としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、スルホン基、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等の、金属微粒子に対して親和性を有する基を含む化合物が好適に用いられる。
【0021】
無機微粒子としては、黒色を呈する種々の、無機材料からなる微粒子が、いずれも使用可能であるが、配線を、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色に着色することを考慮すると、それ自体が濃い黒色を呈する、銅、コバルト、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、およびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物または炭化物の微粒子、具体的には、上記のうち1種の金属の酸化物や炭化物の微粒子、あるいは2種以上の金属の複合酸化物の微粒子、または、黒色の着色剤として汎用されている各種カーボンブラックに代表されるカーボンが挙げられる。また、これらの微粒子を2種以上、混合してもよい。
【0022】
無機微粒子の形状は、球状、粒状、棒状、針状、箔片状等の種々の形状とすることができるが、金属微粒子分散液の流動性を向上して、例えば、インクジェット印刷法によって所定のパターン形状となるように印刷する際に、ノズルの目詰まり等が生じるのを防止することを考慮すると、球状または粒状が好ましい。
無機微粒子の平均粒子径Φiが300nm以下に限定されるのは、平均粒子径Φiが300nmを超える無機微粒子は、金属微粒子分散液に対する分散安定性が低下して、長期間の保存によって沈殿等を生じるためである。なお、無機微粒子を同じ体積比で添加しても、個数ベースでは、平均粒子径Φiが小さいほど、多数の無機微粒子が添加されることになるため、配線を、黒色や、暗灰色といったできるだけ黒に近い色に着色できる。また、焼付け後の配線中に、導電のボトルネックとなる粒径の大きい無機微粒子が存在しない分、配線の導電性を向上することもできる。さらに、表面が平滑で厚みが均一であると共に、緻密な配線を形成することもできる。
【0023】
しかし、平均粒子径Φiが小さすぎると、多数の無機微粒子が添加されているにもかかわらず、焼付け後の配線の表面に露出する無機微粒子の露出面積が小さくなって、かえって、配線の色が薄くなるおそれがある。また、非常に多数の無機微粒子が添加されることになるため、金属微粒子の焼結が阻害されて、配線の導電性が低下するおそれもある。そのため、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色を呈する上、導電性に優れた配線を形成することを考慮すると、無機微粒子の平均粒子径Φiは、上記の範囲内でも、特に3〜280nmであるのが好ましく、10〜260nmであるのがさらに好ましく、30〜200nmであるのがより一層、好ましい。
【0024】
無機微粒子は、金属微粒子分散液中での分散性を高めるために、その表面を、分散剤で処理してもよい。分散剤としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、スルホン基、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等の、無機微粒子に対して親和性を有する基を含む化合物が好適に用いられる。
金属微粒子と無機微粒子としては、それぞれの平均粒子径Φm、Φiの比Φi/Φmが、Φi/Φm=0.2〜5.0であるものを組み合わせるのが好ましい。上記比Φi/Φmが0.2未満では、無機微粒子を同じ体積比で添加した際に、個数ベースで、多数の無機微粒子が添加されることになり、金属微粒子の焼結が阻害されて、配線の導電性が低下するおそれがある。
【0025】
また、比Φi/Φmが5.0を超える場合には、無機微粒子を同じ体積比で添加した際に、個数ベースで添加される無機微粒子の個数が少なくなり、焼付け後の配線の表面に露出する無機微粒子の露出面積が小さくなって、配線の色が薄くなるおそれがある。また、導電のボトルネックとなる粒径の大きい無機微粒子が増えることになるため、配線の導電性が低下するおそれもある。なお、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色を呈する上、導電性に優れた配線を形成することを考慮すると、比Φi/Φmは、上記の範囲内でも、特に0.8〜4.5であるのがさらに好ましい。
【0026】
金属微粒子分散液は、金属微粒子の体積Vmと、無機微粒子の体積Viとの比Vi/Vmが、Vi/Vm=0.03〜5.0となるように、両微粒子を含有しているのが好ましい。上記比Vi/Vmが0.03未満では、無機微粒子の含有割合が小さすぎて、焼付け後の配線の色が薄くなるおそれがある。また、比Vi/Vmが5.0を超える場合には、金属微粒子の含有割合が小さすぎて、配線の導電性が低下するおそれがある。なお、黒色か、あるいは、暗灰色といったできる限り黒色に近い色を呈する上、導電性に優れた配線を形成することを考慮すると、比Vi/Vmは、上記の範囲内でも、特に0.03〜1.0であるのがさらに好ましい。
【0027】
金属微粒子分散液は、適当な分散媒中に、上記金属微粒子と無機微粒子を分散させることで形成される。分散媒としては、これに限定されないが、室温(23±1℃)での蒸気圧が0.133〜26600Paであるものを用いるのが好ましい。蒸気圧が26600Paを超える分散媒は、金属微粒子分散液を基板等の表面に印刷または塗布した際に、急速に蒸発して塗膜中から失われるため、表面が平滑で均一な配線を形成できないおそれがある。また、蒸気圧が0.133Pa未満である分散媒は、乾燥が遅すぎて塗膜中に残留しやすく、残留した分散媒が、後工程での焼付け時に急速に蒸発して、配線に、蒸発の際の痕跡を残したりするため、やはり、表面が平滑で均一な配線を形成できないおそれがある。
【0028】
なお、金属微粒子分散液を、インクジェット印刷法によって印刷する場合には、分散媒として、室温での蒸気圧が、上記の範囲内でも特に、6650Pa以下であるものを使用するのが好ましい。蒸気圧が6550Paを超える分散媒は、インクジェット印刷機を使用して、インクジェット印刷法によって、ノズルからインク滴を吐出させて印刷を行う際に、乾燥によるノズルの目詰まりを生じやすく、安定的に印刷を行えないおそれがある。
【0029】
上記蒸気圧の範囲を満足する分散媒としては、水が挙げられる他、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサンなどのエーテル類;プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;プロピレングリコールジアセタートなどのグリコール誘導体類等を挙げることができる。
【0030】
これらのうち、金属微粒子および無機微粒子の分散性や分散安定性、インクジェット印刷法への適用のし易さの点では水、アルコール類、炭化水素類、エーテル類が好ましく、特に水または炭化水素類が好ましい。これらの分散媒は、それぞれ単独で使用できる他、2種以上を併用することもできる。
金属微粒子分散液の固形分濃度、すなわち、金属微粒子分散液の総量に対する、金属微粒子および無機微粒子の合計の割合は、1〜80重量%であるのが好ましく、15〜60重量%であるのがさらに好ましい。固形分濃度がこの範囲未満では、所定の厚みを有する金属層を、効率よく形成できないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、金属微粒子分散液中で、金属微粒子および無機微粒子が凝集しやすくなって、表面が平滑で均一な配線を形成できないおそれがある。
【0031】
また、インクジェット印刷法によって印刷する場合、金属微粒子分散液の粘度は、1〜50mPa・sであるのが好ましい。粘度がこの範囲未満では、ノズルの周辺部が、インクの流出によって汚染されやすくなるおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、ノズルが目詰まりしやすくなって、安定的に印刷を行えないおそれがある。
さらに、インクジェット印刷法によって印刷する場合、金属微粒子分散液の表面張力は、20〜70mN/mであるのが好ましく、30〜50mN/mであるのがさらに好ましい。表面張力がこの範囲未満では、金属微粒子分散液の、ノズル面に対する濡れ性が増大するため、インク滴の飛行曲りが生じやすくなるおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、ノズル先端で、金属微粒子分散液によって形成されるメニスカスの形状が安定しないため、インク滴の吐出量、吐出タイミングの制御が困難になるおそれがある。
【0032】
〔配線とその形成方法〕
本発明の配線の形成方法において、上記金属微粒子分散液を基板上に印刷または塗布する方法としては、従来公知の種々の方法が、いずれも採用可能である。このうち、金属微粒子分散液を、所定のパターン形状となるように印刷する印刷方法としては、例えば、スクリーン印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法、平板印刷法、ディスペンサー法、インクジェット印刷法等が挙げられ、特にインクジェット印刷法が好ましい。インクジェット印刷法によれば、ごく微細な配線のパターンを、従来の、フォトリソグラフ法によってパターン形成したレジスト膜を利用する形成方法とほぼ同等程度の、高い精度でもって形成することが可能である。
【0033】
また、金属微粒子分散液を塗布する塗布方法としては、例えば、ブレードコート法、エアナイフ法、ロールコート法、ブラッシュコート法、グラビアコート法、キスコート法、エクストルージョン法、スライドホッパー法、カーテンコート法、スプレー法、浸漬法等が挙げられる。
次に、本発明の配線の形成方法においては、形成した塗膜を乾燥させた後、あるいは乾燥と同時に加熱処理するか、または、乾燥後に、レーザー照射して焼き付けることで、金属微粒子を焼結させる。そうすると、基板上に、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有する、本発明の配線が形成される。加熱処理、またはレーザー照射による焼付けは、大気中で行ってもよいし、金属微粒子の酸化を防止したりするために、窒素雰囲気等の不活性雰囲気中や、減圧雰囲気中で行ってもよい。
【0034】
形成された本発明の配線は、上記のように、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有しており、上記連続体組織によって導電パスを形成して良好な導電性を維持しつつ、この連続体組織中に分散した無機微粒子によって、外光を反射しにくい上、無彩色で、表示の色調に影響を及ぼさない灰色ないし黒色に着色されたものとなる。そして、前述したPDPや、あるいは液晶表示パネル等の表示装置のアドレス電極として、特に装置の表面側で使用した際に、表示のコントラストや色調に悪影響を及ぼさない上、導電性に優れた配線を形成することが可能となる。
【実施例】
【0035】
実施例1:
金属微粒子として、表1に示す平均粒子径Φmを有する金の微粒子を用意すると共に、無機微粒子として、同じく表1に示す平均粒子径Φiを有する酸化ルテニウム(IV)の微粒子を用意した。そして、両微粒子を、表1に示すように組み合わせて、金属微粒子分散液を製造した。両微粒子の体積比Vi/Vm=1.0とした。また、金属微粒子分散液の固形分濃度は25重量%とした。製造した金属微粒子分散液について、下記の各試験を行って、その特性を評価した。
【0036】
〈分散安定性〉
製造直後の金属微粒子分散液50ccを、容量100ccのバイアル瓶に入れ、密閉して、25℃に設定した暗室中で1ヶ月間、静置した後、バイアル瓶の底の部分に沈殿が生じたか否かを観察した。そして、沈殿が生じていなかったものを分散安定性良好(○)、沈殿が生じていたものを分散安定性不良(×)として評価した。
【0037】
〈配線の形成〉
製造直後の金属微粒子分散液を、ピエゾ式のインクジェットプリンタに使用して、青板ガラス基板の表面に、線幅120μmの直線パターンと、1センチ四方のベタパターンとを印刷し、大気中で100℃×10分間の乾燥を行った後、大気中で、400℃×15分間の加熱処理を行って焼き付けることで配線を形成した。
【0038】
形成した配線のうち直線パターンの配線抵抗を、4端子法(端子間距離30mm)で測定した。そして、この測定値と、レーザー顕微鏡を用いて測定した直線パターンの厚みとから、配線の体積抵抗率(Ω・cm)を求めた。体積抵抗率は、50×10-6Ω・cm以下を良好、20×10-6Ω・cm以下を特に良好として評価した。また、形成した配線のうちベタパターンの表面を、表面粗さ計を用いて測定して、日本工業規格JIS B0601-1994「表面粗さ−定義及び表示」において規定された十点平均粗さRzを求めた。さらに、形成した配線の色調を観察して、白色−灰白色−灰色−暗灰色−黒色の5段階に分類した。
【0039】
以上の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表より、金属微粒子としての金の微粒子の分散安定性を良好とするためには、その平均粒子径Φmを、100nm以下とする必要があることがわかった。また、金の微粒子の平均粒子径Φmを、上記の範囲内でも、特に5〜90nmとすれば、表面が平滑で厚みが均一であると共に、緻密で、かつ導電性に優れた配線を形成できることもわかった。
一方、無機微粒子としての酸化ルテニウムの微粒子の分散安定性を良好とするためには、その平均粒子径Φiを、300nm以下とする必要があることがわかった。また、酸化ルテニウムの微粒子の平均粒子径Φiを、上記の範囲内でも、特に260nm以下とすれば、表面が平滑で厚みが均一であると共に、緻密で、かつ導電性に優れた配線を形成できることもわかった。
【0042】
実施例2:
金属微粒子として、平均粒子径Φm=30nmの銀の微粒子を用意すると共に、無機微粒子として、平均粒子径Φi=75nmのマンガン−鉄−銅複合酸化物の微粒子を用意した。そして、両微粒子を、体積比Vi/Vmが表2に示す値となるように配合して、金属微粒子分散液を製造した。金属微粒子分散液の固形分濃度は35重量%とした。製造した金属微粒子分散液について、下記の各試験を行って、その特性を評価した。
【0043】
〈配線の形成〉
製造直後の金属微粒子分散液を、ピエゾ式のインクジェットプリンタに使用して、カラーPDP用ガラス基板〔旭硝子(株)製の品番PD200〕の表面に、線幅120μmの直線パターンを印刷し、大気中で100℃×10分間の乾燥を行った後、大気中、下記の条件でレーザー照射して焼き付けることで配線を形成した。
【0044】
(レーザー照射条件)
光源:InGaN青色LD(波長408nm)
出力:450mW
ファイバーコア:約400μmφ
転写倍率:−1/2(基板でのスポット径約200μmφ)
形成した直線パターンの配線抵抗を、4端子法(端子間距離30mm)で測定した。そして、この測定値と、レーザー顕微鏡を用いて測定した直線パターンの厚みとから、配線の体積抵抗率(Ω・cm)を求めた。体積抵抗率は、50×10-6Ω・cm以下を良好、20×10-6Ω・cm以下を特に良好として評価した。また、形成した配線の色調を観察して、白色−灰白色−灰色−暗灰色−黒色の5段階に分類した。
【0045】
以上の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表より、配線の色調と、導電性とのバランスを考慮すると、両微粒子の体積比Vi/Vmは、0.03〜5.0であるのが好ましいことがわかった。
実施例3:
金属微粒子として、平均粒子径Φm=55nmの銀−パラジウム−銅合金の微粒子を用意すると共に、無機微粒子として、表1に示す平均粒子径Φiを有するマンガン−鉄−銅複合酸化物の微粒子を用意した。そして、両微粒子を、表3に示すように組み合わせて、金属微粒子分散液を製造した。両微粒子の体積比Vi/Vm=1.0とした。また、金属微粒子分散液の固形分濃度は20重量%とした。製造した金属微粒子分散液について、下記の各試験を行って、その特性を評価した。
【0048】
〈配線の形成〉
製造直後の金属微粒子分散液を、ピエゾ式のインクジェットプリンタに使用して、青板ガラス基板の表面に、線幅120μmの直線パターンを印刷し、大気中で100℃×10分間の乾燥を行った後、大気中で、400℃×15分間の加熱処理を行って焼き付けることで配線を形成した。
【0049】
形成した直線パターンの配線抵抗を、4端子法(端子間距離30mm)で測定した。そして、この測定値と、レーザー顕微鏡を用いて測定した直線パターンの厚みとから、配線の体積抵抗率(Ω・cm)を求めた。体積抵抗率は、50×10-6Ω・cm以下を良好、20×10-6Ω・cm以下を特に良好として評価した。また、形成した配線の色調を観察して、白色−灰白色−灰色−暗灰色−黒色の5段階に分類した。さらに、形成した配線を収束イオンビームを用いて断面カットし、走査型電子顕微鏡を用いてその断面を観察して、配線構造を、下記の基準で評価した。
【0050】
◎:金属微粒子からなる連続体組織中に、無機微粒子が均一に分散された構造が観察された。配線構造きわめて良好。
○:金属微粒子からなる連続体組織の一部に乱れが見られたが、実用上は差し支えない程度であった。配線構造良好。
×:無機微粒子によって金属微粒子の焼結が阻害されて、連続体組織が形成されていなかった。配線構造不良。
【0051】
以上の結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表より、配線の色調と、導電性とのバランスを考慮すると、両微粒子の平均粒子径の比Φi/Φmは、0.2〜5.0であるのが好ましいことがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径Φmが100nm以下である金属微粒子と、平均粒子径Φiが300nm以下である黒色の無機微粒子とを含有することを特徴とする金属微粒子分散液。
【請求項2】
含有する金属微粒子の体積Vmと、無機微粒子の体積Viとの比Vi/Vmが、Vi/Vm=0.03〜5.0である請求項1記載の金属微粒子分散液。
【請求項3】
平均粒子径Φm、Φiの比Φi/Φmが、Φi/Φm=0.2〜5.0である金属微粒子と無機微粒子とを含有する請求項1記載の金属微粒子分散液。
【請求項4】
金属微粒子が、銀、白金、金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、およびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む微粒子である請求項1記載の金属微粒子分散液。
【請求項5】
無機微粒子が、銅、コバルト、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、およびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物または炭化物の微粒子であるか、またはカーボンである請求項1記載の金属微粒子分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金属微粒子分散液を用いて形成され、金属微粒子の連続体組織に無機微粒子が分散した構造を有することを特徴とする配線。
【請求項7】
金属微粒子分散液を基板上に印刷または塗布した後、加熱処理するか、またはレーザー照射して焼き付けることで、請求項6記載の配線を製造することを特徴とする配線の形成方法。



【公開番号】特開2006−169592(P2006−169592A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364852(P2004−364852)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】