説明

金属微粒子担持材料

【課題】ナノ粒子である金属微粒子の有機系担体への担持力が強く、耐久性の高い金属微粒子担持材料を提供する。
【解決手段】下記式(I):
【化1】


(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属を示す。)で表される、金属Mとフェニル骨格との結合を有する金属微粒子が有機系担体に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系担体を用いた金属微粒子担持材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ技術を応用して作製した金属微粒子を担体に担持させて、その特有な機能を発現させることが行われている。例えば、銀微粒子により抗菌・防カビ等の機能を付与することや、白金微粒子により抗酸化の機能を付与すること等が行われている。
【0003】
ナノ粒子としての金属微粒子を担持させる担体としては、無機系担体の他、繊維製品、樹脂等の有機系担体も用いられている。
【0004】
従来、銀微粒子等の金属微粒子を有機系担体に担持させる場合、その方法としては、物理的方法および化学的方法が知られている。
【0005】
物理的方法としては、銀のエアロゾルを荷電させ、被処理材である担体との静電力により被覆、付着する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
化学的方法としては、銀微粒子と、界面活性剤やポリマー等の安定化剤とを用いて表面処理する方法(特許文献2参照)、銀微粒子と、非イオン性ポリウレタンとを用いた溶液により被膜を形成する方法(特許文献3参照)、500nm以下の金属微粒子と、バインダー(ポリマー)との混合溶液を繊維製品に接触させて抗菌加工する方法(特許文献4参照)、白金微粒子とPVPとを用いてセルロース系繊維を抗酸化加工する方法(特許文献5参照)等が知られている。
【0007】
一方、本発明者等は、第11族の金属微粒子について、硫黄、窒素を含有せず、さらに金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能な金属微粒子とその製造方法および金属微粒子分散液を提案している(特許文献6参照)。また第9族、第10族の遷移金属の金属微粒子についても同様の技術を提案している(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−126348号公報
【特許文献2】特表2008−508321号公報
【特許文献3】特開2009−249636号公報
【特許文献4】特開2000−178870号公報
【特許文献5】特開2009−167572号公報
【特許文献6】国際公開WO2010/098402号パンフレット
【特許文献7】特願2009−144656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような物理的方法や化学的方法では、担持材料の耐久性、すなわち金属微粒子の担持力にさらに改善の余地があった。
【0010】
これには、次のような点が考えられる。すなわち上述の物理的方法ではバインダー(保護剤)を用いず、金属微粒子と担体とは静電力により、直接結合している。また化学的方法では、金属微粒子は、非共有結合的な態様、例えば、配位結合またはイオン結合により結合したバインダー(保護剤)を介して担体に担持されている。
【0011】
これらの静電力、配位結合、イオン結合等は、共有結合に比べれば結合力が弱く、物理的または化学的刺激に対する金属微粒子の担持力、すなわち担持材料の耐久性には一定の限界がある。このような耐久性は、繊維製品等の有機系担体に金属微粒子による機能を付与する際に、製品寿命をより長くする等の点から改良が求められていた。
【0012】
このような背景において本発明者等は、特許文献6、7の金属微粒子および金属微粒子分散液についてさらに検討を重ねた。本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、ナノ粒子である金属微粒子の有機系担体への担持力が強く、耐久性の高い金属微粒子担持材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属微粒子担持材料は、下記式(I):
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属を示す。)で表される、金属Mとフェニル骨格との結合を有する金属微粒子が有機系担体に担持されている。
【0016】
この金属微粒子担持材料において、金属微粒子は、下記式(II):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、X2は(CH2)nCOOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属による金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて得られたものであることが好ましい。
【0019】
この金属微粒子担持材料において、有機系担体は、金属微粒子の式(I)の官能基X1と結合可能な官能基を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有機系担体への金属微粒子の担持力が強く、耐久性を高めることができる。
【0021】
また、金属微粒子は、水、アルコール等の極性溶媒に分散可能であり、特に水を使用できることから金属微粒子担持材料の製造に際して環境負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】羊毛(Wool)に銀微粒子を担持させた金属微粒子担持材料の電子顕微鏡写真である。
【図2】羊毛(Wool)に白金微粒子を担持させた金属微粒子担持材料の電子顕微鏡写真である。
【図3】羊毛(Wool)にロジウム微粒子を担持させた金属微粒子担持材料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の金属微粒子担持材料は、上記式(I)で表される結合を有する金属微粒子を有機系担体に担持して得られるものである。
【0025】
式(I)中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属を示す。
【0026】
そしてこの金属微粒子は、ジアゾニウム塩と、第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属による金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて得ることができる。
【0027】
原料のジアゾニウム塩としては、上記式(II)で表される化合物を用いることができる。式(II)のジアゾニウム塩は、例えば、テトラフルオロほう酸水溶液に、対応するアミノフェニルカルボン酸を添加、攪拌し、亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより得ることができる。
【0028】
式(II)で表されるジアゾニウム塩と反応させる第11族の遷移金属化合物としては、第11族の遷移金属である金、銀、および銅の塩、錯体等を用いることができ、極性溶媒に溶解できるものであれば特に限定されない。
【0029】
第11族の遷移金属化合物としての金化合物は、例えば、テトラクロロ金(III)酸(H(AuCl4))、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム(Na(AuCl4))、ジエチルアミン金(III)三塩化物((C2H5)2NH(AuCl3))、ジシアノ金(I)酸カリウム(KAu(CN)2)、シアン化金(I)(AuCN)等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、テトラクロロ金(III)酸が好ましい。
【0030】
第11族の遷移金属化合物としての銀化合物は、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、硫酸銀、酢酸銀、酸化銀、チオシアン酸化銀、シアン化銀、シアン酸化銀、炭酸銀、亜硝酸銀、リン酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、硝酸銀が好ましい。
【0031】
第11族の遷移金属化合物としての銅化合物は、例えば、硝酸銅(II)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、水酸化銅、ギ酸銅、シュウ酸銅等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、硝酸銅(II)が好ましい。
【0032】
式(II)で表されるジアゾニウム塩と反応させる第9族または第10族の遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金等の第9族または第10族の遷移金属の塩、錯体等を用いることができ、極性溶媒に溶解できるものであれば特に限定されない。
【0033】
第9族の遷移金属化合物としてのロジウム化合物は、例えば、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(III)、四酢酸二ロジウム(II)、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウム、ロジウム(III)アセチルアセトナート、ヘキサアミンロジウム(III)トリクロライド、ペンタアミンクロロロジウム(III)ジクロライド、ヘキサシアノロジウム(III)酸カリウム等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、塩化ロジウム(III)が好ましい。
【0034】
第10族の遷移金属化合物としてのニッケル化合物は、例えば、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、テトラシアノニッケル(II)酸カリウム、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ヘキサアミンニッケル(II)ジクロライド、ヘキサアミンジニトロニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル(II)、過塩素酸ニッケル(II)、しゅう酸ニッケル(II)等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、硝酸ニッケル(II)が好ましい。
【0035】
第10族の遷移金属化合物としてのパラジウム化合物は、例えば、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ジクロロジアミンパラジウム(II)、テトラアミンパラジウム(II)ジクロライド、ジアミンジニトロパラジウム(II)、テトラシアノパラジウム(II)酸カリウム、水酸化パラジウム(II)等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、硝酸パラジウム(II)が好ましい。
【0036】
第10族の遷移金属化合物としての白金化合物は、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸、塩化白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、白金(II)アセチルアセトナート、ジクロロジアミン白金(II)、テトラアミン白金(II)ジクロライド、ジアミンジニトロ白金(II)テトラシアノ白金(II)酸カリウム等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ヘキサクロロ白金(IV)酸が好ましい。
【0037】
還元剤としては、ジアゾニウム塩と、金属化合物とを同時に効率よく還元できるものを選択する必要がある。例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C2H5)3)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム((CH3(CH2)3)4NBH4)、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム((CH3)4NBH4)等の水素化ホウ素塩系還元剤、ジボラン(B2H6)、アンモニアボラン(NH3-BH3)、トリメチルアンモニアボラン((CH3)3N-BH3)等のボラン系還元剤を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、水素化ホウ素ナトリウムが好ましく用いられる。
【0038】
反応溶媒として用いる極性溶媒としては、水、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。中でも、水、メタノールが好ましい。
【0039】
上記の原料を用いて金属微粒子を合成する際には、例えば、式(II)のジアゾニウム塩および金属化合物を極性溶媒に溶解、攪拌する。次いで還元剤を滴下し、これにより金属化合物と式(II)のジアゾニウム塩とを同時に還元し、熟成を行うことにより、式(I)で表される、フェニル骨格と金属原子とが共有結合またはそれに類似する結合形態により結合する金属微粒子が合成される。反応は、100℃未満、好ましくは30℃以下の温度で行うことができる。
【0040】
その後、必要に応じて水洗、溶剤洗浄、遠心分離、ろ過、電気透析等で精製を行い、窒素化合物、ハロゲン化合物等を除去し、金属微粒子の分散液を得ることができる。
【0041】
なお、式(I)においてX1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。金属微粒子は、X1として(CH2)nCOOHとその塩との両方が混在するものであってもよい。また、金属微粒子がX1としてカルボキシレートイオンを有する場合としては、反応を行う場合等において金属微粒子が分散液の状態である場合が挙げられる。
【0042】
本発明において、有機系担体としては、金属微粒子中のバインダーである式(I)の置換フェニル基におけるカルボシキル系官能基X1と反応し結合可能な官能基を有する有機系素材を好ましく用いることができる。
【0043】
ここで、金属微粒子のカルボシキル系官能基X1と有機系担体の官能基との結合には、共有結合またはそれに類似する結合形態が好適なものとして含まれる。
【0044】
このような金属微粒子のカルボシキル系官能基X1と反応し結合可能な官能基としては、例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、アシル基、アミド基、尿素基、エーテル基等を挙げることができる。このような官能基を持つ有機系担体と、金属微粒子のカルボシキル系官能基X1との共有結合としては、例えば、アミド結合やエステル結合等が挙げられ、それに類似する結合形態としては、例えば、水素結合、イオン結合、配位結合等が挙げられる。これらの結合の中で、特に共有結合が、結合形態として好適である。
【0045】
有機系担体として用いられる有機系素材としては、例えば、天然繊維や化学繊維等の繊維、樹脂等を用いることができる。
【0046】
天然繊維としては、例えば、綿、麻等の植物繊維、羊毛、獣毛、絹、羽毛等の動物繊維等を用いることができる。
【0047】
化学繊維としては、例えば、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等を用いることができる。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ等のセルロース系繊維等を用いることができる。半合成繊維としては、例えば、セルロース系繊維、アセテート、プロミックス等のタンパク質系繊維等を用いることができる。合成繊維としては、例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリウレタン系繊維等を用いることができる。
【0048】
樹脂としては、例えば、メラニン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアミドイミド等を用いることができる。
【0049】
本発明の金属微粒子担持材料は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上述の金属微粒子の分散液に有機系担体を含浸、または金属微粒子の分散液を有機系担体に塗布もしくは噴霧する。金属微粒子の分散液の濃度は、目的とする担持量、有機系担体における前述した官能基の量、金属微粒子による機能発現等を考慮して適宜のものとすることができる。金属微粒子の分散液の溶媒は、極性溶媒から選択して用いることができ、水、アルコール等を用いることができる。特に水を使用できることから、金属微粒子担持材料の製造に際して環境負荷を低減することができる。
【0050】
次に、この金属微粒子の分散液を含浸した有機系担体を乾燥する。乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、真空乾燥、常圧乾燥等を適用でき、式(I)における金属微粒子のカルボシキル系官能基X1と有機系担体の官能基との結合生成反応を十分に進行させることも考慮して適宜の加熱条件で行うことができる。
【0051】
例えば、有機系担体が官能基としてアミノ基または水酸基を有する場合には、80℃以上(例えば、120℃程度)に加熱し、金属微粒子のカルボシキル系官能基X1と確実にアミド結合またはエステル結合を生じさせることにより、結合をより強固にすることができる。
【0052】
上述の方法の他、本発明の金属微粒子担持材料は、例えば、金属微粒子の分散液を遠心分離またはろ過する等の手段により金属微粒子乾粉とし、得られた金属微粒子乾粉を有機系担体に塗布または噴霧して製造することもできる。この場合、式(I)における金属微粒子のカルボシキル系官能基X1と有機系担体の官能基との結合をアミド結合またはエステル結合等の、より強固な共有結合とするために、適宜に加熱を行ってもよい。
【0053】
このようにして乾燥後に得られる本発明の金属微粒子担持材料は、好ましい態様において、金属微粒子の金属と、バインダーである式(I)の置換フェニル基におけるフェニル骨格とが、共有結合またはそれに類似する結合形態により結合し、さらに、バインダーである式(I)の置換フェニル基におけるカルボシキル系官能基X1と、有機系担体とが、共有結合またはそれに類似する結合形態により結合している。従って、有機系担体への金属微粒子の担持力が強く、耐久性を高めることができる。
【0054】
このようにして得られる本発明の金属微粒子担持材料は、耐久性が高いことから、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、電磁波シールド材、静電気防止材、導電性材料、触媒(有機系、合成反応、消臭等)の分野に好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<合成例1>
下記式で表される化合物1を合成した。
【0056】
【化3】

【0057】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(152.45g、0.73mol)に、4-アミノ安息香酸(50.0g、0.36mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(62.89g、0.36mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、再結晶等の精製を行うことにより、化合物1として、白色〜淡黄色粉末47.15g(収率55%)を得た。
<合成例2>
テトラクロロ金(III)酸(0.3395g、0.8243mmol)をイオン交換水(33.8g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.1945g、0.8244mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水27.3gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0156g、0.4124mmol)を室温下、3時間で滴下した。滴下後、1時間熟成し、黒紫色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、金含有量505ppmの黒紫色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 540nm
赤外線吸収スペクトル 1585,1383cm-1:C=O伸縮振動、762 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例3>
硝酸銀(0.2592g、1.526mmol)をイオン交換水(150g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.360g、1.525mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水45gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0577g、1.525mmol)を室温下、3時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒黄色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、銀含有量707ppmの黒黄色水分散液85gが得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 420nm
赤外線吸収スペクトル 1693cm-1:C=O伸縮振動、797 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例4>
硝酸銅(II)(0.2400g、0.9934mmol)をイオン交換水(80.0g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.2344g、0.9935mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水20gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0376g、0.9939mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒黄色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、銅含有量1050ppmの茶色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 290nm
赤外線吸収スペクトル 1703,1587,1387cm-1:C=O伸縮振動、785 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例5>
塩化ロジウム(III)3水和物(0.1500g、0.570mmol)をイオン交換水(40.0g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.1344g、0.570mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水10.0gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0216g、0.571mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、ロジウム含有量656ppmの黒色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 321nm
赤外線吸収スペクトル 1703cm-1:C=O伸縮振動、779 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例6>
硝酸パラジウム(II)2.4水和物(0.4909g、1.79mmol)をイオン交換水(110.0g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.4232g、1.79mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水28gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0679g、1.79 mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、パラジウム含有量2289ppmの黒色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 295、330nm
赤外線吸収スペクトル 1682cm-1:C=O伸縮振動、756 cm-1:C−H面外変角振動
<合成例7>
ヘキサクロロ白金(IV)酸6水和物(0.1500g、0.290mmol)をイオン交換水(35g)に溶解させ、N2を10分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、合成例1の化合物1(0.0683g、0.289mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水15gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0110g、0.291mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、白金含有量337ppmの黒黄色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 323nm
赤外線吸収スペクトル 1693cm-1:C=O伸縮振動、764cm-1:C−H面外変角振動
以上のようにして得た各種の金属微粒子の分散液を用いて、次の試験を行った。
<耐久性試験>
<実施例1〜8>
合成例3の銀微粒子の分散液を用いて繊維に担持した銀微粒子担持材料の耐久性試験を行った。
【0058】
金属微粒子担持材料の製造は、合成例3の銀微粒子の分散液(10mL)に2cm×2cmの繊維を添加した。80℃にて30分間含浸後、水(10mL)で10分間攪拌洗浄を2回行い、40℃で真空乾燥し、繊維に銀微粒子を担持した。なお、実施例8は含浸後120℃で1時間、加熱処理を行った。一例として、羊毛(Wool)に銀微粒子を担持させた金属微粒子担持材料(実施例1)の電子顕微鏡写真を図1に示す(使用機器:(株)日立ハイテクノロジーズ TM3000、1万倍)。
【0059】
得られた銀微粒子担持材料の洗浄操作前後のAg(銀)担持量を測定することにより耐久性を判定した。洗浄操作は30mLの洗浄液に、銀微粒子を担持させた繊維(2cm×2cm)を添加し、室温にて10分間攪拌後、濾過する工程を10回繰り返した。洗浄操作前後の銀微粒子担持材料中のAg担持量は、銀微粒子担持材料を酸分解した後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い測定した。
【0060】
対照としてAg powder(ALDRICH Silver powder、粒径2〜3.5μm)を用いた。
【0061】
耐久試験の結果を次に示す。
<実施例1>
繊維:羊毛(Wool)
洗浄液:水
【0062】
【表1】

【0063】
<実施例2>
繊維:羊毛(Wool)
洗浄液:n−デカン
【0064】
【表2】

【0065】
<実施例3>
繊維:羊毛(Wool)
洗浄液:n−デカン、界面活性剤(ノニオン系:ポリオキシエチレン(7)アルキル (sec-C12-14)エーテル0.5%、アニオン系:スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキ
シルナトリウム0.5%)
【0066】
【表3】

【0067】
<実施例4>
繊維:綿
洗浄液:水
【0068】
【表4】

【0069】
<実施例5>
繊維:綿
洗浄液:n−デカン
【0070】
【表5】

【0071】
<実施例6>
繊維:綿
洗浄液:水、界面活性剤(ノニオン系:ポリオキシエチレン(7)アルキル(sec-C12- 14)エーテル0.5%、アニオン系:スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキシルナトリ ウム0.5%)
【0072】
【表6】

【0073】
<実施例7>
繊維:綿
洗浄液:n−デカン、界面活性剤(ノニオン系:ポリオキシエチレン(7)アルキル
(sec-C12-14)エーテル0.5%、アニオン系:スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキ
シルナトリウム0.5%)
【0074】
【表7】

【0075】
<実施例8>
繊維:綿
洗浄液:n−デカン
乾燥方法:120℃、1時間の加熱処理
【0076】
【表8】

【0077】
以上の実施例1〜8より、前述の式(I)で表される結合を有する銀微粒子が有機系担体に担持されている銀微粒子担持材料は、高い耐久性が確認された。
【0078】
また実施例8では、加熱処理により耐久性が向上した。これは綿(セルロース)の水酸基と銀微粒子のカルボキシル系官能基との結合をエステル結合へと、より強固な共有結合の形成が加熱処理により促進されたためと考えられる。
<抗菌性試験>
<実施例9>
合成例3の銀微粒子の分散液と合成例7の白金微粒子の分散液を用いて羊毛に担持した金属微粒子担持材料の抗菌性試験を行った。
【0079】
金属微粒子担持材料の製造は、合成例3の銀微粒子の分散液または合成例7の白金微粒子の分散液(25mL)に4cm×4cmの羊毛を添加した。80℃にて30分間含浸後、水(10mL)で10分間攪拌洗浄を2回行い、40℃で真空乾燥を行い、羊毛に銀または白金微粒子を担持した。
【0080】
得られた金属微粒子担持材料の静菌活牲値を測定することにより抗菌性を判定した。具体的には菌株として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 12732)を用いて、普通ブイヨン培地で生菌数105個/mLに調整した菌液0.2mLを試料0.4gに接種し37℃で18時間培養した。生理食塩水で菌を洗い出した後、希釈系列を作製し、生菌数をカウントして静菌活性値を求めた。静菌活性値は下記の式により算出し、抗菌性の指標として静菌活牲値2.2以上を抗菌性有と判定した。その結果を表9に示す。
静菌活性値=log[18時間後のコントロールの生菌数]−log[18時間後のサンプルの生菌数]
【0081】
【表9】

【0082】
このように、銀微粒子による担持材料と白金微粒子による担持材料のいずれも抗菌性が確認された。
<抗酸化性試験>
<実施例10>
合成例7の白金微粒子の分散液を用いて羊毛または綿に担持した金属微粒子担持材料の抗酸化試験を行った。
【0083】
金属微粒子担持材料の製造は、合成例7の白金微粒子の分散液(10mL)に2cm×2cmの羊毛または綿を添加した。80℃にて30分間含浸後、40℃で真空乾燥を行い、羊毛または綿に白金微粒子を担持した。得られた白金微粒子担持材料の抗酸化作用をDPPHラジカル消去法にて測定した。具体的には、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル試薬を希釈したエタノール溶液に、未処理の羊毛または綿、白金微粒子を担持した羊毛または綿を、それぞれ24時間含浸した。含浸後、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル試薬エタノール溶液について、紫外可視分光光度計による吸収ピーク(517nm)の測定および目視による色差により抗酸化作用を判定した。
【0084】
その結果、白金微粒子を担持した羊毛または綿で処理した1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル試薬エタノール溶液は、試薬中のラジカルが減少し、未処理の羊毛または綿で処理した1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル試薬エタノール溶液と比較し、目視で紫色が薄く退色し、また、紫外可視分光光度計による517nmの吸収ピークも減少し、白金微粒子担持材料の抗酸化作用が確認された。
<担持性試験>
<実施例11>
合成例2〜7の各種金属微粒子の分散液を用いて繊維への担持性試験を行った。
【0085】
設定濃度に、希釈または濃縮して調製した金属微粒子の分散液5mL(合成例2:Au 200ppm、合成例3:Ag 1000ppm、合成例4:Cu 200ppm、合成例5:Rh 200ppm、合成例6:Pd 200ppm、合成例7:Pt 1000ppm)に羊毛または綿(2cm×2cm)を添加し、80℃にて30分間含浸後、水洗(30mL、10分×2回)、真空乾燥(40℃、30分)を行い、羊毛または綿に各種金属微粒子を担持した。
【0086】
得られた各種金属微粒子担持材料を酸分解した後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い、羊毛または綿への金属微粒子の担持の有無を確認した。その結果を表10に示す。なお、羊毛または綿に対し、金属担持量が0.05mg/g以上の場合を担持有として「○」で表記した。
【0087】
なお、羊毛(Wool)に白金微粒子並びにロジウム微粒子を担持させた金属微粒子担持材料の電子顕微鏡写真を図2および図3に示す(使用機器:(株)日立ハイテクノロジーズ TM3000、1万倍)。
【0088】
【表10】

【0089】
このように、各種金属微粒子について羊毛または綿への担持が確認された。
<実施例12>
合成例3の銀微粒子の分散液を用いてPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂への担持性試験を行った。
【0090】
PET樹脂に合成例3の銀微粒子の分散液を塗布し、60℃で乾燥させたところ、PET樹脂の表面に銀色の薄膜が形成され、担持が確認された。この薄膜は均一で、密着性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、X1は(CH2)nCOOHまたはその塩、あるいは対応するカルボキシレートイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属を示す。)で表される、金属Mとフェニル骨格との結合を有する金属微粒子が有機系担体に担持されている金属微粒子担持材料。
【請求項2】
金属微粒子は、下記式(II):
【化2】

(式中、X2は(CH2)nCOOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、第9族、第10族、および第11族の遷移金属から選ばれるいずれかの金属による金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて得られたものである請求項1に記載の金属微粒子担持材料。
【請求項3】
有機系担体は、金属微粒子の式(I)の官能基X1と結合可能な官能基を有する請求項1または2に記載の金属微粒子担持材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117173(P2012−117173A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268823(P2010−268823)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】