説明

金属微粒子組成物及びその製造方法

【課題】分散性及び耐酸化性に優れる金属微粒子を含む金属微粒子組成物を提供する。
【解決手段】金属微粒子組成物は、(A)ニッケルを含有する粒子径1〜150nmの範囲内にある金属微粒子、及び(B)アビエチン酸を含み、(A)成分100質量部に対し、(B)成分を0.1〜40質量部の範囲内となるように配合してなるものである。好ましくは、金属微粒子が、ニッケル及び銅の合金であり、金属微粒子100質量部に対し、ニッケル元素の量が5〜50重量部の範囲内であり、銅元素の量が50〜95重量部の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性及び耐酸化性に優れる金属微粒子を含む金属微粒子組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、バルク金属とは異なる物理的・化学的特性を有することから、例えば、導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、高密度記録材料、触媒材料、インクジェット用インク材料等の様々な工業材料に利用されている。近年では、電子機器の小型化や薄型化に伴い、金属微粒子の粒子径も、数十〜数百nm程度まで微粒子化が進んでいる。例えば、電子機器の小型化に伴い、積層セラミックコンデンサーの電極は薄膜多層化が進んでおり、これに伴い電極層の材料には、ニッケル微粒子などの金属微粒子が使用されている。
【0003】
上記のように、工業材料に使用される金属微粒子は、その粒子径が例えば150nmを下回る程度に小さく、粒子径が均一で、かつ分散性に優れることが求められる。しかしながら、微粒子化が進むことで、表面エネルギーの増加により、金属微粒子が凝集し易くなる、という問題が生じている。
【0004】
金属微粒子を分散させるために用いる分散剤として、例えば多価カルボン酸を含む脂肪酸や不飽和脂肪酸などを含むアニオン系分散剤(例えば、特許文献1)、高分子系イオン性分散剤(例えば、特許文献2)、燐酸エステル系化合物(例えば、特許文献3)などが知られている。これらの分散剤は、ある程度の分散効果が得られるものの、微粒子化の進行に伴い、数十〜数百nm程度の粒子径の金属微粒子に対しては、凝集を抑えることが十分にできていないのが現状である。従って、金属粒子の微粒子化に対応した高い分散性を示す分散剤が求められている。
【0005】
金属微粒子は、固相反応や液相反応によって得られることが知られている。ニッケルナノ粒子を例に挙げると、固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケル塩の熱分解等が挙げられる。液相反応としては、塩化ニッケル等のニッケル塩を水素化ホウ素ナトリウム等の強力な還元剤で直接還元する方法、NaOH存在下ヒドラジン等の還元剤を添加して前駆体[Ni(H2NNH22]SO4・2H2Oを形成した後に熱分解する方法、塩化ニッケル等のニッケル塩や有機配位子を含有するニッケル錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて水熱合成する方法、ギ酸ニッケル塩や酢酸ニッケル塩を1級アミン等の還元剤を添加して、マイクロ波を照射する方法等が挙げられる。
【0006】
従来、固相反応で得られたニッケル粒子から積層セラミックコンデンサーなどの内部電極用のペーストを製造する際は、ビヒクル中にニッケル粒子を混練して、所定のタイミングでカチオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性イオン系などの分散剤を添加し、分散させてニッケルペーストを作製していた。しかしながら、この製造方法では凝集したニッケル粒子を含むため、凝集した状態で分散剤による被覆が行われ、十分な分散効果が得られない。また、ジェットミルや高圧ホモジナイザーを用いて、ニッケル粉末の解砕処理を行い、有機溶媒と飽和脂肪酸を加えて有機溶媒中で分散処理する方法も提案されている(例えば、特許文献4)。しかし、この方法でも微粒子化によって生じる凝集を抑えることができていないのが現状である。
【0007】
液相反応の技術に関して、ニッケル前駆物質、有機アミンおよび還元剤を混合した後、加熱することでニッケル微粒子を得る技術が開示されている(例えば、特許文献5)。この技術によれば、ニッケル微粒子の大きさおよび形状の制御が容易であるとされている。その理由は定かではないが、ニッケル微粒子が有機アミンにコーティングされることで有機溶剤中での分散性が向上することが挙げられている。しかしながら、この製造方法で、強力な還元剤を用いると、反応を制御することが難しく、分散性が高度に優れたニッケル微粒子は必ずしも好適には得られない。一方、還元力の弱い還元剤を用いると、酸化還元電位が負電位であるニッケル金属を還元するには高温に加熱する必要があり、それに伴った反応制御が必要になる。
【0008】
また、ポリオール溶液に、還元剤、分散剤、およびニッケル塩を添加して混合溶液を製造する工程と、混合溶液を撹拌および加熱する工程と、混合溶液を反応させてニッケル微粒子を生成する工程と、を含むニッケル微粒子の製造方法が開示されている(例えば、特許文献6)。この場合、還元剤として前記のような強力な還元剤を使用するものではあるが、粒度が均一で、凝集することなく分散性に優れたニッケル微粒子を得ることができるとされている。分散剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、セルロース誘導体等が記載されている。
【0009】
ところで、導電性の金属微粒子として、安価で、導電性や耐マイグレーション性に優れる銅を含有する金属微粒子の開発が進められている。しかしながら、銅は酸化しやすいため、銅の含有量が多くなるほど、金属微粒子の耐酸化性が低下するという問題があり、金属微粒子中の銅の濃度に勾配を設ける提案がなされている(例えば、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−067951号公報
【特許文献2】特開2010−135180号公報
【特許文献3】特開1998−092226号公報
【特許文献4】特開2006−183066号公報
【特許文献5】特開2010−037647号公報
【特許文献6】特開2009−024254号公報
【特許文献7】特開2011−063828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、分散性及び耐酸化性に優れた、ニッケルを含有する金属微粒子を含む金属微粒子組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の金属微粒子組成物は、下記の成分(A)及び(B)、
(A)ニッケルを含有する粒子径1〜150nmの範囲内にある金属微粒子、及び
(B)アビエチン酸、
を含んでいる。そして、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を0.1〜40質量部の範囲内となるように配合してなるものである。
【0013】
本発明の金属微粒子組成物は、前記金属微粒子が、ニッケル及び銅の合金であってもよい。この場合、前記金属微粒子が、該金属微粒子100質量部に対し、ニッケル元素の量が5〜50重量部の範囲内にあり、銅元素の量が50〜95重量部の範囲内にある金属微粒子であってもよい。
【0014】
本発明の金属微粒子組成物は、さらに溶媒を含有するものであってもよい。この場合、前記溶媒が、アルコール系溶媒であってもよく、又はターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート及びジヒドロターピニルアセテートからなる群より選ばれる1種以上を主成分として含有する有機溶媒であってもよい。
【0015】
本発明の金属微粒子組成物は、前記金属微粒子が、液相でのマイクロ波照射により得られたニッケルを含有する金属微粒子であってもよい。
【0016】
本発明の金属微粒子組成物の製造方法は、ギ酸ニッケル、ギ酸銅及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る第一の工程と、
前記錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して、ニッケル及び銅を含有する金属微粒子スラリーを得る第二の工程と、を有している。そして、この金属微粒子組成物の製造方法は、前記第二の工程において、前記錯化反応液中に、アビエチン酸を存在させた状態で加熱を行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属微粒子組成物は、強い凝集抑制作用とともに耐酸化作用も有するアビエチン酸を含有することによって、例えば粒子径が150nm以下の微細な金属微粒子であっても、凝集が抑制され、単一粒子が分散した粒子径分布のシャープな金属微粒子の集合体とすることができる。また、本発明の金属微粒子組成物は、金属微粒子の酸化が抑制されているので、例えば加熱処理を施して得られる焼結体は、高い導電性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位を、(b)は単座配位を、(c)は外圏にカルボン酸イオンが配位した状態をそれぞれ示す。
【図2】実施例2で得られた金属微粒子組成物のSEM写真を示す図である。
【図3】実施例2で得られた金属微粒子組成物を焼成したSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[金属微粒子組成物]
本実施の形態の金属微粒子組成物は、上記(A)成分及び(B)成分を含有する。(A)成分は、ニッケルを含有する粒子径1〜150nmの範囲内にある金属微粒子であり、(B)成分は、アビエチン酸である。
【0020】
[金属微粒子]
本実施の形態で用いる金属微粒子は、ニッケルを含有する。ニッケルの含有量は、その使用目的に応じて適宜選択すればよいが、ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム等の貴金属を挙げることができる。これらの中でも、例えば、チタン、コバルト、銅、金、銀、白金等を含有する金属微粒子が好ましい。また、これらの中でも特に、後述する液相でのマイクロ波照射により製造することができる金属微粒子が特に好ましく、その場合の金属種としては、ニッケルを必須成分として、例えば、コバルト、銅、金、銀、白金等が挙げられる。なお、金属微粒子は上記の金属元素を、単独で又は2種以上含有していてもよく、また水素、炭素、窒素、硫黄等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。さらに、金属微粒子は、単一の金属微粒子で構成されていてもよく、2種以上の金属微粒子を混合したものであってもよい。
【0021】
本実施の形態で用いる金属微粒子は、ニッケル元素の量を、金属微粒子100質量部に対し、5〜100質量部含有することが好ましい。また、本実施の形態で用いる金属微粒子が、例えば高い導電性を付与される場合、安価であり、導電性や耐マイグレーション性に優れるという観点から、好ましくは銅元素の量を、金属微粒子100質量部に対し、50質量部以上とすることがよい。ただし、このような態様は、例えば大気中での保存や、熱処理によって酸化銅が形成されやすくなるので、ニッケル元素の量を、金属微粒子100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは30質量部以上とすることで、酸化銅の生成を抑制することができる。この場合、高い導電性と耐酸化性を両立させる観点から、金属微粒子100質量部に対し、ニッケル元素の量を、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは25〜50質量部、最も好ましくは30〜50質量部の範囲内とし、銅元素の量を、好ましくは50〜95質量部、より好ましくは50〜75質量部、最も好ましくは、50〜70質量部の範囲内とすることがよい。
【0022】
本実施の形態で用いる金属微粒子は、銅を含有する場合、例えば、その中心部に銅及びその周囲(最外層部)に銅−ニッケル合金を有する二重構造を有していてもよいし、全体が銅及びニッケルの固溶体となっていてもよい。いずれの場合においても、例えば大気中での保存や、熱処理によって酸化銅が形成されやすくなるので、後述するアビエチン酸を配合することによって、酸化銅の生成を抑制している。
【0023】
金属微粒子の粒子径は、1〜150nmの範囲内から選択される。本実施の形態では、本来ならば凝集が起こりやすい100nm以下の粒子径の金属微粒子に対しても、優れた分散効果が得られる。換言すれば、高い凝集抑制効果が得られるため、例えば粒子径が100nm以下の金属微粒子を対象にすることがより好ましい。別の観点から、金属微粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜120nmの範囲内、より好ましくは20〜100nmの範囲内がよい。
【0024】
[アビエチン酸]
アビエチン酸は、3つの環構造、共役二重結合、及びカルボキシル基を有し、反応性に富んだ嵩高い構造を有している。これらの環構造−カルボキシル基が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、環構造−カルボキシル基によって金属微粒子との間に相互作用が生じ、金属微粒子の周囲にアビエチン酸が近接した状態で存在することによって、金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には金属微粒子組成物に任意に配合される溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。また、アビエチン酸は、銅の存在によって、金属微粒子の表面の酸化銅をアビエナイト銅に変化させるので、耐酸化性を発揮するものと考えられる。
【0025】
本実施の形態の金属微粒子組成物において、アビエチン酸の含有量は、金属微粒子100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲内、好ましくは1〜30質量部の範囲内がよい。金属微粒子100質量部に対するアビエチン酸の含有量が0.1質量部未満では金属微粒子の分散性が低下する傾向があり、40質量部を超えると、凝集が生じ易くなる傾向がある。また、金属微粒子の酸化を抑制したい場合には、金属微粒子100質量部に対してアビエチン酸の配合量を1質量部以上とすることが好ましい。
【0026】
また、アビエチン酸は、発明の効果を損なわない範囲で、他の分散性を有する化合物と組み合わせて使用することもできる。
【0027】
また、本実施の形態の金属微粒子組成物は、任意成分として、溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数3〜18のアルコール系溶媒等を使用することができる。好ましい溶媒の具体例としては、イソプロパノール、テトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。また、後述するように、金属微粒子の液相合成に使用した1級アミンをそのまま溶媒として用いることもできる。
【0028】
上記以外の溶媒としては、例えばターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート及びジヒドロターピニルアセテートからなる群より選ばれる1種以上を主成分として含有する有機溶媒が好ましく、より好ましくは溶媒中にこれらの1種以上を95重量%以上含有することがよい。これらの有機溶媒は、エチルセルロースなどの有機バインダに対する溶解性も比較的良好であるので、例えば、導電性ペーストなどの用途に有利である。また、これらの有機溶媒は、その沸点が200〜300℃の範囲内にあり、適度な粘性を有するので、例えば、本実施の形態の金属微粒子組成物をペースト状にして金属微粒子を焼結させる配線材などの用途に有利に使用される。このような金属微粒子を焼結させる工程を経由する用途では、例えば、金属微粒子を200〜300℃程度に加熱処理することによって、金属微粒子の表面に存在する有機物を溶媒中に一旦溶出させた後、有機物を溶媒とともに系外へ排出することができる。そのため、金属微粒子同士の融着を阻害せず、得られる焼結体は、高い導電性を有するものと考えられる。なお、溶媒の含有量は、その用途によって適宜選定することができる。
【0029】
[金属微粒子組成物の製造方法]
本実施の形態に係る金属微粒子組成物は、上記(A)成分の金属微粒子に、(B)成分のアビエチン酸を上記所定の質量比で配合することにより製造できる。金属微粒子にアビエチン酸を配合する方法は、特に制限はなく、例えば、a)金属微粒子に対して所定量のアビエチン酸を混合し、混練分散させる方法、b)金属微粒子を液相法によって合成する前又は後に、液相中にアビエチン酸を所定量添加する方法、c)高圧ホモジナイザーなどの分散機を用いて金属微粒子を機械的に解砕し、その解砕の前又は後に、アビエチン酸を所定量添加し分散させる方法など、様々な方法が挙げられる。アビエチン酸は、常温で固体(粉末)であるため、そのまま金属微粒子に混合してもよいし、任意の溶媒に溶解した状態で金属微粒子に混合してもよい。
【0030】
金属微粒子にアビエチン酸を適用した後、余剰のアビエチン酸を洗浄して除去することが好ましい。洗浄は、例えばイソプロパノールなどのアルコール系溶媒を用いて行うことができる。
【0031】
本発明の金属微粒子組成物に含有される金属微粒子は、上記ニッケルを含有し、さらに必要に応じて上記例示の金属種を含有する金属微粒子であれば特に制限はないが、アビエチン酸の効果を十分に発揮させるために、粒子径が150nm以下で粒子径分布が狭い(例えば、CV値が0.2以下の)金属微粒子であることが好ましい。このような粒子径分布の金属微粒子は、液相でのマイクロ波照射により製造することができる。以下、上記b)の方法において、金属微粒子としてのニッケル微粒子を液相法によって合成する前に液相中にアビエチン酸を所定量添加する場合を代表例に挙げて、本実施の形態に係る金属微粒子組成物の製造方法について、詳細に説明する。
【0032】
ニッケルを含有する金属微粒子組成物は、次の第一の工程及び第二の工程;
カルボン酸ニッケル及び1級アミンを含む混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る第一の工程(錯化反応液生成工程)、及び、
該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して該錯化反応液中のニッケルイオンを還元し、ニッケル微粒子のスラリーを得る第二の工程(ニッケル微粒子スラリー生成工程)、
を含むマイクロ波照射による液相法により調製することができる。ここで、第二の工程では、錯化反応液中にアビエチン酸を存在させた状態で加熱を行う。アビエチン酸は、遅くとも第二の工程で加熱する前の、前記混合物を調製する段階、前記混合物の段階、又は、前記錯化反応液の段階、のいずれかのタイミングで配合することができる。このように製造された金属ニッケル微粒子に対して、本実施の形態のアビエチン酸は、後記実施例に示すように、非常に優れた分散効果を示す。なお、「ニッケル微粒子」とは、ニッケル以外の金属を含むニッケル合金の微粒子であってもよい。この場合、ニッケル以外の金属として、例えば、銅、コバルト等を挙げることができる。
【0033】
<第一の工程;錯化反応液生成工程>
第一の工程では、まず、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を調製する。上記のとおり、本工程において、混合物を調製する段階、又は混合物の段階で、アビエチン酸を添加することができる。従って、混合物は、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに、アビエチン酸を含有していてもよい。
【0034】
(カルボン酸ニッケル)
カルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩)は、カルボン酸の種類を限定するものではなく、例えば、カルボキシル基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシル基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸ニッケルとして、非環式モノカルボン酸ニッケルを好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸ニッケルのなかでも、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、安息香酸ニッケル等を用いることがより好ましい。これらの非環式モノカルボン酸ニッケルを用いることによって、得られるニッケル微粒子は、その形状のばらつきが抑制され、均一な形状として形成されやすくなる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。
【0035】
なお、カルボン酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、解離後のニッケルイオン(又はニッケル錯体)を還元する過程で更なる高い温度での加熱が必要となるため好ましくない。また、Ni(acac)(β-ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることも考えられるが、これらのニッケル塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0036】
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも単独では使用できないが、1級アミンを使用する上で、生成する金属ニッケル微粒子の形状に支障を与えない範囲でこれらを併用することは差し支えない。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0037】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケル微粒子の粒子径を制御することができ、特に平均粒子径が1nm〜150nmの範囲内にあるニッケル微粒子を製造する場合において有利である。ニッケル微粒子の粒子径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるニッケル微粒子の粒子径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ニッケル微粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できる。
【0038】
1級アミンは、ニッケル微粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応後に、生成したニッケル微粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケル微粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンにおいては沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、また、炭素数が9以上のものが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミン[C21N(ノニルアミン)]の沸点は201℃である。1級アミンの量は、ニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケル微粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0039】
(有機溶媒)
第一の工程では、均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル及び1級アミンを先ず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えば1−オクタノール、テトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0040】
(錯形成)
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を熱処理して反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図1に示すように、カルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)または単座配位(b)いずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する(c)の少なくとも3種の可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)に於いて均一溶液とするには、図1(a)〜(c)において、少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0041】
この錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して反応を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル2水和物や酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水を系外に出すことができるので効率よくアミンとの錯体を形成させることができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸イオンが存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応における熱処理は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記の上限温度以下とし、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下とすることがよい。
【0042】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を完結させるという観点から、10分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間熱処理することはエネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0043】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応は、カルボン酸ニッケルと1級アミンとを有機溶媒中で混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えばギ酸ニッケル2水和物ではその極大吸収波長は710nmであり、酢酸ニッケル4水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフト(極大吸収波長が600nmにシフト)を観測することによって確認することができる。
【0044】
なお、ニッケルイオン以外の金属イオン(例えば銅イオン)の錯形成も、上記条件に準じて行うことができる。
【0045】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる反応液を、次に説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有する金属ニッケル微粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケルを含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0046】
<第二の工程;ニッケル微粒子スラリー生成工程>
本工程では、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元してニッケル微粒子スラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られる微粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。なお、加熱温度は、例えばカルボン酸ニッケルの種類やニッケル微粒子の核発生を促進させる添加剤の使用などによって、適宜調整することができる。そして、ニッケル微粒子スラリー生成工程では、錯化反応液中に、アビエチン酸を存在させた状態で加熱を行う。アビエチン酸は、マイクロ波照射加熱する前の錯化反応液に配合してもよい。
【0047】
本工程では、マイクロ波が反応液内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。
【0048】
均一な粒子径を有するニッケル微粒子を生成させるには、第一の工程である錯化反応液生成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、本第二の工程のマイクロ波照射による加熱処理で、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液生成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、ニッケル微粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒子径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、ニッケル微粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ニッケル微粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ニッケル微粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0049】
マイクロ波照射によって加熱して得られるニッケル微粒子スラリーは、そのままニッケル微粒子組成物とすることができる。また、ニッケル微粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、ニッケル微粒子が得られる。ニッケル微粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0050】
以上のようにして、平均粒子径150nm以下のニッケル微粒子組成物を調製することができる。なお、ニッケル微粒子組成物に限らず、他の金属種を含む金属微粒子組成物を製造する場合も、上記方法に準じて行うことができる。
【0051】
例えば、本実施に係る金属微粒子組成物が、ニッケル及び銅の合金の金属微粒子を含む場合、第一の工程において、カルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物に、銅塩を添加したものを使用すればよい。ニッケル及び銅の合金の金属微粒子において、酸化銅の生成を抑制したい場合には、以下のような製造方法がよい。
【0052】
(Ni−Cu合金の製造法の例)
ギ酸ニッケル、ギ酸銅及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る第一の工程と、この錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して、ニッケル及び銅を含有する金属微粒子スラリーを得る第二の工程と、を有する。そして、第二の工程では、前記錯化反応液中に、アビエチン酸を存在させた状態で加熱を行う。ここで、前記アビエチン酸は、遅くとも第二の工程で加熱する前の、前記混合物を調製する段階、前記混合物の段階、又は、前記錯化反応液の段階、のいずれかのタイミングで配合する。
【0053】
アビエチン酸は、ギ酸ニッケル及びギ酸銅中の金属換算のニッケル元素及び銅元素の合計100質量部に対して、0.1質量部以上の比率で配合することが好ましい。アビエチン酸の配合比率が0.1質量部を下回ると配合の効果が十分に得られないおそれがある。一方、アビエチン酸の配合比率の上限は特に制限されないが、比率が高くなるにつれて、アビエチン酸が析出しやすくなるので、40質量部以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0055】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径を求め、平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。尚、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0056】
[分散性の評価]
分散性の評価は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名;LA−950V2)を用いて行った。金属微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液(固形分濃度10wt%)を所定の濃度に希釈して、前記粒子径分布測定装置内にて超音波で5分間分散させ、体積分布の測定を行い、粒度分布の結果にて分散性の比較評価を行った。
【0057】
[5%熱収縮温度]
5%熱収縮温度は、試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、これを窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収率の温度とした。
【0058】
(合成例1)
125.9gのラウリルアミンに18.5gのギ酸ニッケル二水和物を加え、窒素フロー下、120℃で10分間加熱することによって、ギ酸ニッケルを溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、さらに83.9gのラウリルアミンを加え、マイクロ波を用いて180℃で10分間加熱することによって、金属微粒子スラリー1を得た。
【0059】
金属微粒子スラリー1を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンを用いて洗浄し、更にイソプロパノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥することによって、金属微粒子1(ニッケル含有率;98質量%、平均粒子径;100nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;295℃)を得た。元素分析の結果、C;0.5、N;0.026、O;2.2(単位は質量%)であった。
【0060】
(参考例1)
合成例1で得られた金属微粒子スラリー1を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンを用いて洗浄し、更にイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にて金属微粒子を分散させたスラリー溶液1(固形分濃度10wt%)を調製した。このスラリー溶液1の粒度分布の測定を行った。体積分布の結果は、次のとおりであった。
10;0.115μm、D30;0.177μm、D50;0.238μm、D90;0.479μm、D99;1.151μm
【0061】
[実施例1]
参考例1で調製したスラリー溶液1の10gを分取し、これにアビエチン酸の0.3gを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、金属微粒子組成物1を得た。この金属微粒子組成物1の粒度分布の測定を行った。体積分布の結果は、次のとおりであった。
10;0.074μm、D30;0.111μm、D50;0.149μm、D90;0.300μm、D99;0.669μm
【0062】
[実施例2]
384gのオレイルアミンに、17.79gのギ酸ニッケル二水和物、及び26.7gのギ酸銅四水和物を加え、窒素フロー下、120℃で20分間加熱することによって、ニッケル塩及び銅塩を溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、1.48gのアビエチン酸及び290gの1−オクタノールを加え、マイクロ波を用いて190℃で5分間加熱することによって、金属微粒子スラリー2を得た。
【0063】
金属微粒子スラリー2を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥することによって、金属微粒子組成物2(平均粒子径;10nm、CV値;0.12、5%熱収縮温度;250℃)を得た。この金属微粒子組成物2におけるNi及びCuの含有率は98質量%であり、NiとCuの含有比率は、Ni:Cu=40:60(単位は質量%)であった。得られた金属微粒子組成物2のSEM写真を図2に示す。
【0064】
得られた金属微粒子組成物2の同定は、粉末X線回折装置(XRD)(リガク社製、商品名;RINT2500)を用いて行った。X線解析の結果、それぞれニッケルと銅の固溶体の結晶面(111)、(200)、(220)のピークを有することにより、得られた粉体が面心立方構造(fcc)を有するニッケルと銅の固溶体であることが確認され、酸化銅は確認されなかった。
【0065】
得られた金属微粒子組成物2の20gに、400gのジヒドロターピニルアセテートを加えた後、分散装置(エム・テクニック社製、商品名;クレアミックス)を用いて、回転数6,000rpmで20分間分散を行った。その後、遠心分離(回転数3,000rpm、10分間)にて濃縮し、金属微粒子組成物2を分散させたスラリー溶液2’(固形分濃度80wt%)を調製した。
【0066】
2対のガラス板を2組準備し、2対のガラス板で上記スラリー溶液2’を擦り合わせたサンプル2を調製した。
【0067】
サンプル2を水素ガス中、250℃、30分間の焼成を行った。そのときのSEM写真を図3に示す。250℃30分間焼成することで焼結が進行していることが確認でき、導通も確認できた。
【0068】
(参考例2)
実施例2において、1.48gのアビエチン酸を使用しなかったこと以外、実施例2と同様にして、金属微粒子(NiとCuの質量比率[%];Ni:Cu=40:60、平均粒子径;10nm、CV値;0.12、5%熱収縮温度;250℃)を得た。
【0069】
得られた金属微粒子のX線解析の結果、それぞれニッケルと銅の固溶体の結晶面(111)、(200)、(220)のピークを有することにより、得られた粉体が面心立方構造(fcc)を有するニッケルと銅の固溶体であることが確認されたが、一部、酸化銅に関するピークも確認された。
【0070】
[実施例3]
4280gのオレイルアミンに、310gのギ酸ニッケル2水和物、及び181gのギ酸銅4水和物を加え、窒素フロー下、120℃で40分間加熱することによって、ニッケル塩及び銅塩を溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、15gのアビエチン酸及び3230gの1−オクタノールを加え、マイクロ波を用いて190℃で5分間加熱することによって、金属微粒子スラリー3を得た。
【0071】
金属微粒子スラリー3を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、ヘキサンとメタノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して金属微粒子組成物3(平均粒子径;40nm、CV値;0.16、5%熱収縮温度;265℃)を得た。この金属微粒子組成物3におけるNi及びCuの含有率は98質量%であり、NiとCuの含有比率は、Ni:Cu=67:33(単位は質量%)であった。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)及び(B)、
(A)ニッケルを含有する粒子径1〜150nmの範囲内にある金属微粒子、及び
(B)アビエチン酸、
を含み、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を0.1〜40質量部の範囲内となるように配合してなる金属微粒子組成物。
【請求項2】
前記金属微粒子が、ニッケル及び銅の合金である請求項1に記載の金属微粒子組成物。
【請求項3】
前記金属微粒子が、該金属微粒子100質量部に対し、ニッケル元素の量が5〜50重量部の範囲内にあり、銅元素の量が50〜95重量部の範囲内にある金属微粒子である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【請求項4】
さらに溶媒を含有するものである請求項1から3のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、アルコール系溶媒である請求項4に記載の金属微粒子組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート及びジヒドロターピニルアセテートからなる群より選ばれる1種以上を主成分として含有する有機溶媒である請求項4に記載の金属微粒子組成物。
【請求項7】
前記金属微粒子が、液相でのマイクロ波照射により得られたニッケルを含有する金属微粒子である請求項1から6のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物。
【請求項8】
ギ酸ニッケル、ギ酸銅及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る第一の工程と、
前記錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して、ニッケル及び銅を含有する金属微粒子スラリーを得る第二の工程と、を有し、
前記第二の工程において、前記錯化反応液中に、アビエチン酸を存在させた状態で加熱を行う金属微粒子組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108141(P2013−108141A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254619(P2011−254619)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】