説明

金属抽出剤、並びに、それを用いたパラジウムの抽出方法、及びジルコニウムの抽出方法

【課題】パラジウム及びジルコニウムを選択的に抽出可能な金属抽出剤、並びに、この金属抽出剤を用いたパラジウム及びジルコニウムの抽出方法を提供する。
【解決手段】金属抽出剤は、下記一般式(1)で表される環状硫化物誘導体を含有する。抽出方法は、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHを調節した後、前記金属抽出剤を含有する有機層と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム及びジルコニウムを抽出する金属抽出剤、並びに、それを用いたパラジウムの抽出方法、及びジルコニウムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、カドミニウム(Cd)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、水銀(Hg)、ウラン(U)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)などの金属(以下、「レアメタル」と称することがある。)は、我々の生活に必要不可欠なものであり、自動車用触媒や燃料電池、超強力磁石など現在の精密機器をはじめ多くの製品に使用されている。
【0003】
しかしながら、日本は、これら金属のほとんどを輸入に頼っているのが現状である。これら金属の中でも、パラジウムは、精密機器材料及び歯科材料として使用される金属であり、ジルコニウムは、圧電素子及びコンデンサとして使用される金属である。パラジウム及びジルコニウムは、地殻内存在量が最も少ない金属の一つであることから、近年の各国による資源獲得競争の中、価格が高騰しつつある。このため、資源の安定的な供給、環境保護の観点から、パラジウム及びジルコニウムをリサイクルする方法が提案されている。
【0004】
前記パラジウム及びジルコニウムのリサイクル方法としては、例えば、パラジウム及びジルコニウムを含有する水溶液にパラジウム及びジルコニウムを抽出する抽出剤を入れて抽出する方法が用いられており、この用途に使用する様々な抽出剤が開発され利用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、パラジウム及びジルコニウムを含有する水溶液は、様々な廃棄物を多種の酸によって水溶液化して得られるものであり、パラジウム及びジルコニウム以外の金属も多く含有している。このような水溶液から前記抽出剤を用いて抽出すると、パラジウム及びジルコニウム以外に、例えば、白金、イットリウム、ロジウム、アルミニウムなどの金属も抽出される。このため、パラジウム及びジルコニウムを分離抽出するためには、多段階的に抽出分離しなければならず、時間やコストがかかるという問題があった。
【0006】
したがって、パラジウム及びジルコニウムを選択的に抽出可能な金属抽出剤の速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−239066号公報
【特許文献2】特開2007−239088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、パラジウム及びジルコニウムを選択的に高効率で抽出可能な金属抽出剤、並びに、この金属抽出剤を用いたパラジウムの抽出方法、ジルコニウムの抽出方法、パラジウム及びジルコニウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記一般式(1)で表される環状硫化物誘導体を少なくとも含有することを特徴とする金属抽出剤である。
【化1】

但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは、水酸基又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、Zは、スルフィド基、スルフィニル基、及びスルホニル基から選択される少なくとも一つである。
<2> Rは、メチル基である前記<1>に記載の金属抽出剤である。
<3> Rは、水酸基である前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属抽出剤である。
<4> パラジウムを含む水溶液の25℃におけるpHを5未満に調節するpH調節工程と、前記pHを調節したパラジウムを含む水溶液及び前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記パラジウムを抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするパラジウムの抽出方法である。
<5> ジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHを5未満に調節するpH調節工程と、前記pHを調節したジルコニウムを含む水溶液及び前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記ジルコニウムを抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするジルコニウムの抽出方法である。
<6> パラジウムとジルコニウムとを少なくとも含む水溶液の25℃におけるpHを3未満に調節する第1のpH調節工程と、前記pHを調節した水溶液及び前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記パラジウムを抽出する抽出工程と、前記金属抽出剤からパラジウムを回収する回収工程と、その後、前記水溶液のpHを3以上5未満に調節する第2のpH調節工程と、前記pHを調節したジルコニウムを含む水溶液及び前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記ジルコニウムを抽出する抽出工程と、前記金属抽出剤からジルコニウムを回収するジルコニウム回収工程と、を含むことを特徴とするパラジウムとジルコニウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決でき、前記目的を達成することができ、本発明は、パラジウム及びジルコニウムを選択的に高効率で抽出可能な金属抽出剤、並びに、この金属抽出剤を用いたパラジウムの抽出方法、ジルコニウムの抽出方法、パラジウム及びジルコニウムの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1の抽出結果の一例を示したグラフである。
【図2】図2は、抽出時のpHを変えたときのパラジウム及びジルコニウムの抽出率の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(金属抽出剤)
本発明の金属抽出剤は、環状硫化物誘導体を少なくとも含有し、さらに、必要に応じてその他の成分を含有する。
【0013】
<環状硫化物誘導体>
前記環状硫化物誘導体としては、下記一般式で表される化合物である。
【化2】

但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは、水酸基又は炭素数1〜10の炭化水素基である。これらの中でも、Rは、炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基)がより好ましく、炭素数1〜2のアルキル基(メチル基、エチル基)が合成が容易であるという点で好ましく、Rは、合成での容易さという点で水酸基が好ましい。
Zは、スルフィド基、スルフィニル基、及びスルホニル基から選択される少なくとも一つである。これらの中でも、Zは、合成での容易さという点でスルフィド基が好ましい。
【0014】
前記炭素数1〜10の炭化水素基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、カルボニル基などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0015】
前記環状硫化物誘導体の具体例としては、下記構造式で表される化合物が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【化3】

【0016】
前記環状硫化物誘導体としては、例えば、アルキルフェノールを出発物質とし、前記アルキルフェノールと単体硫黄とを、アルカリ金属試薬又はアルカリ土類金属試薬の存在下で反応させることによって、スルフィド結合によって複数個のアルキルフェノールが連結した環状フェノール硫化物を得、次いで4位のアルキル基をRとするチオエステル基に変換することによって得ることができる。
【0017】
前記環状硫化物誘導体としては、前記金属の中でも、パラジウム、ジルコニウムを選択的に抽出することができる。
【0018】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化防止剤などが挙げられる。
【0019】
<使用方法>
本発明の金属抽出剤の使用方法としては、詳細は後述するが、本発明の金属抽出剤を溶媒に溶解させ、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液と接触させる方法が好適である。
【0020】
(パラジウムの抽出方法、ジルコニウムの抽出方法)
本発明のパラジウムの抽出方法及びジルコニウムの抽出方法は、pH調節工程と、抽出工程と、を含み、さらに、必要に応じて、その他の工程を含む。
【0021】
<pH調節工程>
前記pH調節工程は、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHを調節する工程である。
【0022】
前記パラジウムを選択的に抽出する場合、前記25℃におけるpHとしては、5未満が好ましく、3未満がより好ましく、1〜2が特に高い選択性を示すことから好ましい。
前記pHが、5以上であると、水相中の金属が沈殿を生じるためパラジウムを選択的に抽出できないことがある。
前記pHは、pH METER D−51(HORIBA社製)を用いて測定することができる。なお、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHがすでに7未満である場合は、前記pH調節工程を省略することができる。
【0023】
前記ジルコニウムを選択的に抽出する場合、前記25℃におけるpHとしては、5未満が好ましく、3以上5未満がより好ましく、3.5〜4.5が特に好ましい。
前記pHが、3未満であると、ジルコニウムの抽出率が50%未満となるため、選択的に抽出する効率が悪く、5以上では水相中の金属が沈殿を生じるため抽出条件として不適合である。
前記pHは、pH METER D−51(HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0024】
前記pHの調節方法としては、所望のpHになるように酸又はアルカリを前記抽出すべき金属を含む水溶液に添加すればよく、前記酸又はアルカリとしては、pHの調節に一般的に使用するものを挙げることができる。
前記酸としては、無機酸、有機酸などが挙げられる。
前記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などが挙げられる。
前記有機酸としては、例えば、酢酸などが挙げられる。
前記アルカリとしては、金属の水酸化物塩、アミン類、アンモニア類などが挙げられる。
前記金属の水酸化物塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
前記アミン類としては、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ピリジンなどが挙げられる。
前記アンモニア類としては、アンモニア水、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<抽出工程>
前記抽出工程は、pHを調節したパラジウム及びジルコニウムを含む水溶液と、前記金属抽出剤を含有する有機層とを接触させ、パラジウム及びジルコニウムのうち少なくともいずれかを有機層に抽出する工程である。
【0026】
−有機層−
前記有機層は、前記金属抽出剤と、溶媒と、を少なくとも含有し、さらに、必要に応じてその他の成分を含有する。
【0027】
−−溶媒−−
前記溶媒としては、前記金属抽出剤を溶解させることができれば特に制限はないが、パラジウム及びジルコニウムの抽出を容易にするために、前記パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液(水層)と相溶しない非水溶性溶媒が好ましい。
【0028】
前記非水溶性溶媒としては、特に制限はなく、例えば、鉱油、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記鉱油としては、例えば、石油、ケロシンなどが挙げられる。
前記脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが挙げられる。
前記芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記ハロゲン化溶媒としては、例えば、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレンなどが挙げられる。
【0029】
前記溶媒に溶解させる際の前記金属抽出剤の濃度としては、1×10−6mol/L〜1×10mol/Lが好ましく、1×10−5mol/L〜1×10−2mol/Lがより好ましく、1×10−3mol/L〜1×10−2mol/Lが特に好ましい。
前記濃度が、1×10−6mol/L未満であると、パラジウム及びジルコニウムを抽出することが困難となることがあり、1×10mol/Lを超えると、エマルジョンが生じ、水相と有機相の分離が困難な状況が生じることがある。
【0030】
前記接触の方法としては、前記パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液及び有機層とを含む溶液を振とうさせる方法、攪拌する方法などが挙げられる。
【0031】
前記攪拌の速度としては、10回転/分〜1,000回転/分が好ましく、300回転/分〜1,000回転/分がより好ましく、800回転/分〜1,000回転/分が特に好ましい。
前記速度が、10回転/分未満であると、十分に攪拌されず、有機相と水相の接触が不十分なことがあり、1,000回転/分を超えると、エマルジョンが発生することがある。
【0032】
また、前記振とうの速度としては、100ストローク/分〜800ストローク/分が好ましく、300ストローク/分〜800ストローク/分がより好ましく、500ストローク/分〜800ストローク/分が特に好ましい。
前記速度が、100ストローク/分未満であると、有機相と水相が十分に接触できず、金属イオンを抽出できないことがあり、800ストローク/分を超えるとエマルジョンが発生することがある。
【0033】
前記攪拌の時間としては、1時間〜24時間が好ましく、12時間〜24時間がより好ましく、20時間〜24時間が特に好ましい。
前記時間が、1時間未満であると、金属を抽出できないことがあり、24時間を超えても、抽出率が向上することはない。
【0034】
前記振とうの時間としては、5分〜30分が好ましく、10分〜30分がより好ましく、20分〜30分が特に好ましい。
前記時間が、5分未満であると、有機相と水相が接触する時間が少ないために、金属を抽出できないことがあり、30分を超えても抽出率が向上することはない。
【0035】
(パラジウムとジルコニウムの回収方法)
本発明のパラジウムとジルコニウムの回収方法は、第1のpH調節工程と、パラジウム抽出工程と、パラジウム回収工程と、第2のpH調節工程と、ジルコニウム抽出工程と、ジルコニウム回収工程と、を含み、さらに、必要に応じて、その他の工程を含む。
前記パラジウム抽出工程と、前記ジルコニウム抽出工程とは、上述した前記抽出工程と同一工程なので、説明は省略する。
【0036】
<第1のpH調節工程>
前記第1のpH調節工程は、パラジウムを選択的に抽出するためにpHを調節する工程である。
前記25℃におけるpHとしては、3未満が好ましく、1〜2が特に高い選択性を示すことから好ましい。
前記pHが、3以上であると、パラジウムを選択的に抽出できないことがある。
前記pHは、pH METER D−51(HORIBA社製)を用いて測定することができる。なお、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHがすでに3未満である場合は、前記第1のpH調節工程を省略することができる。また、pHの調節方法としては、上述したように酸又はアルカリを添加すればよい。
【0037】
<パラジウム回収工程>
パラジウム抽出工程での攪拌又は振とうを停止し、静置することにより、有機相と水相とは分離し、有機層をデカンテーションにより水相と分離することができる。
次に、この有機層を別の回収用の水相に接触させ、抽出した金属を逆抽出して水相に回収する。この逆抽出の方法は、例えばpHや温度の調整により行うことができる。
【0038】
<第2のpH調節工程>
前記第2のpH調節工程は、パラジウムを回収した水溶液からジルコニウムを選択的に抽出するためにpHを調節する工程である。
前記25℃におけるpHとしては、3以上5未満が好ましく、3.5〜4.5が特に好ましい。
前記pHが、3未満であると、ジルコニウムの抽出率が50%未満となるため、選択的に抽出する効率が悪く、5以上では水相中の金属が沈殿を生じるため抽出条件として不適合である。
前記pHは、pH METER D−51(HORIBA社製)を用いて測定することができる。なお、ジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHがすでに3以上5未満である場合は、前記第2のpH調節工程を省略することができる。また、pHの調節方法としては、上述したように酸又はアルカリを添加すればよい。
【0039】
<ジルコニウム回収工程>
ジルコニウム抽出工程での攪拌又は振とうを停止し、静置することにより、有機相と水相とは分離し、有機層をデカンテーションにより水相と分離することができる。
次に、この有機層を別の回収用の水相に接触させ、抽出した金属を逆抽出して水相に回収する。この逆抽出の方法は、例えばpHや温度の調整により行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(製造例1)
<環状フェノール硫化物中間体オリゴマー(A)の製造>
【化4】

1,000mL三口フラスコに、p−tert−ブチルフェノール300g(2.0mol)、ジフェニルエーテル64.0ml、エチレングリコール56.0ml(1.0mol)を入れ、窒素雰囲気下で加熱撹拌し、60℃に達した後、酸化カルシウム28.0g(0.5mol)を投入し、約20分間で120℃まで昇温して2時間反応させた。反応後、エチレングリコールと生成した水を減圧溜去した。減圧溜去の際に同時に溜去されてしまったジフェニルエーテルを追加した後、再び窒素雰囲気下で加熱撹拌し、100℃に達した後、硫黄95.9g(3.0mol)を加え、230℃まで昇温して3時間反応させた。反応終了後、放冷して110℃になったのを確認し、トルエン250mLを徐々に加えて反応液の粘性を下げて行き、この反応液を4Nの硫酸500mL中に注いで反応を停止させた。析出した硫酸カルシウムを濾過し、濾液を飽和硫酸ナトリウム水溶液にて洗浄した後、濾液を濃縮し、80℃に加温した。これを、別途準備しておいた80℃に加温した酢酸1Lに注ぎ、80℃で約1時間撹拌後、室温で一晩放置した。析出した沈殿物を蒸留水にて洗浄後、未洗浄の酢酸を除くため、大量のクロロホルムに溶解させ、硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。その後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮し、一晩減圧乾燥させることによって、収率67.8%で環状フェノール硫化物中間体オリゴマー(A)を得た。
【0042】
(製造例2)
<環状フェノール硫化物(B)の製造>
【化5】


製造例1で得られた環状フェノール硫化物中間体オリゴマー(A) 30g、ジフェニルエーテル64.0mL、水酸化ナトリウム3.99g、酢酸1.62gをこの順に500Lの三口フラスコに入れて窒素雰囲気下で加熱撹拌し、100℃で硫黄2.14gを全量加えて約1時間で230℃まで昇温し、4時間反応させた。反応終了後、放冷し、2Nの硫酸(100mL)を反応液に注いで反応を停止させ、次いでn−へプタン(100mL)を加えて約10分間撹拌した。その後、無水硫酸ナトリウム水溶液で硫酸を洗浄して水層と有機層に分け、有機層内のジフェニルエーテルを減圧溜去し、アセトンを加えて沈殿を析出させた。析出した沈殿を濾取して減圧乾燥することによって、環状フェノール硫化物の粗結晶を得た。この粗結晶をクロロホルムに溶解させて再結晶することによって、環状フェノール硫化物(B)を精製した。精製後の環状フェノール硫化物(B)の収率は11.4%であった。
【0043】
(製造例3)
<環状フェノール硫化物誘導体の合成>
【化6】

製造例2で得られた環状フェノール硫化物(B) 2.0gをトルエン100mlに溶解し、溶解後フェノール1.12gを加えた。その後、塩化アルミニウム10.0gを加え、窒素雰囲気下、80℃で24時間反応させた。反応終了後、2Nの塩酸240mlを加え12時間攪拌した。得られた沈殿物をろ過し、アセトンで洗浄後、減圧乾燥機により乾燥させることで、目的物の環状フェノール硫化物誘導体(脱tert−ブチルTC6A)を得た。収率は85.9%であった。
【0044】
(製造例4)
<環状硫化物誘導体の前駆体の合成>
【化7】


製造例3で得られた環状フェノール硫化物誘導体(脱tert−ブチルTC6A)0.5g、塩化スズ(IV)3.49g、クロロメチルメチルエーテル2.16g、クロロホルム100mlを500mlのナス型フラスコに入れ、室温で20時間攪拌した。その後、反応溶液を吸引濾過し、濾液を蒸留水100mlで分液漏斗を用いて洗浄した。そして下層の有機層を取り出し、残った水層に対しクロロホルム100mlで3回抽出し、取り出した有機層と混合させた。そして、この有機層を4Nの塩酸100mlで3回洗浄を行い、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。次にこのクロロホルム溶液をエバポレーターを用いて溶媒を完全に留去させ、少量のアセトンを加えて溶解させた後ヘキサンを加え再沈させた。再沈によって得られた沈殿物を吸引濾過し、減圧乾燥することで白色固体の環状硫化物誘導体の前駆体(TC6A−クロロメチル体)を得た。収率は58.46%であった。
【0045】
(製造例5)
<環状硫化物誘導体の合成>
【化8】

製造例4で得られた環状硫化物誘導体の前駆体(TC6A−クロロメチル体)300mg、チオ酢酸カリウム315mgを無水ジメチルホルムアミド50mlに懸濁させ、窒素気流下80℃で24時間反応させた。反応終了後、減圧下でジメチルホルムアミドを除き、クロロホルム20mlを加え、蒸留水20mlで3回洗浄を行い。無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。次にこのクロロホルム溶液をエバポレーターを用いて溶媒を完全に留去し、アセトンを加え得られた沈殿物を濾過することで、目的物の環状硫化物誘導体(TC6A−チオ酢酸体)を得た。収率は89.37%であった。
【0046】
(実施例1)
<パラジウムの抽出方法>
工場より排出されたレアメタルを数種類含む廃棄物を塩酸と過酸化水素で浸出した水溶液に酸として塩酸を添加することで25℃におけるpHが1.0の水溶液とし、この水溶液を蒸留水にて50倍に希釈した(以下、水層という。)。
この水層をICP発光分析装置により金属濃度を分析したところ、Rh:264.3ppm,Pd:737.8ppm,Pt:434.1ppm,Zr:198.2ppm,Ce:>3840.5ppm,Ba:2118.2ppm,Al:2272.5ppm,La:666.9ppm,Y:36.3ppmであった。
溶媒としてクロロホルムに製造例5で合成した環状硫化物誘導体(TC6A−チオ酢酸体)を濃度が2.92mMとなるように溶解させた有機層10mLと、前記水層10mLとをサンプル管口径24.0mmのサンプル管に入れ、直径14.0mmの撹拌子を用い、温度は室温、撹拌時間24時間、撹拌速度500回転/分で攪拌を行った。
その後、水層中の金属濃度をICP発光分析装置により分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式(I)にて求めた。環状硫化物誘導体と水溶液中の金属濃度とのモル濃度比をICP発光分析装置により測定したところ1:1であった。図1及び図2に結果を示す。

(E%)=(C−C)/C×100 (I)
但し、Cは、抽出前の水層中の金属濃度(ppm)を表し、Cは、抽出後の水層中の金属濃度(ppm)を表す。
【0047】
(実施例2)
<パラジウムの抽出方法>
実施例1において、pH1.0の水層に5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH1.5の水層に調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のパラジウムの抽出を行った。抽出結果を図2に示す。
【0048】
(実施例3)
<パラジウムの抽出方法>
実施例1において、pH1.0の水層に5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH2.0の水層に調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のパラジウムの抽出を行った。抽出結果を図2に示す。
【0049】
(実施例4)
<パラジウム、ジルコニウムの抽出方法>
工場より排出されたレアメタルを数種類含む廃棄物を塩酸、過酸化水素にて浸出された溶液にアルカリとして5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加することで25℃におけるpHが3.0の水溶液とし、この水溶液を蒸留水にて50倍に希釈した(以下、水層という。)。
この水層をICP発光分析装置により金属濃度を分析したところ、Rh:264.3ppm,Pd:737.8ppm,Pt:434.1ppm,Zr:198.2ppm,Ce:>3840.5ppm,Ba:2118.2ppm,Al:2272.5ppm,La:666.9ppm,Y:36.3ppmであった。
溶媒としてクロロホルムに製造例5で合成した環状硫化物誘導体(TC6A−チオ酢酸体)を濃度が2.92mMとなるように溶解した有機層10mLと、水層10mLとをサンプル管口径24.0mmのサンプル管に入れ、直径14.0mmの撹拌子を用い、温度は室温、撹拌時間24時間、撹拌速度500回転/分で攪拌を行った。
その後、水層中の金属濃度をICP発光分析装置により分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を下記の式(I)にて求めた。環状硫化物誘導体と水溶液中の金属濃度とのモル濃度比をICP発光分析装置により測定したところ1:1であった。図2に結果を示す。

(E%)=(C−C)/C×100 (I)
但し、Cは、抽出前の水層中の金属濃度(ppm)を表し、Cは、抽出後の水層中の金属濃度(ppm)を表す。
【0050】
(実施例5)
<パラジウム、ジルコニウムの抽出方法>
実施例4において、pH3.0に5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH4.0の水層に調整した以外は、実施例4と同様にして、実施例5のジルコニウムの抽出を行った。抽出結果を図2に示す。
【0051】
図1より、パラジウムのみ約80%の高効率で抽出されていることがわかる。本発明の金属抽出剤を用いると、pHが低い条件下ではパラジウムに対し高い選択性と高効率があることがわかる。
【0052】
図2より、パラジウムは、全てのpHにおいて高い抽出率を示しており、パラジウムに関しては、pHによる依存性は無いことがわかる。
一方、ジルコニウムは、水溶液のpHが1.0のときの抽出率は約14%であったが、pHが上昇するにつれて抽出率も上昇し、pHが4.0のときの抽出率は約60%であった。すなわち、パラジウム及びジルコニウムを含む水溶液のpHが低いほどパラジウムの抽出率の選択性が向上し、pHを高くすると、ジルコニウムの抽出率が向上し、パラジウムとジルコニウムの両金属が選択的に抽出される。このため、本発明では、金属抽出剤を変えることなく、一つの容器でパラジウム及びジルコニウムを、pHを調整して連続的に抽出できるので、工程を簡略化できる。つまり、パラジウムとジルコニウムを含む溶液に、公知の溶媒抽出装置を用いて、本発明の金属抽出剤を用いることで、まずpHが3未満にてパラジウムを高い選択性で抽出し、抽出剤を分離回収し、抽出剤から主にパラジウムを逆抽出にて回収後、アルカリを加えて溶液のpHを調整し、抽出剤を溶液に戻し、pHが3以上にてジルコニウムを高い選択性で抽出し、抽出剤を分離回収し、抽出剤から主にジルコニウムを逆抽出にて回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の金属抽出剤並びに、これを用いたパラジウムの抽出方法及びジルコニウムの抽出方法は、パラジウム及びジルコニウムを選択的に高効率で抽出することができるので、例えば、資源の安定的な供給、環境保護の観点から、パラジウム及びジルコニウムをリサイクルする方法などに好適に用いられる。
また、パラジウム及びジルコニウムを含む溶液に本発明の金属抽出剤を用いることで、最初に例えばpH1付近でパラジウムを抽出し、その後、pHを例えば4付近へ上げ、ジルコニウムを抽出することによって、効率よく金属の回収を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される環状硫化物誘導体を少なくとも含有することを特徴とする金属抽出剤。
【化1】

但し、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、Rは、水酸基又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、Zは、スルフィド基、スルフィニル基、及びスルホニル基から選択される少なくとも一つである。
【請求項2】
は、メチル基である請求項1に記載の金属抽出剤。
【請求項3】
は、水酸基である請求項1から2のいずれかに記載の金属抽出剤。
【請求項4】
パラジウムを含む水溶液の25℃におけるpHを5未満に調節するpH調節工程と、
前記pHを調節したパラジウムを含む水溶液及び請求項1から3のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記パラジウムを抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするパラジウムの抽出方法。
【請求項5】
ジルコニウムを含む水溶液の25℃におけるpHを5未満に調節するpH調節工程と、
前記pHを調節したジルコニウムを含む水溶液及び請求項1から3のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記ジルコニウムを抽出する抽出工程と、を含むことを特徴とするジルコニウムの抽出方法。
【請求項6】
パラジウムとジルコニウムとを少なくとも含む水溶液の25℃におけるpHを3未満に調節する第1のpH調節工程と、
前記pHを調節した水溶液及び請求項1から3のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記パラジウムを抽出するパラジウム抽出工程と、
前記金属抽出剤からパラジウムを回収するパラジウム回収工程と、
その後、前記水溶液のpHを3以上5未満に調節する第2のpH調節工程と、
前記pHを調節したジルコニウムを含む水溶液及び請求項1から3のいずれかに記載の金属抽出剤を少なくとも含有する有機層を接触させ、前記有機層に前記ジルコニウムを抽出するジルコニウム抽出工程と、
前記金属抽出剤からジルコニウムを回収するジルコニウム回収工程と、を含むことを特徴とするパラジウムとジルコニウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162817(P2011−162817A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24570(P2010−24570)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】