説明

金属担持多孔質体の製造方法

【課題】工程数が少なくて簡便であり、コストダウンが可能な金属担持多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンを第3級アミンにより白金に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体上に白金を担持した金属担持多孔質体は、燃料電池用電極触媒や排ガス浄化用触媒、ガス検知器のセンサー材料などに用いられる。これらの用途においては、白金金属表面において生じる触媒活性の発現を目的として白金を担持させるものであるから、電池や触媒としての機能を向上させるためには、比表面積が大きい微小粒子を多孔質上に担持させることが必要とされる。
【0003】
このような金属担持多孔質体の製造方法としては、白金コロイドを含むコロイド溶液を用いて、カーボン担体に白金粒子を担持させる方法が公知である(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの方法は、コロイド溶液を生成する工程と、そのコロイド溶液を用いてカーボン担体に白金粒子を担持させる工程とが必要となるため、より簡便な製造方法の提供が望まれている。
【0004】
特許文献4には、カーボン粉末と白金錯体とが水に分散した分散溶液を調製し、分散溶液に緩衝剤を添加した後に、還元剤を添加してカーボン粉末表面に白金を還元析出させる方法が開示されている。しかし、このような方法は、還元力が強い還元剤を使用するために、微細な白金粒子をカーボン粉末中に担持させるためには、反応条件の制御が必要となる。このため、還元剤とは別の緩衝剤を添加する工程が必要となり、そのため工程数及びコストの面から未だ改善の余地があった。
【0005】
また、特許文献5には、導電性担体材料を水中に懸濁し、懸濁液に白金の溶性化合物の水溶液を添加し、かつ懸濁液のpH値をアルカリ溶液の添加によって7〜9に上昇させ、還元剤を用いた還元によって白金を担体材料上に析出させる方法が開示されている。しかし、特許文献5に記載の方法は、強力な還元剤を使用することによって金属を析出させるものであり、また微小な粒子径のものとするためには、反応前にアルカリ溶液を添加する工程が更に必要であることから、工程数及びコストの面から未だ改善の余地があった。
【0006】
特許文献6には、白金オルガノゾルの製造方法が開示されている。特許文献6は、金属担持多孔質体の製造方法に関するものではなく、金属超微粒子オルガノゾルに関するものである。特許文献6に記載の方法は、特許文献4、5に記載の方法と同様に、強力な還元剤を添加する前に別の添加剤(アルキルアミンおよび/またはその化合物)を添加する方法である。
【0007】
白金コロイド水溶液の製造方法として、特許文献7には、高分子量顔料分散剤を含有する水溶液中で、2価の白金化合物とアミン化合物とを混合し、2価の白金化合物を還元して白金コロイド粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、特許文献7に記載の方法は、金属担持多孔質体の製造方法に関するものではなく、また還元剤の他に高分子顔料分散剤を用いる方法である。
【0008】
また、白金合金を担持した多孔質体の製造方法としては、特許文献8に、カーボン担体上に白金を担持する工程と、他の金属の塩溶液にアルカリを添加して水酸化物を調製したあと保護コロイド剤を添加して水酸化物を調製する工程と、白金を担持したカーボンをここで得られたコロイド溶液に添加して混合し、濾過する工程と、濾過後の白金担持カーボンを所定の温度で熱処理して合金化する工程とを有する方法が開示されている。この方法におけるカーボン担体上に白金を担持する方法としては、塩基性に調製後、ヒドラジンによって還元する方法が記載されているのみであり、上述した方法と同様の問題を有するものである。
【0009】
【特許文献1】特開2001−93531号公報
【特許文献2】特開平11−47595号公報
【特許文献3】特開2003−123775号公報
【特許文献4】特開2004−335252号公報
【特許文献5】特開平10−334925号公報
【特許文献6】特開2006−104572号公報
【特許文献7】特開2002−285207号公報
【特許文献8】特開平4−118860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、工程数が少なくて簡便で、反応の制御も容易であることから、コストダウンを図ることができるような金属担持多孔質体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンを第3級アミンにより白金に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法である。
本発明において、第3級アミンの使用量は、N量換算で、白金イオン中の白金原子1モルあたり1〜20当量であることが好ましい。
本発明において、反応中の溶媒中における白金(金属換算量)/多孔質体の質量比は、20/80〜80/20であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンと、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、銅、クロム、マンガン、鉄、インジウム、モリブデン、スズ、コバルト、ニッケル、亜鉛、アンチモン、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオン若しくは錯イオンとを、第3級アミンにより白金及び上記金属に同時に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法である。
【0013】
本発明において、2価の白金イオンは、4配位の白金錯イオンであることが好ましい。
また、2価で4配位の白金錯イオンは、テトラクロロ白金(II)酸イオンであることが好ましい。
【0014】
本発明において、多孔質体は、導電性を有することが好ましい。上記多孔質体は、導電性カーボンブラック又はセラミック材料であることが好ましい。
本発明においては、第3級アミンは、脂肪族、アラルキル又は脂環式の第3級アミンであり、溶媒は、水又は水性媒体であることが好ましい。
【0015】
上記多孔質体は、200〜1500m/gのBET比表面積を有することが好ましい。また、反応時間10分〜50時間、反応温度15〜100℃で還元を行うことが好ましい。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の金属担持多孔質体の製造方法は、多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンを第3級アミンにより白金に還元する工程を有する。すなわち、本発明は白金イオンとして4価の白金イオンより還元されやすい2価の白金イオンを原料として使用するものである。このため、第3級アミン存在下という温和な還元条件で金属を析出させることができ、反応の制御が容易となり、コストダウンを図ることができるものである。
【0017】
本発明では、還元剤として第3級アミンを使用する。アミンによる還元反応は穏やかな条件下での進行するものであることから、微細な粒子状の金属を容易に析出させることができる。このため、比表面積が大きい微細な金属粒子を多孔質体上に効率よく担持させることができる。
【0018】
また、アミンの窒素原子上の非共有電子対は金属に対する配位子として作用するものであるから、配位することによって錯体が水溶液中で安定化してしまうと、還元反応が進行しにくくなる。このため、良好な還元性を得るためには配位能が低いアミンを使用することが必要である。第3級アミンは、窒素原子周辺に3つの脂肪族炭化水素基等が存在することから、立体的要因のために配位能が低く、このため還元反応を進行させやすいと推測される。
【0019】
本発明においては、上述したような反応を多孔質体存在下で行うものである。これによって、金属が担持した多孔質体を容易に製造することができる。
【0020】
2価の白金イオンは、2価の白金イオン前駆体(白金化合物)が溶媒に溶解することにより生じる。2価の白金イオン前駆体としては、白金原子1つに対して2つの電子供与体又は電子供与官能基から構成されるものと、白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成されるものとを挙げることができる。
白金原子1つに対して2つの電子供与体もしくは電子供与官能基から構成される2価の白金イオン前駆体としては、例えば、フッ化白金(II)、塩化白金(II)、臭化白金(II)、ヨウ化白金(II)、酸化白金(II)、シアン化白金(II)等を挙げることができる。
白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成される2価の白金イオン前駆体としては、例えば、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム四水和物、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラブロモ白金(II)酸二水和物、テトラニトロ白金(II)酸カリウム、ビス(2,4−ペンタンジオナト)白金(II)、ジクロロジアンミン白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸、テトラアンミン白金(II)、テトラアンミン白金(II)塩化物n水和物、ジニトロジアンミン白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)塩化物、テトラキス(チオシアナト)白金(II)酸カリウム、テトラシアノ白金(II)酸カリウム三水和物、テトラシアノ白金(II)酸バリウム四水和物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)、ヨード(メチル)ビス(トリエチルホスフィン)白金(II)、ジフェニルビス(トリエチルホスフィン)白金(II)、ジクロロ(フェニルイソシアニド)(トリエチルホスフィン)白金(II)、ビス(アリル)白金(II)、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、トランス−l−シクロヘキサンジアミンジクロロ白金(II)、トランス−d−シクロヘキサンジアミンジクロロ白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ジクロロ(η−エチレン)白金(II)ダイマー、ジクロロ(η−シクロヘキセン)白金(II)ダイマー等が挙げられる。
【0021】
白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成される2価の白金イオン前駆体のなかでは、4配位の白金錯イオンのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が好ましい。これらの塩は、水性媒体中への溶解性が高いので、還元工程において好適に使用され得るからである。
【0022】
溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、水性媒体や、有機溶媒等を挙げることができる。
水性媒体としては、水又は水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。
これらのなかでは、水が好ましい。製造工程上安全であり、また生成して得られた金属担持多孔質体も爆発等のおそれがなくて安全だからである。
また、有機溶媒としては、水溶性のものが好ましく、具体的には、1価又は多価のアルコール、エーテルを挙げることができる。
本発明の金属担持多孔質体の製造方法は、反応中の溶媒中において白金の含有量が金属量換算で0.005mol/l以上で行うことが好ましい。
白金の含有量が0.005mol/l未満であると、白金粒子を充分に多孔質体に担持させることが困難である。
【0023】
本発明の金属担持多孔質体の製造方法は、反応中の溶媒中において白金(金属換算量)/多孔質体の質量比が20/80〜80/20であることが好ましい。上記範囲内であることが、燃料電池や排ガス浄化用触媒としての好適である。上記質量比が20/80未満であると、金属担持多孔質体を燃料電池用電極触媒等として用いる場合に触媒層を厚くしなければならないため、燃料ガス等の拡散性が低下し、触媒能が充分に得られないおそれがある。一方、上記質量比が80/20を超えると、燃料電池用電極触媒等として用いる場合に触媒活性が高くなりすぎて発火するおそれがある。
【0024】
本発明の金属担持多孔質体の製造方法はまた、多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンと、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、銅、クロム、マンガン、鉄、インジウム、モリブデン、スズ、コバルト、ニッケル、亜鉛、アンチモン、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タンタル、レニウム及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(以下、第2成分金属)のイオン若しくは錯イオンとを、第3級アミンにより白金及び第2成分金属に同時に還元する工程を有するものである。目的によっては、白金に加えてこれらの金属を併用することが必要とされる場合があるものであるが、このような場合にはこれらの金属の存在下で上記還元反応を行うことによって、所望の物性を得ることができる。この方法では1段階で少なくとも2種の金属を担持する金属担持多孔質体を得ることができる。ここでいう金属担持多孔質体は、白金を少なくとも含む金属担持多孔質体で、上記第二成分金属を1種又はそれ以上有する金属担持多孔質体である。換言すると、ここでの金属担持多孔質体とは、金属微粒子が多孔質体の表面に担持された構造を有するものをいう。また、その担持される金属微粒子とは、白金と第2成分金属である1種類又は2種類以上の金属とが、粒子内で合金化された(複合化された)構造を持つものや、白金微粒子と第2成分金属の金属微粒子とが混合した状態で担持されるものをいい、合金微粒子と単独金属微粒子とが混在するような形態で担持されているものを含むものをいう。また、担持される金属微粒子とは、個々の金属微粒子が独立した状態で担持されるものや、金属微粒子同士が集合した形態を含む状態で担持されるものも含むものをいう。
【0025】
第2成分金属としては、ルテニウムが好ましい。金属担持多孔質体を燃料電池用電極触媒として使用する場合、アノードにおいてルテニウムの存在下で上記還元反応を行うことによって、一酸化炭素による被毒に対する耐性を向上させることができるからである。
【0026】
上記第2成分金属の存在下で還元反応を行う場合、溶媒中における白金及び第2成分金属の含有量は、次の関係を満たすことが好ましい。すなわち、白金及び第2成分金属と多孔質体との質量比は、(白金+第2成分金属;金属量換算)/多孔質体=20/80〜80/20であることが好ましい。上記範囲に金属含有量を調整することにより、一酸化炭素による被毒に対する耐性と触媒活性とを充分に有する金属担持多孔質体を製造することができるからである。白金と第2成分金属との金属換算での質量比は、当該金属担持多孔質体の用途や第2成分金属の種類により異なり、特に限定されるものではないが、白金/第2成分金属の質量比は、20/80〜99.5/0.5であることが好ましい。
【0027】
本発明では、多孔質体の存在下で還元を行う。上記多孔質体を用いるのは、反応面積を大きくすることにより、触媒活性を高めるためである。また、多孔質体とは、2nm未満のマイクロ孔又は2〜30nmのメソ孔を有し、比表面積が200〜1500m/gのものであることが好ましい。
上記多孔質体としては、特に限定されるものではなく、例えば、カーボン、セラミック材料、粘土鉱物等の無機物、金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物、硫化物等を挙げることができる。上記多孔質体は、特に電極材料として使用する場合には導電性を有することが好ましく、具体的にはカーボンが好ましい。
【0028】
上記カーボンとしては、通常使用されるカーボン材料を使用することができる。なかでも、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、ナノチューブ、フラーレン、活性炭等が好ましい。なお、上記カーボンとして、親水化処理が施されたものを用いることとしてもよい。そのようなカーボンとしては、例えば、表面に酸性基が導入されたもの等を挙げることができる。
さらに、金属担持多孔質体を、排ガスを浄化する触媒として使用する場合には、多孔質体は、熱やガスに対する劣化耐性などを有するものが好ましく、具体的にはセラミック材料や粘土鉱物等の無機物、金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物、硫化物、カルコゲン化物などが好ましい。なかでもゼオライト、アパタイト、リン酸ジルコニウム、粘土鉱物などの無機物;酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化マグネシウム等の金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物;硫化物;カルコゲン化物等が好ましい。上述したような多孔質体を用いて得られた金属担持多孔質体の使用にあたっての形状は特に限定されるものではなく、例えば、ペレット状に加工してから使用することができる。また、上記金属担持多孔質体を、支持体(例えば、ハニカム支持体等)に成形したり、支持体に塗布したりして使用することができる。
【0029】
上記多孔質体のBET比表面積は、特に限定されるものではないが、前述のように、200〜1500m/gであることが好ましい。触媒活性に優れた金属担持多孔質体を得ることができるからである。
【0030】
上記第3級アミンとしては、水溶性の脂肪族第3級アミンを用いることが好ましい。水性媒体中で反応を行う際に、容易に反応を進行させることができるためである。水溶性の脂肪族第3級アミンとしては、アルキル基中に水酸基、カルボニル基等の官能基を1又は2以上有するものであってもよく、例えばアルカノールアミン類であってもよい。また、水溶性の脂肪族第3級アミンとしては、例えば、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノールを挙げることができる。これらのうち、アルカノールアミンが好ましく、モノアルカノールアミンがより好ましく、2−ジメチルアミノエタノールがさらに好ましい。上記脂肪族第3級アミンの置換基は、アルキル基、エーテル基、ポリエーテル基が好ましく、置換基の末端は、水素基又は水酸基であることが好ましい。なお、本発明においては、水溶性の第3級アミンとして、アラルキルアミン又は脂環式アミンを用いることも可能である。アラルキルアミンとしては、例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルフェネチルアミン、N,N−ジエチルフェネチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルキシレンジアミン等を挙げることができる。上記脂環式アミンとしては、例えば、N−メチルピペリジン、ピペラジン、ピロリジン等を挙げることができる。
上記脂肪族第3級アミンとしては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、エソミンC/12、エソミンC/15、エソミンC/25、エソミンT/12、エソミンT/15、エソミンT/25、エソミンS/15、エソミンS/25、エソミンO/12、エソミンO/17、エソミンO/20、エソミンHT/12、エソミンHT/14、エソミンHT/17、エソミンSAJ−103、エソミンSA2Y−103(以上ライオン・アクゾ社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記市販品のなかでは、エソミンC/15、エソミンC/25、エソミンT/15、エソミンT/25、エソミンS/25、エソミンSAJ−103又はエソミンSA2Y−103が好ましい。これらの市販品は、水溶性を示すからである。
【0031】
溶媒中に第2成分金属を含まない場合、第3級アミンの使用量は、N量換算で、白金イオン中の白金金属1モルに対して1〜20当量であることが好ましい。1当量未満であると、還元が充分に行われないおそれがある。20当量を超えると、後処理としての水洗工程で大量の洗浄水が必要となる。
【0032】
本発明では、上記第3級アミン以外の還元剤を併用することも可能である。そのような還元剤としては、例えば、ヒドラジン化合物、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、ギ酸、リンゴ酸、スルホキシル酸、それらの誘導体等を挙げることができる。
上記従来からの還元剤の中で、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、ギ酸、リンゴ酸が入手容易なことから好ましい。なお、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸は、そのまま系に加えると、上記アミン化合物と塩を形成し、アミン化合物の機能発現を抑制するおそれがあるので、塩の形のものを用いることが好ましい。ただし、工程数の削減やコストダウンを考慮すると、これらの化合物は使用しないことが好ましい。
【0033】
上記還元工程は、溶媒に含まれる2価の白金イオンを、多孔質体の存在下で、第3級アミンにより還元するものである。これらを溶媒に添加する順序は、特に限定されるものではないが、上記白金イオン若しくは上記第3級アミンのいずれか一方と上記多孔質体とを含む溶媒に、他方を添加することが好ましい。なかでも、上記第3級アミンと上記多孔質体とを含む溶媒に上記白金イオンを添加することが好ましい。第3級アミンが多孔質体の濡れ性助剤や分散助剤として機能するからである。
【0034】
上記還元工程では、2価の白金イオンと第3級アミンとの混合により、静置後の上澄み液が無色から黄色を呈することで還元反応の進行を確認することができる。
上記還元工程では、反応時間10分〜50時間、反応温度15〜100℃で還元を行うことが好ましい。これらの条件で還元を行うことにより、微細な粒子状の金属を容易に析出させることができるからである。
【0035】
このようにして得られた金属担持多孔質体を含有する溶媒は、白金を担持した多孔質体以外に、還元で生じた塩や、場合によってはアミン化合物を含んでいる。これらの成分は、金属担持多孔質体の触媒活性に悪影響を及ぼすおそれがあるので、除去しておくことが好ましい。これらの成分の除去は、例えば、限外濾過や電気透析等の公知の方法により、濾液の電気伝導度が目標とする値になるまで行うことができる。この目標値としては、特に限定されるものではないが、10μS/cm以下が好ましい。充分な触媒活性を有する金属担持多孔質体を得ることができるからである。
【0036】
上述した製造方法で得られた金属担持多孔質体における白金の平均粒子径は、5nm未満であることが好ましい。5nm以上であると、触媒として利用することが困難になる。より好ましい平均粒子径は2〜3nmである。なお、平均粒子径は、例えば、白金粒子の電子顕微鏡写真等から読み取ったり、X線回折、分析機器等により測定したりすることにより決定することができる。
【0037】
金属担持多孔質体の白金の担持量は、20〜80質量%であることが好ましい。充分な触媒活性を発揮することができるからである。20質量%未満であると、燃料電池用電極触媒として用いる場合に触媒層を厚くしなければならないため、燃料ガス等の拡散性が低下し、触媒能が充分に得られないおそれがある。一方、80質量%を超えると、燃料電池用電極触媒等として用いる場合に触媒活性が高くなりすぎて発火するおそれがある。
【0038】
上記金属担持多孔質体のBET比表面積は、特に限定されるものではないが、50〜1000m/gであることが好ましい。この範囲内のBET比表面積を有する金属担持多孔質体は、優れた触媒活性を有するからである。
【0039】
上記製造方法によれば、工程数を少なくして簡便に金属担持多孔質体を製造することができる。また、乾燥等の乾式工程が不要であり、湿式工程のみで、金属担持多孔質体を分散した組成物を得ることができる。多孔質体が、導電性を有する粉状のものである場合、上記製造方法により得られる組成物から溶媒を除去せず、その組成物に導電性樹脂を混合することにより、他の溶媒を用いることなく、インク状の電極触媒(触媒インク)を得ることができる。また、金属担持多孔質体を分散した組成物中の溶媒を他の溶媒に溶媒置換し、得られた組成物に導電性樹脂を混合することにより、インク化してもよい。このようにして得られた触媒インクは、例えば、固体高分子型燃料電池用電極の製造に用いられ得る。また、多孔質体が粉状である場合、上記製造方法により得られる組成物を乾燥させ、得られた粉状の金属担持多孔質体を加熱成形することにより、金属担持多孔質体の成形物を製造することも可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明の金属担持多孔質体の製造方法によれば、少ない工程で簡便に金属担持多孔質体を製造することができ、コストダウンが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
導電性カーボン(Cabot社製 VulcanXC72R)1.76gに脱イオン水36.14gを加え混合し、更に2−ジメチルアミノエタノールを2.68g添加した後、マグネットスターラーで攪拌(700rpm)しながら、80℃まで昇温し、水溶液Aを得た。
テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)2.50gを脱イオン水25.00gに溶解させて、水溶液Bを得た。
水溶液A全量中の導電性カーボンと水溶液B全量中のテトラクロロ白金(II)酸カリウム中の白金(金属量)との質量比は60/40であった。
水溶液B全量を水溶液A全量に攪拌しながら瞬時に加え、80℃に保ちながら700rpmで75分間攪拌した。
その後、加熱を停止して攪拌しながら室温まで冷却した後、白金担持多孔質体を含有した溶液をろ過した。
これに30gの脱イオン水を加えてろ過を行い、白金担持多孔質体に付着した雑イオン化合物の除去のための洗浄を施した。この作業をろ液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで行った。
得られた生成物を別の容器に移し、真空乾燥機を用いて乾燥することで白金担持多孔質体を得た。
【0043】
[実施例2]
2−ジメチルアミノエタノールを3.52g添加すること以外は実施例1の水溶液Aを得る調製法にしたがって、水溶液Cを得た。
テトラクロロ白金(II)酸カリウム(KPtCl)1.67gと塩化ルテニウム(III)三水和物(RuCl・3HO)1.015gとを脱イオン水25.00gに室温下で溶解させ、水溶液Dを得た。
水溶液D全量中のテトラクロロ白金酸(II)カリウム中の白金(金属量)と塩化ルテニウム(III)三水和物中のルテニウム(金属量)との質量比は2/1であった。
水溶液C全量中のカーボンと、水溶液D全量中のテトラクロロ白金(II)酸カリウム中の白金及び塩化ルテニウム(III)三水和物中のルテニウムの合計(金属量)との質量比は60/40であった。
水溶液D全量を水溶液C全量に、攪拌しながら瞬時に加え、80℃に保ちながら700rpmで150分攪拌した。
その後、加熱を停止して攪拌しながら室温まで冷却した後、白金/ルテニウム複合体担持多孔質体を含有した溶液をろ過した。
これに30gの脱イオン水を加えてろ過を行い、白金/ルテニウム複合体担持多孔質体に付着した雑イオン化合物の除去のための洗浄を施した。この作業をろ液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで行った。
得られた生成物を別の容器に移し、真空乾燥機を用いて乾燥することで白金/ルテニウム複合体担持多孔質体を得た。
【0044】
[実施例3]
導電性カーボンの代わりに酸化ケイ素(日本アエロジル社製 AEROPERL 300/30)を用いる以外は実施例Aを得る調製法に従って、水溶液Eを得た。
水溶液E全量中の酸化ケイ素と水溶液B全量中のテトラクロロ白金(II)酸カリウム中の白金(金属量)との質量比は60/40であった。
水溶液B全量を水溶液E全量に撹拌しながら瞬時に加え、80℃に保ちながら700rpmで75分撹拌した。
その後、加熱を停止して攪拌しながら室温まで冷却した後、白金担持多孔質体を含有した溶液をろ過した。
これに30gの脱イオン水を加えてろ過を行い、白金担持多孔質体に付着した雑イオン化合物の除去のための洗浄を施した。この作業をろ液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで行った。
得られた生成物を別の容器に移し、真空乾燥機を用いて乾燥することで白金担持多孔質体を得た。
【0045】
[比較例1]
導電性カーボン(Cabot社製 VulcanXC72R)1.76gに脱イオン水36.14gを加え混合し、さらに2−ジメチルアミノエタノールを3.75g添加した後、マグネットスターラーで攪拌(700rpm)しながら、80℃まで昇温し、水溶液Fを得た。
ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)3.12gを脱イオン水25.00gに溶解させ、水溶液Gを得た。
水溶液Bにかえて水溶液Gを用い、水溶液Aにかえて水溶液Fを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0046】
[比較例2]
導電性カーボン(Cabot社製 VulcanXC72R)1.76gに脱イオン水36.14gを加え混合し、さらに2−アミノエタノールを1.84g添加した後、マグネットスターラーで攪拌(700rpm)しながら、80℃まで昇温し、水溶液Hを得た。水溶液Aにかえて水溶液Hを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0047】
[比較例3]
導電性カーボン(Cabot社製 VulcanXC72R)1.76gに脱イオン水36.14gを加え混合し、さらに2−アミノエタノールを2.58g添加した後、マグネットスターラーで攪拌(700rpm)しながら、80℃まで昇温し、水溶液Iを得た。水溶液Bにかえて水溶液Gを用い、水溶液Aにかえて水溶液Iを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0048】
[評価方法]
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた水溶液を用いて、以下の方法で評価した。
(1)透過型電子顕微鏡を用いた観察及び粒子径の測定
得られた多孔質体を、透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2000)を用いて観察・撮影した。その結果、実施例1〜3に係る多孔質体では金属粒子を観察することができたので、ノギスで平均粒子径を計測した。平均粒子径は、任意に選んだ10粒子の平均値を用いた。その一方で、比較例1〜3に係る多孔質体では金属粒子を観察することができなかった。
【0049】
図1及び図2は、実施例1により得られた金属担持多孔質体の透過型電子顕微鏡写真である。図中には、大きな粒子とその粒子に付着した小さな粒子とが存在しているが、この大きな粒子が導電性カーボンであり、小さな粒子が白金粒子である。図1及び図2によれば、導電性カーボンの表面に白金粒子が均一に担持している様子を確認することができる。
【0050】
(2)BET比表面積の測定
金属粒子を確認することができた実施例1〜3に係る多孔質体について、BET法(窒素吸着法)により比表面積を測定した。
評価方法(1)、(2)の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように実施例1〜3では多孔質体に金属粒子を担持させることができたが、比較例1、2、3では金属粒子を担持させることができなかった。
比較例1においては、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(HPtCl・6HO)を溶解することで溶液中に生成する4価の白金イオンを、脂肪族第3級アミンでは白金金属に還元することができなかったため、導電性カーボンに金属粒子を担持させることができなかったと考えられる。
すなわち、4価の白金イオンを還元するには、白金原子1つあたりに4個の電子を供与する必要があるため、より高い反応性を有する還元剤を適用しなければならない。しかし、脂肪族第3級アミンでは還元能が不充分であったと考えられる。
また、ヘキサクロロ白金(IV)酸は、6配位であるため、4配位の錯体よりも安定性の高い錯体であると考えられる。したがって、脂肪族第3級アミンが6配位の4価の白金イオンに作用したとしても、脂肪族第3級アミンと4価の白金イオンとが安定な錯体を形成することによって反応が終結し、還元反応が起こらなかったために白金担持多孔質体が得られなかったものと推定される。
【0053】
比較例2においては、2価の白金イオンを、脂肪族第1級アミンである2−アミノエタノールでは白金金属に還元することができなかったため、多孔質体に金属粒子を担持させることができなかったと考えられる。
従って当然ながら、比較例3においては、4価の白金イオンを、脂肪族第1級アミンでは白金金属に還元することができなかったため、多孔質体に金属粒子を担持させることができなかったと考えられる。
これらに関しては、上述したように、アミンの窒素原子上の孤立電子対が、金属イオンに対して配位子として作用するものであるため、配位によって金属錯体が溶媒中で安定化してしまうと、還元反応が進行し難くなることが原因にあると考えられる。
すなわち、2−アミノエタノールのような第1級アミンは、置換基が一つしかなくて窒素原子周辺の立体障害が小さいため、4配位の白金錯体であっても、安定な白金錯体を形成したと考えられ、そのため、白金イオンへの電子供与による白金の還元反応には至らず、白金担持多孔質体が得られなかったものと推定される。
【0054】
比較例3については、より還元され難い4価の白金イオンに、安定な錯体を形成し易い脂肪族第1級アミンを作用させても、白金イオンの還元反応は更に起こり難いため、金属粒子が多孔質体に担持されなかったものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、炭化水素の水素化や脱水素、自動車等の排気ガス中窒素酸化物の浄化、燃料電池、水素と酸素とによる電気発生を伴った水の生成等の酸化還元触媒、化学センサーや太陽電池の電極のドープ材の製造方法として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1により得られた金属担持多孔質体の透過型電子顕微鏡写真(10万倍拡大写真)である。
【図2】実施例1により得られた金属担持多孔質体の透過型電子顕微鏡写真(25万倍拡大写真)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンを第3級アミンにより白金に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項2】
第3級アミンの使用量は、N量換算で、白金イオン中の白金原子1モルあたり1〜20当量である請求項1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項3】
反応中の溶媒中における白金(金属換算量)/多孔質体の質量比は、20/80〜80/20である請求項1又は2に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項4】
多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンと、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、銅、クロム、マンガン、鉄、インジウム、モリブデン、スズ、コバルト、ニッケル、亜鉛、アンチモン、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のイオン若しくは錯イオンとを、第3級アミンにより白金及び前記金属に同時に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項5】
2価の白金イオンは、4配位の白金錯イオンである請求項1〜4のいずれか1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項6】
2価で4配位の白金錯イオンは、テトラクロロ白金(II)酸イオンである請求項5に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項7】
多孔質体は、導電性を有する請求項1〜6のいずれか1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項8】
多孔質体は、導電性カーボンブラック又はセラミック材料である請求項7に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項9】
第3級アミンは、脂肪族、アラルキル又は脂環式の第3級アミンであり、
溶媒は、水又は水性媒体である請求項1〜8のいずれか1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項10】
多孔質体は、200〜1500m/gのBET比表面積を有する請求項1〜9のいずれか1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項11】
反応時間10分〜50時間、反応温度15〜100℃で還元を行う請求項1〜10のいずれか1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−126211(P2008−126211A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317490(P2006−317490)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】