説明

金属捕集システム及び方法

【課題】金属捕集材を設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能な金属捕集システム及び方法を提供する。
【解決手段】海水の金属捕集領域Wに金属捕集材を係留する係留装置10と、前記金属捕集領域の海水温度を目標温度に制御する温度制御装置20とによって金属捕集システムを構成する。目標温度は、25°C以上35°C以下の温度範囲内で設定し、温度制御装置は、廃熱及び自然エネルギーの一方或いは両方を利用して、前記海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属捕集システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び非特許文献1には、モール状に成形された金属捕集材(ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたもの)をアンカーに接続して海中に係留することで、海水に含まれる極微量のウランやバナジウム等の希少金属を効率良く捕集する技術が開示されている。
また、下記特許文献2には、海上に浮かぶ人工陸地や、橋の橋脚間、海中に張ったロープ、或いは浮体のプールなどから、アミドキシム基を有する捕集材で構成された捕集材ユニットを吊り下げて海中に係留することにより、海水に含まれる金属を捕集する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−280615号公報
【特許文献2】特開2000−212655号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】玉田正男ら モール状捕集システムによる海水ウラン捕集のコスト試算 日本原子力学会和文論文誌,Vol.5,No.4,p.358-363(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1には、海水温度が10°C上昇すると金属捕集材による金属捕集速度が1.5倍となり、金属捕集効率が向上することが記載されている。この理由として、金属捕集材を構成するアミドキシム基と海水中の金属とのキレート反応速度が海水温度の上昇に伴って増大することが考えられている。つまり、金属捕集材の金属吸着性能は海水温度に大きく影響を受けることになる。
【0006】
従って、海水温度の高い海域に金属捕集材を設置することが望ましいが、地理的或いは経済的な問題から必ずしもそのような海域だけに金属捕集材を設置できるとは限らない。また、海水温度の高い海域に金属捕集材を設置できたとしても、海流の変化や季節変動などによって海水温度が変化した場合に金属捕集効率の低下を招く虞がある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、金属捕集材を設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能な金属捕集システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、金属捕集システムに係る第1の解決手段として、海中の金属捕集領域に金属捕集材を係留する係留装置と、前記金属捕集領域の海水温度を目標温度に制御する温度制御装置とを具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第2の解決手段として、海中に金属捕集材を係留する係留装置と、前記金属捕集材の温度を目標温度に制御する温度制御装置とを具備することを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記目標温度は、25°C以上35°C以下の温度範囲内で設定されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記温度制御装置は、廃熱及び自然エネルギーの一方或いは両方を利用して、前記海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得ることを特徴とする。
【0012】
一方、本発明では、金属捕集方法に係る第1の解決手段として、海中の金属捕集領域に金属捕集材を係留して、前記金属捕集領域の海水温度を目標温度に制御することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明では、金属捕集方法に係る第2の解決手段として、海中に金属捕集材を係留して、前記金属捕集材の温度を目標温度に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属捕集材が係留されている金属捕集領域の海水温度、或いは金属捕集材そのものの温度を目標温度(金属捕集効率が向上する高めの温度)に制御することができるため、金属捕集材を設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【図2】第2実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【図3】第3実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【図4】第4実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【図5】変形例に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1(a)は、第1実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。この図に示すように、第1実施形態における金属捕集システムは、海中の金属捕集領域Wに金属捕集材maを係留する金属捕集船10(係留装置)と、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御する温度制御装置20とから構成されている。なお、金属捕集領域Wは、海面から一定深さまでの領域を囲い部材100によって囲むことで形成されている。
また、この図において、実線の矢印は流体(液体、気体を含む)を示し、波線の矢印は電気信号を示している。
【0017】
金属捕集船10は、エンジン11から得られる推進力によって自走航行可能な船である。この金属捕集船10の船首甲板にはクレーン12が設置されており、金属捕集材maはクレーン12から金属捕集領域Wに吊り下げられた捕集材固定具13に接続されて海中を漂いながら海水に含まれる金属を吸着する。金属捕集材maとしては、例えば特許文献1及び非特許文献1に記載されているように、ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させてモール状に成形したものを用いることができる。このような金属捕集材maは、海水からウランやバナジウム等の希少金属を捕集するのに好適である。
【0018】
なお、上記のようにモール状の金属捕集材maを捕集材固定具13に接続して海中に係留する方法に替えて、例えば籠状部材(バケット)をクレーン12から金属捕集領域Wに吊り下げ、このバケット内に球状、円筒形状など、海水との接触面積が大きい形状に成形した金属捕集材maを収容する方法を採用しても良い。つまり、金属捕集材maを海中に係留する方法は本実施形態に限らず、状況に応じて適宜変更可能である。
【0019】
温度制御装置20は、金属捕集船10に設置された海水ポンプ21、蓄熱槽22及びコントローラ23と、金属捕集領域Wに配置された温度計24とから構成されている。エンジン11から排出された高温の排ガスEGは蓄熱槽22を通じて外部へ排出される。つまり、蓄熱槽22は、エンジン11から排出される排ガスEGの廃熱を蓄熱する。
【0020】
海水ポンプ21は、コントローラ23による制御の下、海水SWを汲み上げて蓄熱槽22へ導入する。海水ポンプ21によって蓄熱槽22へ導入された海水SWは、槽内での熱交換によって加熱されて熱水HWとなる。熱水HWは、蓄熱槽22から配管を通じて金属捕集領域Wの上方まで移送された後、金属捕集領域Wへ放流される。つまり、本実施形態では、熱水HWを金属捕集領域Wへ供給することで、金属捕集領域Wの海水温度を上昇させることが可能である。
【0021】
温度計24は、金属捕集領域Wの海水温度を計測し、その計測結果を示す温度計測信号をコントローラ23へ出力する。コントローラ23は、温度計24から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御する。具体的には、このコントローラ23は、海水ポンプ21を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給することで、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御する。なお、目標温度は、25°C以上35°C以下の温度範囲内で設定することが望ましい。
【0022】
続いて、上記のように構成された第1実施形態における金属捕集システムの動作について説明する。まず、金属捕集船10を金属捕集領域Wが設置された海域まで航行させる過程で、蓄熱槽22にエンジン11から排出される排ガスEGの廃熱を蓄熱させる。そして、金属捕集船10が金属捕集領域Wに到着した後、クレーン12を用いて金属捕集材maが接続された捕集材固定具13を海中(金属捕集領域W)に吊り下げて金属捕集を開始する。
【0023】
この時、コントローラ23は、温度計24から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ21を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。図1(b)は、海水温度に対して、アミドキシム基を有する金属捕集材maの1kg当りのウラン吸着量(g)を示したものである。この図に示すように、海水温度が高くなる程、金属捕集材maの金属吸着性能(金属捕集効率)が向上することがわかる。
【0024】
従って、金属捕集領域Wの海水温度は高い程良いが、あまりに高く目標温度を設定すると、膨大な熱エネルギー(カロリー)が必要となるため、現実的に海水温度の制御は困難となる。そこで、本実施形態では、目標温度を25°C以上35°C以下の温度範囲内で設定することで、現実的な温度制御と金属捕集効率の向上の両立を図っている。
【0025】
コントローラ23は、温度計24から得られる温度計測信号を基に、金属捕集領域Wの海水温度が目標温度(25°C以上35°C以下の温度範囲内)に到達したことを把握すると、海水ポンプ21の作動を停止して金属捕集領域Wへの熱水HWの供給を終了する。以降、昼夜を問わず、コントローラ23は、温度計24から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を監視し、当該海水温度が目標温度を下回った場合、海水ポンプ21を作動させて温度制御を行う。なお、時間の経過に伴って蓄熱槽22に蓄えられた熱エネルギーが減少するが、これは一定期間毎に金属捕集船10を別の金属捕集領域Wへ移動させて、エンジン11の排ガスEGを蓄熱槽22に再度流通させることで解決できる。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、金属捕集材maが係留されている金属捕集領域Wの海水温度を目標温度(金属捕集効率が向上する高めの温度)に制御することができるため、金属捕集材maを設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能となる。また、本実施形態では、エンジン11の廃熱を利用して海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得るため、省エネルギーである。
【0027】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。なお、第2実施形態における金属捕集システムは、第1実施形態とは異なる温度制御装置30を備えている点でのみ第1実施形態と相違しているため、以下では第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略し、相違点である温度制御装置30に着目して説明する。
【0028】
温度制御装置30は、金属捕集船10に設置された海水ポンプ31、第1バルブ32、ソーラーパネル33、第2バルブ34、蓄熱槽35及びコントローラ36と、金属捕集領域Wに配置された温度計37とから構成されている。
【0029】
海水ポンプ31は、コントローラ36による制御の下、海水SWを汲み上げて第1バルブ32及び第2バルブ34へ導入する。第1バルブ32及び第2バルブ34は、コントローラ36による制御に応じて開閉する電磁弁である。第1バルブ32が開状態且つ第2バルブ34が閉状態の場合、海水ポンプ31によって汲み上げられた海水SWはソーラーパネル33に導入される。
【0030】
ソーラーパネル33は、太陽光を集光して得られる熱エネルギーによって、内部を流通する海水SWを加熱する。つまり、ソーラーパネル33に導入された海水SWは、熱水HWとなってソーラーパネル33から蓄熱槽35へ送出される。ソーラーパネル33から送出された熱水HWは、蓄熱槽35の内部を流通した後、蓄熱槽35から配管を通じて金属捕集領域Wの上方まで移送されて金属捕集領域Wへ放流される。つまり、ソーラーパネル33によって生成された熱水HWの熱が蓄熱槽35に蓄熱される。
【0031】
一方、第1バルブ32が閉状態且つ第2バルブ34が開状態の場合、海水ポンプ31によって汲み上げられた海水SWは蓄熱槽35へ導入される。蓄熱槽35へ導入された海水SWは、槽内での熱交換によって加熱されて熱水HWとなり、金属捕集領域Wの上方まで移送された後、金属捕集領域Wへ放流される。
【0032】
温度計37は、金属捕集領域Wの海水温度を計測し、その計測結果を示す温度計測信号をコントローラ36へ出力する。コントローラ36は、第1バルブ32及び第2バルブ34の開閉状態を制御すると共に、温度計37から得られる温度計測信号を基に海水ポンプ31を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給することで、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度(25°C以上35°C以下の温度範囲内)に制御する。
【0033】
続いて、上記のように構成された第2実施形態における金属捕集システムの動作について説明する。まず、金属捕集船10を金属捕集領域Wが設置された海域まで航行させ、金属捕集船10が金属捕集領域Wに到着した後、クレーン12を用いて金属捕集材maが接続された捕集材固定具13を海中(金属捕集領域W)に吊り下げて金属捕集を開始する。
【0034】
この時、コントローラ36は、現在時刻から昼間か夜間かを判断し、昼間だと判断した場合に第1バルブ32を開状態に、第2バルブ34を閉状態に制御する。そして、コントローラ36は、温度計37から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ31を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0035】
このように第1バルブ32が開状態且つ第2バルブ34が閉状態の場合に海水ポンプ31を作動させると、海水ポンプ31によって汲み上げられた海水SWは、ソーラーパネル33を通じて加熱されて熱水HWになった後、蓄熱槽35を通じて金属捕集領域Wへ供給される。つまり、十分な太陽光を得られる昼間の場合には、蓄熱槽35に太陽熱を蓄積しながら、金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0036】
一方、コントローラ36は、現在時刻から昼間か夜間かを判断し、夜間だと判断した場合に第1バルブ32を閉状態に、第2バルブ34を開状態に制御する。そして、コントローラ36は、温度計37から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ31を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0037】
このように第1バルブ32が閉状態且つ第2バルブ34が開状態の場合に海水ポンプ31を作動させると、海水ポンプ31によって汲み上げられた海水SWは、蓄熱槽35を通じて熱水HWとなって金属捕集領域Wへ供給される。つまり、太陽光を得られない夜間の場合には、昼間に蓄熱槽35に蓄積されていた太陽熱を利用して熱水HWを生成することで、一日中継続して金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、金属捕集材maが係留されている金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御することができるため、金属捕集材maを設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能となる。また、本実施形態では、自然エネルギーである太陽熱を利用して海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得るため、省エネルギーである。
【0039】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。なお、第3実施形態における金属捕集システムは、第1実施形態とは異なる温度制御装置40を備えている点でのみ第1実施形態と相違しているため、以下では第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略し、相違点である温度制御装置40に着目して説明する。
【0040】
温度制御装置40は、金属捕集船10の近傍の海中に設置された波力吸収装置41と、金属捕集船10に設置されたエアタービン発電機42、電気ヒータ43、海水ポンプ44、第1バルブ45、第2バルブ46、蓄熱槽47及びコントローラ48と、金属捕集領域Wに配置された温度計49とから構成されている。
【0041】
波力吸収装置41は、波の上下運動を利用して空気の流れ(空気流)を生成し、当該生成した空気流AFをエアタービン発電機42に供給する。エアタービン発電機42は、波力吸収装置41から供給される空気流AFによって回転して発電し、当該発電によって得られた電力を電気ヒータ43に供給する。電気ヒータ43は、エアタービン発電機42から供給される電力によって発熱する。
【0042】
海水ポンプ44は、コントローラ48による制御の下、海水SWを汲み上げて第1バルブ45及び第2バルブ46へ導入する。第1バルブ45及び第2バルブ46は、コントローラ48による制御に応じて開閉する電磁弁である。第1バルブ45が開状態且つ第2バルブ46が閉状態の場合、海水ポンプ44によって汲み上げられた海水SWは電気ヒータ43に導入される。
【0043】
電気ヒータ43に導入された海水SWは、ヒータ内部を流通する過程で加熱されて熱水HWとなる。つまり、電気ヒータ43に導入された海水SWは、熱水HWとなって電気ヒータ43から蓄熱槽47へ送出される。電気ヒータ43から送出された熱水HWは、蓄熱槽47の内部を流通した後、蓄熱槽47から配管を通じて金属捕集領域Wの上方まで移送されて金属捕集領域Wへ放流される。つまり、電気ヒータ43によって生成された熱水HWの熱が蓄熱槽47に蓄熱される。
【0044】
一方、第1バルブ45が閉状態且つ第2バルブ46が開状態の場合、海水ポンプ44によって汲み上げられた海水SWは蓄熱槽47へ導入される。蓄熱槽47へ導入された海水SWは、槽内での熱交換によって加熱されて熱水HWとなり、金属捕集領域Wの上方まで移送された後、金属捕集領域Wへ放流される。
【0045】
温度計49は、金属捕集領域Wの海水温度を計測し、その計測結果を示す温度計測信号をコントローラ48へ出力する。コントローラ48は、第1バルブ45及び第2バルブ46の開閉状態を制御すると共に、温度計49から得られる温度計測信号を基に海水ポンプ44を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給することで、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度(25°C以上35°C以下の温度範囲内)に制御する。
【0046】
続いて、上記のように構成された第3実施形態における金属捕集システムの動作について説明する。まず、金属捕集船10を金属捕集領域Wが設置された海域まで航行させ、金属捕集船10が金属捕集領域Wに到着した後、クレーン12を用いて金属捕集材maが接続された捕集材固定具13を海中(金属捕集領域W)に吊り下げて金属捕集を開始する。
【0047】
この時、コントローラ48は、現在時刻から波が大きく揺動する時間帯(電気ヒータ43に十分な電力を供給可能な時間帯)であると判断した場合、第1バルブ45を開状態に、第2バルブ46を閉状態に制御する。そして、コントローラ48は、温度計49から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ44を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0048】
このように第1バルブ45が開状態且つ第2バルブ46が閉状態の場合に海水ポンプ44を作動させると、海水ポンプ44によって汲み上げられた海水SWは、電気ヒータ43を通じて加熱されて熱水HWになった後、蓄熱槽47を通じて金属捕集領域Wへ供給される。つまり、波が大きく揺動して電気ヒータ43に十分な電力を供給可能な時間帯の場合には、蓄熱槽47によって蓄熱しながら金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0049】
一方、コントローラ48は、現在時刻から波が静かな時間帯(電気ヒータ43に十分な電力を供給できない時間帯)であると判断した場合、第1バルブ45を閉状態に、第2バルブ46を開状態に制御する。そして、コントローラ48は、温度計49から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ44を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0050】
このように第1バルブ45が閉状態且つ第2バルブ46が開状態の場合に海水ポンプ44を作動させると、海水ポンプ44によって汲み上げられた海水SWは、蓄熱槽47を通じて熱水HWとなって金属捕集領域Wへ供給される。つまり、波が静かで電気ヒータ43に十分な電力を供給できない時間帯の場合には、波が大きく揺動する時間帯に蓄熱槽47に蓄積されていた熱を利用して熱水HWを生成することで、一日中継続して金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、金属捕集材maが係留されている金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御することができるため、金属捕集材maを設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能となる。また、本実施形態では、自然エネルギーである波力を利用して海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得るため、省エネルギーである。
【0052】
なお、本実施形態では、現在時刻から波が大きく揺動しているか否かを判断する場合を例示したが、例えば波高を計測する波高計測器を用い、当該波高計測器によって計測された波高が一定値以上か否かを確認することで、波が大きく揺動しているか、或いは静かな状態かを判断するようにしても良い。
【0053】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図4は、第4実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。なお、第4実施形態における金属捕集システムは、第1実施形態とは異なる温度制御装置50を備えている点でのみ第1実施形態と相違しているため、以下では第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略し、相違点である温度制御装置50に着目して説明する。
【0054】
温度制御装置50は、金属捕集船10に設置された風力発電機51、電気ヒータ52、海水ポンプ53、第1バルブ54、第2バルブ55、蓄熱槽56及びコントローラ57と、金属捕集領域Wに配置された温度計58とから構成されている。
【0055】
風力発電機51は、風力によって回転して発電し、当該発電によって得られた電力を電気ヒータ52に供給する。電気ヒータ52は、風力発電機51から供給される電力によって発熱する。海水ポンプ53は、コントローラ57による制御の下、海水SWを汲み上げて第1バルブ54及び第2バルブ55へ導入する。第1バルブ54及び第2バルブ55は、コントローラ57による制御に応じて開閉する電磁弁である。
【0056】
第1バルブ54が開状態且つ第2バルブ55が閉状態の場合、海水ポンプ53によって汲み上げられた海水SWは電気ヒータ52に導入される。電気ヒータ52に導入された海水SWは、ヒータ内部を流通する過程で加熱されて熱水HWとなる。つまり、電気ヒータ52に導入された海水SWは、熱水HWとなって電気ヒータ52から蓄熱槽56へ送出される。電気ヒータ52から送出された熱水HWは、蓄熱槽56の内部を流通した後、蓄熱槽56から配管を通じて金属捕集領域Wの上方まで移送されて金属捕集領域Wへ放流される。つまり、電気ヒータ52によって生成された熱水HWの熱が蓄熱槽56に蓄熱される。
【0057】
一方、第1バルブ54が閉状態且つ第2バルブ55が開状態の場合、海水ポンプ53によって汲み上げられた海水SWは蓄熱槽56へ導入される。蓄熱槽56へ導入された海水SWは、槽内での熱交換によって加熱されて熱水HWとなり、金属捕集領域Wの上方まで移送された後、金属捕集領域Wへ放流される。
【0058】
温度計58は、金属捕集領域Wの海水温度を計測し、その計測結果を示す温度計測信号をコントローラ57へ出力する。コントローラ57は、第1バルブ54及び第2バルブ55の開閉状態を制御すると共に、温度計58から得られる温度計測信号を基に海水ポンプ53を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給することで、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度(25°C以上35°C以下の温度範囲内)に制御する。
【0059】
続いて、上記のように構成された第4実施形態における金属捕集システムの動作について説明する。まず、金属捕集船10を金属捕集領域Wが設置された海域まで航行させ、金属捕集船10が金属捕集領域Wに到着した後、クレーン12を用いて金属捕集材maが接続された捕集材固定具13を海中(金属捕集領域W)に吊り下げて金属捕集を開始する。
【0060】
この時、コントローラ57は、現在時刻から風が強い時間帯(電気ヒータ52に十分な電力を供給可能な時間帯)であると判断した場合、第1バルブ54を開状態に、第2バルブ55を閉状態に制御する。そして、コントローラ57は、温度計58から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ53を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0061】
このように第1バルブ54が開状態且つ第2バルブ55が閉状態の場合に海水ポンプ53を作動させると、海水ポンプ53によって汲み上げられた海水SWは、電気ヒータ52を通じて加熱されて熱水HWになった後、蓄熱槽56を通じて金属捕集領域Wへ供給される。つまり、風が強く、電気ヒータ52に十分な電力を供給可能な時間帯の場合には、蓄熱槽56によって蓄熱しながら金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0062】
一方、コントローラ57は、現在時刻から風が弱い時間帯(電気ヒータ52に十分な電力を供給できない時間帯)であると判断した場合、第1バルブ54を閉状態に、第2バルブ55を開状態に制御する。そして、コントローラ57は、温度計58から得られる温度計測信号を基に金属捕集領域Wの海水温度を把握し、当該海水温度が目標温度に満たない場合、海水ポンプ53を作動させて熱水HWを金属捕集領域Wへ供給する。
【0063】
このように第1バルブ54が閉状態且つ第2バルブ55が開状態の場合に海水ポンプ53を作動させると、海水ポンプ53によって汲み上げられた海水SWは、蓄熱槽56を通じて熱水HWとなって金属捕集領域Wへ供給される。つまり、風が弱く、電気ヒータ52に十分な電力を供給できない時間帯の場合には、風が強い時間帯に蓄熱槽56に蓄積されていた熱を利用して熱水HWを生成することで、一日中継続して金属捕集領域Wの海水温度制御を行う。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、金属捕集材maが係留されている金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御することができるため、金属捕集材maを設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能となる。また、本実施形態では、自然エネルギーである風力を利用して海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得るため、省エネルギーである。
【0065】
なお、本実施形態では、現在時刻から風が強いか否かを判断する場合を例示したが、例えば風力を計測する風力計測器を用い、当該風力計測器によって計測された風力が一定値以上か否かを確認することで、風が強いか弱いかを判断するようにしても良い。
【0066】
〔変形例〕
以上、本発明の第1〜第4実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記第1実施形態では、エンジン11の廃熱を利用して金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得る場合を例示したが、利用する廃熱はこれに限定されず、例えば金属捕集領域Wが沿岸近くの海域に設置されている場合には、沿岸の火力発電所などから排出される工業廃熱を利用しても良い。
【0067】
また、上記第2〜第3実施形態では、自然エネルギーである太陽熱、波力或いは風力を利用して、金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得る場合を例示したが、利用する自然エネルギーはこれらに限定されず、例えば地熱や海流などの他の自然エネルギーを利用しても良い。
【0068】
また、廃熱及び自然エネルギーの一方だけでなく、両方を利用して海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得るような構成、つまり、第1実施形態の温度制御装置20と、第2〜第4実施形態の温度制御装置30、40、50のいずれか1つ或いは複数とを組み合わせた構成を採用しても良い。
【0069】
(2)上記第1〜第4実施形態では、海中に金属捕集材maを係留する係留装置として金属捕集船10を例示したが、係留装置は船舶等の自走航行可能なものに限らず、海上に浮かぶ人工陸地(メガフロート等の浮体も含む)や、海峡を跨ぐように架設された橋梁構造物、海中に張られたワイヤーなど、海中に金属捕集材maを係留可能なものであれば良い。
【0070】
(3)上記第1〜第4実施形態では、金属捕集材maが係留されている金属捕集領域Wの海水温度を目標温度に制御する場合を例示したが、金属捕集材maそのものの温度を目標温度に制御することで同様の効果(金属捕集材maを設置する海域に関係なく、高い金属捕集効率を維持することが可能)を得られる。
【0071】
このような金属捕集材maの温度制御は、例えば図5(a)に示すように、円筒形状に成形された金属捕集材maを用い、この円筒形状の金属捕集材maの中空部分に熱水HWを流通させることで実現できる。なお、熱水HWを金属捕集材maに供給する装置としては、上記第1〜第4実施形態の温度制御装置20、30、40、50のいずれかを利用することができる。この場合、温度計は金属捕集材maの表面温度を計測するように設置すれば良い。また、図5(a)に示すように、円筒形状の金属捕集材maの表面に、熱水HWを外部(海中)へ流出させるための複数の孔hを設けて、熱水HWが交換されやすくすることが好ましい。
【0072】
または、図5(b)に示すように、クレーン12から海中に吊り下げた配管200内に、球状(或いは円筒形状)に成形された金属捕集材maを入れて、この配管200の端部から海水SWと共に熱水HWを導入するような構成を採用しても良い。
なお、金属捕集材maそのものの温度を目標温度に制御する場合には、囲い部材100によって海中のある領域を囲む必要はない。
【符号の説明】
【0073】
10…金属捕集船(係留装置)、20、30、40、50…温度制御装置、ma…金属捕集材、W…金属捕集領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中の金属捕集領域に金属捕集材を係留する係留装置と、
前記金属捕集領域の海水温度を目標温度に制御する温度制御装置と、
を具備することを特徴とする金属捕集システム。
【請求項2】
海中に金属捕集材を係留する係留装置と、
前記金属捕集材の温度を目標温度に制御する温度制御装置と、
を具備することを特徴とする金属捕集システム。
【請求項3】
前記目標温度は、25°C以上35°C以下の温度範囲内で設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属捕集システム。
【請求項4】
前記温度制御装置は、廃熱及び自然エネルギーの一方或いは両方を利用して、前記海水温度を目標温度に制御するために必要な熱エネルギーを得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属捕集システム。
【請求項5】
海中の金属捕集領域に金属捕集材を係留して、前記金属捕集領域の海水温度を目標温度に制御することを特徴とする金属捕集方法。
【請求項6】
海中に金属捕集材を係留して、前記金属捕集材の温度を目標温度に制御することを特徴とする金属捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122108(P2012−122108A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274928(P2010−274928)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】