説明

金属捕集装置及び方法

【課題】海水に含まれる金属の捕集効率を向上させる。
【解決手段】海水が貯留された水槽内において金属吸着材を動かしながら前記海水に含まれる金属を前記金属吸着材に吸着させる金属捕集方法において、前記水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように前記水槽内にpH調整剤を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属捕集装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び非特許文献1には、モール状に成形された金属吸着材(ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたもの)をアンカーに接続して海中に係留することで、海水に含まれる極微量のウランやバナジウム等の希少金属を効率良く捕集する技術が開示されている。
【0003】
また、上記の技術では海水と金属吸着材との接触速度に限りがあるため、金属吸着材が固定されたバケットを海水の入った水槽内で上下動させて、海水と金属吸着材との接触速度を高めることにより、希少金属の吸着効率を向上させる技術が開発されている。なお、この技術はウラン鉱石からウランを溶出するためのResin-in-Pulpe法(非特許文献2参照)を応用して開発されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−119801号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】玉田正男ら モール状捕集システムによる海水ウラン捕集のコスト試算 日本原子力学会和文論文誌,Vol.5,No.4,p.358-363(2006)
【非特許文献2】菅野昌義 原子炉燃料 東京大学出版会 p.65-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図2は、金属吸着材に用いられるアミドキシム基のウラン吸収容量のpH依存性を示す特性図である。この図からわかるように、海水のpH=8.0に対してアミドキシム基のウラン吸収容量が小さいため、例え、上記の手法で海水と金属吸着材との接触速度を高めたとしても、思うようにウランの吸着効率(捕集効率)を上げることは困難であった。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、海水に含まれる金属の捕集効率を向上させることが可能な金属捕集装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、金属捕集装置に係る第1の解決手段として、海水を貯留する水槽と、アミドキシム基を含有する金属吸着材を前記水槽内で振動させる振動装置と、前記水槽に貯留された海水のpHを検出するpHセンサと、前記水槽内にpH調整剤を投入する投入装置と、前記pHセンサから得られるpH検出結果に基づいて前記海水のpHが目標値となるように前記投入装置による前記pH調整剤の投入量を制御する制御装置と、を具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第2の解決手段として、海水を貯留する複数の水槽と、各水槽に設置され、アミドキシム基を含有する金属吸着材を前記水槽内で振動させる振動装置と、各水槽に設置され、前記水槽に貯留された海水のpHを検出するpHセンサと、各水槽に設置され、前記水槽内にpH調整剤を投入する投入装置と、各pHセンサから得られるpH検出結果に基づいて、各水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように各投入装置による前記pH調整剤の投入量を制御する制御装置と、を具備し、前記海水は、最上流の水槽から下流側の水槽へ順次移送された後、最下流の水槽から前記最上流の水槽へ返送される、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記pH調整剤は二酸化炭素であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記投入装置は前記二酸化炭素を前記水槽内に放出する曝気装置であることを特徴とする。
【0012】
一方、本発明では、金属捕集方法に係る解決手段として、海水が貯留された水槽内において金属吸着材を動かしながら前記海水に含まれる金属を前記金属吸着材に吸着させる金属捕集方法において、前記水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように前記水槽内にpH調整剤を投入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
既に述べたように、アミドキシム基を含有する金属吸着材の吸着効率はpH依存性があるため、海水のpH=8.0では金属吸着材の性能を十分に発揮できない。そこで、金属吸着材の吸着効率が高くなるpH値を目標値として定め、水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように、水槽へのpH調整剤の投入量を制御することにより、海水に含まれる金属の捕集効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における金属捕集装置の構成概略図(a)と、捕集ユニット2の拡大図(b)である。
【図2】アミドキシム基のウラン吸収容量のpH依存性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。この図に示すように、本実施形態における金属捕集装置は、海水導入装置1と、3つの捕集ユニット2、3、4と、pHコントローラ5と、海水返送装置6とを備えている。なお、この図において、実線の矢印は流体(液体、気体を含む)を示し、波線の矢印は電気信号を示している。
【0016】
海水導入装置1は、外部から供給される海水を捕集ユニット2(詳細には水槽21)に導入する海水導入管11と、この海水導入管11の途中に介挿された海水導入バルブ12とを備えている。この海水導入バルブ12の開閉によって、水槽21に導入される海水量を調節可能である。なお、この海水導入バルブ12の開閉は、手動で行なっても良いし、或いは不図示のバルブコントローラによって自動制御しても良い。
【0017】
捕集ユニット2は、海水導入装置1から導入される海水を貯留する水槽21と、この水槽21に設置された振動装置22、pHセンサ23、曝気装置24及び排水装置25とを備えている。なお、図1(b)は捕集ユニット2の拡大図である。
【0018】
振動装置22は、アミドキシム基を含有する金属吸着材maを水槽21内で振動させるものであり、金属吸着材maが固定されたバケット22aと、このバケット22aの上部に結合され、不図示のモータによって上下に振動する振動ロッド22bとを備えている。金属吸着材maとしては、特許文献1や非特許文献1に記載されているように、ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたものを用いることができる。また、金属吸着材maの形状は帯状、モール状、球状、円筒形状など、海水との接触面積が大きい形状とすれば良い。
【0019】
pHセンサ23は、水槽21に貯留された海水のpHを検出し、そのpH検出結果を示すpH検出信号をpHコントローラ5に出力する。曝気装置24(投入装置)は、水槽21内にpH調整剤として二酸化炭素を放出(投入)するものであり、水槽21の底部に設置された散気管24aと、該散気管24aの途中に介挿されたCO調整バルブ24bとを備えている。散気管24aの表面には複数の孔が形成されており、外部から散気管24aに導入された二酸化炭素はこれらの孔から水槽21内に放出される。また、CO調整バルブ24bは、pHコントローラ5から入力される弁制御信号に応じて開閉する電磁弁である。
【0020】
排水装置25は、水槽21の底部に連通し、水槽21に貯留された海水を捕集ユニット3(詳細には水槽31)に排水する排水管25aと、該排水管25aの途中に介挿された排水バルブ25bとを備えている。この排水バルブ25bの開閉によって、水槽21から水槽31に排水される海水量を調節可能である。なお、排水バルブ25bの開閉は、手動で行なっても良いし、或いは不図示のバルブコントローラによって自動制御しても良い。
【0021】
捕集ユニット3は、水槽21の下流に設置され、該水槽21から排水される海水を貯留する水槽31と、該水槽31に設置された振動装置32、pHセンサ33、曝気装置34及び排水装置35とを備えている。なお、捕集ユニット3の振動装置32、pHセンサ33、曝気装置34及び排水装置35は、捕集ユニット2のそれらと同じ機能を有するものであるので、以下では詳細な説明を省略する。
【0022】
振動装置32は、金属吸着材maを水槽31内で上下に振動させるものである。pHセンサ33は、水槽31に貯留された海水のpHを検出し、そのpH検出結果を示すpH検出信号をpHコントローラ5に出力する。曝気装置34は、水槽31内にpH調整剤として二酸化炭素を放出するものであり、水槽31の底部に設置された散気管34aと、該散気管34aの途中に介挿されたCO調整バルブ34bとを備えている。排水装置35は、水槽31の底部に連通し、水槽31に貯留された海水を捕集ユニット4(詳細には水槽41)に排水する排水管35aと、該排水管35aの途中に介挿された排水バルブ35bとを備えている。
【0023】
捕集ユニット4は、水槽31の下流に設置され、該水槽31から排水される海水を貯留する水槽41と、該水槽41に設置された振動装置42、pHセンサ43、曝気装置44及び排水装置45とを備えている。なお、捕集ユニット4の振動装置42、pHセンサ43、曝気装置44及び排水装置45は、捕集ユニット2、3のそれらと同じ機能を有するものであるので、以下では詳細な説明を省略する。
【0024】
振動装置42は、金属吸着材maを水槽41内で上下に振動させるものである。pHセンサ43は、水槽41に貯留された海水のpHを検出し、そのpH検出結果を示すpH検出信号をpHコントローラ5に出力する。曝気装置44は、水槽41内にpH調整剤として二酸化炭素を放出するものであり、水槽41の底部に設置された散気管44aと、該散気管44aの途中に介挿されたCO調整バルブ44bとを備えている。排水装置45は、水槽41の底部に連通し、水槽41に貯留された海水を海水返送装置6(詳細には返送ポンプ61)に排水する排水管45aと、該排水管45aの途中に介挿された排水バルブ45bとを備えている。
【0025】
pHコントローラ5(制御装置)は、各pHセンサ23、33、43から入力されるpH検出信号に基づいて、各水槽21、31、41に貯留された海水のpHが目標値となるように各曝気装置24、34、44による二酸化炭素の放出量(投入量)を制御する。
【0026】
海水返送装置6は、最下流の水槽41から排水される海水を最上流の水槽21へ返送するものであり、排水装置45の排水管45aに接続された返送ポンプ61と、一端が返送ポンプ61の吐出口に接続され、他端が水槽21の上部に到達するように延設された返送管62とを備えている。水槽41から排水された海水は、返送ポンプ61によって昇圧され、返送管62を通じて水槽21に返送される。
【0027】
次に、上記のように構成された金属捕集装置を利用した金属捕集方法について説明する。
まず、初期状態として、各水槽21、31、41に海水は貯留されておらず、各排水バルブ25b、35b、45bは閉じられているものとする。このような初期状態から、海水導入装置1の海水導入バルブ12を開いて水槽21に海水を導入し、水槽21に規定量の海水が溜まった時点で海水導入バルブ12を閉じる。
【0028】
上記のように水槽21に規定量の海水が溜まると、振動装置22は上下振動を開始し、水槽21内で金属吸着材maが高速で振動することになる。この時、pHコントローラ5は、pHセンサ23から入力されるpH検出信号に基づいて、水槽21に貯留された海水のpHが目標値(例えばpH=6.0)となるように曝気装置24による二酸化炭素の放出量を制御する。
【0029】
具体的には、pHコントローラ5は、曝気装置24のCO調整バルブ24bを開いて水槽21内への二酸化炭素の放出を開始すると共に、pHセンサ23から入力されるpH検出信号を基に水槽21に貯留された海水のpHを監視する。海水のpHは約8.0程度であるが、二酸化炭素が放出されることで酸性方向へ値がシフトする。そして、pHコントローラ5は、水槽21に貯留された海水のpHが6.0に達した時点で、CO調整バルブ24bを閉じて水槽21内への二酸化炭素の放出を停止する。
【0030】
図2に示すように、アミドキシム基のウラン吸収容量はpH=6.0近辺で最も高くなることがわかる。従って、海水のpH目標値を6.0に設定することにより、金属吸着材maによるウラン吸着効率を大幅に高めることができる。
【0031】
このように、水槽21内の海水のpHを6.0に維持した状態で、振動装置22による金属吸着材maの上下振動を一定期間行った後、排水装置25の排水バルブ25bを開いて水槽21から水槽31へ海水を排水し、水槽31に規定量の海水が溜まった時点(水槽21の海水が全て水槽31に移った時点)で排水バルブ25bを閉じる。
【0032】
上記のように水槽31に規定量の海水が溜まると、振動装置32は上下振動を開始し、水槽31内で金属吸着材maが高速で振動することになる。この時、pHコントローラ5は、pHセンサ33から入力されるpH検出信号に基づいて、水槽31に貯留された海水のpHが目標値(例えばpH=6.0)となるように曝気装置34による二酸化炭素の放出量を制御する。これにより、水槽31内においても、金属吸着材maによるウラン吸着効率を大幅に高めることができる。
【0033】
そして、振動装置32による金属吸着材maの上下振動を一定期間行った後、排水装置35の排水バルブ35bを開いて水槽31から水槽41へ海水を排水し、水槽41に規定量の海水が溜まった時点(水槽31の海水が全て水槽41に移った時点)で排水バルブ35bを閉じる。
【0034】
上記のように水槽41に規定量の海水が溜まると、振動装置42は上下振動を開始し、水槽41内で金属吸着材maが高速で振動することになる。この時、pHコントローラ5は、pHセンサ43から入力されるpH検出信号に基づいて、水槽41に貯留された海水のpHが目標値(例えばpH=6.0)となるように曝気装置44による二酸化炭素の放出量を制御する。これにより、水槽41内においても、金属吸着材maによるウラン吸着効率を大幅に高めることができる。
【0035】
そして、振動装置42による金属吸着材maの上下振動を一定期間行った後、排水装置45の排水バルブ45bを開いて水槽41から返送ポンプ61へ海水を排水する。水槽41から排水された海水は、返送ポンプ61によって昇圧され、返送管62を通じて水槽21に返送される。そして、水槽21に規定量の海水が溜まった時点(水槽41の海水が全て水槽21に返送された時点)で排水バルブ45bを閉じ、再度、水槽21内での金属捕集処理(金属吸着材maの振動、及び海水のpH制御)を実施する。
【0036】
以上のように、海水を最上流の水槽21から下流側の水槽31、41へ順次移送し、各水槽21、31、41での金属捕集処理を実施した後、最下流の水槽41から最上流の水槽21へ返送して再び同様な金属捕集処理を繰り返すことにより、海水に含まれている金属、特にウランやバナジウム等の希少金属の捕集効率を向上させることができる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態では、3つの捕集ユニット2、3、4を備えた金属捕集装置を例示したが、捕集ユニットの数(つまり、水槽、振動装置、pHセンサ、曝気装置及び排水装置の数)はこれに限定されず、1つでも良いし、或いは4つ以上でも良い。なお、捕集ユニットを1つにする場合、振動装置による金属吸着材maの上下振動を一定期間行った後、排水装置の排水バルブを開いて水槽から海水を排水するだけで良い。
【0038】
(2)上記実施形態では、海水のpH目標値を6.0に設定したが、図2に示すように、pH=2.5〜7.5の範囲であれば、海水のpH=8.0に比べて高いウラン吸着効率を得られることがわかる。従って、海水のpH目標値をpH=2.5〜7.5の範囲内(より好ましくはpH=4.0〜7.0の範囲内)で設定しても良い。
【0039】
(3)上記実施形態では、海水に投入するpH調整剤として二酸化炭素を用いる場合を例示したが、pH調整剤は二酸化炭素に限定されず、例えば亜硫酸ガス等を使用しても良い。なお、これら二酸化炭素や亜硫酸ガスは、工場から排出されるものを有効利用すれば良い。
【0040】
(4)上記実施形態では、水槽内で金属吸着材maを振動させることで、海水と金属吸着材maとの接触効率を高めたが、海水のpH制御に影響の無いガスを水槽内に導入して旋回流を発生させることで、さらに接触効率を高めるようにしても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…海水導入装置、2、3、4…捕集ユニット、5…pHコントローラ(制御装置)、6…海水返送装置、21、31、41…水槽、22、32、42…振動装置、23、33、43…pHセンサ、24、34、44…曝気装置、25、35、45…排水装置、ma…金属吸着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を貯留する水槽と、
アミドキシム基を含有する金属吸着材を前記水槽内で振動させる振動装置と、
前記水槽に貯留された海水のpHを検出するpHセンサと、
前記水槽内にpH調整剤を投入する投入装置と、
前記pHセンサから得られるpH検出結果に基づいて前記海水のpHが目標値となるように前記投入装置による前記pH調整剤の投入量を制御する制御装置と、
を具備することを特徴とする金属捕集装置。
【請求項2】
海水を貯留する複数の水槽と、
各水槽に設置され、アミドキシム基を含有する金属吸着材を前記水槽内で振動させる振動装置と、
各水槽に設置され、前記水槽に貯留された海水のpHを検出するpHセンサと、
各水槽に設置され、前記水槽内にpH調整剤を投入する投入装置と、
各pHセンサから得られるpH検出結果に基づいて、各水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように各投入装置による前記pH調整剤の投入量を制御する制御装置と、
を具備し、
前記海水は、最上流の水槽から下流側の水槽へ順次移送された後、最下流の水槽から前記最上流の水槽へ返送される、
ことを特徴とする金属捕集装置。
【請求項3】
前記pH調整剤は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属捕集装置。
【請求項4】
前記投入装置は前記二酸化炭素を前記水槽内に放出する曝気装置であることを特徴とする請求項3に記載の金属捕集装置。
【請求項5】
海水が貯留された水槽内において金属吸着材を動かしながら前記海水に含まれる金属を前記金属吸着材に吸着させる金属捕集方法において、
前記水槽に貯留された海水のpHが目標値となるように前記水槽内にpH調整剤を投入することを特徴とする金属捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−122106(P2012−122106A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274926(P2010−274926)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】