説明

金属捕集装置及び方法

【課題】海水に含まれる金属の捕集効率の向上及び維持を図る。
【解決手段】金属捕集装置の構成として、海上を移動可能な自走式の海上移動体と、前記海上移動体から海中へ吊り下げられた金属捕集材と、前記海中へ吊り下げられた金属捕集材を前記海上移動体上へ回収する捕集材回収設備と、を具備するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属捕集装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び非特許文献1には、モール状に成形された金属捕集材(ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたもの)をアンカーに接続して海中に係留することにより、海水に含まれる極微量のウランやバナジウム等の希少金属を効率良く捕集する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−119801号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】玉田正男ら モール状捕集システムによる海水ウラン捕集のコスト試算 日本原子力学会和文論文誌,Vol.5,No.4,p.358-363(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、ある海域に金属捕集材を固定設置することから以下の問題がある。
(1)例えば、非特許文献1に記載されているように、沖縄海域で実施された金属捕集実験では、金属捕集材を海中に30日浸漬させた結果、金属捕集材1kg当り約1.5gのウランが回収できたが、陸奥関根浜沖合いで実施された金属捕集実験では、金属捕集材を海中に30日浸漬させた結果、金属捕集材1kg当り約0.5gのウランしか回収できなかった。
【0006】
これは、沖縄の海水温が陸奥関根浜より10°C高いことから捕集速度が速くなったことと、金属捕集材の形状をモール状に改良したことが原因と考えられている。つまり、金属捕集材の金属吸着性能は海水温度に大きく影響を受けることになる。従って、ある海域に金属捕集材を固定設置すると、海流の変化や季節変動などによって海水温度が変化した場合に金属捕集効率の低下を招く虞がある。
【0007】
(2)悪天候下での激しい海流変化により金属捕集材が破損する虞がある。
(3)海流変化によって海水が停滞した場合、金属捕集材が新鮮な海水と接触できず、金属捕集効率が低下する虞がある。
(4)太陽光が届く浅い位置に金属捕集材を設置した場合、光合成により藻類が増殖し金属捕集材に付着・成長するため、金属捕集効率が低下する虞があるとともに金属捕集材からのウラン回収を妨げたり、さらには藻類付着による金属捕集材の物理・化学的な劣化要因となり得る虞がある。また、光化学反応により金属捕集材そのものが劣化する虞もある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、海水に含まれる金属の捕集効率の向上及び維持を図ることの可能な金属捕集装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、金属捕集装置に係る第1の解決手段として、海上を移動可能な自走式の海上移動体と、前記海上移動体から海中へ吊り下げられた金属捕集材と、前記海中へ吊り下げられた金属捕集材を前記海上移動体上へ回収する捕集材回収設備と、を具備することを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記金属捕集材は太陽光が当らないように前記海上移動体から海中へ吊り下げられることを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記海上移動体の下部には凹部が設けられており、前記金属捕集材は前記凹部から海中へ吊り下げられることを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、金属捕集装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記海上移動体には、前記捕集材回収設備によって回収された前記金属捕集材から金属を分離回収する金属回収設備が設けられていることを特徴とする。
【0013】
一方、本発明では、金属捕集方法に係る解決手段として、海上を移動可能な自走式の海上移動体から金属捕集材を海中へ吊り下げて海水に含まれる金属を捕集することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、金属捕集材の金属吸着性能が高くなる海域(海水温度が高い海域)に海上移動体を移動させることにより、金属捕集効率を向上させることができる。また、海流の変化や季節変動などによって海水温度が変化した場合でも、最適な海域に海上移動体を移動させることで、常に高い金属捕集効率を維持できる。
また、悪天候時には海上移動体を安全な海域に移動させることにより、金属捕集材の破損を防止することができる。
また、海流変化によって海水が停滞した場合には、海上移動体を海流のある海域に移動させることにより、常に新鮮な海水と金属捕集材とを接触させることができ、その結果、常に高い金属捕集効率を維持できる。また、海上移動体の移動中も新鮮な海水を含む海域を通過させることで同様の効果を得られる。
また、海上移動体の陰に金属捕集材が位置するように海上移動体の姿勢を変えて金属捕集材に太陽光が当らないようにすることで、光合成により藻類が増殖し金属捕集材に付着・成長することを抑制し、常に高い金属捕集効率と金属捕集材からの金属回収効率を維持するとともに、さらには金属捕集材の物理・化学的な劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。
【図3】本発明の第3実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。この図に示すように、第1実施形態における金属捕集装置は、海上を移動可能な自走式の金属捕集船(海上移動体)1と、金属捕集船1から海中へ吊り下げられた金属捕集材2と、海中へ吊り下げられた金属捕集材2を金属捕集船1上へ回収する巻揚げ機3(捕集材回収設備)と、巻揚げ機3によって回収された金属捕集材2から金属を分離回収する金属回収設備4とを備えている。
【0017】
金属捕集船1は、推進力を得るための推進機関を備える船、つまり自走式の船である。この金属捕集船1としてどの程度の大きさ(総トン数)の船を用いるかは、海中へ吊り下げる金属捕集材2の総量に応じて適宜決定すれば良い。但し、金属捕集船1上には巻揚げ機3及び金属回収設備4の設置スペースを確保する必要がある。
【0018】
金属捕集材2は、特許文献1及び非特許文献1に記載されているように、ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたものを用いることができる。また、図1では、帯状の金属捕集材2を金属捕集船1から吊り下げた状態を図示しているが、金属捕集材2の形状は帯状の他、モール状、球状、円筒形状など、海水との接触面積が大きい形状とすれば良い。或いは、球状の金属捕集材2をかごに入れた状態で金属捕集船1から吊り下げても良い。なお、これらの金属捕集材2は巻揚げ機3から海中へ投入されたワイヤ5に接続
されており、ワイヤ5が海中に投入された後に、ワイヤ5に係留されて海中を浮遊する。
【0019】
巻揚げ機3は、金属捕集船1の後尾甲板上に設置されており、海中に投入されたワイヤ5を巻揚げることにより、金属捕集材2を金属捕集船1上へ回収するものである。
金属回収設備4は、金属捕集船1の中央甲板上に設置されており、巻揚げ機3によって回収された金属捕集材2から金属を分離回収するものである。なお、金属捕集材2から金属(特に、ウランやバナジウム等の希少金属)を分離回収する手法については、特許文献1及び非特許文献1に記載されているように公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0020】
次に、上記のように構成された金属捕集装置を利用した金属捕集方法について説明する。
まず、金属捕集材2の金属吸着性能が高くなる海域、つまり海水温度が高い海域に金属捕集船1を移動させた後、ワイヤ5を海中に投入することにより、金属捕集材2を吊り下げた状態で海中に浮遊させる(図1参照)。この時、金属捕集船1の陰に金属捕集材2が位置するように金属捕集船1の姿勢を変え、金属捕集材2に太陽光が当らないようにすることが望ましい。
【0021】
上記のように、金属捕集船1から金属捕集材2を海中に吊り下げた状態で一定期間放置した後、巻揚げ機3によってワイヤ5を巻揚げることにより、金属捕集材2を金属捕集船1上に回収する。そして、金属回収設備4によって金属捕集材2から金属を分離回収した後、再度、金属捕集材2を海中へ投入し、金属の捕集及び分離回収を繰り返す。
【0022】
以上のような本実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)金属捕集材2の金属吸着性能が高くなる海域(海水温度が高い海域)に金属捕集船1を常に移動させることにより、金属捕集効率を向上させることができる。また、海流の変化や季節変動などによって海水温度が変化した場合でも、最適な海域に金属捕集船1を移動させることで、常に高い金属捕集効率を維持できる。
【0023】
(2)悪天候時には金属捕集船1を安全な海域に移動させることにより、金属捕集材2の破損を防止することができる。
(3)海流変化によって海水が停滞した場合には、金属捕集船1を海流のある海域に移動させることにより、常に新鮮な海水と金属捕集材2とを接触させることができ、その結果、常に高い金属捕集効率を維持できる。また、金属捕集船1の移動中も新鮮な海水を含む海域を通過させることで同様の効果を得られる。
【0024】
(4)金属捕集船1の陰に金属捕集材2が位置するように金属捕集船1の姿勢を変え、金属捕集材2に太陽光が当らないようにすることで、光合成により藻類が増殖し金属捕集材に付着・成長することを抑制し、常に高い金属捕集効率と金属捕集材からの金属回収効率を維持するとともに、さらには金属捕集材の物理・化学的な劣化を抑制できる。
(5)従来では陸地に設置していた金属回収設備4を金属捕集船1に搭載することにより、金属捕集材2を陸地に運搬する必要がなくなり、船上で回収した金属だけを陸上に運搬すれば良いため、運搬コストの削減を図ることができる。非特許文献1によると、年間1200トンのウランを回収するために金属捕集材2は10万トン必要であるが、金属捕集材2からウランを溶離するために必要な試薬量はその1/10以下であり、金属回収設備4を金属捕集船1に搭載することで運搬コストの削減が可能であることは明らかである。
【0025】
〔第2実施形態〕
図2は、本発明の第2実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。この図に示すように、第2実施形態における金属捕集装置は、海上を移動可能な自走式のメガフロート(海上移動体)10と、メガフロート10から海中へ吊り下げられた金属捕集材11と、海中へ吊り下げられた金属捕集材11をメガフロート10上へ回収する巻揚げ機12、13(捕集材回収設備)と、巻揚げ機12、13によって回収された金属捕集材11から金属を分離回収する金属回収設備14とを備えている。
【0026】
このように、第2実施形態における金属捕集装置は、海上を移動可能な自走式の海上移動体としてメガフロート10を使用した点で第1実施形態と異なっている。メガフロート10は、推進力を得るための推進機関を備える浮体、つまり自走式の浮体である。このメガフロート10の大きさも、海中へ吊り下げる金属捕集材11の総量に応じて適宜決定すれば良い。但し、メガフロート10上には巻揚げ機12、13及び金属回収設備14の設置スペースを確保する必要がある。
【0027】
金属捕集材11の構成は第1実施形態と同様である。これらの金属捕集材11は、巻揚げ機12、13を介してメガフロート10の周囲にループ状に張られたワイヤ15に接続されており、ワイヤ15が海中に投入されると、ワイヤ15に係留されて海中を浮遊する。なお、ループ状に張られたワイヤ15を、巻揚げ機12、13によってメガフロート10の周囲を時計回り或いは反時計回りに回転させることで、海中への金属捕集材11の投入、及び海中からの金属捕集材11の回収(引揚げ)を行うことができる。
【0028】
また、ワイヤ15はメガフロート10の中央部に設置された金属回収設備14を経由しながら回転するようになっており、メガフロート10上に回収された金属捕集材11は、ワイヤ15の回転に伴って自動的且つ連続的に金属回収設備14に投入される。金属の分離回収が終了した金属捕集材11は、ワイヤ15の回転に伴って再度、海中へ投入される。
【0029】
次に、上記のように構成された金属捕集装置を利用した金属捕集方法について説明する。
まず、金属捕集材11の金属吸着性能が高くなる海域、つまり海水温度が高い海域にメガフロート10を移動させた後、巻揚げ機12、13によってワイヤ15を回転させて金属捕集材11を海中へ投入し、メガフロート10から吊り下げた状態で海中に浮遊させる(図2参照)。この時、メガフロート10の陰に金属捕集材11が位置するようにメガフロート10の姿勢を変え、金属捕集材11に太陽光が当らないようにすることが望ましい。
【0030】
上記のように、メガフロート10から金属捕集材11を海中に吊り下げた状態で一定期間放置した後、巻揚げ機12、13によってワイヤ15を回転させて金属捕集材11をメガフロート10上に回収するとともに、自動的且つ連続的に金属回収設備14に投入する。そして、金属回収設備14によって金属捕集材11から金属を分離回収した後、巻揚げ機12、13によってワイヤ15を回転させて、再度、金属捕集材11を海中へ投入し、金属の捕集及び分離回収を繰り返す。
以上のような第2実施形態の金属捕集装置によっても第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の第3実施形態における金属捕集装置の構成概略図である。この図に示すように、第3実施形態における金属捕集装置は、下部に凹部20aが設けられ、海上を移動可能な自走式の金属捕集船20(例えば、双胴船など)と、金属捕集船20の凹部20aから海中へ吊り下げられた金属捕集材21と、海中へ吊り下げられた金属捕集材21を金属捕集船20上へ回収する巻揚げ機22、23と、巻揚げ機22、23によって回収された金属捕集材21から金属を分離回収する金属回収設備24とを備えている。
【0032】
このように、第3実施形態における金属捕集装置は、海上を移動可能な自走式の海上移動体として、下部に凹部20aが設けられた金属捕集船20を使用した点で第1実施形態と異なっている。金属捕集材21は、凹部20aを沿うように張られたワイヤ25に接続されており、巻揚げ機22、23によってワイヤ25を凹部20aに沿って動かすことにより、海中への金属捕集材21の投入、及び海中からの金属捕集材21の回収(引揚げ)を行うことができる。
【0033】
このような第3実施形態の金属捕集装置を利用した金属捕集方法は第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。この第3実施形態の金属捕集装置が第1実施形態と比べて有利な点は、金属捕集材21が金属捕集船20の凹部20aから海中へ吊り下げられていることで、金属捕集船20の姿勢を変えなくとも、金属捕集材21に太陽光が当ることを防止できる点である。
【0034】
以上、本発明の第1〜第3実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において実施形態を変更可能であることは勿論である。例えば、上記実施形態では、海上移動体として自走式の船やメガフロートを例示したが、この他、推進機関を備えた浮上物であればどのようなものを利用しても良い。また、必ずしも海上移動体に金属回収設備を設ける必要はなく、海上移動体上に金属捕集材を回収した後は、海上移動体を陸地に運搬して、陸地に設置された金属回収設備を利用して金属の分離回収を行っても良い。
【0035】
また、上記第3実施形態では、自走式の海上移動体として、下部に凹部20aが設けられた金属捕集船20(例えば、双胴船など)を例示したが、例えば、船体の前後に開閉自在な扉を備えるVLCC(Very Large Crude Carrier:載貨重量20万トン以上のタンカー)などを金属捕集船として用いても良い。このようなVLCCは、船体内部に運搬物を収容するための空間を備えている。従って、VLCCを前後の扉を開いた状態で海水温度が高い海域に停泊させて、船体の内部空間に海水が流通するようにし、その内部空間の上方から海中へ金属捕集材を吊り下げることにより、金属捕集材に太陽光が当ることを防ぎつつ、金属回収を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1、20…金属捕集船(海上移動体)、10…メガフロート(海上移動体)2、11、21…金属捕集材、3、12、13、22、23…巻揚げ機(捕集材回収設備)、4、14、24…金属回収設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上を移動可能な自走式の海上移動体と、
前記海上移動体から海中へ吊り下げられた金属捕集材と、
前記海中へ吊り下げられた金属捕集材を前記海上移動体上へ回収する捕集材回収設備と、
を具備することを特徴とする金属捕集装置。
【請求項2】
前記金属捕集材は太陽光が当らないように前記海上移動体から海中へ吊り下げられることを特徴とする請求項1に記載の金属捕集装置。
【請求項3】
前記海上移動体の下部には凹部が設けられており、
前記金属捕集材は前記凹部から海中へ吊り下げられることを特徴とする請求項1または2に記載の金属捕集装置。
【請求項4】
前記海上移動体には、前記捕集材回収設備によって回収された前記金属捕集材から金属を分離回収する金属回収設備が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属捕集装置。
【請求項5】
海上を移動可能な自走式の海上移動体から金属捕集材を海中へ吊り下げて海水に含まれる金属を捕集することを特徴とする金属捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126986(P2012−126986A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281736(P2010−281736)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】