説明

金属有機構造体材料の選別

本発明は、網状構造体構造の気孔を特徴付ける方法、並びに、気体分離用の膜及び他の目的としての網状構造体構造の実際の性能特性を予測するようにこれらの特徴を使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年12月18日出願の米国仮出願61/288,236号の優先権の利益を主張し、この全体を本明細書に援用する。本発明は金属有機構造体(MOF)材料に関し、特に化学的分離適用に用いるMOF材料を選別及び選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オマー M.ヤギー博士は、「拡張構造体に強結合を付与することで分子を共に縫合すること」と定義される「網状化学」として知られた、新しい化学の一部門の発明者として広く知られている。これにより、彼の実験室は、金属有機構造体(MOFs)、ゼオライト型イミダゾレート構造体(ZIFs)、共有結合性有機構造体(COFs)及び金属有機多面体(MOPs)として現在では周知の新しい種類の結晶を設計し生成するようになった。網状結晶は多くの記録を保持しており、その中でも単位重量当たりの表面積が最大であり(MOF‐177では5,640m/g)、任意の結晶のうち密度が最小である(COF‐108では0.17g/cm)。これらの材料は、基礎科学から、水素、メタン及び二酸化炭素の捕捉及び貯蔵を含むクリーンエネルギー技術の適用まで発展してきた。
【0003】
概して、MOFsは、剛性有機分子に配位され得る金属イオン又は金属クラスタから成る結晶化合物であって、1次元、2次元又は3次元の多孔性構造体を形成する。有機リンカーの構成要素、長さ、結合及び機能化、並びにこれらの組み合わせに基づき、非常に多様な気孔環境を実現できる。MOFsが示す興味深い特性の幾つかには、大きい表面積、相対的な調整容易性、及び特定の適用に用いるよう機能化能力が含まれる。
【0004】
複数の小気体分子を分離(特にCHからCOを分離)する高度に選択的かつ透過性のある膜としてMOFsが使用されるため、MOFsへの関心は増している。この分離には、天然ガス精製とCO捕捉が必要であるが、2つの分子のサイズが非常に近接しているため、分離は難しい。MOFsの他の可能な適用は、気体精製、気体分離、気体貯蔵及び輸送、触媒作用及びセンサーである。
【0005】
気孔サイズが、これらの幾つかの適用で非常に重要である。たとえば、標的気体より大きい気孔サイズを有するMOFsは、膜の選択性が高くない。MOFsの気孔サイズによって、より大きい分子の運動が大きく阻害される構造体で、選択性はより高くなることが予想される。すなわち、標的気体用の分子ふるいが形成される。そのため、気孔サイズ特性に関する信頼性ある知見によって、MOFs本来の目的用にMOFsの選択が改良され得る。
【0006】
しかしながら、気孔サイズの特性を収集することは容易でない。気孔サイズは、気体吸着ポロシメトリー(例えば、ホルバート−川添(Horvath‐Kawazoe)計算法若しくはドゥビーニン−アスタコフ(Dubinin‐Astakov)計算法の使用)、又は水銀圧入ポロシメトリーにより決定できる。しかしながら、これらの様々な方法はバイアスを受け、かなり正確なものであっても、大規模な気孔サイズの特性を手作業によって決定することはほとんど不可能に近い。したがって、MOFsを用いる実際の世界での適用を作成する取り組みに関連する課題の1つは、報告された膨大な数の構造体、及び関連する新規な実験技術に起因する、構造体の選別に要する膨大な時間である。さらに、ポロシメトリーは、全体的な有効気孔容積の情報を提供するだけである。また、化学的分離の多くの適用では、多孔性材料内の分子運動を制御する気孔収縮を特徴付けることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,648,508号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】チェン(Chen),B.他、「超大型気孔を有する周期的な極小面上で織り交ざった金属有機構造体」、サイエンス第291巻:1021から1023頁(2001年)
【非特許文献2】エッダウディ(Eddaoudi),M.他、「永続的なマイクロ多孔性を有する金属カルボン酸塩構造体の設計と合成」、触媒作用に関するトピック9:105から111頁(1999年)
【非特許文献3】フォスター(Foster),M.D.他、「ゼオライト構造体における最大の自由球体問題の幾何学的解決法」、マイクロ多孔性材料料及びメソ多孔性材料、第90(1−3)巻:32から38頁(2006年)
【非特許文献4】ホーシェン(Hoshen),J.及びコペルマン(Kopelman),R.、「パーコレーション及びクラスタ分布、1.クラスタの複数の分類技術及び限界濃度アルゴリズム」、フィジカル・レビューB第14(8)巻:3438頁(1976年)
【非特許文献5】ケスキン(Keskin),S.及びショル(Sholl),D.S.、「原子論的に詳細なモデルを用いた、金属有機構造体膜を選別する効率的な方法又は気体分離」、ラングミュア、2009年
【非特許文献6】李(Li)、H.他、「極めて安定し、かつ高い多孔性を有する金属有機構造体の設計と合成」、ネイチャー第402巻:276から279頁(1999年)
【非特許文献7】オックビッヒ(Ockwig),N.W.他、「網状化学:構造体の設計用の発生ネット、分類ネット及び文法」、臨床的研究の根拠第38(3)巻:176から182頁(2005年)
【非特許文献8】関(Seki),K.、「外部刺激に反応する多孔性の配位高分子の動的流路」物理化学 化学物理第4(10)巻:1968から1971頁(2002年)
【非特許文献9】ヤギー(Yaghi),O.M.他、「新材料の網状合成と設計」、ネイチャー第423巻:705頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当技術分野で必要なものは、MOFsの気孔サイズに関する特性を予測する方法であって、対象範囲内にあるMOFsを分離するように、その予測を大量のMOFsを選別するように適用する方法である。分子シミュレーションに基づき、膜としてのMOFsの挙動を予測することで、対象となるそれらMOFsを更に分析できる。本発明の実施形態は、これらの需要を満たすような、分離適用に用いるMOFsを特定する選別方法論を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下の略語を本明細書で使用する。
【0011】
【表1】

本発明は、非常に多くの数のMOF構造体を選別し、気孔サイズと気孔の幾何学的形状を予測し、かつ膜装置又は他の分離装置の製造用の有望な材料候補を特定する計算方法論を開発する。MOF膜の製造は高価で手間がかかる手順であって、信頼性ある予測モデルに基づき適合するように予め選択されたこのような材料候補のリストの利益を大いに享受し得る。
【0012】
本発明は、MOFsの気孔サイズをモデル化する改良方法に関する。網状構造体材料の気孔特性を計算する方法は、概してa)網状構造体材料用の結晶データセットから単位セルパラメータ及び構造体原子座標を抽出することと、b)単位セルパラメータ及び構造体原子座標を複数の離散的な格子点でモデル化することと、c)各構造体原子に半径を割り当てることであって、半径は、各元素で異なるとともにすべての可能な化学元素で定義される、ことと、d)複数の離散的な格子点に数学的にプローブを挿入することと、e)構造体原子の半径に重ならないように、単位セル内の各格子点に配置可能な最大のプローブのサイズを計算することと、f)選択されたサイズのプローブ用に接続した格子点のすべてのクラスタを特定し、単位セルの2つの側に属する記録された格子点を有する1以上の架橋クラスタをこれらのクラスタから選択することであって、気孔制限直径が、少なくとも1つの架橋クラスタに至ると判っている最大のプローブに対応している、ことと、g)構造体原子の半径に重ならなかった最大のプローブである最大空洞直径を特定することと、を有する。
【0013】
また、当該方法は、多様な気孔に基づく特性に関する複数の網状構造体材料を選別する方法を含む、上記の方法の多様な適用にも関し、本明細書に記載の網状構造体材料の1以上の気孔特性を計算することと、対象の適用の対象気孔範囲に基づき、複数の金属有機構造体材料の構造体のサブセットを選択することと、を有する。
【0014】
様々な好適実施形態では、複数の分類アルゴリズムを使用することでステップf)を実行し、2×2×2の拡張スーパーセルを使用することで架橋クラスタの検索を実行してもよい。さらに、好適な格子間隔は0.005nmから0.02nmの範囲にあり、すべての格子点の間隔及び最も好適な格子点の間隔は0.01nmである。
【0015】
概して、当該方法は球体のプローブを使用してもよく、或いは、簡略化のために、迫真性を出すために非球体のプローブをモデルにしてもよい。たとえば、プローブは、COのような棒状、CHのような四面体、又は屈曲角度が104.5度である非線形状の屈曲形状であってもよく、この屈曲は、HOのように分子中央部にある。他の形状も可能である。
【0016】
網状構造体材料は、回折と3次元モデル化が可能なように、十分に整えられた結晶に結晶化し、この結晶を提供する任意の網状構造体であってもよい。好適には、網状構造体は、例えばMOF、ZIF、COF、又はMOPなどの既存の材料の種類であるが、当該方法は、まだ発明されていない他の結晶構造体にも適用できる。
【0017】
好適実施形態では、結晶情報ファイル形式及びファンデルワールス半径を当該方法に使用し、構造体の周期性を捉えるように周期的な境界条件を適用する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】気孔特性が簡略化されて表された実施形態である。
【図2】ゼオライト構造体に関する最大空洞直径の値と気孔制限直径の値を比較するグラフである。
【図3】多数のMOF構造体に関して、最大空洞直径の値と気孔制限直径の値を比較するグラフである。0.01nmの格子間隔と707種のMOF構造体に関して、最大空洞直径用の値が気孔制限直径の値に対してプロットされている。COとCHの運動学的直径が垂直な線で示されている。3種の特定のMOFs(IRMOF‐1、CuBTC、及びCuhfb)に関する結果を強調して表示した。CuBTCとCuhfb以外の残りの705種の構造体は、オックビッヒ他(2005年)の参照コード(REFCODE)リストのすべての構造体を使用することで配置した。この情報源の5種の構造体はCSDでは配置し得ず、それら報告された結晶構造体における高度に不規則な59種の構造体も除外した。
【図4】MOFs用選別法の実施形態のプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態は、分離適用に用いるMOFsを特定する選別法を提供する。図4は、以下のステップを含む選別法100の概要を与える。すなわち、1)ステップ110ではMOFsの既存の結晶情報を収集する。2)ステップ120では単位セルパラメータ及び構造体原子座標を抽出する。3)ステップ130では、MOFsの構造を分析し、より詳細には、格子構造体にプローブを数学的に挿入し、構造体原子との重なりがないかどうかチェックする。4)ステップ130で計算された気孔サイズによって、ステップ140では対象のMOFs構造体を特定する。5)ステップ150では、MOFsの性能を決定するように原子論的シミュレーションを適用する。
【0020】
これらステップは順に記載されているが、これらステップは、この記載の順番で実行する必要はなく、或いは、すべてのステップは、それぞれ繰り返して実行する必要はない。たとえば、データ収集ステップ110と抽出ステップ120を一度終了し、その後、新情報が利用可能となったら、データ収集ステップ110と抽出ステップ120を更新するだけでよい。また、ステップ5)は任意である。
【0021】
分離適用に用いる構造体を特定する選別法を説明しているが、他の適用、例えば気体貯蔵や輸送、触媒作用、気体や液体などからの微量汚染物質の選択的捕捉などに用いるMOFsを特定するようにも当該方法を使用してよい。
【0022】
一実施形態では、MOFs110に関する情報収集は、ケンブリッジ構造体データベース(CSD)によって行われてもよい。このケンブリッジ構造体データベース(CSD)は、多数のMOFsを含む約50万種の結晶構造体用の書誌的情報、化学的情報及び結晶情報を含む。金属結晶データファイル(CRYSTMET)、又は無機結晶構造体データベース(ICSD)を含む他のデータベースも使用してよい。また、これらの包括的な結晶データベースにまだ含まれていない科学文献からのデータ、又は未刊行の結晶研究からのデータを進んで使用してもよい。
【0023】
幾つかの実施形態では、MOFs用のデータベースを検索するか、或いはコンパイル済みの参照コード(Refcode)リストを使用することで情報を収集する。参照コードは、各構造体を分類するようにCSDで使用した固有の識別コードであり、このようなリストは、過去の異種分析用にコンパイルされた。データのサブセットが、ある適用(例えばすべてのゼオライト又はすべての正方結晶)に適していてもよいが、すべてのMOFsからデータを収集するのが好ましい。
【0024】
その後、データベースからのデータは、選別法で使用可能な適応様式へと抽出する必要がある。結晶情報ファイル(CIF)形式を使用するのが好ましい。一般に、1つの単位セル内の単位セルパラメータと構造体原子座標は、対応するデータベースエントリから抽出しなければならない。溶媒原子及び/又は不規則な構造体原子が存在しているため、これは重要なステップである。これらのケースでは、これらの原子はデータから慎重に抽出する必要があるため、空の構造体を正確に探査できる。これらのステップは結晶構造体の個々の処理により実行され、そのタスクは人間との相互作用を必要とするが、この人間との相互作用は、各構造体につき1回必要となるだけである。空の構造体は、報告されたデータと同一の構造体座標を有していてなくてもよいことが理解される。しかしながら、この座標は、いったんMOFs候補を特定したときに、更に詳細に調べ得る課題である。
【0025】
単一の単位セル内の構造体座標、及び単位セルパラメータをいったんステップ120にて抽出すると、構造体原子がどの化学元素であるかの判定に基づき、剛体球の半径値が各構造体原子に割り当てられる。一実施形態では、割り当てられた値は、CSDで使用したファンデルワールス半径であって、分析した構造体内のすべての同一元素で同じ値である。ファンデルワールス半径がCSDでリストアップされていない少数の元素に金属半径又は共有結合半径を使用する。このようにして、すべての元素の半径が周期表から定義される。
【0026】
MOF130の構造は、MOF構造体の気孔サイズを計算する数学的モデルを用いて分析される。この数学的モデルによってセルパラメータ及び構造体原子座標が分析されることで、対象の構造体の「地図」が作成される。この地図に基づいて、気孔サイズの特性を推定し、好適な範囲外に有意に存在する気孔サイズのMOFsを更なる分析から除外する。
【0027】
MOFの気孔特性の決定は、所定構造の構造体の離散的な単位セル内へ仮想プローブを数学的に挿入することに基づいている。プローブのサイズは様々であり、各挿入を試みた後に、プローブがどの構造体原子に重なるかがチェックされる。構造体原子とプローブが何らかの重なりがあるということは、挿入の試みが失敗であったとみなされ、プローブは大きすぎて単位セル内にうまく納められないと結論づけられる。これにより、より小さいプローブが試みられることになる(逆も同様である)。このプロセスは、1つの結晶単位セルのみで実行されるが、このセル内ではすべての格子点についてこのプロセスが実行される。簡略化から、プローブは球体であるが、代替的に、分離される気体のサイズ及び形状に近くなるようにプローブを成形してもよい。
【0028】
プローブ挿入及び構造体原子との比較のこのプロセスでは、最大空洞直径と気孔制限直径の両方を抽出する(過去、李他、フォスター他(2006年)が最大の内包球体と最大の自由球体として記述した)。図1にこれら2つの気孔特性を示す。「最大空洞直径」は、構造体内で見ることができる最大の球体状空間の直径と定義される。「気孔制限直径」は、構造体を貫通する気孔に沿った最小の球体状空間である。様々なサイズの気孔が存在すれば、報告される気孔制限直径の値は、それら気孔の中で最大のものである。気孔制限直径は、気孔よりサイズが大きい分子の通過を遮断することで、構造体を通過する分子の運動を制御してもよい。
【0029】
たとえば、気孔が小さすぎて、分離している分子が進入できないか、或いは気孔が大きすぎて必要な特異性を欠いているため、構造体の気孔サイズの特性の計算によって、多数の構造体を適切な分離MOFsとして考慮から除く手順を迅速化できる。
【0030】
溶媒分子がない安定した構造体が欠如している、或いは製造が困難かつ製造コストが高いなどの更に不要な特性を特定するように、対応する文献を調査して追加構造体を除いてもよい。もし構造体の数が気孔の基準を適用することで減少していないなら、このステップは不可能であり得る。
【0031】
対象となる気孔サイズ範囲内にあって、如何なる思わしくない特性も有していない構造体のより小さいグループがいったん特定されると、任意のステップでは、特定の適用(例えば、非特許文献5:ケスキン他、2009年を参照されたい)に用いる膜としてこれらの材料の性能を決定するために、原子間ポテンシャルに基づく分子力学シミュレーション又はモンテカルロシミュレーションなどの原子論的シミュレーションが適用される。これによって、報告された膨大な数のMOF構造体が、高性能MOF膜の製造促進に使用できるほどの適切な構造体候補の離散的なリストにまで更に低減される。
【0032】
ある実施形態の発明では、数学的方法は、通常、ワークステーションなどの1台以上のコンピュータのアルゴリズムの形態で組み込まれている。しかしながら、メインフレーム、マイクロコンピュータ、ミニコンピュータ、又はスーパーコンピュータなどの他のタイプのコンピュータを使用してもよい。この計算は、フォートラン90(Fortran90)、C、C++、ジャバ(Java)、ベーシック(Basic)、ビジュアルベーシック(Visual Basic)、MATLAB、又は他のプログラミング言語を用いて実行してもよい。
【0033】
幾つかの実施形態では、単位セル内の構造体原子の座標、及び対応する単位セルパラメータは、選別プロセス100が結果を提供するに唯一必要な入力であってもよい。
【0034】
本発明の方法は、任意の種類の網状構造体又は他の結晶の構造体(例えば、MOFs、ZIFs、COFs、MOPなど)に適用でき、信頼性ある結果を生む。MOFsが多数の異なった化学元素から成っているとともに、膨大な数の気孔、多数の不規則なトポロジーを示すため、この方法の特徴は、MOFs選別に使用されるべきこのような方法にとって不可欠な必要条件である。この方法は、単位セル内の任意のセットの座標、及び対応するパラメータにも適用できる。プログラムは、すべての元素に関するファンデルワールス直径値のリストを含み、換算値が各構造体原子に割り当てられる。これにより、気孔環境は、確実に、すべての構造体原子に同一サイズを割り当てるよりもより良好に示される。このことは、ゼオライトのケースよりもMOFsのケースでより重要になる。なぜならば、MOFsでは、気孔が、炭素原子と水素原子を通常含む有機的リンカーの原子により主に定義されるためであり、この有機的リンカーの各原子のサイズは有意に異なっている。また、本発明の方法はドロネー三角分割法に関する改良であり、ドロネー三角分割法は、異なったサイズの原子の取り扱いに困難に思える。そのため、MOFsにドロネー三角分割法を適用し難い。本発明の方法の別の利点は、隣接点の収集によって気孔トポロジーが定められるため、不規則な気孔さえも特定し記述できることである。さらに、気孔又は流路を構成する格子点は印刷できるため、目視により気孔トポロジーを調べることができる。
【0035】
実施例1:方法
本発明の方法がフォートラン90で実施され、結果のコードにより、任意の数の所定構造体に関する最大空洞直径と気孔制限直径が自動的かつ効率的に計算できた。概して、コードは、以下のステップとアルゴリズムを有するとして記述できる。コードは、周期的な境界条件を用いて、対象となる材料の単一の結晶単位セル内で有効な容積全体を調べる。この容積全体は、無限の範囲のバルク材料を含む。結晶単位セルを通して非常に多くの格子点での多孔性材料に挿入可能な球体のサイズを効率的に分析した後に、アルゴリズムは、最大空洞直径と気孔制限直径を特徴付けるように適用される。これら2つの制限直径の調査によって、結晶軸に平行なだけではない、任意の方向又は複数の方向の組み合わせに沿った分子拡散を許容する気孔があるかどうかが考慮される。
【0036】
単一の単位セル内の構造体の座標と単位セルパラメータが、いったんデータ収集に読み込まれると、剛体球の半径値が、構造原子の元素タイプに基づいて各構造体原子に割り当てられる。当該方法は、できる限り一般的であることを目的としているため、CSDで用いられたファンデルワールス半径を用いるように選択する。
【0037】
次に、ユーザによって選択された格子間隔に基づき、単位セルを離散点に分割した。格子は、結晶軸に沿って等しく区切られる。十分小さい格子間隔を使用できるため、このアプローチは可能なすべての空間群に適している。多孔性材料内の格子点と原子との距離(及び、各原子の周期的なイメージ)を計算することで、各格子点での剛体球プローブの挿入を調べた。如何なる構造体原子との重なりも全く生じなかったときに、剛体球の挿入は成功したとして分類される。各格子点での挿入について、許容可能な最大の剛体球が記録される。任意の格子点に挿入可能な最大の剛体球は、最大空洞直径に対応している。プロセス中、構造体の周期性を捉えるように周期的な境界条件が適用された。
【0038】
気孔制限直径を計算するために、先の手順が繰り返され、成功した挿入の原因となった格子点が、プローブ球の所定の直径用のメモリに保存された。
【0039】
次のステップは、収集した格子点を調べて、隣接した各点のクラスタを特定することである。これらのクラスタは、最も近く隣接した点同士の収集と定義されて、プローブ球がクラスタの位置に挿入されるのをすべて許容する。この特定を実行するために、ホーシェン‐コペルマンが説明した複数の分類アルゴリズムが使用された(以下の本明細書にて「複数の分類アルゴリズム」と記載する)。この複数の分類アルゴリズムにより、格子点のどのようなサブセットが、材料で定義された3次元構造体内で接続したセットを形成するかを決定する複雑な作業が効率的に完了する。
【0040】
各点のこれらのクラスタがいったん特定されると、再びホーシェン‐コペルマンの複数の分類アルゴリズムを使用して、単位セルの2つの側に属する点を有するそれらクラスタを特定するように検索が実行された。これは初期のクラスタ化とは異なったステップであり、その初期ステップからのデータは、他の可能な用途のために保有される。このようなクラスタは「架橋」クラスタと定義され、そのクラスタが発見されたということは、プローブ球直径を有する剛体球が、構造体に重ならずに構造体を通して移動し得ることを意味する。さらに、このようなクラスタに属するすべての点は、気孔制限のトポロジーを定める。気孔制限直径は、少なくとも1つの架橋クラスタを生み出すと判っている最大のプローブ球直径に対応している。
【0041】
対角線方向を有する気孔又は流路を特定するために、クラスタを架橋させる検索が、2×2×2の拡張スーパーセルを用いて実行されたことに注意すべきである。反対側は、スーパーセルに対向しているか、或いはスーパーセルに隣接している側に属する側と定義され、異なった基本単位セルに属する。この定義は、架橋クラスタとして空洞が誤って特定されるのを回避するようになされた。
【0042】
気孔制限直径の値は、構造体を除く基準として使用された。この数値は、特定の分子種用の分子ふるいとして作用する構造体の能力に対応している。
【0043】
また、最大空洞直径によって、一列の拡散の証拠が提供されたため、最大空洞直径は有用な量であると判った。分子が連続して移動する(例えば、一方の分子が他の分子の後方に移動する)構造体の気孔に沿った間隔のみが十分あるときに、一列の拡散が生じる。これにより、相対的に速い拡散種の拡散速度を制限する拡散種の速度が遅くなり、理想的な選択性と混合状態の選択性の間に大きな差異が生じ得る。したがって、一列の拡散は望ましくない効果であって、構造体内で最大空洞直径が大きい値を取る重要性に影響を与える。この情報は、対象となる範囲内の構造体の更なる分析を優先するように使用された。
【0044】
上述したように、クラスタトポロジーを作る架橋クラスタの各点は、気孔に沿った最大の空洞の位置と共に印刷してもよい。これにより、有用な洞察を与える気孔の目視調査、特に不規則な方向と複雑なトポロジーを気孔が有する場合の目視調査が可能になる。また、この印刷は、気孔の遷移状態分析に必要な反応座標の決定促進に有益なツールであってもよい。
【0045】
また、短い計算時間により、構造体変化が気孔に与える効果を推定するツールとしてこのモデルを用いることが可能となる。研究室で更に詳細な計算を行い、或いは実際の機能付与を進める前に官能基をMOFのリンカーに付加するときに、例えば気孔サイズの減少の決定が迅速化される。
【0046】
モデルの発展の間、主要な目標は、上で説明した2つの気孔特性を効率的かつ信頼性を有して計算できるツールを開発することであった。しかしながら、気孔の次元数又は方向など、構造体の気孔に関する付加情報を抽出するように、既存のモデルが更に拡張できる可能性がある。このような特徴は、材料候補をより詳しく分類して優先付けるのに有用であってもよい。また、非球体のプローブ粒子を使用するオプションが調べられており、これにより、非球体の気孔形状に関する情報が抽出できる。各原子の球体サイズ、又は対象となる分子を有する結合した原子の球体サイズとこの分子の内部幾何学形状がいったん定められれば、剛体の非球体分子に用いるこの手順の適用は容易である。この場合、挿入される分子用の内部回転自由度をあらゆる格子点で抽出しなければならない。
【0047】
原理に基づいた試験の証拠として、上述の方法論は、700種を超える、異なったMOF構造体に適用された。これら構造体は、オックビッヒ他がリストアップしたすべての構造体を含んでいた。ただし、これら実験的に報告された構造体で高いレベルの不規則性を有する、この情報源の少数の構造体は除かれた。
【0048】
図3では、気孔制限直径が最大空洞直径に対してプロットされている。対角線は、定義上、最大の気孔直径の最大値が最大空洞直径に等しくなり得るという自明な事実を強調している。また、COとCHの運動学的直径が図3に示されている。
【0049】
COとCHの名目上の運動学的直径は、それぞれ3.3Åと4.7Åであると報告されているため、対象となる範囲は約2.0Åから4.0Åと定められる。我々のアプローチは、剛体球としてMOF気孔内の分子をモデル化するが、実際の分子は剛体球ではない。物理的により正確なモデルでは、剛体球の原理で定義した分子よりわずかに大きい分子は、中程度から大きいポテンシャルエネルギー障壁を越えることで、多孔性構造体を貫通し、更にはこれを通って移動できる。そのため、高度な選択的分離用に最大ポテンシャルを有する材料を選択するように、気孔制限サイズが実際の分子の名目上の運動学的直径よりいくらか小さいMOFsを考えることが必要となる。その範囲内では、約50種を超える構造体が、我々のシミュレーションで発見された。これはモデル化ツールの能力を強調するものであり、この数は、構造体が不安定であるなどの他の理由のために更なる分析に適さない構造体を含むことに注意すべきである。
【0050】
この選別アプローチの有効性を要約して示す手段として、3つの構造体、等網状金属有機構造体‐1「IRMOF‐1」)、Cu3(ベンゼン‐1,3,5‐トリカルボキシラート)(「CuBTC」)、及びCu(hfipbb)(Hhfipbb)(「Cuhfb」)(ここでの「hfipbb」は、4,4’‐(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(安息香酸)を言及する)が図3で強調されている。
【0051】
IRMOF‐1とCuBTCは、如何なる有意な膜の選択性も有しないように以前に示されてきた。図3では、IRMOF‐1とCuBTCは、対象となる範囲外に明確に存在するように示されている。この実施例では、非常に高価で複雑なシミュレーション技術を用いずに、或いはコストと時間がかかる実験的な分析を用いずに、迅速かつ安全に多数の構造体を除くために本発明の方法論をどう使用できるかが強調されている。他方、2.78Åの気孔制限直径を有するCuhfbは、第1の基準を達成する構造体内にあって更なる調査対象となる。
【0052】
実施例2:先行技術との比較
我々が知る限り、他の1つのグループだけが、多数の構造体用に気孔サイズの特性を抽出する方法を開発した。フォスター他(2006)は、165種のシリカゼオライト構造体用の最大空洞直径(最大の内包球体)と気孔制限直径(最大の自由球体)を抽出するようにドロネー三角分割法を適用した。そのため、構造体の分析の有効性を検証するために、CSDのゼオライトデータベースで見つけられたシリカゼオライト構造体のすべてを、以前にフォスターが生成したデータと比較分析した。
【0053】
両方のモデル化ツールは、当該方法の数値精度を考慮に入れて、気孔制限直径と最大の空洞直径を計算し、ほとんどの構造体について見事な一致があるのが判った。小さいが実質的な差異は、少数の構造体で見られただけであった。これらのケースを調査した後に、2つのこれらのケースの気孔制限直径の値における差異は、最大の気孔が如何なる結晶軸にも沿っていなかったという事実のためであると判った。フォスターの結果は、結晶軸に沿って見られる直径値のみを報告したものであるため、これらのケースに関する正確な値を含んでいなかった。特に、これらのケースは、RUTシリカ構造体とAFNシリカ構造体を含む。その差異は小さかったが、ドロネー三角分割法の限界を強調するものである。また、フォスターが計算で使用した構造体原子座標と我々の計算での構造体原子座標とが明らかにわずかだけ違っていることにより、最大空洞直径の値は、3つのケースにおいてほぼ0.5Åであるとフォスターによって低く推定されていることが判った。これらの結果を図2に要約する。
【0054】
実施例3:効率
大容量データベースの分析に取り組む際に直面する1つの重要な問題は、手順の効率である。そのため、コードは、このような大規模な構造体分析に高度に適する速度で結果を生成するように、最適化され見付け出されている。
【0055】
各計算の時間は様々な要因に依存するが、大部分は単位セルのサイズに主に依存する。なぜなら、単位セルのサイズは格子点の数を定め、ひいては挿入点の数を定めるものだからである。別の要因は、選択される格子間隔であり、これもまた格子点数に影響を及ぼす。0.01nm(0.1Å)の格子間隔が、精度と計算時間の最良の組み合わせを提供することが判った。さらに、より多くの原子が、あらゆる挿入で重なりに関してチェックしなければならないため、計算時間は単位セル内の原子の数の影響を受けた。
【0056】
単位セル内の原子の数は、単位セルのサイズの増加に従って増加する。したがって、数が増加し続けている構造体原子は、重なりに関してチェックしなければならないため、挿入の試みを実行する単ループに費やす時間は、格子点の数に対して直線的には増加しない。それにもかかわらず、単位セルが異常に大きくならない限りは、計算時間が重要とならない。如何なるケースでも、典型的な計算があらゆる構造体について(0.2Åの格子について)2、3秒以内から数分までの間に実行され、計算が一括して実行可能なため、計算時間は選別手順のステップ速度を制限するものではない。
【0057】
フォスター他の刊行物では効率が言及されていないため、本発明とフォスター他の方法との比較はなし得ない。しかしながら、本発明はそれに匹敵する効率があると推測するのが妥当であり、本発明の効率は改善されてい得る。
【0058】
実施例4:精度
モデルでは離散的な格子を使用するため、計算値に関連した本質的な不確定性がある。この不確定性は30.5×gのスケールであると推定され、gは格子間隔である。0.01nm(0.1Å)の格子間隔の場合、不確定性は、実際の値より低く推定されて約0.018nm(0.18Å)になると予想される。
【0059】
ある実施形態では、構造体がしばしば可撓性のある構造体を示すので、結果の値は絶対的なものと考えるべきでない。この可撓性のある構造体は、単位セルの膨張、空気吸いこみ効果、又は、気孔の実際のサイズと拡散を可能にする性能とに重大な影響を及ぼし得る内部自由度(環回転)を含んでいてもよい。気孔制限直径の計算値は、分離すべき分子サイズ内にあるそれらすべての構造体を選択するように使用されるのが理想的である。研究の完成度に関し、気孔制限直径に基づいた対象となる範囲は、最大量の適切な構造体を的確に見つけるために、特により小さい値に向かって広げるべきである。
【0060】
本発明の多くの特定の実施形態を本明細書に記載したが、以下の請求項に記載される、本発明の範囲から逸脱せずに様々な変更、追加、修正、及び適合がなされてもよいことが理解される。
【0061】
請求項又は明細書中「有する(comprising)」の用語に関連して単語「a」又は「an」が使用されるとき、これらの単語は、文脈上別の意味を示さない限り、1つ又は1より大きいことを意味する。
【0062】
「約(about)」の用語は、測定法によって値が示されないならば、±10%の測定誤差範囲の所定値を意味する。
【0063】
請求項中の「又は(or)」の用語は、代替手段のみを言及するように明らかに示されない限り、或いは各代替手段が互いに排他的でない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するように用いる。
【0064】
「有する(comprise)」、「有する(have)」、「含む(include)」(及び、これらの変形例)の用語は制限のない連結動詞であって、請求項で使用されるとき、他の要素の追加を許容する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網状構造体材料の1以上の気孔特性を計算する方法であって、
a)網状構造体材料用の結晶データセットから単位セルパラメータ及び構造体原子座標を抽出することと、
b)前記単位セルパラメータ及び前記構造体原子座標を複数の離散的な格子点でモデル化することと、
c)各構造体原子に半径を割り当てることであって、該半径は、各元素で異なるとともにすべての可能な化学元素で定義されることと、
d)前記複数の離散的な格子点に数学的にプローブを挿入することと、
e)前記構造体原子の前記半径に重ならないように、前記単位セル内の各格子点に配置可能な最大の前記プローブのサイズを計算することと、
f)選択されたサイズのプローブ用に接続した格子点のすべてのクラスタを特定し、単位セルの2つの側に属する記録された格子点を有する1以上の架橋クラスタをこれらのクラスタから選択することであって、気孔制限直径が、少なくとも1つの架橋クラスタに至ると判っている最大のプローブに対応していることと、
g)前記構造体原子の前記半径に重ならなかった前記最大のプローブである最大空洞直径を特定すること、とを有する方法。
【請求項2】
複数の分類アルゴリズムを使用することでステップf)を実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2×2×2の拡張スーパーセルを使用することで架橋クラスタの検索を実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
0.005nmから0.025nmの格子間隔を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
0.01nmの格子間隔を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プローブは球体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プローブは棒状である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プローブは四面体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プローブは、該プローブの中央部が104.5度の屈曲角度である非線形状の屈曲形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記網状構造体材料は、MOF、ZIF、COF、及びMOPから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記網状構造体材料はMOFである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
結晶情報ファイル形式を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ファンデルワールス半径をステップc)で使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記構造体の周期性を捉えるように周期的な境界条件を適用する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
分離適用で膜として使用する複数の金属有機構造体材料の構造体を選別する方法であって、
a)請求項1から14のいずれか1項に記載の方法を使用して金属有機構造体材料の1以上の気孔特性を計算することと、
b)前記分離適用の対象となる気孔範囲に基づき、前記複数の金属有機構造体材料の構造体のサブセットを選択することと、を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513624(P2013−513624A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543346(P2012−543346)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/060945
【国際公開番号】WO2011/075618
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(512152721)ジョージア テック リサーチ コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】