説明

金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置

【課題】 実環境を模擬した金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置を提供する。
【解決手段】 (A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程と、
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程からなる工程を1回以上行い金属材の耐食性を評価するに際し、本発明では、(A)工程においては、金属材に付着した塩水の平均粒径は1〜300μm、塩分付着量は0.1〜10000mg/mであり、所要時間は10分以内であり、さらに下記(B)工程においては、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品、構造物等に使用される金属材の耐食性評価方法とその金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理鋼材などの金属材は、OA機器(複写機、パソコン等)、AV機器(テレビ、ビデオ等)、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品に大量に使用されている。表面処理鋼材の種類としては、電気亜鉛めっき鋼材、溶融亜鉛めっき鋼材、化成処理鋼材、塗装鋼材等がある。中でも、化成処理鋼材としてはクロメ−ト処理材が多く使われていたが、クロメート処理材の皮膜中に含有するクロムの環境負荷への影響を考慮し、クロメ−トフリー表面処理鋼材も検討され、既に実用化されている。現在、国内においては、クロメート材がクロメ−トフリー表面処理鋼材へほぼ代替されつつある。
【0003】
一方、家電製品の市場の国際化により、特に高温多湿な東南アジアなどを想定した製品設計が必要になると予想される。また、日本の家電業界各社は、環境保全・省資源の観点から、「グリーン調達制度」を制定して、家電製品のリサイクルや部品のリユースの推進を図っており、製品や部品の使用期間が延長されるようになる。これらのことから、製品の寿命設計がさらに重要になる。また、クロメ−トフリー表面処理鋼材等の新しい材料の使用拡大、市場の国際化、リユースなどにより使用期間の延長が図られている。
【0004】
表面処理鋼材などの金属材の製品設計については暴露試験結果に基づいて行われているが、長期暴露試験は長時間を要するという問題があり、用途によっては10年以上の時間を要する。また、家電製品の使用される環境では、一般に腐食速度が小さいため定量的なデータが少ない。特に、クロメ−トフリー表面処理鋼材等の新しい金属材では使用実績が短く、長期耐食データがないという問題点もある。そのため、家電製品等の製品設計を行う上で、家電製品に使用される金属材の寿命を短期間で予測できる耐食性評価方法の重要性が増している。
【0005】
従来の家電製品向けの金属材の耐食性評価方法としては、塩水噴霧試験等の腐食促進試験と、家電製品の実際の使用環境における長期暴露試験が行われてきた。しかしながら、長期暴露試験には前記問題点があり、塩水噴霧試験は家電製品の使用されている実際の腐食環境との相関が低いと考えられ、長期寿命との相関も不明である。
【0006】
また、塩水噴霧・乾燥・湿潤等を組み合わせた複合サイクル腐食試験方法が数多く開発されてきている。しかし、従来の複合サイクル腐食試験も実環境を適切に再現しておらず、実際の腐食環境を適切に再現した腐食促進試験法はいまだにない。更に、腐食促進試験法の種類によって材料の耐食性の序列が逆転する場合もあった。これは、金属材によって好適な環境が異なるため、例えば塩分の多い環境では耐食性を示すが塩分の少ない環境では耐食性が劣る材料や、逆に塩分の多い環境では耐食性を示さないが塩分の少ない環境では耐食性を示す材料があるためである。
【0007】
実際に家電製品の使用される環境では、塗装された冷延鋼板に糸状さびが発生し、塗装された亜鉛めっき鋼板ではブリスター(水疱状の塗装膜膨れ)が発生しない。しかし、従来の塩水噴霧試験や複合サイクル腐食試験では、塗装された冷延鋼板に糸状さびが発生せず、塗装された亜鉛めっき鋼板ではブリスターが発生し、実際の家電製品の腐食環境を再現できていない。また、実際の環境では塗装された亜鉛めっき鋼板は塗装された冷延鋼板に比べて耐食性が優れるが、従来の塩水噴霧試験や複合サイクル腐食試験では塗装された亜鉛めっき鋼板が塗装された冷延鋼板より耐食性が劣る場合があった。
【0008】
また、家電製品の使用環境も多種多様であり、塩分量の多い屋外環境、温度の高い屋外環境、湿度の高い屋内環境、塩分量が小さく湿度が低い屋内環境などが挙げられる。これらの使用環境に対して塩水噴霧試験等の1種類の腐食促進試験により評価し、製品設計することは、耐食性が不足する場合や過剰品質になる場合がある。
【0009】
これに対し、前記問題点を改善する複合サイクル腐食試験方法がいくつか提案されている。
【0010】
非特許文献1では、試験片に塩水を付着させた後に、露点温度を一定にした湿潤工程と乾燥工程を繰り返す促進試験方法が提案されている。この試験方法は湿潤工程(35℃、RH90%)7時間−移行時間1時間−乾燥工程(42℃、RH60%)3時間−移行時間1時間を1サイクルとしたサイクル腐食試験である。
【0011】
非特許文献2では、試験片に塩水を付着させた後に露点温度を一定にした湿潤工程と乾燥工程を繰り返す海岸付近の腐食環境を模擬した腐食試験を実施している。この試験方法は乾燥工程(20℃、65%)11時間−移行時間1時間−湿潤工程(13℃、95%)11時間−移行時間1時間を1サイクルとするものである。
【0012】
特許文献1では、試験片に塩水を付着させた後に、実際の腐食環境を模擬して試験片に連続的な温度変化を与え乾燥と湿潤を繰り返す促進試験方法が提案されている。
【0013】
特許文献2では、試験片の表面に水溶性塩類および固形粒子を付着させ、水溶性塩分の成分と付着量を変化させることにより腐食環境条件の影響を制御する耐食性試験法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10−253524号公報
【特許文献2】特開昭56−79237号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】VOLVO Corporate Standard STD 1027,1375(established 1995-06 JB)
【非特許文献2】材料と環境 第49巻 第2号 p.72(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、非特許文献1では、湿潤工程時間/(乾燥工程時間+湿潤工程時間)が70%と極めて高く、家電製品が使用されている環境とは異なっているために、実際の使用環境における腐食現象を再現できないという問題があった。
【0017】
非特許文献2では、家電用鋼板等の耐食性評価方法として用いた場合、温度が低く促進性が低いこと、乾燥工程の湿度が65%と高く乾燥が不十分であり、家電製品が使用されている環境を模擬していないという問題があった。
【0018】
特許文献1によれば、対象となる環境を再現できるかもしれないが、指定された環境毎に試験サイクルを組まなければならず、汎用性に欠ける。また、サイクルが複雑で、条件設定に時間がかかるという問題があった。
【0019】
特許文献2では、塩分量の多い厳しい腐食環境(例えば、NaCl付着量:1、5、10mg/cm)のみで試験を実施しており、実環境に近いマイルドな腐食環境における評価については記載されていない。
【0020】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、実環境を模擬した金属材の耐食性評価方法と金属材、並びに金属材の腐食促進試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する本発明の手段は次のとおりである。
[1]下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1〜300μm、塩分付着量は0.1〜10000mg/mであり、かつ、下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
[2]前記[1]の前記(B)工程において、乾燥工程及び湿潤工程は下記条件範囲内で行われることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
乾燥工程 温度:20〜60℃、相対湿度:70%以下、保持時間:2〜12時間
湿潤工程 温度:20〜60℃、相対湿度:80〜96%、保持時間:2〜12時間
[3]前記[1]または[2]の前記(B)工程において、乾燥工程の保持時間≧湿潤工程の保持時間とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
[4]下記(C)条件および/または下記(D)条件の2水準以上に対して、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の金属材の耐食性評価方法を行うことを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(C)前記(A)の工程における、塩分付着量条件
(D)前記(B)の工程における、乾燥工程の条件と湿潤工程の条件の組み合わせからなる条件
[5]前記[4]における前記(D)条件が、下記(E)条件および/または下記(F)条件であることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(E)露点条件
(F)下記式で示される湿潤率条件
湿潤率=(湿潤工程保持時間/(乾燥工程保持時間+湿潤工程保持時間))
[6]前記[4]または[5]に記載の金属材の耐食性評価方法により2水準以上で耐食性を評価し、該評価結果に基づき、前記水準間範囲を外れる領域での耐食性を外挿して評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
[7]前記[6]に記載の金属材の耐食性評価方法により予測した実構造物の腐食の情報、および/または、前記情報を示す記号が添付されていることを特徴とする金属材。
[8]前記[6]に記載の金属材の耐食性評価方法により予測した実構造物の腐食の情報を含む電子情報が納入先に送付されていることを特徴とする金属材。
[9]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の金属材の耐食性評価方法を行うための金属材の腐食促進試験装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、塩分付着を高精度に制御した腐食促進試験を実施し、金属材の耐食性に及ぼす支配的環境因子の影響を評価するようにしたので、材料の適用可能範囲を明らかにすることができる。また、短期間の試験で、適切且つ高精度に金属材の耐食性評価を行うことができる。そして、本発明は、家電製品等の部材の設計に特に有効な発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の一つであり、金属材の耐食性評価を行うための腐食促進試験の工程を示す図である。
【図2】本発明の金属材表面への塩分付着方法の一実施態様を示す図である。
【図3】本発明の腐食促進試験の乾燥工程と湿潤工程の条件を示す図である。
【図4】腐食促進試験の或る試験期間における塩分付着量と腐食量の関係を示した図である。
【図5】腐食促進試験を行ったときの各塩分付着量における腐食量の経時変化を示した模式図である。
【図6】試験期間t1、t2、t3、t4における塩分付着量と腐食量の関係を示した模式図である。
【図7】予測した塩分付着量dも含め、各塩分付着量における腐食量の経時変化を示した模式図である。
【図8】塩分付着量と腐食寿命の関係を示した模式図である。
【図9】鋼材の表面処理の過程の一例を示すフローチャート図である。
【図10】乾燥工程と湿潤工程の標準型の条件を示す図である。
【図11】温度が支配的環境因子である場合の乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の条件を示す図である。
【図12】湿度が支配的環境因子である場合の乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の条件を示す図である。
【図13】乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、温度の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。
【図14】乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、相対湿度の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。
【図15】乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、露点湿度の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。
【図16】乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、湿潤率の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。
【図17】塗装鋼材、化成処理鋼材及びめっき処理鋼材の経年変化を示す図である。
【図18】本発明の腐食促進試験装置の一実施態様を示す図である。
【図19】塩分付着量を3水準に設定した腐食促進試験の試験条件を示す図である。(実施例2)
【図20】塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と試験時間との関係を示す図である。(実施例2)
【図21】試験期間28日の塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と塩分付着量の関係を示す図である。(実施例2)
【図22】塩分付着量と化成処理鋼板A、B、Cの白さび発生日数との関係を示す図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳述する。
【0025】
(実施形態1)
本発明に係る金属材の耐食性評価方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態の一つであり、金属材の耐食性評価を行うための腐食促進試験の工程を示す図である。図1に示される腐食促進試験は、実際の環境を模擬するために、種々の環境因子を組み合わせた、下記(A)工程と下記(B)工程からなっており、この(A)工程と(B)工程からなる工程を1回以上行う。
(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程。
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程。
【0026】
前記(A)工程においては、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径が1〜300μmとなるように、塩化物イオンを含む塩水を噴霧して金属材の表面に塩分を付着させる。付着した塩水の平均粒径が300μmを超えると試験結果のバラツキが大きくなり、一方、塩水の平均粒径が1μm未満では塩分の付着に時間がかかり、さらに塩分付着量の制御が困難になり、試験結果にバラツキを生じることになる。
【0027】
従来より、塩水噴霧試験装置は使用されており、JIS Z 2371に塩水噴霧装置の一例として、噴霧塔方式とノズル方式の2種類が記載されている。本発明の腐食促進試験にこの塩水噴霧装置を適用した場合、付着させる塩水の粒径のバラツキが大きいという問題があった。また、試験装置内の各所に試験片を配置して塩水の供給を行っているため、試験片の配置位置によって付着する塩水の粒径や噴霧量のバラツキが大きく制御が困難であるといった問題もあった。
【0028】
これに対して、例えば、図2は、本発明の金属材表面への塩分付着方法の一実施態様を示す図であり、本発明において、金属材の表面に塩分を付着させる方法として好ましい形態である。図2においては、まずコンプレッサー1よりエアトランスフィルター2を介して圧縮空気をエアブラシ3に送る。次いで、エアブラシ3では目的の塩分の粒径に合わせ所定のノズル径に調整されており、前記エアブラシ3により、塩水を、予め評価面4がシールされた金属材5へ噴霧する。
【0029】
このように、本発明においては、金属材の表面に塩分を付着させる方法は特に限定はしないが、前述の範囲に金属材に付着した塩水の平均粒径を制御することが重要である。このためには、スプレーノズルの噴霧形状、噴霧量、噴霧圧力、噴霧角度、噴霧距離を適宜選択することにより付着させる塩水の平均粒径を調整する必要があり、付着させる塩水の平均粒径は1〜300μmとすることが好ましい。なお、金属材に付着する前の塩水の平均粒径は、液浸法、レーザー法(フランホーヘル回折法、ドップラー法)などで測定することができる。金属材の表面に塩分を付着させる方法としては、塩水スプレー、塩水浸漬、塩水噴霧、塩水滴下等の方法を用いることができる。塩水スプレーのスプレーノズルの種類としては、一流体スプレーノズル(圧力をもって送られる液体が微細化して噴霧されるノズル)、二流体スプレーノズル(圧搾空気などの高速の流体を利用して液体を微細化するノズル)などがある。二流体スプレーノズルにも液体の供給方式の違いにより、液加圧タイプ(液体を加圧して二流体ノズルに供給)、サクションタイプ(圧搾空気の力で液体を吸い上げて噴霧)がある。流量分布が均等となる点からスプレーノズルを選択することが好ましい。塩水を用いることからノズルの材料はステンレスなどの耐食金属を用いることが好ましい。
【0030】
なお、付着した塩水の平均粒径は、(A)工程後に金属材を湿潤状態で取り出し、光学顕微鏡観察を行って付着している塩水の粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる。付着した塩水の粒径は最大径とそれに直交する径の平均値とする。
【0031】
金属材の表面に塩分を付着させるために使用する塩水としては、海塩または人工海塩、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム−塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム−塩化カルシウム混合物、岩塩等の水溶液を用いることができる。例えば、家電製品の使用される環境では飛来海塩が製品の腐食に影響を及ぼすことから、使用する塩水としては海塩または人工海塩、塩化ナトリウム−塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウムの水溶液を用いることが好ましい。
【0032】
また、(A)工程において、金属材の表面に付着した塩化物イオンを含む塩分付着量は、0.1〜10000mg/mとする。この範囲とすることにより屋外環境における塩害地域、塩分の少ない地域、並びに屋内環境での塩分付着量をカバーできるからである。特に、エアコン室外機などの家電製品が使用される屋外環境における塩分付着量は、沖縄などの塩害地域を想定する場合10〜10000mg/mの範囲であり、内陸部など比較的塩分の少ない地位を想定する場合1〜100mg/mの範囲であり、テレビ、VTRなどの家電製品が使用される屋内環境を想定する場合の塩分付着量は0.1〜10mg/mの範囲とすることが好ましい。
【0033】
塩分付着量の制御は、塩水濃度、噴霧圧力、噴霧時間などを調整して行えばよい。塩分付着量の測定は、金属材に付着させた塩水の重量を測定し塩分重量に換算する方法、蒸留水または脱イオン水を含浸した脱脂綿などで金属材表面を払拭し、付着したClイオンをイオンクロマトグラフィーなどにより分析し、Cl濃度から使用した塩の質量に換算する方法などがある。
【0034】
さらに、(A)工程において、金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる時間(以下、所要時間と称す)は10分以内とする。10分を越えて試験片を塩水に接触させると塩水溶液による試験片の腐食が進行することがあり、実際の腐食環境における腐食との相関が低くなるためである。
【0035】
次いで、(B)工程について説明する。
(B)工程では、実際の環境における昼夜の温度差による夜間の結露現象を模擬しているおり、試験装置の温度・湿度の制御のばらつきや変化を考慮して、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内とする。例えば、図3において、条件1、条件2で示されるような露点一定条件とすることが望ましい。なお、図3中に示される曲線は露点が一定となる温度(℃)と相対湿度(%)を示しており、また、露点とは空気中の水蒸気の圧力が飽和蒸気圧に等しくなる温度である。図3中の条件1、条件2の乾燥工程と湿潤工程の具体的な条件を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、乾燥工程、湿潤工程は、互いに異なる温度、相対湿度に設定される。乾燥工程から湿潤工程へ移行(又は逆方向に移行)すると、温度と相対湿度が変化する。乾燥工程から湿潤工程までの移行時間、湿潤工程から乾燥工程までの移行時間をあらかじめ設定してもよい。これは、移行時間を設定しない場合、試験装置によって乾燥工程から湿潤工程までの移行時間や、湿潤工程から乾燥工程までの移行時間に差が生じ、試験結果のばらつきが生じることがあるためである。
【0038】
また、(A)工程で付着した塩分が(B)工程で金属材の表面からすぐに流出してしまうことを防止する観点から、(B)工程は、先ず乾燥工程を行うことが好ましい。また、(A)工程で付着させた塩分を予め乾燥させた後、(B)工程を行ってもよい。
【0039】
乾燥工程と湿潤工程の条件について、家電製品が使用される環境の場合、乾燥工程の保持時間≧湿潤工程の保持時間とすることが好ましい。これは、家電製品の使用される屋外の環境や屋内の乾燥した環境を想定した場合、湿潤時間が長くなると家電用鋼板等の腐食形態や耐食性の序列が実際の腐食環境と合わなくなるためである。例えば、実際に家電製品の使用される環境では、塗装された冷延鋼板に糸状さびが発生し、塗装された亜鉛めっき鋼板ではブリスターが発生しない。しかし、乾燥工程の保持時間<湿潤工程の保持時間とすると、塗装された冷延鋼板に糸状さびが発生せず、塗装された亜鉛めっき鋼板ではブリスターが発生してしまい、実際の家電製品の腐食形態を再現できなくなる。
【0040】
また、(B)工程においては、乾燥工程では、温度:20〜60℃、相対湿度:70%以下、保持時間:2〜12時間で、湿潤工程では温度:20〜60℃、相対湿度:80〜96%、保持時間:2〜12時間で行われることが好ましい。以下、これについて説明する。
【0041】
乾燥工程の乾燥温度は20℃以上60℃以下とすることが好ましい。これは、家電製品の使用される環境を想定した場合、乾燥温度が60℃を超えると家電用鋼板等の腐食形態や耐食性の序列が実際の腐食環境と合わなくなる場合があるからである。家電用鋼板等としては主に亜鉛系めっき鋼板が使用され、これは亜鉛が鉄に対して犠牲溶解し鉄を防食する機能を有している。しかし、温度が60℃を超えると鉄が亜鉛に対して犠牲溶解する傾向があり、60℃を超えることが少ない実際の環境と異なった腐食現象を呈してしまう場合があるためである。一方、乾燥温度が20℃未満では腐食の促進効果が小さく試験に時間がかかる。より好ましくは40℃以上60℃以下である。
【0042】
乾燥工程の相対湿度は70%以下とすることが好ましい。家電製品の使用される環境では飛来海塩が製品の腐食に影響を及ぼし、その海塩は塩化ナトリウムと塩化マグネシウムがその主成分である。塩化ナトリウムの飽和臨界蒸気圧は相対湿度換算で約75〜78%であり80%以下で乾燥するが、塩化マグネシウムの飽和臨界蒸気圧は相対湿度換算で約30〜35%であり海塩に含まれる化学物質では最も低く乾燥しにくい。そのため、家電製品の使用される屋外の環境や屋内の乾燥した環境を想定した場合、実環境における家電用鋼板等の腐食形態を再現するためには乾燥工程の相対湿度を70%以下に設定することが好ましい。より好ましくは40%以下である。
【0043】
湿潤工程の温度と相対湿度は乾燥工程の条件との露点変動が±5℃以内になるように設定すればよいが、温度は20℃以上60℃以下とすることが好ましい。温度が20℃未満では腐食の促進効果が小さく試験に時間がかかる。一方、温度が60℃を超えると鉄が亜鉛に対して犠牲溶解する傾向があり、60℃を超えることが少ない実際の環境と異なった腐食現象を呈してしまう場合があるためである。
【0044】
湿潤工程の相対湿度は80%以上96%以下とすることが好ましい。湿潤工程の相対湿度が80%未満であると湿潤の影響が不十分となり評価に時間がかかるためである。塩化物の中で塩化ナトリウムは飽和臨界蒸気圧が相対湿度換算で約75〜78%である。したがって、いずれの塩化物も相対湿度を80%以上にしておくと表面は化学凝縮作用により湿潤状態を保つことができる。一方、相対湿度が96%を超えると結露によって生成した水膜厚さが厚くなりすぎて付着塩分が流されやすくなるためである。
【0045】
乾燥工程及び湿潤工程の保持時間はいずれも2時間以上12時間以下であることが好ましい。乾燥工程及び湿潤工程の保持時間が2時間未満では、ひとつの試験装置内の腐食環境が一定にならず試験装置内の場所によって試験結果のばらつきが大きくなったり、複数の試験装置によって腐食環境に差が生じ、試験結果のばらつきが生じることがあるためである。一方、12時間を超えると、実際の腐食環境と合わなくなり、さらに耐食性の評価に長時間を要することになるからである。
【0046】
また、環境因子に関し、日光照射量、イオウ酸化物の影響を考慮する必要がある場合は、前記腐食促進試験の過程で、紫外線照射工程、雰囲気にイオウ酸化物(SOx)供給工程を付加することもできる。
【0047】
(実施形態2)
金属材の耐食性に及ぼす環境因子の影響は金属材の種類によって様々であることから、環境因子を変化させて腐食促進試験を行い、各金属材の耐食性の特性を調べることが望ましい。図4は環境因子として塩分付着量を例にとり、腐食促進試験の或る試験期間における塩分付着量と腐食量の関係を示した図である。また、ここで腐食量とは、塗装膜の膨れ幅(又は、単に、膨れ幅)や亜鉛めっきや下地鋼材の腐食量などを示す。図4より、金属材No1、No2、No3の塩分付着量と腐食量との関係の直線の傾きは異なり、塩分付着量水準a、b、cにおいて金属材No1、No2、No3の腐食量の序列が入れ替わっている。このように、ひとつの水準で腐食促進試験を行うことは耐食性評価の判断を間違う可能性がある。よって、環境因子の水準を変化させて腐食促進試験を行い、金属材の耐食性の特性を調べることが好ましい。例えば、(C)条件:(A)工程における、塩分付着量条件、(D)条件:(B)工程における、乾燥工程の条件と湿潤工程の条件の組み合わせからなる条件、または、(C)条件および(D)条件の2水準以上に対して、金属材の耐食性評価を行うことが好ましい。
【0048】
その他の条件として、(A)工程では、塩分種類、付着させる回数、時間、温度の2水準以上に対して耐食性評価を行ってもよい。
【0049】
(D)条件:(B)工程における、乾燥工程の条件と湿潤工程の条件の組み合わせからなる条件としては、(E)露点条件、並びに乾燥工程の温度、湿度、保持時間、及び湿潤工程の温度、湿度、保持時間の組み合わせ、そして(F)湿潤率条件が挙げられる。ここで、湿潤率は下式で表される。
湿潤率=(湿潤工程保持時間/(乾燥工程保持時間+湿潤工程保持時間))
中でも、(E)露点条件と(F)湿潤率条件は、実際の環境で支配的環境因子となることが多いことからその影響を調べる点で好ましく、(E)条件および/または(F)条件の2水準以上に対して、耐食性評価を行うことが好ましい。
【0050】
本発明の金属材の耐食性評価方法においては、上記した条件から適宜選択した条件の2水準以上に対して行えばよい。条件の選択の仕方はそれが支配的環境因子となるかどうかに従い決めることができる。なお、支配的環境因子とは、その条件レベルが材料の耐食性(腐食量や腐食寿命)に影響を及ぼすような条件のことである。
【0051】
例えば、支配的環境因子が塩分付着量である場合、(A)工程の塩分付着量は少なくとも2水準以上で評価する。支配的環境因子が温度である場合、(B)工程の乾燥工程の温度と湿潤工程の温度を少なくとも2水準以上で評価する。支配的環境因子が湿潤率である場合、(F)湿潤率条件を少なくとも2水準以上の条件で行う。支配的環境因子が塩分付着量と温度である場合、(A)工程の塩分付着量:(C)条件は少なくとも2水準以上とし、(B)工程の乾燥工程の温度と湿潤工程の温度も少なくとも2水準以上とし、両方の条件を変えた組み合わせ条件で行えばよい。この場合、前記で得られる組み合わせ条件毎に行ってもよく、試験負荷を低減する観点から前記で組み合わされた条件のうちから選ばれた複数の条件で行ってもよい。
【0052】
支配的環境因子が塩分付着量と湿潤率である場合、(A)工程の塩分付着量:(C)条件を少なくとも2水準以上とし、(B)工程の湿潤率:(F)条件を少なくとも2水準以上とし、両方の条件を変えた組み合わせ条件で行えばよい。
【0053】
以上からなる金属材の耐食性評価方法により、本発明では、さらに、評価時の水準間範囲を外れる領域での耐食性を評価することが可能となる。具体的には、まず、本発明の金属材の評価方法により2水準以上の条件で耐食性を評価する。次いで、評価時の水準間範囲を外れる水準(領域)での耐食性を、この評価結果を基づき外挿して予測し評価する。実際の腐食環境は、従来の腐食促進試験法に比べてマイルドな場合がある。例えば、実際の腐食環境における塩分付着量は腐食促進試験における塩分付着量に比べて少ない場合が多い。そこで、塩分付着量の少ない腐食促進試験を行うことが好ましいが、腐食速度が小さく評価に時間がかかるという問題がある。そこで、塩分付着量の多い条件を含む少なくとも2水準以上の塩分付着量を設定し腐食促進試験を行い、塩分付着量の小さい環境の腐食量を外挿して予測することができる。
【0054】
図5は、或る材料について3水準の塩分付着量a、b、cを設定して腐食促進試験を行ったときの腐食量の経時変化を示した模式図である。図6は、図5を基に、試験期間t1、t2、t3、t4における塩分付着量と腐食量の関係を示した模式図である。図5及び図6より、塩分付着量a、b、cにおける各試験期間の腐食量を外挿して塩分付着量dの腐食量を予測することができる。図7は、上記結果に基づいて予測した塩分付着量dにおける腐食量の経時変化を示した模式図である。
【0055】
また、腐食寿命についても上記腐食量と同様に各試験期間の腐食寿命を外挿することにより予測することができる。図8は、図5及び図6の結果に基づいて、塩分付着量を例に取り、塩分付着量と腐食寿命の関係を示した模式図である。なお、腐食寿命とは外観の変化(さび発生時間等)や図5の腐食量の経時変化において腐食量のしきい値に達する時間(例えば塗装膜の膨れ幅が5mmに達する時間等)を表す。
【0056】
このように、2水準以上で行った耐食性評価結果に基づき、評価時の水準間範囲を外れる水準(領域)での耐食性を外挿し予測することにより、腐食量や腐食寿命等の金属材の腐食情報が得ることが可能となる。そして、評価した金属材を実機等の各部位(以下、実構造物と称す)に用いる場合に、この実構造物の腐食情報が得られることになり、腐食を予測した情報および/または前記情報を示す記号を金属材に添付することが可能となる。
【0057】
(実施形態3)
本発明の金属材の耐食性評価方法を用いることにより、実構造物の腐食の進行を予測した金属材の受注、製造及び販売を行うことが可能である。
【0058】
図9は鋼材の表面処理過程の一例を示すフローチャート図である。図9によれば、以下の(S61)から(S67)までの各工程での処理を行うことになる。
(S61)鋼材の脱脂工程:塗装前の鋼材の表面に付着した油分や汚れを除去する。
(S62)鋼材の研磨工程:ブラシで、鋼材表面の酸化皮膜を除去し、表面を活性化させる。後工程の化成処理性が改善する。
(S63)化成処理工程:りん酸塩処理、クロメート処理、クロメートフリー処理等を行う。塗装膜密着性を改善する前処理的役割と鋼材の耐食性を改善する機能的役割がある。本発明の金属材の耐食性評価方法により鋼材の寿命が予測できた場合であって、更に高寿命を期待する場合には、この化成処理に反映させることができる。
(S64)塗装工程:塗料をコーティングする工程。ロールコーティング、スプレーコーティングが一般的である。
(S65)焼付け工程:塗料の乾燥、硬化、塗装膜の形成。要求される耐食性に応じて塗装、焼付を2、3回繰り返す場合がある。
(S66)検査工程:塗装膜のピンホール、光沢むら、色調などを検査する。
(S67)保護フィルムの貼り付け工程:実施しない場合もあるが、客先からの要望で、保護フィルムを張り付けて出荷する場合がある。
【0059】
以上のようにして製造された表面処理鋼材に対して、本発明の金属材の耐食性評価方法により予測した実構造物の腐食の情報及び/又はその情報を示す記号を添付する。なお、この添付とは機械的に添付するだけでなく、表面処理鋼材とその情報とが何らかの関連付けがなされている場合も含む。例えば上記の耐食性を評価した際の情報(鋼材の膨れ幅に関するデータ等)又はそれを示す記号を表面処理鋼材に付記することが好ましい。また、その情報又はそれに関連するデータを電子情報として納入先に送付したりすることも好ましい。この電子情報はFD等の記録媒体でも良いし、ネットワークを介して納入先に送付(送信)しても良い。
【0060】
(実施形態4)
実施形態2においては塩分付着量が支配的環境因子である場合の例について説明した。しかし、本発明の支配的環境因子はそれに限定されるものではない。日本国内のような四面海に囲まれている環境では塩分付着量が支配的環境因子として腐食との相関が強いが、内陸の極限られた地域や屋内環境では、温度が支配的環境因子であったり、湿度が支配的環境因子であったりする。また、都会の極限られた地域ではイオウ酸化物が支配的環境因子であったりもする。そのような環境でも、本発明の金属材の耐食性評価方法は有効であり、金属材の耐食性評価を簡便に短期間で行うことができる。
【0061】
具体的には、温度が支配的環境因子である場合には乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の温度の設定を変えればよく、湿度が支配的環境因子である場合には乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の湿度を変えたり、湿潤率を変化させたりすればよい。以下、この点について図10〜図11を参照して説明する。
【0062】
乾燥工程と湿潤工程の条件が標準条件であるとした場合の乾燥工程と湿潤工程の条件を、標準型として図10に示す。図10において、温度は横軸に、相対湿度は縦軸に示し、乾燥工程と湿潤工程の()内の数値は各工程の時間、乾燥工程と湿潤工程を結ぶ線の両側の矢印に付された()内の数値は前記各々の工程に移行するときの移行時間を示しており、前者はいずれも3時間、後者はいずれも1時間であることを示している。
温度が支配的環境因子である場合、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の条件は、標準型に加えて図11に示されるような低温型の条件が設定される。すなわち、図10によれば、この条件は、前記標準型に対して温度だけが低温に設定されており、両者の比較により温度の影響を調べることができる。なお、標準型、低温型、とも、各々の型における乾燥工程と湿潤工程の露点温度変動は±5℃以内に設定される。
【0063】
湿潤率が支配的環境因子である場合、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の条件は、図12に示されるような高湿潤型の条件に設定される。すなわち、図10に示した標準型では、湿潤工程時間が3時間、乾燥工程時間が3時間で湿潤率(湿潤工程保持時間/(乾燥工程保持時間+湿潤工程保持時間))は50%であるが、図12によれば、高湿潤型では、湿潤工程時間が5.5時間、乾燥工程時間が0.5時間に設定され、湿潤率は70%で、湿潤工程時間の比率が高められている。そして、これら両者の比較により湿潤率の影響を調べることができる。なお、標準型、高湿潤型とも、各々の型における乾燥工程と湿潤工程の露点温度変動は±5℃以内に設定される。
【0064】
また、上記の実施形態において支配的環境因子が1つの場合を説明したが、本発明は、支配的環境因子が2以上の場合にも適用できる。例えば、沿岸部で湿度が高い地方では、塩分付着量と温度の2つが支配的環境因子となる場合もある。
【0065】
また、本実施形態においては、耐食性データとして塗装膜の膨れ幅を利用して表面処理鋼材の耐食性評価を行っている例について説明した。しかし、本発明においては、これに限定されず、耐食性データとして表面処理鋼材の外観変化や白錆発生面積等を利用してこれらに基づいて耐食性の評価を行うこともできる。
【0066】
乾燥工程と湿潤工程の組み合わせが2種類以上の場合の具体的条件を以下に例示する。
【0067】
図13は、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、温度の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。図13においては、上段にそれぞれの条件の温度、下段にそれぞれの条件の相対湿度が示されている。なお、以下に説明する図14〜図16についても同様である。また、図13における乾燥工程、湿潤工程の各工程の具体的な条件を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
図14は、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、相対湿度の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。図14における乾燥工程、湿潤工程の各工程の具体的な条件を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
図15は、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、露点の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。図15における乾燥工程、湿潤工程の各工程の具体的な条件を表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
図16は、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程の試験条件を3水準に設定し、湿潤率の影響を調べるための試験条件の一例を示す図である。図16における乾燥工程、湿潤工程の各工程の具体的な条件を表5に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
(実施形態5)
上述の実施形態3においては表面処理鋼材として塗装鋼材の耐食性評価について説明した。しかし、本願発明の金属材は、塗装鋼材に限定されず、化成処理鋼材及びめっき処理鋼材も含まれる。また、本発明は腐食環境下で使用される耐候性鋼材などの鋼材、非鉄金属材料などの金属材について適用可能である。
【0076】
図17は各処理鋼材の経年変化を示した図である。図17において、(A)は塗装鋼材、(B)は化成処理鋼材、(C)はめっき処理鋼材に対応する。塗装鋼材6は、図17中(A)に示されるように、鋼9の上にめっき層10、化成処理層11及び塗装膜12が順次形成されたものである。図17中(A)によると、塗装膜12はめっき層10などより耐食性が高いので、塗装膜12が経年変化する前に、めっき層10が経年変化し、その切断端部は酸化して白錆13となり、その部位は膨張して塗装膜12の切断端部が膨れ上がっている。その膨れ上がった塗装膜12の端部からの幅Wを膨れ幅といい、腐食の程度を示すパラメータとなる。また、化成処理鋼材7は、図17中(B)に示されるように、鋼9の上にめっき層10及び化成処理層11が順次形成されたものである。図17中(B)によると、化成処理層11は耐食性が低いので腐食してめっき層10が露出すると、めっき層10が酸化して白錆13となっている。また、めっき処理鋼材8は、図17中(C)に示されるように、鋼9の上にめっき層10が形成されたものである。図17中(C)によると、めっき層10が酸化して白錆13となり、また、めっき層10が剥がれると鋼9が酸化して赤錆14が発生している。
【0077】
このように、塗装鋼材6、化成処理鋼材7及びめっき処理鋼材8は、それぞれ経年変化し、その外観寿命は、塗装鋼材の寿命>化成処理鋼材の寿命>めっき処理鋼材の寿命という関係にある。よって、本発明は、寿命が長い鋼材の寿命予測に適用した場合に有用であるから、特に、化成処理鋼材及び塗装鋼材に適用した場合にその有用性が顕著なものとなるといえる。
【0078】
(実施形態6)
図18は、本発明の金属材の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の構成の一例を示す図である。本発明の腐食促進試験装置は、塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置とで構成される。図18中(A)では、塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置が一体装置となっており、定期的に塩分付着を行い、その後乾燥工程と湿潤工程の繰り返しを行う。図18中(B)では、塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置が横並びに配置されており、定期的に被試験体(金属材)は塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置との間を自動的に移動する。図18中(C)では、塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置は別々の装置になっており、定期的に被試験体(金属材)は塩分付着装置と乾燥湿潤試験装置との間を手動で移動する。
以上のように、本発明の腐食促進試験装置としては、特にその構成は限定しないが、評価を行うにあたって、必須な工程である(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程、及び(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程が実施可能な構成とすることが必須である。
【実施例1】
【0079】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜12,比較例1〜8)
クロメート処理鋼板(100mm×100mm)に対して、表6〜表8に示す条件で、1条件につき各3枚のクロメート処理鋼板に塩分付着工程、乾燥工程、湿潤工程を順次行う耐食性評価試験とした。なお、塩水付着工程は、乾燥工程の開始時に行った。また、乾燥工程と湿潤工程の間の移行時間を設ける場合は表の備考欄に示した。試験期間は7日とした。塩水付着後と前記試験後に試験片表面の塩水付着状況と腐食状況を観察した。ここで、塩水スプレーは液加圧タイプの二流体スプレーノズルを使用し、噴霧された塩化物イオンを含む霧状の塩水の粒径はドップラー法により計測して平均粒径を求めた。また、1回目の塩分付着工程の噴霧直後の試験片を取り出し、付着した塩水の粒径を光学顕微鏡により1枚の試験片につき10点の塩水付着部を観察し、試験片3枚計30点の平均を求めた。また、塩分付着量は、1回目の塩分付着後の金属材試験片1枚の試験面を、脱イオン水を含浸した脱脂綿で払拭し、この脱脂綿を脱イオン水へ浸漬し、溶出したCl濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、試験面積から換算して求めた。
【0080】
【表6】

【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
得られた結果を表10に示す。
【0085】
【表10】

【0086】
表10に示すように、実施例1〜12の本発明例では、3枚の試験片の塩水付着が均一であった。一方、比較例1〜8では塩水付着が不均一で3枚の試験片間のバラツキが大きかった。また、実施例1〜12の本発明例では、腐食試験後の3枚の試験片の外観つまり腐食状況が均一であったが、比較例1〜8では不均一で3枚の試験片間のバラツキが大きかった。以上の結果から、本発明の評価方法を用いることにより、塩分付着量の影響を適切且つ高精度に評価できることが分かる。
【実施例2】
【0087】
(実施例13)
図19は、塩分付着量を3水準に設定した腐食促進試験の試験条件を示す図である。塩分付着方法として、液加圧タイプの二流体スプレーノズルを使用した塩水スプレーを84時間に1回行い、使用する塩水は人工海水を希釈して準備した。人工海水の塩水濃度(質量%)は3.5%、0.35%、0.035%の3水準であり、塩分付着量はそれぞれ、0.6、0.06、0.006g/mとなるようにした。また、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す工程は露点一定として、乾燥と湿潤の間には1時間の移行時間を設定した。
【0088】
図20は、図19に示した条件の腐食促進試験(塩水濃度3.5%:塩分付着量0.6g/m)により得られた塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と試験時間との関係を示す図である。このようなデータが試験条件毎に作成された。
図21は、試験期間28日の塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅と塩分付着量の関係を示した図である。塩分付着量が多くなるほど腐食量が大きくなっており、塩分付着量の対数と塗装膜の膨れ幅の対数は良好な直線関係があることが分かる。また、塩分付着量に対応した膨れ幅を求めることができ、例えば塩分付着量が0.1g/mにおける塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅はそれぞれ、0.9、1.7、0.5mmである。ここで、腐食速度が小さく評価に時間がかかる塩分付着量の少ない範囲も直線を外挿することができ、例えば塩分付着量が0.001g/mにおける塗装鋼材A、B、Cの膨れ幅はそれぞれ、0.02、0.05、0.1mmである。
このように、家電製品の使用される環境を模擬した腐食試験条件により家電用鋼板等の適切な耐食性評価を行うことができる。そして、対象となる家電製品の使用される環境の塩分付着量に対応した耐食性評価を把握することもできる。
【0089】
(実施例15)
実施例14と同じ試験条件で、3水準の塩分量を4水準に変更して腐食促進試験を行い、化成処理鋼材A、B、Cの耐食性評価を行った。ここで、人工海水の塩水濃度(質量%)は3.5%、0.35%、0.035%、0.0035%の4水準であり、塩分付着量はそれぞれ、0.6、0.06、0.006、0.0006g/mとなるようにした。
図22は、塩分付着量と化成処理鋼材A、B、Cの白さび発生日数との関係を示した図である。試験期間は60日まで実施しており、化成処理鋼材Cについては塩分付着量0.0006g/mの条件では60日間で白錆が発生していない。塩分付着量が大きいほど白さび発生日数が短くなっており、塩分付着量の対数と白さび発生日数の対数は良好な直線関係があることが分かる。ここで、化成処理鋼材Cについては塩分付着量0.0006g/mの条件では60日間で白錆が発生していないので、塩分付着量の多い条件の結果(3点)に基づいて白さび発生時間を外挿して求めることもできる。
このように、家電製品の使用される環境を模擬した腐食試験条件により家電用鋼板等の適切な耐食性評価を行うことができるだけでなく、塩分付着量が少ないため腐食速度が小さく評価に時間がかかる場合でも塩分付着量の多い条件の試験結果から外挿して評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属材の評価方法を適用するにあたって、その適用範囲は限定することなく、幅広く用いることができる。また本発明の金属材は家電製品の使用される環境を模擬した腐食試験条件による腐食の情報が添付されているため、例えば、OA機器(複写機、パソコン等)、AV機器(テレビ、ビデオ等)、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品等で有用な材料といえる。
【符号の説明】
【0091】
1 コンプレッサー
2 エアトランスフィルター
3 エアブラシ
4 評価面
5 金属材
6 塗装鋼材
7 化成処理鋼材
8 めっき処理鋼材
9 鋼
10 めっき層
11 化成処理層
12 塗装膜
13 白錆
14 赤錆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)工程と下記(B)工程からなる工程を1回以上行うことにより金属材の耐食性を評価する方法であって、
下記(A)工程において、金属材に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径は1〜300μm、塩分付着量は0.1〜10000mg/mであり、かつ、下記(A)工程の所要時間は10分以内であり、
さらに下記(B)工程において、乾燥工程と湿潤工程の露点変動は±5℃以内
とすることを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に、塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程
(B)金属材に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
【請求項2】
前記(B)工程において、乾燥工程及び湿潤工程は下記条件範囲内で行われることを特徴とする請求項1に記載の金属材の耐食性評価方法。
乾燥工程 温度:20〜60℃、相対湿度:70%以下、保持時間:2〜12時間
湿潤工程 温度:20〜60℃、相対湿度:80〜96%、保持時間:2〜12時間
【請求項3】
前記(B)工程において、乾燥工程の保持時間≧湿潤工程の保持時間とすることを特徴とする請求項1または2に記載の金属材の耐食性評価方法。
【請求項4】
下記(C)条件および/または下記(D)条件の2水準以上に対して、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属材の耐食性評価方法を行うことを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(C)前記(A)の工程における、塩分付着量条件
(D)前記(B)の工程における、乾燥工程の条件と湿潤工程の条件の組み合わせからなる条件
【請求項5】
請求項4における前記(D)条件が、下記(E)条件および/または下記(F)条件であることを特徴とする請求項4に記載の金属材の耐食性評価方法。
(E)露点条件
(F)下記式で示される湿潤率条件
湿潤率=(湿潤工程保持時間/(乾燥工程保持時間+湿潤工程保持時間))
【請求項6】
請求項4または5に記載の金属材の耐食性評価方法により2水準以上で耐食性を評価し、該評価結果に基づき、前記水準間範囲を外れる領域での耐食性を外挿して評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属材の耐食性評価方法により予測した実構造物の腐食の情報、および/または、前記情報を示す記号が添付されていることを特徴とする金属材。
【請求項8】
請求項6に記載の金属材の耐食性評価方法により予測した実構造物の腐食の情報を含む電子情報が納入先に送付されていることを特徴とする金属材。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに一項に記載の金属材の耐食性評価方法を行うための金属材の腐食促進試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−169918(P2011−169918A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127942(P2011−127942)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2005−331180(P2005−331180)の分割
【原出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】