説明

金属材保護液

【課題】鉄材を防錆し、かつアルミニウム材やアルミニウム合金材の変色を防止でき、その表面に粉状物を生じず、錆びたり変色したりしないまま長期間維持させることができるうえ、弱アルカリ性で安全であって、廃液の処理が簡便で自然環境を汚染せず、簡易な組成で安価に大量生産できる金属材保護液を提供する。
【解決手段】金属材保護液は、鉄材、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材から選ばれる金属材の表面の保護液であって、溶媒中で、炭素数が1〜2のアルキリデン基を有するアルキリデンジホスホン酸誘導体の0.01〜10重量%と、ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体の0.01〜20重量%及び/又はメルカプトベンゾチアゾール誘導体の0.01〜20重量%との酸成分が、その少なくとも一部を塩基成分で中和された塩として、配合されており、pHが6.8〜8.8であるというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄材の防錆と、アルミニウム材やアルミニウム合金材の変色防止との何れにも用いることができる金属材保護液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄材やアルミニウム材やアルミニウム合金材といった金属材は、工業機械又は精密機器の部品や建築材等の原材として汎用されている。これら金属材の表面と、水、酸、又は大気中の湿気、酸素、二酸化炭素とが接触すると、金属材表面が腐食又は酸化されて錆びたり変色したりしてしまい、金属材の強度、性能、美的外観等を損ねてしまう。
【0003】
そこで、これら金属材表面を腐食や酸化から防ぐため、鉄材の表面に防錆剤が施され、アルミニウム材やアルミニウム合金材の表面に変色防止剤が施される。
【0004】
鉄材防錆剤は、鉄材表面がアルカリ性条件下で不動態の四三酸化鉄の皮膜を形成し、水、湿気、酸素、二酸化炭素等と直接接触しなくなるという性質を利用するもので、その皮膜を形成させる無機酸塩を含んだ強アルカリ性の薬液である。
【0005】
このような強アルカリ性の鉄材防錆剤は、両性金属のアルミニウムと反応して水酸化アルミニウムを形成し変色を誘発するので、アルミニウム材やアルミニウム合金材の変色防止剤に用いることはできない。
【0006】
特許文献1に、pH9以上のアルカリ性であってもアルミニウム材やアルミニウム合金材の変色防止性に優れたアルミニウム・アルミニウム合金用変色防止剤として、ヒドロキシ脂肪酸、又はヒドロキシ脂肪酸の脱水縮合物のリン酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩を含有するものが開示されている。この変色防止剤は、強アルカリ性の液体であるから、作業者に飛散したり付着したりして、皮膚や粘膜の炎症を起こす恐れがあり、危険である。また、この変色防止剤の廃液は、環境保全の為に、高価な大型設備による面倒な中和処理を必要とする。しかも、リン酸エステルの塩を含むため、アルミニウム材やアルミニウム合金材の表面に、不溶性のリン酸アルミニウムのような粉状物を生じ、変色防止処理後の金属光沢のような折角の美観を損ねてしまう。さらに、この変色防止剤は、鉄材に対して充分な防錆効果がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−313975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、充分に鉄材を防錆できかつアルミニウム材やアルミニウム合金材の変色を防止でき、その表面に粉状物を生じず、錆びたり変色したりしないまま長期間維持させることができるうえ、弱アルカリ性で安全であって、廃液の処理が簡便で自然環境を汚染せず、簡易な組成で安価に大量生産できる金属材保護液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された金属材保護液は、鉄材、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材から選ばれる金属材の表面の保護液であって、溶媒中で、炭素数が1〜2のアルキリデン基を有するアルキリデンジホスホン酸誘導体の0.01〜10重量%と、ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体の0.01〜20重量%及び/又はメルカプトベンゾチアゾール誘導体の0.01〜20重量%との酸成分が、その少なくとも一部を塩基成分で中和された塩として、配合されており、pHが、6.8〜8.8であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の金属材保護液は、請求項1に記載されたものであって、前記アルキリデンジホスホン酸誘導体が1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、又はヒドロキシメチレンジホスホン酸であり、前記ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体が3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸であり、前記メルカプトベンゾチアゾール誘導体が2−メルカプトベンゾチアゾールであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の金属材保護液は、請求項1に記載されたものであって、前記溶媒が、水、及び/又は水溶性有機溶媒であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の金属材保護液は、請求項1に記載されたものであって、前記塩が無機アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属材保護液は、鉄材の表面を防錆でき、しかもアルミニウム材やアルミニウム合金材の表面の変色を防止できるものである。そのため、この金属材保護液だけで、鉄材の防錆剤としても、アルミニウム材やアルミニウム合金材の表面の変色防止剤としても、用いることができ、金属材の保護処理過程の簡素化に資する。
【0014】
この金属材保護液は、リン酸エステルの塩を含まないため、アルミニウム材やアルミニウム合金材の表面に、不溶性のリン酸アルミニウムのような粉状の不純異物を生じない。
【0015】
この金属材保護液で保護処理した鉄材、アルミニウム材、アルミニウム合金材は、錆びたり変色したりしないまま金属光沢を放ちながら長期間維持させることができるので、風雨や高温多湿条件に曝されても、綺麗なままである。
【0016】
この金属材保護液は、pHが中性に近い6.8〜8.8という弱アルカリ性乃至弱酸性の液体なので、安全に取り扱うことができる。また、この使い終わった金属材保護液は、中和のような面倒な廃液処理をする必要がなく、自然環境を汚染しない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の金属材保護液は液状であって、炭素数が1〜2のアルキリデン基を持つアルキリデンジホスホン酸誘導体の0.01〜10重量%と、ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体の0.01〜20重量%及び/又はメルカプトベンゾチアゾール誘導体の0.01〜20重量%との酸成分が、過剰量の塩基成分で完全に中和されたそれらの塩として、溶媒中に、配合されて、溶解又は分散しており、pHを6.8〜8.8とするものである。
【0019】
金属材保護液は、アルキリデンジホスホン酸誘導体とベンゾチアゾールカルボン酸誘導体とメルカプトベンゾチアゾール誘導体との酸成分が、完全に塩となって含有されている例を示したが、当量の塩基成分でそれら酸成分が丁度中和された塩、又は当量未満の塩基成分でそれら酸成分の一部のみ中和された塩と遊離の酸成分との混合物となって含有されて、前記pH範囲とするものであってもよい。
【0020】
金属材保護液中、それら誘導体の濃度が、前記範囲より低くても、高くても、充分な鉄材の防錆性とアルミニウム材・アルミニウム合金材の変色防止性との金属材保護効果が得られない。アルキリデンジホスホン酸誘導体は、0.05〜1重量%含有されていると好ましく、0.08〜0.3重量%含有されているとなお一層好ましい。ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体は、0.05〜2重量%含有されていると好ましく、0.08〜1重量%含有されているとなお一層好ましい。メルカプトベンゾチアゾール誘導体は、0.05〜2重量%含有されていると好ましく、0.08〜1重量%含有されていると一層好ましい。
【0021】
金属材保護液のpHが、6.8より低い場合は鉄材の防錆効果が低下し、一方8.8より高い場合はアルミニウム材やアルミニウム合金材の変色防止効果が低下する。
【0022】
アルキリデンジホスホン酸誘導体は、そのアルキリデン基が水酸基を有していてもよく、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ヒドロキシメチレンジホスホン酸が挙げられる。
【0023】
ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体は、例えば、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸が挙げられる。
【0024】
メルカプトベンゾチアゾール誘導体は、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾールが挙げられる。
【0025】
塩基成分は、アルカリ性の固体若しくは液体、又はそれの水溶液若しくは炭素数1〜6の低級アルコールのような水溶性有機溶媒溶液であって、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、それらの水溶液;ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシドのようなアルコキシド、それらの水溶液若しくはアルコール溶液;アンモニア水;アンモニアガスが吹き込まれたメタノール若しくはエタノールのようなアンモニア性アルコール;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンのような炭素数1〜5のモノアルキルアミン、それらの水溶液若しくはアルコール溶液;ジシクロヘキシルアミンのような炭素数1〜6のジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなアルコールアミン、とりわけトリエタノールアミン、それらの水溶液若しくはアルコール溶液;炭素数1〜6の水酸化テトラアルキルアンモニウム、その水溶液が挙げられる。
【0026】
このような塩基成分と、アルキリデンジホスホン酸誘導体やメルカプトベンゾチアゾール誘導体やベンゾチアゾールカルボン酸誘導体の酸成分とが中和して形成された塩は、例えば、リチウム塩やカリウム塩やナトリウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;NHを対イオンとする無機アンモニウム塩;メチルアンモニウム塩やエチルアンモニウム塩やプロピルアンモニウム塩のような炭素数1〜5のモノアルキルアンモニウム塩;ジシクロヘキシルアンモニウム塩のような炭素数1〜6のジアルキルアンモニウム塩;モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、モノイソプロパノールアンモニウム塩、ジイソプロパノールアンモニウム塩、トリイソプロパノールアンモニウム塩のようなアルカノールアンモニウム塩;R(Rは炭素数1〜5のアルキル基)を対イオンとする有機アンモニウム塩が挙げられる。とりわけ、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアンモニウム塩であることが好ましい。
【0027】
この金属材保護液は、特に、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の0.01〜10重量%と、2−メルカプトベンゾチアゾールの0.01〜20重量%と、塩基成分とを混合して中和させた塩が溶解しており、pHが6.8〜8.8の水溶液であることが好ましい。
【0028】
この金属材保護液は、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の0.01〜10重量%と、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸の0.01〜10重量%と、塩基成分とを混合して中和させた塩が溶解しており、pHが6.8〜8.8の水溶液であることが好ましい。
【0029】
この金属材保護液に用いられる溶媒が、水の例を示したが、メタノールやエタノールで例示されるアルコールのような水溶性有機溶媒であってもよく、それらの混合物であってもよい。アルキリデンジホスホン酸誘導体、メルカプトベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体、及びそれらの塩は、この溶媒に溶解していてもよく、微粒子となって分散していてもよい。
【0030】
この金属材保護液は、必要に応じて添加物が配合されていてもよい。添加物は、例えば、界面活性剤、キレート剤が挙げられる。界面活性剤は、例えば、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩のようなアニオン性界面活性剤;第1級アミンの塩、第2級アミンの塩、第3級アミンの塩、第4級アンモニウム塩のようなカチオン性界面活性剤;アルキルジメチルアミンオキサイドのようなアミンオキサイド;アルキルジメチルアミノ脂肪酸ベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタインのような両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリプレングリコールのプロピレンオキサイド付加物のような非イオン性界面活性剤が挙げられる。キレート剤は、例えば、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)のうちの少なくとも1種類以上であってもよく、その塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、又は有機アミンやアルカノールアミンの塩のような有機アンモニウム塩であってもよい。
【0031】
この金属材保護液は、以下のようにして製造される。アルキリデンジホスホン酸誘導体とベンゾチアゾールカルボン酸誘導体及び/又はメルカプトベンゾチアゾール誘導体との酸成分、及び塩基成分を、水に加え撹拌する。するとそれら酸成分の各誘導体が塩基成分によって中和され、水中でその塩が形成され、金属材保護液が得られる。
【0032】
この金属材保護液は、以下のようにして使用される。鉄材、アルミニウム材、又はアルミニウム合金材を、この金属材保護液に浸漬させ、暫くしてから引き上げ、乾燥させる。すると、鉄材の表面に、金属材保護液の成分の皮膜や四三酸化鉄の皮膜が形成され、その結果、鉄材の表面は、防錆される。また、アルミニウム材、アルミニウム合金材の表面に、金属材保護液の成分の皮膜が形成され、アルミニウム材、アルミニウム合金材の表面の変色が防止される。
【0033】
この金属材保護液の別な使用方法は、鉄材、アルミニウム材、又はアルミニウム合金材である金属鋳物やセラミックス等の金属材料を、特殊なアクリル樹脂含有の含浸剤に浸漬させ、その表面に存在する微細孔である鋳巣やひびに含浸剤を浸透させた後、その表面の過剰な含浸剤を水洗してから、この金属材保護液に浸漬し、引き上げて、その金属材料の表面を保護し、その後、加熱して、含浸剤を硬化させて鋳巣やひびを埋めて封孔するというものである。
【0034】
この金属材保護液の使用方法は、鉄材、アルミニウム材、又はアルミニウム合金材である金属材料を、切削油の存在下で旋盤、フライス盤、ボール盤のような切削加工により、成形した後、切削油や付着物を水洗してから、この金属材料の切削成形体を金属材保護液に浸漬し、引き上げて、その金属材料の表面を保護するというものであってもよい。
【0035】
この金属材保護液を、浸漬する例を示したが、塗布、又は噴霧してもよい。
【0036】
この金属材保護液は、金属材を製造直後に使用してもよく、金属材の切削、研削、研磨、プレス、圧接、溶接といった金属加工の前後のどちらで使用してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を適用する金属材保護液を調製した例を実施例1〜3に示し、本発明を適用外の金属材保護液を調製した例を比較例1〜9に示す。
【0038】
(実施例1)
水道水98.23gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.75gと、トリエタノールアミン0.92gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0039】
(実施例2)
水道水98.23gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、2−メルカプトベンゾチアゾール0.75gと、トリエタノールアミン0.92gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0040】
(実施例3)
水道水98.22gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.38gと、2−メルカプトベンゾチアゾール0.38gと、トリエタノールアミン0.92gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0041】
(比較例1)
水道水49.25gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸20gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.75gと、トリエタノールアミン30.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0042】
(比較例2)
水道水98.43gに、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.75gと、トリエタノールアミン0.82とを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0043】
(比較例3)
水道水44.9gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸30.0gと、トリエタノールアミン25.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0044】
(比較例4)
水道水99.7に、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、トリエタノールアミン0.2gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが7.5の金属材保護液を得た。
【0045】
(比較例5)
水道水98.65gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.75gと、トリエタノールアミン0.5gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが6.5の金属材保護液を得た。
【0046】
(比較例6)
水道水89.15gに、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸0.1gと、3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸0.75gと、トリエタノールアミン10.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが10.0の金属材保護液を得た。
【0047】
(比較例7)
水道水80.0gに、リシノール酸のリン酸エステル8.0gと、トリエタノールアミン12.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが8.4の金属材保護液を得た。
【0048】
(比較例8)
水道水78.0gに、ヒドロキシステアリン酸のリン酸エステル10.0gと、トリエタノールアミン12.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが8.4の金属材保護液を得た。
【0049】
(比較例9)
水道水76.0gに、3−ヒドロキシオクタン酸のリン酸エステル12.0gと、トリエタノールアミン12.0gとを常温で加え配合した後、5時間攪拌して均一に溶解させて、pHが8.4の金属材保護液を得た。
【0050】
表1は実施例1〜3、比較例1〜7の金属材保護液の調製で用いた各成分の配合量を示したものである。
【0051】
【表1】

【0052】
表2は比較例7〜9の従来の金属材保護液で用いた各成分の配合量を示したものである。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜3、比較例1〜9で得られた金属保護液を用いて、以下の鉄材防錆性能試験及びアルミニウム材・アルミニウム合金材変色防止性能試験(性能試験1)、鉄材防錆性能試験(性能試験2)、アルミニウム材・アルミニウム合金材変色防止性能試験(性能試験3)、及び析出物発生性能試験(性能試験4)の各性能試験を行った。
【0055】
(性能試験1)
50×35×3mmの鉄材(JIS規格FC250の鋳鉄板、以下同じ)、アルミニウム材(JIS規格A1080のアルミニウム板、以下同じ)、アルミニウム合金材(JIS規格ADC−12のアルミニウム合金板、以下同じ)の各試験片を、夫々実施例1〜3、比較例1〜9の金属材保護液に5分間浸漬させてから引き上げ、12時間乾燥させた。乾燥させた試験片を、温度50℃、湿度95%の条件に10日間曝し、鉄材の試験片の錆の発生と、アルミニウム材、アルミニウム合金材の試験片の変色とを、目視で確認した。鉄材の試験片の錆の発生、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材の試験片の変色がない場合を「無」、鉄材の試験片に錆が発生した場合、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材の試験片に変色が生じた場合を「有り」とする2段階で、金属材保護液の防錆性能、及び変色防止性能を評価した。
【0056】
(性能試験2)
50×35×3mmの鉄材の試験片を150番の紙やすりで研磨後、トルエン洗浄、アセトン洗浄した。その鉄材の試験片に、夫々実施例1〜3、比較例1〜9の金属材保護液を塗布し、30分後の外観を目視にて確認した。鉄材の試験片に錆の発生がない場合を「無」、鉄材の試験片に錆が発生した場合を「有り」とする2段階で、金属材保護液の防錆性能を評価した。
【0057】
(性能試験3)
50×35×3mmのアルミニウム材、及びアルミニウム合金材の試験片を、夫々90℃に加熱した実施例1〜3、比較例1〜9の金属材保護液に10分間浸漬してから引き上げ、アルミニウム材、アルミニウム合金材の試験片の変色を、目視にて確認した。アルミニウム材、及びアルミニウム合金材の試験片の変色がない場合を「無」、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材の試験片に変色が生じた場合を「有り」とする2段階で、金属材保護液の変色防止性能を評価した。
【0058】
(性能試験4)
50×35×3mmのアルミニウム合金材の試験片を、夫々90℃に加熱した実施例1〜3、比較例1〜9の金属材保護液に60分間浸漬させた後の金属材保護液の析出物の有無を目視にて確認した。析出物が生じない場合を「無」、析出物が生じた場合を「有り」とする2段階で、金属材保護液の性能を評価した。
【0059】
それらの結果をまとめて表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から明らかなとおり、実施例1〜3の金属材保護液は、鉄材の試験片を防錆でき、さらに、アルミニウム材、アルミニウム合金材の試験片の変色を防止できるものであった。また、実施例1〜3の金属材保護液中の析出物は、アルミニウム合金材の試験片を浸漬させても生じなかった。
【0062】
一方、比較例1〜9の金属材保護液は、鉄材の試験片の防錆性能、及びアルミニウム材・アルミニウム合金材の試験片の変色防止性能が実施例1〜3に比べ不充分であり、錆びたり変色したりしていた。比較例1〜6から明らかな通り、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の配合量が10重量%よりも高い場合、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を用いていない場合、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の配合量が0.1重量%であっても3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸の配合量が20重量%よりも高かったり0重量%であったりした場合、鉄材への防錆効果やアルミニウム材・アルミニウム合金材の変色防止効果が極めて劣っていた。また、金属材保護液のpHが6.8よりも低い場合、鉄材への防錆効果が低下し、8.8よりも高い場合、アルミニウム材・アルミニウム合金材への変色防止効果が低下する。さらに、比較例7〜9から明らかな通り、鉄材への防錆効果が極めて低く、またアルミニウム材・アルミニウム合金材への変色防止効果も極めて低いうえ、アルミニウム合金と反応し不溶性の析出物が発生してしまうものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の金属材保護液は、鉄材やアルミニウム材やアルミニウム合金材で形成される工業機械又は精密機器の部品やその原材、鉄骨、レール、窓枠等の建築材である金属材が、酸化されて錆びたり変色したりするのを防止するのに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄材、アルミニウム材、及びアルミニウム合金材から選ばれる金属材の表面の保護液であって、溶媒中で、炭素数が1〜2のアルキリデン基を有するアルキリデンジホスホン酸誘導体の0.01〜10重量%と、ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体の0.01〜20重量%及び/又はメルカプトベンゾチアゾール誘導体の0.01〜20重量%との酸成分が、その少なくとも一部を塩基成分で中和された塩として、配合されており、pHが、6.8〜8.8であることを特徴とする金属材保護液。
【請求項2】
前記アルキリデンジホスホン酸誘導体が1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、又はヒドロキシメチレンジホスホン酸であり、前記ベンゾチアゾールカルボン酸誘導体が3−(2−ベンゾチアジルチオ)プロピオン酸であり、前記メルカプトベンゾチアゾール誘導体が2−メルカプトベンゾチアゾールであることを特徴とする請求項1に記載の金属材保護液。
【請求項3】
前記溶媒が、水、及び/又は水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の金属材保護液。
【請求項4】
前記塩が無機アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の金属材保護液。