説明

金属材料から析出物を抽出する方法、および該抽出方法を用いた金属材料の劣化度合い識別方法

【課題】金属材料から析出物を抽出するに当たり、塊状の金属材料を用いなくても金属材料から析出物を精度良く抽出できる方法を提供する。また、機器の運転を長時間停止しなくても金属材料の劣化度合いを識別する方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するには、金属材料から析出物を抽出するに当たり、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解し、前記析出物を残渣として抽出すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料から析出物を抽出する方法、および該抽出方法を用いた金属材料の劣化度合い識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料中には、多かれ少なかれ炭化物や酸化物、窒化物、金属間化合物などの析出物が存在する。こうした析出物の形態ならびに析出状態によっては、結晶粒の微細化、靭性、耐遅れ破壊性などに影響を与えるため、金属材料から析出物を抽出して分析することが行われている。
【0003】
金属材料から析出物を抽出する方法としては、酸分解法や電解法などが知られている。このうち酸分解法は、希HClや希HNO3、希H2SO4などを用いて金属マトリックスを溶解させて分解し、析出物を抽出する方法である。しかし析出物の析出形態によっては酸に溶解して分解するものがあり、析出物の抽出精度が悪かった。
【0004】
これに対し電解法は、金属材料から切り出した塊状の試料を陽極として用い、銅(Cu)や白金(Pt)等を陰極として用いて電気分解し、析出物を電解残渣として抽出する方法である。この電解法によれば、金属材料から精度良く析出物を抽出できる。しかし電気分解を行うには、金属材料から陽極として使用できる程度の大きさ(例えば、5mm×10mm×10mm)の塊状サンプルを切り出さなければならない。
【0005】
また、鋼中介在物の分析方法としては、特許文献1に、鋼試料を熱処理し、鋼中炭素量を減少させた後、鉄マトリックスを分解して介在物を抽出することが提案されており、鉄マトリックスの分解法として電解法が挙げられている。しかしこの文献には、電気分解の具体的な態様について述べられていない。
【0006】
また、鋼中から非金属介在物を抽出分離して分析する方法としては、非特許文献1に、一次分離法で鋼から抽出された介在物を二次分離法で分別した後、元素分析を行い、介在物の量を種類別に把握する技術が提案されている。そしてこの文献には、一次分離で薬品溶液にマトリックスを選択的に溶解し、目的とする介在物を残渣として鋼から抽出分離し、二次分離で介在物を種類別に分別することが記載されている。具体的には、一次分離では、棒状の鋼試料を陽極とし、白金板を陰極として定電位電解している。しかしこの文献でも、一次分離における電解では、棒状の鋼試料を陽極として用いているため、ある程度の大きさの塊状サンプルが必要となる。
【0007】
ところで、発電プラントの多くは長時間にわたって運転されており、その機器の長寿命化のためには余寿命の評価が重要である。機器の余寿命を評価することで、有効寿命まで十分に活用することができるため、機器を無用に更新する必要がなくなるからである。
【0008】
こうした機器の余寿命を評価する技術として、例えば非特許文献2が提案されている。この非特許文献2には、高温(例えば300℃以上)、高圧下での長時間運転により機器は経年的な劣化を受け、運転時間が増加するのに連れて機器材中に析出する炭化物量が増えることが記載されており、この析出炭化物の面積率を測定すれば機器の余寿命を評価できることが記載されている。そしてこの非特許文献2では、機器から採取した機器材から析出炭化物を抽出レプリカ法により抽出し、これを電子顕微鏡観察(例えば、TEM観察)、電子線回折、およびEPMAにより同定、定量分析している。しかし抽出レプリカ法で析出物を抽出するには機器材からある程度の大きさのサンプルを採取しなければならず、サンプルを採取した後の機器を溶接等により補修しなければならない。ところが補修後には、補修部の強度評価や溶接部の欠陥検査等が必要となり、検査等のために機器の運転を長時間停止しなければならない。
【特許文献1】特開平8−292187号公報(特許請求野範囲、段落0011参照)
【非特許文献1】「川崎製鉄技法」1980年、Vol.12、No.4、P.653−664(「1.緒言」の項参照)
【非特許文献2】「火力原子力発電」2000年6月、P.40−44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、金属材料から精度良く析出物を抽出するには、電解法を採用することが好ましい。しかし電解法を採用するには、測定対象とする金属材料から電極として使用できる程度の大きさの試験片を切り出さなければならない。ところが上記非特許文献2に紹介されているように、実際使用している機器から析出物抽出のために大きなサンプルを採取すると、サンプルを採取した後の部位の補修が必要となるため、上述した余寿命評価方法は採用し難かった。
【0010】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属材料から析出物を抽出するに当たり、塊状の金属材料を用いなくても金属材料から析出物を精度良く抽出できる方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、機器の運転を長時間停止しなくても金属材料の劣化度合いを識別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできた本発明に係る析出物の抽出方法とは、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解し、前記析出物を残渣として抽出する点に要旨を有する。
【0012】
前記研削粉は、例えば磁力または接着剤で前記陽極に付着させた状態で電気分解液に浸漬すれば、陽極の一部として用いることができる。このような陽極としては、例えば棒状体、皿状体、または電解槽を使用できる。
【0013】
また、電気分解液に浸漬する陽極の形状を皿状体とし、この皿状体陽極の上に前記研削粉を堆積させたり、或いは電解槽自体を陽極とし、この電解槽に前記研削粉を浸漬してもよい。
【0014】
前記金属材料の種類は特に限定されないが、例えば、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti、Zr、Nb、Ni、Cu、Al、B、Ca、Se、N、P、およびSよりなる群から選ばれる少なくとも一種を合金成分として含有する鋼材である。
【0015】
上記抽出方法は、例えば温度300℃以上の条件で継続使用する金属材料に含まれる析出物を抽出する際に適用し、析出物を計量することにより金属材料の劣化度合いを識別できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属材料を例えばグラインダーなどで削った研削粉を用い、この研削粉を陽極として用い、析出物を電解法で抽出しているため、金属材料から大きなサンプルを切り出さなくても金属材料中の析出物を精度良く抽出できる。従って本発明の抽出方法を利用すれば、析出物抽出用に大きなサンプルを金属材料から採取しなくてもよいため、析出物の抽出対象が、例えば上述した発電プラントのような実機を構成している金属材料であっても機器の運転を長時間停止することなく、金属材料の劣化度合いを識別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る析出物の抽出方法は、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解し、前記析出物を残渣として抽出するところに特色がある。金属材料から削り取った研削粉を用いることで、金属材料から大きなサンプルを切り出す必要がなくなるからである。
【0018】
金属材料から削り取った研削粉は、陽極の一部として用いる。陽極の一部として用いることで析出物以外のマトリックス金属は、電解液に溶解または陰極に電着すると共に、このとき析出物は残渣として電解槽の底等に沈殿するため、析出物を選択的に抽出、回収できる。
【0019】
本発明で研削粉から抽出対象とする析出物は、電解したときに残渣として回収できる化合物であり、例えば金属材料に含まれる合金成分を含有する炭化物や酸化物、窒化物、或いはこれらの複合化合物、または金属間化合物などである。
【0020】
上記金属材料の種類は上述した析出物を含むものであれば特に限定されず、例えば鋼材(例えば、炭素鋼、高張力鋼、ステンレス鋼、ケイ素鋼など)や銅合金、またはアルミニウム合金などが挙げられる。前記鋼材としては、例えばC、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti、Zr、Nb、Ni、Cu、Al、B、Ca、Se、N、P、およびSよりなる群から選ばれる少なくとも一種を合金成分として含有するものが挙げられる。特に、C、Si、Mn、Cr、およびMoを含む鋼材や、C、Si、Mn、Cr,Mo,およびVを含む鋼材であればよい。
【0021】
こうした金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いるには、陽極に該研削粉を、例えば、磁力や接着剤で付着させればよい。陽極の形状は特に限定されないが、例えば、棒状体や皿状体などが挙げられ、電解槽自体を陽極として用いてもよい。以下、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いるときの状態について、図面を用いて具体的に説明するが、下記に示す構成は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に基づいて設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0022】
下記図1〜3は、陽極に研削粉を磁力で付着させた状態で研削粉を電気分解液に浸漬した状態を示す模式図であり、下記図4〜6は、陽極に研削粉を接着剤で付着させた状態で研削粉を電気分解液に浸漬した状態を示す模式図である。
【0023】
図1は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための模式図であり、図1中、1は棒状体の陽極、2は陰極、3は電解槽、4は電気分解液、5は直流電源、6は金属材料から削り取った研削粉、を夫々示している。
【0024】
この図1では、棒状体の陽極1は、棒状体の電極7と該電極7の上端に接着している磁石8とで構成されている。この棒状体の電極7と陰極2とは、いずれも電気分解液4に浸漬されており、かつ棒状体の陽極1と陰極2とは、これらから延びる導線によって直流電源5に電気的に接続されている。そして前記研削粉6は、磁石8の磁力によって棒状体の電極7に付着させた状態で電気分解液4に浸漬されており、これを電気分解することで析出物を残渣として抽出できる。このとき研削粉6は磁力で棒状体の電極7に付着しているため、棒状体の電極7の端部が溶解して減少しても研削粉6は落下し難い。
【0025】
上記図1に示す様に、磁石8は電気分解液4に浸漬させないことが望ましい。磁石には、一般に種々の析出物が含まれている可能性があるため、磁石8を電気分解液4に浸漬した状態で電気分解すると、磁石8自体も電気分解され、磁石8に含まれる析出物が残渣として抽出される可能性があるからである。但し、磁石8を電気分解液4に浸漬させない限り、磁石8を接着する位置は棒状体の電極7の上端に限定されず、例えば、棒状体の電極7の周りに接着させてもよい。
【0026】
上記磁石8が、例えば電気分解液や電気分解(以下、電気分解等ということがある)によって溶出しない素材で構成されているか、電気分解等によって若干溶出する素材であっても析出物を含有しない素材(例えば、純鉄など)で構成されているか、或いは電気分解等によって溶出しないように表面を保護層(例えば、テトラフルオロエチレンなど)でコーティングされている場合には、上記磁石8を電気分解液4に浸漬させた状態で、棒状体の電極7に接着させてもよいし、棒状体の磁石を陽極1として用いてもよい(図示しない)。
【0027】
また、上記図1に示した構成では、磁石8から導線が延びている状態を示したが、導線との接続位置はこれに限定されず、導線が棒状体の電極7から延びるように構成してもよい(図示せず)。
【0028】
上記棒状体の電極7の素材は、析出物を含まないものであればよく、例えば金属材料のマトリックスを構成している純金属を用いるのがよい。或いは白金製の電極を用いればよい。
【0029】
電解槽3の素材は電気分解等によって溶出しないものであれば特に限定されない。こうした素材としては、例えばガラスであってもよいし、白金であってもよい。また電解槽3の表面を電気分解されないように保護層(例えば、テトラフルオロエチレンなど)でコーティングしたものであってもよい。
【0030】
図2は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図であり、上記図1と同じ部分には同一の符合を付すことで、重複説明を避ける(以下の図について同じ)。図2中、9は金属片を示している。
【0031】
この図2では、電解槽3を陽極として用いており、該電解槽3に収容された電気分解液4に陰極2は浸漬されている。この電解槽3と陰極2とは、これらから延びる導線によって直流電源5に電気的に接続されている。また、電解槽3の外壁には、金属片9と該金属片9の端部に接着された磁石8が配置されており、電解槽3は磁石8(または磁石8によって励磁された金属片9)によって励磁されているか、或いは磁力を透過している。そして前記研削粉6は、磁石8(または磁石8によって励磁された金属片9)の磁力によって電解槽3(陽極)の内壁に付着させた状態で電気分解液4に浸漬されており、これを電気分解することで析出物を残渣として抽出できる。
【0032】
上記図2においては、金属片9の端部に磁石8を接着したものを電解槽3の外壁に配置した構成例を示したが、磁石8のみを電解槽3の外壁に配置してもよい(図示しない)。また、上記図2では、電解槽3の外壁に磁石8を配置する例を示したが、磁石8の配置位置は外壁に限定されず、例えば図3に示すように電解槽3の外側底面に磁石8を配置してもよい。磁石8を配置することで電気分解による研削粉の浮遊等を抑制することができる。また、磁石8の代わりに、例えば電磁コイルを外壁の周囲や外側底面に配置して前記研削粉6を磁力で電解槽3(陽極)に付着させてもよい(図示しない)。
【0033】
上記電解槽3の素材は、導電性を有すると共に、磁石によって励磁されるか或いは磁力を透過し、かつ電気分解等によって溶出しないものであればよい。こうした素材としては、例えば白金が挙げられる。一方、上記金属片9の素材は特に限定されず、磁石8によって励磁されるものであればよい。
【0034】
図4は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。図4では、陽極として棒状体の電極7を用いている。この電極7と陰極2とは、電気分解液4に浸漬されており、これらから延びる導線によって直流電源5に電気的に接続されている。この電極7の端部には、接着剤(図示しない)で研削粉6が接着されている。そして前記研削粉6は、棒状体の電極7(陽極)に接着剤で接着させた状態で電気分解液4に浸漬されており、これを電気分解することで析出物を残渣として抽出できる。
【0035】
上記研削粉6を接着する位置は電極7の端部に限定されず、例えば電極7の周囲であってもよい。
【0036】
上記棒状体の電極7の素材は、析出物を含まないものであればよく、例えば金属材料のマトリックスを構成している純金属を用いるのがよい。或いは白金製の電極を用いればよい。
【0037】
上記電解槽3の素材は電気分解等によって溶出しないものであれば特に限定されない。こうした素材としては、例えばガラスであってもよいし、或いは白金であってもよい。また電解槽3の表面を電気分解されないように保護層(例えば、テトラフルオロエチレンなど)でコーティングしたものであってもよい。
【0038】
図5は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。図5では、陽極として電解槽3を用いており、該電解槽3に収容された電気分解液4に陰極2は浸漬されている。この電解槽3と陰極2とは、これらから延びる導線によって直流電源5に電気的に接続されている。そして前記研削粉6は、電解槽3(陽極)の内壁に接着剤で接着させた状態で電気分解液4に浸漬されており、これを電気分解することで析出物を残渣として抽出できる。
【0039】
上記研削粉6を接着する位置は電解槽3の内壁に限定されず、例えば電解槽3の底面であってもよい。
【0040】
上記電解槽3の素材は、導電性を有し、かつ電気分解等によって溶出しないものであればよい。こうした素材としては、例えば白金が挙げられる。
【0041】
上記図4や図5に示した構成において、接着剤の種類は特に限定されず、陽極に研削粉を接着させることができればよく、導電性がない接着剤を用いてもよいし、導電性がある接着剤を使用してもよい。
【0042】
導電性がない接着剤を用いる場合には、研削粉を電極や電解槽に接着させるときに研削粉全体を覆うと導電性が低下し、電気分解が進行しないため、研削粉同士が互いに接触して導電性を維持すると共に、研削粉の少なくとも一部が、陽極および電解液と接触するように構成する。
【0043】
図6は、研削粉を導電性がない接着剤を用いて電極に接着させるときの一構成例を説明するために電極の端部を拡大した模式図である。図6中、研削粉6は、導電性がない接着剤10を用いて電極7に接着されており、研削粉6同士は互いに接触しているため、導電性を確保している。また研削粉6の一部は電解液(図示しない)と接触するように構成されているため、電気分解の進行は阻害されない。
【0044】
なお、図6に示した構成では、電極7と金属片11が接触するように導線12を用いて接続されており、電極7に接着剤10で接着された研削粉6は電極7と金属片11に挟まれるように構成されている。これにより研削粉6の導電性が良好になるため、電解効率が上がる。また、電極7と金属片11に挟まれることで、研削粉6の落下を防止できる。
【0045】
上記金属片11としては、析出物を含まない金属材料で構成されていればよく、例えば白金を用いることができる。
【0046】
上記接着剤としては、導電性接着剤を用いることが好ましい。接着剤自体が導電性を有していれば、研削粉を電極や電解槽に接着させるときに研削粉全体を覆っても、導電性は劣化しないため、電気分解の進行を阻害しないからである。なお、導電性接着剤を用いる場合には、析出物を含まないものを選択する。
【0047】
なお、上記図2や図5には、研削粉6を電解槽3(陽極)の内壁に磁力または接着剤で接着させた状態で電気分解液4に浸漬し、これを電気分解して析出物を残渣として抽出する様子を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電解槽3を陽極とし、この電解槽に前記研削粉6を単に浸漬(堆積)させた状態で電気分解して析出物を抽出してもよい。この理由は研削粉6と電解槽3が接触していれば、研削粉6は電気分解されるからである。
【0048】
図7は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図であり、図7中、13は挿入軸、14は皿状体の陽極を夫々示している。
【0049】
この図7では、挿入軸13の下端に、皿状体の陽極14が導線を介して取り付けられており、皿状体の陽極14は挿入軸13と共に、電気分解液4に浸漬されている。この挿入軸13と陰極2とは、これらから延びる導線によって直流電源5に電気的に接続されている。上記皿状体の陽極14の上には、研削粉6が堆積している。そしてこれを電気分解することで析出物を残渣として抽出できる。このとき析出物は皿状体の陽極14の上に残留するため、析出物を回収しやすい。
【0050】
図8は、皿状体の陽極14を用いた別の構成例を示す斜視図であり、電極7の端部のみを拡大して示している。皿状体の陽極14は、電極7に接着剤10を介して導電性を維持しつつ接続されている。皿状体の陽極14の上には研削粉6が堆積しており、該研削粉6は電極7と挟まれるように構成されているため導電性を確保できている。
【0051】
なお、図8において、接着剤10としては、導電性がない接着剤を用いてもよいし、導電性がある接着剤を使用してもよい。また、研削粉6の電解液への浮遊や皿状体の陽極14からの脱落を防止するために、接着剤で固定してもよい。
【0052】
上記挿入軸13や皿状体の陽極14、これらを接続する導線を構成する素材は、導電性を有し、かつ電気分解等によって溶出しないものであればよい。こうした素材としては、例えば白金が挙げられる。なお、電気分解するものであっても、通電できる構造であれば、電気分解されないように表面を保護層(例えば、テトラフルオロエチレンなど)でコーティングされているものであればよい。
【0053】
上記電解槽3の素材は電気分解等によって溶出しないものであれば特に限定されない。こうした素材としては、例えばガラスであってもよいし、白金であってもよい。また電解槽3の表面を電気分解されないように保護層(例えば、テトラフルオロエチレンなど)でコーティングしたものであってもよい。
【0054】
上記研削粉6を皿状体の陽極14の上に固定するには、例えば皿状体の裏面に、電気分解されない素材で構成されているか、電気分解しても析出物を含有しない素材で構成されているか、或いは電気分解されないように表面を保護層でコーティングされている磁石を配置するのがよい。また、研削粉を皿状体の表面に接着剤(好ましくは、導電性接着剤)を用いて接着させてもよい。
【0055】
本発明において、上記陰極の素材は電気分解等によって溶出しないものであれば特に限定されず、例えば白金などを挙げることができる。
【0056】
また、本発明において電気分解液は、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解したときに、研削粉に含まれる析出物以外のマトリックスは電解するが、析出物は電解または溶解しないものを使用すればよく、必ずしも陽極を電解する必要はない。
【0057】
こうした電気分解液は金属材料の種類に応じて使用すればよく、金属材料が各種鋼材の場合には、電気分解液として、例えばアセチルアセトンとテトラメチルアンモニウムクロリドを含むアルコール溶液を用いればよい。前記アルコールの種類は特定されるものではなく、例えばメタノールやエタノール等を用いることができる。
【0058】
金属材料が銅または銅合金の場合には、電解液として、例えばアミノ基を含む化合物およびアンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種とアルコールを含む溶液を用いればよい。こうした溶液としては、代表的なものとして、酢酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウムをアルコール溶媒に溶解した、酢酸アンモニウム−アルコール溶液や硝酸アンモニウム−アルコール溶液を挙げられる。前記アミノ基を含む化合物としては、例えばアミノエタノールやアミノ安息香酸、アミノ蟻酸(別名:カルバミン酸)、アミノ酢酸、アミノケイ皮酸等が挙げられる。また前記アンモニウム塩としては、上記硝酸アンモニウムや酢酸アンモニウムの他に、硫酸アンモニウム等が挙げられ、これらを単独もしくは複数種類混合して用いることができる。また前記アルコールの種類は特定されるものではなく、例えばメタノールやエタノール等を用いることができる。
【0059】
電解条件は特に限定されず、定電流電解してもよいし、定電位電解であってもよい。定電流電解の方が簡便に操業できる点で好ましく採用できる。定電流電解するときの条件も特に限定されず、例えば電流密度は0.1〜100ミリA/cm2程度とすればよい。
【0060】
本発明の方法は、金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解するところに特徴があり、その他の工程については特に限定されものではなく、従来の方法を適用できる。例えば電気分解後に析出物を分離回収する前に、定量精度に悪影響を与えないように、メタノール中で超音波洗浄してもよい。また、未溶解の粉末(研削粉)を除去するために、磁力により選別してもよい。電解後の電解液から析出物を分離回収する工程では、例えば遠心分離法を用いたり、吸引濾過や加圧濾過等の濾過方法にて測定対象とする析出物サイズに応じた孔径(ポアサイズ)のメンブランフィルター等のフィルターを用いて濾過を行い、抽出された析出物を回収すればよい。
【0061】
上述した本発明に係る析出物の抽出方法は、例えば温度300℃以上の条件で継続使用する金属材料に含まれる析出物を抽出する際に好適に採用することができ、抽出された析出物を計量することにより、金属材料の劣化度合いを識別できる。
【0062】
温度300℃以上の条件で継続使用する金属材料とは、例えば発電プラントのように高温、高圧下で長時間に亘って使用される機器を構成している金属材料である。高温、高圧下で使用するに連れて、材料中に析出物が生成し、この析出物によって金属材料が劣化するため、この析出物量を測定すれば、金属材料の劣化度合いを識別できる。そして金属材料に含まれる析出物を抽出する際に、上記本発明に係る析出物の抽出方法を採用すれば、析出物抽出用に大きなサンプルを金属材料から採取しなくてもよいため、析出物の抽出対象が、例えば上述した発電プラントのような実機を構成している金属材料であっても機器の運転を長時間停止することなく、金属材料の劣化度合いを識別できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本発明で用いることのできる電解液の組成は下記実施例に示したものに限定されない。
【0064】
実施例1
約500〜600℃の環境下で20年程度使用された火力発電用機器から切り出したサンプルを用い、該サンプルから析出物を下記実験No.1〜3に示す方法で抽出した。
【0065】
前記サンプルの素材は、Crを2.25質量%とMoを1質量%含有する鋼である。下記実験No.1と3では、サンプルの表面をリューターで研削して得られた研削粉を用い、下記実験No.2では、サンプルから切り取ったブロック材を用いて、サンプルから析出物を抽出した。
【0066】
[実験No.1]
上記図1に示した模式図の様に研削粉6を電気分解液4に浸漬させて析出物を抽出した。棒状体の電極7として直径8mm、長さ50mmの純鉄棒を用い、この端部に直径5mm、長さ10mmの磁石8を取り付けると共に、該磁石を取り付けていない方の端部に上記研削粉6を磁力で0.2g付着させた。なお、電解槽3はガラス製の電解槽を用いた。
【0067】
[実験No.2]
上記サンプルから切り取ったブロック材(幅10mm×長さ20mm×厚み5mm)を陽極として用いた。なお、ブロック材の一面(幅10mm×長さ20mmの面)以外は、マスキングしている。また、電解槽3はガラス製の電解槽を用いた。
【0068】
上記実験No.1と2では、陰極として幅30mm、長さ50mmの白金製の電極を用いた。電解液としては、アセチルアセトンを10質量%とテトラメチルアンモニウムクロリドを1質量%含むメタノール溶液を用い、電流密度を20ミリA/cm2として3時間電気分解した。
【0069】
次に、実験No.1と2においては、電気分解後、電解槽内の液をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過した。濾過後、フィルターの表面には残渣が認められた。このフィルターごとメタノールに浸漬し、超音波洗浄し、磁気により磁選して未電解の粉末(未電解の研削粉)を回収した。
【0070】
磁選後のメタノール中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、捕集したもの(析出物)をビーカーに移して酸分解した。酸分解には、硝酸と硫酸とリン酸を混合した混酸を用いた。酸分解後、メスフラスコに移して純水でメスアップしたものを分析液とした。
【0071】
[実験No.3]
上記研削粉0.5gをガラス製のビーカーに入れ、これにリン酸(2+1)を75mL入れ、20℃で24時間放置した。
【0072】
次に、上記実験No.3については、放置後、リン酸(2+1)中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、捕集したもの(析出物)をビーカーに移して酸分解した。酸分解には、硝酸と硫酸とリン酸を混合した混酸を用いた。酸分解後、メスフラスコに移して純水でメスアップしたものを分析液とした。
【0073】
上記実験No.1〜3で得られた分析液をICP発光分光分析法で分析し、分析液に含まれるCrとMo量を定量し、定量結果と試料の電解質量から、析出したCr量とMo量(化合物型Cr量と化合物型Mo量)を求めた。研削粉の場合の電解質量は、研削粉の秤取り量から、磁選して回収した未溶解分を差し引いた値とした。表1に、残渣に対する化合物型Cr量と化合物型Mo量を算出した結果を示した。
【0074】
【表1】

【0075】
実験No.2は、従来例であり、測定対象とする機器から切り取ったブロック材を分析用サンプルとして用い、電解法で析出物を抽出している。そのため精度良く析出物を抽出できている。しかし機器からブロック材を切り取った部分の補修が必要である。
【0076】
これに対し、実験No.1は、本発明例であり、化合物型Cr量と化合物型Mo量の算出結果は、実験No.2とほぼ等しく、精度良く析出物を抽出できた。しかも分析用サンプルとして研削粉を用いているため、測定対象とする機器を補修する必要は殆どない。
【0077】
一方、実験No.3は、比較例であり、分析用サンプルとして研削粉を用いているものの、リン酸(2+1)中で抽出しているため、CrやMoの炭化物がリン酸(2+1)へ溶解する。従って実験No.3の結果は、実験No.2よりも低い値となり、精度良く析出物を抽出できない。
【0078】
実施例2
上記実施例1で用いた火力発電用機器の別の部位から切り出したサンプルを用い、該サンプルから析出物を下記実験No.11〜18に示す方法で抽出した。
【0079】
前記サンプルの素材は、Crを2.25質量%とMoを1質量%含有する鋼である。下記実験No.11〜18では、サンプルの表面をグラインダーで研削して得られた研削粉を用いて、サンプルから析出物を抽出した。
【0080】
[実験No.11]
上記図1に示した模式図の様に研削粉6を電気分解液4に浸漬させて析出物を抽出した。棒状体の電極7として直径8mm、長さ50mmの純鉄棒を用い、この端部に直径5mm、長さ10mmの磁石8を取り付けると共に、該磁石を取り付けていない方の端部に上記研削粉6を磁力で0.1g付着させた。なお、電解槽3はガラス製の電解槽を用いた。
【0081】
陰極は、幅30mm、長さ50mmの白金製の電極を用いた。電解液としては、アセチルアセトンを10質量%とテトラメチルアンモニウムクロリドを1質量%含むメタノール溶液を用い、電流を100ミリAとして3時間電気分解した。
【0082】
[実験No.12]
上記図3に示した模式図の様に研削粉6を電気分解液4に浸漬させて析出物を抽出した。電解槽3としては白金製の電解槽を用い、この電解槽3を陽極とした。この電解槽3に上記研削粉0.1gを入れ、この電解槽3の外側には直径5mm、長さ10mmの磁石8を端部に接着した金属片9(純鉄棒;直径8mm、長さ50mm)を接着し、電解槽3の内壁に研削粉6を磁力で付着させた。
【0083】
陰極は、幅30mm、長さ50mmの白金製の電極を用いた。電解液としては、アセチルアセトンを10質量%とテトラメチルアンモニウムクロリドを1質量%含むメタノール溶液を用い、電流を60ミリAとして3時間電気分解した。
【0084】
[実験No.13]
上記実験No.12において、電気分解時の電流を30ミリAとする以外は、同じ条件とした。
【0085】
次に、実験No.11〜13においては、電気分解後、電解槽内の液をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過した。濾過後、フィルターの表面には残渣が認められた。このフィルターごとメタノールに浸漬し、超音波洗浄し、磁気により磁選して未電解の粉末(未電解の研削粉)を回収した。
【0086】
磁選後のメタノール中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、析出物を回収した。
【0087】
実験No.11〜13について、電気分解後の電解槽内の液に含まれるCr量とMo量をICP法で定量し、固溶Cr量と固溶Mo量を測定した。固溶Mo量を1としたときの固溶Cr量を下記表2に示す。
【0088】
[実験No.14]
上記研削粉0.5gをガラス製のビーカーに入れ、これにリン酸(2+1)を75mL入れ、20℃で24時間放置した。
【0089】
[実験No.15]
上記研削粉0.5gをガラス製のビーカーに入れ、これにリン酸(2+1)を75mL入れ、60℃で2時間放置した。
【0090】
[実験No.16]
上記研削粉0.1gをガラス製のビーカーに入れ、これにリン酸(2+1)を75mL入れ、60℃で0.6時間放置した。
【0091】
[実験No.17]
上記研削粉0.5gをガラス製のビーカーに入れ、これにリン酸(2+1)を75mL入れ、80℃で0.5時間放置した。
【0092】
次に、上記実験No.14〜17については、放置後、リン酸(2+1)中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、析出物を回収した。
【0093】
[実験No.18]
上記研削粉0.1gをガラス製のビーカーに入れ、これに臭素−メタノール混合液を100mL入れ、20℃で1.5時間放置した。放置後、混合液中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、析出物を回収した。
【0094】
上記実験No.14〜18について、研削粉分解後のリン酸(2+1)液または臭素−メタノール液中の残渣をポアサイズ0.1μmのフィルターを用いて吸引濾過し、捕集したもの(析出物)をビーカーに移して酸分解した。酸分解には、硝酸と硫酸とリン酸を混合した混酸を用いた。酸分解後、メスフラスコに移して純水でメスアップしたものを分析液とした。
【0095】
得られた分析液をICP発光分光分析法で分析し、分析液に含まれるCrとMo量を定量し、定量結果と試料の電解質量から、析出したCr量とMo量(化合物型Cr量と化合物型Mo量)を求めた。算出した化合物型Cr量と化合物型Mo量を、上記サンプルに含まれるCr量またはMo量から引いた値を固溶Cr量または固溶Mo量とした(下記式参照)。固溶Mo量を1としたときの固溶Cr量を下記表2に示す。
固溶Cr量(質量%)=2.25−化合物型Cr量
固溶Mo量(質量%)=1−化合物型Mo量
【0096】
【表2】

【0097】
表2から明らかなように、電解法で析出物を抽出した場合の定量精度は良好であるが、酸分解法や臭素―メタノール法で析出物を抽出した場合の定量精度は悪い。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。
【図4】図4は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。
【図5】図5は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。
【図6】図6は、研削粉を導電性がない接着剤を用いて電極に接着させるときの一構成例を説明するために電極の端部を拡大した模式図である。
【図7】図7は、本発明に係る析出物の抽出方法を説明するための他の模式図である。
【図8】図8は、皿状体の陽極を用いた別の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0099】
1 棒状体の陽極
2 陰極
3 電解槽
4 電気分解液
5 直流電源
6 金属材料から削り取った研削粉
7 棒状体の電極
8 磁石
9 金属片
10 接着剤
11 金属片
12 導線
13 挿入軸
14 皿状体の陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料から析出物を抽出する方法であって、
金属材料から削り取った研削粉を陽極の一部として用いて電気分解し、前記析出物を残渣として抽出することを特徴とする析出物の抽出方法。
【請求項2】
前記研削粉を、磁力または接着剤で前記陽極に付着させた状態で電気分解液に浸漬する請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
前記陽極として、棒状体、皿状体、または電解槽を使用する請求項1または2に記載の抽出方法。
【請求項4】
電気分解液に浸漬する陽極の形状を皿状体とし、この皿状体陽極の上に前記研削粉を堆積させる請求項1に記載の抽出方法。
【請求項5】
電解槽を陽極とし、この電解槽に前記研削粉を浸漬する請求項1に記載の抽出方法。
【請求項6】
前記金属材料が、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Ti、Zr、Nb、Ni、Cu、Al、B、Ca、Se、N、P、およびSよりなる群から選ばれる少なくとも一種を合金成分として含有する鋼材である請求項1〜5のいずれかに記載の抽出方法。
【請求項7】
温度300℃以上の条件で継続使用する金属材料に含まれる析出物を請求項1〜6のいずれかの方法に従って抽出し、計量することを特徴とする金属材料の劣化度合い識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−127454(P2007−127454A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318642(P2005−318642)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】