説明

金属材料の接着方法

【課題】 金属材料表面をシランカップリング剤で表面処理する際に、シランカップリング剤薄膜の接着性を極めて簡便な方法で改善でき、従来から知られているリン酸亜鉛あるいはクロム酸などによる処理と同等の接着力が得られる金属材料の接着方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 接着剤を用いて2つの金属材料を接着する方法であって、2つの金属材料の少なくとも接着すべき表面に対し、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、酸水溶液で洗浄した後、再び濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、加熱乾燥した後、エポキシ系接着剤で接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ系接着剤による金属材料の接着方法に関し、更に詳しくは金属材料表面をシランカップリング剤で前処理してエポキシ系接着剤に対する親和性を改善することにより、エポキシ系接着剤で金属材料同士を強固に接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属材料は、その優れた耐食性や表面外観を活かして、建築構造材や車両構造材、各種機械部品などの多くの分野で利用されている。上記したように建築構造材などとして使用するとき、これらの金属材料は相互に或いは他の金属材料と接合されることがあるが、その場合には2つの金属材料を溶接によって接合することが大部分であった。
【0003】
しかし、溶接により接合する溶接工法では、溶接された金属材料の表面に溶接痕が残るため表面外観が損なわれるうえ、条件によっては十分な接合強度が得られないこともある。また、溶接痕や溶接歪みを除去するために、多大な時間及び労力をかけて板金加工を施す場合が多い。しかも、板金加工は騒音の発生等が避けられないため、作業環境が極めて悪いなどの問題があった。
【0004】
このような溶接工法に代わる接合方法として、最近では接着剤により金属材料を接合する接着法が注目されている。接着法では、金属材料の表面外観が損なわれず、溶接工法にみられる板金工程が不要となり、しかも接合部の応力分散も大きく、高い信頼性が得られるなどの利点がある。しかしながら、接着接合界面の耐水性が低いため、金属材料の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと、接着力が短期間で大きく低下するという欠点があった。
【0005】
このような接着法の欠点を解消する方法として、アルミニウムを接着する場合は、予め重クロム酸ソーダ:濃硫酸:水を重量比で10:100:300に混合した水溶液に60℃で10分間浸漬し、水洗、乾燥することにより、優れた接着性と耐食性が発現することが知られている。また、鉄の接着の場合には、予め鉄材を燐酸亜鉛及びクロム酸処理することにより、接着性が改善されるため、自動車などの車体組立工程等で実用化されている。
【0006】
また、ステンレスを接着する場合は、予め酸で活性化処理すること、特に硫酸・蓚酸混合水溶液で表面処理することにより、優れた接着性が発現することが知られており、鉄道車両や航空機の組立工程等で実用化されている。更に、銅の接着の場合には、予め酸で活性化処理すること、特に硝酸水溶液で銅表面を処理することにより、優れた接着性が発現することが知られており、組立工程等で実用化されている。
【0007】
しかし、これらの表面処理にも種々の問題が存在している。例えば、上記アルミニウムや鉄の表面処理では、有害なクロム含有排水が発生するため、その排水処理は厳しく規制されている。また、上記ステンレス及び銅の表面処理の場合には酸処理によりスマットが発生し、これらのスマットは重クロム酸・硫酸混合水溶液でステンレス表面を再処理するか、あるいは酸水溶液で銅表面を再処理することにより除去されるが、この脱スマット処理によってもクロム含有排水が生じるため、その排水処理は厳しく規制されている。
【0008】
一方、近年においては、金属材料表面を有機系薄膜でプライマー塗装することによって、接着性を高める方法が試みられている。例えば、特許文献1には、ステンレスなどの金属を接着するラジカル重合硬化性組成物の接着力や密着性を向上させるため、酸性リン酸エステル及び/又はその塩と水を含む水性プライマーで金属材料を処理することが提案されている。また、特許文献2には、ステンレス鋼表面にフッ素系樹脂塗膜を形成する際に、シランカップリング剤で表面処理することで塗膜の密着性を改善できることが記載されている。
【0009】
更に、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3には、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属材料を接着剤で接着する場合に、金属材料表面をシランカップリング剤で表面処理することによって、接着性を付与する技術が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記のごとくリン酸エステルやシランカップリング剤を使用した表面処理によって、接着剤に対する金属材料の親和性が向上することは認められるが、従来から知られているリン酸亜鉛やクロム酸などによる処理と同等の接着性を得ることは難しかった。そのため、接着した金属材料の接着強度及び耐久性は従来のリン酸亜鉛やクロム酸などによる処理の場合よりも劣り、長期に安定して使用するには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−93211号公報
【特許文献2】特公平6−57872号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】接着ハンドブック第3版、日本接着学会編、1996年、68頁
【非特許文献2】色材協会誌、70巻、12号、1997年、763〜771頁
【非特許文献3】表面技術協会第111回講演大会要旨集、2005年、252頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来の金属材料の接着法における問題点に鑑み、金属材料表面をシランカップリング剤で表面処理する際に、シランカップリング剤薄膜の接着性を極めて簡便な方法で改善でき、従来から知られているリン酸亜鉛あるいはクロム酸などによる処理と同等の接着力が得られる金属材料の接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明が提供する金属材料の接着方法は、接着剤を用いて2つの金属材料を接着する方法であって、2つの金属材料の少なくとも接着すべき表面に対し、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、酸水溶液で洗浄した後、再び濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、乾燥した後、エポキシ系接着剤で接着することを特徴とする。
【0015】
上記本発明による本発明が提供する金属材料の接着方法においては、2回目のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成した後、100〜150℃の温度で加熱乾燥することが好ましい。また、前記シランカップリング剤は、γ−グリシドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有害物質の発生がないシランカップリング剤を使用して金属材料表面を前処理し、エポキシ系接着剤で接着することによって、従来から知られているリン酸亜鉛やクロム酸などで前処理した場合と同等の接着性並びに耐久性を得ることができる。従って、本発明を用いることによって、有害物質の発生や作業環境の悪化を生じることなく、接着剤により簡単な施工で金属材料を高い強度で接着して、建築構造材や車両構造材、各種機械部品などを製造することができ、しかも高い接着強度を長期間にわたって維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による金属材料の接着方法では、接着すべき2つの金属材料の表面に1回目のシランカップリング剤溶液の塗布により薄膜を形成し、次いで酸水溶液により洗浄した後、2回目のシランカップリング剤溶液の塗布により1回目の薄膜上に再び薄膜を形成する。このように2回のシランカップリング剤の塗布によって薄膜を積層して形成した後、シランカップリング剤の積層薄膜を有する2つの金属材料の表面を、エポキシ系接着剤を用いて接着する。
【0018】
本発明により接着すべき金属材料としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅、並びに、これらの合金が特に好適である。2つの金属材料の接着に用いるエポキシ系接着剤としては、市販の1液型又は2液型のいずれでもよく、中でも2液型が好ましい。特に2液型の場合、主剤をエポキシ樹脂とするものであればシランカップリング剤と化学結合(共有結合)を形成するため好ましく、硬化剤の種類を問わずに使用することができる。
【0019】
シランカップリング剤としては、金属材料とエポキシ系接着剤の両方に親和性と化学結合性を有するものを用いることが好ましい。エポキシ系接着剤と反応性がある官能基を有するシランカップリング剤は、エポキシ系接着剤の接着性を向上させるため特に好ましい。好ましいシランカップリング剤としては、γ−グリシドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどがある。
【0020】
上記シランカップリング剤は水あるいはアルコールで希釈し、シランカップリング剤溶液の状態で金属材料の表面に塗布する。尚、アルコールで希釈する場合には、必要に応じて水及び酢酸又は塩酸などを添加し、シランカップリング剤のアルコキシ基を加水分解して反応性の高いシラノールの形にすることによって、処理効果を向上させることができる。
【0021】
上記シランカップリング剤溶液の濃度は、好適な薄膜を金属材料表面に形成するため、0.2〜2.0質量%の範囲に調整する。シランカップリング剤溶液の濃度が0.2質量%より低いと、金属材料表面をシランカップリング剤の薄膜で均一に被覆することができない。逆に2.0重量%を超える濃度では、金属材料表面に形成されるシランカップリング剤の薄膜が厚くなり過ぎるため、膜自身の凝集力が不足して接着性が低下してしまう。
【0022】
尚、シランカップリング剤は、汚れのない金属材料表面に対しては、アルコキシ基又は加水分解生成物であるシラノール基が金属材料表面の酸化物層の水酸基と縮合反応して、強固に付着することができる。しかし、通常の金属材料表面は大気中に存在する有機物や無機物により汚染されており、それらは酸化物層の上に堆積して強固に付着している。このように汚染された金属材料表面に対して、シランカップリング剤の薄膜を均一に形成することは難しい。
【0023】
そのため、接着すべき金属材料の表面は、通常のごとく脱脂あるいは洗浄などにより清浄にしておくことが望ましい。しかし、金属材料の表面にシランカップリング剤溶液を1回塗布するだけでは、金属材料の表面に残っている汚れなどのために、強固なシランカップリング剤の薄膜を形成することは不可能であることが分った。
【0024】
そこで、本発明においては、シランカップリング剤溶液の塗布により金属材料表面に薄膜を形成した後、酸水溶液で洗浄して付着性の弱い薄膜部分を取り除き、再びシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を積層して形成する。洗浄に用いる酸水溶液としては、特に限定されるものではないが、後の廃水処理が簡単なため塩酸水溶液が好ましい。上記のごとく金属材料表面にシランカップリング剤溶液を2回繰り返して塗布することにより、金属材料表面の全体に欠陥や付着性の弱い部分のないシランカップリング剤の薄膜が形成される。尚、同様の手順でシランカップリング剤溶液を3回以上繰り返し塗布してもよいが、接着強度の更なる増加はあまり期待できない。
【0025】
シランカップリング剤の薄膜が形成された金属材料表面は、乾燥した後、エポキシ系樹脂で接着する。好ましくは、エポキシ系樹脂で接着する前に、100〜150℃の温度で加熱乾燥する。この加熱乾燥によって、シランカップリング剤の薄膜から余分の水が除去されると共に、脱水縮合反応による緻密なポリシロキサン構造が形成されるため、より一層強固で耐久性に優れた接着を得ることができる。
【0026】
このように処理された2つの金属材料表面同士は、エポキシ系接着剤で接着することによって、エポキシ系接着剤とシランカップリング剤の薄膜と金属材料との間に共有結合が形成される結果、接着界面が強固なものとなり、剪断接着強度が非常に高く且つ水分吸収による劣化も少ない接着部が得られる。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
板厚1.6mmのアルミニウム・銅・マグネシウム合金(2024−T3)板から、幅25mm及び長さ100mmの試験片を下記表1に示す試験番号ごとに2枚ずつ切り出した。各試験片を室温にてアセトンに3分間浸漬して脱脂した後、室温にて10%塩酸水溶液に3分間浸漬して酸洗し、蒸留水で洗浄した。
【0028】
次に、上記の各試験片を、下記表1に試験番号ごとに示す濃度のシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン:東レ・ダウコーニング製、商品名Z6011)水溶液に1分間浸漬(1回目)し、引き上げた各試験片を10%塩酸水溶液に浸漬した後、下記表1に示す濃度のシランカップリング剤水溶液に1分間浸漬(2回目)した。その後、引き上げた各試験片を110℃で3分間加熱乾燥させた。
【0029】
加熱乾燥後の2枚の試験片を、直ちに2液型エポキシ系接着剤(商品名セメダインEP−007)により、ラップ幅12.5mmで接着した。接着した試験片を7日間室温で完全に硬化させた後、JIS K6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。更に、接着部の耐湿性を調査するため、同様に接着した試験片を温度80℃×相対湿度98%の雰囲気に7日間暴露した後、同様に暴露試験後の剪断接着強度を測定した。得られた測定結果を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤水溶液を2回塗布した本発明による試験番号の各試験片(アルミニウム・銅・マグネシウム合金)は、それ以外の試験番号の試験片と比較して、初期剪断接着強度が同等又はそれ以上であると同時に、特に暴露試験後の剪断接着強度が大幅に上昇し、耐湿性が著しく向上した。
【0032】
尚、従来法による接着試験として、上記と同じアルミニウム・銅・マグネシウム合金の試験片2枚を、重クロム酸ソーダ:濃硫酸:水を重量比で10:100:300に混合した水溶液に60℃で10分間浸漬し、水洗、乾燥した後、上記と同様に2液型エポキシ系接着剤により接着した。この従来法により接着した試験片では、上記と同様に測定した結果、初期剪断接着強度は22.5MPa、及び暴露試験後の剪断接着強度は12.2MPaであった。
【0033】
[実施例2]
板厚1.6mmの普通鋼板から、幅25mm及び長さ100mmの試験片を、下記表2に示す試験番号ごとに2枚ずつ切り出した。各試験片を室温にてアセトンに3分間浸漬して脱脂した後、室温にて10%塩酸水溶液に3分間浸漬して酸洗し、蒸留水で洗浄した。
【0034】
次に、上記の各試験片を、下記表2に試験番号ごとに示す濃度のシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン:東レ・ダウコーニング製、商品名Z6011)水溶液に1分間浸漬(1回目)し、引き上げた各試験片を10%塩酸水溶液に浸漬した後、下記表2に示す濃度のシランカップリング剤水溶液に1分間浸漬(2回目)した。その後、引き上げた各試験片を110℃で3分間加熱乾燥させた。
【0035】
加熱乾燥後の2枚の試験片を、直ちに2液型エポキシ系接着剤(商品名セメダインEP−007)により、ラップ幅12.5mmで接着した。接着した試験片を7日間室温で完全に硬化させた後、JIS K6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。更に、接着部の耐湿性を調査するため、同様に接着した試験片を温度80℃×相対湿度98%の雰囲気に7日間暴露した後、同様に暴露試験後の剪断接着強度を測定した。得られた測定結果を下記表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤水溶液を2回塗布した本発明による試験番号の各試験片(普通鋼板)は、それ以外の試験番号の試験片と比較して、初期剪断接着強度が同等又はそれ以上であると同時に、特に暴露試験後の剪断接着強度が大幅に上昇し、耐湿性が著しく向上した。
【0038】
尚、従来法による接着試験として、上記と同じ普通鋼の試験片2枚を、日本工業規格に準拠して、濃硫酸と水を1:1の混合比率に希釈した水溶液に室温にて5〜10秒間浸漬し、水洗、乾燥した後、上記と同様に2液型エポキシ系接着剤により接着した。この従来法により接着した試験片は、上記と同様に測定した結果、初期剪断接着強度は25.7MPa、及び暴露試験後の剪断接着強度は13.9MPaであった。
【0039】
[実施例3]
板厚1.6mmのステンレス鋼板(SUS304)から、幅25mm及び長さ100mmの試験片を、下記表3に示す試験番号ごとに2枚ずつ切り出した。各試験片を室温にてアセトンに3分間浸漬して脱脂した後、室温にて10%塩酸水溶液に3分間浸漬して酸洗し、蒸留水で洗浄した。
【0040】
次に、上記の各試験片を、下記表3に試験番号ごとに示す濃度のシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン:東レ・ダウコーニング製、商品名Z6011)水溶液に1分間浸漬(1回目)し、引き上げた各試験片を10%塩酸水溶液に浸漬した後、下記表3に示す濃度のシランカップリング剤水溶液に1分間浸漬(2回目)した。その後、引き上げた各試験片を110℃で3分間加熱乾燥させた。
【0041】
加熱乾燥後の2枚の試験片を、直ちに2液型エポキシ系接着剤(商品名セメダインEP−007)により、ラップ幅12.5mmで接着した。接着した試験片を7日間室温で完全に硬化させた後、JIS K6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。更に、接着部の耐湿性を調査するため、同様に接着した試験片を温度80℃×相対湿度98%の雰囲気に7日間暴露した後、同様に暴露試験後の剪断接着強度を測定した。得られた測定結果を下記表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
上記表3から明らかなように、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤水溶液を2回塗布した本発明による試験番号の各試験片(ステンレス鋼板)は、それ以外の試験番号の試験片と比較して、初期剪断接着強度が同等又はそれ以上であると同時に、特に暴露試験後の剪断接着強度が大幅に上昇し、耐湿性が著しく向上した。
【0044】
尚、従来法による接着試験として、上記と同じステンレス鋼板の試験片2枚を、硫酸10重量部と蓚酸10重量部の混合水溶液に60℃にて10分浸漬し、次に重クロム酸混液で処理し、水洗し、乾燥した後、上記と同様に2液型エポキシ系接着剤により接着した。この従来法により接着した試験片は、上記と同様に測定した結果、初期剪断接着強度は21.8MPa、及び暴露試験後の剪断接着強度は8.6MPaであった。
【0045】
[実施例4]
板厚1.6mmの銅板から、幅25mm及び長さ100mmの試験片を、下記表4に示す試験番号ごとに2枚ずつ切り出した。各試験片を室温にてアセトンに3分間浸漬して脱脂した後、室温にて10%塩酸水溶液に3分間浸漬して酸洗し、蒸留水で洗浄した。
【0046】
次に、上記の各試験片を、下記表4に試験番号ごとに示す濃度のシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン:東レ・ダウコーニング製、商品名Z6011)水溶液に1分間浸漬(1回目)し、引き上げた各試験片を10%塩酸水溶液に浸漬した後、下記表4に示す濃度のシランカップリング剤水溶液に1分間浸漬(2回目)した。その後、引き上げた各試験片を110℃で3分間加熱乾燥させた。
【0047】
加熱乾燥後の2枚の試験片を、直ちに2液型エポキシ系接着剤(商品名セメダインEP−007)により、ラップ幅12.5mmで接着した。接着した試験片を7日間室温で完全に硬化させた後、JIS K6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。更に、接着部の耐湿性を調査するため、同様に接着した試験片を温度80℃×相対湿度98%の雰囲気に7日間暴露した後、同様に暴露試験後の剪断接着強度を測定した。得られた測定結果を下記表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
上記表4から明らかなように、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤水溶液を2回塗布した本発明による試験番号の各試験片(銅板)は、それ以外の試験番号の試験片と比較して、初期剪断接着強度が同等又はそれ以上であると同時に、特に暴露試験後の剪断接着強度が大幅に上昇し、耐湿性が著しく向上した。
【0050】
尚、従来法による接着試験として、上記と同じ銅板の試験片2枚を、塩化第二銅(42%):濃硝酸:水を重量比15:30:200で混合した液に室温で3分間浸漬し、水洗し、乾燥した後、上記と同様に2液型エポキシ系接着剤により接着した。この従来法により接着した試験片は、上記と同様に測定した結果、初期剪断接着強度は22.9MPa、及び暴露試験後の剪断接着強度は2.8MPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を用いて2つの金属材料を接着する方法であって、2つの金属材料の少なくとも接着すべき表面に対し、濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、酸水溶液で洗浄した後、再び濃度0.2〜2.0質量%のシランカップリング剤溶液を塗布して薄膜を形成し、乾燥した後、エポキシ系接着剤で接着することを特徴とする金属材料の接着方法。
【請求項2】
2回目のシランカップリング剤水溶液を塗布して薄膜を形成した後、100〜150℃の温度で加熱乾燥することを特徴とする、請求項1に記載の金属材料の接着方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤は、γ−グリシドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の金属材料の接着方法。
【請求項4】
前記金属材料は、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅から選ばれる少なくとも1種の金属又はその合金からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属材料の接着方法。

【公開番号】特開2012−41418(P2012−41418A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182757(P2010−182757)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】