説明

金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物

【課題】潤滑性、耐焼き付き性等の加工潤滑性能や防錆性に優れ、鋼やステンレスの鍛造加工のような過酷な塑性加工においても化成処理被膜無しで加工が可能であり、しかも潤滑被膜が水性のためにその被膜除去は水のみにて十分可能である優れた被膜除去性を有する金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物を提供すること。
【解決手段】(a)水溶性高分子化合物と、(b)無機金属塩と、水とを含有し、(a)成分及び(b)成分が水に溶解または分散しており、且つ(a)成分と(b)成分の固形分重量比(b)/(a)が0.1〜5の範囲内にある金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅合金、マグネシウム合金等の金属材料の塑性加工において、該材料表面に使用される金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の塑性加工には、鉱物油等の基油に、硫黄化合物、リン酸化合物、有機酸、塩素化合物、合成エステル、油脂、金属石鹸等を添加した油性潤滑剤が、多く使用されている。例えば、基油に、オレフィンと亜リン酸等とより合成されたアルキルホスホン酸誘導体を添加したアルミ合金又は非鉄金属用の油性塑性加工用潤滑剤が公知である(特許文献1参照)。しかし、この潤滑剤は、アルミ合金や非鉄金属には使用できるものの、加工条件が過酷な鋼やステンレスの塑性加工に使用した場合には、油膜の保持性が不十分で焼き付きが発生し、又加工荷重が大きいために、工具であるパンチやダイスが破損する恐れがあるという欠点を生じる。
【0003】
また、一般に、油性塑性加工用潤滑油には、加工後のドライ切削加工工程等にて発煙し作業環境を大きく低下させるという問題点があり、それを解決するために加工後の部品を洗浄剤にて洗浄して潤滑被膜を除去することが必要になり、洗浄剤液の使用とその液の管理等が必要になってくるという欠点もある。
【0004】
一方、水性塑性加工用潤滑剤としては、例えば、ポリエーテルポリオールと、炭素数8以下のアルキルホスホン酸等のリン酸化合物とを水に分散又は溶解した水性金属加工用潤滑剤組成物が提案されている(特許文献2参照)。この潤滑剤には、水性であるため被膜除去が容易であるという利点がある。しかし、この潤滑剤組成物には、潤滑性、耐焼き付き性、防錆性等が悪いという欠点がある。そのため、加工条件が過酷な鋼やステンレスの鍛造加工等の塑性加工においては、この潤滑剤組成物では、通常、潤滑性、耐焼き付き性等の不足を補うために鍛造加工等の前にあらかじめ加工材料表面にリン酸亜鉛鉄のような化成処理被膜を生成させて、その被膜上を潤滑剤で処理して鍛造加工等する必要がある。
【0005】
また、合成樹脂、水溶性無機塩、滑剤及び水を含有する金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物が提案されている(特許文献3参照)。この潤滑剤組成物によれば、強靭で潤滑性の良い被膜が得られるという利点がある。しかし、この潤滑剤組成物によっても、加工条件が過酷な鋼やステンレスの塑性加工においては耐焼き付き性が不足しており、加工が困難な場合があるという欠点がある。そのため、加工条件が過酷な鋼やステンレスの鍛造加工等の塑性加工においては、通常、化成処理被膜を生成後に、鍛造加工等の塑性加工がされている。
【0006】
このように、従来の水性塑性加工用潤滑剤組成物によれば、化成処理被膜が必要な場合が多かった。化成処理被膜は、潤滑性、耐焼き付き性には優れているものの、固体被膜のため加工すると工具と加工材の界面にて高圧のスベリにより粉塵が発生して、職場を汚染したり、化成処理被膜の剥離物が工具の中に残り欠肉の原因になったりするという問題がある。更に、化成処理被膜を材料表面に生成するには液管理された多くの処理液と処理工程が必要になり、又化成処理液の廃液処理には多くの経費を要する。
【0007】
従って、別工程であるこの前処理としての化成処理被膜を生成させずに、直接に潤滑剤組成物のみにて金属材料の塑性加工が可能になれば、工程の省略が出来、加工コストが大幅に低下でき、省資源、省エネルギーに大きく寄与することが可能となる。また、同時に加工ラインを一体化することが出来るため、リードタイム短縮等の大きな生産ラインの改善が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−65493号公報
【特許文献2】特開昭59−227990号公報
【特許文献3】特開2000−63880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、潤滑性、耐焼き付き性等の加工潤滑性能や防錆性に優れ、鋼やステンレスの鍛造加工のような過酷な塑性加工においても化成処理被膜無しで加工が可能であり、しかも潤滑被膜が水性のためにその被膜除去は水のみにて十分可能である優れた被膜除去性を有する金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来の塑性加工用潤滑剤が有する諸欠点を解消するために研究を重ねた。その結果、水溶性高分子化合物好ましくは特定の性質を有する水溶性高分子化合物と無機金属塩と必要に応じてワックスとを有効成分とし、これらを水に溶解又は分散してなる水性潤滑剤組成物は、従来の塑性加工用潤滑剤に比して極めて優れた加工潤滑性能、防錆性及び被膜除去性を有し、金属材料特に鋼或いはステンレスの塑性加工用潤滑剤として好適であり、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物を提供するものである。
【0012】
1.(a)水溶性高分子化合物と、(b)無機金属塩と、水とを含有し、(a)成分及び(b)成分が水に溶解または分散しており、且つ(a)成分と(b)成分の固形分重量比(b)/(a)が0.1〜5の範囲内にある金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0013】
2.更に、(c)ワックスを含有し、これが水に分散しており、(a)成分と(c)成分の固形分重量比(c)/(a)が5以下の範囲内にある上記項1に記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0014】
3.水溶性高分子化合物(a)が、水溶性ポリエーテル化合物及び水溶性ポリエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であって、その被膜強度が1〜30MPaであり、且つその被膜伸度が600〜1000%である上記項1又は2に記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0015】
4.無機金属塩(b)が、リン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩である上記項1〜3のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0016】
5.ワックス(c)が、融点50〜160℃の天然ワックス及び融点50〜160℃の合成ワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種のワックスである上記項2〜4のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0017】
6.更に、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、雲母、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、黒鉛及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤を1〜20重量%含有する上記項1〜5のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【0018】
7.更に、硫黄系極圧添加剤、有機モリブデン系極圧添加剤、リン系極圧添加剤および塩素系極圧添加剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の極圧添加剤を0.5〜5重量%含有する上記項1〜6のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物によれば、水溶性高分子化合物好ましくは特定の性質を有する水溶性高分子化合物と無機金属塩と必要に応じてワックスとを有効成分として含有することによって、以下の如き格別顕著な効果を得ることができる。
【0020】
(1)本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、潤滑性、耐焼き付き性等の加工潤滑性能や防錆性に優れているので、鉄鋼、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅合金、マグネシウム合金等の金属材料を、鍛造、伸線、伸管、プレス等のような冷間塑性加工をするに当たって、該材料表面に潤滑被膜を形成させて使用することによって、化成処理被膜無しで、好適に塑性加工をすることができる。特に、鋼やステンレスの鍛造加工のような過酷な塑性加工においても、化成処理被膜無しで加工が可能である。
【0021】
(2)また、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、これを用いて形成された潤滑被膜が水性であるため、その被膜除去が水のみにて十分可能であるという優れた被膜除去性を有する。
【0022】
(3)さらに、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物を使用すると、短時間で簡単に優れた加工性を持つ潤滑被膜を形成させることが出来る上に、加工後の該被膜除去性も非常に良好であるため、後工程でのメッキ性や塗装性にも有利である。また、使用上の廃棄物やエネルギー消費量も少なく、作業環境も良好であるので、事業上の利用価値も非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物の内容について、より詳細に説明する。
【0024】
(a)水溶性高分子化合物
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物に使用される水溶性高分子化合物(a)は、潤滑被膜に柔軟性や追随性を付与するためのものである。そのため選ばれる水溶性高分子化合物は該組成物中で均一に溶解し、乾燥時に強靭かつ柔軟な被膜を形成する性質を持つことが必要である。そのような性質の水溶性高分子化合物としては、水溶性ポリエーテル化合物及び水溶性ポリエステル化合物からなる群より選ばれる1種単独の化合物又は2種以上の化合物の混合物であって、その被膜強度が1〜30MPa程度、その被膜伸度が600〜1000%程度であるものを使用することが好ましい。ここで、被膜強度(MPa)と被膜伸度(%)は、JIS K6251又はJIS K7312に規定されている引張試験により測定される。また、被膜強度(MPa)と被膜伸度(%)は、上記各JISにおける引張試験の引張強さと切断時伸びに対応する。
【0025】
水溶性高分子化合物(a)としては、特に限定されないが、通常、0.5万〜100万程度の重量平均分子量を有しているものが好ましい。
【0026】
水溶性高分子化合物(a)の具体例として、水溶性ポリエーテル化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエーテルポリオール等が挙げられ、水溶性ポリエステル化合物としては、例えば、ポリエステル系ポリオール等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(b)無機金属塩
本発明組成物で使用する無機金属塩(b)は、潤滑被膜に耐焼き付き性や密着性を付与するためのものである。そのため、選ばれる無機金属塩は組成物中で均一に溶解または分散し、乾燥時に強固な被膜を形成する性質を持つことが必要である。そのような性質の無機金属塩としては、リン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩、及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種単独の金属塩又は2種以上の金属塩の混合物を使用することが好ましい。
【0028】
無機金属塩(b)の具体例として、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの無機金属塩は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
水溶性高分子化合物(a)と無機金属塩(b)との配合比率については、固形分重量比で(b)/(a)を0.1〜5程度にするのが好ましい。固形分重量比(b)/(a)が0.1未満になると被膜の耐焼き付き性が不足する恐れがあり、固形分重量比(b)/(a)が5を超えると被膜の追随性が不足する恐れがある。
【0030】
(c)ワックス
本発明組成物で使用するワックス(c)としては、水に分散した天然ワックスまたは水に分散した合成ワックスを使用するのが好ましい。ワックス(c)は、塑性加工時の加工熱がその融点以上になることによって溶融し、金属同士の摩擦を軽減させるために添加する。そのため、融点が50〜160℃程度の天然ワックス及び融点50〜160℃程度の合成ワックスからなる群より選ばれる1種単独のワックス又は2種以上のワックスを組み合わせて、用いるのが望ましい。
【0031】
ワックス(c)の具体例として、例えば、カルナウバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等を挙げることが出来る。ワックス(c)は、本発明組成物の必須成分ではないが、上記摩擦軽減の観点から、水に対してディスパージョンやエマルジョンの状態で分散されたものを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いて、本発明の水性塑性加工用潤滑剤組成物に含有させるのが好ましい。
【0032】
水溶性高分子化合物(a)とワックス(c)との配合比率については、固形分重量比(c)/(a)が0〜5の範囲内にあるのが好ましい。この比が5を超えると被膜の柔軟性や追随性が低下する恐れがある。
【0033】
その他の成分
更に、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物においては、加工条件が厳しい場合や潤滑被膜の吸湿対策を行う場合には、固体潤滑剤を含有させることが好ましい。また、加工条件が厳しい塑性加工においては、加工時に工具と金属との接触面で極圧効果を発揮する極圧添加剤を含有させることが好ましい。
【0034】
固体潤滑剤の具体例として、例えば、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、雲母、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、黒鉛、窒化ホウ素等を挙げることが出来る。これらの固体潤滑剤は、1種単独で用いても又は2種以上組み合わせて用いてもよい。固体潤滑剤を含有させる場合、その含有量は、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物中に1〜20重量%程度とするのが好ましい。
【0035】
極圧添加剤としては、例えば、硫黄系極圧添加剤、有機モリブデン系極圧添加剤、リン系極圧添加剤、塩素系極圧添加剤等を挙げることができる。これらの極圧添加剤は、1種単独で用いても又は2種以上組み合わせて用いてもよい。極圧添加剤を含有させる場合、その含有量は、本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物中に0.5〜5重量%程度とするのが好ましい。
【0036】
無機金属塩、ワックス、固体潤滑剤および極圧添加剤を、水に分散または乳化させるために界面活性剤が必要な場合には、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。これらの界面活性剤は、各々単独でまたは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0037】
非イオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン(エチレンおよび/またはプロピレン)アルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール(またはエチレンオキシド)と高級脂肪酸(例えば炭素数12〜18)とから構成されるポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンとポリエチレングリコールと高級脂肪酸(例えば炭素数12〜18)とから構成されるポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。
【0038】
陰イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば脂肪酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0039】
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばアミノ酸型およびベタイン型のカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等が挙げられる。
【0040】
陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば脂肪酸アミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0041】
水性塑性加工用潤滑剤組成物の製造方法及び使用方法
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物の製造方法としては、特に制限されず、常法によって製造することができる。例えば、無機金属塩の水溶液に水溶性高分子化合物、ワックスを必要に応じて界面活性剤及び水を用いて分散液とした後、加えて良く撹拌する。更に任意成分としての固体潤滑剤および/または極圧添加剤を、必要に応じて界面活性剤及び水を用いて分散液または乳化液とした後、添加し、撹拌することにより製造することができる。
【0042】
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、鉄鋼、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅合金、マグネシウム合金等の冷間塑性加工(伸線、伸管、鍛造等)を行う際に使用する潤滑剤として、好適に用いることが出来る。
【0043】
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物が使用される金属材料の形状や表面状態は特に限定されない。
【0044】
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、シャワー、浸漬、スプレー等の方法により金属材料面に塗布される。塗布は加工対象表面が完全に本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物に覆われればよく、塗布時の接触時間に制限は無い。ただし、塗布された本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、水分を完全に乾燥して乾燥被膜を形成させる必要がある。乾燥方法について特に制限は無いが、50〜150℃程度の温風を利用して、塗布対象金属材料表面が40〜80℃程度になるまで乾燥させるのが好ましい。
【0045】
本発明の水性塑性加工用潤滑剤組成物の乾燥被膜形成後の平均被膜付着量は、0.5〜20g/m2程度であるのが好ましい。付着量の調整は、本発明の水性塑性加工用潤滑剤組成物の濃度を水分量で調整するか、一度乾燥被膜を形成させた後、再度塗布乾燥を行うなど、重ね塗りによって調整するか、スプレー等で吐出量や塗布時間を調整することによって実施することが可能である。水分量での調整時の水としては、イオン交換水、水道水、地下水等を使用でき、特に制限は無い。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの各例によって限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜6及び比較例1〜2
下記表1に示す様に、(a)成分(水溶性高分子化合物)、(b)成分(無機金属塩)、(c)成分(ワックス)及び水を、配合して、実施例1〜6の本発明水性塑性加工用潤滑剤組成物及び比較例1〜2の比較用水性塑性加工用潤滑剤組成物を調製した。表中の配合量の数値は、成分重量%を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1において、水溶性高分子化合物(1)は明成化学工業(株)製の「アルコックス」(商品名、水溶性ポリエーテル化合物)、水溶性高分子化合物(2)は三洋化成工業(株)製の「メルポールF−220」(商品名、水溶性ポリエーテル化合物)、水溶性高分子化合物(3)は第一工業製薬(株)製の「パオゲンPP−15」(商品名、水溶性ポリエステル化合物)、水溶性高分子化合物(4)は三洋化成工業(株)製の「ケミチレンGA−500」(商品名、水溶性ポリエーテル化合物)である。これらの水溶性高分子化合物の重量平均分子量、及びJIS K6251又はJIS K7312に規定されている引張試験により測定した被膜強度(引張強さ)と被膜伸度(切断時伸び)は、下記表2に示す通りである。
【0050】
【表2】

【0051】
次に、実施例1〜6及び比較例1〜2の本発明及び比較用の各組成物について、下記性能評価試験を行った。
【0052】
1.バウデン式付着スベリ試験
室温の各組成物に試験片を浸漬した後、80℃の恒温槽に20分間入れておき、潤滑被膜を生成させたものを用いて、下記項目に従い、被膜の密着強度を調べた。
【0053】
試験片材質:SCM440、試験片形状:100mm×80mm×5mm、摩擦球:SUJ−2、3/16インチφ、試験温度:100℃、荷重:3kg、スベリ速度:3.88mm/sec、評価:平均摩擦係数と、焼き付きが発生するまでのスベリ回数を測定した。
【0054】
2.リング圧縮試験
室温の各組成物に試験片を浸漬した後、80℃の恒温槽に20分間入れておき、潤滑被膜を生成させたものを用いて、下記項目に従い試験した。
【0055】
試験片材質:SCM440、試験機:110トンクランクプレス機、試験片形状:外径20mmφ、内径10mmφ、厚さ7mm、工具材質:SKD−12(合金工具鋼)、試験温度:20℃、評価:加工荷重の測定と同時に、圧縮率と形状変化より摩擦係数を算出した。
【0056】
3.ボール通し試験
「豊田中央研究所R&Dレビュー」Vol.28,No.3,P.12-13(1993.9)の記載に従い、室温の各組成物に円筒状試験片を浸漬した後、80℃の恒温槽に20分間入れておき、潤滑被膜を生成させたものを用いて、下記項目に従い試験を行った。
【0057】
試験片材質:S10C(低炭素鋼、球状化焼鈍品)、試験機:110トンクランクプレス機、試験片形状:全長50mm、外径29.9mmφ、内径14.5mmφ、14.7mmφ、15.0mmφ又は15.2mmφ、ボール材質:SUJ−2(高炭素クロム軸受鋼)、ボール直径:15.08mmφ、15.88mmφ、16.67mmφ又は17.46mmφ、工具材質:SKD−11(合金工具鋼)、試験温度:20℃、評価:試験片の内径よりも大きな直径のボールを円筒内に押し込み貫通させた時、内径が拡大し軸方向に伸びる変形を受けるが、この時にボール直径と試験片内径との組み合わせを変化させるに伴って試験片の断面積が減少する割合(減面率)及び試験後の試験片内面状態を調べ、焼き付きを生じることなく加工出来た最大の減面率(%)及びそのときの負荷荷重(KN)を測定した。
【0058】
4.後方穿孔試験
室温の各組成物に円柱状試験片を浸漬した後、80℃の恒温槽に20分間入れておき、潤滑被膜を生成させたものを用いて、下記項目に従い試験を行った。
【0059】
試験片材質:S10C(低炭素鋼、球状化焼鈍品)、試験機:110トンクランクプレス機、試験片形状:全長17.0mm、21.5mm、26.0mm、30.5mm、35.0mm、外径20mmφ、パンチランド部14mmφ、設定面積拡大率:492%、744%、996%、1248%、1501%、パンチ材質:HAP72(合金工具鋼)、試験温度:20℃、評価:予め潤滑皮膜を生成させておいた5水準の試験片を全長が小さい水準から順番に側面と底面を拘束した金型に入れ、上部からパンチを打ち込んで設定の面積拡大率になるようカップ状に成形して、試験後の試験片内面に焼き付きが発生しない最高面積拡大率(%)を測定した。
【0060】
各性能試験の結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3の結果より明らかなように実施例1〜6の本発明の各水性塑性加工用潤滑剤組成物は、いずれも、(a)成分と(b)成分との固形分重量比(b)/(a)が6.3と5を超えている比較例1の潤滑剤組成物、及び被膜強度は30MPaであるが被膜伸度が550%と600%より低い水溶性高分子化合物(4)を用いた比較例2の潤滑剤組成物と比較して、全ての性能評価試験において、優れた性能を示していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物は、従来の塑性加工用潤滑剤に比して極めて優れた加工潤滑性能、防錆性及び被膜除去性を有しており、金属材料の冷間塑性加工用潤滑剤として好適に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水溶性高分子化合物と、(b)無機金属塩と、水とを含有し、(a)成分及び(b)成分が水に溶解または分散しており、且つ(a)成分と(b)成分の固形分重量比(b)/(a)が0.1〜5の範囲内にある金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項2】
更に、(c)ワックスを含有し、これが水に分散しており、(a)成分と(c)成分の固形分重量比(c)/(a)が5以下の範囲内にある請求項1に記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項3】
水溶性高分子化合物(a)が、水溶性ポリエーテル化合物及び水溶性ポリエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であって、その被膜強度が1〜30MPaであり、且つその被膜伸度が600〜1000%である請求項1又は2に記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項4】
無機金属塩(b)が、リン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩及びタングステン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属塩である請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項5】
ワックス(c)が、融点50〜160℃の天然ワックス及び融点50〜160℃の合成ワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種のワックスである請求項2〜4のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項6】
更に、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、雲母、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、黒鉛及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤を1〜20重量%含有する請求項1〜5のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。
【請求項7】
更に、硫黄系極圧添加剤、有機モリブデン系極圧添加剤、リン系極圧添加剤および塩素系極圧添加剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の極圧添加剤を0.5〜5重量%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の金属材料の水性塑性加工用潤滑剤組成物。



【公開番号】特開2012−177000(P2012−177000A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39273(P2011−39273)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000207399)大同化学工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】