説明

金属材料の結晶粒制御方法

【課題】金属材料の所望の位置で局所的に結晶粒の大きさを制御し得る方法を提供すること。
【解決手段】本発明の金属材料の結晶粒制御方法は、金属材料の所定の位置にレーザービームを照射することを含む。レーザービームの出力は20W〜40Wであり、エネルギー密度は4.2×10W/cm〜8.4×10W/cmであり、それぞれの所定の位置へのレーザービームの照射時間は25秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の結晶粒制御方法に関する。より詳細には、本発明は、金属材料の所望の位置で局所的に結晶粒の大きさを制御し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属および合金(以下、これらをまとめて「金属材料」という)は、輸送用機械および各種産業機器等の構造部材をはじめとして広く用いられている。金属材料の機械的性質および物理的性質は、材料中の結晶粒径や集合組織と極めて密接な関係があることが知られている。例えば、多結晶材料の強度および靭性は結晶粒のサイズが小さいほど向上し、電磁鋼板の磁気特性は磁区の大きさ(結晶粒の大きさ)および集合組織に依存して変化する。このため、結晶粒のサイズや方位の制御は材料設計上極めて重要である。
【0003】
従来、例えば構造部材用途においては、強度、靭性および加工性などの機械的特性を向上させるために、金属材料の結晶粒を微細化する方法が知られている。結晶粒を微細化する代表的な方法としては、熱処理による方法、強加工により導入される歪を利用する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。一方、フェライト系酸化物分散強化型鋼の高温クリープ強度の改善を目的として、粒界すべりを抑制するために結晶粒を大粒径化する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
近年、金属材料の用途の多様化に伴い、目的に応じた所望の特性を金属材料に付与することができる技術が望まれている。例えば、金属材料の所定の位置の結晶粒のみを選択的に微細化したり粗大化したりできれば、金属材料の用途が大きく広がることが期待される。しかし、上記従来技術はいずれも、金属材料の結晶粒のサイズを局所的に制御することはできない。
【特許文献1】特開2003−73787号公報
【特許文献2】特開2004−68121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、金属材料の所望の位置で局所的に結晶粒の大きさを制御し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属材料の結晶粒制御方法は、金属材料の所定の位置にレーザービームを照射することを含む。レーザービームの出力は20W〜40Wであり、エネルギー密度は4.2×10W/cm〜8.4×10W/cmであり、それぞれの所定の位置へのレーザービームの照射時間は25秒以下である。
【0007】
好ましい実施形態においては、本発明の方法は、複数の所定の位置にそれぞれ上記レーザービームの照射条件を変えてスポット照射することにより、該所定の位置のそれぞれに異なる粒径を有する結晶粒を形成する。好ましい実施形態においては、上記レーザービームのビーム径は50μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非常に幅が狭いレーザービームを用いることにより、金属材料の所定の位置の結晶粒のみを選択的に照射することができる。その結果、目的に応じて任意の適切な位置の結晶粒サイズを選択的に変化させることができる。したがって、本発明の方法によれば、目的・用途に応じて適切な機械的特性および物理的特性を有する金属材料を簡便かつ安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属材料の結晶粒制御方法は、金属材料の所定の位置にレーザービームを照射することを含む。レーザービームのビーム径は、好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm〜30μmであり、特に好ましくは3μm〜20μmであり、最も好ましくは5μm〜10μmである。このような非常に幅が狭いレーザービームを照射することにより、金属材料の特定の位置の結晶粒のみを選択的に照射することができる。このような非常に幅が狭いレーザービームは、レーザービームの波長等に応じて任意の適切な集光レンズを用いることにより得ることができる。レーザービームの波長としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な波長が採用され得る。1つの実施形態においては、レーザービームの波長は、好ましくは800〜2000nmである。このような波長であれば、低コストで光源を得ることができる。別の実施形態においては、レーザービームの波長は、好ましくは400〜800nmである。このような波長であれば、レーザービームが視認できるので、照射位置の調整が容易である。さらに、集光レンズの選択幅が広くなる。さらに別の実施形態においては、レーザービームの波長は、好ましくは100〜400nmである。このような波長であれば、きわめて幅が狭いレーザービームを実現することができ、その結果、きわめて小さい領域で金属材料の結晶粒を制御することが可能となる。本発明に適用可能なレーザーの具体例としては、YAGレーザー、ファイバーレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、Fレーザー等が挙げられる。
【0010】
レーザーの照射条件は、所望の結晶粒径が得られ、かつ、金属材料が溶融しない範囲で適切に設定され得る。例えば、レーザーの強度(例えば、出力、エネルギー密度)と照射時間とを調整することにより、照射位置に形成される結晶粒径を制御することができる。照射位置を移動させて所定の位置への照射を所定の条件で行うことにより、局所的に制御された結晶組織を得ることができる。1つの実施形態においては、レーザーの出力は、好ましくは20W〜40Wであり、さらに好ましくは25W〜35Wである。レーザーのエネルギー密度は、好ましくは4.2×10W/cm〜8.4×10W/cmであり、さらに好ましくは5.2×10W/cm〜7.3×10W/cmである。照射時間は、レーザー出力またはエネルギー密度に応じて変化し得る。例えば、レーザーの出力が25W(5.23×10W/cm)である場合には、照射時間は好ましくは25秒以下、さらに好ましくは5秒〜22秒であり、レーザーの出力が30W(6.19×10W/cm)である場合には、照射時間は好ましくは13秒以下、さらに好ましくは2秒〜12秒であり、レーザーの出力が34W(7.14×10W/cm)である場合には、照射時間は好ましくは6秒以下、さらに好ましくは1秒〜5秒である。例えば、工業用純アルミニウムにファイバーレーザー(波長1076nm)を25Wで20秒間照射すると、照射位置に粒径約50μmの結晶粒が形成され、30Wで9秒間照射すると、照射位置に粒径約20μmの結晶粒が形成される。このように、本発明によれば、非常に短時間で金属材料の結晶粒径(結果として、結晶組織)を制御することができる。なお、照射時間が長すぎると、金属材料が溶融してしまう場合がある。照射時間が短すぎると、金属材料の組織を有効に変化させることができない場合がある。さらに、本発明によれば、金属材料の所定の位置に、それぞれ照射条件を変えてレーザーをスポット照射することにより、該所定の位置のそれぞれに異なる粒径を有する結晶粒を形成することができる。その結果、特定の位置のみ異なる特性を有する金属材料を作成することができる。
【0011】
本発明の方法において、金属材料の所定の位置にレーザービームを照射する手段としては、任意の適切な手段が採用され得る。代表例としては、金属材料とレーザービームを相対的に移動可能としながら照射する方法が挙げられる。より具体的には、金属材料を所定の台に載置してレーザービームを照射する方法が挙げられる。この場合、載置台を移動させてもよくレーザービームを照射する光源を移動させてもよい。移動手段は、例えばX−Yプロッターのように周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0012】
本発明の方法が適用され得る金属材料としては、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、およびこれらの合金が挙げられる。さらに、当該金属材料は、カーボン等の非金属材料を含んでいてもよい。
【0013】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【実施例1】
【0014】
工業用純アルミニウム(A1050、冷間圧延材、厚み1mm)を1cm×1cmに切り出し試料とした。この試料を、X−Yステージ上に移動可能に取り付けられたホルダーに固定した。レーザーとしてファイバーレーザー(IPGフォトニクスジャパン社製、商品名YLR−SM−100;波長1076nm)を用い、集光レンズ(シグマ光機株式会社製、商品名:YAGレーザー集光レンズ(トリプレット)、品番:YTL−30−30PY1)およびミラー(シグマ光機株式会社製、商品名:45°入射用誘多膜平面ミラー(レーザーライン誘多膜平面ミラー)、品番:TFM−50C08−1064)を用いてビーム径を5μmに調整した。
【0015】
上記試料の1ヶ所に、レーザーを出力30Wで9秒間照射した。照射位置には、粒径約20μmの結晶粒が形成された。次に、試料ホルダーを移動させて、試料の別の位置に同様の条件でレーザーを照射した。この操作を繰り返し、試料の任意に選択した5ヵ所にレーザーを照射し、局所的に制御された結晶組織を形成した。形成された結晶組織の結晶方位マップを図1に示す。
【実施例2】
【0016】
レーザーを出力25Wで20秒間照射したこと以外は実施例1と同様にして、局所的に制御された結晶組織を形成した。照射位置には粒径約50μmの結晶粒が形成されたことを走査型電子顕微鏡(SEM)により確認した。
【実施例3】
【0017】
試料の2ヵ所にレーザーを出力25Wで20秒間照射し、3ヵ所にレーザーを出力30Wで9秒間照射したこと以外は実施例1と同様にして、局所的に制御された結晶組織を形成した。25Wのレーザーを照射した位置には粒径約50μmの結晶粒が形成され、30Wのレーザーを照射した位置には粒径約20μmの結晶粒が形成されたことをSEMにより確認した。
【0018】
(参考例1)
レーザーのエネルギー密度を変化させて、アルミニウム試料が溶融するまでの照射時間を調べた。溶融までの照射時間とエネルギー密度との関係を図2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の金属材料の結晶粒制御方法によれば、例えば、特定の部分は非常に優れた機械的強度を有し、かつ、他の特定の部分は非常に優れた靭性を有する金属材料を作製することができる。本発明の方法を用いて得られる金属材料は、例えば内燃機関の摺動部に好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例により金属材料に形成された結晶組織の結晶方位マップである。
【図2】金属材料が溶融するまでのレーザー照射時間とレーザーのエネルギー密度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の所定の位置にレーザービームを照射することを含み、
該レーザービームの出力が20W〜40Wであり、エネルギー密度が4.2×10W/cm〜8.4×10W/cmであり、該所定の位置への該レーザービームの照射時間が25秒以下である、
金属材料の結晶粒制御方法。
【請求項2】
複数の所定の位置にそれぞれ前記レーザービームの照射条件を変えてスポット照射することにより、該所定の位置のそれぞれに異なる粒径を有する結晶粒を形成する、請求項1に記載の金属材料の結晶粒制御方法。
【請求項3】
前記レーザービームのビーム径が50μm以下である、請求項1または2に記載の金属材料の結晶粒制御方法。





【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−97028(P2009−97028A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267352(P2007−267352)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(592086190)株式会社レザック (14)
【出願人】(507342168)
【出願人】(507340739)
【出願人】(507340740)
【Fターム(参考)】