説明

金属材料の耐食性評価方法及び金属材料の腐食促進試験装置

【課題】鋼板を重ね合わせていない平板試験片を用いて、実際の自動車の鋼板合わせ部の腐食に対して相関性が高い、金属材料の耐食性評価方法及び前記耐食性評価方法を行うための金属材料の腐食促進試験装置を提供する。
【解決手段】金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる工程(A)と、金属材料に対して、湿潤工程での雰囲気中の酸素濃度が0〜18体積%の範囲内で温度及び相対湿度を変化させて設定した乾燥工程と湿潤工程とを繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程(B)の各工程を1回以上行うことにより耐食性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用表面処理鋼板等の金属材料の耐食性評価方法及び金属材料の耐食性評価を行うための腐食促進試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用表面処理鋼板の開発では、実際に自動車用外板として表面処理鋼板を使用した場合を想定して、塩水噴霧試験(以下、SSTと称すこともある)、複合サイクル腐食試験(以下、CCTと称すこともある)、暴露試験などの腐食試験により、表面処理鋼板の耐食性評価が行われている。
暴露試験としては、実際の環境における腐食を再現するため、暴露試験場における長期暴露試験や、自動車に試験片を取り付けて走行するOn Vehicle Test などが行われている。このような暴露試験に基づいて表面処理鋼板の製品設計をすることも行われているが、長期暴露試験は長時間を要するという問題があり、製品によっては10年以上の時間を要する。そのため、自動車等の製品設計を行う上で、使用される鋼板の寿命を短期間で予測できる耐食性評価方法の重要性が増している。
【0003】
上記を受けて、塩水噴霧、乾燥、湿潤等を組み合わせた複合サイクル腐食試験が数多く開発されてきた。自動車用腐食試験法としては、国内外で規格化されている試験法、例えば、国内では、JASO M 609-91で規格された試験法、米国では、米国自動車技術会で定めたSAE J2334などの複合サイクル試験法がある。
また、複合サイクル腐食試験方法が幾つか提案されている。例えば、非特許文献1には、試験片に塩水を付着させた後に、露点温度を一定(33℃)にした湿潤工程と乾燥工程とを繰り返す腐食促進試験方法が提案されている。この試験方法は、湿潤工程(35℃、相対湿度90%)7時間−移行時間1時間−乾燥工程(42℃、相対湿度60%)3時間−移行時間1時間を1サイクルとしたサイクル腐食試験である。
特許文献1には、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程(A)と、金属材料に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1乃至複数回行う工程(B)からなり、工程(A)と工程(B)からなる工程を1乃至複数回行って耐食性を評価することを特徴とする金属材料の耐食性評価方法が提案されている。
また、環境条件だけでなく、自動車の形状を模擬して加工した試験片を腐食試験に用いる場合もある。自動車において、腐食が激しい代表的な部位としては、フードパネル、ドア、クオーター、ホイールハウス、サイドシルなどの鋼板合わせ部が挙げられることから、このような部位に合わせて、合わせ部形状で評価することが必要となる。例えば、鋼板合わせ部の穴あき腐食に対する耐食性は、合わせ内部特有の腐食環境を模擬するために、鋼板を重ね合わせた試験片やヘミング形状に加工した試験片が用いられる。また、自動車のプレス成型を模擬して、表面処理鋼板に張出し加工や深絞り加工を付与した試験片が腐食試験に供されている(例えば、特許文献2)。
また、非特許文献2では、自動車におけるドアヘム部を模擬した試験片を用いて腐食試験を行うことにより、ドアヘム部における鋼板の耐久性を評価している。しかし、使用される材料が本来持つ耐久性を発現する構造かどうかを決定する手段には至っていない。
非特許文献3では、自動車の腐食が発生しやすい鋼板合わせ部や袋構造部の長期防錆保証対応が示されているが、これは経験的かつ定性的な判断によるものであり、その根拠及び定量的判断については示されていない。
一方、非特許文献4には、市場走行車から採取した鉄系腐食生成物のX線回折法(内部標準法)による定量解析を行い、ドアやサイドシルなどの鋼板合わせ部では特徴的な鉄錆組成を有することを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329573号公報
【特許文献2】特開平8−166338号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】VOLVO Corporate Standard STD 1027、1375(established 1995-06 JB)
【非特許文献2】The Sumitomo Serch、39、P11〜18(Sept、1989)
【非特許文献3】防錆管理、 6、p314〜319(2007)
【非特許文献4】ISIJ International、 Vol.41、No.3、P.275 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
非特許文献1では、湿潤工程時間/(乾燥工程時間+湿潤工程時間)が70%と湿潤工程時間が極めて長く、実際の使用環境における腐食現象を再現できないという問題点があった。
特許文献1では、被試験体を洗浄する工程がないことから、サイクル毎に付着される試験液に含まれる塩分が被試験体表面に蓄積してしまい、実際の使用環境を再現できないという問題があった。
このように、塩水噴霧・乾燥・湿潤等を組み合わせた複合サイクル腐食試験では実環境を適切に再現しておらず、実際の腐食環境を適切に再現した腐食促進試験法がない。更に、腐食促進試験法の種類によって材料の耐食性の序列が逆転する場合もあった。これは、材料によって耐環境性が違うため、例えば塩分の多い環境では耐食性を示すが塩分の少ない環境では耐食性が劣る材料、逆に塩分の多い環境では耐食性を示さないが塩分の少ない環境では耐食性を示す材料があるためである。
自動車の形状を模擬して加工した試験片を腐食試験に用いる場合(特許文献2、非特許文献2〜4)についても、以下の問題がある。
現在は、鋼板を重ね合わせていない平板試験片で合わせ内部特有の腐食環境を模擬することが困難であるため、合わせ部を模擬した試験片を用いている。しかし、このような合わせ部を模擬した試験片は、試験片の作製に時間がかかること、試験片を分解するまで内部の状況が不明であるため多くの試験片を準備して評価しなければならないこと、合わせ部内部には塩水の浸入が不均一であり結果がばらつく場合があること、という問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、鋼板を重ね合わせていない平板試験片を用いて、実際の自動車の鋼板合わせ部の腐食に対して相関性が高い、金属材料の耐食性評価方法及び前記耐食性評価方法を行うための金属材料の腐食促進試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
鋼板を重ね合わせていない平板試験片を用いて、自動車の鋼板合わせ部特有の腐食環境を模擬するためには、湿潤環境における雰囲気中の酸素濃度を低下させて、前記試験片を腐食環境に供して耐食性を評価することが重要となる。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づき、鋭意研究を重ねた結果完成されたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]下記の工程(A)及び下記の工程(B)の各工程を1回以上行うことにより耐食性を評価することを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
工程(A):金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる工程
工程(B):金属材料に対して、湿潤工程での雰囲気中の酸素濃度が0〜18体積%の範囲内で温度及び相対湿度を変化させて設定した湿潤工程と乾燥工程とを繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
【0009】
[2]前記[1]の前記工程(A)は、塩水浸漬、塩水噴霧、塩水シャワー、塩水滴下のいずれか一つ以上により、塩水の濃度:0.01〜10質量%で、時間:10秒〜2時間で行うことを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
【0010】
[3]前記[1]または[2]の前記工程(A)は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、海塩、人工海水、塩化ナトリウム−塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム−塩化カルシウム混合物、塩化マグネシウム−塩化カルシウム混合物のいずれか一つ以上を含む塩水を用いることを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
【0011】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかの前記工程(B)において、湿潤工程及び乾燥工程は下記の条件範囲内で行うことを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
湿潤工程:温度;20〜60℃、相対湿度;80〜100%、保持時間;2〜12時間
乾燥工程:温度;20〜60℃、相対湿度;75%以下、保持時間;2〜12時間
【0012】
[5]前記[1]〜[4]いずれかの前記工程(B)において、湿潤工程を先に行い、その後に乾燥工程を行うことを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
【0013】
[6]前記[1]〜[5]いずれかの前記工程(B)において、湿潤工程と乾燥工程の間には、30分〜2時間の移行時間を設けることを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
【0014】
[7]前記[1]〜[6]いずれかの金属材料の耐食性評価方法において、下記の条件(C)の2水準以上について、金属材料の耐食性評価方法を行うことを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
条件(C):前記工程(A)における塩分物イオンを含む塩分濃度条件
【0015】
[8]前記[7]の金属材料の耐食性評価方法により2水準以上で耐食性を評価し、該評価結果に基づき、前記水準間を外れる領域での耐食性を外挿して評価することを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
【0016】
[9]前記[1]〜[8]いずれかの金属材料の耐食性評価方法を行うための金属材料の腐食促進試験装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属材料の耐食性評価方法によれば、実際の自動車の鋼板合わせ部の腐食に対して相関性が高い評価を簡便に且つ適切に得ることができる。
また、短期間の試験で、適切且つ高精度に金属材料の耐食性評価を行うことが可能となり、自動車の部材設計に対して特に有効な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の一つであり、金属材料の耐食性評価を行うための腐食促進試験の工程を示す図である。
【図2】3種類の金属材料において、環境因子として塩分付着量を例にとり、腐食促進試験の或る試験期間における塩分付着量と腐食量の関係を比較して示した模式図である。
【図3】3水準の塩分付着量を設定して腐食促進試験を行ったときの腐食量の経時変化を示した模式図である。
【図4】図3に基づき、試験期間t1、t2、t3、t4における塩分付着量と腐食量との関係を示した模式図である。
【図5】図3及び図4の結果から予測した塩分付着量dにおける腐食量の経時変化を示した模式図である。
【図6】図3及び図4の結果に基づいて、塩分付着量と腐食寿命の関係を示した模式図である。
【図7】本発明の金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の他の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の他の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の他の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の他の一例を示す概略図である。
【図12】表5の結果に基づいて、腐食生成物を3元に整理した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳述する。
[実施形態1]
本発明に係る耐食性評価方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態の一つであり、金属材料の耐食性評価を行うための腐食促進試験の工程を示す図である。図1に示される腐食促進試験では、実際の環境を模擬するために種々の環境因子を組み合わせた、下記の工程(A)及び下記の工程(B)の各工程を1回以上行う。
工程(A):金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる工程。
工程(B):金属材料に対して、湿潤工程での雰囲気中の酸素濃度が0〜18体積%の範囲内で温度及び相対湿度を変化させて設定した湿潤工程と乾燥工程とを繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程。
【0020】
また、本発明においては、上記の工程(A)及び上記の工程(B)からなるサイクルを1回以上行うことが好ましい。例えば、本発明の耐食性評価方法が、自動車の使用される環境を想定したものである場合、実環境における自動車用鋼板等の腐食状況などと、本発明の耐食性評価方法による実際の試験片の腐食状況とを考慮してそのサイクル数を設定すればよい。
【0021】
まず、工程(A)について説明する。
本発明において、金属材料の表面に塩分を付着させる方法としては、塩水浸漬、塩水噴霧、塩水シャワー、塩水滴下等を用いることができる。使用する塩化物イオンを含む塩水の濃度は0.01〜10質量%、前記(A)の工程の時間は10秒〜2時間として、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させることが好ましい。
0.01質量%以上とすると腐食の進行が遅すぎることがなく、一方、10質量%以下とすると実際の腐食環境における腐食との相関を高くできる。
金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させる時間(以下、「所要時間」と称すこともある)を10秒以上とすると塩分の付着が十分であるため腐食が進行しないことがない。2時間以下とすると試験片を塩水に接触させたときの塩水溶液による試験片の腐食の進行が大きくなりすぎることがなく、実際の腐食環境における腐食との相関が高くなり好ましい。
また、塩水の流量分布が均等となることから、塩水噴霧を選択することが好ましい。塩水噴霧に用いるスプレーノズルの種類としては、一流体スプレーノズル(圧力をもって送られる液体が微細化して噴霧されるノズル)、二流体スプレーノズル(圧搾空気等の高速の流体を利用して液体を微細化するノズル)等がある。二流体スプレーノズルにも液体の供給方式の違いにより、液加圧タイプ(液体を加圧して二流体ノズルに供給)、サクションタイプ(圧搾空気の力で液体を吸い上げて噴霧)がある。また、塩水を用いることからノズルの材料はステンレス等の耐食金属を用いることが好ましい。
【0022】
前記(A)工程において塩水噴霧を選択する場合は、金属材料に付着した塩化物イオンを含む塩水の平均粒径が1〜300μmとなるように、塩化物イオンを含む塩水を噴霧して金属材料の表面に塩分を付着させることが好ましい。付着した塩水の平均粒径が300μmを超えると試験結果のバラツキが大きくなる傾向にあり、一方、塩水の平均粒径が1μm未満では塩分の付着に時間がかかり、さらに塩分付着量の制御が困難になり、試験結果にバラツキを生じることになる可能性があるためである。
【0023】
前述のとおり、本発明においては、金属材料の表面に塩分を付着させる方法は特に限定はしないが、前述の範囲に金属材に付着した塩水の平均粒径は、スプレーノズルの噴霧形状、噴霧量、噴霧圧力、噴霧角度、噴霧距離を適宜選択することにより付着させる塩水の平均粒径を調整することができる。その場合、付着させる塩水の平均粒径は1〜300μmとすることが好ましい。なお、金属材料に付着する前の塩水の平均粒径は、液浸法、レーザー法(フランホーヘル回折法、ドップラー法)などで測定することができる。
【0024】
なお、付着した塩水の平均粒径は、(A)工程後に金属材を湿潤状態で取り出し、光学顕微鏡観察を行って付着している塩水の粒径を測定し、平均値を求めることにより得られる。付着した塩水の粒径は最大径とそれに直交する径の平均値とする。
【0025】
また、金属材料の表面に付着した塩分量の制御は、塩水濃度、噴霧圧力、噴霧時間等を調整して行えばよい。塩分付着量の測定は、金属材料に付着させた塩水の質量を測定し塩分質量に換算する方法、蒸留水または脱イオン水を含浸した脱脂綿等で金属材料表面を払拭し、付着したClイオンをイオンクロマトグラフィー等により分析し、Cl濃度から使用した塩の質量に換算する方法等が挙げられる。
【0026】
また、自動車の使用される環境では、冬季に道路に散布される融雪塩や飛来海塩が自動車の腐食に影響を及ぼすことから、使用する塩水としては塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、海塩、人工海水、塩化ナトリウム−塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム−塩化カルシウム混合物、塩化マグネシウム−塩化カルシウム混合物のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。
【0027】
次いで、工程(B)について説明する。
工程(B)では、金属材料に対して、湿潤工程での雰囲気中の酸素濃度が0〜18体積%の範囲内で温度及び相対湿度を変化させて設定した湿潤工程と乾燥工程とを繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う。
(B)の湿潤工程と乾燥工程を繰り返す工程において、湿潤工程及び乾燥工程は、互いに異なる温度、相対湿度に設定される。湿潤工程から乾燥工程へ移行(又は逆方向に移行)すると、温度と相対湿度が設定変更される。この設定変更はステップ状に変更されることが好ましい。本発明においてステップ状に変更するとは、後述する移行時間を30分未満として温度と相対湿度を変更する場合を意味する。
(B)の工程において、少なくとも1回の湿潤工程における雰囲気中の酸素濃度は0〜18体積%の範囲とし、好ましくは酸素濃度が0〜10体積%、より好ましくは0〜5体積%以下とする。
これは、試験槽内の雰囲気中の酸素濃度を低下させることにより(大気中の酸素濃度は通常20.9体積%程度)、鋼板を重ね合わせていない平板試験片でも合わせ内部特有の腐食環境を模擬することを可能とするためである。その結果、合わせ部を模擬した試験片に比べて試験片の作製の時間が短くなる。試験片を分解しなくても内部の腐食状況が観察できるため試験片の数を減らすことができる。さらには、塩水の付着が均一に管理しやすいため、試験結果のバラツキが小さくなる。また、雰囲気中の酸素濃度の調整は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスに酸素を混合して行えばよく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスと大気を混合して調整しても良い。試験槽内への空気を流し入れる際には空気を加湿することが好ましい。空気を加湿しない場合、乾燥した空気により試験槽内の相対湿度が低下することがあるためである。空気を加湿する方法は特に限定しないが、水中で空気をバブリングして加湿する方法、水蒸気を混合する方法などが挙げられる。
【0028】
湿潤工程から乾燥工程、及び乾燥工程から湿潤工程までの移行時間を予め所定の時間に設定するのが好ましい。これは、移行時間を設定しない場合、試験装置によって湿潤工程から乾燥工程までの移行時間や、乾燥工程から湿潤工程までの移行時間に差が生じ、試験結果のばらつきが生じることがあるためである。湿潤工程から乾燥工程までの移行時間及び乾燥工程から湿潤工程までの移行時間は、それぞれ30分〜2時間、30分〜2時間とすることが好ましい。この範囲とすることで、試験結果のばらつきを極めて小さくできる。なお、湿潤工程から乾燥工程までの移行時間、乾燥工程から湿潤工程までの移行時間は同一時間に設定する必要は無く、別々に設定しても良い。
【0029】
自動車の鋼板合わせ部の腐食を対象とするため、工程(A)で金属材料表面に付着した塩水が工程(B)で金属材料の表面からすぐに乾燥してしまうことを防止する観点から、工程(B)は、湿潤工程を先に行い、その後に乾燥工程を行うことが好ましい。
【0030】
また、工程(B)においては、湿潤工程では、温度:20〜60℃、相対湿度:80〜100%、保持時間:2〜12時間とし、乾燥工程では、温度:20〜60℃、相対湿度:75%以下、保持時間:2〜12時間として行うことが好ましい。以下、これについて説明する。
【0031】
湿潤工程の条件について、湿潤温度は20〜60℃に設定するのが好ましい。湿潤温度が20℃未満では腐食の促進効果が小さく試験に時間がかかる場合がある。一方、湿潤温度が60℃を超えると鉄が亜鉛に対して犠牲溶解する傾向があり、60℃を超えることが少ない実際の環境と異なった腐食現象を呈してしまう場合がある。
湿潤工程の相対湿度は80〜100%が好ましい。湿潤工程の相対湿度が80%未満であると湿潤の影響が不十分となり評価に時間がかかる場合がある。塩化物の中で塩化ナトリウムは飽和臨界蒸気圧が最も高く相対湿度換算で約75〜78%である。したがって、相対湿度を80%以上にしておくといずれの塩化物も表面は化学凝縮作用により湿潤状態を保つことができる。一方、相対湿度が100%を超えると結露によって生成した水膜厚さが厚くなりすぎて付着塩分が流されやすくなる。
湿潤工程の条件において、保持時間は2〜12時間が好ましい。保持時間が2時間未満では、試験槽内の腐食環境が一定にならず試験槽内の場所によって試験結果のばらつきが大きくなったり、複数の試験装置で評価する場合に腐食環境に差が生じ、試験結果にばらつきが生じたりする。一方、12時間を超えると、実際の腐食環境と合わなくなり、更に耐食性の評価に長時間を要することになる。
【0032】
乾燥工程の条件において、乾燥温度は20〜60℃に設定するのが好ましい。これは、自動車の使用される環境を想定した場合、乾燥温度が60℃を超えると自動車用鋼板等の腐食形態や耐食性の序列が実際の腐食環境と合わなくなる場合があるからである。自動車用鋼板等としては主に亜鉛系めっき鋼板が使用される。これは亜鉛が鉄に対して犠牲溶解し鉄を防食する機能を有しているからである。しかし、乾燥温度が60℃を超えると鉄が亜鉛に対して犠牲溶解する場合があり、60℃を超えることが少ない実際の環境と異なった腐食現象を呈してしまう場合がある。一方、乾燥温度が20℃未満では腐食の促進効果が小さく試験に時間がかかる。より好ましくは40℃以上60℃以下である。
乾燥工程の相対湿度は75%以下が好ましい。自動車の使用される環境で腐食に影響を及ぼす塩の中で飽和臨界蒸気圧の高い塩は塩化ナトリウムである。塩化ナトリウムの飽和臨界蒸気圧は相対湿度換算で約75〜78%であり75%以下で乾燥する。そのため、自動車の使用される乾燥した環境を想定した場合、実環境における自動車用鋼板等の腐食形態を再現するためには乾燥工程の相対湿度を75%以下に設定する必要がある。また、海塩は塩化ナトリウムと塩化マグネシウムがその主成分である。塩化マグネシウムの飽和臨界蒸気圧は相対湿度換算で約30〜35%であり海塩に含まれる化学物質では最も低く乾燥しにくい。そのため、自動車の使用される環境を想定した場合、実環境における自動車用鋼板等の腐食を再現するためには乾燥工程の相対湿度をより好ましくは30%以下に設定する。
乾燥工程の保持時間は2〜12時間であることが好ましい。保持時間が12時間を越えると腐食の促進効果が小さくなり試験に時間がかかる上、実際の腐食環境と合わなくなる場合がある。保持時間が2時間未満では、試験装置内の腐食環境が一定にならず試験装置内の場所によって試験結果のばらつきが大きくなったり、複数の試験装置によって腐食環境に差が生じ、試験結果にばらつきが生じたりする場合がある。
【0033】
また、環境因子に関し、降雨による洗浄、日光照射量、イオウ酸化物の影響を考慮する必要がある場合は、前記腐食促進試験の過程で、洗浄工程、紫外線照射工程、雰囲気にイオウ酸化物(SOx)供給工程を付加することもできる。
【0034】
[実施形態2]
自動車の使用される環境において、塩の種類や塩分量は使用地域や使用場所によって異なる。そして、金属材料の耐食性に及ぼす環境因子の影響は金属材料の種類によって様々である。よって、環境因子を変化させて腐食促進試験を行い、各金属材料の耐食性の特性を調べることが望ましい。図2は、3種類の金属材料において、環境因子として塩分付着量を例にとり、腐食促進試験の或る試験期間における塩分付着量と腐食量との関係を比較して示した図である。また、ここで腐食量とは、塗装膜の膨れ幅(または、単に、膨れ幅)や亜鉛めっきや下地鋼材の腐食量等を示す。図2からも明らかなように、塩分付着量と腐食量との関係を示す直線の傾きは金属材料No.1、No.2、No.3で異なり、塩分付着量水準a、b、cにおいて、金属材料No.1、No.2、No.3の腐食量の序列が入れ替わっている。
【0035】
このように、或るひとつの水準で腐食促進試験を行うことは耐食性評価の判断を間違う可能性がある。よって、環境因子の水準を変化させて腐食促進試験を行い、金属材料の耐食性の特性を調べることが好ましい。例えば、工程(A)における塩分物イオンを含む塩分濃度条件(「条件(C)」と定義する)の2水準以上に対して、金属材料の耐食性評価を行うことが好ましい。自動車の使用される環境において、塩分量は使用地域や車体部位によって異なる。また、自動車用鋼板等の金属材料の耐食性に及ぼす塩分量の影響は金属材料の種類によって異なる。したがって、塩分濃度条件を変化させて耐食性評価を行うことにより、金属材料の様々な使用環境での耐食性を評価できるからである。
また、工程(A)における塩分付着量条件(「条件(D)」と定義する)、または、工程(B)における乾燥工程の条件と湿潤工程の条件との組み合わせからなる条件(「条件(E)」と定義する)、若しくは、条件(D)及び条件(E)の2水準以上に対して、金属材料の耐食性評価を行うことが好ましい。
【0036】
その他の条件として、工程(A)では、塩分種類、付着させる回数、時間、温度の2水準以上に対して耐食性評価を行ってもよい。
【0037】
条件(E)としては、露点条件(「条件F」と定義する)、並びに、乾燥工程の温度、湿度、保持時間、及び湿潤工程の温度、湿度、保持時間の組み合わせ、そして、湿潤率条件(「条件G」と定義する)が挙げられる。ここで、湿潤率は、「湿潤率=[湿潤工程保持時間/(乾燥工程保持時間+湿潤工程保持時間)]」の式で表される。
【0038】
中でも、条件(F)(=工程(B)の露点条件)及び条件(G)(=工程(B)の湿潤率条件)は、実際の環境で支配的環境因子となることが多いことからその影響を調べる点で好ましく、条件(F)及び/または条件(G)の2水準以上に対して、耐食性評価を行うことが好ましい。
【0039】
本発明の金属材料の耐食性評価方法においては、上記した条件の中から適宜選択した条件の2水準以上に対して行えばよい。条件の選択の仕方はそれが支配的環境因子となるかどうかに基づいて決めることができる。尚、支配的環境因子とは、その条件レベルが材料の耐食性(腐食量や腐食寿命)に影響を及ぼすような条件のことである。
【0040】
例えば、支配的環境因子が塩分付着量である場合、条件(D)(=工程(A)の塩分付着量)は少なくとも2水準以上で評価する。支配的環境因子が温度である場合、工程(B)の乾燥工程の温度と湿潤工程の温度について少なくとも2水準以上で評価する。支配的環境因子が湿潤率である場合には、条件(G)を少なくとも2水準以上の条件で行う。支配的環境因子が塩分付着量と温度である場合には、条件(D)については少なくとも2水準以上とし、工程(B)の乾燥工程の温度と湿潤工程の温度も少なくとも2水準以上とし、両方の条件を変えた組み合わせ条件で行えばよい。支配的環境因子が塩分付着量と湿潤率である場合、条件(D)を少なくとも2水準以上とし、また、条件(G)を少なくとも2水準以上とし、両方の条件を変えた組み合わせ条件で行えばよい。この場合、前記で得られる組み合わせ条件毎に行ってもよく、試験負荷を低減する観点から前記で組み合わされた条件のうちから選ばれた複数の条件で行ってもよい。
【0041】
以上からなる金属材料の耐食性評価方法により、本発明では、更に、評価時の水準間範囲を外れる領域での耐食性を評価することが可能となる。具体的には、先ず、本発明の金属材料の評価方法により2水準以上の条件で耐食性を評価する。次いで、評価時の水準間範囲を外れる水準(領域)での耐食性を、この評価結果を基づき外挿して予測し評価する。実際の腐食環境は、従来の腐食促進試験法に比べてマイルドな傾向がある。例えば、実際の腐食環境における塩分付着量は、腐食促進試験における塩分付着量に比べて少ない場合が多い。そこで、塩分付着量の少ない腐食促進試験を行うことが好ましいが、腐食速度が小さく評価に時間がかかるという問題がある。そこで、塩分付着量の多い条件を含む少なくとも2水準以上の塩分付着量を設定し腐食促進試験を行い、塩分付着量の小さい環境の腐食量を外挿して予測することができる。
【0042】
図3は、或る金属材料について3水準の塩分付着量a、b、c(a>b>c)を設定して腐食促進試験を行ったときの腐食量の経時変化を示した模式図である。図4は、図3に基づき、試験期間t1、t2、t3、t4(t1<t2<t3<t4)における塩分付着量と腐食量との関係を示した模式図である。図3及び図4より、塩分付着量a、b、cにおける各試験期間の腐食量を外挿して塩分付着量d(d<c)の腐食量を予測することができる。図5は、上記結果に基づいて予測した塩分付着量dにおける腐食量の経時変化を示した模式図である。
【0043】
また、腐食寿命についても上記腐食量と同様に各試験期間の腐食寿命を外挿することにより予測することができる。図6は、図3及び図4の結果に基づいて、塩分付着量を例に取り、塩分付着量と腐食寿命との関係を示した模式図である。尚、腐食寿命とは外観の変化(さび発生時間等)や図3の腐食量の経時変化において腐食量のしきい値に達する時間(例えば塗装膜の膨れ幅が5mmに達する時間等)を表す。
【0044】
このように、2水準以上で行った耐食性評価結果に基づき、評価時の水準間範囲を外れる水準(領域)での耐食性を外挿し予測することにより、腐食量や腐食寿命等の金属材料の腐食情報を得ることが可能となる。そして、評価した金属材料を実機等の各部位(以下、実構造物と称す)に用いる場合に、この実構造物の腐食情報が得られることになり、腐食を予測した情報及び/または前記情報を示す記号を金属材料に添付することが可能となる。
【0045】
[実施形態3]
図7〜図11は、本発明に係る金属材料の耐食性評価方法を行うための腐食促進試験装置の構成の一例を示す概略図である。これらの図において、符号1は窒素ガスボンベ、符号2は酸素ガスボンベ(又は大気)、符号3は試験片(金属材料)、符号4は浸漬槽、符号5は塩水、符号6はスプレー、符号7はスプレーノズル、符号8はステージである。
本発明の腐食促進試験装置は、図7〜図11に示すように、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる装置及び乾燥湿潤試験装置で構成される。そして、図7〜図11に示す各乾燥湿潤試験装置には、窒素ガスボンベ1と酸素ガスボンベ(又は大気)2が接続されており、それぞれのガスの流量を調整して、試験槽内の雰囲気中の酸素濃度を調整する。
図7に示す腐食促進試験装置では、塩分付着装置及び乾燥湿潤試験装置が別々の装置になっており、恒温恒湿槽が乾燥湿潤試験装置として設置される。塩分付着装置(塩水浸漬槽)では、試験片3(金属材料)を浸漬槽4に浸漬することで、浸漬槽4内の塩水5が試験片3(金属材料)の表面に付着する。そして、試験片3(金属材料)は、定期的に塩分付着装置、乾燥湿潤試験装置(恒温恒湿槽)の間を手動で移動する。
図8に示す腐食促進試験装置では、塩分付着装置(塩水スプレー装置)及び乾燥湿潤試験装置が別々の装置になっており、恒温恒湿槽が乾燥湿潤試験装置として設置される。塩分付着装置(塩水スプレー装置)では、スプレー6により試験片3(金属材料)に塩水5が噴霧されることで、塩水5が試験片3(金属材料)の表面に付着する。そして、試験片3(金属材料)は、定期的に塩分付着装置、乾燥湿潤試験装置(恒温恒湿槽)の間を手動で移動する。
図9に示す腐食促進試験装置では、塩分付着装置、乾燥湿潤試験装置が別々の装置になっており、恒温恒湿槽が乾燥湿潤試験装置として設置される。塩分付着装置では、スプレーノズル7によりステージ8上に置かれた試験片3(金属材料)に霧状の塩水5が噴霧されることで、塩水5が試験片3(金属材料)の表面に付着する。そして、試験片3(金属材料)は、定期的に塩分付着装置、乾燥湿潤試験装置(恒温恒湿槽)の間を手動で移動する。
図10に示す腐食促進試験装置では、塩分付着装置及び乾燥湿潤試験装置が横並びに配置されている。塩分付着装置では、スプレーノズル7によりステージ8上に置かれた試験片3(金属材料)に霧状の塩水5が噴霧されることで、塩水5が試験片3(金属材料)の表面に付着する。そして、試験片3(金属材料)は、定期的に塩分付着装置、乾燥湿潤試験装置(恒温恒湿槽)の間を自動的に移動する。
図11に示す腐食促進試験装置では、塩分付着装置及び乾燥湿潤試験装置が一体装置となっており、定期的に塩分付着を行い、その後、乾燥工程及び湿潤工程の繰り返しを行う。
【0046】
以上のように、本発明の腐食促進試験装置としては、特にその構成は限定しないが、耐食性の評価を行うにあたって、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる工程(A)、金属材料に対して、温度と相対湿度を変化させて設定した乾燥工程及び湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程(B)を実施可能な構成とすることが必須である。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。尚、本発明はこれらに限定されるものではない。
冷間圧延鋼板(板厚0.8mm)を150mm×70mmに切断し、有機溶剤中で超音波脱脂した後、端面と裏面をシールテープで被覆し、評価面を120mm×50mmとした。表1〜表4に示す条件で、工程(A)(塩分付着工程)、工程B(乾燥工程と湿潤工程との繰り返し)を順次行う耐食性評価試験を施した(本発明例1〜25)。また、比較のために、表5に示す条件で耐食性評価試験を施した(比較例1〜3)。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
尚、塩水付着工程は、湿潤工程の開始前に行った。塩水濃度は質量%で示す。また、乾燥工程と湿潤工程との間に移行時間を設ける場合は表の備考の欄に示した。湿潤工程の酸素濃度は体積%で示す。本発明例14、15、21は塩水濃度条件、つまり塩分付着量条件を複数設定し、複数の耐食性評価を行った。試験後に試験片表面の塩水付着状況と腐食状況を観察した。ここで、塩水スプレーは液加圧タイプの二流体スプレーノズルを使用し、噴霧された塩化物イオンを含む霧状の塩水の粒径はドップラー法により計測して平均粒径を求めた。また、1回目の塩分付着工程の噴霧直後の試験片を取り出し、付着した塩水の粒径を光学顕微鏡により10点の塩水付着部を観察し、その平均を求めた。また、塩分付着量は、1回目の塩分付着後の金属材料の試験面を、脱イオンを含浸した脱脂綿で払拭し、この脱脂綿を脱イオン水へ浸漬し、溶出したCl濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、試験面積から換算して求めた。試験期間は20日間とした。
腐食試験後の腐食生成物をカッターナイフとワイヤーブラシを用いて採取した。腐食生成物中の鉄系酸化物(鉄錆)量をX線回折法の内部標準法による定量解析により測定した。X線回折法の内部標準法は、既知の内部標準物質と検体とを一定の割合で混合して、この内部標準物質に対する各成分の強度比から含有率を求める方法である。定量解析の鉄系酸化物は、α-FeOOH、β-FeOOH、γ-FeOOH、Fe3O4の4種を対象とした。内部標準物質としては鉄系酸化物とX線パターンが重ならず、また化学的に安定なCaF2を適用した。また、定量解析では、腐食生成物とCaF2とを5対1に混合した。結晶性の鉄系酸化物の成分比の総和を全量(100%)から差し引いた値を非晶質な腐食生成物の成分量とした。得られた結果を表6に示す。また、表6の結果を基に、鉄系酸化物の酸化還元反応を考慮した以下の分類による3元に整理した結果を図12に示す。
I:「α-FeOOH」
II:「Fe3O4+γ-FeOOH」
III:「β-FeOOH+非晶質」
さらに、表6では、図12において、得られた腐食生成物の組成が、北米融雪塩散布地域を走行した実車の鋼板合わせ部から採取した腐食生成物の範囲内である場合を実車再現性あり:○、該範囲外である場合を、実車再現性なし:×と評価した。
【0054】
【表6】

【0055】
表6及び図12に示すように、本発明例1〜25の試験条件(本発明例14、15、21の複数の塩分付着量条件を設け、複数の耐食性評価を行った場合ではその全ての場合)では、北米融雪塩散布地域を走行した実車の鋼板合わせ部から採取した腐食生成物と同様の組成が得られることが確認された。この結果から、本発明例の試験条件は、自動車の鋼板合わせ部の腐食環境を再現していることが確認できた。
【0056】
一方、比較例1〜3の試験条件では、北米融雪塩散布地域を走行した実車の鋼板合わせ部から採取した腐食生成物と組成が異なっていたことから、自動車の鋼板合わせ部の腐食環境を再現していないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る金属材料の耐食性評価方法を適用するにあたって、その適用範囲は限定することなく、幅広く用いることができる。特に、自動車の鋼板合わせ部の腐食環境を模擬した腐食試験条件による腐食の情報が添付されているため、例えば、北米などの融雪塩散布地域などで使用される自動車等で有用な材料といえる。
【符号の説明】
【0058】
1 窒素ガスボンベ
2 酸素ガスボンベ(又は大気)
3 試験片(金属材料)
4 浸漬槽
5 塩水
6 スプレー
7 スプレーノズル
8 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(A)及び下記の工程(B)の各工程を1回以上行うことにより耐食性を評価することを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
工程(A):金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩水を接触させ塩分を付着させる工程
工程(B):金属材料に対して、湿潤工程での雰囲気中の酸素濃度が0〜18体積%の範囲内で温度及び相対湿度を変化させて設定した湿潤工程と乾燥工程とを繰り返すことを1サイクルとし、このサイクルを少なくとも1回行う工程
【請求項2】
前記工程(A)は、塩水浸漬、塩水噴霧、塩水シャワー、塩水滴下のいずれか一つ以上により、塩水の濃度:0.01〜10質量%で、時間:10秒〜2時間で行うことを特徴とする請求項1に記載の金属材料の耐食性評価方法。
【請求項3】
前記工程(A)は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、海塩、人工海水、塩化ナトリウム−塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム−塩化カルシウム混合物、塩化マグネシウム−塩化カルシウム混合物のいずれか一つ以上を含む塩水を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属材料の耐食性評価方法。
【請求項4】
前記工程(B)において、湿潤工程及び乾燥工程は下記の条件範囲内で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の金属材料の耐食性評価方法。
湿潤工程:温度;20〜60℃、相対湿度;80〜100%、保持時間;2〜12時間
乾燥工程:温度;20〜60℃、相対湿度;75%以下、保持時間;2〜12時間
【請求項5】
前記工程(B)において、湿潤工程を先に行い、その後に乾燥工程を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の金属材料の耐食性評価方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、湿潤工程と乾燥工程の間には、30分〜2時間の移行時間を設けることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の金属材料の耐食性評価方法。
【請求項7】
下記の条件(C)の2水準以上について、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の金属材料の耐食性評価方法を行うことを特徴とする金属材料の耐食性評価方法。
条件(C):前記工程(A)における塩分物イオンを含む塩分濃度条件
【請求項8】
請求項7に記載の金属材料の耐食性評価方法により2水準以上で耐食性を評価し、該評価結果に基づき、前記水準間を外れる領域での耐食性を外挿して評価することを特徴とする、金属材料の耐食性評価方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の金属材料の耐食性評価方法を行うための、金属材料の腐食促進試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−174859(P2011−174859A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40149(P2010−40149)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】