説明

金属材料用水系表面処理剤及び表面被覆金属材料

【課題】耐食性、成形加工性、耐薬品性、耐湿性に優れた皮膜を形成し得る金属材料用水系表面処理剤及び表面被覆金属材料の提供。
【解決手段】50℃を超えるガラス転移温度及び40℃以下の最低造膜温度を有する水分散性ウレタン樹脂(A)、メチロール化フェノール及びその縮合物、カルボジイミド樹脂、エポキシ系樹脂、シランカップリング剤、有機ホスホン酸類及びその部分的なアルカリ金属塩/アンモニウム塩/アルキルエステル、有機ホスフィン酸類、ポリオールのリン酸エステル、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、カルボン酸、アミノ樹脂、並びにイソシアナト基に重亜硫酸アルカリ金属塩を付加させることによりイソシアナト基を保護したウレタンプレポリマーから選ばれる少なくとも1種の有機化合物(B)、及びジルコニウム化合物(C)を水に配合してなる金属材料用水系表面処理剤;及び該表面処理剤で処理して得られる金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材、家電、自動車などの分野に適用される金属材料、特にアルミニウム板、アルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板等に、ロールフォーミングや絞りしごきといった厳しい成形加工に耐える成形加工性、また使用環境下で長期品質を維持する上で必要な耐食性、耐薬品性等を付与するための、クロムを含有しない水系表面処理剤、並びに該表面処理剤を用いて表面被覆した金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板、アルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板は、素材表面にアルミニウムの緻密な酸化物層が存在するために耐食性が優れる。その特徴を利用して、建家の屋根材や外壁材、農業用ビニールハウスの支柱などの建材製品、ガードレール、防音壁、排水溝などの土木製品、家電製品、産業機器、飲食用容器などに無塗装で用いられることが多い。そのため、表面が変色することなく、きれいな表面外観を長期間維持できることが要求される。そのなかで、アルミニウム板を例に挙げると、飲食用容器などのカップ状成形物や一般事務用ケースを製造するために絞りしごき加工が施される。また、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼板を例に挙げると、建材用途の一部でロールフォーミングにより加工が施される。後者においては操業上、めっきがロールに堆積しないことが要求される。また、ロールフォーミング後の外観も重要であり、表面に損傷が無く、耐食性に優れていることが好ましい。さらに、建材用途の場合には、成形加工時に用いられるクーラント(加工時の補助油)を除去する目的で使用する洗浄液が強アルカリであったり、またコンクリートとの接触、畜舎の内壁など強アルカリ腐食環境下に置かれる場合があり、その際にもめっき鋼板の表面が変色することなく、きれいな外観が長期間維持されることが必要である。また、高温多湿雰囲気下ではアルミニウムは黒く変色する性質があり、それを防止する耐湿性も意匠性の点から重要である。
【0003】
前記問題を改善する従来技術として、6価クロムイオンを含有する樹脂被覆を施す技術が多数提案されている。その具体的な例として特許文献1に記載された方法がある。特許文献1には、ロールフォーミング性及び耐食性の向上を目的として、特定の水溶性又は水分散性樹脂に6価クロムイオンを特定の割合で配合し、かつ、pHを3〜10に調整した水系処理液をアルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板表面に塗布する処理方法が記載されている。6価クロムイオンを含有する表面処理を施したアルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板は耐食性、特に加工部耐食性に優れている。しかしながら、6価クロムイオンには人体に直接的な悪影響を及ぼす欠点があるため、近年の環境保全に対する意識の高まりの中、クロメート処理は敬遠されがちである。また、6価クロムイオンを含む排水には、水質汚濁防止法に規定されている特別な処理を施す必要があり、これが全体的としてかなりのコストアップの原因になっている。また、クロメート処理を施した金属材料は、それがクロム含有産業廃棄物となった時に、リサイクルができないという大きな欠点を有し、このことは社会的に問題になっている。さらに、6価クロムイオンを含有する皮膜からの6価クロムイオンの溶出、特に加工時の皮膜傷つき部などからの6価クロムイオンの溶出が起こる可能性があるという問題も存在する。
【0004】
そこで6価クロムイオンを使用しない技術が開発されてきた。かかる技術の1つとして
、特許文献2に、アルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板の成形加工性、耐食性、塗装密着性などの向上を目的に、ガラス転移点が50℃以下のアニオン性ウレタン樹脂、ジルコニウム化合物及びシランカップリング剤を配合した水性樹脂組成物、並びに被覆方法が提案されている。
しかしながら、近年、金属材料に対してますます高品質が要求されており、長期使用する上での耐食性、連続成形を想定した厳しい成形加工性、アルカリや酸に接触したときの耐薬品性、さらには高温多湿雰囲気下に放置したときの黒色もしくは茶色への変色を防止する耐湿性については十分な性能が得られていない。
【0005】
すなわち、一層のみの被覆層を形成する処理(1段処理)を行うことで、耐食性、成形加工性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)及び耐湿性に優れた皮膜を形成でき、かつ、6価クロムイオンを含有しない水系表面処理剤は開発されていないのが現状である。
【特許文献1】特許2097278号公報
【特許文献2】特開2004−204333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術が抱える課題を解決するためのものであり、耐食性、成形加工性、耐薬品性及び耐湿性に優れた皮膜を形成することができ、かつクロムを含有しない金属材料用水系表面処理剤、並びに該表面処理剤を用いて形成された皮膜で被覆された、耐食性、成形加工性、耐薬品性及び耐湿性に優れた金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術が抱える課題を解決するための手段について鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム板、アルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板等の表面に、特定の物性を有するウレタン樹脂を主成分とした被覆層を形成させることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、50℃を超えるガラス転移温度及び40℃以下の最低造膜温度を有する水分散性ウレタン樹脂(A)、メチロール化フェノール及びその縮合物、カルボジイミド樹脂、エポキシ系樹脂、シランカップリング剤、有機ホスホン酸類及びその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、ポリオールのリン酸エステル、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、カルボン酸、アミノ樹脂、並びにイソシアナト基に重亜硫酸アルカリ金属塩を付加させることによりイソシアナト基を保護したウレタンプレポリマーから選ばれる少なくとも1種の有機化合物(B)、及びジルコニウム化合物(C)を水に配合してなる金属材料用水系表面処理剤に関する。本発明は、また、該水系表面処理剤を金属材料表面の少なくとも片面に塗布し乾燥して、乾燥皮膜質量として0.5〜3g/mの皮膜を形成させた表面被覆金属材料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属材料用水系表面処理剤を表面に塗布し乾燥して得られるアルミニウム板、アルミニウム−亜鉛系めっき鋼板等の金属材料は、耐食性、成形加工性、耐薬品性及び耐湿性に優れると共に、環境上の問題を克服している。したがって、本発明は極めて大きな産業上の利用価値を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属材料用水系表面処理剤に配合されるウレタン樹脂(A)は被処理材である金属材料に成形加工性、耐食性、耐薬品性及び耐湿性を付与し又は向上させる役割、就中、成形加工性を付与し又は向上させる役割の役割を担う。
本発明の金属材料用水系表面処理剤に配合されるウレタン樹脂(A)は50℃を超えるガラス転移温度(Tg)及び40℃以下の最低造膜温度を有するものである。ガラス転移温度は樹脂がガラス状態からゴム状態に変化する温度である。基本的にガラス転移温度が高い樹脂を利用すると耐食性、耐薬品性が優れていることが多い。しかしながら、ガラス転移温度が高いと、ガラス転移温度よりかなり高い温度での焼付けが必要となるのでエネルギーコストがアップするという問題がある。また、ガラス転移温度が高いと硬い皮膜になることが多く、成形加工性が劣る場合が多い。そこで、本発明で使用するウレタン樹脂(A)ではガラス転移温度は50℃を超えるが、最低造膜温度は40℃以下にすることにより、焼付け温度がガラス転移温度を超える場合はもとよりガラス転移温度以下の場合でも優れた耐食性、成形加工性、耐薬品性等を発揮できるようにした。さらに、任意的に、ウレタン樹脂(A)の皮膜物性としての抗張力を40〜90N/mmとし、かつ、伸度を50〜500%とすることによって、より強靱でかつより伸びのある皮膜を形成できるようにした。
【0010】
ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度が50℃以下の場合には、高温多湿雰囲気下に置くと皮膜が軟化することで水蒸気が浸透し易くなり、耐湿性が低下する傾向になる。ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度は80℃から150℃の範囲であることが好ましく、100℃から130℃の範囲であることがより好ましい。150℃を超えると皮膜が硬くなり過ぎるために金属材料との密着性が低下し、また、成形加工で皮膜が追従できにくくなるために成形加工性が低下する傾向となる。
また、ウレタン樹脂(A)の最低造膜温度が40℃を超えると、形成される皮膜の成形加工性や耐薬品性が低下する可能性がある。ウレタン樹脂(A)の最低造膜温度は20℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがより好ましく、0℃以下であることがより一層好ましい。最低造膜温度の下限については特に制限はない。
【0011】
また、ウレタン樹脂(A)を水分散性にするためにもさらにはウレタン樹脂(A)から形成される皮膜の物性の点からも、ウレタン樹脂(A)の酸価は15〜40の範囲であることが好ましく、20〜30の範囲であることがより好ましい。酸価が15〜40の範囲である場合には、金属材料との密着性、耐食性、耐薬品性がより向上する。
【0012】
さらに、ウレタン樹脂(A)から形成される皮膜の物性として、抗張力が40〜90N/mmの範囲であり、かつ、伸度が50〜500%の範囲であることが好しい。抗張力は50〜80N/mmの範囲であることがさらに好ましく、伸度は150〜400%の範囲であることがさらに好ましい。抗張力及び伸度が上記範囲を満足している場合には、皮膜追従性及び成形加工性がより向上する。
【0013】
ウレタン樹脂(A)の分子量については特に制限はないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した場合、10,000〜1,000,000程度であることが好ましく、50,000〜500,000程度であることがより好ましい。
【0014】
ウレタン樹脂(A)は、ポリイソシアネート(特にジイソシアネート)、ポリオール(特にジオール)、ヒドロキシル基を2個以上、好ましくは2個有するカルボン酸もしくはその反応性誘導体、及びポリアミン(特にジアミン)、及び、を原料として一般的な合成方法により得られるものである。より具体的には、限定的に解釈されるものではないが、例えば、ジイソシアネートとジオールから両端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーを製造し、これにヒドロキシル基を2個有するカルボン酸もしくはその反応性誘導体を反応させて両端にイソシアナト基を有する誘導体とし、ついでトリエタノールアミンなどを加えてアイオノマー(トリエタノールアミン塩)としてから水に加えてエマルジョンとし、さらにジアミンを加えて鎖延長を行うことにより、ウレタン樹脂(A)を得ることができる。
【0015】
ウレタン樹脂(A)を製造する際に用いるポリイソシアネートとしては、脂肪族、脂環式及び芳香族ポリイソシアネートがあり、いずれも使用可能である。具体的には、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中で、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートを用いる場合には、耐薬品性、耐食性等だけではなく、耐候性にも優れた皮膜が得られるので好ましい。
【0016】
ウレタン樹脂(A)を製造する際に用いるポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどがありいずれも使用可能であるが、本発明では、特に、ポリエステルポリオールが好ましい。
ポリエステルポリオールとしては、グリコール成分とジカルボン酸もしくはその反応性誘導体(酸無水物等)とを脱水縮合反応に付して得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を多価アルコールを開始剤として開環重合して得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0017】
ポリエステルポリオールの製造に使用するグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量300〜6,000)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノンなどが挙げられる。
【0018】
ポリエステルポリオールの製造に使用するジカルボン酸及びその反応性誘導体としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸及びこれらのジカルボン酸の無水物などが挙げられる。
【0019】
ウレタン樹脂(A)を製造する際に用いるヒドロキシル基を2個以上、好ましくは2個有するカルボン酸もしくはその反応性誘導体はウレタン樹脂(A)に酸性基を導入するため、及びウレタン樹脂(A)を水分散性にするために用いる。ヒドロキシル基をヒドロキシル基を2個以上、好ましくは2個有するカルボン酸としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘキサン酸などのジメチロールアルカン酸を例示することができる。また、反応性誘導体としては、酸無水物などが挙げられる。このようにウレタン樹脂(A)を自己水分散性にし、乳化剤を使用しないか極力使用しないようにすることにより、耐水性に優れた皮膜が得られる。
【0020】
ウレタン樹脂(A)を製造する際に用いるポリアミンとしては、例えばヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、テトラメチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ピペラジン、1,1’−ビシクロヘキサン−4,4’−ジアミン、ジフェニルメタンジアミン、エチルトリレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどが挙げられる。
【0021】
本発明のウレタン樹脂(A)は合成する段階でシランカップリング剤を用いてシラン変性したものでも構わない。シラン変性するときのシランカップリング剤の種類、変性量については特に制限はない。シランカップリング剤としては、後述の有機化合物(B)に包含されるシランカップリング剤と同様のものを用いることができる。シラン変性することにより、ウレタン樹脂(A)の金属材料との密着性が高まったり、ウレタン樹脂(A)の耐薬品性が向上する。
【0022】
本発明のウレタン樹脂(A)は、樹脂合成時の樹脂の安定性、造膜時の周囲環境が低温乾燥下にある場合の造膜性を高めるために、合成に際して造膜助剤を配合するのが好ましい。造膜助剤としては、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドン、ブチルカルビトール、テキサノールなどが挙げられ、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0023】
本発明の水系表面処理剤に配合される、メチロール化フェノール及びその縮合物、カルボジイミド樹脂、エポキシ系樹脂、シランカップリング剤、有機ホスホン酸類及びそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、ポリオールのリン酸エステル、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、カルボン酸、アミノ樹脂、並びにカルバモイル基もしくはスルホン酸基(−SOH)を有するウレタンプレポリマー(ブロック化イソシアネート)から選ばれる少なくとも1種の有機化合物(B)は形成される皮膜の耐食性や耐薬品性や耐湿性を高める役割を担う。
【0024】
有機化合物(B)におけるメチロール化フェノール及びその縮合体は、フェノールとホルマリンとを塩基性触媒(水酸化ナトリウム、アンモニア水など)下で反応することで得られるレゾールであり、1核体から3核体のものを主成分とする混合物である。
【0025】
有機化合物(B)におけるカルボジイミド樹脂は分子中に−N=C=N−基を有する高分子であり、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって製造することができる。ここで、カルボジイミド化触媒としては、スズ、酸化マグネシウム、カリウムイオンと18−クラウン−6との組合せなどが挙げられる。ジイソシアネートとしては、ウレタン樹脂(A)の製造に用いられるポリイソシアネートとして例示したものの中のジイソシアネートを例示することができる。
【0026】
カルボジイミド樹脂のカルボジイミド当量(カルボジイミド基1個当たりのカルボジイミド樹脂の化学式量、換言するとカルボジイミド樹脂の分子量をカルボジイミド樹脂に含まれるカルボジイミド基の数で割った値)は、特に制限されるものではないが、100から1,000の範囲であることが好ましい。
【0027】
有機化合物(B)におけるエポキシ系樹脂としては、ビスフェノールAもしくはFを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂を用いることができるが、かかるエポキシ樹脂のグリシジル基の一部又は全部がシラン変性又はリン酸類変性されたエポキシ樹脂がより好ましく用いられる。
ビスフェノールAもしくはFを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールAもしくはFとの脱塩化水素及び付加反応の繰返しにより得られるもの、並びにグリシジル基を2個以上、好ましくは2個有するエポキシ化合物とビスフェノール(A、F)との間の付加反応の繰返しにより得られるものが挙げられる。ここでエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロピレンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0028】
ビスフェノールAもしくはFを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂のシラン変性は前記ウレタン樹脂(A)の変性と同様にして行えばよい。シラン変性することにより形成される皮膜と金属材料との密着性が高まったり、エポキシ樹脂自体の耐薬品性が向上する効果がある。また、ビスフェノールAもしくはFを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂のリン酸類変性は、該エポキシ樹脂を、リン酸類又はそのエステルと反応させることにより行われる。リン酸類としてはメタリン酸、ホスホン酸、オルトリン酸、ピロリン酸などを用いることができ、リン酸類のエステルとしては、メタリン酸、ホスホン酸、オルトリン酸、ピロリン酸などのモノエステル、例えばモノメチルリン酸、モノオクチルリン酸、モノフェニルリン酸などを用いることができる。また、エポキシ樹脂のリン酸類変性物は、アミン系化合物で中和することによってより安定な水分散性樹脂組成物を生成するので、中和するのが好ましい。アミン系化合物としては、例えば、アンモニア;ジメタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン;ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミン;ジメチルエタノールアミンなどのアルキルアルカノールアミンなどが挙げられる。リン酸類変性することで、形成される皮膜と金属材料との密着性が高まる効果がある。
【0029】
シラン変性やリン酸類変性の程度は、これらの変性による効果が認められる程度以上であれば特に制限はないが、通常、Si−OH当量又はP−OH基当量が150〜1,000の範囲となるように変性されるのが好ましく、300〜800の範囲となるように変性されるのがより好ましい。
【0030】
有機化合物(B)におけるエポキシ系樹脂のエポキシ当量(エポキシ基1個当たりのエポキシ系樹脂の化学式量、換言するとエポキシ系樹脂の分子量をエポキシ系樹脂に含まれるエポキシ基の数で割った値)は、特に制限されるものではないが、100から3,000の範囲であることが好ましい。
【0031】
有機化合物(B)におけるシランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
有機化合物(B)における有機ホスホン酸類としては、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’’,N’’−ペンタ(メチレンホスホン酸)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、炭素数1〜4のアルカンホスホン酸、炭素数1〜4のアルカンホスホン酸モノアミド、炭素数1〜4のアルカンホスホン酸モノシアニド等が挙げられる。これらの有機ホスホン酸類がホスホン基を2つ以上有する場合、それらの部分的なアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩又は炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステルも使用可能である。
有機化合物(B)における有機ホスフィン酸類としては、炭素数1〜4のアルカンホスフィン酸、炭素数1〜4のアルカンモノチオホスフィン酸(R−PH(=S)OH)等が挙げられる。
有機化合物(B)におけるポリオールのリン酸エステルとしてはイノシトールヘキサリン酸エステル等が挙げられる。
【0033】
有機化合物(B)におけるアミン化合物としては、メラミン化合物、グアナミン化合物、グアニジン化合物等を用いることができる。メラミン化合物としてはメラミン、メチロール化メラミン、メチロール化メラミンのメチルエーテル等;グアナミン化合物としてはベンゾグアナミン等;グアニジン化合物としては1,3−ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、炭酸グアニジン等が挙げられる。アミン化合物としてはさらにアリルアミン、アニリン、ポリアニリン、ジシアンジアミド等も用いることができる。上記でメチロール化メラミンは下記構造式(1)でR〜Rがそれぞれ独立に水素原子又はメチロール基を表すが、R〜Rの少なくとも1つはメチロール基である化合物又はそれらの化合物の任意の2種以上の混合物であり、メチロール化メラミンのメチルエーテルはメチロール化メラミンの少なくとも1つのメチロール基の水酸基がO−メチル化された化合物又はそれらの化合物の任意の2種以上の混合物である。また、ポリアニリンは下記構造式(2)で表される。
【0034】
【化1】

【0035】
有機化合物(B)におけるイソシアネート化合物としては、ウレタン樹脂(A)の製造について既述したポリイソシアネートを用いることができる。
有機化合物(B)におけるアルデヒド化合物としては、多価アルデヒドが好ましく、グリオキサール、テレフタルアルデヒド等が例示される。
有機化合物(B)におけるカルボン酸としては一塩基カルボン酸も多塩基カルボン酸も用い得るが、二塩基以上の多塩基カルボン酸が好ましく、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、グルコン酸等が例示される。
【0036】
有機化合物(B)におけるアミノ樹脂は、メラミン、ベンゾグアナミン、尿素等のアミン化合物にホルムアルデヒド又はアルコールを付加縮合させた樹脂であって、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂等を包含する。
有機化合物(B)におけるイソシアナト基に重亜硫酸アルカリ金属塩を付加させることによりイソシアナト基を保護したウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネート(特にジイソシアネート)とポリオール(特にジオール)とをある程度まで重縮合させた中間的生成物に重亜硫酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)を付加させてイソシアナト基を保護することにより得られる。ポリイソシアネート及びポリオールとしてはウレタン樹脂(A)の製造で使用するものと同様のものを使用し得る。
【0037】
有機化合物(B)として、有機ホスホン酸類又はその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルと、メチロール化フェノール及びその縮合体、カルボジイミド樹脂、エポキシ系樹脂(特に、ビスフェノールAもしくはF型エポキシ樹脂及びそれらのグリシジル基の一部又は全部が変性されたエポキシ樹脂)、シランカップリング剤を初めとするその他の有機化合物(B)とを併用する場合には、各単独で使用した場合に比し、形成される皮膜の耐食性をより向上させることができる。
【0038】
併用する場合の有機ホスホン酸類又はそのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルとその他の有機化合物(B)との固形分質量比としては、1:1,000〜1:1の範囲であるのが好ましく、1:200〜1:5の範囲であるのがより好ましい。上記固形分質量比が1:1,000〜1:1の範囲である場合には、上記したような併用の効果を達成することができる。
【0039】
ウレタン樹脂(A)と有機化合物(B)との配合比(A)/(B)は固形分質量比として1000/1〜10/1の範囲であることが好ましく、200/1〜15/1の範囲であることがより好ましい。(A)/(B)が1000/1より大きくなると、有機化合物(B)を配合した効果が認められない傾向となり、10/1より小さくなるとウレタン樹脂(A)の特性が阻害され、表面処理した金属材料の成形加工性が低下する傾向となる。
【0040】
本発明の水系表面処理剤に配合されるジルコニウム化合物(C)は、金属材料、ウレタン樹脂中に存在する極性基、有機化合物(B)中に存在する場合の特定の官能基などと架橋反応することにより、形成される皮膜の耐食性、耐薬品性及び耐湿性を向上させる。
【0041】
ジルコニウム化合物(C)としては、特に制限はなく、ジルコニウムの炭酸塩、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、フルオロ酸(塩)、有機酸塩、有機錯化合物等を用いることができる。具体的には、塩基性炭酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニルアンモニウム(NH[Zr(CO(OH)]、酸化ジルコニウム(IV)(ジルコニア)、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニルZrO(NO、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニル、オキシリン酸ジルコニウム、ピロリン酸ジルコニウム、リン酸二水素ジルコニル、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸(HZrF)、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム[(NHZrF)]、酢酸ジルコニウム(IV)、酢酸ジルコニル、乳酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネートZr(OC(=CH)CHCOCH))等が挙げられる。これらは無水物であっても存在する場合の水和物であってもよい。これらの中で、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、酢酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウムがより好ましい。上記したジルコニウム化合物(C)は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ウレタン樹脂(A)とジルコニウム化合物(C)との配合比は(A)の固形分/Zr原子の質量比として1,000/1〜10/1の範囲であることが好ましく、200/1〜20/1の範囲であることがより好ましい。(A)の固形分/Zr原子の質量比が1,000/1〜10/1の範囲にある場合には、形成される皮膜の耐食性、耐薬品性及び耐湿性を向上させることができる。
【0043】
本発明の水系表面処理剤には、さらに、水溶性もしくは水分散性のアクリル樹脂、水分散性のフッ素系樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で、例えば、ウレタン樹脂(A)に対する固形分質量比として1〜30質量%の範囲で配合してもよい。
【0044】
本発明の水系表面処理剤には、さらに、本発明の効果を損わない範囲で、潤滑剤(例えば二流化モリブデン、グラファイト、ポリオレフィン系ワックス等)、顔料(例えばフタロシアニン、カーボンブラック、酸化チタン等)、抗菌剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、樹脂成分の熱による劣化を抑制する成分、樹脂成分の光による劣化を抑制する成分(酸化防止剤、紫外線吸収剤、クエンチャー、HALSなど)を配合してもよい。
【0045】
本発明の水系表面処理剤で用いる媒体は通常水であるが、皮膜の乾燥性の改善などの目的で少量(例えば水性媒体全体の10容量%以下)のアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性有機溶剤を併用をしてもよい。
【0046】
本発明の水系表面処理剤のpHについては特に制限はないが、5〜13の範囲であるのが好ましく、7〜11の範囲であるのがより好ましい。pHが5未満である場合や13より大である場合には、水系表面処理剤が増粘したりゲル化したりして安定性が低下する傾向になる。pH調整の必要がある場合には、アンモニア、ジメチルアミン、トリエチルアミン等のアルカリ成分、又は、酢酸、リン酸等の酸性成分を添加することができる。
【0047】
なお、本発明の水系表面処理剤を構成する必須成分、任意成分の記載は配合時の状態を表すものであって、配合後に成分間で反応が生じても本発明の範囲から外れるものではない。
【0048】
本発明の水系表面処理剤の合計固形分濃度については、本発明の効果が達成し得る限り特に制限はないが、通常、1〜40質量%の範囲に調整するのが好ましく、5〜30質量%の範囲に調整するのがより好ましい。
【0049】
本発明の水系表面処理剤は、ウレタン樹脂(A)、有機化合物(B)、ジルコニウム化合物(C)、さらに必要に応じその他の任意成分を、分散媒である水に添加し、撹拌することによって製造することができる。各成分の添加順序には特に制限は無い。
【0050】
本発明の水系表面処理剤を適用する金属材料は特に制限されないが、好ましい金属材料としてはアルミニウムもしくはアルミニウム合金材、アルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼材が挙げられる。具体的には純アルミニウム、マグネシウム含有アルミニウム合金、マンガン含有アルミニウム合金、ケイ素含有アルミニウム合金といったアルミニウムもしくはアルミニウム合金材、めっき層に5〜75質量%のアルミニウムを含有するアルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼材が挙げられる。該めっき鋼材は、めっき組成中にシリコン、マグネシウム、コバルト、マンガンなどの元素を微量含有していてもよい。すなわち、本発明の水系表面処理剤による効果が最も発揮されるのはアルミニウムが表面に多く存在する金属材料に対してである。
【0051】
本発明の水系表面処理剤による処理に先立つ前処理工程については特に制限はないが、通常は、本処理を行う前に被処理金属材料に付着した油分、汚れを取り除くために、アルカリ脱脂剤又は酸性脱脂剤で洗浄するか、湯洗、溶剤洗浄等を行い、その後、必要に応じて酸、アルカリなどによる表面調整を行う。金属材料表面の洗浄においては、洗浄剤が金属材料表面になるべく残留しないように洗浄後に水洗することが好ましい。
【0052】
本発明の水系表面処理剤による処理は、水系表面処理剤を塗布した後、乾燥することにより行う。塗布方法については特に制限はなく、例えば、ロールコート法、カーテンフローコート法、スプレー法、浸漬法、シャワーリンガー法、エアーナイフ法、バーコート法、刷毛塗りなどの通常の塗布方法を採用し得る。処理液温度についても特に制限はないが、本処理剤の溶媒は水が主体であるため、処理液温度は0〜60℃であるのが好ましく、5〜40℃であるのがより好ましい。
【0053】
本発明の水系表面処理剤を塗布した後の乾燥方法についても特に制限はなく、自然乾燥を採用しても強制乾燥を採用してもよい。強制乾燥する場合、乾燥は電気炉、熱風炉、誘導加熱炉などの加熱装置を用いて行うことができ、到達金属材料温度は特に制限されないが、30〜150℃であるのが好ましく、40〜120℃であるのがより好ましい。また、その場合の乾燥時間は特に制限されないが、1秒から10分の範囲であるのが好ましく、5秒から5分の範囲であるのがより好ましい。
【0054】
金属材料の表面に形成する乾燥皮膜質量は0.5〜3g/mの範囲であることが必要であり、1〜3g/mの範囲であることが好ましい。皮膜量が0.5g/m未満になると金属材料の被覆が十分に行われなくなり、成形加工性や耐薬品性が低下する恐れがある。一方、3g/mを超えると効果が飽和するため経済的でない。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明をその効果と共にさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
(1)水系表面処理剤の製造
以下に示す成分を、表2に示す組合せ及び割合で用いて、表2に示す実施例1〜36及び比較例1〜9の水系表面処理剤を調製した。すなわち、脱イオン水に、ウレタン樹脂(A)、有機化合物(B)及びジルコニウム化合物(C)をこの順序で添加し、最後に脱イオン水を用いて固形分濃度が30質量%になるように調整した。
<ウレタン樹脂(A)>
用いたウレタン樹脂は表1に示す物性を有するものである。
【0056】
【表1】

【0057】
ウレタン樹脂(A)の物性、樹脂皮膜物性の測定方法
(a)ガラス転位点(Tg)
動的粘弾性測定装置(レオログラフソリッドS 東洋精機製作所製)を使用して測定した。
(b)最低造膜温度(MFT)
JIS−Z2371に準拠し、ウレタン樹脂(A)水分散液を用いて形成したフィルムの軟化する温度を測定することで、最低造膜温度(MFT)を求めた。測定装置は、最低造膜測定装置(三洋貿易(株)社製)を使用した。
(c)酸価
水分散ウレタン樹脂含まれるカルボン酸を中和するのに、ウレタン樹脂の固形分1gあたり必要となる水酸化カリウムのmg数で表した。
【0058】
(d)抗張力及び伸度
※樹脂皮膜作成方法
PPフィルム上で、膜厚150μのフィルムを形成させた。
乾燥条件:23℃×RH65%×24時間
熱処理:108℃×2時間(溶媒などを除去)
次に形成させたフィルムをPPフィルムから剥がして、引張試験機にて抗張力及び伸度を測定した。
※引張試験機(AUTOGRAPH AGS−1KNG、島津製作所製)
抗張力:最大点(破断点)の抗張力(N/mm)を測定した。
伸度:最大点(破断点)の伸度(%)を測定した。
【0059】
<有機化合物(B)>
B1 メチロール化フェノール
B2 カルボジイミド樹脂(カルボジイミド当量450)
B3 カルボジイミド樹脂(カルボジイミド当量590)
B4 ビスフェノールAを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂(エポキシ当量173)
B5 ビスフェノールAを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂の3−アミノプロピルトリエトキシシラン変性物(エポキシ当量1,000)
B6 ビスフェノールAを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂のメタリン酸変性物(エポキシ当量500)
B7 ポリエステル系ウレタンプレポリマーの重亜硫酸ナトリウム付加物
B8 ポリエーテル系ウレタンプレポリマーの重亜硫酸ナトリウム付加物
B9 テトラメチロール化メラミンテトラO−メチルエーテル
B10 炭酸グアニジン
B11 酒石酸
B12 シュウ酸
B13 3−アミノプロピルトリエトキシシラン
B14 ビニルトリメトキシシラン
B15 3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
B16 アミノトリ(メチレンホスホン酸)
B17 2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸
B18 イノシトールヘキサリン酸エステル
B19 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
【0060】
<ジルコニウム化合物(C)>
C1 炭酸ジルコニウムカリウム
C2 炭酸ジルコニウムアンモニウム
C3 乳酸ジルコニウム
C4 ジルコニウムアセチルアセトネート
C5 ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム
【0061】
【表2】

【0062】
(2)前処理及び水系表面処理剤による表面処理
(a)供試板
GL:55質量%アルミニウム−亜鉛系合金メッキ鋼板、板厚0.5mm
GF:5質量%アルミニウム−亜鉛系合金メッキ鋼板、板厚0.5mm
AL:4.5質量%マグネシウム−アルミニウム合金板(A5182)、板厚0.28mm
(b)脱脂処理
供試板の前処理として、アルカリ脱脂により清浄な表面状態を得た。具体的にはシリケート系アルカリ脱脂剤であるファインクリーナーN364S(日本パーカライジング(株)製)を脱イオン水で濃度2質量%に希釈し、温度60℃に調整した後、供試板表面に10秒間スプレー処理した。続いて、水道水で洗浄した後に水切りロールで絞り、50℃で30秒間間加熱乾燥した。
(c)表面処理
上記で調製した実施例1〜45及び比較例1〜6の水系表面処理剤を、それぞれ表3に示した乾燥皮膜量が得られるように、バーコーターの種類を変えてウエット付着量をコントールして、脱脂処理後の供試板の表面に塗布した。ついで、それぞれ表3に示す到達板温になるように乾燥した。
【0063】
(3)評価試験
上記で作製した表面処理供試板を以下に示す試験に付した。
(3)−1 耐食性
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧500時間後の白錆発生面積を目視により求めて評価した。
評価基準:白錆発生面積率
;5%未満
○;5%以上15%未満
;15%以上50%未満
×;50%以上
【0064】
(3)−2 耐アルカリ性
1質量%濃度の水酸化ナトリム水溶液に25℃で5時間浸漬し、脱イオン水にて水洗した後にドライヤーで乾燥した。処理板の状態を目視判定により評価した。
評価基準:黒色や茶色への変色度合い
;5%未満
○;5%以上15%未満
;15%以上50%未満
×;50%以上
【0065】
(3)−3 耐酸性
1質量%濃度の塩酸に25℃で24時間浸漬し、脱イオン水にて水洗した後にドライヤーで乾燥した。処理板の状態を目視判定により評価した。
評価基準:黒色や茶色への変色度合い
;5%未満
○;5%以上15%未満
;15%以上50%未満
×;50%以上
【0066】
(3)−4 成形加工性
次に示すドロービード試験(アムスラー試験)に供して成形加工した後、加工板の状態を目視判定により、下記の評価基準にしたがって評価した。ついで、加工板に対し、(3)−1項に示す塩水噴霧試験を240時間まで実施し、(3)−1項と同じ評価基準で評価した。
圧着荷重 0.25t
ビード径 3mmR
ビード高さ 2mm
引抜速度 200mm/分
評価基準:黒色への変色の度合い
;1%未満
○;1%以上5%未満
;5%以上50%未満
×;50%以上
【0067】
(3)−5 耐湿性
処理板の処理面同士を合せて4900kPaに加圧した状態でスタックし、湿潤試験機(CT−3H スガ試験機(株)製)による湿潤試験に供した。試験条件は50℃、相対湿度98%以上で1週間とし、試験後の処理面を目視判定した。
評価基準:黒色への変色の度合い
;1%未満
○;1%以上10%未満
;10%以上50%未満
×;50%以上
【0068】
(4)評価試験の結果
評価試験の結果を表3に示す。表3より、本発明の表面処理剤(実施例1〜45)を用いて形成された皮膜を有する供試板は、耐食性、成形加工性、耐薬品性及び耐湿性のいずれにおいて優れた結果を示すことが分かる。実施例の中でも、さらに、有機化合物(B)として、有機ホスホン酸とその他の有機化合物(B)とを併用した実施例42〜45では、耐食性が一層向上していることが分かる。
一方、有機化合物(B)を含有しない比較例1、ジルコニウム化合物(C)を含有しない比較例2並びにウレタン樹脂(A)の諸物性が本発明で特定した範囲外となる比較例3〜6では、耐食性、成形加工性、耐薬品性及び耐湿性のうち少なくとも1つの性能、大抵は少なくとも2つの性能が劣っていた。
【0069】
【表3】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃を超えるガラス転移温度及び40℃以下の最低造膜温度を有する水分散性ウレタン樹脂(A)、メチロール化フェノール及びその縮合物、カルボジイミド樹脂、エポキシ系樹脂、シランカップリング剤、有機ホスホン酸類及びその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、ポリオールのリン酸エステル、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、カルボン酸、アミノ樹脂、並びにイソシアナト基に重亜硫酸アルカリ金属塩を付加させることによりイソシアナト基を保護したウレタンプレポリマーから選ばれる少なくとも1種の有機化合物(B)、及びジルコニウム化合物(C)を水に配合してなる金属材料用水系表面処理剤。
【請求項2】
ウレタン樹脂(A)の酸価が15〜40の範囲であり、さらに、該樹脂の皮膜物性として、抗張力が40〜90N/mmであり、かつ伸度が50〜500%である請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項3】
有機化合物(B)がメチロール化フェノール及びその縮合物並びにカルボジイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項4】
有機化合物(B)としての有機ホスホン酸類又はその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルをさらに配合した請求項3記載の水系表面処理剤。
【請求項5】
有機化合物(B)がエポキシ系樹脂であって、エポキシ系樹脂がビスフェノールAもしくはFを骨格中の単位として有するエポキシ樹脂、又はかかるエポキシ樹脂のグリシジル基の一部又は全部がシラン変性又はリン酸類変性されたエポキシ樹脂である請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項6】
有機化合物(B)としての有機ホスホン酸類又はその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルをさらに配合した請求項5記載の水系表面処理剤。
【請求項7】
有機化合物(B)がシランカップリング剤である請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項8】
有機化合物(B)としての有機ホスホン酸類又はその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルをさらに配合した請求項7記載の水系表面処理剤。
【請求項9】
有機化合物(B)が有機ホスホン酸類又はその部分的アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩もしくは炭素数1〜4のアルカノールとの部分的なエステル、有機ホスフィン酸類、又はポリオールのリン酸エステルである請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項10】
ウレタン樹脂(A)と有機化合物(B)との配合比(A)/(B)が固形分質量比として1000/1〜10/1の範囲であり、ウレタン樹脂(A)とジルコニウム化合物(C)との配合比が(A)の固形分/Zr原子の質量比として1000/1〜10/1の範囲である請求項1〜9のいずれか1項に記載の水系表面処理剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水系表面処理剤を金属材料表面の少なくとも片面に塗布し乾燥して、乾燥皮膜質量として0.5〜3g/mの皮膜を形成させた表面被覆金属材料。
【請求項12】
金属材料がアルミニウム材、アルミニウム合金材又はアルミニウム−亜鉛系合金めっき鋼板である請求項11記載の表面被覆金属材料。

【公開番号】特開2007−51323(P2007−51323A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236949(P2005−236949)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【特許番号】特許第3872493号(P3872493)
【特許公報発行日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】