説明

金属材料表面処理用組成物及び処理方法

【課題】 耐食性、耐黒変性及び塗装密着性に優れた皮膜を形成することができるノンクロム系金属材料表面処理用組成物等の提供。
【解決手段】 水性媒体に、
(A)リン酸、縮合リン酸及び有機ホスホン酸並びにそれらのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物、
(B)少なくとも4個以上のフッ素原子と、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ハフニウム、アルミニウム及びホウ素から選ばれる少なくとも1個の元素を有するフルオロ酸、及び
(C)少なくとも1個の活性水素含有アミノ基を有するシランカップリング剤(C1)及び少なくとも1個のエポキシ基を有するシランカップリング剤(C2)
を溶解又は分散状態で配合してなり、樹脂を含有しない金属材料表面処理用組成物であって、成分(A)〜(C)の全固形分に対する成分(A)固形分の割合が0.1〜80質量%である該組成物、等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面に高い耐食性を付与することができると共に、耐黒変性及び塗料密着性に優れた皮膜を形成することができる表面処理用組成物及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛含有金属めっき鋼板、アルミニウム板等の金属材料は、自動車、建材並びに家電関係の広い分野に使用されている。しかし、これらの金属材料に用いられる亜鉛やアルミニウムは、大気中で腐食していわゆる白錆と言われる腐食生成物を生成させ、これが金属材料の外観を低下させ、更に塗料密着性にも悪影響を及ぼすという欠点を有している。
【0003】
そこで耐食性および塗料密着性を改善するために、金属材料の表面にクロム酸、重クロム酸又はその塩類を主成分として含む処理液によりクロメート処理を施すことが一般に行われている。
しかしながら、金属材料表面を処理するのに使用されるクロメート処理液中の6価クロムには、人体に直接的な悪い影響を及ぼす欠点があるため、近年の環境保全に対する意識の高まりの中、クロメート処理は敬遠されがちである。また、6価クロムを含む排水には、水質汚濁防止法に規定されている特別な処理を施す必要があり、これが全体的としてかなりのコストアップの原因になっている。また、クロメート処理を施した金属材料は、それがクロム含有の産業廃棄物となった時に、リサイクルができないという大きな欠点を有し、このことは社会的に問題になっている。
【0004】
一方、クロメート処理以外の表面処理方法としては、多価フェノールカルボン酸であるタンニン酸を含有する表面処理用組成物による処理が良く知られている。タンニン酸の水溶液によって金属材料を処理すると、タンニン酸と金属材料との反応によって形成される保護皮膜が、腐食物質の侵入に対しバリアーとなるので、耐食性が向上すると考えられている。
ところが、近年、製品の高品質化に伴い、皮膜自体の高耐食性が要求されており、そのため、タンニン酸単独若しくは無機成分を併用して得られる皮膜は耐食性が不十分であるので、現状における実用化は不可能である。
【0005】
そこで、耐食性を向上させる処理方法として、特許文献1に、水分散性シリカと、水溶性もしくは水分散性のアルキド樹脂と、トリアルコキ(あるいはアルコキシ)シラン化合物からなるシリカ複合体の水溶液を金属表面に塗布する方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲参照)。
また、ヒドロキシピロンもしくはその誘導体を溶解した水溶液、又はかかる水溶液に水溶性高分子化合物を添加した水溶液を金属材料に塗布乾燥し、防錆皮膜を形成させる、金属の表面処理方法が、特許文献2に、開示されている(特許文献2の特許請求の範囲参照)。
【0006】
さらにヒドロキシスチレン系の水溶性または自己分散性高分子からなる金属表面処理用添加剤、及びかかる水溶性または自己水分散性高分子とTi、Zr、Hf、Zn、Ni、Co、Cr、Mn、Al、Ca及びMgから選ばれる金属イオンとを必須成分として含有する金属表面処理用水溶液が、特許文献3に、開示されている(特許文献3の特許請求の範囲参照)。かかる金属表面処理用添加剤及び金属表面処理用水溶液はクロメート処理及びノンクロメート処理に用いられ、いずれの場合にも耐食性及び塗料密着性が向上するとされている(特許文献3の産業上の利用分野および実施例参照)。
しかしながら、上記の何れの方法も、クロメート皮膜に代替できるような高い耐食性を付与する皮膜を形成し得るものではない。
【0007】
このような問題点の解決方法として、本出願人は、特許文献4で、水性媒体と、(A)特定のシランカップリング剤、(B)特定の水溶性樹脂とを含有する金属材料用表面処理組成物(特許文献4の特許請求の範囲参照)、特許文献5で、水性媒体と、(A)特定の2価以上の金属イオン、(B)特定のフルオロ酸、リン酸及び酢酸から選ばれる酸性分、(C)特定の官能基を有するシランカップリング剤及び(D)特定の水溶性重合体とを含有する金属材料用表面処理組成物(特許文献5の特許請求の範囲参照)を提案し、特許文献6で、(A)特定の水溶性樹脂もしくは水系エマルジョンと(B)特定の樹脂化合物と(C)特定の金属化合物とを含有し、任意成分として(D)特定の酸及び/又は(E)シランカップリング剤を含有してもよい金属表面処理剤(特許文献6の特許請求の範囲参照)を提案した。
これらの金属表面処理組成物を用いる場合には、耐食性は概ね大幅に向上するが、耐黒変性については未だ十分とは言えなかった。
【0008】
従って、現状においても耐食性及び耐黒変性に優れ、さらに塗料密着性にも優れた金属材料用のノンクロム系表面処理剤及び処理方法の開発が強く要望されているのである。
【特許文献1】特開昭53−121034号公報
【特許文献2】特開昭54−56037号公報
【特許文献3】特開平1−177380号公報
【特許文献4】特開平9−241576号公報
【特許文献5】特開平11−106945号公報
【特許文献6】特開2003−13252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決して、耐食性に優れ、さらに、耐黒変性及び塗料密着性にも優れた皮膜を金属材料表面に形成することができるノンクロム系の金属材料表面処理用組成物及びそれを用いる金属材料の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこれらの従来技術の抱える問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、リン酸系化合物と、特定の金属を有するフルオロ酸と、2種の特定のシランカップリング剤を配合した表面処理用組成物を用いて金属材料の表面を処理することにより、耐食性に優れると共に耐黒変性及び塗料密着性にも優れた皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、水性媒体に、
(A)リン酸、縮合リン酸及び有機ホスホン酸並びにそれらのアンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物、
(B)少なくとも4個以上のフッ素原子と、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ハフニウム、アルミニウム及びホウ素よりなる群から選ばれる少なくとも1個の元素を有するフルオロ酸、及び
(C)少なくとも1個の活性水素含有アミノ基を有するシランカップリング剤(C1)及び少なくとも1個のエポキシ基を有するシランカップリング剤(C2)
を溶解もしくは分散状態で配合してなり、樹脂を含有しない金属材料表面処理用組成物であって、成分(A)〜(C)の全固形分に対する成分(A)固形分の割合が0.1〜80質量%である該組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、pH2.0〜6.5に調整された作業用組成物としての上記金属材料表面処理用組成物を金属表面に塗布し、乾燥させて0.01〜5.0g/m の乾燥重量を有する皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の表面処理方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクロムを含まない金属材料表面処理用組成物及び金属材料の表面処理方法を用いることにより、金属材料の表面に耐食性をはじめ耐黒変性及び塗料密着性に優れた皮膜を形成させることができる。かかる本発明は、環境保全やリサイクル性などの社会問題に対する対策案としても、極めて有効で実用上の価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の金属材料表面処理用組成物は、リン酸系化合物(A)と、特定の金属を有するフルオロ酸(B)と、2種類の特定のシランカップリング剤(C)とを水性媒体中に溶解もしくは分散状態で配合した溶液もしくは分散液である。
【0015】
本発明に用いられるリン酸系化合物(A)は、リン酸(=オルトリン酸)、縮合リン酸及び有機ホスホン酸並びにそれらのアンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。縮合リン酸はメタリン酸及びポリリン酸を包含する。メタリン酸は環状のリン酸縮合物であって、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸等を包含し、ポリリン酸は鎖状のリン酸縮合物であって、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等を包含する。また、有機ホスホン酸化合物としてはアミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸等を使用することができる。アンモニウム塩はリン酸基/ホスホン酸基の一部がアンモニウム塩になったものでも全てがアンモニウム塩になったものでもよい。これらのリン酸系化合物は各単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明の表面処理用組成物中へのリン酸系化合物(A)の配合量は、表面処理用組成物の成分(A)〜(C)の全固形分に対して、固形分として0.1〜80質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。この配合量が0.1質量%未満である場合には、耐食性が低下する恐れがある。またリン酸系化合物が80質量%を超える場合には、表面処理用組成物の安定性が低下する傾向になる。
【0017】
本発明の表面処理用組成物中のフルオロ酸(B)は、少なくとも4個のフッ素原子と、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ハフニウム、アルミニウム及びホウ素よりなる群から選ばれる少なくとも1個の元素を有するフルオロ酸である。かかるフルオロ酸の具体例としては、ヘキサフルオロチタン酸(HTiF)、ヘキサフルオロジルコニウム酸(HZrF)、ヘキサフルオロケイ酸(HSiF)、ヘキサフルオロハフニウム酸(HHfF)、ヘキサフルオロアルミニウム酸(HAlF)、テトラフルオロホウ酸(HBF)等が挙げられる。これらは各単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の表面処理用組成物中へのフルオロ酸(B)の配合量は、成分(A)〜(C)の全固形分に対して、固形分として0.1〜15質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。このフルオロ酸によって表面処理用組成物のpHを2.0〜6.5に調整することが好ましい。フルオロ酸の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して0.1質量%未満である場合には、pHを上記範囲に調整できず、その結果、成膜性が悪くなって耐食性が劣化する傾向になる。また、フルオロ酸の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して15質量%を超えると、表面処理用組成物の安定性が低下する場合がある。
【0019】
本発明の表面処理用組成物中におけるフルオロ酸(B)とリン酸系化合物(A)との固形分質量比(B):(A)は、1:100〜50:1であることが好ましく、1:50〜30:1であることがより好ましい。この固形分質量比が1:100よりフルオロ酸の固形分含有比率が低いと、得られる皮膜の耐食性が低下する傾向になる。また50:1よりもフルオロ酸の固形分含有比率が高いと、得られる皮膜の耐食性が低下する傾向になる。
【0020】
本発明の表面処理用組成物中のシランカップリング剤(C)は、少なくとも1個の活性水素含有アミノ基を有するシランカップリング剤(C1)と、少なくとも1個のエポキシ基を含有するシランカップリング剤(C2)からなる。具体例として(C1)アミノ基を有するものとして、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等を使用でき、(C2)エポキシ基を有するものとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。
【0021】
また、本発明の表面処理用組成物中の2種類のシランカップリング剤において、活性水素含有アミノ基とエポキシ基との当量比は3:1〜1:5の範囲であることが好ましい。この活性水素含有アミノ基とエポキシ基との当量比が3:1を超えてアミノ基が多いと、形成される皮膜の成膜性が低下し、耐食性、耐黒変性及び塗料密着性が不十分になる傾向になる。またこの当量比が1:5よりも活性水素含有アミノ基が少ない場合には、形成される皮膜の耐食性、耐黒変性及び塗料密着性の性能が飽和してしまいシランカップリング剤が経済的に無駄になる。
【0022】
本発明の表面処理用組成物中へのシランカップリング剤(C)(すなわちシランカップリング剤(C1)とシランカップリング剤(C2)との合計)の配合量は、成分(A)〜(C)の全固形分に対して、固形分として10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。シランカップリング剤(C)の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して10質量%未満である場合には、バリヤーとしての効果が十分発揮されず、耐食性が低下する可能性がある。また、シランカップリング剤(C)の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して90質量%を超えると、成分(A)及び(B)の配合量が少なくなるため、耐食性、耐黒変性及び塗料密着性が低下する可能性がある。
【0023】
本発明の表面処理用組成物中において、シランカップリング剤(C)とリン酸系化合物(A)との固形分質量比(C):(A)は、1:10〜100:1であることが好ましく、1:5〜60:1がより好ましい。この固形分質量比が1:10よりシランカップリング剤の比率が低い場合には、表面処理用組成物の安定性が悪くなって、耐食性及び塗料密着性が低下する傾向になる。また100:1よりリン酸系化合物の固形分含有比率が低いと、形成される皮膜の耐食性が低下する傾向になる。
【0024】
本発明の表面処理用組成物中に、追加成分として、マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、ジルコニウムイオン、スズイオン、カルシウムイオン、タングステンイオン、モリブデンイオン、ハフニウムイオン及びアルミニウムイオンよりなる群から選ばれる2価以上の金属イオン(D)を配合する場合には、形成される皮膜の耐食性をさらに向上させることができる。かかる金属イオンは各単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。なお、上記以外の金属イオンでは、耐食性の向上は通常期待できない。金属イオン(D)の価数の上限は特にないが、通常6価までであるのが適当である。
【0025】
かかる金属イオンの供給源は特に限定されず、例えば炭酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、フッ化物、酸化物、金属等が挙げられる。具体的には、炭酸塩としては炭酸マンガン(II)、炭酸コバルト(II)、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸ニッケル(II)、炭酸カルシウム、塩基性炭酸ジルコニウム(ZrCO4・ZrO・8HO)など、リン酸塩としてはリン酸マンガン(II)、リン酸マンガン(III)、リン酸コバルト(II)、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸ニッケル(II)、リン酸スズ(II)、リン酸カルシウム、リン酸ハフニウム(IV)など、硝酸塩としては硝酸マンガン(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III)、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸ニッケル(II)、硝酸チタン(IV)、硝酸ジルコニウム(IV)、硝酸スズ(II)、硝酸スズ(IV)、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウムなど、硫酸塩としては硫酸マンガン(II)、硫酸マンガン(III)、硫酸マンガン(IV)、硫酸コバルト(II)、硫酸コバルト(III)、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸ニッケル(II)、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、硫酸バナジウム(II)、硫酸バナジウム(III)、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸スズ(II)、硫酸スズ(IV)、硫酸カルシウム、硫酸ハフニウム(IV)、硫酸アルミニウムなど、酢酸塩としては酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、酢酸コバルト(II)、酢酸コバルト(III)、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(III)など、フッ化物としてはフッ化マンガン(II)、フッ化マンガン(III)、フッ化コバルト(II)、フッ化コバルト(III)、フッ化亜鉛、フッ化マグネシウム、フッ化ニッケル(II)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、フッ化バナジウム(III)、フッ化バナジウム(IV)、フッ化バナジウム(V)、フッ化ジルコニウム(IV)、フッ化タングステン(IV)、フッ化タングステン(VI)、フッ化モリブデン(III)、フッ化モリブデン(VI)、フッ化アルミニウムなど、酸化物としては酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、三酸化マンガン、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(III)、 酸化チタン(IV)、酸化バナジウム(II)、酸化バナジウム(III)、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化タングステン(VI)、酸化モリブデン(VI)など、金属としては亜鉛、ニッケル、チタン、スズ、アルミニウムなどが挙げられる。これらは無水物であっても存在する場合の水和物であってもよい。
【0026】
上記金属イオン(D)の配合量は、表面処理用組成物の成分(A)〜(C)の全固形分に対して0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましい。この含量が0.01質量%未満である場合、耐食性の向上が見られないことがある。また、金属イオンが10質量%を超えると、表面処理用組成物の安定性が低下する傾向になる。
【0027】
また、本発明の表面処理用組成物中には、任意成分として、充填剤や潤滑剤等の添加剤を配合してもよい。充填剤としてはジルコニアゾル、アルミナゾル、シリカゾル等を用いることができ、潤滑剤としてはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等を用いることができる。上記充填剤は水性媒体と必須成分(A)〜(C)及び必要に応じ追加成分(D)とから表面処理用組成物を調製した後に配合してもよいし、調製する前に配合(すなわち、水系媒体と必須成分(A)〜(C)と必要に応じて使用する追加成分(D)と添加剤とから表面処理用組成物を調製)してもよい。
【0028】
本発明の表面処理用組成物中の水性媒体は通常水であるが、例えば乾燥速度を調整したり、水性媒体の塗工性をよくするため等の目的で少量(例えば水性媒体全体の5容量%以下)のメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール等の有機溶媒を含有していてもよい。
【0029】
本発明の表面処理用組成物は建浴用組成物(濃縮液)及び作業用組成物(希釈液)の両方を包含する。建浴用組成物における全固形分濃度は10〜40質量%であるのが好ましく、15〜30質量%であるのがより好ましい。作業用組成物における全固形分濃度は、1〜40質量%であるのが好ましく、5〜30質量%であるのがより好ましい。また、建浴用組成物及び作業用組成物のいずれにおいても全固形分に占める成分(A)〜(C)の全固形分の割合は50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましい。
【0030】
また、本発明の表面処理用組成物を作業用組成物として用いる場合のpHは、2.0〜6.5の範囲に調整されることが好ましく、2.5〜5.5の範囲に調整されることがより好ましい。その際、pH調整剤としては、表面処理用組成物のpHを上げる場合には、アンモニウム水、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩等を用い、表面処理用組成物のpHを下げる場合には、本発明で用いるフルオロ酸(B)で調整することが好ましい。pHが2.0未満では、基材表面との反応性が過多になるので、得られる皮膜の成膜性が不良になり、皮膜の耐食性、耐黒変性及び塗料密着性が不十分になる傾向にある。また該pHが6.5を超えると、フルオロ酸(B)が表面処理用組成物から析出しやすくなるため、表面処理用組成物の寿命が短くなる傾向になる。
【0031】
本発明はまた、pH2.0〜6.5に調整され、必要に応じ水性媒体で希釈された、作業用組成物としての上記金属材料表面処理用組成物を金属材料表面に塗布し、乾燥させて0.01〜5.0g/m2 、好ましくは0.1〜3.0g/mの乾燥質量を有する皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の表面処理方法に関する。乾燥後の皮膜質量が0.01g/m2 未満の場合、金属材料を被覆することが困難になり、耐食性、耐黒変性及び塗料密着性が不十分になる。また乾燥後の皮膜質量が5.0g/m2 を超えると、塗料密着性が低下する。
【0032】
該表面処理用組成物を塗布する方法には、特に限定はなく、例えば浸漬方法、スプレー方法、ロールコート法などを用いることができる。また、処理温度、処理時間についても特に限定はない。
金属材料表面上に形成された表面処理用組成物層の乾燥は加熱下に行うことが好ましく、加熱温度としては50〜250℃が好ましい。その後、必要に応じて水冷を行っても良い。
【0033】
本発明の表面処理用組成物を塗布する金属材料は、特に制限されず、例えば、鉄板、亜鉛含有金属めっき鋼板、スズめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等が挙げられる。該金属材料の種類のみならず、寸法、(上記では板状体が例示されているが)形状などにも特に制限はない。
【0034】
本発明の表面処理用組成物で処理された金属材料の耐食性、耐黒変性及び塗料密着性が著しく増進される作用機構について説明するが、かかる作用機構は1つの推定であって本発明はかかる推定に縛られるものではない。まず、金属材料表面を表面処理用組成物に接触させると、表面処理用組成物中のフルオロ酸により、金属表面のエッチングが起きる。エッチングにより、金属材料表面から溶出してきた金属イオンとリン酸系化合物(A)とフルオロ酸(B)中の特定のイオン、すなわちチタン、ジルコニウム、ケイ素、ハフニウム、アルミニウム又はホウ素イオンとの間の反応により金属表面に難溶性化合物が形成される。また、塗布した金属表面を加熱し乾燥すると、シランカップリング剤(C)の加水分解で生じたシラノール基同士の脱水縮合により連続皮膜が形成される。上記生成した難溶性化合物を含むカップリング剤皮膜のバリアー効果が発揮されることにより、金属材料の耐食性及び耐黒変性が向上すると考えられる。一方、シランカップリング剤(C)の加水分解で生じたシラノール基はまた金属材料表面と反応してオキサン結合を形成し、さらにシランカップリング剤(C)の有する反応性官能基(活性水素含有アミノ基やグリシジル基)が有機塗料中の官能基(例えばカルボキシル基やエステル基)と反応するため、金属材料と有機塗料の密着性を向上させる、すなわち、塗料密着性を向上させるものと推定される。また、追加成分として使用する、マンガン、コバルト、亜鉛、マグネシウム、ニッケル、チタン、バナジウム、ジルコニウム、スズ、カルシウム、タングステン、モリブデン、ハフニウム及びアルミニウムからなる群から選ばれた2価以上の金属イオンは、防錆性を付与するイオンとして知られており、本発明の表面処理液中に添加することにより、さらに耐食性がさらに向上するものと推定される。
【実施例】
【0035】
次に実施例および比較例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものでない。下記実施例および比較例に用いられる金属材料、その表面清浄化方法および本発明の表面処理用組成物について下記に説明する。
【0036】
1.供試材
・冷延鋼板(SPC)
市販品、板厚0.6mm JIS G314
・亜鉛含有金属めっき鋼板
(A)市販品、板厚0.6mm 両面電気亜鉛めっき鋼板(EG)目付量20g/m2
(B)市販品、板厚0.6mm
溶融亜鉛めっき鋼板(GI)目付量40g/m2
・アルミニウム板(AL):市販品、板厚0.8mm JIS A5052
【0037】
2.供試板の清浄化方法
上記供試板の表面を中アルカリ脱脂剤(登録商標:ファインクリーナー4336、日本パーカライジング(株)製)の水溶液(薬剤濃度:20g/L)を用いて、処理温度:60℃、処理時間:20秒の条件でスプレー処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した。次に表面に残存しているアルカリ分を水道水により洗浄し、供試板の表面を清浄化した。
【0038】
3.表面処理用組成物
本実施例及び比較例に用いた表面処理用組成物を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の注
注1) C1a:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
C1b:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン
C2a:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
C2b:β-グリシドキシプロピルメチル ジメトキシシラン
注2) E1:カチオン性ポリウレタン樹脂:ポリエーテルポリオール−脂肪族系ポリイソシアネート型、平均粒子径0.01μm、MFT(最低造膜温度)30℃、強度51N/mm、伸び率6%
E2:ノニオン性アクリル樹脂:pH7〜9、Tg(ガラス転移温度)41℃、MFT<50℃
E3:下記繰り返し単位からなる水溶性重合体
【0041】
【化1】

【0042】
注3) 各成分の成分(A)〜(C)の全固形分に対する固形分としての割合(%)である。
注4) 各成分の成分(A)〜(C)の全固形分を100%としたときの固形分としての割合(%)である。
注5) 2価以上の金属イオンの供給源について、亜鉛、コバルト、マンガン、マグネシウムは硝酸塩、ジルコニウムは塩基性炭酸塩、ニッケルは炭酸塩、タングステン、バナジウムは酸化物を用いた。
注6) 表面処理用組成物中の全固形分(=成分(A)〜(E))濃度は20質量%に調整した。水性媒体は水である。
注7) 樹脂クロメート:TOP−5241(日本パーカライジング(株)製)
【0043】
4.供試板の処理方法
表2に供試板の処理方法を示す。なお、表面処理用組成物の塗布はロールコート法によって行った。
【0044】
【表2】

【0045】
5.評価試験方法
前記実施例及び比較例により得られた表面処理供試板の性能を下記方法により評価した。
5.1.耐食性
a)耐食性(1) (SST)
供試板が亜鉛含有金属めっき鋼板(EG、GI)及びアルミニウム板(Al)の場合:塩水噴霧試験(SST、JIS Z 2371)に付し、目視による観察において、白錆発生面積が5%に達するまでの時間で評価を行った。
b)耐食性(2) (HCT)
供試板が冷延鋼板の場合:表面処理供試板を温度50℃−湿度95%の雰囲気下に保持し、目視による観察において、発錆面積が5%に達するまでの時間で評価を行った。
【0046】
5.2.塗料密着性
表面処理供試板に、下記条件下で塗装を施して塗装板を得、塗料密着試験を実施した。
<塗装条件>アルキッド系塗料(大日本塗料(株)商標名デリコン#700)塗装:バーコート法、焼き付け条件:140℃×20分 25μmの塗膜を形成
5.2.1.一次密着性
(1)碁盤目テスト:塗装板の塗膜に鋼板素地に達するまでの1mm角の碁盤目をNTカッターで100個入れた後、セロハンテープにて剥離を行い、塗膜の残存個数にて評価した。
(2)碁盤目エリクセンテスト:塗装板の塗膜に鋼板素地に達するまでの1mm角の碁盤目をNTカッターで100個入れ、エリクセン試験機で5mm押出した後、この凸部をセロハンテープにて剥離し、塗膜の残存個数にて評価した。
5.2.2.二次密着性
塗装板を沸騰した純水に2時間浸漬後、一次密着性と同様の評価を行った。
【0047】
5.3.耐黒変性
表2で得られた処理板から試験板を複数切り出し、2つの試験板の塗装面が向き合うように対面させ1対としたものを、5〜10対重ねて、ビニールコート紙にて梱包後、角の4ケ所をボルト締めにして、トルクレンチで、6.96N・mの目盛りまで荷重をかけ、そして、70℃、80%の相対湿度の湿潤箱内に240時間保持した後、取り出して、重ね合わせ部の黒変状況を目視にて判定した。なお、判定基準は次の通りである。
5:黒変なし
4:極めて軽度に灰色化
3:黒変25%未満
2:黒変25〜50%未満
1:黒変50%以上
【0048】
評価結果を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3の結果から明らかなように、本発明の範囲外でそれぞれフルオロ酸(B)又はリン酸系化合物(A)を含まない比較例1及び2、並びシランカップリング剤(C)を1種しか含まない比較例4は、耐食性及び塗料密着性が劣っていた。本出願人がこれまで提案した特許文献5に記載の表面処理用組成物に該当する比較例3は、耐食性、塗料密着性は良好であるが、耐黒変性が劣っていた。これらと比較して本発明の表面処理用組成物を用いた実施例1〜9、11〜21は、良好な耐食性、塗料密着性及び耐黒変性を示しており、比較例5における樹脂クロメートとほぼ同等〜同等以上の性能が得られた。また、実施例13と実施例12、実施例13と実施例14、実施例13と実施例15、実施例13と実施例16、実施例13と実施例17との比較から2価以上の金属イオン(D)の配合により耐食性がさらに向上し、実施例1と参考例4、実施例2と参考例2との比較から水系エマルジョン樹脂(E)の配合により塗料密着性がさらに向上することが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体に、
(A)リン酸、縮合リン酸及び有機ホスホン酸並びにそれらのアンモニウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物、
(B)少なくとも4個以上のフッ素原子と、チタン、ジルコニウム、ケイ素、ハフニウム、アルミニウム及びホウ素よりなる群から選ばれる少なくとも1個の元素を有するフルオロ酸、及び
(C)少なくとも1個の活性水素含有アミノ基を有するシランカップリング剤(C1)及び少なくとも1個のエポキシ基を有するシランカップリング剤(C2)
を溶解もしくは分散状態で配合してなり、樹脂を含有しない金属材料表面処理用組成物であって、成分(A)〜(C)の全固形分に対する成分(A)固形分の割合が0.1〜80質量%である該組成物。
【請求項2】
フルオロ酸(B)の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して固形分として0.1〜15質量%である請求項1記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項3】
フルオロ酸(B)とリン酸系化合物(A)との固形分質量比(B):(A)が1:100〜50:1である請求項1又は2記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤(C1)に含まれる活性水素含有アミノ基とシランカップリング剤(C2)に含まれるエポキシ基との当量比が3:1〜1:5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項5】
シランカップリング剤(C)すなわちシランカップリング剤(C1)及びシランカップリング剤(C2)の合計としてのシランカップリング剤の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して固形分として10〜90質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項6】
シランカップリング剤(C)とリン酸系化合物(A)との固形分質量比(C):(A)が1:10〜100:1である請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項7】
シランカップリング剤(C)とリン酸系化合物(A)との固形分質量比(C):(A)が1:10〜100:1であり、フルオロ酸(B)の配合量が成分(A)〜(C)の全固形分に対して固形分として0.1〜15質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項8】
マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、ニッケルイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、ジルコニウムイオン、スズイオン、カルシウムイオン、タングステンイオン、モリブデンイオン、ハフニウムイオン及びアルミニウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の2価以上の金属イオン(D)を、成分(A)〜(C)の全固形分に対して0.01〜10質量%配合した請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物。
【請求項9】
pH2.0〜6.5に調整された作業用組成物としての請求項1〜のいずれか1項に記載の金属材料表面処理用組成物を金属表面に塗布し、乾燥させて0.01〜5.0g/mの乾燥重量を有する皮膜を形成させることを特徴とする金属材料の表面処理方法。


【公開番号】特開2011−68996(P2011−68996A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272356(P2010−272356)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【分割の表示】特願2005−27024(P2005−27024)の分割
【原出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】