説明

金属板の表面処理方法

【課題】 各種金属板に対応した表面処理の切り替えが容易で、切り替えによる休止時間や生産性の低下を防止した塗り切り方式の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ脱脂処理液、酸洗処理液、表面調整処理液、リン酸塩処理液のうち、選ばれた1種以上の処理液を金属板表面に塗布した後、水洗する、塗布−水洗の操作を1回以上行う表面処理方法であって、液膜の厚さが0.5〜5μmで、かつ、厚さの変動が10%以内になるように塗布することを特徴とする金属板の表面処理方法とした。具体的には、アルカリ脱脂処理液および/または酸洗処理液を金属板表面に塗布した後、水洗し、次いで、表面調整処理液および/またはリン酸塩処理液を塗布した後、水洗する。ロールコーターまたはダイコーターを用いて処理液を塗布し、次いで非クロム系処理液を塗布して塗装前処理皮膜を形成し、その皮膜の上に非クロム系塗料を塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の表面処理ラインにおいて、塗装前処理や化成処理を行う金属板の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の表面処理方法では、スプレー処理や浸漬処理が一般的である。金属板には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al系合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板。銅板などがある。金属板の種類や原板の表面状態、塗装後の用途に応じて処理方法を組合せ、あるいは切り替えて処理している(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭60−29476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属板の表面処理ラインに脱脂処理、酸洗処理、表面調整処理、非クロム系処理に係る全処理設備を用意するには、多大な費用と設置場所を必要とし、現実的でない。通常は処理設備の節約や場所の確保のため、処理可能な金属板の種類は限定される。あるいは、金属板の切り替えにおいて、スプレー処理と浸漬処理を兼用するため処理液の入れ替えで対応する場合、休止時間の発生により生産性が低下する。
【0004】
スプレー処理では、処理時間により表面仕上りが変動するため、処理時間を目標範囲内で行うことが望ましい。大抵の場合スプレー処理槽は複数の処理帯に分かれており、ラインスピードが高速では処理帯全部を使用し、低速では一部の処理帯のみを稼動し、他の処理帯を休止させる等で大まかな調整は可能であるが、微調整できない状況にある。
【0005】
処理液濃度や組成、処理液温度を変化させることで、最適な処理時間を得られるが、処理液槽の容量に比例するので無駄が多くなる。また、処理ムラが生じ易く、板幅方向での過剰処理部位と不足部位が発生し、塗装後の製品性能に影響する可能性が高い。なお、処理液は、金属板から溶出する金属イオンが蓄積され、補給液で調整しても次第に適正な処理ができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、その目的を達成するため、アルカリ脱脂処理液、酸洗処理液、表面調整処理液、リン酸塩処理液のうち、選ばれた1種以上の処理液を金属板表面に塗布した後、水洗する、塗布−水洗の操作を1回以上行う表面処理方法であって、液膜の厚さが0.5〜5μmで、かつ、厚さの変動が10%以内になるように塗布することを特徴とする金属板の表面処理方法とした。
具体的には、アルカリ脱脂処理液および/または酸洗処理液を金属板表面に塗布した後、水洗し、次いで、表面調整処理液および/またはリン酸塩処理液を塗布した後、水洗する。ロールコーターまたはダイコーターといった塗布装置を用いて処理液を塗布し、次いで非クロム系処理液を塗布して塗装前処理皮膜を形成し、その皮膜の上に非クロム系塗料を塗装する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、処理液の塗布はロールコーターあるいはダイコーターといった塗布装置により、各種金属板、めっき種毎に対応した表面処理の切り替えが容易で、切り替えによる休止時間のロスや生産性の低下が防止できる。また、塗布装置の利用により、塗布厚さの変動(塗布精度)を10%以内に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
各処理液の塗布方法として、ロール式のロールコーター、スリットノズル式のダイコーターなどを使用すればよく、金属板表面に薄い液膜を均一に塗布することができる。
ロールコーターやダイコーターによる塗布のため、金属板の種類、めっき種、原板の表面状態、塗装後の用途に応じて塗布する処理液の種類、濃度、組成、温度を短時間で切り替えが可能となり、生産性も向上する。
【0009】
各処理液は、液膜として0.5〜5μmになるようにロール材質や圧下率、回転数などで塗布量を調節する。液膜が0.5μmより薄いと、塗布自体困難であるだけでなく、反応に要する液量が不足し、十分な処理が施せない。液膜が5μmを越えると、処理が過剰になるだけでなく、処理液を無駄に消費し不経済である。さらに、廃液量が増加し、廃液処理費がかさむ。
【0010】
塗布装置を2セット用意すれば、瞬時に処理の切り替えができる。同じ塗布装置を利用する場合でも、パン(槽)を交換するだけで処理液の切り替えができ、しかも処理液は少量でよく、休止時間もほとんどないので、生産性への影響もなくなる。
【0011】
処理液の液膜が薄いため、処理液濃度が高くても絶対量が少なく、反応の進行とともに処理液が急速に消費され、短時間で処理が終了する。処理時間が短いことから、ラインスピードが速くても、塗布から水洗までの走行時間が処理時間より長くなる。ラインスピードによる制約がないので、処理液の濃度、組成、塗布量の調整で金属板表面の処理を制御できる。処理液の液膜が厚いと、反応終了までの時間が長いため、処理時間が長くなる。このため、ラインスピードが速いと、反応が終了しないうちに水洗工程へ入り、処理不足となってしまうと同時に、処理液を無駄にしてしまう。
【0012】
本発明によれば、板幅方向に処理液を均一に塗布できるので、処理過剰な部分と、処理不足部分が生じる可能性はなくなる。スプレー処理のようにムラやノズル詰まりの心配もない。さらに、処理液が均一に分散塗布されるので、処理液中の必要な成分の付着量を従来法よりも少なく抑えることができ、薬液の節減効果も期待できる。また、処理液は、塗り切り方式なので金属板から溶出する金属イオンは、処理液パン(槽)に戻らず、水洗で除去されるため、液組成の変動や劣化がなく、常に新鮮な処理液が塗布されるため、安定した仕上りとなる。
【実施例】
【0013】
板厚0.4mmの55%アルミ−亜鉛合金めっき鋼板を用意した。これを70℃の湯洗スプレーにて1秒間処理し、脱脂剤(サーフクリーナー155:日本ペイント社製)の4%水溶液をロールコーターにて、2μmの厚さに塗布し、1秒間保持後に湯洗スプレーにて1秒間洗浄し、次いで表面調整剤(NPコンディショナー500:日本ペイント社製)の20%水溶液をロールコーターにて、2μmの厚さに塗布し、1秒間保持し、湯洗スプレーにて1秒間洗浄処理を行った。
【0014】
次いで、非クロム系化成処理皮膜剤(Bonderite1453:Henkel社製)を乾燥皮膜量で50mg/m塗布し、乾燥した。塗装はポリエステル系の非クロム系プライマー塗料を乾燥時の塗膜厚み5μm、ポリエステル系のトップコート用塗料を乾燥時の塗膜厚み20μmになるように塗布した。それぞれ、到達板温215℃で40秒間焼き付けた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
従来のスプレー式表面処理の塗装鋼板と比較して、塗膜の密着性、防錆効果の面ではほぼ同等の結果が得られた。このように、塗膜の機能として同等レベルを確保しながら、塗布方式の表面処理を利用して、容易に処理の切り替えを行えるようになり、休止時間の発生や生産性の低下を防止することができる。また、ロールコーターあるいはダイコーターといった塗布装置により、各処理液の塗布精度も向上できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ脱脂処理液、酸洗処理液、表面調整処理液、リン酸塩処理液のうち、選ばれた1種以上の処理液を金属板表面に塗布した後、水洗する、塗布−水洗の操作を1回以上行う表面処理方法であって、液膜の厚さが0.5〜5μmで、かつ、厚さの変動が10%以内になるように塗布することを特徴とする金属板の表面処理方法。
【請求項2】
アルカリ脱脂処理液および/または酸洗処理液を金属板表面に塗布した後、水洗し、次いで、表面調整処理液および/またはリン酸塩処理液を塗布した後、水洗することを特徴とする請求項1記載の金属板の表面処理方法。
【請求項3】
処理液の塗布にロールコーターまたはダイコーターといった塗布装置を用い、次いで非クロム系処理液を塗布して塗装前処理皮膜を形成し、その皮膜の上に非クロム系塗料を塗装することを特徴とする請求項1および請求項2記載の金属板の表面処理方法。























【公開番号】特開2006−137981(P2006−137981A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327388(P2004−327388)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】