説明

金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造、金属板屋根ユニット及び建築物

【課題】屋根板と同等の耐食性を有する、軽量で且つ低コストの伸縮機構により、金属板屋根の熱膨張による変形音を抑制する。
【解決手段】屋根を構成する金属板14に、熱膨張による変形を吸収するための、金属板をU字状にプレス加工した伸縮機構26を設ける。ここで、前記伸縮機構26を、ベローズ状にプレス加工することができる。又、前記伸縮機構26を構成する金属板を、前記屋根を構成する金属板14と同じ材料とすることができる。更に、前記伸縮機構26を、工場で設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造、金属板屋根ユニット及び建築物に係り、特に、角形配水池のステンレス鋼板製屋根に用いるのに好適な、金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造、金属板屋根ユニット及び建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
貯留水の水質保持を目的として、ステンレス鋼板製の角型配水池が設けられることがある。配水池の気相部に設けられる屋根を構成する金属板には、水道水から発生した塩素ガスの濃縮による厳しい環境に耐えるため、一般的には高耐食性のステンレス薄板が使用される。積載荷重に対抗するため、ロールによる曲げ加工やリブによる補強等を使用した設計が行われるが、底板及び側壁との全溶接構造のため屋根板が拘束状態となり、気温の上昇や日射によって過度に熱膨張すると飛び移り座屈が発生し、この変形によって太鼓の打撃音のような音が発生する。これは、屋根板の熱で膨張した部分が、蒲鉾状の屋根のアーチ形状と逆の方向に変形したことによる発生音と考えられる。
【0003】
近年、大規模なステンレス鋼板製角形配水池が建設されるようになったが、屋根面積が大きくなることから、屋根板の熱膨張による変形音が無視できなくなってきている。
【0004】
なお、本願と同様に、熱膨張による伸縮を吸収する技術として、特許文献1や2には、折板構造の屋根板連結機構が記載され、特許文献3には、屋根材を略二分する長いスリットを形成し、このスリット内に屋根に加わる応力を吸収する弾性材を一体的に取り付ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−162420号公報
【特許文献2】特開平10−82142号公報
【特許文献3】特開平8−193388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や2に記載の技術は、屋根板の接続部に設ける構造であり、構造が複雑であるという問題点を有していた。
【0007】
一方、特許文献3に記載の技術は、スリット内に弾性材を設ける必要があり、屋根板と同等の耐食性を確保するのが困難であるという問題点を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、屋根板と同等の耐食性を有する、軽量で且つ低コストの伸縮機構により、金属板屋根の熱膨張による変形音を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、屋根を構成する金属板に、熱膨張による変形を吸収するための、金属板をU字状にプレス加工した伸縮機構を設けたことにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
ここで、前記伸縮機構は、ベローズ状にプレス加工されることができる。
【0011】
又、前記伸縮機構を構成する金属板を、前記屋根を構成する金属板と同じ材料とすることができる。
【0012】
又、前記伸縮機構を、工場で設けることができる。
【0013】
又、前記伸縮機構を、金属板屋根のエキスパンション底部に配設することができる。
【0014】
本発明は、又、前記の伸縮機構が設けられていることを特徴とする金属板屋根ユニットを提供するものである。
【0015】
又、前記の変形音抑制構造を有する金属板屋根を備えたことを特徴とする建築物を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属板をU字状にプレス加工した伸縮機構が蛇腹状に変形するので、熱膨張による変形を吸収し、飛び移り座屈の発生を抑制して、屋根の変形による音の発生を軽減させることができる。又、伸縮機構には金属板を用いたので、屋根板と同等の耐食性を持たせることができ、対塩素性が要求される配水池にも使用できる。更に、伸縮機構は薄板での設計が可能であることから、剛性を上げて変形を防止する構造より、軽量で且つ低コストでの変形音軽減対策が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用される配水池の全体構成を示す平面図
【図2】同じく、要部を拡大して示す立面図及び断面図
【図3】同じく、屋根板全体の斜視図
【図4】本発明の第1実施形態の構成を示す、屋根板の左半分を示す斜視図
【図5】同じく、屋根板の一部の平面図
【図6】図5のVI−VI線に沿う横断面図
【図7】本発明の第2実施形態の要部構成を示す横断面図
【図8】本発明の第3実施形態の要部構成を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明が適用される配水池の全体構成の平面図を図1に、同じく立面図及び断面図を図2に、同じく屋根板全体の斜視図を図3に示す。
【0020】
本発明の対象となる配水池は、図1に示すような長方形を有し、図2に示す如く、底板10及び上部12Uと下部12Lでなる側壁12に対して、例えばアーチ状の屋根板14が溶接で接合されている。図において、16は屋根支柱、18は内部引張材である。
【0021】
ここで、液相部となる前記底板10及び側壁下部12Lは、例えばSUS316又はSUS304ステンレス鋼板製とされ、塩素ガスの濃縮による厳しい環境に耐える必要がある気相部となる屋根板14と側壁上部12Uは、例えばSUS329J4Lステンレス鋼板製とされている。
【0022】
本発明の第1実施形態は、図4に屋根板の左半分を示す如く、前記屋根板14のエキスパンション14Eの部分に、図5(平面図)及び図6(図5のVI−VI線に沿う横断面図)に示す如く、屋根板14と同じステンレス鋼板を略U字形状にプレス加工した伸縮機構26を設けた金属板屋根ユニット22を配設したものである。図において、24は補強用のリブ、30は溶接位置である。
【0023】
前記伸縮機構26は、配水池に収容される水道水に対する耐食性を確保するため、屋根板と同じ高耐食鋼を使用することで、屋根板と同等の耐食性を有するようにされている。
【0024】
この構造により、屋根板14の熱膨張に対して伸縮機構26が蛇腹状に変形するため、飛び移り座屈の発生を抑制することで、屋根の変形による音の発生を軽減させることができる。
【0025】
この伸縮機構26は、例えば約10m毎に入れることができる。
【0026】
本実施形態においては、金属板屋根ユニット22の工場製作時に伸縮機構26が挿入される。従って、現地据付工事時に、金属板屋根ユニット22同士を溶接位置30で溶接することにより、従来の屋根と同様に施工が可能である。
【0027】
工場製作時においても、従来の製作方法に対して、屋根部材に伸縮機構26を溶接にて接合する工程が加わるのみで、特殊な工法や機械等を用いることなく伸縮機構26を挿入することができる。
【0028】
本実施形態においては、伸縮機構26が単純なU字形状とされていたので、製造が容易であり、板の数も少なくてよい。
【0029】
なお、図7に示す第2実施形態のように、オーム(Ω)形状としてもよい。オーム形状とした場合、屋根板のエキスパンション底部に発生する応力集中を解消することができるのでより好ましい。
【0030】
あるいは、図8に示す第3実施形態のように、複数(図8では2つ)並べてもよい。
【0031】
前記実施形態においては、本発明が長方形の角形配水池屋根に適用されていたが、配水池の形状は長方形に限定されず、正方形や六角形等、他の形状であってもよい。又、金属板の材質もステンレスに限定されない。
【0032】
更に、本発明の適用対象も配水池に限定されず、金属板製の建築物一般の屋根板に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
10…底板
12…側壁
14…屋根板
14E…エキスパンション
22…金属板屋根ユニット
26…伸縮機構
30…溶接位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根を構成する金属板に、熱膨張による変形を吸収するための、金属板をU字状にプレス加工した伸縮機構を設けたことを特徴とする金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造。
【請求項2】
前記伸縮機構が、ベローズ状にプレス加工されていることを特徴とする請求項1に記載の金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造。
【請求項3】
前記伸縮機構を構成する金属板が、前記屋根を構成する金属板と同じ材料とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造。
【請求項4】
前記伸縮機構が、工場で設けられたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造。
【請求項5】
前記伸縮機構が、金属板屋根のエキスパンション底部に配設されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の金属板屋根の熱膨張による変形音抑制構造。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の伸縮機構が設けられていることを特徴とする金属板屋根ユニット。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の変形音抑制構造を有する金属板屋根を備えたことを特徴とする建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−108263(P2013−108263A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253328(P2011−253328)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】