説明

金属板被覆用樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂被覆金属板、及び樹脂被覆金属容器

【課題】密着性、耐衝撃性が良好で、焼付け塗装や印刷等によって加熱処理を受けた後でも本来の密着性、耐衝撃性を保つことができる金属板被覆用樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂被覆金属板、及び樹脂被覆金属容器を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂(A)、ゴム状弾性体樹脂(B)、及び、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)を含有する樹脂組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.5〜1.25dl/gで、屈曲ユニットを含有し、前記ポリエステル樹脂(A)中にビニル重合体(C)でカプセル化したゴム状弾性体樹脂(B)が分散してなる金属板被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板被覆用樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂被覆金属板、及び樹脂被覆金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性、ガスバリア性及び金属との密着性に優れており、構造材、筐体などの樹脂成形体に使用され、また、腐食防止を目的とした金属板の被覆用の材料としても使用されている。
【0003】
しかし、金属板に被覆して使用される場合、耐衝撃性、樹脂と金属との密着性、ガスバリア性といった性質は、ポリエステル樹脂の結晶化度に強く依存しているため、樹脂の結晶構造を厳密に制御しなければ実用的な特性が得られない。具体的には、樹脂の金属と接触する部位では密着性を良好にするために結晶化度を小さくし、その他の部位においては、逆に耐衝撃性やガスバリア性を確保するために結晶化度を大きくしなければならい。すなわち、密着性と耐衝撃性やガスバリア性とを同時に満たすためには、樹脂の結晶化度を適切に傾斜させる必要があった。このためには、温度制御等の製造条件を厳しく制御しないといけないので、製造条件が狭い範囲に制約されることとなっていた。
【0004】
金属板の被覆用の材料として樹脂を使用する場合には、樹脂と金属との密着性、耐衝撃性、ガスバリア性が重要であるが、これらを向上させる手法として、例えば、特許文献1には、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物とをラミネートする方法が開示されている。当該方法では、ラミネート工程中で界面の結晶化度を容易に低下できるため、密着性が向上する反面、ガスバリア性及び耐衝撃性が低下し、これら両特性を発現させるためには、2軸延伸膜を使用して結晶性組織を積極的に残留させる等の工程上の制約があった。すなわち、結晶化度を低下させない等の工程上の制約があった。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献2や特許文献3で開示されているように、ポリエステル樹脂とアイオノマー樹脂との樹脂組成物を使用することで、機械的性質、電気的性質、耐熱性、ガスバリア性、及び金属との密着性が改善される。さらには、例えば、特許文献4で開示されているように、前記のポリエステル樹脂とアイオノマーのような極性基を有するビニル重合体との樹脂組成物に対して、更にゴム状弾性体樹脂を添加してポリエステル樹脂にゴム状弾性体樹脂を微細分散し、極性基を有するビニル重合体により前記ゴム状弾性体樹脂をカプセル化するという技術が開発された。前記技術により、よりいっそうの諸特性の改善が図られ、前記の諸般の課題はほぼ解決することができた。
【0006】
【特許文献1】特開平3−269074号公報
【特許文献2】特開平7−195617号公報
【特許文献3】特開平7−290644号公報
【特許文献4】国際公開第99/27026号パンフレット
【特許文献5】特開2000−319322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ポリエステル樹脂、アイオノマーのような極性基を有するビニル重合体、及びゴム弾性体樹脂との樹脂組成物から得られる樹脂フィルムは、金属板に被覆すると、機械的性質、電気的性質、耐熱性、ガスバリア性、及び金属との密着性等に極めて優れた性質を示す。しかし、発明者らが更に検討したところ、焼付け塗装や印刷等される温度域で加熱処理を受けた場合、本来樹脂が有していた優れた密着性や耐衝撃性が大幅に低下し、フィルムにクラックが入ったり、ラミネートしたフィルムが剥離が生じたりするという問題が明らかになった。樹脂フィルムや、樹脂フィルムをラミネート(被覆)したラミネート金属板(特に、ラミネート鋼板)は、焼付け塗装や印刷における熱処理の他にも、材料の平滑性向上、硬度向上、張り合わせに使用した接着剤の硬化処理、裏面塗料の硬化処理等、さまざまな理由で熱処理を受ける事があり、このように製膜後やラミネート後に熱処理が行われる用途においては、製膜後やラミネート後の熱処理による密着性、耐衝撃性の低下は深刻な問題となる。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題に鑑み、密着性、耐衝撃性が良好で、焼付け塗装や印刷等によって加熱処理を受けた後でも本来の密着性、耐衝撃性を保つことができる、金属板被覆用樹脂組成物、樹脂フィルム、樹脂被覆金属板、及び樹脂被覆金属容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討し、以下の知見を得、本発明を完成した。具体的には、ポリエステル樹脂(A)、ビニル重合体(C)、及び、ゴム状弾性体樹脂(B)を含有する樹脂フィルムは、ビニル重合体(C)及びゴム状弾性体樹脂(B)の添加によって、無添加のポリエステル樹脂(A)に比較して格段の密着性や耐衝撃性の向上が見られるものの、焼付け塗装や印刷等がなされる温度域での加熱処理によって密着性や耐衝撃性の低下が生じるのは、ビニル重合体(C)及びゴム状弾性体樹脂(B)が分散されているマトリクス樹脂であるポリエステル樹脂自身が、結晶化等によって変質しているからである。従って、ビニル重合体(C)及びゴム状弾性体樹脂(B)の添加では、前記変質の抑制は不可能であるので、前記樹脂の添加で変質に伴う密着性や耐衝撃性の低下を抑制するのも不可能であることが分かった。前記現象の理解から、特定の固有粘度を有するポリエステル樹脂で、屈曲したユニットを含有させて高分子鎖の配列を乱し、結晶性が上がりすぎること(結晶化度が高くなりすぎること)を抑制することで、焼付け塗装や印刷等がなされる温度域で加熱処理されても、密着性や耐衝撃性が低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂(A)、ゴム状弾性体樹脂(B)、及び、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)を含有する樹脂組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.5〜1.25dl/gで、屈曲ユニットを含有し、前記ポリエステル樹脂(A)中にビニル重合体(C)でカプセル化したゴム状弾性体樹脂(B)が分散してなることを特徴とする、金属板被覆用樹脂組成物。
(2)前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.5〜1.15dl/gで、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率7〜15モル%であることを特徴とする、(1)記載の金属板被覆用樹脂組成物。
(3)前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.8〜1.25dl/gで、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率5〜12モル%であり、シクロヘキサンジメタノールユニットを2〜20モル%含有することを特徴とする、(1)記載の金属板被覆用樹脂組成物。
(4)前記ゴム状弾性体樹脂(B)が、ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、(1)記載の金属板被覆用樹脂組成物。
(5)前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンの共重合体、又は、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンと非共役ジエンとからなる3元共重合体であることを特徴とする、(4)記載の金属板被覆用樹脂組成物。
(6)前記ビニル重合体(C)がアイオノマー樹脂であることを特徴とする、(1)記載の金属板被覆用樹脂組成物。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物を、単独で成形し、又は、他の樹脂組成物と接着剤の少なくともいずれか一方と組み合わせて積層成形もしくは塗布してなることを特徴とする、樹脂フィルム。
(8)金属板の片面に、少なくとも上記(7)に記載の樹脂フィルムを用いて単一層状に、又は、他の樹脂組成物と接着剤の少なくともいずれか一方と組み合わせて多層状に積層して被覆してなる、樹脂被覆金属板。
(9)上記(8)に記載の樹脂被覆金属板の樹脂被覆をしていない金属面に焼付け塗装したことを特徴とする、樹脂被覆金属板。
(10)上記(9)に記載の樹脂被覆金属板を成形してなる、樹脂被覆金属容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属板被覆用樹脂組成物及び樹脂フィルムによれば、金属板にラミネートした後に焼付け塗装や印刷等によって加熱処理を受けた後でも、本来の密着性と耐衝撃性を保つことができるという極めて顕著な作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の金属板被覆用樹脂組成物、同樹脂フィルム、及び前記フィルムを用いた樹脂被覆金属板並びに樹脂被覆金属容器について説明する。
【0013】
(1)はじめに
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)、及びゴム状弾性体樹脂(B)が主成分であり、ゴム状弾性体樹脂(B)はビニル重合体(C)によりカプセル化されている。
【0014】
ビニル重合体(C)とゴム状弾性体樹脂(B)の質量比は(C):(B)=10:1.0〜1.0:15の範囲が好ましい。質量比(C):(B)=10:1.0よりもゴム状弾性体樹脂(B)の割合が少なくなると、ゴム状弾性体による耐衝撃性改善が不完全となる場合がある。一方、質量比(C):(B)=1.0:15よりもゴム状弾性体樹脂(B)の割合が多くなると、カプセル化構造が不完全となる場合がある。更に、より好ましくは質量比(C):(B)=8:1.0〜1.0:10の範囲である。
【0015】
全樹脂((A)+(B)+(C))に対するビニル重合体(C)とゴム状弾性体(B)を合わせた質量%(100×((B)+(C))/((A)+(B)+(C)))は、1.0〜40質量%が好ましい。1.0質量%未満では、ネックイン(neck in、Tダイスからの押し出し物の幅がダイスからでたところで、ダイスの幅方向の収縮でダイスの幅より狭くなること)が大きくなり、有効フィルム面積が狭まる、膜厚不均一になるなどの問題が生じる場合がある。一方、40質量%を越えると、ビニル重合体(C)とゴム状弾性体樹脂(B)の弾性率の低さにより、本発明の樹脂が過度に柔軟になり、材料強度が低下する場合がある。更に、ネックインの小ささ及び樹脂の適切な硬度の観点から、前記質量%は、好ましくは2.0〜30質量%、さらに好ましくは3.0〜25質量%である。
【0016】
(2)ポリエステル原料
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)とは、ヒドロキシカルボン酸化合物残基のみを構成ユニットとする熱可塑性ポリエステル、ジカルボン酸残基及びジオール化合物残基を構成ユニットとする熱可塑性ポリエステル、又は、ヒドロキシカルボン酸化合物残基とジカルボン酸残基及びジオール化合物残基を構成ユニットとする熱可塑性ポリエステルである。又は、前記熱可塑性ポリエステルの混合物であっても良い。
【0017】
ヒドロキシカルボン酸化合物残基の原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシエチル安息香酸、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0018】
また、ジカルボン酸残基を形成するジカルボン酸化合物を例示すると、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びアジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で使用しても、また、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0019】
次に、ジオール残基を形成するジオール化合物を例示すると、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、o−ヒドロキシフェニル−p−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール及びエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等が挙げられ、これらは単独で使用することも、また、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0020】
また、これらから得られるポリエステル樹脂を単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても良い。本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、これらの化合物又はその組み合わせにより構成されていれば良いが、中でも芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される含芳香族ポリエステル樹脂であることが、加工性、熱的安定性の観点から好ましい。
【0021】
また、本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される構成単位を少量、例えば2モル%以下の量を含んでいても良い。
【0022】
本発明に使用する好ましいポリエステル樹脂(A)を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられるが、中でも適度の機械特性、ガスバリア性、及び金属密着性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートが最も好ましい。
【0023】
<屈曲ユニット>
本発明のポリエステル樹脂(A)は、上述のように、固有粘度が0.5〜1.25dl/gで、上記構成ユニット中で屈曲ユニットを含むものである。前記屈曲ユニットは、ジカルボン酸ユニットであってもよく、ジオールユニットであってもよく、また、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットの両方を含んでいてもよい。屈曲ユニットとしては、例えば、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸ユニット、o−ヒドロキシフェニル−p−ヒドロキシフェニルメタン、シクロヘキサンジメタノール等のジオールユニットであり、中でも、イソフタル酸ユニット、シクロヘキサンジメタノールユニットが好適である。また、前記屈曲ユニットの含有率は、7〜32モル%が好ましい。7モル%未満では、ポリエステルに柔軟性を与える効果が不十分な場合がある。一方、32モル%を越えると、過度の柔軟性のため、寸法安定性等が低下する場合がある。
【0024】
<イソフタル酸ユニット>
上述のように、イソフタル酸(m−C(COOH))は、屈曲分子であり、多くのポリエステルの主原料であるテレフタル酸(p−C(COOH))と比較して、ポリエステルに柔軟性を与える効果が大きい。その結果、イソフタル酸ユニットを特定量含有することで、ラミネート後に熱処理を受けても、密着性や耐衝撃性が低下しなくなっていると考えられる。
【0025】
固有粘度が0.5〜1.15dl/gであるポリエステル樹脂(A)において、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率は7〜15モル%が好ましい。7モル%未満では、ポリエステルの柔軟性が不足するので好ましくない場合がある。15モル%を越えると、過度の柔軟性のため、寸法安定性等が低下する可能性があり、好ましくない。前記含有率は、より好ましくは、9〜12モル%である。上記イソフタル酸ユニットの含有率(使用率)は、核磁気共鳴(NMR)分析により決定することが出来る。
【0026】
<シクロヘキサンジメタノール(CHDM)ユニット>
シクロヘキサンジメタノール(CHDM,1,4−C10(CHOH))も屈曲した分子であり、イソフタル酸ユニットと同様に、樹脂に柔軟性を与える効果が大きい。熱処理を受けた後にも密着性や耐衝撃性が低下しないという観点から、ジオール成分として、剛直かつ屈曲したユニットとしてCHDMユニットを更に含有していることは、樹脂に柔軟性を与えるという点でより好ましい。
【0027】
固有粘度が0.8〜1.25dl/gであるポリエステル樹脂(A)において、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率は5〜12モル%として、全ジオール中のCHDMユニットを2〜20モル%含有するのが好ましい。前記CHDMユニット含有率は、より好ましくは5〜16モル%である。CHDMユニット含有率が2モル%より少ない場合には、熱処理を受けた後に、密着性や耐衝撃性が低下する場合がある。CHDMユニットの含有率が20モル%より多い場合には、樹脂が過度に柔軟になり、材料強度が低下する場合が有る。
【0028】
上記CHDMユニットの含有率(使用率)は、核磁気共鳴分析により決定することが出来る。
【0029】
また、CHDMユニットの添加方法としては、CHDMユニットを含有しないポリエステルとCHDMユニットを含有するポリエステルを混合しても良いし、CHDMユニットを含有するポリエステルを単独で使用しても良く、CHDMユニットの総含有量が上記の範囲であれば差し支えない。
【0030】
CHDMユニットを含有する場合のイソフタル酸ユニット含有率は5〜12モル%が好ましい。5モル%未満では、ポリエステルの柔軟性が不足するので好ましくない場合がある。12モル%を越えると、過度の柔軟性のため、寸法安定性等が低下する場合がある。
【0031】
(3)ポリエステル樹脂の物性
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、0.5〜1.25dl/gである。前記固有粘度が0.5dl/g未満では、混練によって本発明の樹脂を製造する際に、樹脂の溶融粘度が低すぎ、剪断効率が低下し、極性モノマー含有ビニル重合体(B)と均一に混合しないため、機械強度や耐衝撃性が低い。一方、前記固有粘度が1.25dl/gを越えると、屈曲ユニットを含有していても、熱処理後に密着性や耐衝撃性の低下が生じて、好ましくない。
【0032】
イソフタル酸ユニットを含有する場合には0.5〜1.15dl/gが好ましい。固有粘度が0.5dl/g未満の場合は、混練によって本発明の樹脂を製造する際に、樹脂の溶融粘度が低すぎ、剪断効率が低下し、極性モノマー含有ビニル重合体(B)と均一に混合しないため、機械強度や耐衝撃性が低い。一方、固有粘度が1.15dl/gを越える場合には、樹脂の柔軟性が不足するため、熱処理後に密着性や耐衝撃性の低下が生じる場合がある。ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、より好ましくは0.6〜1.0dl/g、さらに好ましくは0.75〜0.9dl/gである。
【0033】
また、イソフタル酸ユニットとCHDMユニットを含有する場合の固有粘度は、0.8〜1.25dl/gが好ましい。固有粘度が0.8dl/g未満の場合には、混練によって本発明の樹脂を製造する際に、樹脂の溶融粘度が低すぎ、剪断効率が低下し、極性モノマー含有ビニル重合体(B)と均一に混合しないため、機械強度や耐衝撃性が低くなる場合がある。一方、固有粘度が1.25dl/gを越える場合には、樹脂の柔軟性が不足するため、熱処理後に密着性や耐衝撃性の低下が生じて、好ましくない。
【0034】
上記固有粘度は、25℃のo−クロロフェノール中、0.5%の濃度で測定し、下記(i)式によって求められる。式中、Cは溶液100ml当たりの樹脂のg数で表わした濃度を、tは溶媒の流下時間を、tは溶液の流下時間を各々表す。
固有粘度= {ln(t/t)}/C (i)
【0035】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差型熱分析装置(DSC)で測定できる)が、通常50〜120℃、より好ましくは60〜100℃であることが望ましい。
【0036】
前記ポリエステル樹脂(A)は、非晶性であっても結晶性であっても良く、結晶性である場合には、結晶融解温度(Tm)が、通常210〜265℃、より好ましくは210〜245℃であり、低温結晶化温度(Tc)が、通常110〜220℃、好ましくは120〜215℃であることが望ましい。Tmが210℃未満であったり、Tcが110℃未満の場合は、耐熱性が不充分で、絞り加工時にフィルム形状を保持できない場合がある。また、Tmが265℃超であったり、Tcが220℃超の場合は、金属板の表面凹凸に充分樹脂が入り込めず、密着不良となる場合がある。
【0037】
(4)ビニル重合体(C)の極性基
本発明に使用する極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)とは、ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体である。極性基を有するユニットが1質量%未満では、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0038】
ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を具体的に例示すると、−C−O−、−C=O、−COO−、エポキシ基、C、CN−、−CN、−NH、−NH−、−SO−、等が挙げられる。また、極性基として金属イオンで中和された酸根を有していてもよい。この場合、金属イオンの例としてはNa、K、Li、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+,Ti3+,Zr3+,Sc3+、Al3+、Y3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。
【0039】
(5)極性基を有するユニットの例
極性基を有するユニットを例示すると、−C−O−基を有する例としてビニルアルコール、−C=O基を有する例としてビニルクロロメチルケトン、−COO−基を有する例としてアクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル酸及びその金属塩若しくはエステル誘導体、エポキシ基を有する例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタクリル酸グリシジル等のα,β−不飽和酸のグリシジルエステル、C基を有する例として無水マレイン酸、CN−基を有する例として無水マレイン酸のイミド誘導体、−CN基を有する例としてアクリロニトリル、−NH基を有する例としてアクリルアミン、−NH−基を有する例としてアクリルアミド、−X基を有する例として塩化ビニル、−SO−基を有する例としてスチレンスルホン酸、等が挙げられ、またこれらの酸性官能基の全部または一部が上記の金属イオンで中和された化合物が挙げられ、これらが単独でまたは複数でビニル重合体(C)に含有されていても良い。ビニル重合体(C)に含有される極性基を有するユニットは、ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を有するユニットであれば良く、上記の具体例に限定されるものではない。
【0040】
(6)ビニル重合体(C)
本発明に使用するビニル重合体(C)は、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体であり、そのようなビニル重合体を例示すると、上記の極性基含有ビニル系ユニットの単独若しくは2種類以上の重合体、及び上記極性基含有ビニル系ユニットと下記一般式(ii)で示される無極性ビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
CHR=CR (ii)
(式中、R、Rは各々独立に炭素数1〜12のアルキル基若しくは水素を、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基若しくは水素を示す。)
【0041】
一般式(ii)の無極性ビニルモノマーを具体的に示すと、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィン、イソブテン、イソブチレン等の脂肪族ビニルモノマー、スチレンモノマーの他にo−、m−、p−メチルスチレン、o−、m−、p−エチルスチレン、t−ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーの付加重合体単位等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。
【0042】
極性基含有ユニットの単独重合体を例示すると、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。また、極性基含有ユニットと無極性ビニルモノマーとの共重合体を例示すると、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部若しくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、ブテン−エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等及びそれらの酸性官能基のすべて、または一部が金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂類が挙げられる。
【0043】
アイオノマー樹脂としては、公知のアイオノマー樹脂を広く使用することができる。具体的には、ビニルモノマーとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体で共重合体中のカルボン酸の一部若しくは全部を金属陽イオンにより中和したものである。
【0044】
ビニルモノマーを例示すると、上記のα−オレフィンやスチレン系モノマー等であり、α,β−不飽和カルボン酸を例示すると、炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸であり、より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル等が挙げられる。
【0045】
中和する金属陽イオンを例示すると、Na、K、Li、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+,Ti3+,Zr3+,Sc3+、Al3+、Y3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。また、金属陽イオンで中和されていない残余の酸性官能基の一部は低級アルコールでエステル化されていても良い。
【0046】
アイオノマー樹脂を具体的に例示すると、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸との共重合体、あるいはエチレンとマレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体であって、共重合体中のカルボキシル基の一部若しくは全部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンで中和された樹脂が挙げられる。
【0047】
これらの中で、耐衝撃性向上能が高く、ポリエステル樹脂(A)とゴム状弾性樹脂体(B)との相溶性を改善する目的で最も好ましいのが、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸の共重合体(カルボキシル基を有する構成単位が2〜15モル%)で、重合体中のカルボキシル基の30〜70モル%がNa、Zn等の金属陽イオンで中和されている樹脂である。
【0048】
耐衝撃性を向上する性能が高い点で、ガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差熱型分析装置(DSC)で測定できる)が50℃以下、常温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上であるビニル重合体(C)が好ましい。
【0049】
本発明で使用する好ましいビニル重合体(C)を例示すると、メタクリル酸、アクリル酸、及びこれらの酸性官能基の一部もしくは全部が金属イオンで中和された極性オレフィン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、無水マレイン酸、酢酸ビニルとα−オレフィンの共重合体が挙げられる。
【0050】
特に、耐衝撃性が高いという観点から、さらに好ましくはエチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの共重合体中の酸性官能基の一部もしくは全部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−グリシジルアクリレート共重合体、エチレン−一酸化炭素−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−一酸化炭素−グリシジルアクリレート共重合体、エチレン−無水マレンイ酸共重合体、ブテン−エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、ブテン−エチレン−グリシジルアクリレート共重合体が挙げられる。
【0051】
(7)ビニル重合体(C)の物性
バリア性確保の観点から、α−オレフィンと極性基を有するユニットとの共重合体が、好ましい組み合わせである。なお、本発明に使用するビニル重合体(C)は、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体であれば良く、上記の具体例に限定されるものではない。
【0052】
また、ビニル重合体(C)の分子量は特に限定するものではないが、数平均分子量で2000以上500000以下が好ましい。2000未満や500000超では、耐衝撃性が低下する場合がある。前記分子量は、通常の高分子の分子量測定方法であれば決定できるが、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography, GPC)によって測定することができる。
【0053】
(8)第三樹脂成分
本発明樹脂フィルムでは、ポリエステル樹脂(A)及び極性を有するビニル重合体(C)以外に、耐衝撃性を向上させるために、あるいはその他の目的のために、ゴム状弾性体樹脂(B)を添加して三元系樹脂組成物を構成することが必要である。
【0054】
(9)ゴム状弾性体(B)
本発明に使用するゴム状弾性体樹脂(B)は、公知のゴム状弾性体樹脂を広く使用できる。中でも、ゴム弾性発現部のガラス転移温度(Tg、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差型熱分析装置(DSC)で測定できる)が50℃以下、常温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上であるゴム状弾性体樹脂が好ましい。ゴム弾性発現部のTgが50℃超、常温でのヤング率が1000MPa超、及び破断伸びが50%未満では、十分な耐衝撃性を発現できない場合がある。
【0055】
低温での耐衝撃性を確保するためには、Tgが10℃以下、より望ましくは−30℃以下であることが好ましい。また、より確実な耐衝撃性を確保するためには、常温でのヤング率は100MPa以下、より望ましくは10MPa以下であることが、破断伸びは100%以上、より望ましくは300%以上であることが、好ましい。
【0056】
(10)ゴム状弾性体(B)の例示
本発明に使用するゴム状弾性樹脂体(B)を具体的に例示すると、ポリオレフィン樹脂や、ブタジエン−スチレン共重合体(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、ポリイソプレン(IPR)、ポリブタジエン(BR)等のジエン系エラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)及びその水添物(SEBS)、ゴム変性スチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS)等のスチレン系エラストマー、ジメチルシロキサンを主成分とするシリコンエラストマー、芳香族ポリエステル−脂肪族ポリエステル共重合体もしくは芳香族ポリエステル−ポリエーテル共重合体等のポリエステルエラストマー、ナイロンエラストマー等が挙げられる。
【0057】
中でも、ポリオレフィン樹脂は水蒸気透過性が低いため好ましい。ポリオレフィン樹脂は、下記一般式(iii)で表わされる繰り返し単位を有する樹脂である。
−RCH−CR− (iii)
(式中、RとRは各々独立に炭素数1〜12のアルキル基又は水素を示し、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基又は水素を示す。)
【0058】
本発明に使用するポリオレフィン樹脂は、これらの構成単位の単独重合体であっても、また、2種類以上の共重合体であっても、更に、これらのユニットで形成される樹脂単位の共重合体であっても良い。繰り返し単位の例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィンを付加重合した時に現れる繰り返し単位や、イソブテンを付加した時の繰り返し単位等の脂肪族オレフィン、スチレンモノマーの他にo−、m−、p−メチルスチレン、o−、m−、p−エチルスチレン、t−ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーの付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0059】
ポリオレフィン樹脂を例示すると、α−オレフィンの単独重合体であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリオクテニレン等が挙げられる。また、上記ユニットの共重合体としてはエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記繰り返し単位を満足していれば良い。また、これらの樹脂を単独若しくは2種類以上混合して使用しても良い。
【0060】
また、ポリオレフィン樹脂は、上記のオレフィンユニットが主成分であれば良く、上記のユニットの置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位若しくは樹脂単位で共重合されていても良い。共重合組成としては、上記ユニットに対して50モル%以下、好ましくは30モル%以下である。50モル%超では寸法安定性等のポリオレフィン樹脂としての特性が低下する場合がある。
【0061】
極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
【0062】
ジエンモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、5−メチリデン−2−ノルボーネン、5−エチリデン−2−ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等が挙げられる。
【0063】
ポリオレフィン樹脂として耐衝撃強度を付与するために最も好ましい樹脂は、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−3−エチルペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体等のエチレンと炭素数3以上のα−オレフィンの共重合体、もしくは、前記2元共重合体にブタジエン、イソプレン、5−メチリデン−2−ノルボーネン、5−エチリデン−2−ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等を共重合したエチレン、炭素数3以上のα−オレフィン及び非共役ジエンからなる3元共重合体である。中でも、ハンドリングのし易さから、エチレン−プロピレン共重合体やエチレン−1−ブテン共重合体の2元共重合体、若しくは、エチレン−プロピレン共重合体やエチレン−1−ブテン共重合体に、非共役ジエンとして5−メチリデン−2−ノルボーネン、5−エチリデン−2−ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンを使用し、α−オレフィン量を20〜60モル%、非共役ジエンを0.5〜10モル%共重合した樹脂が最も好ましい。
【0064】
また、このような本発明の好適な3元系樹脂フィルムで使用されるポリエステル樹脂(A)及び極性を有するビニル重合体(C)については、前述の樹脂類(A)及び(C)が使用される。
【0065】
(11)三元系樹脂フィルムの高次構造:微細分散したカプセル化構造
本発明の樹脂フィルムは、ポリエステル樹脂(A)、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)、ゴム状弾性体樹脂(B)を少なくとも含むが、さらに、ポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)が微細分散し、かつ、ゴム状弾性体樹脂(B)がビニル重合体(C)でカプセル化された構造を有している樹脂をフィルムとして金属板に被覆するので、耐衝撃性、金属板への密着性がより高くなる。
【0066】
このようなカプセル化した微細分散の高次構造を有することにより、従来のように結晶層と多結晶層の二層構造を形成した二軸延伸フィルムを厳密な温度制御をしてラミネートするという複雑面倒でかつ高価なプロセスと異なり、無延伸フィルムでも、厳格な温度制御の必要なしで、従来品を凌ぐ高い耐衝撃性と金属との高い密着性を実現することが可能になる。このように高耐衝撃性と高密着性との実現により、高品質化、薄膜化でき、コストダウンや、従来より過酷な製缶(軽量缶)が可能になる。また、延伸工程が不要であるので、金属板への直接ラミネーションによるフィルム成形工程の省略が可能になり、延伸すればさらに高い耐衝撃性が実現できる。また、厳密な温度制御が不要であるので、薄膜化、高速製造によるコストダウン、若しくは、膜厚、性能の安定化による品質向上が可能になり、又は、前記コストダウンと前記品質向上の両方も可能なる。
【0067】
(12)三元系高次構造:微細分散の定義
本発明において、ポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)が「微細分散」するとは、ゴム状弾性体樹脂(B)の全粒子の内、70体積%以上の粒子が100μm以下の投影面積円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径であり、顕微鏡法で計測できる)の平均径(数平均径)でポリエステル樹脂(A)中に分散している状態である。ゴム状弾性体樹脂(B)の投影面積円相当径の平均径が100μm超では、耐衝撃性が低下し、また本発明の樹脂フィルムの製膜性が低下する場合がある。好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下の投影面積円相当径の平均径であることが望ましい。1μm超では、十分な耐衝撃性を発揮できない場合がある。
【0068】
(13)三元系高次構造:カプセル化の定義
また、ビニル重合体(C)で「カプセル化」されたゴム状弾性体樹脂(B)とは、ゴム状弾性体樹脂(B)界面の80%以上、好ましくは95%以上をビニル重合体(C)が被覆し、ポリエステル樹脂(A)とゴム状弾性体樹脂(B)との直接接触面積を20%未満とした構造である。このような構造とすることにより、ビニル重合体(C)でカプセル化されたゴム状弾性樹脂体(B)の微細分散が容易となり、耐衝撃性、製膜性が向上し、また、ゴム状弾性体樹脂(B)は一般に金属板との密着性が低いが、極性基を有するビニル重合体(C)が金属板との密着性を有するため、微細分散した粒子が金属板に接しても樹脂フィルムと金属板との十分な密着性を確保できる効果を有する。
【0069】
ゴム状弾性体樹脂(B)の全ての粒子がビニル重合体(C)でカプセル化されている必要はなく、少なくとも体積比で70%以上のゴム状弾性体樹脂(B)がビニル重合体(C)でカプセル化されていれば良い。カプセル化されていないゴム状弾性樹脂体(B)が体積比で30%超存在する場合は、微細分散が困難になり、耐衝撃性が低下し、また樹脂フィルムを金属板に被覆する場合は、金属板に直接接触するゴム状弾性樹脂体(B)の比率が増加してしまい、樹脂フィルムと金属板との密着性を確保できなくなる場合がある。
【0070】
カプセル化されていないゴム状弾性体樹脂(B)の投影面積円相当径の平均径は、特に規定するものではないが、耐衝撃性、加工性の観点から1.0μm以下が望ましい。
【0071】
また、過剰量のビニル重合体(C)が、ゴム状弾性樹脂体(B)をカプセル化しないで、単独でポリエステル樹脂(A)中に分散していても良い。カプセル化しないビニル重合体(C)の量及び径は、特に制限するものではないが、全ビニル重合体(C)の体積比で20%以下、投影面積円相当径の平均径で1.0μm以下であることが望ましい。体積比で20%超では、樹脂フィルムの耐熱性等の基本特性が変化する場合がある。また、投影面積円相当径の平均径が1.0μm超では、加工性が低下する場合がある。
【0072】
(14)混合によるカプセル化の原理
上記のような三元系樹脂組成物を混合してポリエステル樹脂(A)中にビニル重合体(C)でカプセル化したゴム状弾性樹脂体(B)を微細分散させるには、ビニル重合体(C)とポリエステル樹脂(A)及びゴム状弾性樹脂体(B)との界面張力のバランスを適切にすることが重要である。
【0073】
好ましくはビニル重合体(C)のゴム状弾性樹脂体(B)に対するSpread Parameter(λ(Resin C)/(Resin B))が正になるように極性基を有するユニットの含有量を制御することが望ましい。λ(Resin C)/(Resin B)を正にすることにより、ビニル重合体(C)でゴム状弾性樹脂体(B)をカプセルしても熱力学的な安定性が確保できる。異種高分子間のSpread Parameterとは、S. Y. Hobbs; Polym., Vol.29, p1598(1988)で定義されているパラメータであって、下記の式(iv)で与えられる。
λ(Resin C)/(Resin B) = Υ(Resin C)/(Resin A) -
Υ(Resin C)/(Resin B) - Υ(Resin B)/(Resin A) (iv)
〔但し、式中、Resin Aはポリエステル樹脂(A)を、Resin Bはゴム状弾性樹脂体(B)を、またResin Cはビニル重合体(C)をそれぞれ示し、またΥi/jは樹脂iと樹脂j間の界面張力であり、近似的には樹脂iと樹脂j間の相溶性を示すパラメータΧi/j(相溶性が良好なほど小さな値を示す。)の0.5乗に比例する。〕
【0074】
ポリエステル樹脂(A)とゴム状弾性樹脂体(B)との相溶性は低く、Υ(Resin B)/(Resin A)>0となるので、ビニル重合体(C)の無極性ビニルモノマー(Monomer V)と極性基含有ユニット(Monomer U)の配合比を調整して、下記の式(v)、(vi)で与えられるゴム状弾性樹脂体(B)とビニル重合体(C)との相溶性を示すcB/C 、及び、ポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(C)との相溶性を示すcA/B を0に近付けるようにすれば、λ(Resin C)/(Resin B)を正にすることが可能となる。
cA/C=φc(Resin
A)/(Monomer V) +(1 - φ)c(Resin A)/(Monomer U) -φ(1 - φ)c(Monomer
V)/(Monomer U) (v)
cB/C=φc(Resin C)/(Monomer V) +(1 - φ)c(Resin
C)/(Monomer U) -φ(1 - φ)c(Monomer V)/(Monomer U) (vi)
〔但し、φは無極性ビニルモノマーの配合比(体積比)を示す。〕
【0075】
したがって、好ましいビニル重合体(C)は、ポリエステル樹脂(A)及びゴム状弾性樹脂体(B)の種類に応じて、これらの樹脂との相溶性を考慮して決定される。
【0076】
好ましい組み合わせを具体的に例示すると、ポリエステル樹脂(A)が芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される芳香族ポリエステル樹脂で、ゴム状弾性樹脂体(B)がポリオレフィン樹脂である場合、ビニル重合体(C)としてエチレンと極性基を有するユニットとの共重合体や、無水マレイン酸若しくはグリシジルメタクリレートを1質量%以上導入したSEBSが好ましく、中でもエチレンと極性基を有するユニットとの共重合体は、エチレンと極性基を有するユニット間の配合比を適切に制御することにより、λ(Resin C)/(Resin B)を正に制御し易い。より好ましくは、エチレンと極性基を有するユニットとの共重合体にポリエステル樹脂(A)と共有結合、配位結合、水素結合、イオン結合等の化学作用を有する官能基が導入されていると、カプセル化した際にポリエステル樹脂(A)とビニル重合体(C)との界面を熱力学的により安定化できることから望ましい。
【0077】
(15)カプセル化に使用できる樹脂の例
三元系樹脂組成物を混合してカプセル化構造を形成するために好適なエチレンと極性基を有するユニットとの共重合体をより具体的に示せば、エチレン−ビニル酸共重合体、エチレン−ビニル酸エステル共重合体やこれらのアイオノマー樹脂、エチレンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの共重合体、エチレンとビニル酸若しくはビニル酸エステルとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの3元共重合体、等である。中でも、アイオノマー樹脂、エチレンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの共重合体、エチレンとビニル酸若しくはビニル酸エステルとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの3元共重合体が好ましい。これらの樹脂は、ポリエステル樹脂(A)と比較的強い化学的相互作用を示し、ゴム状弾性樹脂体(B)と安定したカプセル構造を形成する。その中でも、アイオノマー樹脂は、温度によってポリエステル樹脂(A)との化学作用の強度が変化するので、成形性の観点から最も好ましいものである。
【0078】
アイオノマー樹脂としては、公知のアイオノマー樹脂を広く使用することができる。具体的には、ビニルモノマーとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体で共重合体中のカルボン酸の一部若しくは全部を金属陽イオンにより中和したものである。
【0079】
ビニルモノマーを例示すると、上記のα−オレフィンやスチレン系モノマー等であり、α,β−不飽和カルボン酸を例示すると炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸でより具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル等が挙げられる。
【0080】
中和する金属陽イオンを例示すると、Na、K、Li、Zn2+、Mg2+、Ca2+、Co2+、Ni2+、Pb2+、Cu2+、Mn2+,Ti3+,Zr3+,Sc3+、Al3+、Y3+等の1価、2価または3価の金属陽イオンが挙げられる。また、金属陽イオンで中和されていない残余のカルボキシル基の一部は低級アルコールでエステル化されていても良い。
【0081】
アイオノマー樹脂を具体的に例示すると、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸との共重合体、あるいはエチレンとマレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体であって、共重合体中のカルボキシル基の一部若しくは全部がナトリウム、カリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等の金属イオンで中和された樹脂が挙げられる。これらの中で、ポリエステル樹脂(A)とゴム状弾性樹脂体(B)との相溶性を改善する目的で最も好ましいのが、エチレンとアクリル酸又はメタクリル酸の共重合体(カルボキシル基を有する構成単位が2〜15モル%)で、重合体中のカルボキシル基の30〜70%がNa、Zn等の金属陽イオンで中和されている樹脂である。
【0082】
(16)カプセル化された三元系樹脂フィルムの製造方法
本発明のポリエステル樹脂(A)、ビニル重合体(C)及びゴム状弾性樹脂体(B)を含有する樹脂フィルムをカプセル化した構造にすることは、公知の混合法により製造することができる。具体的には、適切な界面張力の差を有するポリエステル樹脂(A)、ビニル重合体(C)及びゴム状弾性樹脂体(B)を選択した後は、所定の温度、例えば200〜350℃で公知の各種混合機を用いて溶融混練すれば、界面張力差を利用してカプセル構造を形成して製造することができる。
【0083】
(17)樹脂フィルムの製造方法
本発明の樹脂フィルムを適切な樹脂組成物の混練により製造する方法としては、樹脂混練法、溶媒混練法等の公知の樹脂混練方法を広く使用できる。
【0084】
樹脂混練法を例示すると、タンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー等によりドライブレンドで混合した後、1軸若しくは2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練する方法が挙げられる。また、溶媒混合法を例示すると、樹脂フィルムに含まれる原料樹脂の共通溶媒に各樹脂を溶解した後、溶媒を蒸発させたり、共通の貧溶媒に添加して析出した混合物を回収する方法等がある。
【0085】
本発明の樹脂フィルムの混合温度は、特に限定されないが、樹脂(A)(B)(C)を少なくとも含む三元系樹脂フィルムが十分に混合されればよく、通常は樹脂(A)(B)(C)の各樹脂のそれぞれの分解温度より低い温度で十分に混合され得る。
【0086】
(18)強化剤
また、本発明の樹脂フィルムには、剛性や線膨張特性の改善等を目的に、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウィスカー、炭素繊維のような繊維強化剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末のようなフィラー類を混入させても良い。これらの充填剤の内、ガラス繊維、炭素繊維の形状としては、6〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有することが望ましい。また、これらの添加量としては、全樹脂組成物質量に対して0.5〜50質量部であることが望ましい。
【0087】
(19)添加剤
更に、本樹脂フィルムには、目的に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、滑剤、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤等を適正量添加することも可能である。
【0088】
(20)多層化
また、フレーバー性の向上、耐衝撃性の向上などの目的で、本樹脂フィルムとともに、他の樹脂フィルム若しくは接着剤、又は他の樹脂フィルムと接着剤の両方と組み合わせて使用しても差し支えない。
【0089】
(21)用途(非被覆材料)
本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、広く樹脂成形体として使用できる。具体的にはバンパー、ボンネット、ドア材、ホイールカバー、オイルタンク、インストゥルメンタルパネルなどの自動車内外部品、玩具、容器、家電・コンピュータ・携帯電話などの筐体などに使用できる。本樹脂フィルムを成形体に加工する方法は特に限定する物ではないが、公知の射出成形、ブロー成形、押出成形を広く適用する事ができる。
【0090】
(22)被覆使用時の金属板の例
本発明の樹脂フィルムは広く金属板の被覆材として使用することができる。金属板は特に限定するものではないが、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛−錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛−鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛−クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、冷延鋼板やアルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、マグネシウム等の金属板等が挙げられる。また、金属板への被覆も片面又は両面の何れであっても良い。また、本発明の樹脂フィルムを金属板へ被覆した際の被覆膜厚みは、特に制限するものではないが、1〜300μmであることが好ましい。1μm未満では被膜の耐衝撃性が十分でない場合があり、300μm超では経済性が悪い場合がある。
【0091】
(23)金属板の被覆方法
フィルム圧着(間接/直接)、直接ラミネーションなど、金属板への被覆には、公知の方法が使用できる。具体的には、(1)あらかじめ混練機により原料樹脂を溶融混練することで調製した樹脂組成物をTダイス付の押出機で本樹脂フィルムに成型し、これを金属板に熱圧着する方法(この場合、フィルムは無延伸でも、1方向若しくは2方向に延伸してあっても良い)、(2)Tダイスから出たフィルムを直接熱圧着する方法、が挙げられる。さらにフィルムを直接熱圧着する別の方法としては、(3)Tダイス付の押出機のホッパにあらかじめ混練機により原料樹脂を溶融混練することで調製した樹脂組成物の代わりに、本樹脂組成物の原料となる樹脂を投入し、押出機内で樹脂組成物に混練し、それを直接熱圧着する方法が挙げられ、被覆方法は特に限定されるものではない。
【0092】
金属板への被覆方法として作業能率から最も好ましいのは、上記(2)及び(3)の方法である。(2)の方法を使用して被覆する場合は、フィルム厚みは上記と同様の理由により1〜300μmであることが好ましい。さらに膜の表面粗度は、フィルム表面粗度を任意に1mm長測定した結果がRmaxで500nm以下であることが好ましい。500nm超では熱圧着で被覆する際に気泡を巻き込む場合がある。また本樹脂フィルムの高い衝撃性のため、延伸をすることなく使用しても高い衝撃性を発揮する。そのため延伸することなく金属被覆材料として使用可能であり、省工程化が可能である。また無延伸で金属被覆材料として使用する場合には温度、通板速度などの制御で薄膜内の結晶化度を制御する必要が無いため、プロセスウィンドウの拡大、高速製造が可能となる。さらに製膜時、被覆時の結晶化度制御の為の温度制御が容易であるため、性能の安定した製品の製造が可能となる。
【0093】
(24)滑剤の使用
金属板への被覆工程や金属板加工時の潤滑性を向上する目的で、特開平5−186613号公報に開示されているような公知の滑剤が添加されていても良い。
【0094】
滑剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機、架橋ポリスチレン粒子、シリコーン粒子などの有機系のいずれでもよいが、無機系が好ましい。
【0095】
滑剤の粒径は2.5μm以下が好ましい。2.5μm超では樹脂フィルムの機械特性が低下する。滑剤の添加量は金属板の巻取性や深絞り加工性に応じて決定されるが、0.05〜20%が好ましい。
【0096】
特に、平均粒径が2.5μm以下であると共に粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤が耐ピンホールの点で好適であり、例えば、真球状シリカ、真球状酸化チタン、真球状シリコーンなどを挙げることができる。滑剤の平均粒径(数平均粒子径)、粒径比は粒子を電子顕微鏡観察により求めることができる。滑剤の粒径分布は鋭く、標準偏差が0.5以下が好ましい。
【0097】
滑剤の添加量は、フィルム製造工程における巻取り性と関係するので、一般に粒径が大きいときは少量、小さいときは多量に用いるとよい。例えば、滑剤の種類にもよるが、平均粒径0.2〜2.0μmで0.02〜0.5質量%程度である。
【0098】
(25)顔料の使用
本発明の樹脂フィルムは、顔料を含んでもよい。例えば、白色顔料として、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、などの無機系顔料を挙げることができる。顔料の平均粒径は、滑剤の粒径と同じ理由から、2.5μm以下が好ましい。顔料の添加量は、着色の機能を達成するために必要な量であり、3〜50質量%程度の範囲内で使用される。顔料の添加方法は公知の方法によることができる。
【0099】
(26)可塑剤、帯電防止剤、抗菌剤などの使用
ポリエステル樹脂の可塑剤としては、例えば、炭素数2〜20の脂肪酸多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体に対する炭素数8〜20の芳香族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体のモル比が0〜2.0であるこれらの多塩基酸成分と、炭素数2〜20の脂肪族アルコールとを縮重合したものを、炭素数2〜20の一塩基酸又はそのエステル形成性誘導体及び/又は炭素数1〜18の一価アルコールで末端エステル化したポリエステルからなるポリエステル樹脂用可塑剤を挙げることができる。
【0100】
成膜工程におけるフィルムのロールへの巻き付きや、フィルム表面への汚れ付着等の静電気障害を防止することを目的として、例えば、特開平5−222357号公報に開示される帯電防止剤等を樹脂組成物中に練り込む方法や、フィルム表面に特開平5−1164号公報に記載されている帯電防止剤を塗布する方法などを必要に応じて適用することができる。
【0101】
また、例えば、特開平11−48431号公報、特開平11−138702号公報等に開示されている従来公知の抗菌剤を必要に応じて使用することができる。
【0102】
(27)積層方法(多層/単層、片面/両面、金属厚み)
また、本発明の樹脂フィルムを金属板に被覆する際には、金属板の片面及び/又は両面に、少なくとも上記樹脂フィルムを用いて単一層状に又は多層状に積層して被覆することができる。この際に、1又は2種類以上の樹脂フィルムを用いて金属板の片面及び/又は両面に単一層状にあるいは多層状に積層しても良く、また、必要に応じてPETフィルム、ポリカーボネートフィルム等のポリエステルフィルムや、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルムや、6−ナイロンフィルム等のポリアミドフィルムや、アイオノマーフィルム等の他の公知の樹脂フィルム、あるいは、結晶/非結晶ポリエステル組成物フィルム、ポリエステル/アイオノマー組成物フィルム、ポリエステル/ポリカーボネート組成物フィルム等の公知の樹脂組成物フィルムをその下層及び/又は上層に積層して被覆しても良い。具体的な積層方法としては、(23)項で述べた(1),(2)及び(3)の方法を使用する場合、多層のTダイスを使用して本発明の樹脂フィルムと他の樹脂フィルムや樹脂組成物フィルムとの多層膜を製造し、これを熱圧着する方法がある。本発明の樹脂被覆金属板は本発明の樹脂フィルムが被覆された金属板であり、被覆は片面であっても両面であっても良い。金属板の厚みは特に制限するものではないが、0.01〜5mmであることが好ましい。0.01mm未満では強度が発現し難くなる場合がある。5mm超では加工が困難である場合がある。
【0103】
(28)接着剤
本発明の樹脂被覆金属板は、本発明の樹脂フィルムが被覆されていれば良く、必要に応じて公知の樹脂フィルムを本発明の樹脂フィルムの下層及び/又は上層に積層して金属板に被覆しても良い。また、公知の接着剤を金属板と本発明の樹脂フィルムとの間に積層することも可能である。接着剤を例示すると、特公昭60−12233号公報に開示されるポリエステル樹脂系の水系分散剤、特公昭63−13829号公報に開示されるエポキシ系接着剤、特開昭61−149341号公報に開示される各種官能基を有する重合体等が挙げられる。
【0104】
(29)製缶方法
本発明の樹脂被覆金属容器は、本発明の樹脂被覆金属板からなる樹脂被覆金属容器で公知の加工法により成形できる。具体的にはドローアイアニング成形、ドローリドロー成形、ストレッチドロー成形、ストレッチドローアイアニング成形等が挙げられるが、本発明の樹脂被覆金属板を使用した樹脂被覆金属容器であれば良く、成形法は前記の成形法に限定するものではない。
【0105】
(30)樹脂被覆層の性能、機械的性質
ドローアイアニング成形、ドローリドロー成形、ストレッチドロー成形、ストレッチドローアイアニング成形等の成形を行った場合、樹脂被覆層にクラックが入る場合があるが、クラック発生に対して樹脂の機械的性質も重要な要因のひとつである。特に、樹脂被覆層の破断伸びが20%以上、好ましくは50%以上であり、破断強度が20N/mm以上であることが望ましい。
【0106】
ここで、樹脂被覆層の破断伸び、破断強度は、通常の引張り試験機により求められる。引張り試験方法としては、5mm×60mmの樹脂被覆層をチャック間(標点)距離30mmにセットし、25℃の一定温度下で引張り速度20mm/分で引張り試験を行い求めることができる。低温での引張り特性を求める場合は5℃の一定温度下で同様の引張り試験を行うことにより求めることができる。樹脂被覆層は、フィルム、樹脂被覆鋼板または成形体いずれから採取しても良い。樹脂被覆鋼板または成形体から樹脂被覆層のみ採取する方法としては、以下の方法で剥離してフィルム状として試験片に供することができる。
【0107】
樹脂被覆鋼板またはその成形体から引張り試験片サイズにサンプルを切り出し40℃の18%塩酸に十数時間程度浸漬させ、鋼板のみを溶出させることによって樹脂被覆層のみ残存するので、それを水洗乾燥することによってフィルム状試験片とすることができる。樹脂被覆鋼板またはその成形体の両面に樹脂被覆層がある場合は、採取したい樹脂被覆層の反対側の樹脂被覆層にカッターナイフ等で鋼板に達する深さのキズを格子状に入れて塩酸に浸漬することによってフィルム状の試験片を得ることができる。成形体から得られた樹脂被覆層は成形によって既に延伸されているので、フィルムまたは樹脂被覆鋼板から採取した樹脂被覆層の伸びに比べて、樹脂の伸びは小さくなるが、成形体から採取した樹脂被覆層の伸びが20%以上であり、かつ、破断強度が20N/mmであれば、成形体としての耐衝撃性は好ましい状態にある。成形体から採取した樹脂被覆層の伸びが20%未満であるか、または、破断強度が20N/mm未満の場合は成形体の樹脂皮膜の耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性が低くなり衝撃時皮膜表面にクラックが発生し易くなるので好ましくない場合がある。
【0108】
(31)樹脂被覆層の延伸度
先に、ポリエステル樹脂(A)中におけるゴム状弾性体樹脂(B)の微分散について定義したが、本発明の樹脂フィルムは金属板の表面に被覆された後、金属板が絞り加工その他の加工を施されると、加工後には微分散の状態が変化する。
【0109】
一般的に述べると、被覆金属板を一方向に延伸した場合、延伸方向の微分散粒子の寸法は延伸倍率に比例して又はそれ以下の倍率で伸び、延伸方向に垂直方向の微分散粒子の寸法は延伸後ももとのまま維持されるか、いく分減少する傾向にあるということが言える。二方向加工や複雑な加工を行ったときは、それにつれて変形をする。
【0110】
後記の実施例に、スチール板に被覆後に深絞り加工して製缶したときの微分散したゴム状弾性体樹脂(C)の変形を観察した様子を示している。
【0111】
(32)熱処理条件
本発明の樹脂は、イソフタル酸やシクロヘキサンジメタノールのような、屈曲したユニットを適切な量だけ含有させて高分子鎖の配列を乱すことで、熱処理による、脆化、剥離などが抑制されている。ここで熱処理とは、外面塗料や印刷の焼き付けや乾燥などに適用される、150℃から240℃程度、数分から20分程度を意味するが、この条件に限定されるものではない。
【0112】
以上説明したような本発明の金属板被覆用樹脂組成物及び樹脂フィルムによれば、金属板にラミネートした後に焼付け塗装や印刷等によって加熱処理を受けた後でも、本来の密着性と耐衝撃性を保つことができるという極めて顕著な作用効果を奏する。もちろん、本来の諸特性も良好であり、すなわち、ポリエステル樹脂(A)の耐熱性、加工性、金属板への密着性、ガスバリア性、フレーバー性等の特性を確保したまま、ビニル重合体(C)およびゴム状弾性体樹脂(B)によりポリエステル樹脂(A)の伸びや耐衝撃性も優れたものとできる。
【0113】
前記結果として、保香性、保味性、成形性、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、機械強度、ガスバリア性、金属との密着性、特に外観美麗性、製造性等の各種特性に優れ、特に金属板の被覆用材料として好適に使用することが可能である。更に、本発明の樹脂被覆金属板、及び樹脂被覆金属容器は、各々金属板の被覆材、容器を始めとした各種金属部材、及び保存性とフレーバー性と外観に優れた金属容器として好適に使用することが可能であり、加熱処理を受けた後でも、焼付け塗装や印刷等による熱処理を受けても剥離することなく、優れた密着性と耐衝撃性を保つことができる。したがって、熱処理後も優れた機能を発現出来る他、従来は、物性低下の為に使用することが出来なかった用途、分野においても利用出来るなどの効果を有するものである。
【実施例】
【0114】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【0115】
以下の実施例及び比較例において、ポリエステル樹脂(A)としてポリエチレンテレフタレート(PET)[三菱レーヨン製KR265(固有粘度=1.12dl/g、イソフタル酸使用率=8%)、三菱化学製IG226Z(固有粘度=0.8dl/g、イソフタル酸使用率=12%),IG158Z(固有粘度=1.0dl/g、イソフタル酸使用率=5%),IG189Z(固有粘度=1.0dl/g、イソフタル酸使用率=8.5%),IG229Z(固有粘度=1.0dl/g、イソフタル酸使用率=12%),IG352X(固有粘度=0.6dl/g、イソフタル酸使用率=15%)、IG358Z(固有粘度=0.9dl/g、イソフタル酸使用率=15%)、ユニチカ製SA1206(固有粘度=1.1dl/g、イソフタル酸使用率=0%)、MA1340P(固有粘度=0.57dl/g、イソフタル酸使用率=8%)、帝人化成製3000H(固有粘度=0.94dl/g、イソフタル酸使用率=14%)]、極性基を有するユニットを1質量%以上有するビニル重合体(C)としてエチレン系アイオノマー[三井デュポン(株)製ハイミラン1706、1652]、ゴム状弾性体樹脂(B)としてエチレン系エラストマー[三井化学(株)製プラストマーSP2540,SP0540、エチレン−ブテンゴム(EBM)として住友化学(株)製N0394]を使用した。また、全てのフィルム製造時に、ペレット総質量に対し、0.1質量%の酸化防止剤[旭電化製AO−60]をドライブレンドしている。ポリエステル樹脂を2種類使用した場合のイソフタル酸使用率は、2種類のポリエステル樹脂のイソフタル酸使用率の平均とした。CHDMユニットの使用量(CHDM%)は、イースター6763(イーストマンケミカル(株)製)中のCHDMユニットの使用量を40%とし、次の式により算出した。
CHDN%=100×(イースター6763の質量)/(使用した全てのポリエステル樹脂(イースター6763を含む)の質量)
【0116】
(実施例1〜8)
実施例1〜8は、屈曲ユニット(イソフタル酸ユニット)を含有する例である。これらは、何れも上記の組成に混合したペレットを使用して押し出しTダイスで25μm厚みのフィルムを得た(押出温度:270℃、リップ幅=300mm、巻き取り速度=5m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。得られたフィルムを250℃に加熱した0.2mm厚みのティンフリースチールの片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。
【0117】
実施例6は、Tダイス下にティンフリーステールを40m/分の速度で通板するTダイラミ法にて、樹脂被覆金属板を製造した。
【0118】
(比較例1)
比較例1は、屈曲ユニットを含有しない例である。これらは何れも上記の組成に混合したペレットを使用して押出しTダイスで25μm厚みのフィルムを得た(押出温度:270℃、リップ幅=300mm、巻き取り速度=5m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。得られたフィルムを250℃に加熱した0.2mm厚みのティンフリースチールの片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。
【0119】
【表1】

【0120】
(実施例9〜20)
実施例9〜20は、イソフタル酸ユニットとCHDMユニットの屈曲ユニットを含有する例である。これらは、何れも上記の組成に混合したペレットを使用して押出しTダイスで25μm厚みのフィルムを得た(押出温度:270℃、リップ幅=300mm、巻き取り速度=5m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。得られたフィルムを250℃に加熱した0.2mm厚みのティンフリースチールの片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。
【0121】
実施例20は、Tダイス下にティンフリーステールを40m/分の速度で通板するTダイラミ法にて、樹脂被覆金属板を製造した。
【0122】
【表2】

【0123】
(実施例21〜24)
実施例21〜24は、イソフタル酸ユニットとCHDMユニットの屈曲ユニットを含有する例である。これらは何れも上記の組成に混合したペレットを使用して押出しTダイスで25μm厚みのフィルムを得た(押出温度:270℃、リップ幅=300mm、巻き取り速度=5m/分、リップ/第1ロール間距離=10cm)。得られたフィルムを250℃に加熱した0.2mm厚みのティンフリースチールの片面に張り、水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し、樹脂被覆金属板を作製した。イソフタル酸含有率、固有粘度を調整するため、CHDMユニットを含有しない二種類のPETを原料として使用したので、これらをポリエステル樹脂(A)−1、ポリエステル樹脂(A)−2として表記した。
【0124】
【表3】

【0125】
このようにして得られたラミネート鋼板からミクロトームで超薄切片を切り出した後、ルテニウム酸で染色し、ポリエステル樹脂中のゴム状弾性体樹脂(B)及びビニル重合体(C)の分散状態を透過型電子顕微鏡で解析した。この結果、何れもゴム状弾性体樹脂(B)はビニル重合体(C)でほぼ100%カプセル化されており、ゴム状弾性体樹脂(B)の投影面積円相当径は、表1〜3に示すように平均径(数平均径)で1μm以下でポリエステル樹脂中に微細分散していた。
【0126】
このようにして得られた樹脂被覆金属板について、下記に示す評価方法により、密着性、耐衝撃性の各項目の評価を行った。
【0127】
<密着性>
上記の樹脂被覆金属板を、クエン酸1.5質量%−食塩1,5%の水溶液(UCC液)に常温で24時間浸漬した後、フィルムの剥がれた長さ(mm)を10サンプルの平均で評価した。評価は、◎:0.0mm、○:0.0〜0.5mm、△:0.5〜2.0mm、及び、×:2.0mm超とした。更に、外面塗料や印刷の焼き付けや乾燥後の性能評価として、180℃及び220℃で10分間熱処理した後にも同様の評価を行った。密着試験の結果を表4に示す。
【0128】
<耐衝撃性>
更に、本樹脂被覆金属板の耐衝撃性評価をデュポン式の落垂衝撃試験で行った。30cmの高さから金属板に0.5kgの鉄球を落とした後、1.0%食塩水中でサンプルを陽極とし、銅板を陰極として+6Vの電圧をかけた際のERV値(mA)を測定した。ERV値は以下の指標により評価した。◎:全サンプルが0.01mA未満、○:1〜3サンプルが0.01mA以上、△:3〜6サンプルが0.01mA以上、×:7サンプル以上が0.01mA以上、の基準で評価した。更に、外面塗料や印刷の焼き付けや乾燥後の性能評価として、180℃及び220℃で10分間熱処理した後にも同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0129】
表4の結果より、本発明の樹脂組成物は、金属との密着性、耐衝撃性が良好で、焼付け塗装や印刷等によって加熱処理を受けた後でも本来の密着性と耐衝撃性を保つことが分る。
【0130】
【表4】

【0131】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、ゴム状弾性体樹脂(B)、及び、極性基を有するユニットを1質量%以上含有するビニル重合体(C)を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.5〜1.25dl/gで、屈曲ユニットを含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)中にビニル重合体(C)でカプセル化したゴム状弾性体樹脂(B)が分散してなることを特徴とする、金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.5〜1.15dl/gで、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率が7〜15モル%であることを特徴とする、請求項1記載の金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)が、固有粘度0.8〜1.25dl/gで、全ジカルボン酸中のイソフタル酸ユニット含有率が5〜12モル%であり、シクロヘキサンジメタノールユニットを2〜20モル%含有することを特徴とする、請求項1記載の金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム状弾性体樹脂(B)が、ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、請求項1記載の金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンの共重合体、又は、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンと非共役ジエンとからなる3元共重合体であることを特徴とする、請求項4記載の金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ビニル重合体(C)がアイオノマー樹脂であることを特徴とする、請求項1記載の金属板被覆用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、単独で成形し、又は、他の樹脂組成物と接着剤の少なくともいずれか一方と組み合わせて積層成形もしくは塗布してなることを特徴とする、樹脂フィルム。
【請求項8】
金属板の少なくとも片面に、少なくとも請求項7に記載の樹脂フィルムを用いて単一層状に、又は、他の樹脂組成物と接着剤の少なくともいずれか一方と組み合わせて多層状に積層して被覆してなる、樹脂被覆金属板。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂被覆金属板の樹脂被覆をしていない金属面に焼付け塗装したことを特徴とする、樹脂被覆金属板。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂被覆金属板を成形してなる樹脂被覆金属容器。

【公開番号】特開2009−96853(P2009−96853A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268402(P2007−268402)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】