説明

金属検出用組成物及び金属検出方法

【課題】金属の検出感度及び精度が高い金属検出用組成物及び金属検出方法を提供すること。
【解決手段】ケイ酸塩と、ルミノールとを含むことを特徴とする金属検出用組成物。前記ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。前記ケイ酸塩におけるモル比は、例えば、1.5〜4.5の範囲内にあることが好ましい。本発明の金属検出用組成物は、炭酸アンモニウムを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属検出用組成物及び金属検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルミノール(IUPAC名:5-amino-2,3-dihydrophthalazine-1.4-dione 別名:3-aminophthalhydrazide)は、窒素含有複素環式化合物の一種である。ルミノールは、従来、種々の物質の検出に用いられてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−103696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルミノールは、水には不溶であるが、塩基性水溶液には可溶である。この塩基性水溶液としては、通常、水酸化ナトリウム溶液が用いられる。
ルミノールを溶解した塩基性水溶液に過酸化水素水が接触すると、ルミノールが基底状態から励起状態へとエネルギー遷移し、この励起状態から基底状態へと再びエネルギー遷移する。ルミノールが励起状態から基底状態へ戻るとき、エネルギー差に相当する波長460nmの光を発光する。このとき、鉄などの触媒となる金属が存在すると、上述した発光反応が促進される。この原理に基づき、ルミノールを溶解した塩基性水溶液を金属検出用試薬とすれば、発光により、金属を検出することができる。
【0005】
しかしながら、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた金属検出用試薬では、金属が存在する場合でも発光時間が短く、結果として、金属の検出感度及び精度が不十分であった。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、金属の検出感度及び精度が高い金属検出用組成物及び金属検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属検出用組成物は、ケイ酸塩と、ルミノールとを含むことを特徴とする。本発明の金属検出用組成物は、ケイ酸塩を含むことにより、金属が存在する場合に生じる発光の発光時間が顕著に長くなる。その結果、金属の検出感度及び精度が高くなる。
【0008】
前記ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記ケイ酸塩におけるモル比は、例えば、1.5〜4.5の範囲内にあることが好ましく、1.5〜2.5の範囲内にあることが一層好ましい。この範囲内にあることにより、金属が存在する場合に生じる発光の発光強度が一層高くなる。その結果、金属の検出感度及び精度が一層高くなる。
【0009】
なお、ここでいう「モル比」とは、ケイ酸塩において、Na2O,K20およびLi20に対するSiO2(シリカ)のモル比を意味する。
本発明の金属検出用組成物は、例えば、炭酸アンモニウムを含むことが好ましい。炭酸アンモニウムを含むことにより、上述した効果が一層著しくなる。
【0010】
本発明の金属検出方法は、上述した金属検出用組成物、過酸化水素水、及び検出対象の混合物の発光により検出対象に含まれる金属を検出することを特徴とする。本発明によれば、検出対象に含まれる金属を高感度、高精度に検出できる。
【0011】
本発明では、例えば、金属検出用組成物と検出対象とを先に混合し、その混合物に過酸化水素水を加えることができる。また、金属検出用組成物、過酸化水素水、及び検出対象を同時に混合してもよい。
【0012】
前記検出対象としては、例えば、血痕(鉄イオンを含む)、その他の各種金属イオン(例えば、Cu、Co、Ni、Zn、Al、Sn等)を含む検出対象物(例えば土壌等)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】金属検出方法の実施に用いる装置の構成を表す説明図である。
【図2】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図3】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図4】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図5】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図6】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図7】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図8】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【図9】金属検出方法を実施した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.金属検出用組成物の製造
次のようにして、金属検出用組成物T3〜T22を製造した。
(1)炭酸アンモニウム(試薬特級、和光純薬(株))1gを量り取り、ビーカーに入れる。
(2)前記(1)で炭酸アンモニウムを入れたビーカーに所定量の水を加え、5分間攪拌する。水の量は金属検出用組成物T3〜T22の種類ごとに決められており、表1に示すとおりである。
(3)ルミノール(生化学用、和光純薬(株))0.025gを量り取り、前記(2)で水を加えたビーカーに加える。そして、5分間攪拌する。
(4)ケイ酸塩を量り取り、前記(3)でルミノールを加えたビーカーに加える。そして、5分間以上攪拌する。ケイ酸塩の種類及び量は金属検出用組成物T3〜T22の種類ごとに決められており、表1に示すとおりである。
【0015】
【表1】

【0016】
上記表1に記載されたケイ酸塩は、表2に示すものである。
【0017】
【表2】

【0018】
表2に記載されたケイ酸塩のうち、ケイ酸ソーダA以外は、富士化学株式会社が、表2における「総称」の欄に記載された名称で市販しているものである。また、ケイ酸ソーダAは、ケイ酸ソーダBに試薬の水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて調製したものである。
【0019】
なお、ケイ酸ソーダA〜D、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムにおけるSiO2の重量比は、それぞれ、25.4、32.11、28.8、25.8、21.2、20%である。
【0020】
また、上記(1)〜(4)と基本的には同様の方法であるが、ケイ酸塩の代わりに水酸化ナトリウムを用いて、上記表1に示す金属検出用組成物T1〜T2を製造した。金属検出用組成物T1〜T2の製造時に加える各成分の種類及び量は上記表1に記載したとおりである。
【0021】
2.金属検出方法の実施
次のようにして、金属検出用組成物を用いた金属検出方法を実施した。なお、金属検出方法は、金属検出用組成物T1〜T22のそれぞれについて実施した。
(1)上記のように製造した金属検出用組成物100mlと、検出対象としての硫酸銅(II)五水和物(CuSO4・5H2O)(試薬特級、和光純薬(株))1gとをビーカーにいれ、5分間攪拌する。
(2)図1に示すように、そのビーカー1を、光を遮蔽する材料から成る暗箱3に収容する。暗箱3はその上部にビュレット5が取り付けられており、ビュレット5に収容した液体をビーカー1に滴下できる。また、暗箱3の側面の一部にはスリット7が形成されており、ビーカー1において生じた発光を暗箱3の外側に導出できるように構成されている。また、スリット7の外側には、LUXメータ9が配置されている。LUXメータ9は、スリット7から導出された発光強度をリアルタイムで測定できる。
(3)ビュレット5に過酸化水素水をセットする。この過酸化水素水は、30%過酸化水素水(精密分析用、和光純薬(株))10mlと、水90mlとを混合したものである。
(4)ビーカー1の内容物をスターラーで攪拌する。この攪拌は、後述する(5)でも継続する。
(5)ビュレット5のコックを開けて、過酸化水素水をビーカー1に滴下する。滴下の開始時から、ビーカー1で発生する発光の強度をLUXメータ9により継続的に測定する。
【0022】
3.検出結果
金属検出用組成物T1〜T2(ケイ酸塩の代わりに水酸化ナトリウムを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図2に示す。また、金属検出用組成物T3〜T6(ケイ酸ソーダAを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図3に示す。また、金属検出用組成物T7〜T10(ケイ酸ソーダBを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図4に示す。また、金属検出用組成物T11〜T13(ケイ酸ソーダCを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図5に示す。また、金属検出用組成物T14〜T16(ケイ酸ソーダDを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図6に示す。また、金属検出用組成物T17〜T19(ケイ酸カリウムを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図7に示す。また、金属検出用組成物T20〜T22(ケイ酸リチウムを配合した金属検出用組成物)を用いた場合の測定結果を図8に示す。さらに、図2〜図8に示す測定結果のうち、ケイ酸塩又は水酸化ナトリウムの濃度が0.625mol/Lであるものを図9にまとめて示す。なお、図2〜図9において、横軸は過酸化水素水の滴下開始時からの経過時間であり、縦軸はLUXメータ9で測定した発光強度である。
【0023】
図2〜図9から明らかなように、金属検出用試薬T3〜T22(ケイ酸塩を配合した金属検出用試薬)は、金属検出用試薬T1〜T2(水酸化ナトリウムを配合した金属検出用試薬)に比べて、発光時間が顕著に長い。
【0024】
また、ケイ酸ソーダA又はケイ酸ソーダBを配合した金属検出用試薬は、水酸化ナトリウムを配合した金属検出用試薬に比べて、発光強度の最大値も大きい。
よって、金属検出用試薬T3〜T22を用いれば、金属を含む被検出物(例えば血痕、土壌、各種金属イオン等)を高感度に検出することができ、検出精度が向上する。
【0025】
尚、本発明は前記実施形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、CuSO4・5H2O以外の金属、金属塩、金属イオンを含む検出対象の検出にも用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
1・・・ビーカー、3・・・暗箱、5・・・ビュレット、7・・・スリット、
9・・・LUXメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩と、
ルミノールと、
を含むことを特徴とする金属検出用組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸塩は、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の金属検出用組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸塩におけるモル比が1.5〜4.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載の金属検出用組成物。
【請求項4】
前記ケイ酸塩におけるモル比が1.5〜2.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載の金属検出用組成物。
【請求項5】
炭酸アンモニウムを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属検出用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属検出用組成物、過酸化水素水、及び検出対象の混合物の発光により前記検出対象に含まれる金属を検出することを特徴とする金属検出方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−63210(P2012−63210A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206827(P2010−206827)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】