説明

金属構造物

【課題】溶接の問題を解決しつつ金属板母材を損傷することなく一定のボルト締着力で取付相手に固定できる金属構造物を提供する。
【解決手段】シートメタル11と平ワッシャ12との嵌合境界部分を摩擦攪拌接合部24により一体化接合する。この摩擦攪拌接合部24の形成は、ピン状本体21の先端中央部に突起部(ブローブ)22を突設した回転工具20を用いて行なう。すなわち、回転工具20を回転させながら、突起部22をシートメタル11と平ワッシャ12とを突合わせた接合部に押込みながら、摩擦熱で軟化(塑性流動化)した金属材料を攪拌接合しながら、ピン状本体21の先端面に形成したショルダ部23により、その摩擦攪拌接合部24の表面を押さえて整える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締着に適する金属構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来より使用されているシートメタル1をフレーム2に取付けるシートメタル取付構造を示し、通常、シートメタル1が軟質金属薄板であるので、フレーム2にこのシートメタル1を取付けるため、シートメタル1のボルト締結穴3の周辺のボルト締結座面に平ワッシャ4を介在させ、フレーム2のボルト穴5の裏面には裏ナット6を溶接し、シートメタル1の装着時のボルト7での締結を可能としている。
【0003】
そして、シートメタル1側のボルト締結穴3をフレーム2のボルト穴5に位置決めして、フレーム2側の裏ナット6の雌ねじが見えるようにシートメタル1を当てがい、このシートメタル1のフレーム2との接触面の反対側から、平ワッシャ4を嵌込んだボルト7を上記裏ナット6の雌ねじにねじ込み締付け、この締付けを終えた時点で、ボルト7の締付けトルクを管理し、ボルト7に初期張力を発生させ、シートメタル1の接触部の離反を防止している。
【0004】
また、シートメタルの穴に硬質のリング状部材を嵌着して、レーザーまたは電子ビームによりシートメタルにリング状部材を溶接した金属構造物がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表平10−507144号公報(第11−13頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6で示される構造のシートメタル取付構造では、以下のような問題点がある。
【0006】
シートメタル1は、プレス成型されるため軟質の薄い金属で製作されているので、平ワッシャ4を介してボルト締結する際に、ボルト7の締付トルクを大きくして十分な軸力をもたせようとしても、シートメタル1の接触部分に降伏が発生しやすい。そのため、ボルト7をフレーム2側の裏ナット6の雌ねじにねじ込んでいく際に、ボルト締付トルクを高めにできず、摩擦係数のばらつきでボルト7に十分な軸力を持たせることができない場合がある。
【0007】
したがって、シートメタル1の振動で、ボルト7の緩みが発生するおそれが大きい。さらに、逆に大きなトルクで締付けると、シートメタル1に早い時期にクラックが発生する場合がある。
【0008】
さらに、内部機器をメンテナンスする時、シートメタル1を取外し取付けるが、従来構造では、ボルト7の頭部の座面に取付けた平ワッシャ4が分離されているため、サービスマンが組立中に平ワッシャ4を紛失したまま組立ててしまうおそれがあり、ボルト7に十分な軸力を持たせることができない、シートメタル1にクラックが発生しやすいなどの問題がある。
【0009】
また、特許文献1に示されたシートメタルにレーザーまたは電子ビームによりリング状部材を溶接した金属構造物は、上記のような問題は防止できるものの、溶接部分に凝固割れや空孔が発生する問題がある。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、溶接の問題を解決しつつ金属板母材を損傷することなく一定のボルト締着力で取付相手に固定できる金属構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、穴が穿設された金属板母材と、金属板母材の穴に密着嵌合されボルト挿入穴を有し金属板母材より硬度の高い座金部材と、金属板母材と座金部材との嵌合境界部分を摩擦攪拌接合により一体化した摩擦攪拌接合部とを具備した金属構造物である。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属構造物において、金属板母材をシートメタルとし、座金部材を平ワッシャとしたものである。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の金属構造物におけるシートメタルを、複数の金属板間に制振材を挟み込んだラミネート構造シートメタルとしたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、金属板母材と硬度のより高い座金部材とを摩擦攪拌接合部により一体化したので、ボルト締着力を座金部材で受けることにより、金属板母材を損傷することなく一定のボルト締着力で取付相手に固定できる。また、摩擦攪拌接合部には、溶接した場合のような凝固割れや空孔の発生がないので、金属板母材に座金部材を確実に一体化できる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、シートメタルと平ワッシャとを摩擦攪拌接合部により一体化したので、ボルト締着力を平ワッシャで受けることにより、シートメタルを損傷することなく一定のボルト締着力で取付相手に固定できるとともに、シートメタルに平ワッシャを確実に一体化できる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、ラミネート構造シートメタルと平ワッシャとを摩擦攪拌接合部により一体化したので、ボルト締着力を平ワッシャで受けることにより、制振材の部分変形および金属板接触部分の降伏による陥没を防止できることで、ラミネート構造シートメタルを一定のボルト締着力で取付相手に固定でき、また、摩擦攪拌接合部によりラミネート構造シートメタルに平ワッシャを確実に一体化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図1乃至図3に示された一実施の形態、図4および図5に示された他の実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
先ず、図1乃至図3に示された一実施の形態を説明すると、図1(a)に示されるように、金属板母材としてのシートメタル11のボルト穴周辺に、シートメタル11より硬度の高い座金部材としての平ワッシャ12の外径とほぼ同径の穴13を穿設形成しておく。
【0019】
この平ワッシャ12には、締着ボルトを通すためのボルト挿入穴14が穿設されている。また、この平ワッシャ12の厚みはシートメタル11とほぼ同等で、平ワッシャ12の硬度はシートメタル11より高いものにする。
【0020】
図1(b)に示されるように、上記シートメタル11の穴13に、上記平ワッシャ12を同一平面となるように密着嵌合し、図2および図3に示されるように、所定のクランプジグ15,16によりシートメタル11および平ワッシャ12をそれぞれ取付基板17に固定する。
【0021】
図1(c)に示されるように、シートメタル11と平ワッシャ12との嵌合境界部分に、摩擦攪拌接合法を施す。
【0022】
この摩擦攪拌接合法は、図3に示されるようなピン状本体21の先端中央部に突起部(ブローブ)22が突設された回転工具20を用いて金属材料間を接合するものであり、回転工具20を回転させながら、突起部22をシートメタル11と平ワッシャ12とを突合わせた嵌合境界部分に押込みながら、摩擦熱で軟化(塑性流動化)した金属材料を攪拌接合しながら、ピン状本体21の先端面に形成されたショルダ部23により、その摩擦攪拌接合部24の表面を押さえて整える金属接合法であり、通常の溶解溶接とは異なり、シートメタル11および平ワッシャ12を溶融せずに接合する固相接合法である。この摩擦攪拌接合部24には、溶接に特有な凝固割れや空孔が発生せず、金属組織は強加工された組織となり、機械的性質に優れている。
【0023】
この摩擦攪拌接合法によって、図1(d)に示されるように、シートメタル11と平ワッシャ12との嵌合境界部分が摩擦攪拌接合部24により一体化接合された金属構造物が得られる。
【0024】
次に、この図1乃至図3に示された実施の形態の作用効果を説明する。
【0025】
シートメタル11と、硬度のより高い平ワッシャ12とを摩擦攪拌接合部24により一体化したので、図1(d)に示されるように平ワッシャ12のボルト挿入穴14に挿入したボルト25によるシートメタル装着時のボルト締着力を平ワッシャ12で受けることにより、シートメタル11を損傷することなく一定のボルト締着力で取付相手に固定できる。
【0026】
すなわち、図6に示されるような硬度の高い平ワッシャ4を介して軟質のシートメタル1をボルト締着する場合のような、ボルトねじ込みトルク値の制約が無くなり、十分なボルト軸力を発生させることができる。
【0027】
また、ボルト25の締付時に発生するボルト軸力で、ボルト頭部の座面と、当接された平ワッシャ12との間に十分な摩擦力が発生し、ボルト25の緩みに対する抵抗トルクを十分大きくすることができる。
【0028】
さらに、摩擦攪拌接合部24により、平ワッシャ12がシートメタル11に一体形成されているので、メンテナンスや組立時にボルト25から平ワッシャが離脱したまま誤って組立ててしまうおそれを防止できる。
【0029】
また、摩擦攪拌接合部24には、溶接した場合のような凝固割れや空孔の発生がなく、シートメタル11に平ワッシャ12を確実に一体化できる。
【0030】
したがって、組立性および整備性を改善できるとともに、ボルト25の緩みやシートメタル11の割れなどの不具合も防止でき、信頼性を向上できる。
【0031】
次に、図4および図5に示された実施の形態を説明する。なお、図1乃至図3に示された実施の形態と同様の部分には、同一符号を付して、その説明を省略する場合もある。
【0032】
図4(a)に示されるように金属板母材は、複数の薄い軟質の金属板11m間に制振材11dを挟み込んでプレス成形されたラミネート構造シートメタル11Lである。このラミネート構造シートメタル11Lは、ラミネート鋼板シートメタルとも称され、制振材11dにより、機体や機器の振動で発生する「ビビリ音」を抑制できる。
【0033】
一方で、このラミネート構造シートメタル11Lは、ボルト締着力を直接受けると、制振材11dの部分変形と、金属板11mのボルト接触部分の降伏とにより陥没が発生しやすく、十分なボルト締付トルクが得られないとともに、過大なボルト締付トルクにより破損しやすい性質がある。
【0034】
そこで、このラミネート構造シートメタル11Lに穿設された穴13に、図4(b)に示されるようにボルト挿入穴14を有しラミネート構造シートメタル11Lより硬度の高い座金部材としての平ワッシャ12を密着嵌合し、図4(c)に示されるようにその嵌合境界部分を摩擦攪拌接合により一体化して、図4(d)に示されるように摩擦攪拌接合部24を形成する。また、図5に示されるように、摩擦攪拌接合の際は、クランプジグ15,16によりラミネート構造シートメタル11Lおよび平ワッシャ12をそれぞれ取付基板17に固定する。
【0035】
このように、ラミネート構造シートメタル11Lと平ワッシャ12とを摩擦攪拌接合部24により一体化したので、図4(d)に示されるボルト25の締着力を平ワッシャ12で受けることにより、制振材11dの部分変形および金属板接触部分の降伏による陥没を防止でき、これにより、ラミネート構造シートメタル11Lを一定のボルト締着力で取付相手に固定できる。また、摩擦攪拌接合部24により、ラミネート構造シートメタル11Lに平ワッシャ12を確実に一体化できる。
【0036】
さらに、このラミネート構造シートメタル11Lは、ラミネート構造でない前記シートメタル11と同様の効果を有するが、その説明は省略する。
【0037】
本発明は、シートメタル11、ラミネート構造シートメタル11Lのような薄肉金属板母材に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る金属構造物の一実施の形態の形成工程(a)、(b)、(c)、(d)を示す斜視図である。
【図2】同上金属構造物の形成に必要な摩擦攪拌接合法を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】本発明に係る金属構造物の他の実施の形態の形成工程(a)、(b)、(c)、(d)を示す斜視図である。
【図5】同上形成工程(c)の断面図である。
【図6】従来のシートメタル取付構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
11 金属板母材としてのシートメタル
11L ラミネート構造シートメタル
11m 金属板
11d 制振材
12 座金部材としての平ワッシャ
13 穴
14 ボルト挿入穴
24 摩擦攪拌接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴が穿設された金属板母材と、
金属板母材の穴に密着嵌合されボルト挿入穴を有し金属板母材より硬度の高い座金部材と、
金属板母材と座金部材との嵌合境界部分を摩擦攪拌接合により一体化した摩擦攪拌接合部と
を具備したことを特徴とする金属構造物。
【請求項2】
金属板母材は、シートメタルであり、
座金部材は、平ワッシャである
ことを特徴とする請求項1記載の金属構造物。
【請求項3】
シートメタルは、
複数の金属板間に制振材を挟み込んだラミネート構造シートメタルである
ことを特徴とする請求項2記載の金属構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−301589(P2007−301589A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131206(P2006−131206)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】