説明

金属水銀およびまたは蒸気を含むガス中のガス状水銀除去剤とガス状水銀除去方法

【課題】従来の乾式吸収剤の問題点を解決し、かつ、効率よく、天然ガス中の金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス状水銀、化石燃料を燃焼した排ガス中に含まれるガス状水銀や重質油あるいはその残留残液、石炭、バイオマスなどをガス化して得られたガス中のガス状水銀を吸収することが可能なガス状水銀除去剤及びその除去方法を提供する。
【解決手段】比表面積が100m/g以上、好ましくは200〜500m/gを有する酸化マンガンにより、金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガスからガス状水銀を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス状水銀の除去剤及びその除去方法に関する。さらに詳述すると、天然ガス中のガス状水銀、化石燃料を燃焼した排ガス中に含まれるガス状水銀や重質油あるいはその残留残液、石炭、バイオマスなどをガス化して得られたガス中のガス状水銀の除去剤と水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、原油、ナフサ、天然ガスなどには水銀が含まれる場合があることが知られている。(非特許文献1、2)これらの原料や燃料を燃焼したり、ガス化した際には、ガス中にガス状水銀が発生することとなる。このようなガス状水銀は、具体的には金属水銀と酸化水銀の二つの化学形態で存在し、例えば、石炭などをガス化した還元性のガス中ではほぼ全てが金属水銀となるが、燃料を燃焼した酸化性の排ガス中には金属水銀と酸化水銀が含まれるものと考えられている。
【0003】
これらのガスに含まれるガス状水銀は、環境保全の観点から、使用される設備の腐食などに対する設備保全、下流側で使用される各触媒の劣化防止の観点から、十分に除去する必要がある。既存のガス状水銀を除去する技術として、ガス温度を予め低下させて吸収液で洗浄する湿式除去方式と活性炭による吸着除去(特許文献1)や金属硫化物による反応除去(特許文献2)や金や銀を酸化物に担持した剤によるアマルガム反応による除去(特許文献3)などの乾式除去方式がある。
【0004】
しかしながら、湿式除去法では、ガス状水銀のうち水溶性の酸化水銀は吸収液に溶解して除去されるが、非水溶性の金属水銀は捕捉されにくく、十分な除去が困難である。また、装置内の腐食や排水処理の問題がある。
【0005】
一方、乾式除去方法に関して、活性炭や金属硫化物、銀、金を担持した吸収剤などは、除去性能が十分ではない。硫化物については、特に、長時間、使用していると硫黄分が下流側に流出する恐れがある。また、活性炭は、物理吸着を原理とした除去方法のために、温度、圧力などの運転条件の変動により、除去効率も変動したり、脱離などの恐れもある。このように、乾式吸収法による固体吸収剤では、反応吸収で、かつ、より大きな吸収能力が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】環境省ホームページ平成19年度第1回有害金属対策基調検討会(http://www.env.go.jp/chemi/tmms/1901/index.html)
【非特許文献2】平成15年度石油学会技術進歩賞
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−050066号公報
【特許文献2】特開平05−171160号公報
【特許文献3】国際公開第94/15710号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、従来の乾式吸収剤の問題点を解決し、かつ、効率よく、天然ガス中のガス状水銀、化石燃料を燃焼した排ガス中に含まれるガス状水銀や重質油あるいはその残留残液、石炭、バイオマスなどをガス化して得られたガス中のガス状水銀を吸収することが可能なガス状水銀除去剤及びその除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、比表面積が100m/g以上、好ましくは200〜500m/gを有する酸化マンガンが、ガス状水銀の除去能力が非常に高いことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)比表面積が100m/g以上を有する酸化マンガンであること特徴とする金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス中のガス状水銀除去剤である。
【0011】
(2)比表面積が200から500m/gを有する酸化マンガンであること特徴とする金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス中のガス状水銀除去剤である。
【0012】
(3)金属塩類の水溶液と、過マンガン酸塩類水溶液とを混合し、反応させることにより沈殿を生成させ、この沈殿物を充分洗浄した後ろ過し、次いで乾燥させることにより製造される酸化マンガンであることを特徴とする(1)または(2)記載のガス状水銀除去剤である。
【0013】
(4)過マンガン酸塩類水溶液に、更にアルカリ化合物類水溶液を添加することにより製造される酸化マンガンであることを特徴とする(3)記載のガス状水銀除去剤である。
【0014】
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載のガス状水銀除去剤と、金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガスを接触させ、ガス状水銀を除去する方法である。
【0015】
(6)接触方法は固定床流通方式であることを特徴とする(5)記載の方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の除去剤では、金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス状水銀の除去性能が大幅に向上することで、長期の運転が可能であり、かつ、硫化物を含まないので、下流に流出することもない。また、吸着ではなく、化学反応を利用した除去方法であるので、脱離などのトラブルの恐れもないため、工業的価値が大きく、公害防止の観点から有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の発明を詳述する。
【0018】
本発明の除去剤で除去されるガス状水銀は、金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス状水銀であり、たとえば天然ガス中のガス状水銀、化石燃料を燃焼した排ガス中に含まれるガス状水銀や重質油あるいはその残留残液、石炭、バイオマスなどをガス化して得られたガス中のガス状水銀であり、特に金属水銀と酸化水銀などの化学形態で存在するガス状水銀である。本発明に適用可能なガス中のガス状水銀の含有量は特に制限がないが、特に有効な範囲は、0.001ppbから100ppm、好ましくは1ppbから1000ppbである。
【0019】
本発明で用いられる除去剤は、その比表面積が100m/g以上、好ましくは200から500m/gの範囲にある酸化マンガンである。
【0020】
酸化マンガンについて、特に、制限はないが、金属塩類を水溶液となした後、アルカリ化合物類水溶液との中和反応や、過マンガン酸塩類水溶液との酸化還元反応を利用した沈殿法により製造することができる。また、過マンガン酸塩類に更にアルカリ化合物類水溶液を添加することもできる。金属塩類としては、二価のマンガン塩として、硝酸塩、硫酸塩、塩化物などを用いるのが望ましい。アルカリ化合物類としてはナトリウム、カリウムの水酸化物、炭酸塩、あるいはアンモニア水などを使用することが望ましい。過マンガン酸塩類としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、などを使用することが望ましい。沈殿法により得られた沈殿物は水洗した後、ろ過、乾燥される。
【0021】
ガス状水銀除去剤は、既知の一般的な手段により成形して、本発明の吸収剤とすることができる。その形状及びサイズは、その使用形態により様々であり、一般的には直径が1から6mmで長さが3から20mm程度の円柱ペレットが好適に用いられるが、種々のサイズの異形状のペレット、錠剤成形、顆粒状及び破砕粒、また噴霧乾燥による微粒子など、特に、制限はない。
【0022】
一般的な押し出し円柱状ペレットの製造方法であるが、ガス状水銀除去剤の粉体をニーダーあるいはマーラーなどの混合混練装置で十分に乾式混合した後に、混合粉体に対して、10から40重量%、好ましくは20から30重量%の範囲で水を添加して混練する。水を添加する際には混練物の不均質が生じないように分割投入することが望ましい。得られた混練物を押し出し成形機あるいはペレタイザーで所定の形状のダイスを用いて円柱状ペレットに成形する。これを100から400℃、好ましくは150から250℃で乾燥する。
【0023】
得られた吸収剤の比表面積は、100m/g以上、好ましくは200から500m/gであり、好ましくは、250から400m/gである。100m/gより低いと、ガス状水銀の除去能力が十分でなく、好ましくない。粉体のかさ密度およびペレット加工時の粉塵発生の観点から、500m/gより小さいことが好ましい。
【0024】
本発明による除去剤を使用してガス状水銀を除去する方法は、ガス状水銀を含むガスに除去剤を接触させることにより行う。なお、接触方法は任意であるが、特に固定床流通方式が好ましく、この固定床流通方式を採用することにより連続運転が可能となる。
【0025】
この接触処理の際、本発明の除去剤は、−50℃から500℃の温度範囲で使用することができ、好適には0℃から200℃、とくに好ましくは10℃から150℃の温度範囲である。圧力は、通常、0.1気圧から50kg/cmの範囲で使用することができ、好適には、常圧から10kg/cmの範囲である。ガス時間空間速度(GHSV)が100から1,000,000/hrで使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(ガス状水銀の吸収試験)
1.5mmのペレット状、もしくは、1〜2mmの顆粒に成形した吸収剤0.06mlを石英製反応管に充填した。これを、ガス組成:Hg 4.9ppb、メタン 20%、窒素 バランスのガスを、GHSV:480,000h−1、温度:30℃、常圧の条件下で接触させて、試験を行った。試験時間は2時間、実施した。
【0028】
入口及び出口ガス中の水銀濃度は、原子吸光度計(NIPPON Jarrel Ash Co.製 AA−855)で分析し、2時間後の除去率を算出した。
除去率={(A−B)/A}×100 (%)
なお、上記A及びBは以下の通りである。
A:反応管入口側のガス中の水銀濃度(ppb)
B:反応管出口側のガス中の水銀濃度(ppb)
【0029】
(実施例1)
イオン交換水10Lを収容した沈殿槽に硫酸マンガン4水和物を700g加えて、攪拌して硫酸マンガン水溶液を得た。また、別途イオン交換水23Lを収容した沈殿槽に過マンガン酸カリウムを400gを加え、攪拌して、過マンガン酸カリウム水溶液を得た。前記過マンガン酸カリウム水溶液を、30℃に保温した前記硫酸マンガン水溶液に攪拌しながら、添加した後2時間反応させ、沈殿物を生じさせた。この沈殿物をろ過し、イオン交換水で洗浄し、120℃にて8時間乾燥することで、酸化マンガンを得た。得られた酸化マンガンの比表面積は、229m/gであった。
【0030】
(実施例2)
実施例1において、過マンガン酸カリウム水溶液に苛性カリウムを460g加えた以外は実施例1と同じ方法にて、実施例2の酸化マンガンを得た。得られた酸化マンガンの比表面積は、395m/gであった。
【0031】
(比較例1)
試薬の酸化マンガン(関東化学)を使用した。試薬の酸化マンガンの比表面積は、61m/gであった。
【0032】
(比較例2)
アルミナに硝酸銀を銀担持量として、6%になるように、含浸を行い、120℃で14時間乾燥することで、銀担持アルミナ吸収剤を得た。
【0033】
(比較例3)
市販のやし殻の活性炭を使用した。
【0034】
(比較例4)
市販の硫化鉄を使用した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、比表面積が200から500m/gの酸化マンガン除去剤は、比表面積が低い酸化マンガン、銀アルミナ、活性炭、硫化鉄などと比較して、ガス状水銀に対する吸収効果が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、従来のガス状水銀除去剤の問題点を解決でき、かつ、効率的にガス状水銀を吸収することにより除去する除去剤を提案することができ、その工業的価値は大きく、公害防止の観点からも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が100m/g以上を有する酸化マンガンであること特徴とする金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス中のガス状水銀除去剤。
【請求項2】
比表面積が200から500m/gを有する酸化マンガンであること特徴とする請求項1に記載の金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガス中のガス状水銀除去剤。
【請求項3】
金属塩類の水溶液と、過マンガン酸塩類水溶液とを混合し、反応させることにより沈殿を生成させ、この沈殿物を充分洗浄した後ろ過し、次いで乾燥させることにより製造される酸化マンガンであることを特徴とする請求項1または2に記載のガス状水銀除去剤。
【請求項4】
過マンガン酸塩類水溶液に、更にアルカリ化合物類水溶液を添加することにより製造される酸化マンガンであることを特徴とする請求項3記載のガス状水銀除去剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガス状水銀除去剤と、金属水銀およびまたは水銀化合物の蒸気を含むガスを接触させ、ガス状水銀を除去する方法。
【請求項6】
接触方法は固定床流通方式であることを特徴とする請求項5記載の方法。

【公開番号】特開2011−45806(P2011−45806A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194653(P2009−194653)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(591110241)ズードケミー触媒株式会社 (31)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】