説明

金属溶湯用測定カップ、及びその金属溶湯用測定カップを具備した溶湯の性状判定装置

【課題】 テルルを使用することなく、従来通りに溶湯の性状を短時間で測定することができる溶湯性状測定装置に使用される測定カップ等を提供する。
【解決手段】本発明の測定カップは、鋳鉄の溶湯の性状を測定する溶湯性状測定装置に使用されるものであって、底壁と筒状の周壁を備える耐火性で、測定の対象である溶湯が注入されるカップ本体と、カップ本体の内部に設けられ、溶湯の温度を測定する熱電対とで構成し、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたときの水の重量との比を0.01〜0.35とすることにより課題解決できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄や非鉄金属などの金属の溶湯から、その金属の溶湯の凝固温度を測定するときに使用される金属溶湯用測定カップ、およびその金属溶湯用測定カップを具備した溶湯の性状判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の溶湯を鋳型に注入するに先立って、その溶湯の一部を採取し溶湯の熱から凝固曲線を作成して溶湯の性状を判定する技術があり、採取した溶湯を貯留し溶湯の熱を感知する金属溶湯用測定カップを具備した、溶湯の性状判定装置が広く使用されている。
【0003】
この従来の金属溶湯用測定カップとしては、例えば、耐火物よりなるカップ状本体内に温度測定用熱電対が設けられてなる測定カップにおいて、前記熱電対がカップ状本体内底面より立設され、かつ上部が密封された石英ガラス管内に収納されている金属溶湯用測定カップが開示されている(特許文献1参照。)。
【0004】
また、従来の金属溶湯用測定カップは、一般的に、外径40mm、内径30mm、内部の深さが50mm、底壁の厚さが4mmの円筒形に形成され、前記の大きさの金属溶湯用測定カップが市場において広く使用されている。
【0005】
また、溶湯の凝固過程において緩やかな冷却をさせると過冷現象が生じ、過冷現象の生じた凝固曲線から溶湯の性状を的確に判定することが困難になる場合がある。このため、金属溶湯用測定カップに貯留した溶湯を過冷現象が生じないように急冷させることが行われている。
【0006】
例えば、特許文献2の[請求項1]と[請求項4]には金属溶湯用測定カップにテルルを添加してセメンタイト共晶温度を測定する方法、又は段落[0009]に記載されているように、公知技術として金属溶湯用測定カップにテルルを添加して凝固曲線を求め、その凝固曲線から溶湯中の炭素及び珪素値を求める方法があることが記載されている。
【0007】
そして、金属溶湯用測定カップにテルルを添加するために、一般的には、内面にテルルが塗布された金属溶湯用測定カップが市場において広く使用されている。テルルには、吸熱効果を促進させる効果があり、テルルを塗布することにより、溶湯を急冷させ凝固促進させて過冷現象を生じさせにくくさせている。このため、短時間で信頼性の高い溶湯の性状判定を可能とすることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平3−78225号公報
【特許文献2】特開平8−313464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
耐火物として乾燥砂で成型された金属溶湯用測定カップの内部に、1000℃〜1500℃の溶湯を注湯すると、前記金属溶湯用測定カップの温度が急に上昇し極めて高熱になり蓄熱される。また、前記金属溶湯用測定カップの原料である乾燥砂の熱伝導率が約0.35W/mKであることから一旦吸熱したら熱が逃げにくいために溶湯が緩やかに冷却される。緩やかに冷却されると、初晶過冷現象や共晶過冷現象が生じるために、測定項目によっては、例えば炭素当量の測定などは共晶過冷現象が生じると正確な測定が困難になる場合がある。
【0010】
このため、金属溶湯用測定カップの内周面には熱伝導率が約2.35W/mKであるテルルを共晶過冷現象が生じないように凝固促進剤として塗布することが従来から広く行われてきた。
【0011】
テルルを塗布した金属溶湯用測定カップは、短時間で信頼性の高い溶湯の性状判定をすることが可能である。しかし、テルルはレアメタルであり高価であるため、金属溶湯用測定カップの価格が嵩んでしまうという問題がある。
【0012】
またテルルは国内での産出量はあるが、その国内での産出量よりも国内での消費量が多いために輸入している現状では、場合によっては手に入りにくいという状況になるという問題がある。テルルが入手できないと、金属溶湯用測定カップの生産が困難になるという状況になるという問題が懸念される。
【0013】
さらに、この金属溶湯用測定カップは、繰り返し使用されるものではなく、1回使用したら再使用ができないために、いわゆる使い捨てにされるため、高価であると溶湯の判定に要する費用も嵩んでしまい、またテルルの輸入量が激減するために新規の金属溶湯用測定カップの生産数が激減して溶湯の性状判定が困難になるという問題が懸念される。
【0014】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、過冷現象が生じたら正確な測定結果が得られにくくなる項目を測定する場合であっても、テルルを塗布しないで過冷現象を生じない凝固曲線を得ることができ、短時間で信頼性の高い溶湯の性状判定をすることを可能とした金属溶湯用測定カップ、及びその金属溶湯用測定カップを具備した溶湯の性状判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明において、「カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたとき」とは、カップ本体の内容積に該当する部位に比重1g/cmの水を充満させたことを意味する。
【0016】
本発明において、「過冷」とは初晶過冷及び共晶過冷を意味する。
【0017】
本発明である金属溶湯用測定カップの発明者は、金属溶湯用測定カップの溶湯を注湯する内容積と、金属溶湯用測定カップの重量との関係で、金属溶湯用測定カップ自体に凝固促進させる効果を具備させることができないかという、従来にはなかった観点から発想を変えて本発明をするに至った。
【0018】
請求項1に記載の金属溶湯用測定カップ20は、鋳造に利用する溶湯を貯留し温度を測定する金属溶湯用測定カップであって、耐火物よりなる底壁と筒状の周壁とからなり、前記底壁と周壁とから形成された内部に前記溶湯が貯留されるカップ本体と、前記カップ本体の内部に前記カップ本体の底面より立設された、前記溶湯の熱感知用の熱電対とを含む構成からなり、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたときの水の重量との比(以下、重量比と記すこともある。)が0.01〜0.35であることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の金属溶湯用測定カップ20は、請求項1において、熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さが、5〜25mmであることを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の溶湯の性状判定装置は、溶湯の凝固曲線から溶湯の性状を判定する装置であって、耐火物よりなる底壁と筒状の周壁とからなり、前記底壁と周壁とから形成された内部に前記溶湯が貯留されるカップ本体、及び、前記カップ本体の内部に前記カップ本体の底面より立設された、前記溶湯の熱感知用の熱電対とを含む構成からなり、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたときの水の重量との比が0.01〜0.35である金属溶湯用測定カップを具備したことを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の溶湯の性状判定装置は、請求項3において、熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さが、5〜25mmである金属溶湯用測定カップを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の金属溶湯用測定カップ20は、鋳造業界においては、通常、凝固曲線における過冷現象が生じると溶湯の性状判定の信頼性が低下する場合があるため、前記過冷現象が生じさせないように溶湯を急冷させる必要があり、そのためにカップ本体21の内周面には凝固促進剤であるテルルを塗布することを行っているが、本発明はテルルを塗布していなくてもテルル塗布状態と同じように溶湯を急冷させることによって、過冷現象が現われない凝固曲線を得ることができるという効果を奏する。
【0023】
テルルを塗布していなくてもテルル塗布状態と同じように溶湯を急冷させることができることから、短時間で凝固曲線が得られ、凝固曲線からテルル塗布時と同じような信頼性を有する、溶湯の性状などの分析や判定することができるという効果を奏する。
【0024】
また、レアメタルであるテルルを使用する必要がないので、当該金属溶湯用測定カップ20を安価に製造して提供することができ、輸入先の事情などによりレアメタルであるテルルの確保が困難になるという事態を避けることができ、金属溶湯用測定カップ20を安定生産できるという効果を奏する。
【0025】
請求項2に記載の金属溶湯用測定カップ20は、請求項1と同じ効果を奏する。さらに、金属溶湯用測定カップ20内に貯留させている溶湯は、前記金属溶湯用測定カップ20の底面に近い高さにある溶湯の方が、前記金属溶湯用測定カップ20の底面から高さ方向で離れている溶湯よりも凝固が早くすすむために、熱電対の温度感知部の高さを変えることによって、溶湯の凝固時間の調整をすることができるという効果を奏する。
【0026】
請求項3に記載の溶湯の性状判定装置は、請求項1と同じ効果を奏することから、既存の溶湯の性状判定装置に備えられてある従来からの金属溶湯用測定カップを、本発明の金属溶湯用測定カップに取り換えた溶湯の性状判定装置は、請求項1に記載の効果と同じ効果を奏することができる。
【0027】
請求項4に記載の溶湯の性状判定装置は、請求項2又は請求項3に記載の発明と同じ効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る溶湯の性状判定装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】図1に示す溶湯凝固曲線分析表示装置の測定カップを示す縦断面図である。
【図3】図1に示す溶湯の性状判定装置の測定カップを示す平面図である。
【図4】テルルを塗布しないで、本発明の金属溶湯用測定カップ(重量比0.15)を具備した溶湯の性状判定装置を使用した溶湯の凝固曲線である。
【図5】テルルを塗布しないで、本発明の金属溶湯用測定カップ(重量比0.28)を具備した溶湯の性状判定装置を使用した溶湯の凝固曲線である。
【図6】テルルを塗布しないで、本発明の金属溶湯用測定カップ(重量比0.35)を具備した溶湯の性状判定装置を使用した溶湯の凝固曲線である。
【図7】テルルを塗布しないで、本発明の金属溶湯用測定カップ(重量比0.40)を具備した溶湯の性状判定装置を使用した溶湯の凝固曲線である。
【図8】テルルを塗布した、従来の一般型の金属溶湯用測定カップを使用した場合の溶湯の凝固曲線である。
【図9】テルルを塗布していない、従来の一般型の金属溶湯用測定カップを使用した場合の溶湯の凝固曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る金属溶湯用測定カップ20を具備した溶湯の性状判定装置1の実施形態を、図1乃至図3示す。溶湯の性状判定装置1は、鋳型に注入される直前における溶湯状態の金属の性状、炭素や珪素の含有状態又は機械的性質などを測定又は判定するものであり、凝固曲線分析及び表示装置10と、金属溶湯用測定カップ20と、前記金属溶湯用測定カップ20を載置する支持台40と、前記金属溶湯用測定カップ20内に立設した熱電対30からの熱を前記凝固曲線分析及び表示装置10へ伝熱する補償導線41と、含む手段からなる。
【0030】
凝固曲線分析及び表示装置10は、市場で販売されているCEメーター(鉄用熱分析装置)であればよく、例えば、FETEC(商品名、エコ・システム社製)や型式NSP550(ニッサブ社製)のように、従来から市場に流通している凝固曲線を作成し分析及び/又は判定し、その凝固曲線及び分析や判定結果を表示する装置であればよい。凝固曲線分析及び表示装置10は、図1に示すように、その前面に画面11を有し、内設又は外設した制御機器(図示なし)によって、溶湯の温度変化を凝固曲線で表示すると共に、溶湯の性状、炭素や珪素の含有状態又は機械的性質などの測定又は判定結果を示す装置である。
【0031】
金属溶湯用測定カップ20は、図2に示すように、カップ本体21と熱電対30とを備える。カップ本体21は、乾燥砂などの耐火性材料で成型され、例えば底面の平面形状が円形状である場合は、平面円形状の底壁21aから円筒状の周壁21bを立設した構造を有する。このカップ本体21には、測定又は判定の対象である溶湯が注入され貯留される。
【0032】
溶湯は、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、まだら鋳鉄などの鋳鉄を含めて、鉄や非鉄金属などの金属で鋳造される金属であればよい。
【0033】
本発明における筒状の周壁21bの形状は、周壁の水平断面形状が内部に空洞部を有する円形状、楕円形状、三角形状、四角形状、六角形状などを含めた多角形状など、いかなる形状でもよい。
【0034】
底壁21aの形状は、平面視では前記筒状の空洞部の水平断面形状と同じであるが、底壁21aの垂直断面形状は、水平面の平面形状、すり鉢形状、斜面の平面形状、又は半球面形状など、いかなる形状であっても、溶湯を貯留する筒状容器の底面として内容物としての溶湯を漏洩させない形状であればよい。
【0035】
カップ本体21の材料の主成分は、乾燥砂の他に、耐火レンガ、石膏、モルタル、セメント、アルミナ、マグネシア(酸化マグネシウム)など耐火性材料であれば何でもよい。
【0036】
本実施形態のカップ本体21は、例えばカップ本体21の材質が砂の場合、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に充満させた比重1の水の重量との比が0.01〜0.3の範囲内になるように、前記カップ本体21の構造や形体、及び前記カップ本体21の材質である砂の充填密度が設計される。
【0037】
例えば、図2において、外径Bが40mm、内径Aが25mm、内部高さCが40mmに内容積部が設定されている場合には、内容積が19.625cmであり、このときのカップ本体21の周壁及び底壁の合計の体積は、底壁21aの実質肉厚D(脚部21dを除いた部分)を含めた外部高さEを60mm、肉厚Dを20mmに設定されたとすると55.735cmであるが、この場合における前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体の内容積に充満させた比重1の水の重量との比が0.01〜0.35の範囲内になるように砂の充填密度を計算したカップ本体21をつくる。
【0038】
また、アルミニウム、鉄、又は銅などの溶湯の金属の種類によって、その金属の熱伝導率が異なるので、その金属の種類に応じて、凝固曲線上で過冷が生じないように、カップ本体21の重量に対する、カップ本体21に充満させた比重1の水の場合の重量との比を0.01〜0.35の範囲内で設定する。
【0039】
本実施形態では、カップ本体21の周壁21bの上端部には、その全周にわたって約45度の傾斜面21cを形成して上面開口部を大きくし、これにより溶湯を注入し易くしている。
【0040】
熱電対30は、カップ本体21の内部に立設させると共に凝固曲線分析及び表示装置10に補償導線41で接続され、カップ本体21に注入された溶湯の熱を連続的に感知する。本実施形態の熱電対30は、その下端部がカップ本体21の底壁21aの中央部に支持されて当該底壁21aから立設され、その先端部に配設した感熱部31が、カップ本体21の底面から5〜25mmの高さに達するように形成されている。感熱部の高さが低いほど冷却効果が現われる。
【0041】
本実施形態に係る溶湯の性状判定装置1は、その測定カップ20のカップ本体21の内面にテルルが塗布されていない。従って、レアメタルであるテルルを使用する必要がないので、当該測定カップ20、又は前記測定カップ20を具備する溶湯の性状判定装置1を廉価に、かつ安定的に製造して提供することができる。
【0042】
[使用例]
溶湯の性状判定装置は、FETEC(商品名、エコ・システム社製)を使用し、測定カップについては、本発明の測定カップ、又は一般的に使用されている測定カップを使用した。
【0043】
本発明である測定カップ21の形体は、図2において、円筒形状の外径Bが40mm、円筒形状の内径Aが25mm、内部高さCが40mmの円筒形の内容積部を有し、平面視で円形状の底壁21aの実質肉厚D(脚部21dを除いた部分)を含めた外部高さEを60mm、肉厚Dを20mmに設定された測定カップ21を使用した。また、熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さは20mmとした。そして、測定カップ21の寸法は同一であるが重量比を0.15、0.28、0.35及び0.40の測定カップ21を準備した。
【0044】
また、一般的に使用されている測定カップの寸法や形体などは、図2で説明すると、円筒形状の外径Bが40mm、円筒形状の内径Aが30mm、内部高さCが50mmで内容積が35.325cmであり、このときのカップ本体の体積は、底壁21aの実質肉厚D(脚部21dを除いた部分)を含めた外部高さEを54mm、肉厚Dを4mmに設定されており32.499cmである。一般的に使用されている測定カップは、測定カップの内容積の方が測定カップの周壁及び底壁の合計の体積よりも大きいことがわかる。また、熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さは20mmとした。そして、テルルを塗布した測定カップとテルルを塗布していない測定カップを準備した。
【0045】
1400℃前後のFC(ねずみ鋳鉄)の溶湯を、それぞれの6個の測定カップ内に充満させるように注湯し、その溶湯の凝固温度を時間経過とともに測定し凝固曲線を求めた。
【0046】
図4乃至図7に、本実施形態におけるテルルを塗布していない測定カップ20を備えた溶湯の性状判定装置1によって、溶湯の熱を感知しその温度変化を凝固曲線L1乃至L4で表した。図4は、カップ本体21の重量に対する、カップ本体21に充満させた比重1の水の場合の重量との比(重量比)が0.15の場合であり、図5は重量比が0.28の場合であり、図6は重量比が0.35の場合であり、図7は重量比が0.40の場合である。
【0047】
また、図8及び図9に、従来の、一般的に使用されている測定カップを使用して溶湯の性状判定装置1によって、溶湯の熱を感知しその温度変化を凝固曲線L5及びL6で表した。図8は、従来の、一般的に使用されている測定カップの内周面にテルルを塗布した場合であり、図9は、従来の、一般的に使用されている測定カップの内周面にテルルを塗布していない場合である。
【0048】
図4乃至図9から、図4に表示された凝固曲線L1、図5に表示された凝固曲線L2、及び、図6に表示された凝固曲線L3は、従来の測定カップ内周面にテルルを塗布した場合である図8に表示された凝固曲線L5と近似した温度変化を示しており、共晶過冷現象が生じていない。一方、図7に表示された凝固曲線L4は、図9に表示された凝固曲線L6に見られる共晶過冷現象K2ほど大きくはないが、僅かに共晶過冷現象K1が生じている。
【0049】
したがって、炭素当量の測定では過冷現象が生じると溶湯の性状判定の信頼性が低下するが、図4乃至図9の凝固曲線から、本発明の使用例である図4乃至図6に示した凝固曲線と、テルルを塗布した一般的な形体の測定カップを使用した図8に示した凝固曲線とが極めて近似し、過冷現象が生じず、温度変化も近似していることから、重量比が0.35までの本発明の測定カップであれば、テルルを塗布しなくても炭素当量などの溶湯の性状判定の信頼性は確保できることが判明した。
【0050】
これにより、従来の測定カップに比較して、溶湯を貯留する内容積を小さくし、逆に測定カップの肉厚を厚くすることが、溶湯に対する吸熱効果を高めたことを示し、かつテルルを塗布しなくても吸熱効果が充分有することを示している。
【0051】
また、溶湯の性状判定の項目のうち、例えば炭素当量の測定の場合は、共晶反応が完了した時間で測定完了とすると、図4乃至図7のいずれも30〜60秒で測定完了できた。これは、テルルを塗布した一般的な形体の測定カップを使用した場合の約90秒に比較して大幅に測定時間を短縮させることができた。
【0052】
したがって、本発明である測定カップ21は、従来、テルルが担っていた溶湯の吸熱効果の促進を測定カップ自体が担うことができることを示し、かつ測定時間を短縮化させた。
【符号の説明】
【0053】
1 溶湯の性状判定装置
10 凝固曲線分析及び表示装置
11 画面
20 測定カップ
21 カップ本体
21a 底壁
21b 周壁
21c 傾斜面
21d 脚部
30 熱電対
31 感熱部
40 支持台
41 補償導線
A 内径
B 外径
C 内部高さ
D 底壁の実質肉厚
E 外部高さ
K1 共晶過冷現象
K2 共晶過冷現象
L1 凝固曲線
L2 凝固曲線
L3 凝固曲線
L4 凝固曲線
L5 凝固曲線
L6 凝固曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に利用する溶湯を貯留し温度を測定する金属溶湯用測定カップであって、耐火物よりなる底壁と筒状の周壁とからなり、前記底壁と周壁とから形成された内部に前記溶湯が貯留されるカップ本体と、前記カップ本体の内部に前記カップ本体の底面より立設された、前記溶湯の熱感知用の熱電対とを含む構成からなり、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたときの水の重量との比が0.01〜0.35であることを特徴とする金属溶湯用測定カップ。
【請求項2】
前記熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さが、5〜25mmであることを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯用測定カップ。
【請求項3】
溶湯の凝固曲線から溶湯の性状を判定する装置であって、耐火物よりなる底壁と筒状の周壁とからなり、前記底壁と周壁とから形成された内部に前記溶湯が貯留されるカップ本体、及び、前記カップ本体の内部に前記カップ本体の底面より立設された、前記溶湯の熱感知用の熱電対とを含む構成からなり、前記カップ本体の重量に対する、前記カップ本体に比重1g/cmの水を充満させたときの水の重量との比が0.01〜0.35である金属溶湯用測定カップを具備したことを特徴とする溶湯の性状判定装置。
【請求項4】
前記熱電対の上部先端部に配設した感熱部の、前記カップ本体の底面からの高さが、5〜25mmである金属溶湯用測定カップを具備したことを特徴とする請求項3に記載の溶湯の性状判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237567(P2012−237567A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104912(P2011−104912)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【特許番号】特許第5025811号(P5025811)
【特許公報発行日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(509012636)エコ・システム有限会社 (2)
【Fターム(参考)】