説明

金属燃料電池

【課題】小型・軽量で起電力の大きな金属燃料電池を提供する。
【解決手段】負極となる金属1と、吸水・保湿部材2と、セパレータ3と、正極となる導電部材4とを重ね合わせて重合体7を形成し、導電部材4に陽極触媒を付着して集電体6を取り付ける。前記吸水・保湿部材2は、重合体7より突出する下端部2aを形成し、容器8内に収容されている電解液9に浸し、又は電解液9に出入可能に設ける。金属1はマグネシウム又はアルミニウムを用い、電解液9は過塩素酸から成る酸性電解質を用いる。電池の化学反応に伴って溶滅する金属1を取り替えると共に、電解液9を適時補充することにより連続的に又は断続的に発電することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極の金属を燃料とみなし、当該金属を取り替えて継続的に発電可能とした燃料電池(以下、金属燃料電池と称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池は、燃料を供給し電気化学反応を生じさせて直流電流を取り出すようにしている。代表的な燃料電池は、プロトン伝導体である電解質の両側に正負の電極(アノード及びカソード)を設け、この両側からセパレータを密着させて単一のセルを構成し、更にこのセルを多数個積層一体化することにより電池スタックを形成している。
【0003】
燃料としては、アノード極に水素ガスを供給すると共にカソード極に空気(又は酸素ガス)を供給する。天然ガス、LPGなどの炭化水素系燃料ガスを用いる場合には、周知の燃料改質装置により水素主体の改質ガスに変えてから燃料電池に供給することが行われている。又、燃料としてメタノール水溶液を用いる燃料電池も従来存在している。
【0004】
燃料電池についての先行技術文献は、例えば下記の特許文献1、2等がある。
【特許文献1】特開2002−100386
【特許文献2】特開2002−008697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の燃料電池のうち固体高分子形燃料電池は、単一のセルでは起電力が小さいため前記のように多数個積層一体化して電池スタックを形成するが、燃料電池全体が大型化し総重量も増大することになる。又、電極中の触媒層には高価な白金粒子が含まれているため、燃料電池の製造コストが高くなる。
【0006】
本発明は、上記のような従来の燃料電池の問題点を解消するためになされ、負極の金属を燃料とみなし、小型・軽量で大きな起電力が得られる金属燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための手段として、本発明の請求項1は、少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に浸して成る金属燃料電池を特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2は、少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に出入可能に設けて成る金属燃料電池を特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3は、請求項1又は2の金属燃料電池において、前記電解液は適時補充することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4は、請求項1ないし3のいずれかの金属燃料電池において、前記吸水・保湿部材は電解液を吸い上げる材質又は吸収する材質から成ることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5は、請求項1ないし4のいずれかの金属燃料電池において、電池の化学反応に伴って溶滅する前記金属を取り替えることにより継続的に発電可能としたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6は、請求項1ないし5のいずれかの金属燃料電池において、前記金属はマグネシウム又はアルミニウムを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項7は、請求項1ないし6のいずれかの金属燃料電池において、前記陽極触媒は白金等の貴金属を含まないことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項8は、請求項1ないし7のいずれかの金属燃料電池において、前記電解液は酸性電解質を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項9は、請求項8の金属燃料電池において、前記酸性電解質は過塩素酸から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記請求項1の発明によれば、少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に浸すことにより、連続して発電する起電力の大きな金属燃料電池を形成することができる。これにより、従来の燃料電池よりも小型・軽量で大きな起電力が得られる。
【0017】
上記請求項2の発明によれば、少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に入れれば発電し、電解液から出せば発電を停止する金属燃料電池を形成することができる。これにより、断続的に発電する燃料電池として適用することができる。
【0018】
上記請求項3の発明によれば、前記電解液は電池の化学反応に伴って徐々に減少するが、
当該電解液を適時補充することにより電池の化学反応が適正に行われるよう維持することができる。
【0019】
上記請求項4の発明によれば、前記吸水・保湿部材は電解液を吸い上げる材質又は吸収する材質を使用することができる。これにより、例えば紙、布、不織布、吸水性樹脂等の適用が可能となる。
【0020】
上記請求項5の発明によれば、電池の化学反応に伴って溶滅する前記金属を燃料とみなして取り替えることにより、継続的に発電可能とした金属燃料電池を提供することができる。金属をあたかも燃料として使用するため、従来の燃料電池のように水素ガスやメタノール水溶液等を用いる必要がない。又、金属の取り替えは容易にできるので便利であり、しかも繰り返して取り替えることが可能である。例えば、一定期間をおいて定期的に取り替え、或いは金属燃料電池の点検時等に取り替えることもできる。
【0021】
上記請求項6の発明によれば、前記金属はマグネシウム又はアルミニウムを含むことを特徴とし、マグネシウム合金又はアルミニウム合金であっても良い。又、金属は板状に形成すると使用上取り扱い易くなる。
【0022】
上記請求項7の発明によれば、前記陽極触媒は白金等の貴金属を含まないので、従来の燃料電池より製造コストを低く抑えることができる。
【0023】
上記請求項8の発明によれば、前記電解液は酸性電解質を含むものであり、電池内の内部抵抗を低くして電極付近での電気的中性を保つと共に、負極側の触媒としての機能を発揮することができる。又、酸性電解質を用いることで、アルカリ性電解質よりも安全性を高めることができる。
【0024】
上記請求項9の発明によれば、過塩素酸から成る酸性電解質を使用することができ、負極から電離した金属イオンと反応して錯塩が生成されるが、この錯塩は電池内で生成する水により簡単に溶解する。これにより、負極の金属表面に殆ど錯塩が付着しないため、起電力の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る金属燃料電池の一実施形態であって、その要部を模式的に示す概略分解断面図である。図2は、金属燃料電池の全体構成を示す概略斜視図である。
【0026】
図1及び図2において、1は負極の金属であり、本実施形態ではマグネシウムを用いて板状に形成されているがこれに限定されない。この金属1としては、アルミニウムを使用することができ、その他に例えばリチウム、カルシウム、亜鉛、鉄、コバルト、カドミウム、鉛等の使用も可能であると考えられる。又、金属1は金属粉を固めたもの或は金属合金であっても良い。この実施形態の場合、金属1の大きさは2.0cm×2.0cm×0.4mm厚であり、重量は0.26gである。
【0027】
2は吸水・保湿部材であり、この実施形態ではガラス繊維シートが使用されており、大きさは2.0cm×3.5cm×0.3mm厚であり、重量は0.03gである。この吸水・保湿部材2はガラス繊維シートに限定されず、例えば紙、布、不織布、吸水性樹脂等でも良い。即ち、電解液を吸い上げて濡れた状態を保持する材質、又は電解液を吸収して湿潤状態となる材質のものであれば適用が可能である。
【0028】
3は通気性のセパレータであり、大きさは2.0cm×2.0cm×0.1mm厚であり、重量は0.02gである。このセパレータ3は設けないで実施することも可能である。
【0029】
4はセパレータ3の次に配置する正極となる導電部材で、この実施形態ではカーボンシートが使用されており、大きさは2.0cm×2.0cm×0.3mm厚で、その一方の面には陽極触媒5が付着されている。
【0030】
この場合、陽極触媒5はカーボン粉末と触媒とを混合してペースト状に形成したものであり、この陽極触媒5を導電部材4の片面に適量付着させると共に、当該陽極触媒5に細い平板状の集電体6を取り付ける。陽極触媒5は白金等の貴金属を含んでいない。尚、集電体6に陽極触媒5を予め押し固めておき、この陽極触媒5を導電部材4の片面に取り付けるようにしても良い。集電体6は例えばカーボンで形成することができる。
【0031】
このようにして、負極の金属1と、吸水・保湿部材2と、セパレータ3と、正極となる導電部材4とを重ね合わせて重合体7を形成する。この重合体7において、前記金属1の上端の一方の隅部を四角形に突出形成してリード線(図示せず)の接続部1aとし、この接続部1aと反対側の隅部に前記集電体6の上端部6aが突出するように形成する。当該集電体6の上端部6aにもリード線(図示せず)の端部を接続する。前記吸水・保湿部材2の一部(下端部2a)は、重合体7の下方に突出した状態になる。尚、導電部材4にリード線を接続する場合には、集電体6を設ける必要がない。
【0032】
8は箱状の容器であり、上方に開口しておりこの容器8内に酸性電解質を含む電解液9が収容されている。この場合、酸性電解質として過塩素酸(HClO)を用いるが、それに限定されない。
【0033】
このように構成された金属燃料電池は、前記吸水・保湿部材2の下端部2aを容器8内の電解液9に浸すと、金属燃料電池は発電を開始する。この発電時において、吸水・保湿部材2は、毛管現象によって容器8内の電解液9を吸い上げて全体が濡れた状態となって金属1に接触させる。
【0034】
電解液9が金属1に接触すると、この金属1からマグネシウムイオンMg2+が溶出すると共に水素が発生し、その際に電子が図示しないリード線を介して金属1から導電部材4側に移動して電流が流れ、この導電部材4に供給される空気中の酸素が還元されて水を生成する。この水の生成に際して、上記水素を有効利用することができる。
【0035】
このような電池化学反応に伴って、前記電解液9の過塩素酸はHと[ClOとに電離し、[ClOが金属1から溶出するマグネシウムイオンMg2+と結合して錯塩Mg(ClO2が生成される。この錯塩は金属1の表面に付着すると分極が生じて発電機能を阻害するが、前記の生成水によって簡単に溶解するため、金属1表面への付着が抑えられる。このため、金属1表面は清浄状態に保持されることになり、起電力の低下を抑えることができる。
【0036】
従来の電解液の役割は、電池内の内部抵抗を低くして電極近傍での電気的中性を保つことであるが、本発明ではこの役割に加えて負極側の触媒機能を付加するために酸性電解質を用いた。又、酸性電解質を用いることで、アルカリ性電解質よりも安全性を高めることができる。
【0037】
マグネシウム金属での理論出力エネルギー密度は、電圧2Vでの計算値が4,410Wh/kgであり、前記本発明に係る燃料電池においては、マグネシウム金属での理論出力エネルギー密度は、電圧2Vでの計算値が2,020Wh/kgであるところ、実際には2,525Wh/kgを取り出すことができた。この数値は理論出力エネルギー密度の計算値(2,020Wh/kg)を超えるものであり、且つマグネシウム金属での理論出力エネルギー密度の計算値(4,410Wh/kg)の50%を超えるものであった。
【0038】
電池化学反応の進行に伴って、前記負極の金属1は徐々にマグネシウムが溶け出して減少する。この金属1が溶滅すると、電池化学反応が停止して発電機能が失われ、それ以上発電することができなくなる。しかしながら、溶滅した負極の金属1を新品の金属に取り替えることにより、電池化学反応を継続させて発電することができる。即ち、この場合は金属1は消耗品であり、いわば金属燃料電池における燃料とみなすことができる。
【0039】
金属1が吸水・保湿部材2に予め固定されていると、この金属1が溶滅した際に吸水・保湿部材2と一緒に除去して新品に取り替えることができる。このため、金属1の取り替え作業が容易になる。そして、吸水・保湿部材2と前記セパレータ3とは非接着であるから、吸水・保湿部材2の除去作業は容易に行うことができる。このようにして、金属1の残渣は吸水・保湿部材2と共に除去されるので、残された重合体7の部分は綺麗な状態になっている。
【0040】
このように構成された金属燃料電池は、前記吸水・保湿部材2を電解液9に浸している限り発電が続行されるため、長時間継続して電気を供給する発電装置として使用するのに適している。
【0041】
このような発電装置としての使用時に、前記電解液9は徐々に減少するため適時補充する。このため、図示は省略したが例えば電解液9を収納したタンクを設け、このタンクと前記容器8とを管路で接続すると共に管路の途中に開閉弁を設置し、この開閉弁を操作することで容器8に適量の電解液9を補充できるように構成する。又、タンクの代わりに電解液9を収納した取替用の容器(カセット)を用いて補充するようにしても良い。
【0042】
前記金属1の取り替えと電解液9の補充とによって、電池化学反応が常時適正に行われるよう維持することができ、これにより電気の供給を安定させることができる。尚、この金属燃料電池の発電を一時停止させる場合には、例えば吸水・保湿部材2の下端部2aを電解液9から出して金属1に電解液9が接触しないようにするか、或は図示を省略したリード線の接続をスイッチ(図略)等により切断する。
【0043】
上記の金属燃料電池は、前記吸水・保湿部材2を電解液9に浸すことにより連続して発電する用途に適したものであるが、断続的に発電する用途に適した金属燃料電池を構成することもできる。即ち、基本的な構成は前記の金属燃料電池と同じであるが、吸水・保湿部材2の下端部2aを容器8の電解液9に出入可能に設け、下端部2aを容器8内に入れた時には給水・保湿部材2が電解液9に接触して発電し、下端部2aを容器8内から出した時には給水・保湿部材2が電解液9に接触せずに発電しないように形成する。尚、吸水・保湿部材2の下端部2a側を動かすのではなく、容器8側を上下動させることにより下端部2aが電解液9に出入可能となるように構成しても良い。これにより、例えばタイマーと組み合わせて所定時間毎に通電する用途や、或は所定時間毎に通電を停止する用途等に適用することができる。
【0044】
図3は、金属燃料電池の保護手段の一例を示す概略断面図である。この場合は、電池本体である重合体7を電気絶縁性の保護板10、11で挟み付けて固定したものである。これにより、重合体7を損傷から保護できると共に、機械的強度を増大させることができる。保護板10、11としては、例えばアクリル等の合成樹脂板を使用することができ、これらの四隅部を適宜の止め具12で固定する。尚、保護手段はこれに限定されない。
【0045】
図3において、保護板10、11のうち正極の導電部材4側に位置する保護板11は、図4に示すように空気供給口として窓孔11aを設け、この窓孔11aを介して正極に空気を十分供給できるようにする。図示は省略したが、この窓孔11aに代えて多数の小孔から成る空気供給口を構成し、或は網状や格子状の保護板を使用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る金属燃料電池は、例えばノートパソコン、携帯電話、時計、電気器具、電動工具等の各種機器のバッテリーとして利用することができ、その他電気自動車、家庭用発電ユニット、無停電電源、医療機器等広い範囲での用途を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る金属燃料電池の一実施形態であって、その要部を模式的に示す概略分解断面図である。
【図2】金属燃料電池の全体構成を示す概略斜視図である。
【図3】金属燃料電池の保護手段の一例を示す概略断面図である。
【図4】空気供給口として窓孔を設けた保護板を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 金属
2 吸水・保湿部材
2a 下端部
3 セパレータ
4 導電部材
5 陽極触媒
6 集電体
7 重合体
8 容器
9 電解液
10、11 保護板
11a 窓孔
12 止め具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に浸して成ることを特徴とする金属燃料電池。
【請求項2】
少なくとも負極となる金属と、吸水・保湿部材と、正極となる導電部材とを重ね合わせて重合体を形成すると共に、前記導電部材に陽極触媒を付着し、前記吸水・保湿部材を電解液に出入可能に設けて成ることを特徴とする金属燃料電池。
【請求項3】
前記電解液は適時補充することを特徴とする請求項1又は2記載の金属燃料電池。
【請求項4】
前記吸水・保湿部材は電解液を吸い上げる材質又は吸収する材質から成ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の金属燃料電池。
【請求項5】
電池の化学反応に伴って溶滅する前記金属を取り替えることにより継続的に発電可能としたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の金属燃料電池。
【請求項6】
前記金属はマグネシウム又はアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の金属燃料電池。
【請求項7】
前記陽極触媒は白金等の貴金属を含まないことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の金属燃料電池。
【請求項8】
前記電解液は酸性電解質を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の金属燃料電池。
【請求項9】
前記酸性電解質は過塩素酸から成ることを特徴とする請求項8に記載の金属燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−73338(P2010−73338A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236567(P2008−236567)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(504424270)有限会社環境科学研究所 (6)
【Fターム(参考)】