説明

金属用防食構造及び防食構造用顔料

本発明は、少なくとも金属上に被着される被覆又は1種の被膜からなる金属用防食構造であって、被覆又は被膜は有機マトリックスを含み、有機マトリックスはさらに防食顔料を含み、防食顔料は前記有機マトリックス中に微細に分散して存在し、かつ、防食顔料は少なくとも2種の金属の合金及び場合によっては避けられない不純物からなる前記防食構造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食構造、特に金属用被膜構造及びその被膜構造に用いられる顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材、特に自動車ボディーを構成する部材にはさまざまな腐食問題が生じ、一つには、腐食による塗装の浸潤を発生させる、外側から内側への腐食が発生する。これはどちらかといえば美感を損ねる腐食である。
その他に、錆に起因して全面破損にまで至る可能性が高い、つばやフランジ領域における内側から外側への腐食も発生する。
従来技術において、金属部材は、下塗り剤、いわゆる防食プライマによって、腐食から一時的に保護される。これらの有機塗料系には、目下、さまざまなメカニズム(イオン交換等)によって基材表面を保護しようとする、有機、金属又は無機防食顔料、例えば亜鉛、ケイ酸塩、リン酸塩、クロム酸塩等が組み込まれている。
ただし、この塗料系は、持続的な湿潤領域にあっては効果が少なく、組織侵食によって気泡が形成され、それによって、塗料剥離が生じて、腐食浸食をさらに促進してしまう。鋼を例とすれば、金属上に被着された通例の防食構造では、電解めっき又は溶融めっきによって被着された金属被覆が形成されている。最も頻繁に用いられる被膜金属は亜鉛であり、続いて、亜鉛・アルミニウム被膜及びアルミニウム被膜である。この種の薄板は、クロム酸塩処理、無クロム酸塩又はリン酸塩処理によって予備処理され、続いて、公知の防食プライマが被着され、さらにその上に単層又は複層のトップコートが被着される。
従来技術から、きわめてさまざまな防食構造及び特にきわめてさまざまなプライマが公知である。
ドイツ公開第10300751号明細書から、金属表面をコーティングするための方法、コーティング組成物、及びこの方法で生成された被覆が公知である。この明細書に記載された実質的に有機の組成物は、さらに、有機又は/及び無機の腐食防止剤、及び場合によっては、その他の添加剤、例えば顔料も含んでいる。これらの腐食防止剤は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、炭酸塩及び/又は炭酸アンモニウムをベースとした防食顔料又は化合物であり、ここでは、防食顔料は好ましくは、ケイ酸、酸化物及び/又はケイ酸塩をベースとした防食顔料、例えばアルカリ土類含有防食顔料である。一例として、特別なカルシウム改質ケイ酸又はケイ酸顔料が言及されている。さらに、防食顔料として、特に、それぞれ少なくとも1種の酸化物、リン酸塩及び/又はケイ酸塩をベースとした防食顔料が使用可能となっている。
欧州特許第1030894号明細書から、優れた溶接性を有するとみなされている、いわゆる防食プライマとしての導電性有機被膜が公知である。そのため、微粒子の導電性充填剤、例えば粉末亜鉛、粉末アルミニウム、黒鉛及び/又は亜硫酸モリブデン、すす、亜リン酸鉄又は、スズ又はアンチモンドープされた硫酸バリウムが含まれている。加えてさらに、防食顔料、例えばポリリン酸・亜鉛・カルシウム・アルミニウム・ストロンチウム・ケイ酸水和物、ケイ酸・亜鉛・ホウ素・タングステン又はドープドCOを含ませることができる。
ドイツ特許第2560072号明細書から、酸化鉄ベースの顔料の製造と、防食のためにその顔料を使用することが公知であり、ここでは、この顔料は鉄の他にマグネシウム及び/又は酸化カルシウムも含んでもよく、当該モル量の置換下で、カルシウム及び/又はマグネシウムの他に亜鉛を含ますこともできる。
ドイツ公開第10247691号明細書から、低摩耗加工性を有する耐食性重合体被覆を被着するための混合物と、この被覆の製造方法とが公知である。この混合物は、例えば亜鉛めっきされた鋼板上に被着可能であり、この混合物には、導電粒子及び/又は半導体粒子のグループからセレクトされた導電元素及び/又は半導体元素が含有されており、また、亜リン酸鉄又は金属亜鉛及び場合により5重量%までの黒鉛及び/又は亜硫酸モリブデンも含有されている。これらは一定の粒度分布を満たしていなければならない。これらの導電粒子及び/又は半導体粒子は、例えばアルミニウム、クロム、鉄、カルシウム、カルシウム・マグネシウム、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ランタン、ランタニド、モリブデン、チタン、バナジウム、タングステン、イットリウム、亜鉛、スズ及び/又はジルコニウムをベースとした、ホウ化物、炭化物、酸化物、リン化物、リン酸塩、ケイ酸塩及び/又はケイ化物ベースの粒子から選択される。
ドイツ公開第10217624号明細書から、低摩耗加工性を有する耐食性重合体被覆を被着するための混合物と、この被覆の形成方法とが公知であるが、これらは実質的にすでに引用したドイツ公開第10247691号明細書のものと同じである。
欧州特許第1050603号明細書から、卓越した耐食性を有する表面処理鋼板が公知である。この被覆鋼板は、亜鉛又は亜鉛合金で被覆された鋼板又はアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆された鋼板と、この被覆された鋼板表面に形成された複合酸化物被膜及び、該複合酸化物被膜上に形成された有機被膜とを含んでいる。複合酸化物被膜は、微細な酸化物粒子の他に、考えられ得る化合物又は合金及びリン酸又はリン酸化合物を含めたマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなるグループからセレクトされた少なくとも1種の金属を含み、有機被膜は膜形成有機樹脂と活性水素保有化合物との間の反応生成物を含み、その際、化合物の一部又は全体はヒドラジン誘導体である。被膜に欠陥が生ずる場合にも、表面をアルカリ域にするOHイオンの陰極反応が進行し、マグネシウムイオンとカルシウムイオンとが水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムとして遊離され、これらが緻密な、溶解性のごく低い反応生成物として欠陥を封止すると推定される。この場合、ヒドラジン誘導体は、第1の被膜の表面との強固な結合によって安定した受動被膜を形成することが可能であり、こうして、腐食反応時に露出される亜鉛イオンを包囲し、これにより、不溶性のゲル化被膜が形成される。
英国特許第846904号明細書から、着色に使用可能な亜鉛・マグネシウム2元合金からなる顔料が知られている。この明細書によれば、この顔料は腐食に対して特に安定的であることから、塗料中のこの顔料で腐食に対する一定の障壁が実現される。塗料中の顔料を腐食から保護するには、付加的な被膜で塗料を保護するのが好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ公開第10300751号明細書
【特許文献2】欧州特許第1030894号明細書
【特許文献3】ドイツ特許第2560072号明細書
【特許文献4】ドイツ公開第10247691号明細書
【特許文献5】ドイツ公開第10217624号明細書
【特許文献6】欧州特許第1050603号明細書
【特許文献7】英国特許第846904号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、腐食を確実に防止すると共に、腐食侵食に際して、さらなる防食メカニズムを発揮する防食構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、請求項1記載の特徴を有する防食構造によって解決される。
好適な実施形態例の特徴は従属請求項に記載されている通りである。
本発明のさらにもう一つの目的は、上記防食構造に用いられる顔料を提供することである。
上記課題は、請求項18記載の特徴を有する顔料によって解決される。
好適な実施形態例の特徴はその従属請求項に記載されている通りである。
本発明によれば、有機マトリックス、例えば塗料、接着剤又はいわゆる防食プライマの中には、合金金属顔料、例えば亜鉛・マグネシウム合金顔料又は亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金顔料が、場合によっては亜鉛顔料と混合されて、含まれている。この種の有機マトリックスは、例えば、自動車ボディー鋼板の防食プライマ又は自動車ボディー鋼板の接着剤としてあるいは自動車以外のその他の産業用途にも使用され、さらに塗料、例えば家電産業、自動車工業等における塗料にも使用される。さらに、本発明によれば、有機マトリックスへのこれらの顔料の配合は、より高いレベルの防食、例えば造船にも使用することが可能である。
その効果の仕組みを解明することはできなかったが、驚くべきことに、合金金属顔料すなわち無機鉱物質の形又はイオンの形で存在しているのではない顔料、例えば亜鉛・マグネシウム合金顔料粒子又は亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金顔料粒子を使用する場合には、腐食侵食時にまったく予想外の反応が生ずることが判明した。
腐食侵食に際して、粒子は有機マトリックス中に拡散され、拡散された金属は金属基材の表面又は金属からなる鋼基材被膜の表面に移動し、同所に受動被膜が析出されることが確認された。したがって、腐食によって誘起された顔料金属の移動と受動被膜の形成が行なわれることがわかった。この場合、このメカニズムの効果は非常に大きいために、薄鋼板上の亜鉛めっき及び塗膜厚さを減少させることが可能であり、その際、美感を損ねる腐食も持続的な湿潤領域の腐食及びフランジ腐食も、従来技術により公知のあらゆる防食構造に比較して、大幅に減少する。
本発明により二次防食対策を実現することが可能であり、例えば大量のワックス防食の実施又は空洞防食の実施を省くか又はそうした防食実施を著しく減少させることが可能となる。
【0006】
さらに、製造に関しても端縁を隠蔽する必要がなりという利点が生まれ、このことで、部材の製造に際する制限の少ない新たなデザインを採用することが可能となる。
本発明による系の結合剤/顔料・比は、従来の1:4〜1:6に比較して、1:1〜1:4、特に1:1〜1:2、特に好ましくは1:1.6に設定することが可能である。
加えてさらに、疎水化剤及び、加工助剤としてワックスを使用することが可能であり、その際、疎水化剤としては、例えばシランを使用し、加工助剤としては例えばカルナバワックスを使用することが可能である。
達成可能な塗膜厚さは、従来通例の3〜5μmに代えて、1〜4μm、特に1.5〜3.5μmに減少させることが可能である。さらに、<2.0という固体密度の低下(従来は約3.5であった)によって、塗装効率の向上(30%以下にまで達する塗料消費量の減少)が得られる。
加えてさらに、本発明による塗装は、加工性の改善と共に、それによる著しく低いツール摩耗を達成することが可能である。
その際、本発明により、溶接性を一方とし、防食を他方とした、それ自体として相反する目標を互いに結びつけることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】自動車分野における塗装として使用される際の本発明による被膜構造を示す図である。
【図2】従来技術と本発明のそれぞれの腐食メカニズムの比較を示す図である。
【図3】従来技術及び本発明による、DIN EN ISO9227(500時間)に準拠した腐食侵食後の電子顕微鏡断面撮影の撮影図である。
【図4】本発明による防食顔料の電子顕微鏡撮影の撮影図である。
【図5】腐食侵食前及び腐食侵食後の本発明による被膜構造の電子顕微鏡断面撮影の撮影図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明を例示的に説明する。
【0009】
本発明による被膜構造(図1)は、腐食から保護さるべき金属基材1、例えば薄板、例えば薄鋼板を含んでいる。
【0010】
基材1上には、金属防食被膜2が被着されていてよい。金属防食被膜2は、例えば、陰極防食又はバリア防食として機能する防食被膜である。
【0011】
防食被膜2は、それが陰極防食被膜2であれば、例えば亜鉛被膜、亜鉛・アルミニウム被膜、亜鉛・クロム被膜又は亜鉛・マグネシウム被膜あるいはその他の陰極作用防食被膜、例えば電気化学めっきである。
【0012】
陰極防食被膜2は、溶融めっき法、電解法あるいはその他の公知の方法、例えばPVD法又はCVD法によって基材1上に析出されていてよい。
【0013】
防食被膜2がバリア防食被膜であれば、このバリア防食被膜2は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、スズ又は類似の金属からなっている。
【0014】
バリア防食被膜2も、溶融めっき法、電解法あるいはCVD法又はPVD法によって析出されていてよい。
【0015】
被膜2は多層金属被膜として形成されていてもよい。
【0016】
ただし、場合により必須というわけではないが、塗料付着性の改善のために、予備処理被膜3が設けられていてよい。予備処理被膜3は、クロム酸塩処理被膜又はリン酸塩処理被膜であってよく、好ましくは、リン酸マグネシウムによる無クロム酸塩予備処理被膜である。
【0017】
予備処理被膜3上には、いわゆるプライマ4が被着されており、この場合、プライマ4は本発明による防食顔料を含んでいる。プライマ4は、有機成分及び本発明による防食顔料及び、場合により、充填剤及び助剤を含んでなる。
【0018】
有機成分は、例えば、モノマー、オリゴマー及び、好ましくは少なくとも部分的にアニオン、カチオン及び/又はラジカル硬化性を有するポリマーである。加えてさらに、場合により、有機溶剤又は水又はアルコールが含まれている。特に、有機成分は、代表的な塗料又は防食プライマを形成する、従来技術から公知の類の有機成分、特に単成分又は多成分合成樹脂である。
【0019】
好ましくは、有機成分又は有機結合剤として、ポリエステル塗料が使用される。この種のポリエステル塗料は、従来、こうした防食塗料系の分野では、量産に使用されていなかった。さらに、この塗料は、1〜5%のメラミン樹脂又はエポキシ樹脂あるいはブロックイソシアネートを含んでいてよく、これによって、塗料結合は大幅に改善される。
【0020】
本発明による選択により、大幅に改善された塗装性と、それによって大幅に改善された表面が達成される。加えてさらに、塗膜厚さをこれによって減少させることができるため、本発明による系を使用する場合には、溶接性も改善される。
【0021】
助剤としては、例えば、チキソトロープ助剤、定着剤、有色顔料、溶接助剤としてのその他の金属顔料及び防食プライマに通例含有されているその他の物質が含まれている。
【0022】
特に、本発明によれば、好ましくは、加工助剤、例えばワックス又は疎水化剤を使用することができる。この場合、ワックスとしては、加工助剤として通例使用されるワックス、例えばカルナバワックスが使用され、疎水化剤としては、シランが好ましい。
【0023】
さらに、その他の金属顔料、例えば銅、スズ青銅、黒鉛、特に好ましくは亜鉛顔料混合物が存在していてよい。
【0024】
本発明による防食顔料は、液状であれ硬化した形であれ、有機マトリックス中に微細に分散しており、少なくとも2種の金属の合金からなっている。
【0025】
防食被膜2が存在していれば、好ましくは、金属のうちの少なくとも一方は、鋼基材1を覆う防食被覆2として使用される金属と同じである。したがって、防食顔料は、防食被膜2に応じ、亜鉛・マグネシウム合金及び/又は亜鉛・アルミニウム合金及び/又はアルミニウム・マグネシウム合金及び/又は亜鉛・クロム合金からなり、その際、これらの金属のうちの3種の金属からなる合金も可能である。これらの金属に代えて、電気化学列及び/又は元素の周期系に関してこれらの金属に近接しているか又は類縁性を有する金属、例えば同一族の金属も可能である。
【0026】
ごく一般的に、防食顔料を形成する元素は化学周期系の異なった族又は亜族に由来していてよいということができ、この場合、例えば、防食顔料は第2族及び第2亜族の金属からなる合金である。特に、合金は、第8亜族の第4周期の金属を含み、また、合金成分として、第2、3及び4族及び同亜族の第3、4及び5周期の金属を含むか又はそれらからなっていてよい。
【0027】
亜鉛含有防食顔料を使用する場合、驚くべきことに、結合剤成分を増量して塗料中の顔料含有量を低下させても、防食特性は悪化することはないが、ただし、驚くべきことに溶接性が大幅に改善されることが判明した。このメカニズムが何に基づいているかは目下のところ不明であるが、ただし、この効果は、接触点の数は減少するが接触点当たりの通電が高まることに基づいていると推定される。
【0028】
顔料は表面処理されているか又は表面コートされていてよい。例えば、顔料は、特にシラン処理によって疎水化されていてよく、これにより、有機マトリックスへの組入れが容易になる。
【0029】
さらに別の有利な実施形態において、被膜4は、上述した金属の他に、一定割合の電気化学的に貴金属的な、つまり希少な金属又は著しく希少な金属、例えばスズ青銅、銅、銀、金、白金を含んでいる。貴金属の存在が顔料の拡散を促進又は加速することは確認された。
【0030】
この場合、本発明による被膜4は、複数の下位膜から形成されていてもよく、その際、下位膜は、例えば異なった金属からなる防食顔料を含むため、例えば、第1の下位膜は例えば亜鉛・マグネシウム合金からなる本発明による防食顔料を含み、その上に被着された第2の下位膜は例えばアルミニウム・マグネシウム合金又は亜鉛・クロム合金からなる本発明による防食顔料を含んでいる。複数の被膜も可能であることは言うまでもなく、こうして、複数の被膜によって耐食性が高まることは当然であるが、コストも相応して高まることになる。
【0031】
こうして形成された本発明による被膜4上には、従来の塗装法によって、単層又は複層のトップコート、特に有色トップコートが被着されるが、その際、本発明によれば、この種のトップコート中にも、場合により防食顔料が、場合により異なった粒度及び/又は濃度で含まれている。
【0032】
図2は、従来技術による場合と本発明による場合との、腐食侵食に際する異なった反応を示している。従来技術にあっては、腐食侵食に際して、亜鉛被膜の直接の腐食侵食が行われ、これによって、亜鉛腐食生成物が形成される。
【0033】
これに対して、本発明によればプライマ4に含まれている、ZnAlMg合金からなる本発明による防食顔料は腐食侵食によって拡散され、その際、明らかに、防食被膜2又は3の表面への拡散が生じ、この防食被膜の表面に付加的な受動被膜5が形成される。この受動被膜5は耐食性を高めると共に、その下にある被膜を腐食侵食から保護する。
【0034】
どのようにこの反応及び受動被膜の形成に至るかは、これまでのところ、まだ最終的に解明されてはいない。
【0035】
図3から、従来の被膜の構造及び作用態様の相違がわかる。左側の断面撮影像には、亜鉛顔料を含んだ従来の防食プライマがDIN EN ISO9227に準拠した500時間の塩水噴霧テストの腐食によって侵食された後の従来技術が示されている。この撮影像から、亜鉛顔料は多少の差はあれともかく損傷されずに存在しているが、他方、鋼基材上には亜鉛腐食生成物が形成されて、同所に僅かな亜鉛が残存しているにすぎないことが認められる。
【0036】
これに対して、右側の断面撮影像では、同じ侵食に際して、亜鉛被膜はなお不変のままであり、腐食は鋼にまで達していないことが認められる。加えてさらに、なおプライマ中に若干の残留亜鉛・マグネシウム顔料が存在している。
【0037】
図4には、この種の顔料の拡大された撮影像が表されており、その際、防食顔料は、亜鉛相と亜鉛・マグネシウム合金相とからなる明相及び暗相を有し、さらに、外側に酸化物被膜が存在している。
【0038】
図5には、わかりやすくするため、腐食侵食前の、有機マトリックス(暗色)中に防食顔料が配置された、本発明による被膜構造の断面撮影像が示されている。DIN EN ISO 9227(500時間)に準拠したこの腐食侵食後には、防食顔料は明らかに消失していることが認められる。ただし、亜鉛被膜上には薄い(明色の)別の被膜、すなわち、亜鉛被膜を腐食から首尾よく保護したことが明らかな受動被膜が形成されている。
【0039】
上述した顔料は、本発明により、薄板、特に自動車ボディー鋼板又は家電用薄板を継ぎ合せるための接着剤中にも含まれていてよく、これにより、継手部の腐食及び、薄板腐食による接着剤の剥離が防止される。
【0040】
加えてさらに、防食顔料はさらにトップコート中にも含ませることができる。自動車ボディー鋼板の場合と同様な塗装が形成されるのではなく、例えば家電及び類似の用途の場合と同様な単純な塗装態様が設けられている場合には、防食顔料は単独で塗料中に存在させてもよい。
【0041】
したがって、本発明によれば、腐食侵食に対して受動被膜析出によって反応し、こうして、本来の防食被膜の保護を可能にする能動防食プライマ又は被膜構造を提供することが可能である。これにより、該被膜構造は、被膜損傷(礫衝撃、亀裂発生)後又はより強力な腐食侵食に際する、陰極防食のための陰極防食被膜として使用することができる。
【0042】
したがって、本発明により、腐食侵食に際する耐久寿命の大幅な延長を可能にする被膜構造とそのための防食顔料が提供される。
【0043】
さらに、従来の防食構造に比較して溶接性が大幅に改善されており、それにもかかわらず、外被目的で適用される際での優れた塗装性も備えていることが、本発明の利点である。塗装効率は大幅に高まり、その際、従来の3〜5μmに対して1〜4μmという薄い塗膜厚さで卓越した防食が得られる。防食を一方とし、溶接適性を他方とした、両者の間の相反する問題を克服することができたため、求められる溶接性を保持しつつ、穿孔腐食(フランジ腐食)の大幅な改善が可能である。加えてさらに、加工性が大幅に改善されると共に、メラミン樹脂又はエポキシ樹脂又はブロックイソシアネートの添加によって塗料結合も著しく改善された。
【0044】
一部発がん性を有する成分(クロム酸塩、硝酸コバルト)による予備処理を必要とした従来の構造とは異なり、単段式の無クロム酸塩予備処理が可能であるとの点は、環境にとって重大な意義を有している。その際、この防食構造は、極めて多様な基材及び極めて多様な、例えば、Al、Fe、Zn及びそれらの合金等の金属被膜上に被着可能である。
【0045】
さらなる利点として、本発明による防食構造又は防食構造を使用する場合には、焼付け温度(Peak Metal Temperature−PMT)190°〜240℃ PMTを約160℃ PMTに低下させることができ、こうして、高力焼入れ鋼は帯加工時に塗装可能であることが判明した。
【0046】
適切な顔料(導電・防食顔料)の例示的組成を以下に示す(記載はすべて質量%である)。
【0047】
Zn/Mg比は90/10〜99.5/0.5、好ましくは95/5〜99/1、特に好ましくは98/2である。
【0048】
Zn/Al比は80/20〜99.5/0.5、好ましくは95/5〜99/1、特に好ましくは98/2である。
【0049】
場合により、微量のその他の元素が存在していてよい。
【0050】
以下の表は、本発明の一実施例を示している。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属上に被着される被覆又は1種の被膜からなる金属用防食構造であって、前記被覆又は被膜は有機マトリックスを含み、前記有機マトリックスはさらに防食顔料を含み、前記防食顔料は前記有機マトリックス中に微細に分散して存在し、かつ、前記防食顔料は少なくとも2種の金属の合金及び場合によっては避けられない不純物からなる防食構造。
【請求項2】
前記防食顔料が少なくとも3種の金属の合金及び場合によっては避けられない不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の防食構造。
【請求項3】
前記有機マトリックスが塗装のための下塗り剤及び/又は塗装のための防食プライマ及び/又は塗装の着色塗料及び/又は塗装のトップコート及び/又は金属コーティングのためのその他の塗料及び/又は薄板接合のための接着剤及び/又は油及び/又はワックス及び/又は油/ワックス・乳濁液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防食構造。
【請求項4】
さらに金属基材のための金属被覆(2)が生成され、前記金属被覆が防食被膜(2)として陰極防食又はバリア防食を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項5】
陰極防食被膜(2)の場合、前記防食被膜が亜鉛被膜及び/又は亜鉛・アルミニウム被膜及び/又は亜鉛・クロム被膜及び/又は亜鉛・マグネシウム被膜及び/又は電気化学めっき(亜鉛・鉄被膜)又はその他の陰極作用防食被膜であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項6】
バリア防食被膜の場合、前記バリア防食被膜がアルミニウム及び/又はアルミニウム合金及び/又はスズ及び/又は銅及び/又は、被覆される金属基材(1)よりも電気化学的に貴金属的なその他の金属からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項7】
前記防食被膜(2)が、電解法及び/又は溶融めっき法及び/又はPVD法及び/又はCVD法によって前記基材(1)上に析出させられた防食被膜(2)であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項8】
前記防食顔料の前記合金金属の少なくとも1種が前記金属防食被膜(2)の1種の金属又は当該金属と同じであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項9】
前記防食顔料の前記合金を形成する少なくとも2種の金属が互いに合金化可能であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項10】
前記防食顔料を形成する前記元素が化学周期系の異なった族に属していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項11】
前記防食顔料が、合金成分として、第2、3及び4族及び同亜族の第3、4及び5周期の元素を含んでいることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項12】
前記防食顔料が第2族及び第2亜族の金属からなる合金であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項13】
前記防食顔料の前記合金が第8亜族の第4周期の金属を含んでいることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項14】
前記合金を形成する金属として、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、セリウム、ランタン及び/又はクロムが使用されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項15】
さらに別の金属顔料、例えば、銅、スズ青銅、亜鉛顔料混合物又は黒鉛が含まれていることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項16】
被着されるべき前記基材(1)が薄鋼板であることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項17】
前記金属防食被膜(2)と、前記防食顔料を含んだ前記防食被膜(4)との間に、特にマグネシウム、アルミニウム又はリン酸ケイ素によるクロム酸塩処理又はリン酸塩処理から生ずる中間被膜又は予備処理被膜(3)が存在していることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項18】
前記防食顔料の前記合金又は前記防食顔料が、さらに、受動被膜を形成する合金成分の拡散を促進するための、電気化学的な貴金属、例えば銅、銀、白金又は金を含んでいることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項19】
前記有機マトリックスが実質的にポリエステル塗料であることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項20】
前記有機マトリックスが、塗料結合を改善するために、1〜5%のメラミン樹脂及び/又はエポキシ樹脂及び/又はブロックイソシアネート樹脂を有することを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項21】
この防食構造が、防食プライマ及び/又は塗料として使用される場合に、前記基材上に1〜4μmの塗膜厚さで被着されていることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項22】
結合剤/顔料・比が1:1〜1:4、特に1:1〜1:2、好ましくは1:1.4〜1:1.6であることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項23】
前記有機マトリックスが、塗料成分及び/又は樹脂成分の他に、加工助剤としてワックスを含んでいることを特徴とする請求項1から22のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項24】
前記マトリックスに疎水化剤が含まれていることを特徴とする請求項1から23のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項25】
疎水化剤としてシランが含まれていることを特徴とする請求項1から24のいずれか一項に記載の防食構造。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか一項記載の防食構造に使用するための、特に、コーティングされた又は無コーティングの金属基材(1)を防食するための有機マトリックスに使用するための防食顔料であって、少なくとも2種の金属の合金及び場合によっては避けられない不純物からなる顔料。
【請求項27】
前記防食顔料が少なくとも3種の金属の合金及び場合によっては避けられない不純物からなることを特徴とする請求項26に記載の防食顔料。
【請求項28】
前記防食顔料の前記合金金属の少なくとも1種が前記金属防食被膜(2)の1種の金属又は当該金属と同じであることを特徴とする請求項26又は27に記載の防食顔料。
【請求項29】
前記防食顔料の前記合金を形成する少なくとも2種の金属が互いに合金化可能であることを特徴とする請求項26から28のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項30】
前記防食顔料を形成する前記元素が化学周期系の異なった族に属していることを特徴とする請求項26から29のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項31】
前記防食顔料が、合金成分として、第2、3及び4族及び同亜族の第3、4及び5周期の元素を含んでいることを特徴とする請求項26から30のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項32】
前記防食顔料が第2族及び第2亜族の金属からなる合金であることを特徴とする請求項26から31のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項33】
前記防食顔料の前記合金が第8亜族の第4周期の金属を含んでいることを特徴とする請求項26〜32のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項34】
前記合金を形成する金属として、亜鉛、鉄、アルミニウム、マグネシウム、セリウム、ランタン及び/又はクロムが使用されることを特徴とする請求項26から33のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項35】
前記顔料が実質的に亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金であることを特徴とする請求項26から34のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項36】
前記防食顔料の前記合金又は前記防食顔料が、さらに、受動被膜を形成する合金成分の拡散を促進するための重要な合金成分として、電気化学的な貴金属、例えば銅、銀、白金又は金を含んでいることを特徴とする請求項26から35のいずれか一項に記載の防食顔料。
【請求項37】
請求項1から24のいずれか一項に記載の防食コートとして金属を被覆するための防食構造に対する請求項26から36のいずれか一項に記載の防食顔料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−528176(P2010−528176A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506855(P2010−506855)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003718
【国際公開番号】WO2008/135292
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(506029255)フェストアルピネ シュタール ゲーエムベーハー (11)
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE STAHL GMBH
【住所又は居所原語表記】VOESTALPINE−STRASSE 3, A−4020 LINZ, AUSTRIA
【Fターム(参考)】