説明

金属皮膜の形成方法

【課題】基材の表面に固相状態の金属粉末を圧力気体により高速で吹き付け、前記基材の表面に金属粉末の皮膜を高能率に形成する皮膜形成方法を提供すること。
【解決手段】基材および圧力気体のどちらか一方または双方の温度を373K乃至前記金属粉末の融点に加熱した状態にし、前記金属粉末を0.2MPa以上の圧力気体により基材の表面に衝突させて皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プリント基板、IC回路、パワー系デバイス基板などの電子部品基板の導電性向上、あるいはベアリング部材に代表される機械部品の摺動面の潤滑性向上、あるいは橋梁、船舶、航空機部材などの構造物の耐食性向上、等を目的としてその基材の表面に形成する金属皮膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属皮膜の形成方法には、例えばゾルゲル法、バッタリング法、CVD法、PVD法、メッキ法、印刷法、溶射法、ショット・コーティング法(ブラスト法)などが知られているが、前記とは別の近年注目されている方法に、基材の表面に金属粉末を圧力気体により高速で衝突させて皮膜を形成するコールドスプレー法(CS法)やエアロゾルデポジション法(AD法)がある。
【0003】
本発明者らは、前記する金属皮膜の形成方法の中から、金属皮膜の機能を充分に発揮させるために金属皮膜および基材の材質的劣化や変質を起こすことがないこと、ならびに環境設備費用等の削減を図ることができる皮膜形成方法が化学的反応処理でないこと、を条件として検討した結果、基本構成を基材の表面に固相状態の金属粉末を圧力気体により高速で吹き付けて金属皮膜を形成する前記ショット・コーティング法(ブラスト法)と、コールドスプレー法(CS法)と、エアロゾルデポジション法(AD法)の三法が前記条件を具備しているものと判断した。
【0004】
以下に、前記三法の先行技術について説明する。
【0005】
ショット・コーティング法(ブラスト法)は、粒子サイズが数十μmから数mmの主に金属粉末を圧力気体に混合して基材に高速で衝突させて皮膜を形成する方法であって、その一例に、空気中の有害物質を分解・浄化・吸湿・有害ガス吸着を行うことを目的とした金属またはセラミックからなる基材の表面に光触媒作用を有する無機粉末を衝突させてその皮膜を形成する特許文献1がある。
【0006】
コールドスプレー法(CS法)は、粒子サイズが数μmから数十μmの粉末材料をその融点以下に加熱した圧力気体に混合し、超音速ノズルで加速して基材に衝突させて皮膜を形成する方法であって、その一例に、製鉄プロセスにおいて使用する鋳型やロールの長寿命化を図ることを目的として、前記鋳型やロールの表面にCu、Al、Cr、Ni、Mo、Fe、Nbなどの金属粉末を衝突させて、耐食性、耐摩耗性に優れた高硬度かつ高緻密の皮膜を形成する特許文献2がある。
【0007】
エアロゾルデポジション(AD法)は、粒子サイズが数十nmから数μmの主としてセラミックス微粉末をエアロゾル化して、圧力気体により加速させて基材に衝突させて皮膜を形成する方法であって、その一例に、エアロゾルの濃度を安定して維持しつつ皮膜形成ができるようにしたエアロゾルデポジション装置についての特許文献3がある。
【特許文献1】特開2004−256379公報
【特許文献2】特開2006−052449公報
【特許文献3】特開2005−290462公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記にかんがみて、基材の表面に緻密で密着強度ある皮膜の形成率(=付着率)を向上させた高能率の皮膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す金属皮膜の形成方法に想到した。
【0010】
第1の発明は、基材の表面に固相状態の金属粉末を圧力気体により高速で吹き付けて金属皮膜を形成する工程において、前記基材および圧力気体のどちらか一方または双方の温度を373K乃至前記金属粉末の融点に加熱しながら金属皮膜を形成する金属皮膜の形成方法である。
【0011】
第2の発明は、前記第1の発明に係る圧力気体の圧力を0.2MPa以上にした金属皮膜の形成方法である。
【0012】
第3の発明は、前記第1または第2の発明に係る金属皮膜の形成率を40%以上にした金属皮膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、形成された金属皮膜およびその基材が熱的影響を受けることなく材質的劣化や変質を起こすことがないので、その基材に形成された皮膜の機能を低下させることなくその作用効果を充分に発揮させることができるものであり、皮膜形成率の向上および生産性の向上を図ることができるものである。また、化学反応処理法でないために環境設備等が不要となりその設備費用を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、基材および圧力気体のどちらか一方または双方の温度を373K(≒100゜C)乃至前記金属粉末の融点に加熱しながら前記基材の表面に圧力が0.2MPa以上の圧力気体により金属粉末を衝突させることを基本条件とし、金属粉末およびその基材を非溶融状態にして金属皮膜を形成する。
【0015】
本発明が適用できる対象物(商品)の基材とその皮膜形成(目的)する金属粉末の概要について説明する。
【0016】
プリント基板、IC回路、パワー系デバイス基板などの電子部品基板においては、基材にアルミナ、窒化アルミ、炭化ケイ素、ジルコニア、ムライト、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ガラスなどの絶縁基板があり、該絶縁基板の表面に付与する導電性に優れた皮膜形成に用いられる粉末に、金、銀、プラチナ、パラジウム、銅、アルミニウム、クロム、モリブデン、またはそれらの酸化物、塩化物粉末、またはそれらの合金粉末などがある。
【0017】
ベアリング部材に代表される機械部品においては、基材にアルミニウム、鉄、モリブデン、チタン、ニッケル、クロムまたはそれらの合金があり、その潤滑性を向上させる皮膜形成に用いられる粉末には、鉛、錫、またはそれらの合金粉末などがある。
【0018】
橋梁、船舶、航空機部材などの構造物においては、基材に鉄を主成分とする部材が中心であり、その耐食性を向上させる皮膜形成に用いられる粉末には、アルミニウム,亜鉛,クロム,チタンなどがある。
【0019】
基材の形状またはその構成については、限定されるものでなく、平滑面、非平滑面、微細構造の孔(多孔性)、溝などが形成されていても良い。
【0020】
また、本発明は圧力気体により前記粉末を加熱・溶融させず固相状態で基材の表面に高速で衝突させる必要があるから、その皮膜形成率(%)を良好にするためには、前記粉末の粒子径が1μm〜1mmの範囲が好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例と比較例の結果を、図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1は、皮膜形成装置として使用したコールドスプレー装置の模式図であって、基材Wを加熱しながら高速でトラバースする基材把持手段1と、金属粉末2に圧力気体3を混合し、該圧力気体3の圧力により金属粉末2を前記基材Wに衝突させる噴射ノズル4を備え、該噴射ノズル4に供給される前記圧力気体3の供給配管に圧力気体3の加熱手段5と、前記噴射ノズル4に圧力気体3の温度センサー6を備えるものである。
【0023】
基材は、バフ研磨により鏡面仕上げをした大きさ:25×25×5mmのステンレス鋼(SUS304)とし、金属粉末は、水アトマイズ法により製造した平均粒子径:5μmの銅粉末とし、圧力気体にヘリウムガス(He)と、皮膜形成装置に図1に示すコールドスプレー装置を使用した。なお、圧力気体はヘリウムガスに限定されるものでなく圧縮空気、窒素、アルゴン等適宜選択して使用することができるもので、基材や金属粉末の材質に関しても同様で、前記に限定されるものでない。
【0024】
基材の表面に形成された皮膜の形成率(%)の評価・算定方法は、図2に示すような走査型電子顕微鏡(SEM)写真より、基材に付着した金属粉末の数(D)と基材に形成されたクレーター状の凹部の数(C)をカウントし、算定式=〔D/(D+C)〕×100、により算出して評価した。
【0025】
<試験−1>
前記皮膜形成装置の基材把持手段に把持されている基材の温度を、(1)加熱せず、(2)373K、(3)473K、(4)573K、(5)673Kの5段階に変化させ、300mm/secの速度でトラバースさせながら、圧力を0.3MPaならびに0.5MPaの2段階にした加熱しないヘリウムガスを用いて前記基材の表面に銅粉末を衝突させ、その皮膜形成率(%)の評価をした。その結果を表1および図3に示す。なお、本試験の雰囲気温度(室温:RT)は300Kであった。
【0026】
なお、図2に示す走査型電子顕微鏡写真(a)〜(d)は、基材の加熱温度の違いによる皮膜形成の変化を示すもので、その加熱温度は(a)373K、(b)473K、(c)573K、(d)673Kである。また、使用した圧力気体(ヘリウムガス)の圧力は0.3MPaである。
【0027】
【表1】

【0028】
本試験は、基材を加熱することにより皮膜形成率(%)の向上を図れることが確認できるもので、皮膜形成率(%)≧40%に向上させるには、前記表1の実施例1〜5より前記加熱温度を373K以上にする必要があることが確認できた。なお、加熱しない状態とは比較例1と比較例4であって、その雰囲気温度は300K(室温:RT)である。
【0029】
<試験−2>
皮膜形成装置の基材把持手段に把持されている基材は加熱せずに、300mm/secの速度でトラバースさせながら、圧力を0.2MPa〜0.8MPaの間で7段階に変化させた加熱しない圧力気体(ヘリウムガス)により皮膜を形成し、その皮膜形成率(%)の評価をした。その結果を、表2および図4に示す。なお、本試験の雰囲気温度は300K(室温:RT)である。
【0030】
【表2】

【0031】
本試験は、基材および圧力気体(ヘリウムガス)のどちらか一方または双方を加熱しなければ、圧力気体の圧力を増大させても皮膜形成率(%)の向上を図ることがでないことが確認できるもので、基材および圧力気体を加熱しない状態であれば、皮膜形成率(%)は圧力気体の圧力が0.6MPa〜0.8MPaで上限値(38%)となり、さらに圧力を増大させても皮膜形成率(%)の向上が見られないものである。
【0032】
<試験−3>
基材を加熱せず、金属粉末に平均粒子径が5μmと15μmの銅粉末(2種類)を準備し、夫々の銅粉末を、圧力を0.8MPaとしその温度を673Kに加熱した場合と加熱しない場合の圧力気体(ヘリウムガス)により前記基材に衝突させて皮膜形成を行った。
【0033】
その結果を図5に示す。
【0034】
金属粉末(銅粉末)の平均粒子径(5μm、15μm)の違いによる皮膜形成率(%)
の大きな変化は見られなかったが、基材を加熱しなくとも、圧力気体を673Kに加熱することにより皮膜形成率(%)の大幅な向上が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の金属皮膜の形成に用いたコールドスプレー装置の模式図。
【図2】本発明の試験−1における圧力気体の圧力が0.3MPaによる皮膜形成後の基材表面の走査型電子顕微鏡写真。
【図3】本発明の試験−1における実施例1〜5、比較例1〜4の基材の加熱温度と皮膜形成率の関係図。
【図4】本発明の比較例に関する試験−2における圧力気体の圧力と皮膜形成率の関係図。
【図5】本発明の試験−3における圧力気体の温度と皮膜形成率の関係図。
【符号の説明】
【0036】
1.基材把持手段
2.金属粉末
3.圧力気体
4.噴射ノズル
5.加熱手段
6.温度センサー
W.基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に固相状態の金属粉末を圧力気体により高速で吹き付けて金属皮膜を形成する工程において、前記基材および圧力気体のどちらか一方または双方の温度を373K乃至前記金属粉末の融点に加熱しながら金属皮膜を形成することを特徴とした金属皮膜の形成方法。
【請求項2】
圧力気体の圧力を0.2MPa以上にしたことを特徴とする請求項1記載の金属皮膜の形成方法。
【請求項3】
金属皮膜の形成率を40%以上にしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属皮膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−127676(P2008−127676A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317575(P2006−317575)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(390031185)新東ブレーター株式会社 (27)
【Fターム(参考)】