金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法
【課題】水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】タングステンを含む第1の金属層は銅を含む第2の金属層の第1の表面上に設置され、タングステンを含む第3の金属層は第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、第1の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、第3の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である金属積層構造体と金属積層構造体の製造方法である。
【解決手段】タングステンを含む第1の金属層は銅を含む第2の金属層の第1の表面上に設置され、タングステンを含む第3の金属層は第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、第1の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、第3の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である金属積層構造体と金属積層構造体の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばLED(Light Emitting Diode)素子などの半導体装置においては、半導体素子の駆動時に発生する熱を外部に放熱するための放熱基板(ヒートシンク)を設置することが一般的に行なわれている。
【0003】
たとえば特許第3862737号公報(特許文献1)には、銅(Cu)などの熱伝導率の高い第1の材料からなる層と、モリブデン(Mo)やタングステン(W)などの熱膨張係数が小さい第2の材料からなる層とを、印加圧力50kgf/cm2以上150kgf/cm2以下、及び850℃以上1000℃以下で熱間一軸加工法(ホットプレス法)で接合することによって製造されたクラッド材が半導体装置用放熱基板として用いられることが記載されている(たとえば特許文献1の段落[0011]、[0015]、[0016]、[0033]および[0034]等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3862737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなホットプレス法で製造したクラッド材からなる放熱基板においては、MoやWなどの第2の材料の結晶粒が水平方向(放熱基板の表面に平行な方向)に伸びてしまい、水平方向の熱膨張が大きくなるという問題があった。
【0006】
また、ホットプレス法で製造したクラッド材からなる放熱基板においては、ホットプレス時における、Cuなどの第1の材料と、MoやWなどの第2の材料との変形の差により、第2の材料にボイド(欠陥)が形成されて、垂直方向(放熱基板の表面に対して垂直な方向)の熱伝導が妨げられるという問題があった。
【0007】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、タングステンを含む第1の金属層と、銅を含む第2の金属層と、タングステンを含む第3の金属層と、を備え、第1の金属層は第2の金属層の第1の表面上に設置され、第3の金属層は第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、第1の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、第3の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である、金属積層構造体である。
【0009】
また、本発明の金属積層構造体においては、第1の金属層の厚さおよび第3の金属層の厚さがそれぞれ1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の縦断面における長さ500μmの領域内に存在する1μm以上のボイドの個数が2個以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体は3層以上の奇数層であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の金属積層構造体においては、コバルト、ニッケル、クロムおよび金からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層をさらに備えていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の最表面が銅を含む金属層であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の最表面がニッケルを含む金属層であり、ニッケルを含む金属層の内側に銅を含む金属層が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、タングステンを含む第1の金属層を銅を含む第2の金属層の第1の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、タングステンを含む第3の金属層を第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、を含む、金属積層構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図2】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層の一例の模式的な拡大断面図である。
【図3】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図4】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層のさらに他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図5】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層の一例の模式的な拡大断面図である。
【図6】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図7】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層のさらに他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図8】実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の一例を図解する模式的な構成図である。
【図9】実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の他の一例を図解する模式的な構成図である。
【図10】実施の形態1の金属積層構造体を放熱基板として用いた半導体装置の一例であるLED素子の一例の模式的な断面図である。
【図11】実施の形態2の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図12】実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の一例を図解する模式的な構成図である。
【図13】実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の他の一例を図解する模式的な構成図である。
【図14】実施の形態3の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図15】実施の形態4の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図16】実施例1〜4で用いられた装置の模式的な構成図である。
【図17】実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍における低速SEMの縦断面写真である。
【図18】図17の拡大写真である。
【図19】実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍における低速SEMの他の縦断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0019】
<実施の形態1>
図1に、本発明の金属積層構造体の一例である実施の形態1の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。ここで、金属積層構造体は、タングステンを含む第1の金属層1と、銅を含む第2の金属層2と、タングステンを含む第3の金属層3と、の3層構造の積層構造体から構成されている。
【0020】
ここで、第1の金属層1は第2の金属層2の一方の表面である第1の表面2a上に設置されており、第3の金属層3は第2の金属層2の第1の表面2aとは反対側の表面である第2の表面2b上に設置されている。
【0021】
第1の金属層1の厚さT1および第3の金属層3の厚さT3は、それぞれ、1μm以上200μm以下であることが好ましい。第1の金属層1の厚さT1および第3の金属層3の厚さT3がそれぞれ1μm以上200μm以下である場合には、第2の金属層2の結晶組織の影響を受けずに柱状結晶の組織が得られ、かつ層内にボイドのない緻密な組織が得られる傾向にある。
【0022】
第2の金属層2の厚さT2は、10μm以上1500μm以下であることが好ましい。第2の金属層2の厚さT2が10μm以上1500μm以下である場合には、第1の金属層1および第3の金属層3の形成時の変形を抑制することができ、かつ金属積層構造体の全体の厚さを後述する好ましい範囲とすることができる傾向にある。
【0023】
金属積層構造体の全体の厚さTは、20μm以上3000μm以下であることが好ましい。金属積層構造体の厚さTが20μm以上3000μm以下である場合には、適正な強度が得られるために金属積層構造体の製品としての取り扱い性に優れ、かつたとえばヒートシンクなどのように金属積層構造体上に別の材料を接合して切断する必要がある場合の加工性にも優れる傾向にある。
【0024】
金属積層構造体において、第1の金属層1の厚さT1と第2の金属層2の厚さT2と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T2+T3)に対する第1の金属層1の厚さT1と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T3)の比[(T1+T3)/(T1+T2+T3)]が0.016以上0.89以下であることが好ましい。上記の比が0.016以上0.89以下である場合には、たとえばヒートシンクなどの異種材料と複合させて使用する用途において、金属積層構造体の水平方向の適切な熱膨張係数と、金属積層構造体の垂直方向の適切な熱伝導率を得ることができる。
【0025】
金属積層構造体の反りを抑制するためには、金属積層構造体の厚み方向の中央部(この例では、金属積層構造体の全体の厚さTの1/2の部分)から上方の部分と金属積層構造体の厚み方向の中央部から下方の部分とが金属積層構造体の厚み方向の中央部に関して対称となっていることが好ましい。ここで、「対称」とは、金属積層構造体の厚み方向の中央部から上端面までを鉛直方向の上方に進む場合に現れる層の材質と厚さとが、金属積層構造体の厚み方向の中央部から下端面までを鉛直方向の下方に進む場合と完全に同一である場合だけなく同等程度である場合も含む概念である。
【0026】
図2に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の一例の模式的な拡大断面図を示す。図2は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)を示しており、第1の金属層1は、第2の金属層2の第1の表面2aに対して垂直方向に伸長する柱状結晶であるタングステンの結晶粒1aを複数含んでいる。ここで、タングステンの結晶粒1aが「第1の表面2aに対して垂直方向に伸長する柱状結晶」であるためには、第1の表面2aに対する傾きが90°である方向におけるタングステンの結晶粒1aの長さH1と、第1の表面2aに対する傾きが0°である方向におけるタングステンの結晶粒1aの長さW1との比であるアスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいことが必要である。このようなタングステンの結晶粒1aの伸長方向は、たとえば、第2の金属層2の第1の表面2aに対して90°±30°の範囲内に含まれる。
【0027】
図3に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。図3は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)を示しており、図3に示すように、第1の金属層1を構成するタングステンの結晶粒1aが第2の金属層2の第1の表面2aに対して傾斜している場合でも、タングステンの結晶粒1aの長さH1およびW1は、それぞれ、第1の表面2aに対する傾きが90°である方向の長さおよび第1の表面2aに対する傾きが0°である方向の長さとなる。
【0028】
また、アスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいタングステンの結晶粒1aの総数は、第1の金属層1の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めていることが好ましく、70%以上を占めていることがより好ましい。アスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいタングステンの結晶粒1aの総数が、第1の金属層1の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めている場合、特に70%以上を占めている場合には、金属構造体の水平方向の熱膨張をより大きく抑制することができる傾向にある。
【0029】
図4に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。ここで、図4は、金属積層構造体の任意の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)における長さ500μmの領域を示しており、その領域内においては、第2の金属層2の第1の表面2a側の第1の金属層1の表面に、窪み状の欠陥であるボイド1bが形成されている。ボイド1bは金属積層構造体の垂直方向の熱伝導を妨げるため、金属積層構造体の任意の縦断面における開口部の幅Wb1が1μm以上の大きさのボイド1bの個数が2個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましく、0個であることが最も好ましい。このようなボイド1bの個数が2個以下である場合、1個以下である場合、特に0個である場合には、金属積層構造体の垂直方向の熱伝導をさらに良好なものとすることができる傾向にある。
【0030】
図5に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の一例の模式的な拡大断面図を示す。。図5は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第2の表面2bに垂直な方向の断面)を示しており、第3の金属層3は、第2の金属層2の第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶であるタングステンの結晶粒3aを複数含んでいる。なお、タングステンの結晶粒3aが「第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶」であるためには、第2の表面2bに対する傾きが90°である方向におけるタングステンの結晶粒3aの長さH3と、第2の表面2bに対する傾きが0°である方向におけるタングステンの結晶粒3aの長さW3との比であるアスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいことが必要である。このようなタングステンの結晶粒3aの伸長方向は、たとえば、第2の金属層2の第2の表面2bに対して90°±30°の範囲内に含まれる。
【0031】
図6に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。図6に示すように、第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒3aが第2の金属層2の第2の表面2bに対して傾斜している場合でも、タングステンの結晶粒3aの長さH3およびW3は、それぞれ、第2の表面2bに対する傾きが90°である方向の長さおよび第2の表面2bに対する傾きが0°である方向の長さとなる。
【0032】
また、アスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいタングステンの結晶粒3aの総数は、第3の金属層3の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めていることが好ましく、70%以上を占めていることがより好ましい。アスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいタングステンの結晶粒3aの総数が、第3の金属層3の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めている場合、特に70%以上を占めている場合には、金属構造体の水平方向の熱膨張をより大きく抑制することができる傾向にある。
【0033】
図7に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。ここで、図7は、金属積層構造体の任意の縦断面(第2の金属層2の第2の表面2bに垂直な方向の断面)における長さ500μmの領域を示しており、その領域内においては、第2の金属層2の第2の表面2b側の第3の金属層3の表面に、窪み状の欠陥であるボイド3bが形成されている。ボイド3bは金属積層構造体の垂直方向の熱伝導を妨げるため、金属積層構造体の任意の縦断面における開口部の幅Wb3が1μm以上の大きさのボイド3bの個数が2個以下であることが好ましく、0個であることが最も好ましい。このようなボイド3bの個数が2個以下である場合、1個以下である場合、特に0個である場合には、金属積層構造体の垂直方向の熱伝導をさらに良好なものとすることができる傾向にある。
【0034】
以下、実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の一例について説明する。
まず、図8の模式的構成図に示すように、タングステンを含む溶融塩浴8を容器7に収容する。溶融塩浴8は、溶融塩浴8の電解によりタングステンを析出することができるものであれば特に限定されないが、たとえば、フッ化カリウム(KF)と酸化ホウ素(B2O3)と酸化タングステン(WO3)とをたとえば67:26:7のモル比で混合した混合物を溶融して作製した溶融塩浴などを用いることができる。
【0035】
次に、容器7に収容された溶融塩浴8中に、たとえば銅箔などの第2の金属層2のおよび対向電極6をそれぞれ浸漬させる。ここで、対向電極6としては、溶解によって浴のイオンバランスを保つことができるタングステンからなる電極を用いることが好ましい。
【0036】
次に、第2の金属層2を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、第2の金属層2と対向電極6との間に電圧を印加して溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、溶融塩浴8中のタングステンを第2の金属層2の両面にそれぞれ析出させて、タングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。
【0037】
その後、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第1の金属層1および第3の金属層3にそれぞれ付着している溶融塩浴8を洗って除去する。そして、たとえば所定の酸で洗うことによって、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。以上により、実施の形態1の金属積層構造体を製造することができる。
【0038】
以下、実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の他の一例について説明する。
まず、図9の模式的構成図に示すように、たとえば銅箔などの第2の金属層2が容器7に収容された溶融塩浴8中を通過するように、第2の金属層2を第1のロール31aと第2のロール31bとの間に掛け渡す。
【0039】
次に、第1のロール31aから第2の金属層2を繰り出し、容器7に収容された溶融塩浴8中に第2の金属層2を連続的に浸漬させながら溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて、タングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。以上により、実施の形態1の金属積層構造体を製造することができる。
【0040】
その後、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させることによって第1の金属層1および第3の金属層3が形成された実施の形態1の金属積層構造体は第2のロール31bに巻き取られて回収される。
【0041】
図9に示すように、第2の金属層2を移動させながら溶融塩めっきにより第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて長尺の金属積層構造体を形成した場合には金属積層構造体を効率的に製造することができる。
【0042】
実施の形態1の金属積層構造体は、従来のホットプレス法ではなく、上述したような溶融塩めっきによって、銅を含む第2の金属層2の両面にタングステンを含む第1の金属層1および第3の金属層3をそれぞれ形成して製造される。このような溶融塩めっきによって形成された第1の金属層1および第3の金属層3においては、第1の金属層1および第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒1a,3aがそれぞれ第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶となる傾向にある。
【0043】
したがって、実施の形態1の金属積層構造体においては、第1の金属層1および第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒1a,3aの伸長方向が、従来のホットプレス法で製造されたクラッド材からなる放熱基板とは異なり、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する傾向にあることから、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して平行方向(水平方向)の熱膨張を抑制することができる。
【0044】
また、上述したような溶融塩めっきによって、銅を含む第2の金属層2の両面にタングステンを含む第1の金属層1および第3の金属層3をそれぞれ形成した場合には、第2の金属層2と界面を構成する第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面にボイド1b,3bが生じにくくなるため、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる。
【0045】
以上のようにして製造された実施の形態1の金属積層構造体は、たとえば、半導体装置用の放熱基板(ヒートシンク)として用いることができる。
【0046】
図10に、実施の形態1の金属積層構造体を放熱基板として用いた半導体装置の一例であるLED素子の一例の模式的な断面図を示す。図10に示すLED素子は、実施の形態1の金属積層構造体100と、金属積層構造体100上に設置されたLED構造体10とを備えており、金属積層構造体100とLED構造体10とは接合層21によって接合されている。
【0047】
ここで、LED構造体10は、半導体基板14と、半導体基板14上に設置されたn型半導体層13と、n型半導体層13上に設置された活性層12と、活性層12上に設置されたp型半導体層11と、p型半導体層11上に設置された半透明電極17と、半透明電極17上に設置されたp電極15と、n型半導体層13上に設置されたn電極16とを備えている。
【0048】
なお、LED構造体10としては、p型半導体層11とn型半導体層13と活性層12とを含み、p型半導体層11とn型半導体層13との間に活性層12が設置されており、電流の注入により活性層12から発光する構造であれば特に限定なく用いることができ、たとえば、従来から公知のLED構造体を用いることができる。
【0049】
LED構造体10としては、なかでも、p型半導体層11、活性層12およびn型半導体層13にそれぞれIII族元素(Al、InおよびGaからなる群から選択された少なくとも1種)とV族元素(窒素)との化合物であるIII−V族窒化物半導体を用いることが好ましい。この場合には、活性層12から青色の光を発光させることが可能となる。
【0050】
活性層12から青色の光を発光させることが可能なLED構造体10の一例としては、たとえば、図10に示す半導体基板14としてGaN基板またはサファイア基板を用い、p型半導体層11としてp型GaN層を用い、活性層12としてアンドープInGaN層を用い、n型半導体層13としてn型GaN層を用いたLED構造体などを挙げることができる。
【0051】
また、実施の形態1の金属積層構造体は、LED素子に限られず、たとえば半導体レーザ素子または電界効果トランジスタなどのLED素子以外の半導体装置用の放熱基板にも適用することができる。ここで、活性層12から青色の光を発光させることが可能なLED構造体10以外の半導体装置に用いられる半導体基板14としては、たとえば、シリコン基板、炭化ケイ素基板またはガリウム砒素基板などを用いることができる。
【0052】
なお、p型半導体層11はp型不純物がドープされているp型の導電型を有する半導体層のことであり、n型半導体層13はn型不純物がドープされているn型の導電型を有する半導体層のことであることは言うまでもない。また、活性層12は、p型またはn型のいずれか一方の導電型を有していてもよく、p型不純物およびn型不純物のいずれの不純物もドープされていないアンドープの半導体層であってもよい。
【0053】
さらに、半導体基板14とn型半導体層13との間、n型半導体層13と活性層12との間、活性層12とp型半導体層11との間、p型半導体層11と半透明電極17との間、半透明電極17とp電極15との間、およびn型半導体層13とn電極16との間の少なくとも1つの間に他の層が含まれていてもよい。
【0054】
また、接合層21としては、たとえば、共晶半田よりも熱伝導率が高い導電性の物質からなる層を用いることができる。接合層21としては、特に、電気抵抗が低く、熱伝導率が高く、かつ酸化しにくい金属を用いることが好ましく、なかでも、金、銀、銅およびニッケルからなる群から選択された少なくとも1種を含む層を用いることがより好ましい。
【0055】
以上のような構成を有するLED素子のn電極16を陰極とし、p電極15を陽極として、これらの電極間に電圧を印加することによって、LED構造体10の内部にp電極15からn電極16に向かって電流を流す。これにより、LED構造体10のp型半導体層11とn型半導体層13との間の活性層12で光を発生させることができる。
【0056】
なお、図10に示す構成のLED素子は、たとえば以下のようにして製造することができる。
【0057】
まず、半導体基板14をたとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内にセットした後に、半導体基板14の表面上に、n型半導体層13、活性層12およびp型半導体層11をこの順序でたとえばMOCVD法などによりエピタキシャル成長させて形成する。
【0058】
次に、n型半導体層13、活性層12およびp型半導体層11の一部をたとえばフォトエッチングなどにより除去した後に、たとえばリフトオフ法などを利用して、p型半導体層11上に半透明電極17およびp電極15を形成するとともに、n型半導体層13上にn電極16を形成する。
【0059】
次に、上記のp電極15およびn電極16の形成後の半導体基板14の裏面に実施の形態1の金属積層構造体100を接合層21によって接合する。
【0060】
そして、たとえば円形回転刃などによって、上記の接合層21の形成後の半導体基板14を切断することによって、図10に示す模式的な断面を有する個々のLED素子に分割する。以上により、図10に示す構成のLED素子を得ることができる。
【0061】
上述したように、実施の形態1の金属積層構造体100は、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる。そのため、実施の形態1の金属積層構造体100をLED素子などの半導体装置の放熱基板として用いた場合には、半導体装置の発熱による変形を抑えつつ、その発熱を効率的に外部に逃がすことができる点で非常に有用である。
【0062】
<実施の形態2>
図11に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態2の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態2の金属積層構造体は、実施の形態1の第1の金属層1の第2の金属層2側とは反対側の表面上に銅を含む第4の金属層4が設置されているとともに、第3の金属層3の第2の金属層2側とは反対側の表面上に銅を含む第5の金属層5が設置されている5層構造とされている点に特徴がある。
【0063】
第4の金属層4の厚さT4および第5の金属層5の厚さT5は、それぞれ、10μm以上500μm以下であることが好ましい。第4の金属層4の厚さT4および第5の金属層5の厚さT5がそれぞれ10μm以上500μm以下である場合には、表面粗さを低減することができ、また適正な強度が得られるため、金属積層構造体の製品としての取り扱い性に優れ、かつたとえばヒートシンクなどのように金属積層構造体上に別の材料を接合して切断する必要がある場合の加工性にも優れる傾向にある。
【0064】
また、第1の金属層1の厚さT1と、第2の金属層2の厚さT2と、第3の金属層3の厚さT3と、第4の金属層4の厚さT4と、第5の金属層5の厚さT5との和(T1+T2+T3+T4+T5)に対する第1の金属層1の厚さT1と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T3)の比[(T1+T3)/(T1+T2+T3+T4+T5)]は、0.015以上0.89以下であることが好ましい。上記の比が0.015以上0.89以下である場合には、たとえばヒートシンクなどの異種材料と複合させて使用する用途において、金属積層構造体の水平方向の適切な熱膨張係数と、金属積層構造体の垂直方向の適切な熱伝導率を得ることができる。
【0065】
以下、実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の一例について説明する。
まず、実施の形態1と同様に、図8に示すように、容器7中にタングステンを含む溶融塩浴8を準備し、溶融塩浴8中のタングステンをたとえば銅箔などの第2の金属層2の両面にそれぞれ析出させる。このような溶融塩浴めっきにより第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。
【0066】
次に、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第1の金属層1および第3の金属層3にそれぞれ付着している溶融塩浴8を洗って除去する。そして、たとえば所定の酸で洗うことによって、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。
【0067】
その後、図12の模式的構成図に示すように、容器7に収容された電気めっき液9中に、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2ならびに対向電極6をそれぞれ浸漬させる。
【0068】
ここで、電気めっき液9としては、銅を含むものであれば特に限定されず、たとえば市販の硫酸銅めっき液などを用いることができる。
【0069】
次に、第2の金属層2を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、第2の金属層2と対向電極6との間に電圧を印加して電気めっき液9を電解する。これにより、電気めっき液9中の銅を第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面にそれぞれ析出させて第4の金属層4および第5の金属層5を形成する。
【0070】
そして、第4の金属層4および第5の金属層5の形成後の第2の金属層2を電気めっき液9から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第4の金属層4および第5の金属層5に付着している電気めっき液9を洗って除去し、その後、たとえば所定の酸で洗うことによって、第4の金属層4および第5の金属層5のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。以上により、実施の形態2の金属積層構造体を製造することができる。
【0071】
以下、実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の他の一例について説明する。
まず、図13の模式的構成図に示すように、たとえば銅箔などの第2の金属層2が容器7に収容された溶融塩浴8および容器7に収容された電気めっき液9中をそれぞれ通過するように銅箔を第1のロール31aと第2のロール31bとの間に掛け渡す。
【0072】
次に、第1のロール31aから第2の金属層2を繰り出し、容器7に収容された溶融塩浴8中に第2の金属層2を通過させながら溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて、第2の金属層2の両面にそれぞれ第1の金属層1および第3の金属層3を形成する。
【0073】
続いて、容器7に収容された電気めっき液9中に第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を通過させながら電気めっき液9を電解する。このような電解めっきにより、第1の金属層1および第3の金属層3の表面にそれぞれ銅を析出させて、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に第4の金属層4および第5の金属層5を形成して、実施の形態2の金属積層構造体が製造される。
【0074】
その後、実施の形態2の金属積層構造体は、第2のロール31bに巻き取られて回収される。
【0075】
なお、上記においては、電気めっき液9を用いて第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成したが、第4の金属層4および第5の金属層5の形成方法はこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0076】
たとえばスパッタ法などの従来から公知の気相法により第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成することもできる。
【0077】
また、第4の金属層4および第5の金属層5は、たとえば、上記の電気めっき液の電解による形成とスパッタ法などの気相法による形成とを組み合わせて形成してもよい。
【0078】
また、金属積層構造体は、上記の3層構造や5層構造に限定されるものではなく、第1の金属層1と第2の金属層2と第3の金属層3とを含む3層以上の構造のものであればよく、なかでも奇数層の層構造とすることが好ましい。
【0079】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【0080】
<実施の形態3>
図14に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態3の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。実施の形態3の金属積層構造体は、実施の形態2の金属積層構造体の第1の金属層1と第4の金属層4との間、および第3の金属層3と第5の金属層5との間にそれぞれ、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)および金(Au)からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層からなる密着層40をさらに備えていることを特徴とする。
【0081】
このような密着層40を設けることによって、第1の金属層1と第4の金属層4との間の密着力、および第3の金属層3と第5の金属層5との間の密着力をそれぞれ高くすることができるため、金属積層構造体の層間剥離の発生を抑制することができる。
【0082】
実施の形態3の金属積層構造体は、たとえば以下のようにして製造することができる。
まず、上述のようにして、実施の形態1の金属積層構造体を製造し、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1および第3の金属層3をアルカリ溶液に浸漬させることによって、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面の脱脂工程を行なう。
【0083】
次に、第1の金属層1および第3の金属層3を陽極としてアルカリ水溶液中に浸漬させて電解を行なうことによって、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面からそれぞれ酸化膜を除去する。
【0084】
次に、上記の酸化膜除去後の第1の金属層1および第3の金属層3を陰極として、たとえば硫酸コバルト水溶液などのめっき液中に浸漬させて電解を行なう。これにより、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面にそれぞれ金属を析出させて密着層40を形成する。
【0085】
その後、上記で形成した密着層40を陰極としてたとえば硫酸銅めっき液などの銅を含むめっき液中に浸漬させて電解を行なう。これにより、密着層40の表面上に銅を析出させて、銅を含む第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成する。以上により、実施の形態3の金属積層構造体を製造することができる。
【0086】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1および実施の形態2と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【0087】
<実施の形態4>
図15に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態4の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。実施の形態4の金属積層構造体は、実施の形態2の金属積層構造体の第4の金属層4および第5の金属層5の表面にそれぞれ、たとえばニッケルを含む金属層41を備えていることに特徴がある。
【0088】
このような金属層41を設けることによって、層間の密着性および信頼性を向上させることができ、たとえば加工への耐性や熱衝撃への耐性を確保することができる。
【0089】
実施の形態4の金属積層構造体は、たとえば、上述のようにして製造した実施の形態2の金属積層構造体をニッケルを含むめっき液中に浸漬させて電解を行なうことによって、実施の形態2の金属積層構造体の第4の金属層4および第5の金属層5の表面にそれぞれニッケルを析出させて形成することができる。
【0090】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1〜3と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【実施例】
【0091】
<実施例1>
KF粉末およびWO3粉末をそれぞれ耐圧容器に封入した後に、耐圧容器を500℃に保持し、耐圧容器の内部を2日間以上真空引きすることによってKF粉末およびWO3粉末をそれぞれ乾燥させた。
【0092】
また、B2O3粉末148gについては上記とは別の耐圧容器に封入した後に耐圧容器を380℃に保持し、耐圧容器の内部を2日間以上真空引きすることによってB2O3粉末を乾燥させた。
【0093】
そして、図16に模式的構成図を示す装置を用いて、上記の乾燥後のKF粉末と、B2O3粉末と、WO3粉末とが、67:26:7のモル比で混合された混合物を溶融して溶融塩浴を作製した。
【0094】
具体的には、まず、500℃で2日間以上乾燥させたSiC製の坩堝111に上記の乾燥後のKF粉末、B2O3粉末およびWO3粉末をそれぞれ上記のモル比となるように投入し、これらの粉末が投入された坩堝111を石英製の耐真空容器110に封入した。
【0095】
次に、耐真空容器110の上部の開口部にSUS316L製の蓋118をした状態で坩堝111を500℃に保持し、耐真空容器110の内部を1日間以上真空引きした。
【0096】
そして、ガス導入口117から耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを導入して耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを充填し、坩堝111を850℃に保持して上記の粉末を溶融させて溶融塩浴8を作製した。
【0097】
次に、蓋118に設けられた開口部から陽極としてのタングステン板113(厚さ2mm、大きさ:5cm角)を含む棒状電極と陰極としての銅板114(厚さ0.6mm、大きさ:5cm角)を含む棒状電極とをそれぞれ挿入してタングステン板113および銅板114をそれぞれ坩堝111中の溶融塩浴8中に浸漬させた。
【0098】
ここで、上記の棒状電極においては、タングステン板113および銅板114にそれぞれリード線115が接続されており、耐真空容器110の内部のリード線115にはタングステン線を用い、耐真空容器110の外部のリード線115には銅線を用いた。また、リード線115の少なくとも一部をアルミナ製の被覆材116により被覆した。
【0099】
また、上記の棒状電極の挿入時には、ガス導入口117から耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを導入して耐真空容器110の内部に大気が混入しないように設定した。
【0100】
また、タングステン板113および銅板114の酸化の進行による溶融塩浴8中への不純物の混入を防止するため、図16に示すようにタングステン板113および銅板114についてはそれぞれ表面全域を溶融塩浴8中に浸漬させた。
【0101】
そして、坩堝111の内部に高純度アルゴンガスを常時流すことによって、坩堝111の内部を不活性な雰囲気とした。そして、この不活性な雰囲気において、タングステン板113を陽極とし、銅板114を陰極としてタングステン板113と銅板114との間に3A/dm2の電流密度の電流を150分間流して、溶融塩浴8の定電流電解を行なった。その結果、銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成した。
【0102】
そして、図16に示す装置から上記のタングステン層形成後の銅板114を取り出し、タングステン層の表面を湯で洗浄してタングステン層に付着している溶融塩浴8を除去することによって、タングステン−銅−タングステンの積層体を得た。
【0103】
次に、パイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中に1枚の含リン銅からなる対向電極とともに、上記のタングステン−銅−タングステンの積層体を対向電極と対向するようにして浸漬させた。
【0104】
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、対向電極を陽極とし、タングステン−銅−タングステンの積層体を陰極として、これらの間に5A/dm2の電流密度の電流を195分間流して電解めっきを行なった。これにより、タングステン−銅−タングステンの積層体のタングステン層の表面に銅を析出させて、銅−タングステン−銅−タングステン−銅の5層構造の実施例1の金属積層構造体を作製した。
【0105】
そして、上記のようにして作製した実施例1の金属積層構造体について、レーザーフラッシュ法により、金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率(W/m・K)を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は、369.0(W/m・K)であった。
【0106】
また、実施例1の金属積層構造体について、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体の水平方向の線膨張係数は、15.3(ppm/℃)であった。なお、水平方向への線膨張係数(ppm/℃)の測定は、熱機械分析装置(TMA)にて行ない、室温〜150℃まで測定し、その平均値を算出することにより行なった。
【0107】
また、クロスセクションポリッシャーにより、実施例1の金属積層構造体の縦断面を露出させた後に、低加速SEMによって断面観察を行なった。その結果を図17〜図19に示す。図17および図19はそれぞれ、実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍を示しており、図18は図17の拡大写真である。
【0108】
図17〜図19に示すように、実施例1の金属積層構造体のタングステン層を構成するタングステンの結晶粒は銅層の表面から銅層の表面に対して略垂直方向に伸長する柱状結晶であることが確認された。
【0109】
また、図17〜図19に示される縦断面から10個のタングステンの結晶粒を任意に抽出し、それぞれの結晶粒のアスペクト比を算出して、その平均値を実施例1の金属積層構造体のアスペクト比として求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体のアスペクト比は、5.7であった。なお、アスペクト比は、任意に抽出されたそれぞれのタングステンの結晶粒について、銅層の表面から鉛直方向における結晶粒の高さHと、銅層の表面に対して平行な方向における結晶粒の幅Wとの比(H/W)から算出した。また、実施例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の75%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0110】
また、図17〜図19に示される縦断面から、長さ500μmの領域を任意に抽出し、その領域内において開口部の大きさが1μm以上の窪みであるボイドの個数(個)をカウントした。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体のボイドの個数は、0(個)であった。
【0111】
<実施例2>
タングステン板113と銅板114との間に1A/dm2の電流密度の電流を450分間流して溶融塩浴8の定電流電解を行なって銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の金属積層構造体を作製した。
【0112】
そして、上記のようにして作製した実施例2の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0113】
表1に示すように、実施例2の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は371.2(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.1(ppm/℃)であり、アスペクト比は3.4であり、ボイドの個数は0(個)であった。また、実施例2の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の55%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0114】
<実施例3>
タングステン板113と銅板114との間に6A/dm2の電流密度の電流を75分間流して溶融塩浴8の定電流電解を行なって銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の金属積層構造体を作製した。
【0115】
そして、上記のようにして作製した実施例3の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0116】
表1に示すように、実施例3の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は367.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.4(ppm/℃)であり、アスペクト比は7.3であり、ボイドの個数は1(個)であった。また、実施例3の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の80%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0117】
<実施例4>
実施例1と同様にしてタングステン−銅−タングステンの積層体を作製した後に、銅板114の両面にそれぞれ形成されたタングステン層の表面に電解めっきによりニッケル層を形成した。
【0118】
ここで、電解めっきによるニッケル層の形成は、以下のようにして行なった。まず、パイレックス(登録商標)ビーカーに、塩酸濃度が100g/Lであって塩化ニッケル濃度が250g/Lであるニッケルめっき液中に、1枚のニッケル板からなる対向電極とともに、上記のタングステン−銅−タングステンの積層体を対向電極と対向するようにして浸漬させた。
【0119】
そして、対向電極を陽極とし、タングステン−銅−タングステンの積層体を陰極として、これらの間に10A/dm2の電流密度の電流を3分間流して室温で電解めっきを行なった。
【0120】
これにより、タングステン−銅−タングステンの積層体の両面のタングステン層のそれぞれの表面にニッケルを析出させて、0.1μmの厚さのニッケルからなる密着層を形成し、ニッケル−タングステン−銅−タングステン−ニッケルの積層体を形成した。
【0121】
その後は実施例1と同様にして、硫酸銅めっき液の電解めっきにより、ニッケルからなる密着層のそれぞれの表面に銅を析出させて、銅−ニッケル−タングステン−銅−タングステン−ニッケル−銅の積層体を形成して、実施例4の金属積層構造体を作製した。
【0122】
そして、上記のようにして作製した実施例4の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0123】
表1に示すように、実施例4の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は366.7(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.3(ppm/℃)であり、アスペクト比は5.4であり、ボイドの個数は0(個)であった。また、実施例4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の73%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0124】
<比較例1>
厚さ600μmの銅板の両面にそれぞれ、厚さ25μmの市販の圧延タングステン箔を設置し、さらに、両側の圧延タングステン箔のそれぞれの表面上に厚さ200μmの銅板を設置した積層体を作製した。
【0125】
その後、上記のようにして作製した積層体を水素雰囲気炉内で温度900℃で10分間保持した後、圧力10MPaの条件で圧着(ホットプレス)して、銅−タングステン−銅−タングステン−銅の5層構造の積層体からなる比較例1の金属積層構造体を作製した。
【0126】
そして、上記のようにして作製した比較例1の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0127】
表1に示すように、比較例1の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は355.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.7(ppm/℃)であり、アスペクト比は0.1であり、ボイドの個数は12(個)であった。また、比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の12%をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0128】
<比較例2>
厚さ25μmの市販の圧延タングステン箔に代えて厚さ25μmの市販の圧延モリブデン箔を用いたこと以外は比較例1と同様にして、銅−モリブデン−銅−モリブデン−銅の5層構造の積層体からなる比較例2の金属積層構造体を作製した。
【0129】
そして、上記のようにして作製した比較例2の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。なお、比較例2の金属積層構造体については、モリブデン層を構成するモリブデンの結晶粒のアスペクト比については測定していない。
【0130】
表1に示すように、比較例2の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は345.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は16.0(ppm/℃)であり、ボイドの個数は7(個)であった。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が3.4〜5.7であった。また、実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていた。
【0133】
また、表1に示すように、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が0.1であった。また、比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1以下であるタングステンの結晶粒が占めていた。
【0134】
以上のように、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めている実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1以下であるタングステンの結晶粒が占めている比較例1の金属積層構造体と比べて、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)が抑えられることが確認された。
【0135】
また、表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の縦断面から任意に抽出された長さ500μmの領域内における開口部の大きさが1μm以上のボイドの個数(個)は0〜1個であった。
【0136】
また、表1に示すように、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の縦断面から任意に抽出された長さ500μmの領域内における開口部の大きさが1μm以上のボイドの個数(個)は12個であった。
【0137】
以上のように、上記のボイドの個数が0〜1個である実施例1〜4の金属積層構造体においては、当該ボイドの個数が12個である比較例1〜2の金属積層構造体と比べて、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)が高くなっていた。
【0138】
また、表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層を形成した実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりモリブデン層が形成された比較例2の金属積層構造体と比べて、水平方向の線膨張係数が抑えられるとともに、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)が高くなっていた。
【0139】
したがって、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体と比較して、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)を高くすることができるとともに、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)を抑えることができることが確認された。
【0140】
これは、溶融塩めっきによってタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりタングステン層またはモリブデン層が形成された比較例1〜2の金属積層構造体と比較して、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が大きく、ボイドの形成が抑えられていたためと考えられる。
【0141】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法は、たとえば半導体装置のヒートシンクなどに利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0143】
1 第1の金属層、1a タングステン粒、1b ボイド、2 第2の金属層、2a 第1の表面、2b 第2の表面、3 第3の金属層、3a タングステン粒、3b ボイド、4 第4の金属層、5 第5の金属層、6 対向電極、7 容器、8 溶融塩、9 電気めっき液、10 LED構造体、11 p型半導体層、12 活性層、13 n型半導体層、14 半導体基板、15 p電極、16 n電極、17 半透明電極、21 接合層、31a 第1のロール、31b 第2のロール、40 密着層、41 金属層、100 金属積層構造体、110 耐真空容器、111 坩堝、113 タングステン板、114 銅板、115 リード線、116 被覆材、117 ガス導入口、118 蓋。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばLED(Light Emitting Diode)素子などの半導体装置においては、半導体素子の駆動時に発生する熱を外部に放熱するための放熱基板(ヒートシンク)を設置することが一般的に行なわれている。
【0003】
たとえば特許第3862737号公報(特許文献1)には、銅(Cu)などの熱伝導率の高い第1の材料からなる層と、モリブデン(Mo)やタングステン(W)などの熱膨張係数が小さい第2の材料からなる層とを、印加圧力50kgf/cm2以上150kgf/cm2以下、及び850℃以上1000℃以下で熱間一軸加工法(ホットプレス法)で接合することによって製造されたクラッド材が半導体装置用放熱基板として用いられることが記載されている(たとえば特許文献1の段落[0011]、[0015]、[0016]、[0033]および[0034]等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3862737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなホットプレス法で製造したクラッド材からなる放熱基板においては、MoやWなどの第2の材料の結晶粒が水平方向(放熱基板の表面に平行な方向)に伸びてしまい、水平方向の熱膨張が大きくなるという問題があった。
【0006】
また、ホットプレス法で製造したクラッド材からなる放熱基板においては、ホットプレス時における、Cuなどの第1の材料と、MoやWなどの第2の材料との変形の差により、第2の材料にボイド(欠陥)が形成されて、垂直方向(放熱基板の表面に対して垂直な方向)の熱伝導が妨げられるという問題があった。
【0007】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、タングステンを含む第1の金属層と、銅を含む第2の金属層と、タングステンを含む第3の金属層と、を備え、第1の金属層は第2の金属層の第1の表面上に設置され、第3の金属層は第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、第1の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、第3の金属層に含まれるタングステンの結晶粒が第2の金属層の第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である、金属積層構造体である。
【0009】
また、本発明の金属積層構造体においては、第1の金属層の厚さおよび第3の金属層の厚さがそれぞれ1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の縦断面における長さ500μmの領域内に存在する1μm以上のボイドの個数が2個以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体は3層以上の奇数層であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の金属積層構造体においては、コバルト、ニッケル、クロムおよび金からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層をさらに備えていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の最表面が銅を含む金属層であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の金属積層構造体においては、金属積層構造体の最表面がニッケルを含む金属層であり、ニッケルを含む金属層の内側に銅を含む金属層が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、タングステンを含む第1の金属層を銅を含む第2の金属層の第1の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、タングステンを含む第3の金属層を第2の金属層の第1の表面とは反対側の第2の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、を含む、金属積層構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図2】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層の一例の模式的な拡大断面図である。
【図3】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図4】実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層のさらに他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図5】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層の一例の模式的な拡大断面図である。
【図6】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図7】実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層のさらに他の一例の模式的な拡大断面図である。
【図8】実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の一例を図解する模式的な構成図である。
【図9】実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の他の一例を図解する模式的な構成図である。
【図10】実施の形態1の金属積層構造体を放熱基板として用いた半導体装置の一例であるLED素子の一例の模式的な断面図である。
【図11】実施の形態2の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図12】実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の一例を図解する模式的な構成図である。
【図13】実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の他の一例を図解する模式的な構成図である。
【図14】実施の形態3の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図15】実施の形態4の金属積層構造体の模式的な断面図である。
【図16】実施例1〜4で用いられた装置の模式的な構成図である。
【図17】実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍における低速SEMの縦断面写真である。
【図18】図17の拡大写真である。
【図19】実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍における低速SEMの他の縦断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0019】
<実施の形態1>
図1に、本発明の金属積層構造体の一例である実施の形態1の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。ここで、金属積層構造体は、タングステンを含む第1の金属層1と、銅を含む第2の金属層2と、タングステンを含む第3の金属層3と、の3層構造の積層構造体から構成されている。
【0020】
ここで、第1の金属層1は第2の金属層2の一方の表面である第1の表面2a上に設置されており、第3の金属層3は第2の金属層2の第1の表面2aとは反対側の表面である第2の表面2b上に設置されている。
【0021】
第1の金属層1の厚さT1および第3の金属層3の厚さT3は、それぞれ、1μm以上200μm以下であることが好ましい。第1の金属層1の厚さT1および第3の金属層3の厚さT3がそれぞれ1μm以上200μm以下である場合には、第2の金属層2の結晶組織の影響を受けずに柱状結晶の組織が得られ、かつ層内にボイドのない緻密な組織が得られる傾向にある。
【0022】
第2の金属層2の厚さT2は、10μm以上1500μm以下であることが好ましい。第2の金属層2の厚さT2が10μm以上1500μm以下である場合には、第1の金属層1および第3の金属層3の形成時の変形を抑制することができ、かつ金属積層構造体の全体の厚さを後述する好ましい範囲とすることができる傾向にある。
【0023】
金属積層構造体の全体の厚さTは、20μm以上3000μm以下であることが好ましい。金属積層構造体の厚さTが20μm以上3000μm以下である場合には、適正な強度が得られるために金属積層構造体の製品としての取り扱い性に優れ、かつたとえばヒートシンクなどのように金属積層構造体上に別の材料を接合して切断する必要がある場合の加工性にも優れる傾向にある。
【0024】
金属積層構造体において、第1の金属層1の厚さT1と第2の金属層2の厚さT2と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T2+T3)に対する第1の金属層1の厚さT1と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T3)の比[(T1+T3)/(T1+T2+T3)]が0.016以上0.89以下であることが好ましい。上記の比が0.016以上0.89以下である場合には、たとえばヒートシンクなどの異種材料と複合させて使用する用途において、金属積層構造体の水平方向の適切な熱膨張係数と、金属積層構造体の垂直方向の適切な熱伝導率を得ることができる。
【0025】
金属積層構造体の反りを抑制するためには、金属積層構造体の厚み方向の中央部(この例では、金属積層構造体の全体の厚さTの1/2の部分)から上方の部分と金属積層構造体の厚み方向の中央部から下方の部分とが金属積層構造体の厚み方向の中央部に関して対称となっていることが好ましい。ここで、「対称」とは、金属積層構造体の厚み方向の中央部から上端面までを鉛直方向の上方に進む場合に現れる層の材質と厚さとが、金属積層構造体の厚み方向の中央部から下端面までを鉛直方向の下方に進む場合と完全に同一である場合だけなく同等程度である場合も含む概念である。
【0026】
図2に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の一例の模式的な拡大断面図を示す。図2は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)を示しており、第1の金属層1は、第2の金属層2の第1の表面2aに対して垂直方向に伸長する柱状結晶であるタングステンの結晶粒1aを複数含んでいる。ここで、タングステンの結晶粒1aが「第1の表面2aに対して垂直方向に伸長する柱状結晶」であるためには、第1の表面2aに対する傾きが90°である方向におけるタングステンの結晶粒1aの長さH1と、第1の表面2aに対する傾きが0°である方向におけるタングステンの結晶粒1aの長さW1との比であるアスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいことが必要である。このようなタングステンの結晶粒1aの伸長方向は、たとえば、第2の金属層2の第1の表面2aに対して90°±30°の範囲内に含まれる。
【0027】
図3に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。図3は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)を示しており、図3に示すように、第1の金属層1を構成するタングステンの結晶粒1aが第2の金属層2の第1の表面2aに対して傾斜している場合でも、タングステンの結晶粒1aの長さH1およびW1は、それぞれ、第1の表面2aに対する傾きが90°である方向の長さおよび第1の表面2aに対する傾きが0°である方向の長さとなる。
【0028】
また、アスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいタングステンの結晶粒1aの総数は、第1の金属層1の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めていることが好ましく、70%以上を占めていることがより好ましい。アスペクト比(H1/W1)が1よりも大きいタングステンの結晶粒1aの総数が、第1の金属層1の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めている場合、特に70%以上を占めている場合には、金属構造体の水平方向の熱膨張をより大きく抑制することができる傾向にある。
【0029】
図4に、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。ここで、図4は、金属積層構造体の任意の縦断面(第2の金属層2の第1の表面2aに垂直な方向の断面)における長さ500μmの領域を示しており、その領域内においては、第2の金属層2の第1の表面2a側の第1の金属層1の表面に、窪み状の欠陥であるボイド1bが形成されている。ボイド1bは金属積層構造体の垂直方向の熱伝導を妨げるため、金属積層構造体の任意の縦断面における開口部の幅Wb1が1μm以上の大きさのボイド1bの個数が2個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましく、0個であることが最も好ましい。このようなボイド1bの個数が2個以下である場合、1個以下である場合、特に0個である場合には、金属積層構造体の垂直方向の熱伝導をさらに良好なものとすることができる傾向にある。
【0030】
図5に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の一例の模式的な拡大断面図を示す。。図5は、金属積層構造体の縦断面(第2の金属層2の第2の表面2bに垂直な方向の断面)を示しており、第3の金属層3は、第2の金属層2の第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶であるタングステンの結晶粒3aを複数含んでいる。なお、タングステンの結晶粒3aが「第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶」であるためには、第2の表面2bに対する傾きが90°である方向におけるタングステンの結晶粒3aの長さH3と、第2の表面2bに対する傾きが0°である方向におけるタングステンの結晶粒3aの長さW3との比であるアスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいことが必要である。このようなタングステンの結晶粒3aの伸長方向は、たとえば、第2の金属層2の第2の表面2bに対して90°±30°の範囲内に含まれる。
【0031】
図6に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。図6に示すように、第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒3aが第2の金属層2の第2の表面2bに対して傾斜している場合でも、タングステンの結晶粒3aの長さH3およびW3は、それぞれ、第2の表面2bに対する傾きが90°である方向の長さおよび第2の表面2bに対する傾きが0°である方向の長さとなる。
【0032】
また、アスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいタングステンの結晶粒3aの総数は、第3の金属層3の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めていることが好ましく、70%以上を占めていることがより好ましい。アスペクト比(H3/W3)が1よりも大きいタングステンの結晶粒3aの総数が、第3の金属層3の任意の縦断面を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上を占めている場合、特に70%以上を占めている場合には、金属構造体の水平方向の熱膨張をより大きく抑制することができる傾向にある。
【0033】
図7に、実施の形態1の金属積層構造体の第3の金属層3の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。ここで、図7は、金属積層構造体の任意の縦断面(第2の金属層2の第2の表面2bに垂直な方向の断面)における長さ500μmの領域を示しており、その領域内においては、第2の金属層2の第2の表面2b側の第3の金属層3の表面に、窪み状の欠陥であるボイド3bが形成されている。ボイド3bは金属積層構造体の垂直方向の熱伝導を妨げるため、金属積層構造体の任意の縦断面における開口部の幅Wb3が1μm以上の大きさのボイド3bの個数が2個以下であることが好ましく、0個であることが最も好ましい。このようなボイド3bの個数が2個以下である場合、1個以下である場合、特に0個である場合には、金属積層構造体の垂直方向の熱伝導をさらに良好なものとすることができる傾向にある。
【0034】
以下、実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の一例について説明する。
まず、図8の模式的構成図に示すように、タングステンを含む溶融塩浴8を容器7に収容する。溶融塩浴8は、溶融塩浴8の電解によりタングステンを析出することができるものであれば特に限定されないが、たとえば、フッ化カリウム(KF)と酸化ホウ素(B2O3)と酸化タングステン(WO3)とをたとえば67:26:7のモル比で混合した混合物を溶融して作製した溶融塩浴などを用いることができる。
【0035】
次に、容器7に収容された溶融塩浴8中に、たとえば銅箔などの第2の金属層2のおよび対向電極6をそれぞれ浸漬させる。ここで、対向電極6としては、溶解によって浴のイオンバランスを保つことができるタングステンからなる電極を用いることが好ましい。
【0036】
次に、第2の金属層2を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、第2の金属層2と対向電極6との間に電圧を印加して溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、溶融塩浴8中のタングステンを第2の金属層2の両面にそれぞれ析出させて、タングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。
【0037】
その後、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第1の金属層1および第3の金属層3にそれぞれ付着している溶融塩浴8を洗って除去する。そして、たとえば所定の酸で洗うことによって、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。以上により、実施の形態1の金属積層構造体を製造することができる。
【0038】
以下、実施の形態1の金属積層構造体の製造方法の他の一例について説明する。
まず、図9の模式的構成図に示すように、たとえば銅箔などの第2の金属層2が容器7に収容された溶融塩浴8中を通過するように、第2の金属層2を第1のロール31aと第2のロール31bとの間に掛け渡す。
【0039】
次に、第1のロール31aから第2の金属層2を繰り出し、容器7に収容された溶融塩浴8中に第2の金属層2を連続的に浸漬させながら溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて、タングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。以上により、実施の形態1の金属積層構造体を製造することができる。
【0040】
その後、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させることによって第1の金属層1および第3の金属層3が形成された実施の形態1の金属積層構造体は第2のロール31bに巻き取られて回収される。
【0041】
図9に示すように、第2の金属層2を移動させながら溶融塩めっきにより第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて長尺の金属積層構造体を形成した場合には金属積層構造体を効率的に製造することができる。
【0042】
実施の形態1の金属積層構造体は、従来のホットプレス法ではなく、上述したような溶融塩めっきによって、銅を含む第2の金属層2の両面にタングステンを含む第1の金属層1および第3の金属層3をそれぞれ形成して製造される。このような溶融塩めっきによって形成された第1の金属層1および第3の金属層3においては、第1の金属層1および第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒1a,3aがそれぞれ第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する柱状結晶となる傾向にある。
【0043】
したがって、実施の形態1の金属積層構造体においては、第1の金属層1および第3の金属層3を構成するタングステンの結晶粒1a,3aの伸長方向が、従来のホットプレス法で製造されたクラッド材からなる放熱基板とは異なり、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向に伸長する傾向にあることから、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して平行方向(水平方向)の熱膨張を抑制することができる。
【0044】
また、上述したような溶融塩めっきによって、銅を含む第2の金属層2の両面にタングステンを含む第1の金属層1および第3の金属層3をそれぞれ形成した場合には、第2の金属層2と界面を構成する第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面にボイド1b,3bが生じにくくなるため、第2の金属層2の第1の表面2aおよび第2の表面2bに対して垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる。
【0045】
以上のようにして製造された実施の形態1の金属積層構造体は、たとえば、半導体装置用の放熱基板(ヒートシンク)として用いることができる。
【0046】
図10に、実施の形態1の金属積層構造体を放熱基板として用いた半導体装置の一例であるLED素子の一例の模式的な断面図を示す。図10に示すLED素子は、実施の形態1の金属積層構造体100と、金属積層構造体100上に設置されたLED構造体10とを備えており、金属積層構造体100とLED構造体10とは接合層21によって接合されている。
【0047】
ここで、LED構造体10は、半導体基板14と、半導体基板14上に設置されたn型半導体層13と、n型半導体層13上に設置された活性層12と、活性層12上に設置されたp型半導体層11と、p型半導体層11上に設置された半透明電極17と、半透明電極17上に設置されたp電極15と、n型半導体層13上に設置されたn電極16とを備えている。
【0048】
なお、LED構造体10としては、p型半導体層11とn型半導体層13と活性層12とを含み、p型半導体層11とn型半導体層13との間に活性層12が設置されており、電流の注入により活性層12から発光する構造であれば特に限定なく用いることができ、たとえば、従来から公知のLED構造体を用いることができる。
【0049】
LED構造体10としては、なかでも、p型半導体層11、活性層12およびn型半導体層13にそれぞれIII族元素(Al、InおよびGaからなる群から選択された少なくとも1種)とV族元素(窒素)との化合物であるIII−V族窒化物半導体を用いることが好ましい。この場合には、活性層12から青色の光を発光させることが可能となる。
【0050】
活性層12から青色の光を発光させることが可能なLED構造体10の一例としては、たとえば、図10に示す半導体基板14としてGaN基板またはサファイア基板を用い、p型半導体層11としてp型GaN層を用い、活性層12としてアンドープInGaN層を用い、n型半導体層13としてn型GaN層を用いたLED構造体などを挙げることができる。
【0051】
また、実施の形態1の金属積層構造体は、LED素子に限られず、たとえば半導体レーザ素子または電界効果トランジスタなどのLED素子以外の半導体装置用の放熱基板にも適用することができる。ここで、活性層12から青色の光を発光させることが可能なLED構造体10以外の半導体装置に用いられる半導体基板14としては、たとえば、シリコン基板、炭化ケイ素基板またはガリウム砒素基板などを用いることができる。
【0052】
なお、p型半導体層11はp型不純物がドープされているp型の導電型を有する半導体層のことであり、n型半導体層13はn型不純物がドープされているn型の導電型を有する半導体層のことであることは言うまでもない。また、活性層12は、p型またはn型のいずれか一方の導電型を有していてもよく、p型不純物およびn型不純物のいずれの不純物もドープされていないアンドープの半導体層であってもよい。
【0053】
さらに、半導体基板14とn型半導体層13との間、n型半導体層13と活性層12との間、活性層12とp型半導体層11との間、p型半導体層11と半透明電極17との間、半透明電極17とp電極15との間、およびn型半導体層13とn電極16との間の少なくとも1つの間に他の層が含まれていてもよい。
【0054】
また、接合層21としては、たとえば、共晶半田よりも熱伝導率が高い導電性の物質からなる層を用いることができる。接合層21としては、特に、電気抵抗が低く、熱伝導率が高く、かつ酸化しにくい金属を用いることが好ましく、なかでも、金、銀、銅およびニッケルからなる群から選択された少なくとも1種を含む層を用いることがより好ましい。
【0055】
以上のような構成を有するLED素子のn電極16を陰極とし、p電極15を陽極として、これらの電極間に電圧を印加することによって、LED構造体10の内部にp電極15からn電極16に向かって電流を流す。これにより、LED構造体10のp型半導体層11とn型半導体層13との間の活性層12で光を発生させることができる。
【0056】
なお、図10に示す構成のLED素子は、たとえば以下のようにして製造することができる。
【0057】
まず、半導体基板14をたとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内にセットした後に、半導体基板14の表面上に、n型半導体層13、活性層12およびp型半導体層11をこの順序でたとえばMOCVD法などによりエピタキシャル成長させて形成する。
【0058】
次に、n型半導体層13、活性層12およびp型半導体層11の一部をたとえばフォトエッチングなどにより除去した後に、たとえばリフトオフ法などを利用して、p型半導体層11上に半透明電極17およびp電極15を形成するとともに、n型半導体層13上にn電極16を形成する。
【0059】
次に、上記のp電極15およびn電極16の形成後の半導体基板14の裏面に実施の形態1の金属積層構造体100を接合層21によって接合する。
【0060】
そして、たとえば円形回転刃などによって、上記の接合層21の形成後の半導体基板14を切断することによって、図10に示す模式的な断面を有する個々のLED素子に分割する。以上により、図10に示す構成のLED素子を得ることができる。
【0061】
上述したように、実施の形態1の金属積層構造体100は、水平方向の熱膨張を抑制することができるとともに、垂直方向の熱伝導を良好なものとすることができる。そのため、実施の形態1の金属積層構造体100をLED素子などの半導体装置の放熱基板として用いた場合には、半導体装置の発熱による変形を抑えつつ、その発熱を効率的に外部に逃がすことができる点で非常に有用である。
【0062】
<実施の形態2>
図11に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態2の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。ここで、実施の形態2の金属積層構造体は、実施の形態1の第1の金属層1の第2の金属層2側とは反対側の表面上に銅を含む第4の金属層4が設置されているとともに、第3の金属層3の第2の金属層2側とは反対側の表面上に銅を含む第5の金属層5が設置されている5層構造とされている点に特徴がある。
【0063】
第4の金属層4の厚さT4および第5の金属層5の厚さT5は、それぞれ、10μm以上500μm以下であることが好ましい。第4の金属層4の厚さT4および第5の金属層5の厚さT5がそれぞれ10μm以上500μm以下である場合には、表面粗さを低減することができ、また適正な強度が得られるため、金属積層構造体の製品としての取り扱い性に優れ、かつたとえばヒートシンクなどのように金属積層構造体上に別の材料を接合して切断する必要がある場合の加工性にも優れる傾向にある。
【0064】
また、第1の金属層1の厚さT1と、第2の金属層2の厚さT2と、第3の金属層3の厚さT3と、第4の金属層4の厚さT4と、第5の金属層5の厚さT5との和(T1+T2+T3+T4+T5)に対する第1の金属層1の厚さT1と第3の金属層3の厚さT3との和(T1+T3)の比[(T1+T3)/(T1+T2+T3+T4+T5)]は、0.015以上0.89以下であることが好ましい。上記の比が0.015以上0.89以下である場合には、たとえばヒートシンクなどの異種材料と複合させて使用する用途において、金属積層構造体の水平方向の適切な熱膨張係数と、金属積層構造体の垂直方向の適切な熱伝導率を得ることができる。
【0065】
以下、実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の一例について説明する。
まず、実施の形態1と同様に、図8に示すように、容器7中にタングステンを含む溶融塩浴8を準備し、溶融塩浴8中のタングステンをたとえば銅箔などの第2の金属層2の両面にそれぞれ析出させる。このような溶融塩浴めっきにより第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを含む第1の金属層1およびタングステンを含む第3の金属層3を形成する。
【0066】
次に、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を溶融塩浴8から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第1の金属層1および第3の金属層3にそれぞれ付着している溶融塩浴8を洗って除去する。そして、たとえば所定の酸で洗うことによって、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。
【0067】
その後、図12の模式的構成図に示すように、容器7に収容された電気めっき液9中に、第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2ならびに対向電極6をそれぞれ浸漬させる。
【0068】
ここで、電気めっき液9としては、銅を含むものであれば特に限定されず、たとえば市販の硫酸銅めっき液などを用いることができる。
【0069】
次に、第2の金属層2を陰極にするとともに、対向電極6を陽極として、第2の金属層2と対向電極6との間に電圧を印加して電気めっき液9を電解する。これにより、電気めっき液9中の銅を第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面にそれぞれ析出させて第4の金属層4および第5の金属層5を形成する。
【0070】
そして、第4の金属層4および第5の金属層5の形成後の第2の金属層2を電気めっき液9から取り出し、たとえばイオン交換水などによって第4の金属層4および第5の金属層5に付着している電気めっき液9を洗って除去し、その後、たとえば所定の酸で洗うことによって、第4の金属層4および第5の金属層5のそれぞれの表面に形成された酸化膜を除去する。以上により、実施の形態2の金属積層構造体を製造することができる。
【0071】
以下、実施の形態2の金属積層構造体の製造方法の他の一例について説明する。
まず、図13の模式的構成図に示すように、たとえば銅箔などの第2の金属層2が容器7に収容された溶融塩浴8および容器7に収容された電気めっき液9中をそれぞれ通過するように銅箔を第1のロール31aと第2のロール31bとの間に掛け渡す。
【0072】
次に、第1のロール31aから第2の金属層2を繰り出し、容器7に収容された溶融塩浴8中に第2の金属層2を通過させながら溶融塩浴8を電解する。このような溶融塩浴めっきにより、第2の金属層2の両面にそれぞれタングステンを析出させて、第2の金属層2の両面にそれぞれ第1の金属層1および第3の金属層3を形成する。
【0073】
続いて、容器7に収容された電気めっき液9中に第1の金属層1および第3の金属層3の形成後の第2の金属層2を通過させながら電気めっき液9を電解する。このような電解めっきにより、第1の金属層1および第3の金属層3の表面にそれぞれ銅を析出させて、第1の金属層1および第3の金属層3のそれぞれの表面に第4の金属層4および第5の金属層5を形成して、実施の形態2の金属積層構造体が製造される。
【0074】
その後、実施の形態2の金属積層構造体は、第2のロール31bに巻き取られて回収される。
【0075】
なお、上記においては、電気めっき液9を用いて第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成したが、第4の金属層4および第5の金属層5の形成方法はこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0076】
たとえばスパッタ法などの従来から公知の気相法により第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成することもできる。
【0077】
また、第4の金属層4および第5の金属層5は、たとえば、上記の電気めっき液の電解による形成とスパッタ法などの気相法による形成とを組み合わせて形成してもよい。
【0078】
また、金属積層構造体は、上記の3層構造や5層構造に限定されるものではなく、第1の金属層1と第2の金属層2と第3の金属層3とを含む3層以上の構造のものであればよく、なかでも奇数層の層構造とすることが好ましい。
【0079】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【0080】
<実施の形態3>
図14に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態3の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。実施の形態3の金属積層構造体は、実施の形態2の金属積層構造体の第1の金属層1と第4の金属層4との間、および第3の金属層3と第5の金属層5との間にそれぞれ、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)および金(Au)からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層からなる密着層40をさらに備えていることを特徴とする。
【0081】
このような密着層40を設けることによって、第1の金属層1と第4の金属層4との間の密着力、および第3の金属層3と第5の金属層5との間の密着力をそれぞれ高くすることができるため、金属積層構造体の層間剥離の発生を抑制することができる。
【0082】
実施の形態3の金属積層構造体は、たとえば以下のようにして製造することができる。
まず、上述のようにして、実施の形態1の金属積層構造体を製造し、実施の形態1の金属積層構造体の第1の金属層1および第3の金属層3をアルカリ溶液に浸漬させることによって、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面の脱脂工程を行なう。
【0083】
次に、第1の金属層1および第3の金属層3を陽極としてアルカリ水溶液中に浸漬させて電解を行なうことによって、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面からそれぞれ酸化膜を除去する。
【0084】
次に、上記の酸化膜除去後の第1の金属層1および第3の金属層3を陰極として、たとえば硫酸コバルト水溶液などのめっき液中に浸漬させて電解を行なう。これにより、第1の金属層1の表面および第3の金属層3の表面にそれぞれ金属を析出させて密着層40を形成する。
【0085】
その後、上記で形成した密着層40を陰極としてたとえば硫酸銅めっき液などの銅を含むめっき液中に浸漬させて電解を行なう。これにより、密着層40の表面上に銅を析出させて、銅を含む第4の金属層4および第5の金属層5をそれぞれ形成する。以上により、実施の形態3の金属積層構造体を製造することができる。
【0086】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1および実施の形態2と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【0087】
<実施の形態4>
図15に、本発明の金属積層構造体の他の一例である実施の形態4の金属積層構造体の模式的な断面図を示す。実施の形態4の金属積層構造体は、実施の形態2の金属積層構造体の第4の金属層4および第5の金属層5の表面にそれぞれ、たとえばニッケルを含む金属層41を備えていることに特徴がある。
【0088】
このような金属層41を設けることによって、層間の密着性および信頼性を向上させることができ、たとえば加工への耐性や熱衝撃への耐性を確保することができる。
【0089】
実施の形態4の金属積層構造体は、たとえば、上述のようにして製造した実施の形態2の金属積層構造体をニッケルを含むめっき液中に浸漬させて電解を行なうことによって、実施の形態2の金属積層構造体の第4の金属層4および第5の金属層5の表面にそれぞれニッケルを析出させて形成することができる。
【0090】
本実施の形態における上記以外の説明は実施の形態1〜3と同様であるため、その説明についてはここでは省略する。
【実施例】
【0091】
<実施例1>
KF粉末およびWO3粉末をそれぞれ耐圧容器に封入した後に、耐圧容器を500℃に保持し、耐圧容器の内部を2日間以上真空引きすることによってKF粉末およびWO3粉末をそれぞれ乾燥させた。
【0092】
また、B2O3粉末148gについては上記とは別の耐圧容器に封入した後に耐圧容器を380℃に保持し、耐圧容器の内部を2日間以上真空引きすることによってB2O3粉末を乾燥させた。
【0093】
そして、図16に模式的構成図を示す装置を用いて、上記の乾燥後のKF粉末と、B2O3粉末と、WO3粉末とが、67:26:7のモル比で混合された混合物を溶融して溶融塩浴を作製した。
【0094】
具体的には、まず、500℃で2日間以上乾燥させたSiC製の坩堝111に上記の乾燥後のKF粉末、B2O3粉末およびWO3粉末をそれぞれ上記のモル比となるように投入し、これらの粉末が投入された坩堝111を石英製の耐真空容器110に封入した。
【0095】
次に、耐真空容器110の上部の開口部にSUS316L製の蓋118をした状態で坩堝111を500℃に保持し、耐真空容器110の内部を1日間以上真空引きした。
【0096】
そして、ガス導入口117から耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを導入して耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを充填し、坩堝111を850℃に保持して上記の粉末を溶融させて溶融塩浴8を作製した。
【0097】
次に、蓋118に設けられた開口部から陽極としてのタングステン板113(厚さ2mm、大きさ:5cm角)を含む棒状電極と陰極としての銅板114(厚さ0.6mm、大きさ:5cm角)を含む棒状電極とをそれぞれ挿入してタングステン板113および銅板114をそれぞれ坩堝111中の溶融塩浴8中に浸漬させた。
【0098】
ここで、上記の棒状電極においては、タングステン板113および銅板114にそれぞれリード線115が接続されており、耐真空容器110の内部のリード線115にはタングステン線を用い、耐真空容器110の外部のリード線115には銅線を用いた。また、リード線115の少なくとも一部をアルミナ製の被覆材116により被覆した。
【0099】
また、上記の棒状電極の挿入時には、ガス導入口117から耐真空容器110の内部に高純度アルゴンガスを導入して耐真空容器110の内部に大気が混入しないように設定した。
【0100】
また、タングステン板113および銅板114の酸化の進行による溶融塩浴8中への不純物の混入を防止するため、図16に示すようにタングステン板113および銅板114についてはそれぞれ表面全域を溶融塩浴8中に浸漬させた。
【0101】
そして、坩堝111の内部に高純度アルゴンガスを常時流すことによって、坩堝111の内部を不活性な雰囲気とした。そして、この不活性な雰囲気において、タングステン板113を陽極とし、銅板114を陰極としてタングステン板113と銅板114との間に3A/dm2の電流密度の電流を150分間流して、溶融塩浴8の定電流電解を行なった。その結果、銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成した。
【0102】
そして、図16に示す装置から上記のタングステン層形成後の銅板114を取り出し、タングステン層の表面を湯で洗浄してタングステン層に付着している溶融塩浴8を除去することによって、タングステン−銅−タングステンの積層体を得た。
【0103】
次に、パイレックス(登録商標)ビーカーに収容された硫酸銅めっき液(上村工業(株)製のレブコEX)中に1枚の含リン銅からなる対向電極とともに、上記のタングステン−銅−タングステンの積層体を対向電極と対向するようにして浸漬させた。
【0104】
そして、硫酸銅めっき液の温度を30℃に保持した状態で、対向電極を陽極とし、タングステン−銅−タングステンの積層体を陰極として、これらの間に5A/dm2の電流密度の電流を195分間流して電解めっきを行なった。これにより、タングステン−銅−タングステンの積層体のタングステン層の表面に銅を析出させて、銅−タングステン−銅−タングステン−銅の5層構造の実施例1の金属積層構造体を作製した。
【0105】
そして、上記のようにして作製した実施例1の金属積層構造体について、レーザーフラッシュ法により、金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率(W/m・K)を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は、369.0(W/m・K)であった。
【0106】
また、実施例1の金属積層構造体について、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体の水平方向の線膨張係数は、15.3(ppm/℃)であった。なお、水平方向への線膨張係数(ppm/℃)の測定は、熱機械分析装置(TMA)にて行ない、室温〜150℃まで測定し、その平均値を算出することにより行なった。
【0107】
また、クロスセクションポリッシャーにより、実施例1の金属積層構造体の縦断面を露出させた後に、低加速SEMによって断面観察を行なった。その結果を図17〜図19に示す。図17および図19はそれぞれ、実施例1の金属積層構造体のタングステン層と銅層との界面近傍を示しており、図18は図17の拡大写真である。
【0108】
図17〜図19に示すように、実施例1の金属積層構造体のタングステン層を構成するタングステンの結晶粒は銅層の表面から銅層の表面に対して略垂直方向に伸長する柱状結晶であることが確認された。
【0109】
また、図17〜図19に示される縦断面から10個のタングステンの結晶粒を任意に抽出し、それぞれの結晶粒のアスペクト比を算出して、その平均値を実施例1の金属積層構造体のアスペクト比として求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体のアスペクト比は、5.7であった。なお、アスペクト比は、任意に抽出されたそれぞれのタングステンの結晶粒について、銅層の表面から鉛直方向における結晶粒の高さHと、銅層の表面に対して平行な方向における結晶粒の幅Wとの比(H/W)から算出した。また、実施例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の75%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0110】
また、図17〜図19に示される縦断面から、長さ500μmの領域を任意に抽出し、その領域内において開口部の大きさが1μm以上の窪みであるボイドの個数(個)をカウントした。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の金属積層構造体のボイドの個数は、0(個)であった。
【0111】
<実施例2>
タングステン板113と銅板114との間に1A/dm2の電流密度の電流を450分間流して溶融塩浴8の定電流電解を行なって銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の金属積層構造体を作製した。
【0112】
そして、上記のようにして作製した実施例2の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0113】
表1に示すように、実施例2の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は371.2(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.1(ppm/℃)であり、アスペクト比は3.4であり、ボイドの個数は0(個)であった。また、実施例2の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の55%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0114】
<実施例3>
タングステン板113と銅板114との間に6A/dm2の電流密度の電流を75分間流して溶融塩浴8の定電流電解を行なって銅板114の両面にそれぞれ25μmの厚さのタングステン層を形成したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の金属積層構造体を作製した。
【0115】
そして、上記のようにして作製した実施例3の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0116】
表1に示すように、実施例3の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は367.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.4(ppm/℃)であり、アスペクト比は7.3であり、ボイドの個数は1(個)であった。また、実施例3の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の80%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0117】
<実施例4>
実施例1と同様にしてタングステン−銅−タングステンの積層体を作製した後に、銅板114の両面にそれぞれ形成されたタングステン層の表面に電解めっきによりニッケル層を形成した。
【0118】
ここで、電解めっきによるニッケル層の形成は、以下のようにして行なった。まず、パイレックス(登録商標)ビーカーに、塩酸濃度が100g/Lであって塩化ニッケル濃度が250g/Lであるニッケルめっき液中に、1枚のニッケル板からなる対向電極とともに、上記のタングステン−銅−タングステンの積層体を対向電極と対向するようにして浸漬させた。
【0119】
そして、対向電極を陽極とし、タングステン−銅−タングステンの積層体を陰極として、これらの間に10A/dm2の電流密度の電流を3分間流して室温で電解めっきを行なった。
【0120】
これにより、タングステン−銅−タングステンの積層体の両面のタングステン層のそれぞれの表面にニッケルを析出させて、0.1μmの厚さのニッケルからなる密着層を形成し、ニッケル−タングステン−銅−タングステン−ニッケルの積層体を形成した。
【0121】
その後は実施例1と同様にして、硫酸銅めっき液の電解めっきにより、ニッケルからなる密着層のそれぞれの表面に銅を析出させて、銅−ニッケル−タングステン−銅−タングステン−ニッケル−銅の積層体を形成して、実施例4の金属積層構造体を作製した。
【0122】
そして、上記のようにして作製した実施例4の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0123】
表1に示すように、実施例4の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は366.7(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.3(ppm/℃)であり、アスペクト比は5.4であり、ボイドの個数は0(個)であった。また、実施例4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の73%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0124】
<比較例1>
厚さ600μmの銅板の両面にそれぞれ、厚さ25μmの市販の圧延タングステン箔を設置し、さらに、両側の圧延タングステン箔のそれぞれの表面上に厚さ200μmの銅板を設置した積層体を作製した。
【0125】
その後、上記のようにして作製した積層体を水素雰囲気炉内で温度900℃で10分間保持した後、圧力10MPaの条件で圧着(ホットプレス)して、銅−タングステン−銅−タングステン−銅の5層構造の積層体からなる比較例1の金属積層構造体を作製した。
【0126】
そして、上記のようにして作製した比較例1の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)、アスペクト比およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。
【0127】
表1に示すように、比較例1の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は355.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は15.7(ppm/℃)であり、アスペクト比は0.1であり、ボイドの個数は12(個)であった。また、比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の12%をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていることも確認された。
【0128】
<比較例2>
厚さ25μmの市販の圧延タングステン箔に代えて厚さ25μmの市販の圧延モリブデン箔を用いたこと以外は比較例1と同様にして、銅−モリブデン−銅−モリブデン−銅の5層構造の積層体からなる比較例2の金属積層構造体を作製した。
【0129】
そして、上記のようにして作製した比較例2の金属積層構造体について、実施例1の金属積層構造体と同様にして、厚み方向の熱伝導率(W/m・K)、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)およびボイドの個数(個)をそれぞれ求めた。その結果を表1に示す。なお、比較例2の金属積層構造体については、モリブデン層を構成するモリブデンの結晶粒のアスペクト比については測定していない。
【0130】
表1に示すように、比較例2の金属積層構造体の厚み方向の熱伝導率は345.0(W/m・K)であり、水平方向の線膨張係数は16.0(ppm/℃)であり、ボイドの個数は7(個)であった。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が3.4〜5.7であった。また、実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めていた。
【0133】
また、表1に示すように、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が0.1であった。また、比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1以下であるタングステンの結晶粒が占めていた。
【0134】
以上のように、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1よりも大きいタングステンの結晶粒が占めている実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の総数の50%以上をアスペクト比が1以下であるタングステンの結晶粒が占めている比較例1の金属積層構造体と比べて、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)が抑えられることが確認された。
【0135】
また、表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の縦断面から任意に抽出された長さ500μmの領域内における開口部の大きさが1μm以上のボイドの個数(個)は0〜1個であった。
【0136】
また、表1に示すように、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体においては、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒の縦断面から任意に抽出された長さ500μmの領域内における開口部の大きさが1μm以上のボイドの個数(個)は12個であった。
【0137】
以上のように、上記のボイドの個数が0〜1個である実施例1〜4の金属積層構造体においては、当該ボイドの個数が12個である比較例1〜2の金属積層構造体と比べて、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)が高くなっていた。
【0138】
また、表1に示すように、溶融塩めっきによりタングステン層を形成した実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりモリブデン層が形成された比較例2の金属積層構造体と比べて、水平方向の線膨張係数が抑えられるとともに、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)が高くなっていた。
【0139】
したがって、溶融塩めっきによりタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりタングステン層が形成された比較例1の金属積層構造体と比較して、厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)を高くすることができるとともに、水平方向の線膨張係数(ppm/℃)を抑えることができることが確認された。
【0140】
これは、溶融塩めっきによってタングステン層が形成された実施例1〜4の金属積層構造体においては、ホットプレスによりタングステン層またはモリブデン層が形成された比較例1〜2の金属積層構造体と比較して、タングステン層を構成するタングステンの結晶粒のアスペクト比が大きく、ボイドの形成が抑えられていたためと考えられる。
【0141】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の金属積層構造体および金属積層構造体の製造方法は、たとえば半導体装置のヒートシンクなどに利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0143】
1 第1の金属層、1a タングステン粒、1b ボイド、2 第2の金属層、2a 第1の表面、2b 第2の表面、3 第3の金属層、3a タングステン粒、3b ボイド、4 第4の金属層、5 第5の金属層、6 対向電極、7 容器、8 溶融塩、9 電気めっき液、10 LED構造体、11 p型半導体層、12 活性層、13 n型半導体層、14 半導体基板、15 p電極、16 n電極、17 半透明電極、21 接合層、31a 第1のロール、31b 第2のロール、40 密着層、41 金属層、100 金属積層構造体、110 耐真空容器、111 坩堝、113 タングステン板、114 銅板、115 リード線、116 被覆材、117 ガス導入口、118 蓋。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを含む第1の金属層と、銅を含む第2の金属層と、タングステンを含む第3の金属層と、を備え、
前記第1の金属層は前記第2の金属層の第1の表面上に設置され、
前記第3の金属層は前記第2の金属層の前記第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、
前記第1の金属層に含まれる前記タングステンの結晶粒は前記第2の金属層の前記第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、
前記第3の金属層に含まれる前記タングステンの結晶粒が前記第2の金属層の前記第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である、金属積層構造体。
【請求項2】
前記第1の金属層の厚さおよび前記第3の金属層の厚さがそれぞれ1μm以上200μm以下である、請求項1に記載の金属積層構造体。
【請求項3】
前記金属積層構造体の縦断面における長さ500μmの領域内に存在する1μm以上のボイドの個数が2個以下である、請求項1または2に記載の金属積層構造体。
【請求項4】
前記金属積層構造体は3層以上の奇数層である、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項5】
コバルト、ニッケル、クロムおよび金からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層をさらに備えた、請求項1から4のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項6】
前記金属積層構造体の最表面が銅を含む金属層である、請求項1から5のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項7】
前記金属積層構造体の最表面がニッケルを含む金属層であり、前記ニッケルを含む金属層の内側に銅を含む金属層が設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項8】
タングステンを含む第1の金属層を銅を含む第2の金属層の第1の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、
タングステンを含む第3の金属層を前記第2の金属層の前記第1の表面とは反対側の第2の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、を含む、金属積層構造体の製造方法。
【請求項1】
タングステンを含む第1の金属層と、銅を含む第2の金属層と、タングステンを含む第3の金属層と、を備え、
前記第1の金属層は前記第2の金属層の第1の表面上に設置され、
前記第3の金属層は前記第2の金属層の前記第1の表面とは反対側の第2の表面上に設置されており、
前記第1の金属層に含まれる前記タングステンの結晶粒は前記第2の金属層の前記第1の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶であり、
前記第3の金属層に含まれる前記タングステンの結晶粒が前記第2の金属層の前記第2の表面に対して垂直方向に伸長する柱状結晶である、金属積層構造体。
【請求項2】
前記第1の金属層の厚さおよび前記第3の金属層の厚さがそれぞれ1μm以上200μm以下である、請求項1に記載の金属積層構造体。
【請求項3】
前記金属積層構造体の縦断面における長さ500μmの領域内に存在する1μm以上のボイドの個数が2個以下である、請求項1または2に記載の金属積層構造体。
【請求項4】
前記金属積層構造体は3層以上の奇数層である、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項5】
コバルト、ニッケル、クロムおよび金からなる群から選択された少なくとも1種を含む金属層をさらに備えた、請求項1から4のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項6】
前記金属積層構造体の最表面が銅を含む金属層である、請求項1から5のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項7】
前記金属積層構造体の最表面がニッケルを含む金属層であり、前記ニッケルを含む金属層の内側に銅を含む金属層が設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の金属積層構造体。
【請求項8】
タングステンを含む第1の金属層を銅を含む第2の金属層の第1の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、
タングステンを含む第3の金属層を前記第2の金属層の前記第1の表面とは反対側の第2の表面上に溶融塩浴めっきにより形成する工程と、を含む、金属積層構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−171564(P2011−171564A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34782(P2010−34782)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】
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