説明

金属窒化物のハロゲン化物への転換方法

【課題】 金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する際の転換温度を比較的低い温度とし、転換時間を短縮化でき、腐食性ガスであるハロゲンまたはハロゲン化水素を使用せずに、安全性高く反応を進行させることができる金属窒化物のハロゲン化物への転換方法を提供する。
【解決手段】 金属窒化物を出発原料として金属ハロゲン化物に転換する方法であって、固体の金属窒化物に、100℃〜700℃の温度範囲でガスまたは液体または固体状のCdハロゲン化物を接触させることにより、前記金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換し、一方、Cdハロゲン化物はCd金属として転換後の金属ハロゲン化物と分離し、目的の金属ハロゲン化物を単離することを特徴とする金属窒化物のハロゲン化物への転換方法である。Cdハロゲン化物に代えて他の亜鉛族金属ハロゲン化物を用いることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属窒化物のハロゲン化物への転換方法に関するものである。詳しく述べると、本発明は、(1)金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する、あるいは(2)希土類元素を含む金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する方法に関し、殊に、(3)原子力発電所で発電した後の使用済み窒化物燃料を処理する乾式分離プロセスのハロゲン化工程における、希土類窒化物、U窒化物、超ウラン元素(TRU)窒化物などを含む金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属窒化物をハロゲン化する方法はまだ確立されていない。現在、金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する方法としては、窒化物を高温でハロゲンガスまたは水素化ハロゲンガスと接触させる方法が考えられている。しかし、ハロゲン化工程において使用される機器材料の耐食性が問題となっていた。高温下でハロゲンが共存する条件で、使用に耐える金属材料はほとんどなく、機器材料の大幅な制限、コスト高を招き、また機器材料の耐用期間も極めて短いものであった。
【0003】
また、上記した従来の方法においては、例えば、U、Pu、Np、Am、Cmなどのアクチノイド元素を含む高い放射能を持つ金属窒化物に腐食性のハロゲンガスまたは水素化ハロゲンガスを直接導入することとなるため、安全性の面でも問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明は、金属窒化物のハロゲン化物への新規な転換方法を提供することを課題とする。
【0005】
本発明はまた、(1)金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する、(2)希土類元素を含む金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する、さらに、(3)原子力発電所で発電した後の使用済み窒化物燃料を処理する乾式分離プロセスのハロゲン化工程における、希土類窒化物、U窒化物、TRU窒化物などを含む金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換するために有用な方法を提供することを課題とする。
【0006】
本発明はさらに、金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する際の転換温度を比較的低い温度とすることができる転換方法を提供することを課題とする。
【0007】
本発明はまた、金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する際の転換時間を短縮化できる転換方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明はさらに、放射能の高い金属窒化物と腐食性ガスであるハロゲンガスまたは水素化ハロゲンガスを接触させずに、安全性高く反応を進行させることができる金属窒化物のハロゲン化物へ転換方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決する上で、種々の方法について鋭意検討した結果、金属窒化物を金属ハロゲン化物にする処理剤にCdハロゲン化物を用いると、比較的低温域で、目的の金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換することができること、さらに生成したCd金属と目的の金属ハロゲン化物とは蒸気圧差によって分離することができるとの知見を得、さらにCdハロゲン化物と同様の作用が他の亜鉛族金属ハロゲン化物であるZnハロゲン化物およびHgハロゲン化物に関しても可能であるとの知見を得、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、目的金属の窒化物(a)を出発原料として当該金属のハロゲン化物(b)に転換する方法であって、固体の前記金属窒化物(a)に、少なくとも1種類の亜鉛族金属ハロゲン化物(c)のガスまたは液体または固体を、100℃〜700℃の温度範囲で接触させることにより、前記金属窒化物(a)を金属ハロゲン化物(b)に転換し、一方、亜鉛族金属ハロゲン化物(c)は亜鉛族金属(d)として転換後の金属ハロゲン化物(b)と分離し、目的の金属ハロゲン化物(b)を単離することを特徴とする金属窒化物のハロゲン化物への転換方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施の形態に基づきより詳細に説明する。
【0012】
本発明は、目的金属の窒化物(a)を出発原料として当該金属のハロゲン化物(b)に転換する方法であって、固体の前記金属窒化物(a)に、少なくとも1種類の亜鉛族金属ハロゲン化物(c)のガスまたは液体または固体を、100℃〜700℃の温度範囲を接触させることにより、前記金属窒化物(a)を金属ハロゲン化物(b)に転換し、一方、亜鉛族金属ハロゲン化物(c)は亜鉛族金属(d)として転換後の金属ハロゲン化物(b)と分離し、目的の金属ハロゲン化物(b)を単離することを特徴とするものである。
【0013】
本発明において出発原料となる金属窒化物(a)としては、特に限定されるものではないが、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luといった希土類元素の窒化物、UないしはPu、Np、Am、Cmなどの超ウラン元素(TRU)の窒化物、アルカリ金属窒化物、アルカリ土類窒化物、さらに周期表における4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、Al以降の13族、Si以降の14族元素の窒化物などが含まれる。なお、出発原料の金属窒化物は、各種金属窒化物の混合物であり得る。
【0014】
さらに、出発原料の窒化物としては、具体的には、原子力発電所で発電した後の使用済み窒化物燃料が具体的に例示できる。
【0015】
なお本発明においては、転換をする金属窒化物が、U、Pu、Np、Am、Cmなどのアクチノイド元素を含む高い放射能を有する金属化合物である場合であっても上記したように亜鉛族金属ハロゲン化物と接触させることにより、腐食性のハロゲンガスまたは水素化ハロゲンガスを放射能の高い金属窒化物と接触させること無く金属ハロゲン化物に転換でき、操作における安全性が向上するものである。
【0016】
一方、このような金属窒化物のハロゲン化処理には、亜鉛族金属ハロゲン化物が単独であるいは複数組み含わせて使用され得る。
【0017】
なお、以下においては、亜鉛族金属ハロゲン化物(c)としてCd塩化物を中心として説明する。
【0018】
塩化処理において、上記したような金属窒化物(a)にCd塩化物を接触させて金属塩化物(b)へと転換させる際の反応温度条件としては、100℃〜700℃、より好ましくは300℃〜500℃である。反応温度が700℃を越えるものであると、この反応系に使用し得る機器材料の種類が大きく制限されると共に、機器の寿命が短いものとなり、一方、反応温度が100℃未満では、塩化反応が十分に進行しないおそれが高いためである。また、金属窒化物(a)を金属塩化物(b)に転換する温度を500℃以下にすることができれば、転換工程の機器材料に、金属材料、例えば、NiおよびNiの合金の使用が可能になる。
【0019】
CdClの沸点は960℃、融点は568℃前後であり、目的の金属窒化物(a)を金属塩化物(b)に転換する状況では、CdClはガスまたは液体または固体であり得る。
【0020】
このような金属窒化物とCd塩化物との接触反応操作は、連続式であってもあるいはバッチ式であってもよく、さらに金属窒化物に対しCd塩化物のガスまたは液体または固体を直接接触させる方法が採択し得る。
【0021】
転換反応操作中または終了後に、生成した金属塩化物とCd金属とを分離する必要があるが、金属塩化物とCd金属との間には、十分な蒸気圧差があるために、この蒸気圧差を利用して容易に両者を分離できる。
【0022】
分離操作は具体的には例えば、反応混合物に、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスをパージガスとして、または真空ポンプによって排気しながら、例えば300〜500℃で加熱することによってCd金属を揮発させ、系外へ取り出すことにより行われる。
【0023】
なお、上記したように、Cd金属と金属塩化物とが蒸気圧差を用いて分離できるために、このCd金属は、金属窒化物が高い放射能を有するものであっても、放射能による汚染を少なく抑えることができる。
【0024】
以上、本発明をCd塩化物を使用する場合につき説明したが、その他の亜鉛族金属ハロゲン化物に関しても、上記に詳述したようなCd塩化物と同じ反応をし、亜鉛族金属を形成することから、Cd塩化物に代えて他の亜鉛族金属ハロゲン化物を用いて、金属窒化物のハロゲン化物への転換反応を行うことが可能である。なお、Cd塩化物に代えて他の亜鉛族金属ハロゲン化物を用いた場合の反応操作方法等は、上記Cd塩化物を用いる場合とほぼ同様であるため説明は省略する。なお、他の亜鉛族金属ハロゲン化物を用いた場合、上記Cd塩化物を用いた場合とは、亜鉛族金属ハロゲン化物および亜鉛族金属の融点や蒸気圧などが若干相違するために、その最適条件は適宜変更されるべきである。
【0025】
次に、本発明に係る金属窒化物のハロゲン化物への転換方法のいくつかの代表的な実施形態を図面に基づき説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら制限されるものではない。
【0026】
図1は、本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換プロセスの代表的実施形態を説明するフロー図である。図1に示すように、まず、(1)のハロゲン化物転換工程において、原料となる金属窒化物(3)に、亜鉛族金属ハロゲン化物(4)を混合導入し、100℃〜700℃の温度で金属窒化物を金属ハロゲン化物に転換する。つぎに揮発分離工程(2)で反応生成物としてできた亜鉛族金属(6)及び窒素ガス(7)を金属ハロゲン化物(5)と分離し、金属ハロゲン化物は固体として回収する。
【0027】
図2は、本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換方法のさらに具体的な実施形態の一つを模式的に説明するフロー図である。この実施形態においては、金属窒化物は、亜鉛族金属ハロゲン化物の液体または固体と直接反応させられる。まず、反応容器(11)の中に金属窒化物(3)と亜鉛族金属ハロゲン化物(4)を混合導入する。つぎに、反応容器(11)に蓋(12)をして密閉系とし、100℃〜700℃の温度に加温して反応させ、金属ハロゲン化物(5)と亜鉛族金属(6)および窒素ガス(7)を得る。この反応後にアルゴンガス等の不活性ガスをパージガスとして、または真空ポンプによって排気しながら亜鉛族金属(6)を揮発させ回収するとともに窒素ガス(7)を排出する。残った金属ハロゲン化物(5)を回収して製品とする。
【0028】
図3は、本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換方法のさらに具体的な実施形態の一つを模式的に説明するフロー図である。この実施形態においては、金属窒化物は、亜鉛族金属ハロゲン化物の液体または固体と直接反応させられる。まず、反応容器(11)の中に金属窒化物(3)と亜鉛族金属ハロゲン化物(4)を混合導入する。つぎに反応容器(11)に蓋(12)をして密閉系とし、アルゴンガス等の不活性ガスをパージガスとして、または真空ポンプによって排気しながら100℃〜700℃の温度に加温して反応させ、金属ハロゲン化物(5)を得ると同時に亜鉛族金属(6)を揮発させ回収するとともに窒素ガス(7)を排出する。残った金属ハロゲン化物(5)を回収して製品とする。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0030】
以下に示す、実施例1〜2の金属塩化物への転換実験では、希土類元素のNd窒化物及びAm窒化物を用いた。
【0031】
CdCl(純度99.9%)は、アンダーソン フィジカル ラボラトリー(Anderson Physical Laboratory)製の試薬を用い、Nd窒化物はNd金属と窒素ガスの反応、Am窒化物は酸化アメリシウムの炭素熱還元によって調製した。
【0032】
(実施例1)
この実施例においては、図3に示すように、固体または液体のCd塩化物と直接反応させる方法のバッチ方式のプロセスにおいて、Nd窒化物を塩化物に転換した。
【0033】
0.06g〜0.21gのCdCl粉末と0.03〜0.10gのNdN粉末を混合して、外径15mmのパイレックス(登録商標)ガラスの片封じ管に入れて、真空ポンプによる減圧下で400℃に加熱し10時間保持した。反応物を粉末X線回折で分析したところ、NdClが確認された。
【0034】
(実施例2)
この実施例においても、図3に示すように、固体または液体のCd塩化物と直接反応させる方法のパッチ方式のプロセスにおいて、AmNを塩化物に転換した。
【0035】
0.2gのCdCl粉末と0.2gのAmN粉末を混合して、内径4.15mmのダイスとプレス機によってペレット状に加圧成型した。そのペレット状試料を真空ポンプによる減圧下で400℃に加熱し3時間保持した。反応物を粉末X線回折で分析したところ、AmClが確認された。
[発明の効果]
【0036】
以上述べたように本発明によれば、(1)乾式分離プロセスのハロゲン化工程での金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換の効率を向上させる、(2)反応時間の短縮、反応温度の低下をすることができる、(3)ハロゲンまたはハロゲン化水素ガスと高い放射能を持つ金属窒化物との接触を避けることができる、(4)ハロゲン化物転換温度を低下させることにより、工程機器の材料の寿命を延ばすことができる、(5)転換工程機器材料にNi金属またはNi合金など金属材料を用いることができ、材料の信頼性が増す、といった効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換プロセスの代表的実施形態を説明するフロー図である。
【図2】本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換方法のさらに具体的な一実施形態を模式的に説明するフロー図である。
【図3】本発明に係る金属窒化物の金属ハロゲン化物への転換方法のさらに具体的な一実施形態を模式的に説明するフロー図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ハロゲン化物転換工程
2 揮発分離工程
3 原料の金属窒化物
4 転換剤の亜鉛族金属ハロゲン化物
5 製品の金属ハロゲン化物
6 副生成物の亜鉛族金属
7 副生成物の窒素ガス
11 反応容器
12 反応容器蓋
13 ガス導入管
14 ガス排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的金属の窒化物(a)を出発原料として当該金属のハロゲン化物(b)に転換する方法であって、固体の前記金属窒化物(a)に、少なくとも1種類の亜鉛族金属ハロゲン化物(c)のガスまたは液体または固体を、100℃〜700℃の温度範囲で接触させることにより、前記金属窒化物(a)を金属ハロゲン化物(b)に転換し、一方、亜鉛族金属ハロゲン化物(c)は亜鉛族金属(d)として転換後の金属ハロゲン化物(b)と分離し、目的の金層ハロゲン化物(b)を単離することを特徴とする金属窒化物のハロゲン化物への転換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−70199(P2007−70199A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261896(P2005−261896)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本原子力学会発行、2005年(第43回)春の年会 要旨集、2005年3月11日発行
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】