説明

金属箔を固定した板状樹脂粉末及び化粧料

【課題】金箔など、化粧品に使用されるような薄い市販の金属箔は物理的強度が低く、粉体や高粘度溶液中で機械的に分散されると微粒子化し、その存在が認識できなくなる問題があった。
【解決手段】金属箔表面に樹脂を、1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる、金属箔を固定した板状樹脂粉末及び配合化粧料で解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる、金属箔を固定した板状樹脂粉末及び配合化粧料に関する。
さらに詳しくは、化粧料や塗料などに配合した際に、その形状をある程度維持させることを目的に特定の厚さの樹脂層を金属箔表面に形成させて物理強度を高くすることで、化粧料などの製剤に配合可能であり、感触に優れ、かつ光輝性に優れることを特徴とした、金属箔を固定した板状樹脂粉末、及び意匠性に優れた化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、本発明の技術的背景について説明する。
従来、金属箔の表面に樹脂層を形成させる試みは、特許文献1にあるように、銀箔を着色させる目的で多く行われてきた。これは銀箔が安価で、かつ光輝性が高いことから、色素や顔料などを含む樹脂層で被覆することにより、より意匠性の高い箔やその粉砕粉末が得られるためである。但し、あくまで着色を目的にしたものであるため、樹脂層の厚さが極めて薄く、金属箔に物理強度を与えるようなものではなかった。同様に金属箔に薄い樹脂層を設ける技術である表面処理に関して、アルミニウムフレークを中心に検討されている。特許文献2にはアクリル樹脂で被覆したアルミニウムフレークに関する技術が、特許文献3、4にはヘテロポリ酸アミン塩やアミノ化合物によりアルミニウムフレークを処理する技術が、特許文献5〜7にはジルコニウム、クロム、イットリウム、錫水和酸化物など無機材料でアルミニウムフレークを処理する技術が記載されている。これらの処理により、耐食性や熱伝導性、絶縁性の向上などが行えることが知られている。表面処理の仕方には種々あり、例えば特許文献8には真空中で気相状態で薄膜を形成させる技術が、特許文献9にはゾルゲル法を用いて薄片状金属基質表面を被覆する技術が記載されている。これらの表面処理方法では、金属箔表面に薄い被覆層を形成させることが可能であるが、そのままの方法で厚い被覆層を形成させる場合、対流や凝集などの影響で膜厚が均一にならない、生産性が低い、外観や感触に重篤な問題がでるなどの問題が起こるため、表面処理の技術があっても、厚い被覆層を形成する技術とは別のものと考えるべきである。
【0003】
金属箔の製造法についても種々の方法が検討されており、金箔のように古くから箔打ちで製造されているもの(非特許文献1)、特許文献10、11のように蒸着箔を剥離して得られるもの、特許文献12のように無電解メッキ皮膜を剥離して得られるものなどがあり、特許文献13,14に見られるように、その厚さが数十nm〜数百nmの範囲にあるものが市販品には多い。箔の平滑性を見ると、蒸着、メッキは共に片面は平滑であるが、片面は表面に微細な凹凸をもった構造をしている。箔打ちで製造されたものは細かい穴が開いているが、平滑性は最も高い。そのため、箔打ちで製造されたものが最も光沢が美しく、意匠性に富む。
【0004】
金属箔の中で一番強度的に弱い金箔を化粧料に配合する試みについては、特許文献15〜16に見られるように、高粘度のジェル状溶液中に弱い分散力で金箔を分散させた例が製品化されている。製品の外観上は金箔が見えているが、手でこすると金箔は超微粒子化し、見えなくなってしまう。このように金属箔を使用する場合は、物理強度の問題があり、例えば、化粧料製造時に金属箔に力がかかってしまう粉体化粧料などに金属箔を配合しても、すぐに目視では判らない大きさに砕けてしまい、光輝性は全く感じられないものになる。そのため、特許文献17にあるように、薄片状ガラスに貴金属をめっき処理したものや、樹脂フィルム蒸着箔を粉砕したものが用いられてきたが、肌への付着性に欠ける、感触の問題などがあった。
【0005】
また、非特許文献2にあるように、金粉や金地金を粉砕して顔料としたものが古代から存在している。伝統芸能の蒔絵などはこの技法により製造された金粉を使用している。いずれも金の粉末であるが、金箔と比較すると光沢が弱くなったり、色がくすんで見える。これは形状が不定形で、光の反射面が平滑にならないためである。高濃度に金を含んだ塗工液を用いると、落ち着いた金色の塗装が得られるが、光輝性は弱い。
【0006】
【特許文献1】特開2007−181925号公報
【特許文献2】特開2004−307409号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2008/059839号公報
【特許文献4】特開平9−124973号公報
【特許文献5】特開平6−116509号公報
【特許文献6】米国特許第5322560号公報
【特許文献7】特開2006−199920号公報
【特許文献8】米国公開特許2006/0117988号公報
【特許文献9】特開2003−41150号公報
【特許文献10】特開2007−169451号公報
【特許文献11】特開2007−46034号公報
【特許文献12】特開2006−328270号公報
【特許文献13】特開2009−57308号公報
【特許文献14】特開2007−46034号公報
【特許文献15】実開昭62−175038号公報
【特許文献16】特開2004−115428号公報
【特許文献17】特開2002−138010号公報
【非特許文献1】http://www.hakuza.co.jp/discovery/distance.html(2011年5月17日検索)
【非特許文献2】https://secsvr.com/goldsilver.co.jp/asano/makiefundoc.htm(2011年5月17日検索)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属箔を粉体化粧料や塗料などに配合すると、製品製造時に他の配合成分との混合の過程で、金属箔が砕けてしまい、金属箔の特徴である光輝性が失われてしまう問題があった。そこで砕けないように加工された金属蒸着樹脂片や金属メッキ処理薄片状ガラスは、製造後も光輝性を失わない特性を有していたが、反面、肌への付着力が弱い、感触が悪い、比重が重く均一に混合が難しいなどの問題があった。これは、貴金属自体の問題ではなく、その処理された基材の厚さが硬く厚いことが原因であると思われる。一方、従来の表面処理金属箔のように、金属箔表面に樹脂が被覆されているものは、感触などの問題はないものの、上述したような混合の過程で金属箔が砕けてしまい、その存在が判らなくなる問題があった。このことから、表面処理と、金属蒸着樹脂片の中間程度の樹脂の厚みを持ち、弱い混合力になら耐えられる程度の強度を持たせた材料であれば、配合製品の製造方法の工夫により、光輝性などの意匠性を失わずに、感触や付着性などの問題を解決できる可能性が見いだされた。しかしながら、この厚さで金属箔を処理する技術は意外に大変で、処理時に金属箔が破れないようにする技術、厚さを均一に処理する技術が必要となるため、これを解決することも必要であった。特に樹脂溶液に金属箔を浸漬させたような場合では、樹脂溶液中の揮発性溶媒が揮発する際に、塗膜表面に凹凸ができるため、均一な膜厚にならず、膜厚が厚い部分由来の粉末の感触が悪くなったり、光学特性が悪くなるなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明人は鋭意検討した結果、金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる、金属箔を固定した板状樹脂粉末が、上記の問題を解決するのに好適な条件であることを見いだした。また、得られた金属箔を固定した板状樹脂粉末は光輝性などの外観上の優れた特性以外にも、難燃性、耐変色性に優れるなど、優れた機能を有していることを見いだした。そして、本金属箔を固定した板状樹脂粉末を配合した化粧料は光輝性、安全性、感触に優れていた。
【0009】
すなわち、本発明は、金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる、金属箔を固定した板状樹脂粉末にある。
【0010】
第2の本発明は、金属箔が金、銀、白金、アルミニウムおよびその合金からなることを特徴とする上記の金属箔を固定した板状樹脂粉末にある。
【0011】
第3の本発明は、金属箔が箔打ちによって製造されたものであることを特徴とする上記の金属箔を固定した板状樹脂粉末にある。
【0012】
第4の本発明は、樹脂の処理時に、金属箔が静電気的に平滑な材料の上に固定されていることを特徴とする上記の金属箔を固定した板状樹脂粉末にある。
【0013】
第5の本発明は、樹脂の塗工をヒトの指を使って塗工していることを特徴とする上記の金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【0014】
第6の本発明は、上記の金属箔を固定した板状樹脂粉末を配合することを特徴とする化粧料にある。
【発明の効果】
【0015】
以上説明するように、本発明は、金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕することで、物理的な強度を持ちながら、感触、光輝性に優れ、難燃性、耐変色性などの優れた機能も併せ持った金属箔を固定した板状樹脂粉末、及び光輝性、安全性、感触に優れた化粧料が得られることが判る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、上記本発明を詳細に説明する。
本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる。本発明で言う金属箔としては、金、銀、白金、アルミニウム、銅、亜鉛、錫およびその合金が挙げられ、特に安全性に優れた金、銀、白金、アルミニウムおよびその合金からなることが好ましくい。化粧品に用いる場合も、後者の組み合わせから選ばれることが好ましい。金属箔とは、金属を薄いフィルム状に引き延ばしたものであり、古代からの技法である箔打ち(非特許文献1などに記載の方法)で得られるものが品質的には最も美しいものが得られる。価格的な面からすると、金沢箔の立切を用いることが好ましい。金沢箔の色と合金組成との関係はhttp://www.hakuza.co.jp/discovery/kind.html(2011年5月17日検索)などの資料を参考にできる。また、蒸着によって得られる箔も使用可能である。箔の厚みは、箔打ちで作成された金箔、銀箔、白金箔、アルミニウム箔の場合で、0.1〜0.5μmの範囲にあるものが入手が容易である。この10倍の厚さのものも市販されており、金属箔を固定した板状樹脂粉末の作成も可能であるが、貴金属の場合、コストが高くなる問題がある。アルミニウム箔で食品包装用途で5μm以上の厚さのものが市販されているが、化粧料に用いる場合には感触が硬く適さない。感触面から言えば、サブミクロンの膜厚を持つ金属箔が好適である。
【0017】
本発明で用いる樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、メラミン樹脂など公知の樹脂が使用可能であるが、作業性、安全性などを考慮すると、ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂が最も好ましい。これらの樹脂は単独で用いても、混合して用いても構わないが、硬化または乾燥後に外観が透明である必要がある。不透明であると、金属箔の光輝性が失われる問題がある。これらの樹脂は溶剤に溶解して粘度を調整したものであっても、触媒を加えて硬化させるものであっても構わない。本発明では、金属箔表面に上記の樹脂を、1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が0.8〜10.0mgの範囲になるように処理し、より好ましくは1〜6mgの範囲で処理する。この場合の樹脂の量は溶媒、揮発性成分の量を含まない。合計質量が0.8mg/cm未満になると、得られた金属箔を固定した板状樹脂粉末の強度が低く、10.0mg/cmを超えると膜厚が厚くなりすぎて、硬い感触になったり、金属箔を持たない樹脂単独の粉末の混入割合が増えてくる問題があるため、好ましくない。一般的な金箔の場合で1cmあたりの質量は0.2mg程度であるので、金箔の場合は、数倍から数十倍の質量の樹脂が金箔に処理されていることになる。1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量の求め方は、樹脂が均一な厚さで処理されている場合は、金属箔の大きさ(例えば10.9cm×10.9cm)を樹脂で処理したものを4枚程度作成し、その質量を測定して、処理した面積で割返して求めることが好ましい。また、溶剤を用いる場合では、作業者の吸入の問題があるため、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを用いることが好ましい。
【0018】
金属箔に樹脂を処理する方法としては、金属箔を基板に固定し、そこに樹脂を塗工する方法が挙げられる。塗工にあたり、金属箔を平滑な基板の上に固定する必要がある。金属箔の固定方法としては、金属箔をシリコーン離型紙やパラフィン紙など帯電しやすい材料の上に静電気的に固定する方法、粘着剤を塗工してある材料の上に固定する方法など挙げられるが、前者の方法の方が、得られる粉末の光輝性がより優れたものになることと、後者では金属箔を剥離する際に、粘着剤が不純物として混入してくる可能性があるため、前者の方がより好ましい。
【0019】
樹脂を塗工する方法としては、金属箔を固定した基板を用意した後、次に、アプリケーターを用いて樹脂溶液を一定の厚みで塗工する方法、一定量の塗工液を一定面積の金属箔上に置いた後、指サックをした指で塗り延ばす方法が挙げられる。ここで言うアプリケーターとしてはドクターブレード、ベーカー型アプリケーターなどが挙げられるが、ドクターブレードで低速で塗工すると平滑な塗膜が得られることから好ましい。箔打ち法で製造された金属箔を用いる場合では、金属箔の面積が小さいことから、意外にも工業的には指で塗り延ばす方法が最も効率が良かった。これはアプリケーターを用いると、金属箔以外の部分に残った塗工液を拭き取る必要があるのに対し、指では適確に金属箔の上だけに塗工液を塗工できるためである。
【0020】
本発明では、塗工後に、場合により加熱処理や乾燥工程を入れても構わない。加熱する場合の条件としては、例えば40〜250℃の範囲で加熱することが好ましい。特にシリコーン樹脂の一種であるトリメチルシロキシケイ酸とアクリルシリコーンを組み合わせて用いた場合では、200〜250℃の範囲で10分間以上の加熱処理をすることが好ましい。また、加熱時にガスが発生する場合は、良く換気を行うことも必要である。この方法により得られる樹脂被覆処理金属箔は、樹脂の量が片面に大きく偏っている。箔打ちした金属箔は箔表面に細かい孔を多数有しているため、裏面にも樹脂は浸透するものの、主に片面に多く存在する形状となっている。このため、粉末にした際に光輝性が高いまま維持されるという特徴も有している。
【0021】
本発明では、こうして得られた樹脂被覆処理金属箔を粉砕して、金属箔を固定した板状樹脂粉末を得る。樹脂被覆処理金属箔は指で砕ける程度の強度であるので、粉砕力が強いと粒子径が小さくなりすぎる問題があり、回転刃を持つミキサー、凍結粉砕機を用いて粉砕することが好ましい。光輝性を残すような条件で粉砕された粉末は、比較的広い粒度分布を有するため、粉砕後に分級することが好ましい。分級の方法としては、目開きの異なるメッシュを縦に積み、振動を与えることが好ましい。本発明で言う板状の樹脂粉末の確認方法は、光学顕微鏡または電子顕微鏡でその形状を確認することにより成される。
【0022】
本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、さらに各種の撥水化または親水化表面処理剤を行っても構わない。表面処理としては、例えば酸化鉄、酸化チタンなどの無機酸化物による親水化表面処理、フッ素化合物処理、シリコーン樹脂処理、シリコーン処理、ペンダント処理、シランカップリング剤処理、チタンカップリング剤処理、油剤処理、ポリアクリル酸処理、金属石鹸処理、アミノ酸処理など各種の表面処理が可能である。
【0023】
また、化粧料用途の場合、滅菌の問題があり、加熱滅菌処理したもの、低級アルコール分散体での供給、防腐剤を含む樹脂を塗工する方法、のいずれかが実施されていることが好ましい。シリコーン系樹脂を用いた場合では、パラベンなどの化粧料に一般的に用いられる防腐剤を併用することが好ましい。
【0024】
本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は意匠性が高いことから、インク、樹脂、塗料、絵画用顔料などの用途にも有効である。特に絵画用顔料としては、従来金粉末が用いられてきたが、金粉末は上述のように光輝性が悪い問題があり、本発明の樹脂被覆処理金箔粉末は従来にない光輝性を有することから、新しい顔料として有用である。
【0025】
本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、意匠性以外にも優れた特性を有する。例えば、アルミニウムフレークは高い光輝性と優れた隠蔽力、紫外線防御効果を有していることから、従来化粧品業界ではアルミニウムフレークを使用する試みが何回かされてきたが、安全性面、におい、着色の問題で、表面処理に使用できる素材が限定されていたこと、処理時に引火、爆発の危険が伴うことから、中々利用が進んでいなかった。近年、アクリル被覆アルミニウムフレークが上市され、少し使い勝手が改善されたものの、アクリル樹脂は化学的反応性に乏しく、アクリル被覆アルミニウムフレークをさらに表面処理することが難しい問題があった。これに対して、本発明の樹脂被覆処理アルミニウム粉末は裸火を近づけても引火せず、着火させてもすぐに自己消火する特性を持つ。さらに、この粉末は既存のアルミフレークと異なり、後処理で安全に各種の表面処理が可能である。
【0026】
また、銀は光輝性に優れていることから、特許文献17にあるように、薄片状ガラスに銀を無電解めっき処理した素材が化粧品などで使用されている。しかしながら、銀は空気中の硫黄化合物と反応して黒く着色することが知られており、特許文献17の銀メッキ薄片状ガラスは1〜2ケ月で変色してしまうケースも知られている。これに対して、本発明の樹脂被覆処理銀箔粉末は、すぐには着色せず、相対的に安定性が高い。この差は銀メッキ中の銀が結晶性であり、アモルファスである銀箔と比べて硫黄化合物との反応性に富むこと、銀メッキは表面に微細な凹凸構造を有しており、硫黄化合物がとりつきやすいのに対し、箔打ちされた銀箔は平滑で、硫黄化合物がとりつきにくいことが原因であると考えられる。
【0027】
本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、化粧料、特にメイクアップ化粧料に対して、0.001〜25質量%配合されることが好ましい。金属粉末は全て紫外線防御効果を有することから、1質量%を超えて配合した場合は、紫外線防御材料としても有効である。本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末を化粧料に配合する場合では、金属箔を固定した板状樹脂粉末以外の成分として、通常化粧料で使用される各種の素材、例えば粉体、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、油剤、界面活性剤、フッ素化合物、樹脂、粘剤、防腐剤、香料、保湿剤、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤、昆虫忌避剤、生理活性成分等の成分を使用することができる。この内、粉体としては、植物性顔料およびその表面処理品と組み合わせて用いることが好ましい。これは、本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、機械的強度が表面処理品と比べて向上しているとは言え、酸化チタンなどの顔料と比べると明らかに硬度が低いため、化粧料の製造条件によってはその性能が低下する場合がある。これに対して硬度が低い植物性顔料と組み合わせると金属箔を固定した板状樹脂粉末の性能がより高く発揮できるメリットがある。植物性顔料としては、カポック綿、綿、麻、竹、米、ミツマタ、葦、亜麻、セルロースなどの粉末が挙げられる。
【0028】
本発明の化粧料としては、ファンデーション、口紅、アイシャドウ、マスカラ、頬紅、白粉、ネイルカラー、フェースパウダー、コンシーラーなどのメイクアップ化粧料以外にも、クリーム、乳液、クレンジング料、洗顔料、サンスクリーン剤、パックなどの基礎化粧料、染毛料、コンディショナーなどの頭髪化粧料、石鹸、ボディソープ、ボディパウダーなどの全身化粧料においても有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に実施例を挙げ本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例及び比較例で用いた金属箔は箔座株式会社から立切グレードを購入して用いた。
【実施例】
【実施例1】
【0030】
シリコーン処理グラシン紙の表面に、箔打ちによって製造された純金箔(立切)を、あかうつし紙(ろう曳き紙)を用いて転写した。次いで、純金箔を固定したシリコーン処理グラシン紙を平滑なステンレス板の上に設置し、ギャップ幅を3minch(76.2μm)に設定したベーカー式アプリケーターを用いて、触媒を入れた不飽和ポリエステルを塗工し、ついで純金箔周囲の余分なポリエステルを拭き取りにより除去した。シリコーン処理グラシン紙ごとホットプレートに乗せ、150℃で5分間加熱処理を行った。ついで純金箔処理板状ポリエステルをヘラを用いてシリコーン処理グラシン紙から剥離した。純金箔4枚から得られた単位面積あたりの塗膜質量は3.5mg/cmであった。得られた金箔を回転刃を持つミキサーを用いて10秒間粉砕し、メッシュで分級して製品を得た。分級前の粉末を光学顕微鏡を用いて観察した例を図1に示す。また、綿棒に粉末を付着させ、光学顕微鏡にて粉末の断面を観察した例を図2に示す。図2から断面は平滑な板状になっていることが判る。また、純金箔は板状ポリエステルの中心ではなく、片面に固定されていることが判る。尚、図1は写真の幅が800μm、図2は写真の横幅が400μmである。
【実施例2】
【0031】
シリコーン処理グラシン紙の表面に、箔打ちによって製造された純金箔(立切)を、あかうつし紙を用いて転写した。次いで、純金箔を固定したシリコーン処理グラシン紙を平滑なステンレス板の上に設置し、ギャップ幅6minch(152μm)のベーカー型アプリケーターを用いて、アクリルシリコーンとトリメチルシロキシケイ酸の質量比率で8:2の混合液を塗工し、ついで純金箔周囲の余分な樹脂を拭き取りにより除去した。シリコーン処理グラシン紙ごとホットプレートに乗せ、200℃で10分間加熱処理を行った。ついで純金箔処理板状樹脂をヘラを用いてシリコーン処理グラシン紙から剥離した。単位面積あたりの塗膜質量は9.8mg/cmであった。得られた樹脂処理純金箔を回転刃を持つミキサーを用いて10秒間粉砕し、メッシュで分級して製品を得た。
【実施例3】
【0032】
実施例1の純金箔の代わりに純銀箔を用いた以外は実施例1と同様にして純銀箔処理板状ポリエステル粉末を得た。尚、単位面積あたりの塗膜質量は3.8mg/cmであった。
【実施例4】
【0033】
実施例1の純金箔の代わりに白金箔を用いた以外は実施例1と同様にして白金箔処理板状ポリエステル粉末を得た。尚、単位面積あたりの塗膜質量は4.0mg/cmであった。
【実施例5】
【0034】
実施例1の純金箔の代わりにアルミニウム箔を用いた以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔処理板状ポリエステル粉末を得た。尚、単位面積あたりの塗膜質量は3.9mg/cmであった。
【実施例6】
【0035】
シリコーン処理グラシン紙の表面に、金箔三歩色(金75.534%、銀24.466%の合金)をあかうつし紙を用いて転写した。次いで、ギャップ幅を0.5minch(12.7μm)に設定したベーカー式アプリケーターを用いて、触媒を入れた不飽和ポリエステルを塗工し、ついで金箔周囲の余分な樹脂を拭き取りにより除去した。シリコーン処理グラシン紙ごとホットプレートに乗せ、150℃で5分間加熱処理を行った。ついで金箔処理板状ポリエステルをヘラを用いてシリコーン処理グラシン紙から剥離した。単位面積あたりの塗膜質量は0.92mg/cmであった。得られた金箔を回転刃を持つミキサーを用いて10秒間粉砕し、メッシュで分級して製品を得た。
【実施例7】
【0036】
実施例5のアルミニウム箔処理板状ポリエステル粉末100質量部と、表面処理剤であるオクチルトリエトキシシランを3質量部とジメチルポリシロキサンを0.3質量部、溶媒としてn−ヘキサン120質量部を混合した後、溶媒を加熱留去した。得られた粉末を120℃で3時間加熱して表面処理されたアルミニウム箔処理板状ポリエステル粉末を得た。
【実施例8】
【0037】
パラフィン紙を箔打ちによって製造された純金箔(立切)の上に乗せて、純金箔をパラフィン紙の上に直接転写した。次いで、純金箔を固定したパラフィン紙の上に、トリメチルシロキシケイ酸25質量%、アクリルシリコーン25質量%、イソプロピルアルコール49.9質量%、メチルパラベン0.1質量%からなる透明な溶解液を、10.9cm角の純金箔1枚あたり0.5gの割合で水玉状に載せ、すぐに指サックをした指でなるべく均一になるように純金箔上に塗り拡げた。ついで、送風式乾燥機を用いて、205℃にて10分間加熱乾燥した後、純金箔処理板状樹脂をジルコンヘラを用いてパラフィン紙から剥離した。得られた樹脂処理純金箔を回転刃を持つミキサーを用いて5秒間粉砕し、メッシュで分級して製品を得た。図3および図4にこの製品の走査型電子顕微鏡写真の例を示す。指で塗工してはいるものの、その形状は極めて平滑であることが判る。また、片面に純金箔が固定されている。
【0038】
〔比較例1〕
未処理純金箔(金純度99.99%)を、回転刃を持つミキサーを用いて10秒間粉砕した試料を以て比較例とした。
【0039】
〔比較例2〕
実施例6の樹脂にアセトンを加えて希釈した不飽和ポリエステルを用いた他は全て実施例6と同様にして、単位面積あたりの塗膜質量が0.72mg/cmのポリエステル処理金箔を得、粉砕分級して製品を得た。
【0040】
〔比較例3〕
実施例6のアプリケーターのギャップ幅を9minch(228.6μm)に設定した他は全て実施例6と同様にして、単位面積あたりの塗膜質量が10.5mg/cmの金箔処理板状ポリエステルを得、粉砕分級して製品を得た。
【0041】
〔比較例4〕
シリコーン処理グラシン紙の表面に、箔打ちによって製造された純金箔(立切)を、あかうつし紙を用いて転写した。不飽和ポリエステルは150℃5分の加熱条件では11.5質量%減量するので、実施例1の単位面積あたりの塗膜質量から、3.5×100/88.5=4.0mg/cmの単位面積あたりの塗工量を設定し、純金箔の面積が10.9cm×10.9cm=118.8cmであるので、4.0×118.8=475.2mgの触媒を加えた不飽和ポリエステルに、6倍量のアセトンを加え、純金箔表面に乗せて40℃で乾燥させた後、150℃で5分間加熱した。乾燥後粉砕、分級して製品を得た。
【0042】
〔比較例5〕
実施例8のパラフィン紙の代わりに調理用の撥油天紙を用いた他は全て実施例8と同様にした。撥油天紙は純金箔を静電気的に移し取ることは可能であったものの、純金箔と撥油天紙の間の密着力が不足しており、樹脂溶液塗工時に純金箔がちぎれてしまい塗工が完結できなかった。
【0043】
〔比較例6〕
実施例8のパラフィン紙の代わりに白模造紙製の薬包紙を用いた他は全て実施例8と同様にした。白模造紙は純金箔を静電気的にうまく移し取れなかったため、塗工ができなかった。
【0044】
実施例及び比較例の外観及び感触の評価結果を表1に示す。試料としては粒子径が0.1〜1.0mmの範囲に分布しているものを用いた。尚、光輝性は手に塗布した際の光輝性から判断し、光輝性に優れる場合を5点、光輝性がない場合を0点として評価した。肌への付着性は、付着性に優れる場合を5点、付着性がない場合を0点として評価した。耐久性は、肌の上で試料を指でこすった際に、試料の光輝性が変わらない場合を5点、光輝性が失われる場合を0点として評価した。また、板状の形状は光学顕微鏡による観察結果を用いた。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末は、光輝性と肌への付着性及び耐久性に優れていることが判る。これに対して比較例1は未処理の金属箔である純金箔の粉砕物であるが、光輝性は高いものの、肌にやや付着しにくい成分があり、耐久性も無かった。比較例2は単位面積あたりの塗膜質量が0.72mg/cmと、本発明の規定する単位面積あたりの塗膜質量の範囲の下限よりも小さい場合の例であるが、光輝性や肌への付着性には優れているものの、耐久性には劣っていた。比較例3は単位面積あたりの塗膜質量が10.5mg/cmと、本発明の規定する単位面積あたりの塗膜質量の範囲の上限よりも大きい場合の例であるが、全体がやや白くなっていて光輝性に劣り、肌への付着性も悪かった。比較例4は特許文献1にならい、樹脂の有機溶媒溶液を用いて金箔を処理した例であるが、処理はできるものの、その膜厚は金箔の部位によって大きく異なっていた。光輝性、付着性共に劣っていることが判る。
【0047】
実施例及び比較例を配合した化粧料
〔実施例9〜16〕
表2に示す処方と製造方法に基づいてフェースパウダーを作成した。尚、表中の単位は質量%である。尚、表中で用いた金属箔を固定した板状樹脂粉末は粒子径が0.1〜1.0mmの範囲に分布しているものを用いた。
【0048】
【表2】

【0049】
製造方法
成分Aをミキサーを用いて良く混合した。成分Bを加えて軽く混合した後、容器に重点して製品とした。
【0050】
〔比較例7〕
実施例10で用いた実施例2の金属箔を固定した板状樹脂粉末の代わりに比較例1の、未処理純金箔粉砕物を用いた他は全て実施例10と同様にして製品を得た。
【0051】
〔比較例8〕
実施例10で用いた実施例2の金属箔を固定した板状樹脂粉末の代わりに比較例2の、単位面積あたりの塗膜質量が0.72mg/cmのポリエステル処理金箔の粉砕粉末を用いた他は全て実施例10と同様にして製品を得た。
【0052】
〔比較例9〕
実施例10で用いた実施例2の金属箔を固定した板状樹脂粉末の代わりに比較例3の、単位面積あたりの塗膜質量が10.5mg/cmの金箔処理板状ポリエステルの粉砕粉末を用いた他は全て実施例10と同様にして製品を得た。
【0053】
〔比較例10〕
実施例10で用いた実施例2の金属箔を固定した板状樹脂粉末の代わりに比較例4の、溶剤法処理ポリエステル処理金箔の粉砕粉末を用いた他は全て実施例10と同様にして製品を得た。
【0054】
化粧料の実施例及び比較例の評価結果を表3に示す。尚、評価はパネラー10名に、各評価項目について、性能が優れている場合を5点、性能が悪い場合を0点として、点数をつけてもらい、その平均点を以てスコアとした。従って、スコアが高い方が性能が良いことを示す。評価は化粧料がきれいに見えるか、高級感があるかについて実施した。
【0055】
【表3】

【0056】
表3の結果から、本発明の金属箔を固定した板状樹脂粉末配合化粧料は、比較例の化粧料と比べてきれいに見え、パネラーが高級感を感じていることが判る。比較例7は未処理純金箔粉砕物を用いた例であるが、金箔が化粧料製造時に砕けてしまい、金配合の外観にならかった。比較例8は本発明の規定する単位面積あたりの塗膜質量の範囲の下限よりも小さな膜厚を持つ樹脂処理金属箔を配合した場合の例であるが、比較例7程ではないが、貴金属の実感が得られにくいものであった。比較例9は本発明の規定する単位面積あたりの塗膜質量の範囲の上限よりも大きな膜厚を有する金属箔を固定した板状樹脂粉末を配合した場合の例であるが、感触が悪く、化粧塗膜もきれいに見えず、評価が悪くなった。比較例10は、溶剤法処理ポリエステル処理金箔の粉砕粉末を用いた場合の例であるが、まあまあの品質ではあるものの、塗工法で作成した実施例10と比較してもスコアが悪く、樹脂が均一に塗工されていない場合では、化粧料の品質にも影響がでることが確認された。
【0057】
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】 純金箔を固定した板状ポリエステル粉末の光学顕微鏡写真の例
【図2】 純金箔を固定した板状ポリエステル粉末の断面の光学顕微鏡写真の例
【図3】 純金箔を固定した板状シリコーン樹脂粉末の走査型電子顕微鏡写真の例
【図4】 純金箔を固定した板状シリコーン樹脂粉末の走査型電子顕微鏡写真の例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔表面に樹脂を1cmあたりの樹脂と金属箔の合計質量が、0.8〜10.0mgの範囲になるように塗工処理した後に粉砕して得られる、金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【請求項2】
金属箔が金、銀、白金、アルミニウムおよびその合金からなることを特徴とする請求項1に記載の金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【請求項3】
金属箔が箔打ちによって製造されたものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【請求項4】
樹脂の塗工処理時に、金属箔が静電気的に平滑な材料の上に固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【請求項5】
樹脂の塗工をヒトの指を使って塗工していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属箔を固定した板状樹脂粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金属箔を固定した板状樹脂粉末を配合することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7023(P2013−7023A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268342(P2011−268342)
【出願日】平成23年11月19日(2011.11.19)
【出願人】(500034941)株式会社コスメテクノ (16)
【Fターム(参考)】