説明

金属箔

Ni74〜90%、W10〜26%、並びにAl及び/又はMg及び/又はBをAl>0〜最大0.02%Mg>0〜最大0.025%、B>0〜最大0.005%(質量%で)の含有率で有する金属箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にニッケル及びタングステンからなる金属箔に関する。
【0002】
極めて純粋なニッケル合金は、熱間成形(例えば分塊−鋼片ロール)の間に材料損傷、例えば亀裂及び破断を生じやすく、特に鋳造されたブロック(例えばVIM)をさらに再溶融(例えばVAR)した場合に生じやすい。
【0003】
特別な使用の場合のために、例えば超伝導のストリップのために、極めて純粋な合金が必要であるため、ここで目標の衝突が生じる。
【0004】
DE 100 05 861 C2は、ニッケルベースの金属材料及びその製造方法を開示している。前記材料は再結晶立方体組織(Rekristallisations-Wuerfeltextur)を有し、かつNia(Mob,Wcdeの組成を有するニッケル合金からなり、その際、Mは、Ni、Mo、Fe又はWを除いた1種又は数種の金属を表し、それぞれ原子%で、
a=100−(d+e)
(d+e)≦50
b=0〜12
c=0〜12
d=(b+c)=0.01〜12
e=0〜49.9
でありかつ場合により含まれるわずかな製造技術による不純物を有する。
【0005】
製造のために、まず溶融冶金学的又は粉末冶金学的方法で、又は金属合金化により前記組成の合金を作製し、これを熱間成形並びに引き続き高度な冷間成形によりストリップに加工する。これを、還元雰囲気又は非酸化雰囲気中で再結晶化するアニーリングにさらす。この種の合金は、今日では主に実験室規模でだけ、つまりkg範囲での少量で製錬されるため、高純度をもたらすことができる。この条件は、しかしトン範囲で大規模工業的に使用する場合に必然的に転用できない。反対に、この材料は数百ミリメートルの直径のブロックとして、熱間成形の間に破損し、それにより製品材料の生産量は経済的に商業製品のために許容できる限度を下回るほど低下することになる。
【0006】
DE 10 2004 041 053 B4では、コーテッドコンダクター(Coated Conductor)用の厚いREBCO層を記載し、その際、前記層は化学溶液堆積法(CSD)によって製造され、高温超電導のストリップ状導体は少なくとも支持体材料、緩衝層及び高温超伝導体を有する。この特許は、緩衝層及び超伝導体層を支持基材上に設けることに取り組んでいるが、前記基材自体の特徴について取り上げていない。
【0007】
DE 102 00 445 B4によると、エピタキシャル被覆用の金属ストリップ及びその製造方法が公知となっている。前記金属ストリップは、金属のNi、Cu、Ag又はそれらの合金の少なくとも1種の二軸組織のベース層及び少なくとも1種の他の金属層とからなる層状複合材からなり、その際、個々の他の金属層は1種又は数種の金属間相からなるか又は1種又は数種の金属間相を有する金属からなる。前記系のニッケル−タングステンは言及されておらず、同様に、特に熱間成形において工業的に製造することを試みることについても言及されていない。
【0008】
本発明の根底をなす課題は、定義された合金元素の添加により製造された主にニッケル及びタングステンからなる金属箔を、わずかな廃棄物で大規模工業的な使用の場合の範囲内で、経済的な製造に関して高い等級を生じ、かつ同時に高温超伝導体の層状複合材へさらに加工するための要求を満たすように最適化することにある。
【0009】
前記課題は、(質量%で)
Ni 74〜90%
W 10〜26%
並びにAl及び/又はMg及び/又はBを
Al >0〜0.02%
Mg >0〜0.025%
B >0〜0.005%の含有率で
及び不可避な随伴元素 <0.5%の含有率で
有する金属箔により解決される。
【0010】
Ni及びWの有利な含有率は、(質量%で)
Ni 80〜90% Ni 83〜88%
W 10〜20% W 12〜17%
である。
【0011】
この合金の純度を高めるために、Ni及びWの含有率をさらに限定することもでき、つまり(質量%で)
Ni 85〜87%
W 13〜15%
であることもできる。
【0012】
本発明による金属箔は、純度をさらに高めるために、又は前記合金の改善された加工のために、有利に次のようなAl及び/又はMg及び/又はBの含有率(質量%で)
Al 0.001〜0.02% Al 0.0001〜0.0006%
Mg 0.0001〜0.025% Mg 0.0001〜0.015%
B 0.0001〜0.005% B 0.0001〜0.002%
を有する。
【0013】
随伴元素(製造による不純物)について、所属する含有率(質量%)の次の元素が挙げられる:
Cr 最大0.05%
Fe <0.1%
Co 最大0.05%
C 最大0.04%
Cu <0.05%
Mn <0.05%
Mo 最大0.05%
Nb 最大0.01%
P <0.004%
O <0.005%
S <0.004%
Si 最大0.05%
N <0.005%
Ti <0.01%。
【0014】
特に>1t、殊に>3tの大規模工業的製錬において、前記合金の所望な純度を生じさせるために、前記の随伴元素をできる限り前記数値を下回るように調節するのが好ましい。
【0015】
不所望な随伴元素の次の限界値が、大規模工業的に使用する場合のために、商業的観点で許容できるコストの範囲内で今日の見地から実現可能であと考えられる(質量%で):
Cr <0.01%
Fe <0.05%
Co <0.05%
C <0.01%
Cu <0.03%
Mn <0.03%
Mo <0.03%
Nb <0.005%
P <0.003%
O <0.004%
S <0.0008%
Si <0.04%
N <0.004%
Ti <0.01%。
【0016】
本発明による金属箔は、DE 102 00 445 B4と同様に、有利にエピタキシャル被覆用の金属ストリップとして使用される。
【0017】
VIM及び必要な場合にVARにより製造された出発材料は熱間成形され、高い冷間変形率(>90%)により特別な製造プロセスで加工され、引き続き700℃〜1200℃の温度範囲でアニーリングされる。この場合、大部分で立方体組織が形成される。立方体組織に関する高い品質を達成するために、前記合金の純度が極めて高くなければならない、つまり、前記立方体組織の形成を妨害する言及された随伴元素の含有率を極めて小さくしなければならない。特に、DE 100 05 861 C2による先行技術とは異なり、本発明による合金の純度に関する要求を疑問視する必要なしに、>3tの質量範囲での大規模工業的な使用も可能であることが強調される。
【0018】
冒頭に記載した目標の衝突には、元素のMg及び/又はB及び/又はAlの具体的な合金化により対抗する、それというのも前記元素は大規模工業的に製造される出発材料の良好でもしくは改善された熱間成形性を促進し、記載された添加の場合に、前記金属箔の更なる加工を制限せずに立方体組織の顕在化に関する要求を満たすためである。
【0019】
本発明による他の思想には、表面が、主に1:1の比率での脱イオン水とプロピオン酸との混合物を用いて測定する静的接触角<80゜を有する金属箔が提案される。
【0020】
所定の使用の場合のために、静的接触角<75゜、又は<70゜を定めることが有利である。
【0021】
表1は、3種の本発明による実験室バッチの化学組成並びに本発明による大規模工業的に製造したバッチ>3tの化学組成(質量%で)を示す。
【表1】

【0022】
実験室バッチLB2000、LB2002及びLB2004とは異なり、バッチGT171325は5tの融液量で製造した。大規模工業的に製造した合金GT171325は、VIM法で製錬した。前記実験室バッチと大規模工業的に製造されたバッチとの比較は、前記の大規模工業的に製造されたバッチがその純度に関して実験室によるバッチに劣らず、従って、後の製品の最小限の損失で経済的製造をもたらすことを示す。
【0023】
このVIM出発材料はブロックからスラブへさらにホットストリップに問題なく熱間圧延することができた。この場合、破損は生じなかった。前記ストリップは、高い冷間変形率(>90%)により特別な製造プロセスで加工し、その後に850〜1150℃の温度範囲でアニーリングした。本発明による含有率でのAl及び/又はMg及び/又はBの制御された添加により、大規模工業的に製造されたバッチの高い純度に関して、立方体組織の高い品質を達成することができた。
【0024】
次に静的接触角の測定方法を詳しく記載する:
この方法は、固体の表面特性の特性決定を可能にする。Ni−W−ストリップの特性を測定するために、水又は水/プロピオン酸の1:1の比率の混合物が適している。使用した水はイオン交換体を介して精製し、5.0μScm-1より低い残留導電性を有するのが好ましい。このプロピオン酸は、99.5%の純度を有し、0.993〜0.995gcm-3の密度を有する。これは、特別な後処理を行わなかった。
【0025】
前記の測定は、Axiotech反射光顕微鏡でEpiplan 5x/0,13 HDレンズを用いて行う。上からの測定は不可能であるため、顕微鏡の光路をミラーを介して90゜だけ変向するので、横側からの画像が撮影される。
【0026】
試料の表面はできる限り平坦でなければならないので、この試料は有利に、必要な場合にハサミの代わりにサイドカッターを用いて切断される。前記ストリップは、できる限り測定の直前に乾燥された保護ガス下(窒素99.99パーセント)で保存し、表面酸化による測定結果の誤りを抑制する。さらに、前記ストリップを15分間、i−プロパノールを有する超音波浴中で清浄化し、真空中で80℃で乾燥した。
【0027】
前記試料を、両面接着テープでスライドガラスに固定し、くぼまないようにしながら軽く押し付ける。必要な液体を、カニューレを備えた注射器を用いて塗布し、塗布された容量を常に同じ大きさにする。この測定を22℃で行う。
【0028】
この測定の評価を、適当なグラフィックプログラムを用いて行う。接触角Θは、液滴の高さhと幅Iから、次の関係によって得られる。
【数1】

【0029】
被覆溶液での十分な濡れは、前記ストリップの脱イオン水での接触角が80゜以下である場合に達成され、極端に良好な濡れは水に対する接触角が60゜以下である場合に達成される。前記接触角が大きく、かつ特に90゜を越える場合、前記濡れにより組織化された層を前記Ni−W−基材上に設けることはできない。
【0030】
本発明による主題は、図1〜3に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】接触角Θの測定を示す。
【図2】接触角<75゜である。前記基材は前駆体溶液での被覆の際に良好に被覆される。
【図3】接触角>80゜である。前駆体溶液での被覆は不十分な結果を生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni 74〜90%
W 10〜26%(質量%で)
並びにAl及び/又はMg及び/又はBを
Al >0〜最大0.02%
Mg >0〜最大0.025%
B >0〜最大0.005%
の含有率で有する金属箔。
【請求項2】
Ni 80〜90%
W 10〜20%
(質量%で)の含有率を有する、請求項1記載の金属箔。
【請求項3】
Ni 83〜88%
W 12〜17%
(質量%で)の含有率を有する、請求項1又は2記載の金属箔。
【請求項4】
Ni 85〜87%
W 13〜15%
(質量%で)の含有率を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項5】
Al及び/又はMg及び/又はBを
Al 0.0001〜最大0.02%
Mg 0.0001〜最大0.025%
B 0.0001〜最大0.005%
(質量%で)の含有率で有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項6】
Al及び/又はMg及び/又はBを
Al 0.0001〜0.006%
Mg 0.0001〜0.015%
B 0.0001〜0.002%
(質量%で)の含有率で有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項7】
随伴元素(質量%で)は次のように合金中で調節されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の金属箔。
Cr 最大0.05%
Fe <0.1%
Co 最大0.05%
C 最大0.04%
Cu <0.05%
Mn <0.05%
Mo 最大0.05%
Nb 最大0.01%
P <0.004%
O <0.005%
S <0.004%
Si 最大0.05%
N <0.005%
Ti <0.01%
【請求項8】
随伴元素(質量%で)は次のように合金中で調節されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の金属箔。
Cr <0.01%
Fe <0.05%
Co <0.05%
C <0.01%
Cu <0.03%
Mn <0.03%
Mo <0.03%
Nb <0.005%
P <0.003%
O <0.004%
S <0.0008%
Si <0.04%
N <0.004%
Ti <0.01%
【請求項9】
出発材料を冷間変形率>90%により、引き続き700〜1200℃の温度範囲でのアニーリング処理で製造された、請求項1から8までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項10】
前記箔の表面は、脱イオン水及びプロピオン酸の1:1の比率での混合物を用いて測定して静的接触角<80゜を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項11】
前記箔の表面は、脱イオン水及びプロピオン酸の1:1の比率での混合物を用いて測定して静的接触角<75゜を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項12】
前記箔の表面は、脱イオン水及びプロピオン酸の1:1の比率での混合物を用いて測定して静的接触角<70゜を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項13】
1トンを越える融液量で製造される、請求項1から12までのいずれか1項記載の金属箔。
【請求項14】
エピタキシャル被覆のための金属ストリップとしての、請求項1から13までのいずれか1項記載の金属箔の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525156(P2010−525156A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503347(P2010−503347)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000615
【国際公開番号】WO2008/125091
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(399009918)ティッセンクルップ ファオ デー エム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp VDM GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2 D−58791 Werdohl Germany
【出願人】(509289124)ゼナジー パワー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Zenergy Power GmbH
【住所又は居所原語表記】Heisenbergstrasse 16,D− 53359 Rheinbach, Germany
【Fターム(参考)】