説明

金属管の接合構造

【課題】コストアップを抑制しつつ、金属管同士の接合部分における信頼性の低下を抑制できる金属管の接合構造を提供する。
【解決手段】第1金属M1を主成分とする第1金属管11、及び第2金属M2を主成分とする第2金属管12のうちの一方の金属管は、端部の内径がこの端部に隣接する隣接部16の内径よりも大きい接続用拡径部13を有している。ろう材14と一方又は他方の金属管との間における第1金属M1と第2金属M2の界面には、第1金属M1と第2金属M2により形成された金属間化合物層15が存在している。この金属間化合物層15の厚さは、開口端13a側の端部15aよりも基端13b側の端部15bの方が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば熱交換器などに用いられる金属管の接合構造として種々の技術が提案されている。金属管同士の接合部分には、例えば冷媒の圧力に耐えうる耐圧強度、及び冷媒の温度に起因する熱衝撃に耐えうる熱衝撃耐性が求められる。
【0003】
特許文献1には、銅管とアルミニウム管とをフラッシュバット溶接により接合する方法が開示されている。また、特許文献2には、銅管とアルミニウム管とを共晶接合により接合する方法が開示されている。しかし、これらの接合方法では、管同士の接合面積が小さいため、耐圧強度及び熱衝撃耐性の点で必ずしも十分な性能を有しているとは言えない。
【0004】
また、銅管とアルミニウム管のように異種金属同士を接合する場合、アルミニウムと銅との界面には、これらの金属間化合物層が生成する。この金属間化合物は脆弱であるので、金属間化合物の生成量が多くなると、その部分の強度が低下する。
【0005】
特許文献3には、めっきを施したステンレス鋼製の継手を介して銅管とアルミニウム管とをろう付により接合する方法が開示されている。この特許文献3には、異種金属の接合界面に発生する金属間化合物が多少生じても、ステンレス鋼の強度がカバーして接合構造全体として変形しにくく強度が向上する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−182979号公報
【特許文献2】特開2001−334371号公報
【特許文献3】特開平8−267228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3の接合構造では、ステンレス鋼の継手を使用する必要があるのでコストアップにつながり、また、この継手にはめっきが施されるのでさらなるコストアップとなる。
【0008】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コストアップを抑制しつつ、金属管同士の接合部分における信頼性の低下を抑制できる金属管の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属管の接合構造は、第1金属(M1)を主成分とする第1金属管(11)と、前記第1金属(M1)とは異なる第2金属(M2)を主成分とする第2金属管(12)とを備えている。これらのうちの一方の金属管は、端部の内径がこの端部に隣接する隣接部(16)の内径よりも大きい接続用拡径部(13)を有している。この接続用拡径部(13)には、その開口端(13a)から接続用拡径部(13)の基端(13b)側に向かって他方の金属管が挿入され、この他方の金属管の外面と前記接続用拡径部(13)の内面との間に、前記第1金属(M1)又は第2金属(M2)を主成分とするろう材(14)が介在している。前記ろう材(14)と一方又は他方の金属管との間における前記第1金属(M1)と前記第2金属(M2)の界面には、前記第1金属(M1)と前記第2金属(M2)により形成された金属間化合物層(15)が存在している。この金属間化合物層(15)の厚さは、前記開口端(13a)側の端部(15a)よりも前記基端(13b)側の端部(15b)の方が小さい。
【0010】
この構成では、一方の金属管の端部を、上述したような接続用拡径部(13)としている。この接続用拡径部(13)は、これにつづく前記隣接部(16)よりも内径が大きい。したがって、接続用拡径部(13)の基端(13b)には応力集中が生じやすい。また、ろう付時には、異種金属同士の界面(第1金属(M1)と第2金属(M2)の界面)に脆弱な金属間化合物層(15)が生成する。
【0011】
そこで、この構成では、金属間化合物層(15)の厚さを、前記開口端(13a)側の端部(15a)に比べて前記基端(13b)側の端部(15b)の方が小さくなるようにしている。これにより、接続用拡径部(13)の基端(13b)に応力集中が生じたとしても、金属間化合物層(15)は基端(13b)側の端部(15b)の厚さが小さいので、当該応力に対する耐久性(特に、剥離強度)の低下が抑制される。また、この構成では、上記のように金属間化合物層(15)の厚さを制御することにより耐久性の低下を抑制しているので、従来のようにステンレス鋼の継手などを用いる必要がない。以上のことから、本構成では、コストアップを抑制しつつ、金属管同士の接合部分における信頼性の低下を抑制できる。
【0012】
前記金属管の接合構造において、例えば、前記金属間化合物層(15)の厚さが、前記開口端(13a)側の端部(15a)から前記基端(13b)側の端部(15b)に向かうにつれて次第に小さくなっている構成を例示することができ、この場合には、金属間化合物層(15)の厚さが、前記開口端(13a)側の端部(15a)と前記基端(13b)側の端部(15b)との間において急激に変化するのが抑制され、なめらかに変化する。これにより、応力に対する耐久性の低下をさらに抑制することができる。
【0013】
前記金属管の接合構造において、前記金属間化合物層(15)の厚さは75μm以下であるのが好ましく、この場合には、金属管同士の接合部分の信頼性が特に優れている。
【0014】
前記金属管の接合構造において、前記第1金属管(11)がアルミニウム管であり、前記第2金属管(12)が銅管であるのが好ましい。銅とアルミニウムとの界面には、Cu−Al金属管化合物が生成しやすく、これに起因する強度低下が生じやすいので、本発明が有効である。
【0015】
前記金属管の接合構造において、前記一方の金属管は、前記接続用拡径部(13)がフレア形状を有していてもよい。フレア形状の接続用拡径部(13)の場合、フレア形状の基端(13b)に応力集中が生じやすいので、本発明が有効である。
【0016】
また、前記金属管の接合構造において、前記接続用拡径部(13)の内径が前記隣接部(16)の内径よりも大きく、前記接続用拡径部(13)の外径が前記隣接部(16)の外径と同じである形態であってもよい。この形態の場合、接続用拡径部(13)と前記隣接部(16)とは、外径の変化がなくつながっているので、前記フレア形状の形態に比べて接続用拡径部(13)の基端(13b)への応力集中の度合いを低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、コストアップを抑制しつつ、金属管同士の接合部分における信頼性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる金属管の接合構造を備えた熱交換器を示す概略図である。
【図2】(A)は、本発明の一実施形態にかかる金属管の接合構造を示す断面図であり、(B)は、前記金属管の接合構造の要部を拡大した断面図である。
【図3】金属間化合物層の厚さと耐圧強度との関係を示すグラフである。
【図4】(A),(B)は、前記金属管の接合構造の製造方法を示す断面図である。
【図5】前記金属管の接合構造の変形例1の要部を拡大した断面図である。
【図6】(A)は、前記金属管の接合構造の変形例2を示す断面図であり、(B)は、変形例2の要部を拡大した断面図である。
【図7】(A)は、前記金属管の接合構造の変形例3を示す断面図であり、(B)は、前記金属管の接合構造の変形例4を示す断面図であり、(C)は、前記金属管の接合構造の変形例5を示す断面図である。
【図8】(A)は、前記金属管の接合構造の変形例6を示す断面図であり、(B)は、前記金属管の接合構造の変形例7を示す断面図であり、(C)は、前記金属管の接合構造の変形例8を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態にかかる金属管の接合構造10について図面を参照しながら詳細に説明する。まず、金属管の接合構造10を備えた熱交換器について説明する。
【0020】
<熱交換器>
図1に示す熱交換器51は、例えば空気調和装置の蒸発器や凝縮器として用いることができる。この熱交換器51は、例えば冷媒流路の内径が小さい熱交換器、いわゆるマイクロチャンネル熱交換器である。
【0021】
熱交換器51は、ヘッダ52,53、複数の扁平伝熱管54、複数のフィン55、及び接合構造10を備えている。ヘッダ52の上部と下部には、第1金属M1を主成分とする第1金属管11,11がそれぞれ接続されている。各第1金属管11は、第2金属M2を主成分とする第2金属管12と接合されている。接合構造10については後述する。
【0022】
各扁平伝熱管54としては、例えば多穴管などの金属管を用いることができる。複数の扁平伝熱管54は、互いに平行に配置されている。各扁平伝熱管54の長手方向は、空気の流れ方向に対して直交している。各フィン55は、金属板を波状に折り曲げた形状を有しており、扁平伝熱管54の間に配置されている。フィン55の板厚方向は、空気流れ方向に直交している。
【0023】
例えば上部の第2金属管12及び第1金属管11を通じてヘッダ52に流入した冷媒は、ヘッダ52から複数の扁平伝熱管54に分流し、又は複数の扁平伝熱管54を順に流れる。複数の扁平伝熱管54を流れる冷媒は、ヘッダ53において合流する。また、合流した冷媒は、このヘッダ53から扁平伝熱管54に流入する。このように複数の扁平伝熱管54を流れた冷媒は、最終的にヘッダ52の下部に接続された第1金属管11を通じて流出する。
【0024】
<金属管の接合構造>
図2(A)は、本発明の一実施形態にかかる金属管の接合構造10を示す断面図であり、図2(B)は、この接合構造10の要部を拡大した断面図である。本実施形態では、第1金属M1がアルミニウム又はアルミニウム合金であり、第2金属M2が銅又は銅合金である場合を例に挙げて説明する。第1金属管としてのアルミニウム管11は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、第2金属管としての銅管12は、銅又は銅合金からなる。アルミニウム管11と銅管12とは、ろう材14により接合されている。
【0025】
アルミニウム管11は、銅管12との接続に用いられる接続用拡径部13を有している。接続用拡径部13は、アルミニウム管11の端部に形成されている。接続用拡径部13の内径は、接続用拡径部13に隣接する隣接部16の内径よりも大きい。この接続用拡径部13には、その開口端13aから接続用拡径部13の基端13b側に向かって銅管12が挿入されている。基端13bとは、接続用拡径部13と隣接部16との境界部分であり、内径が変わる部位である。
【0026】
接続用拡径部13は、アルミニウム管11の端部をフレア加工することによって形成されている。アルミニウム管11及び銅管12のサイズは特に限定されるものではないが、一例を挙げると次のようになる。アルミニウム管11における隣接部16の内径と銅管12の内径は、冷媒が管内を流れる際の抵抗を低減する観点からほぼ同程度とされている。また、アルミニウム管11における隣接部16の外径は、耐圧強度の観点から銅管12の外径よりも大きい。
【0027】
また、銅管12が例えば1/8インチ管(外径3.17mm)以上のサイズである場合の各寸法の一例を挙げると次のようになる。接続用拡径部13の深さ、すなわち接続用拡径部13の内周面の鉛直方向の長さL1は、管同士の接合面積を増加させる観点から5mm以上であるのが好ましい。接続用拡径部13の前記対向領域の内径は、ろう材14が流れ込む隙間を設けるために、銅管12の外径よりも0.1mm〜0.6mm程度大きくするのが好ましい。
【0028】
図2(B)に示すように、ろう材14は、銅管12の外面と接続用拡径部13の内面との間に介在している。ここで、銅管12の外面は、銅管12の外周面(外側面)と、銅管12の先端面(下端面)とを含む。接続用拡径部13の内面は、接続用拡径部13の内周面(内側面)と、銅管12の先端面に対向する接続用拡径部13の段差面と、接続用拡径部13の先端面(開口端13a側の端面)とを含む。前記段差面とは、接続用拡径部13の内周面と隣接部16の内周面とをつなぐ傾斜した面のことである。
【0029】
図2(B)に示す実施形態では、ろう材14は、接続用拡径部13の内面(内周面及び段差面)のほぼ全域をカバーするように配設されている。ろう材14としては、第1金属M1又は第2金属M2を主成分とするものを用いることができる。本実施形態では、アルミニウムを主成分とするろう材、具体的には例えばアルミニウム−シリコン系のろう材(Al−Siろう材)を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0030】
ろう材14と銅管12との間におけるアルミニウムと銅の界面には、アルミニウムと銅により形成された金属間化合物層15が存在している。この金属間化合物層15は、ろう材14と銅管12の外面(外周面及び先端面)とが対向する領域のほぼ全体にわたって形成されている。したがって、金属管11,12の延びる方向において、金属間化合物層15の両端部15a,15bは、接続用拡径部13の開口端13aの近傍及び基端13bの近傍にそれぞれ位置している。
【0031】
アルミニウムと銅の金属間化合物層15は脆弱である(固くて脆い)ので、その厚さは小さい方が好ましい。金属間化合物層15は、金属管11,12同士のろう付時にアルミニウムと銅が高温に晒されることにより、アルミニウムと銅の界面においてこれらが反応して生成される反応層である。金属間化合物層15の生成には、ろう付温度及びろう材14が溶融している時間が影響し、特にろう付温度の影響が大きい。また、接続用拡径部13と隣接部16とは内径が異なっているので、これらの境界部分である接続用拡径部13の基端13bには応力集中が生じやすい。
【0032】
そこで、本実施形態では、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2を、開口端13a側に位置する金属間化合物層15の端部15aの厚さt1よりも小さくしている。これにより、接続用拡径部13の基端13bに応力集中が生じたとしても、金属間化合物層15は基端13b側の端部15bの厚さが小さいので、当該応力に対する耐久性(特に、剥離強度)の低下が抑制される。
【0033】
図2(B)の形態の場合、ろう材14の下端部が接続用拡径部13の基端13bまで延びているので、厚さt2は、銅管12の下面とろう材14との間に形成された金属間化合物層15の鉛直方向(アルミニウム管11の長手方向)の寸法である。また、金属間化合物層15の厚さは、開口端13a側の端部15aから基端13b側の端部15bに向かうにつれて次第に小さくなっている。
【0034】
また、金属間化合物層15の最大厚さも接合構造10の耐久性(特に、剥離強度)に影響を与える。図3は、金属間化合物層15の最大厚さと耐圧強度との関係を示すグラフである。このグラフは、金属間化合物層15の最大厚さを10μm〜45μmの間で変えた試料をそれぞれ作製し、各試料の耐圧強度を測定した結果を示すものである。
【0035】
図3のグラフからわかるように、耐圧強度は、金属間化合物層15の最大厚さが大きくなるほど低下する傾向にある。このようなグラフのデータに基づいて、金属間化合物層15の最大厚さは、例えばKHK(高圧ガス保安協会)などの種々の基準を満足するように設定可能である。具体例を挙げると、例えば種々の基準のうち最も低い基準を満足するように、その基準とグラフのデータとから、許容できる金属間化合物層15の最大厚さが決められる。この場合の金属間化合物層15の最大厚さは、75μm以下であるのが好ましい(この好適数値範囲は、図4のグラフのデータを外挿することにより求めたもの)。また、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、45μm以下であるのが好ましい。耐圧強度をさらに向上させるためには、金属間化合物層15の最大厚さは、50μm以下であるのがより好ましい。
【0036】
(製造方法)
次に、金属管の接合構造10を製造する方法について説明する。本実施形態では、アルミニウム管11と銅管12とを接合する接合工程において、加熱手段として高周波加熱(誘導加熱)を用いる。
【0037】
まず、フレア加工などが施されることにより接続用拡径部13が形成されたアルミニウム管11と銅管12を所定の位置に配置し、これらを図略の支持部材によって固定して位置決めする。具体的には、例えば図4(A)に示すように、アルミニウム管11は、長手方向が鉛直方向に向き、接続用拡径部13の開口端13aが上方に開口するように配置される。銅管12は、長手方向が鉛直方向に向き、端部が開口端13aから接続用拡径部13内に挿入される。
【0038】
接続用拡径部13の開口端13aの上面には、環状のリングろう材14aが配置される。リングろう材14aの量は、接続用拡径部13の内面と銅管12の外面との間の空間の大きさに応じて適宜調整される。
【0039】
接続用拡径部13に挿入される銅管12の端部の外面には、アルミニウムを主成分とするリングろう材14aとのぬれ性を高めるために、予めフラックスを塗布しておくのが好ましい。これにより、接続用拡径部13の内面と銅管12の外面との隙間に、溶融したリングろう材14aをより円滑に流し込むことができるので、例えば図2(B)に示すように開口端13aから基端13bまでろう材14を配設することができる。接続用拡径部13の内面にもフラックスを塗布してもよい。
【0040】
アルミニウム管11及び銅管12の周囲には、高周波加熱に用いる加熱用コイルC1,C2,C3が配置される。これらの加熱用コイルC1,C2,C3は、渦巻状(螺旋状)につながる一体のコイルであってもよく、別体の3つのコイルであってもよい。加熱用コイルC1,C2,C3は、この順に鉛直方向に並んでいる。
【0041】
真ん中に位置する加熱用コイルC2は、接続用拡径部13の開口端13aの周囲に位置しており、リングろう材14aの加熱、及び開口端13a近傍の加熱のために設けられている。加熱用コイルC1は、加熱用コイルC2よりも上方に位置しており、主に母材(銅管12)を加熱するために設けられている。加熱用コイルC3は、加熱用コイルC2よりも下方に位置している。加熱用コイルC3は、接続用拡径部13の基端13bの近傍に位置しており、主に母材(アルミニウム管11)の基端13bの近傍を加熱するために設けられている。
【0042】
これらの加熱用コイルC1,C2,C3には、図略の電源から高周波電流が流され、各部位が誘導加熱される。これにより、リングろう材14aが溶融し、図4(B)に示すように接続用拡径部13の内面と銅管12の外面との隙間に流れ込み、アルミニウム管11と銅管12とがろう付される。
【0043】
誘導加熱されたときに、加熱用コイルC1の半径方向内側に位置する銅管12の温度T1、接続用拡径部13の開口端13a及びその近傍の温度T2、並びに接続用拡径部13の基端13b及びその近傍の温度T3は、リングろう材14aの融点以上で、かつ母材(アルミニウム管11及び銅管12)の融点を超えない温度に調整される。また、これらの温度T1,T2,T3は、次のような温度分布となるように調整される。すなわち、温度T3は、温度T2よりも低くなるように調整される。これにより、金属間化合物層15は、開口端13a側の端部の厚さt1よりも基端13b側の端部の厚さt2の方が小さくなる。温度T1は、温度T2と同程度であってもよいが、銅管12を補助的に加熱する役割を担っているので、温度T2よりも低くなるように調整してもよい。
【0044】
また、加熱手段として高周波加熱を用いることにより、各部位を局所的に加熱することができ、各部位の温度を上記のように個別に調整することができる。また、高周波加熱は、局所的に加熱できるので、短時間で各部位の温度を上昇させることができるとともに、短時間で各部位の温度を降下させることができる。すなわち、急峻な熱サイクルを実現でき、金属管11,12及びろう材14に対する余分な入熱を避けることができる。その結果、金属間化合物層15の生成を抑制することができる。また、昇温後に各温度T1,T2,T3に保持する保持時間は、溶融したリングろう材14aが所定の位置(例えば基端13b)まで流れ込むように予め設定される。
【0045】
なお、上記の説明では、加熱手段として高周波加熱を用いる場合を例示したが、これに限定されない。例えば、加熱手段としては、高周波加熱に代えてレーザなどを用いることもできる。レーザを用いる場合にも高周波加熱と同様に局所的な加熱が可能であり、また、各部位の温度を個別に調整可能である。
【0046】
レーザとしては、例えばランプ励起YAGレーザ、ダイオード励起YAGレーザ、CO2レーザなどを用いることができる。レーザによる加熱の場合も各部位の温度を上述したように温度T1,T2,T3などに調整するのが好ましい。これらの温度調整は、例えばレーザの出力を調整することにより可能である。
【0047】
(変形例1)
図5は、金属管の接合構造10の変形例1の要部を拡大した断面図である。この変形例1の接合構造10は、ろう材14の下端部が基端13bよりも手前(開口端13a側の位置)にある点で図2(B)に示す形態と異なっている。
【0048】
ろう材14は、銅管12の外周面と接続用拡径部13の内周面との間に介在しており、銅管12の先端面と接続用拡径部13の段差面との間には介在していない。ろう材14の下端部は、銅管12の下端部とほぼ同程度の高さにある。ろう材14の下端部の位置は、例えば、上述したフラックスを塗布する銅管12の外面の領域を調整することにより調節可能である。
【0049】
この変形例1でも上記と同様に、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、開口端13a側に位置する金属間化合物層15の端部15aの厚さt1よりも小さい。この変形例1の場合、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、図5に示すように金属間化合物層15の水平方向(銅管12の厚さ方向)の寸法となる。
【0050】
(変形例2)
図6(A)は、金属管の接合構造10の変形例2を示す断面図であり、図6(B)は、変形例2の要部を拡大した断面図である。図6(A),(B)に示すように、この変形例2の接合構造10は、銅管12が接続用拡径部13を有している点で図2(B)に示す形態と異なっている。
【0051】
この変形例2では、ろう材14として、上記と同様のアルミニウムを主成分とするろう材、具体的には例えばアルミニウム−シリコン系のろう材を用いている。したがって、ろう材14と銅管12との間におけるアルミニウムと銅の界面には、アルミニウムと銅により形成された金属間化合物層15が存在している。
【0052】
この金属間化合物層15は、ろう材14と銅管12の接続用拡径部13の内面とが対向する領域のほぼ全体にわたって形成されている。したがって、金属管11,12の延びる方向(鉛直方向)において、金属間化合物層15の両端部15a,15bは、接続用拡径部13の開口端13aの近傍及び基端13bの近傍にそれぞれ位置している。開口端13a側の端部15aは、接続用拡径部13の先端面とろう材14との間に位置している。基端13b側の端部15bは、接続用拡径部13の段差面とろう材14との間に位置している。
【0053】
基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、開口端13a側に位置する金属間化合物層15の端部15aの厚さt1よりも小さい。図6(B)に示すように、この変形例2の場合、ろう材14の上端部が接続用拡径部13の開口端13aの先端面(上面)の一部に被さっているので、厚さt1は、開口端13aの先端面とろう材14との間に形成された金属間化合物層15の鉛直方向の寸法である。また、ろう材14の下端部が接続用拡径部13の基端13bまで延びているので、厚さt2は、基端13bにおける接続用拡径部13の段差面とろう材14との間に形成された金属間化合物層15の厚さである。
【0054】
(変形例3)
図7(A)は、金属管の接合構造10の変形例3を示す断面図である。この変形例3の接合構造10は、接続用拡径部13の上端部にさらにフレア部13cが設けられている点で図2(A)に示す形態と異なっている。この変形例3では、図2(A)の形態と同様に、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、開口端13a側に位置する金属間化合物層15の端部15aの厚さt1よりも小さい。
【0055】
この変形例3におけるフレア部13cは、アルミニウム管11の延びる方向(鉛直方向)に対して斜め上方に傾斜して広がっている。したがって、ろう付時にリングろう材14aは、フレア部13cと銅管12の外周面との間に安定して配置される。また、フレア部13cの傾斜した内面は、ろう付時に溶融したリングろう材14aを下方に案内する役割も果たす。これにより、溶融したリングろう材14aが接続用拡径部13と銅管12との隙間に流れ込みやすくなる。また、フレア部13cを有しているので、リングろう材14aを用いずにろう材を注入(差しろう)してろう付する場合、ろう材を注入しやすくなる点で変形例3の形状は有効である。
【0056】
フレア部13cが半径方向に拡径される大きさは、例えばリングろう材14aの直径と同程度に調整するのがよい。なお、フレア部13cは、半径方向外側に(水平方向に)広がっていてもよい。
【0057】
(変形例4)
図7(B)は、金属管の接合構造10の変形例4を示す断面図である。この変形例4の接合構造10は、アルミニウム管11の延びる方向に対して接続用拡径部13が全体的に
傾斜している点で図2(A)に示す形態と異なっている。
【0058】
この変形例4における接続用拡径部13は、開口端13aから基端13bに向かうにつれて内径が次第に小さくなるテーパー形状を有している。接続用拡径部13の内周面が傾斜していることにより、溶融したリングろう材14aが接続用拡径部13と銅管12との隙間に流れ込みやすくなる。開口端13aにおける接続用拡径部13の内周面と銅管12の外周面との隙間の大きさは、例えばリングろう材14aの直径と同程度に調整するのがよい。これにより、ろう付時にリングろう材14aは、接続用拡径部13の上端部に安定して配置される。
【0059】
(変形例5)
図7(C)は、金属管の接合構造10の変形例5を示す断面図である。この変形例5の接合構造10は、変形例3と変形例4の特徴を両方とも備えている。すなわち、この変形例5における接続用拡径部13は、開口端13aから基端13bに向かうにつれて内径が次第に小さくなるテーパー形状を有している。しかも、接続用拡径部13の上端部にはさらにフレア部13cが設けられている。
【0060】
(変形例6)
図8(A)は、金属管の接合構造10の変形例6を示す断面図である。この変形例6の接合構造10は、接続用拡径部13がフレア形状を有しておらず、金属管の端部の内径を切削加工(例えばボール盤による加工)などの加工手段を用いて広げることにより接続用拡径部13が形成されている点で図2(A)に示す形態と異なっている。この変形例6では、図2(A)の形態と同様に、基端13b側に位置する金属間化合物層15の端部15bの厚さt2は、開口端13a側に位置する金属間化合物層15の端部15aの厚さt1よりも小さい。
【0061】
この変形例6では、接続用拡径部13の外径は、隣接部16の外径とほぼ同じである。接続用拡径部13は、ほぼ円筒形状を有している。この変形例6では、接続用拡径部13と隣接部16とは、外径の変化がなくつながっているので、フレア加工により接続用拡径部13が形成されている場合と比べて、接続用拡径部13の基端13bへの応力集中の度合いを低減することができ、また、残留応力を低減することができる。
【0062】
接続用拡径部13の内周面は、段差面13dを介して隣接部16の内周面とつながっている。この段差面13dは、銅管12の下端部を当接させる場合には、銅管12を位置決めする機能を果たす。
【0063】
(変形例7)
図8(B)は、金属管の接合構造10の変形例7を示す断面図である。この変形例7の接合構造10は、接続用拡径部13の上端部の半径方向内側の角部(縁部)13eが面取り(R加工又はC面取り)されている点で変形例6と異なっている。
【0064】
この変形例7では、ろう付時にリングろう材14aは、角部13eと銅管12の外周面との間に安定して配置される。また、角部13eの傾斜した内面は、ろう付時に溶融したリングろう材14aを下方に案内する役割も果たす。これにより、溶融したリングろう材14aが接続用拡径部13と銅管12との隙間に流れ込みやすくなる。角部13eの半径方向の寸法は、例えばリングろう材14aの直径と同程度に調整するのがよい。
【0065】
(変形例8)
図8(C)は、金属管の接合構造10の変形例8を示す断面図である。この変形例8の接合構造10は、アルミニウム管11の延びる方向に対して接続用拡径部13の内周面が傾斜している点で変形例7と異なっている。
【0066】
この変形例8における接続用拡径部13は、開口端13aから基端13bに向かうにつれて内径が次第に小さくなるテーパー形状を有している。接続用拡径部13の内周面が傾斜していることにより、溶融したリングろう材14aが接続用拡径部13と銅管12との隙間に流れ込みやすくなる。この変形例8では、接続用拡径部13は、変形例7と同様の面取りされた角部13eを備えているが、テーパー形状のみを有し角部13eの面取りを省略した形態であってもよい。
【0067】
<実施形態の概要>
本実施形態をまとめると、以下の通りである。
【0068】
本実施形態では、金属間化合物層15の厚さは、開口端13a側の端部15aに比べて基端13b側の端部15bの方が小さい。これにより、接続用拡径部13の基端13bに応力集中が生じたとしても、金属間化合物層15は基端13b側の端部15bの厚さt2が小さいので、当該応力に対する耐久性の低下が抑制される。また、このように金属間化合物層15の厚さを制御することにより耐久性の低下を抑制しているので、従来のようにステンレス鋼の継手などを用いる必要がない。以上のことから、本実施形態では、コストアップを抑制しつつ、金属管同士の接合部分における信頼性の低下を抑制できる。
【0069】
また、本実施形態では、金属間化合物層15の厚さは、開口端13a側の端部15aから基端13b側の端部15bに向かうにつれて次第に小さくなっている。したがって、金属間化合物層15の厚さが、開口端13a側の端部15aと基端13b側の端部15bとの間において急激に変化するのが抑制され、なめらかに変化する。これにより、応力に対する耐久性の低下をさらに抑制することができる。
【0070】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。
【0071】
例えば、前記実施形態では、金属間化合物層15の厚さが、開口端13a側の端部15aから基端13b側の端部15bに向かうにつれて次第に小さくなる場合を例示したが、これに限定されない。例えば、金属間化合物層15の厚さを、応力集中しやすい基端13b側の端部15a及びその近傍において局所的に小さくした形態であってもよい。また、開口端13a側の端部15aから基端13b側に向かうにつれて金属間化合物層15の厚さが次第に小さくなり、途中から基端13b側の端部15bまでは金属間化合物層15の厚さがほぼ一定であるような形態も例示できる。
【0072】
また、前記実施形態では、アルミニウム管11と銅管12との接合構造を例に挙げて説明したが、これに限定されない。本発明は、異種金属同士の接合により金属間化合物層が形成される他の接合構造にも適用することができる。
【0073】
また、前記実施形態では、ろう材としてAl−Siろう材を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。Al−Znろう材、Al−Si−Znろう材などの他のろう材を用いることもできる。
【0074】
また、前記実施形態では、製造時にろう材としてリングろう材を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えばシート状のろう材を金属管同士の間に配置してもよく、一方又は両方の金属管にろう材を塗布してもよく、金属管同士の隙間にろう材を注入してもよい。
【符号の説明】
【0075】
11 アルミニウム管
12 銅管
13 接続用拡径部
13a 開口端
13b 基端
14 ろう材
15 金属間化合物層
15a 開口端側の端部
15b 基端側の端部
16 隣接部
M1 第1金属
M2 第2金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属(M1)を主成分とする第1金属管(11)と、前記第1金属(M1)とは異なる第2金属(M2)を主成分とする第2金属管(12)とを備え、
これらのうちの一方の金属管は、端部の内径がこの端部に隣接する隣接部(16)の内径よりも大きい接続用拡径部(13)を有し、この接続用拡径部(13)には、その開口端(13a)から接続用拡径部(13)の基端(13b)側に向かって他方の金属管が挿入され、この他方の金属管の外面と前記接続用拡径部(13)の内面との間に、前記第1金属(M1)又は第2金属(M2)を主成分とするろう材(14)が介在しており、
前記ろう材(14)と一方又は他方の金属管との間における前記第1金属(M1)と前記第2金属(M2)の界面には、前記第1金属(M1)と前記第2金属(M2)により形成された金属間化合物層(15)が存在し、この金属間化合物層(15)の厚さは、前記開口端(13a)側の端部(15a)よりも前記基端(13b)側の端部(15b)の方が小さい金属管の接合構造。
【請求項2】
前記金属間化合物層(15)の厚さは、前記開口端(13a)側の端部(15a)から前記基端(13b)側の端部(15b)に向かうにつれて次第に小さくなっている、請求項1記載の金属管の接合構造。
【請求項3】
前記金属間化合物層(15)の厚さは75μm以下である、請求項1又は2に記載の金属管の接合構造。
【請求項4】
前記第1金属管(11)がアルミニウム管であり、前記第2金属管(12)が銅管である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属管の接合構造。
【請求項5】
前記一方の金属管は、前記接続用拡径部(13)がフレア形状を有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属管の接合構造。
【請求項6】
前記接続用拡径部(13)の内径は、前記隣接部(16)の内径よりも大きく、前記接続用拡径部(13)の外径は、前記隣接部(16)の外径と同じである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属管の接合構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate