説明

金属粉の生産方法および装置

金属粉の生産方法および装置。本方法において、溶解した有用金属と少なくとも1つの媒介金属を含有する溶液とを混合して、溶解した有用金属を沈殿させて有用金属粉(14)とする。本方法では、酸含有出発溶液の第1部分を電解槽の陽極側(6)に陽極液(1)として供給して陽極と生産金属を含有する供給材料とに接触させ、また媒介金属も含有する酸含有出発溶液の第2部分を電解槽の陰極側(8)に供給して陰極液(3)として陰極(4)に接触させる。陽極(2)に電流を流すことにより、生産金属は酸化され、陽極液(1)に溶解する。出発溶液の第2部分に含有される生産金属は、陰極側(8)で還元される。陽極液溶液および陰極溶液を沈殿室(12)に供給して、溶解し酸化された生産金属と還元された媒介金属を含有する出発溶液の第2部分とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、微粉化した金属粉の生産に関するものである。とくに、本発明は金属粉を生産する溶解・沈殿法および装置に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
一般に、多くの金属製造プロセスにおける最終産物は、陰極形態の板状物体である。この種の最終産物は、たとえば、電気分解を利用した高温冶金生産手順によって得られる。この方法では、高温冶金法で精鉱から作られた金属陽極が電気分解によって精製されて陰極銅になり、たとえば鋳造によって様々な形状の製品とすることができる。この種類の方法はとくに、銅、ニッケルまたはコバルト製品の生産に利用できる。
【0003】
しかし、金属の生産において、製造プロセスの最終産物として受け取る金属が、たとえば陰極板などの均一な固体物など以外のなんらかの形態で入手できれば、多くの場合に、たとえば後続の処理に関して有利であろう。とくに、最終産物が純粋な金属粉として入手できる方法は非常に有用であろう。
【0004】
特開2002-327289号公報において、電気分解で銅粉を生産する方法が紹介されている。その方法では、チタン陰極を含む硫酸水溶液が陽極槽に送られ、その結果、陽極槽中に溶解している銅をチタン陰極が還元して、微粉化した銅粉として陽極槽内でこれを沈殿させる。この方法の問題点は、陰極液溶液が陽極室に直接送られ、そのため陰極液溶液と陽極液溶液の混合比を効果的に制御できないことである。この方法ではまた、銅が陽極槽内に直接沈殿するため、沈殿した銅を電解装置から取り出すのがさらに困難になる。これらの問題点によって銅塊が生成されるリスクが生じ、銅粉の粒径を制御するのがさらに難しくなる。
【0005】
米国特許出願公開第2005/0023151号明細書には、電気分解で銅を硫酸銅から陰極上に沈殿させることによって銅粉を作る方法が紹介されている。その方法は第一鉄/第二鉄陽極反応を利用し、それによってこの方法のエネルギー消費量が削減される。前記公開公報には、電極を貫流する電解液によって沈殿銅粉を電極から回収する貫流装置も説明されている。米国特許出願公開第2005/0023151号明細書で説明されている方法および装置の欠点は、とりわけ、たとえば電極を含む槽内の種々の異なる位置での銅の沈殿と陰極上への銅の付着とによって、陰極からの銅の回収に信頼性がないことである。上述した欠点によって、とくに、銅粉の粒径および銅粒の形態を制御するのが困難であり、また別々の電極について均質性を得るのも困難である。しかも、陰極上への銅の直接沈殿は陰極材料および表面形態にも依存し、それによってこの方法の不信頼度が幾分増大する。
【0006】
国際公開第2008/017731号パンフレットには、金属粉の製造方法が紹介されている。この方法では、溶解している有価金属を別の金属を用いる方法で還元して有価金属粉を沈殿させる。前記方法では、前記他の金属との反応において貴金属の溶解も発生し、それによってプロセス反応速度およびその効率の制御が弱められるとともに、これに用いられる方法および装置が相当複雑になる。
【発明の目的】
【0007】
本発明の目的は、上述の先行技術の欠点を除去し、電気分解を利用した溶解・沈殿法で金属粉を製造する新しい方法および装置を示すことである。
【発明の概要】
【0008】
本発明による方法は、独立請求項1に示す事項によって特徴づけられる。
【0009】
本発明による装置は、独立請求項20に示す事項によって特徴づけられる。
【0010】
本発明の金属粉の製造方法において、溶解した生産金属と少なくとも1つの媒介金属を含有する溶液とを混合し、溶解した金属を沈殿させて生産金属粉とする。本方法では、酸含有出発溶液の第1部分を陽極液として電解槽の陽極側に送って陽極と生産金属を含む供給材料とに接触させ、酸に加えて媒介金属も含んだ出発溶液の第2部分を陰極と接触する陰極液として電解槽の陰極側に送る。陽極に電流を流すことにより、生産金属は酸化され、陽極液中に溶解される。出発溶液の第2部分に含まれる媒介金属は陰極側で還元される。陽極液溶液および陰極液溶液を沈殿室に送り、出発溶液の第1部分中に溶解している酸化された生産金属と還元された媒介金属を含有する出発溶液の第2部分とを混合する。
【0011】
本発明による装置は、溶解した生産金属粉と少なくとも1つの媒介金属を含有する溶液とを混合することによって、生産金属粉を沈殿させて金属粉を生産する装置である。本発明による装置は電解槽を含み、これは、電解槽の陽極側に配置された生産金属を溶解させて陽極液中で酸化させ、また、電解槽の陰極側に配置され溶解された媒介金属を陰極側で還元させる。本装置はさらに、電解槽とは基本的に独立して配置された沈殿室と、陽極液溶液および陰極液溶液をそれぞれ電解槽の陽極側および陰極側から沈殿室に供給し、陽極液に溶解されている酸化された生産金属と還元された媒介金属を含む陰極溶液とを混合する手段とを含む。
【0012】
本発明の利点の一例を挙げれば、沈殿する生産金属粉の粒径の良好な制御性である。これは、陽極液溶液および陰極溶液を独立した沈殿室に送って混合することにより可能となり、その場合に前記溶液の混合比が容易かつ正確に制御でき、またプロセス条件に応じて最適化できる。さらに、沈殿ステップを電極の近傍から離れた独立の沈殿室で行う場合、沈殿プロセスおよび沈殿物の収集における電極の影響を最小化することができ、その結果、プロセスの信頼性が改善される。また、生産金属沈殿物の回収がより簡単になるとともに、信頼性が高まる。適切な混合比および効果的な沈殿物の回収によって、沈殿ステップにおける生産金属塊の生成を防止することができ、その結果、生産金属粉中の粒子サイズを均一にできる。また、適切な混合比によってより効率的なプロセスの実現が容易になり、これを利用して、一定量の生産金属を生産するプロセスにおける必要エネルギー量を削減することができる。
【0013】
とくに明記しない限り、本文書において「陽極側」および「陰極側」という表現はそれぞれ、陽極または陰極の近傍で陽極液または陰極液を含む電解槽の部分を示す。「陽極側」または「陰極側」は電解槽の一様な部分である必要はなく、「陽極側」または「陰極側」はそれぞれ、陽極または陰極と陽極液または陰極液を含むいくつかの互いに離れた要素から構成されていてもよい。
【0014】
とくに明記しない限り、本文書において「隔壁」という表現は、薄膜、産業織物等の適切なフィルムまたは機械的な障害物を示す。
【0015】
とくに明記しない限り、本文書において「酸化状態」、「酸化レベル」という表現または類似の表現は、原子が単独で存在するか、または見掛け上分子内にある電荷レベルを示す。したがって、「酸化状態」、「酸化レベル」という表現または類似の表現は、原子の見掛けの電荷を示すこともできる。
【0016】
本発明の一つの実施形態では、出発溶液の第1部分は、陽極側で生産金属の溶解を促進するための媒介金属を含有する。本発明の一つの実施形態では、陽極液溶液と陰極液溶液の混合の結果として生成された循環溶液の第1部分が陽極液に戻される。本発明の一つの実施形態では、出発溶液の第1部分は循環溶液の第1部分からなる。さらに、本発明の一つの実施形態では、陽極液溶液と陰極液溶液の混合の結果として生成された循環溶液の第2部分が陰極液に戻される。さらに、本発明の一つの実施形態では、出発溶液の第2部分は循環溶液の第2部分からなる。加えて、本発明の一つの実施形態では、循環溶液は基本的にはすべて電解液に戻され、その場合、循環溶液は基本的に循環溶液の第1部分および循環溶液の第2部分からなる。出発溶液の第1部分から形成される陽極液溶液と出発溶液の第2部分から形成される陰極液溶液を混合する場合、酸化され陽極液中に溶解していた生産金属が還元され、また陰極液中で還元されていた媒介金属が酸化されるので、生産金属粉が生成される。得られた循環溶液は、本発明の実施形態の一つにおけるプロセスで使用される装置内に再循環され、混合ステップの後で、生産金属沈殿物が溶液から分離された後、循環溶液は部分的にまたは全面的に陽極液および/または陰極液に戻される。そこで媒介金属は陰極液中で再び還元される。したがって、陰極液中での媒介金属の電解再生が実現でき、それは、本発明のいくつかの実施形態では、媒介金属を含有する新たな溶液をプロセスに供給することを基本的に必要としないことを意味している。また、本発明のいくつかの実施形態において陽極液も媒介金属を含有する場合、たとえば比較的酸含有量が少なく、電流と酸溶液の複合効果による溶解が十分でないようなプロセス条件において、前記媒介金属は生産金属の溶解を強める。
【0017】
本発明の一つの実施形態では、陽極液と陰極液は導電性隔壁によって機械的に分離される。本発明の一つの実施形態では、電解槽は、陽極側と陰極側を機械的に分離するための導電性隔壁を陽極側と陰極側の間に備えている。
【0018】
さらに、本発明の一つの実施形態では、陽極液と陰極液の混合の進行を防止するために、陽極液と陰極液を分離する2つの隔壁の間に導電性のセパレータ溶液が送られる。本発明の一つの実施形態では、電解槽は、電解槽の陽極側と陰極側の間に設けられた2つの導電性隔壁を備え、2つの隔壁の間の空間に置かれた導電性セパレータ溶液によって機械的に陽極側と陰極側を分離する。
【0019】
沈殿ステップを電解槽から効果的に分離し、このステップを管理された方法で、かつ原則的にすべて分離された沈殿室で実現するために、陽極液および陰極液は、本発明の一つの実施形態では、導電性隔壁によって分離できる。本文書において、「導電性隔壁」という用語は、電解槽の効果的運転を促進する程度に導電性を持つ隔壁を示す。しかし、本発明のいくつかの実施形態では、隔壁の導電率は、隔壁によって機械的に分離されているそれらの溶液の導電率より低くてよい。したがって隔壁の目的は、隔壁の両側に配置されている溶液を機械的に分離する、すなわち機械的な障壁として役目を果たすと同時に、電解槽が効果的に機能できる程度に導電性を持つことである。この隔壁によって電解槽は、陽極液が配置される陽極部分(陽極側)と陰極液が配置される陰極部分(陰極側)とに分割される。このように、陽極反応および陰極反応を乱すことなく陽極液および陰極液を混合することはできず、電解槽内のこれら電極の近傍で金属粉を形成することはできない。陽極と陰極の分離をさらに強化するためには、陽極側と陰極側の間に2つの分離隔壁を用いることが可能であり、セパレータ溶液を前記隔壁の間に供給することができる。
【0020】
本発明の一つの実施形態では、生産金属は銅である。本発明の一つの実施形態では、生産金属は、ニッケル、コバルト、亜鉛、銀、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、マンガン、ジルコニウム、錫、カドミウムおよびインジウムからなる群から選択される。
【0021】
本発明の一つの実施形態では、媒介金属はバナジウムである。さらに、本発明の一つの実施形態では、媒介金属はチタン、クロムおよび鉄からなる群から選択される。さらに、本発明の一つの実施形態では、媒介金属は、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、タングステン、水銀、ゲルマニウム、砒素、セレン、錫、アンチモン、テルルおよび銅からなる群から選択される。本発明の種々の実施形態では、生産金属および媒介金属は、種々の異なるプロセスパラメータ、とくに電解液のpH(すなわち酸素含有量)に基づいて1つの群のなかから選択できる。本発明の説明に基づき、当業者は上記のリスト群の中からある特定の生産金属のための好適な媒介金属を日常試験によって見つけることができる。とくに、本発明の一つの実施形態では、選択された媒介金属がバナジウムの場合、たとえば銅粉が効率的かつ確実に生産できることがわかっている。
【0022】
本発明の一つの実施形態では、生産金属を含有する供給材料は陽極に配置される。さらに、本発明の一つの実施形態では、電解槽の陽極側に配置される生産金属は電解槽の陽極に設置される。生産金属を含有する供給材料を陽極に設置する場合、単位時間に生産金属を通過する電流量、およびその結果、単位時間に溶解する生産金属の量も、効率的に制御できる。本実施形態の利点は、電気を用いて溶解反応をとくに正確に制御することであり、ファラデーの法則により、与えられた期間中の使用電気量に応じて生産金属は正確に溶解する。加えて、陽極液中に溶解する生産金属量は陽極を流れた電荷に直接比例するため、溶解ステップにおける反応速度は迅速である。このように、陽極液中に溶解される生産金属量も効率的かつ正確に制御され、それによってプロセス動特性のより精密な制御および信頼性の向上が促進される。
【0023】
本発明の一つの実施形態では、生産金属を選択して、出発溶液の第1部分に含有される酸の可溶性塩としてこの選択された生産金属が陽極液に溶解するようにする。
【0024】
本発明の一つの実施形態では、電解液中に含有される生産金属および/または媒介金属の酸化を防ぐため、電解液を無酸素環境に置く。これによって電解液の酸含有率の制御がより容易となり、これは、プロセスにおける様々な溶液で起こりたとえば生産金属および/または媒介金属を含む化学反応の平衡をより正確に調節できることを意味し、こうして、とくにプロセスの信頼性と効率が改善される。
【0025】
本発明の一つの実施形態では、出発溶液は硫酸を含有する。さらに、本発明の一つの実施形態では、出発溶液中の硫酸濃度は少なくとも50 g/1、好ましくは50 g/1〜1,500 g/1の範囲内である。本発明の一つの実施形態では、出発溶液は塩酸または硝酸を含有する。さらに、本発明の一つの実施形態では、出発溶液中の塩酸濃度は15 g/1〜500 g/1の範囲内である。さらに本発明の一つの実施形態では、出発溶液は塩酸に加えてアルカリ塩化物も含み、アルカリ塩化物の出発溶液中の濃度は15 g/1〜500 g/1の範囲内である。出発溶液中の酸の適合性は、とりわけ、当該供給材料、生産金属および媒介金属に依存する。本発明のいくつかの実施形態では、出発溶液は2種類以上の酸を含んでよい。本発明の説明に基づき当業者は、日常試験によって、ある特定の供給材料、生産金属および媒介金属に好適な酸、ならびに上記酸の好適な含有量を見出すことができる。とくに、本発明のいくつかの実施形態では、媒介金属がバナジウムの場合、出発溶液の硫酸含有量が少なくとも50 g/1であれば、銅陽極の効率的酸化とその陽極における溶解が生じることがわかっている。好適な酸および該酸の含有量を選択して、媒介金属の酸化ではなく、生産金属が供給材料から陽極液に溶解するようにしなければならない。したがって陽極液のpH(すなわち酸素含有量)が適切でなければならない。用いられる生産金属が銅で、媒介金属がバナジウムの場合、酸素含有量は可能な限り高くなければならない。
【0026】
本発明の一つの実施形態では、電解槽は、隔壁によって画成される少なくとも1つのバッグを備え、陽極液および/または陰極液をバッグ内に制限する。さらに、本発明の一つの実施形態では、電解槽は、2つの隔壁間に残された空間からセパレータ溶液を陽極側および/または陰極側に送る手段を備えている。
【0027】
上述した本発明の実施形態は互いに自由に組み合わせることができる。一つの新しい実施形態を作るために、いくつかの異なる実施形態を組み合わせることができる。本発明の関係する方法または装置は、上述の本発明の実施形態を一つまたは複数含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下の明細書において、添付図面を参照して本発明を説明する。
【図1】本発明の方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の装置の一実施形態の概略図である。
【図3】本発明の方法の一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図4】本発明の装置の電解槽の一実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態によって生産された銅粉の走査型電子顕微鏡画像(SEM画像)を示す図である。
【0029】
単純化するため、本発明の様々な要素を指す参照番号でも、繰返し図示される同様の要素については同一としている。
【発明の詳細な説明】
【0030】
図1による方法の一実施形態の準備段階S1において、高電位値(すなわち高酸化状態にある)媒介金属を含有する酸含有出発溶液、電解質溶液が生産され、電解槽内の陽極側および陰極側の両方に供給される。本方法では、陰極側に供給される出発溶液の少なくとも第2部分が高電位値の前記媒介金属を含有していることが不可欠であるが、それは、ステップS2において、陰極液中で媒介金属の低電位値への(すなわち、低酸化状態への)還元、すなわち媒介金属の再生が行われるからである。また、出発溶液の第1部分、すなわち陽極液として供給される部分が高電位値の媒介金属を含んでいてよい。本発明のいくつかの実施形態においては、出発溶液は2種類、または数種類の異なった媒介金属を含んでよい。本発明のいくつかの実施形態では、出発溶液の第1および第2部分は同一組成である。本手順によって、プロセス開始後に電解液の組成が変ってしまう可能性が最小化されるが、それはプロセスの操作点がより速く安定化し、プロセスの制御性が改善することを意味している。
【0031】
本方法における好適な媒介金属の種類は基本的に、選択された生産金属に依存し、これは、ステップS2で陽極液に溶解され、その後、混合ステップS3で沈殿して粉状になるものである。媒介金属と選択された生産金属とによって、本方法に好適な出発溶液の他の特性、とくに溶液に含まれる酸、および溶液中の上記酸の含有量が定められる。たとえば、pH値は、一般的なプロセス条件において、陽極側で生産金属の酸化およびその陽極液への溶解が媒介金属の陽極液中の酸化よりも有利に実行されるものでなければならない。この種のプロセス状態、すなわち機能領域は、生産金属と媒介金属の多くの異なる組合せについて見出すことができる。本発明の説明と種々の異なる媒介金属および生産金属のプールベ図とを踏まえると、これらの機能領域を見つけることは、当業者にとって日常の試験業務である。
【0032】
出発溶液は多くの異なる方法によって生産でき、とくに、好適な媒介金属に依存する。一つの方法は、たとえば所望の媒介金属を含有する酸化物を好適な酸の水溶液に溶解させることである。必要であれば、出発溶液の酸含有率および溶解した媒介金属の酸化数は出発溶液に適するように後で調節できる。媒介金属の酸化数の調節は、たとえば電解によって行うことができる。
【0033】
ステップS1で出発溶液が形成されると、出発溶液は電解液として電解槽に供給されるが、電解槽では生産金属を含有する供給材料が陽極側に配置されている。図1の方法において、ステップ1の後、ステップ2では電解槽の陽極側で生産金属が供給材料から陽極液に溶解し、同時に生産金属は酸化され、陰極側では出発溶液の媒介金属が高電位値から低電位値に還元される。生産上の考慮から、とくに、溶液中の媒介金属含有量および溶解した生産金属含有量は多ければ多いほど有利である。そのため、媒介金属および/または溶解した生産金属の含有量が少ない状況に比べて、混合ステップS3では一定容積の溶液からより多くの沈殿した生産金属粉が得られる。
【0034】
図1の方法は図2に概要を示した装置によって実現でき、この装置では、用いられる供給材料が陽極2として存在し、これによって生産金属の溶解における迅速な反応速度が提供されるとともに、陽極2を流れる電荷に供給金属の溶解が直接比例する。溶解反応は電気を用いることでとくに正確に制御できるので、ある一定の期間内に、陽極上で溶解され酸化された生産金属の質量は、ファラデーの法則によって使用電気量に正確に比例する。陰極上では、それぞれ等モル量の媒介金属が再生(還元)される。図2の装置はまた、陰極4、電解槽の陽極側6、陰極側8、陽極液ろ過装置10、沈殿室12、セパレータ装置16、循環溶液の清浄化装置18を備えている。陽極液1と陰極液3は、中間スペース11に置かれた導電性セパレータ溶液5および中間スペースを画成する2つの導電性隔壁7によって機械的に隔離されている。その目的は、陽極側で生成された生産金属陽イオンと陰極側で低電位値に還元された媒介金属が電解槽内で互いに確実に接触しないようにすることである。このように生産金属粉は電解槽の陽極側または陰極側に直接沈殿することはできないが、もし沈殿すれば、たとえば生産金属粉の粒径やプロセス効率の点でプロセスの制御性を弱め、さらに生産金属粉の回収が一層困難になるであろう。陽極液1と陰極液3の分離を改善するためには、中間スペース11に供給されたセパレータ溶液5は陽極液1および陰極液3よりも高い静液圧に維持することもできる。
【0035】
ステップS2の後、ステップS3において、陽極液溶液は電解槽の陽極側から、また陰極液溶液は電解槽の陰極側から、たとえば適切なパイプまたは他の方法で、電極2および4から離れた位置から、適切な比率で沈殿室12に送られる。陽極液溶液および陰極液溶液は隔離された沈殿室12に送られるため、溶液の混合比は容易かつ正確に制御でき、混合比はプロセスの状態に応じて最適化できる。適切な混合比および効果的な沈殿物の回収によって、沈殿ステップにおける生産金属塊の生成が防止でき、その結果、生産金属粉14に含まれる生産金属粒子のサイズの均一性が確保される。適切な混合比によって効率の良いプロセスも容易となり、それによって一定量の生産金属を生産するプロセスにおいて必要なエネルギー量が削減されることになる。
【0036】
沈殿室12において、混合されたか、または連続的に混合され得る陽極溶液および陰極溶液が沈殿室12に送られる。陽極液溶液を沈殿室12内に送る前に、陽極液溶液から、本発明のいくつかの実施形態では、目的に適した陽極液ろ過装置10で金属不純物および/または生産金属沈殿プロセスを阻害する含有可能性のある不純物を取り除くこともできる。混合プロセスの結果、陽極液溶液の酸化された生産金属が還元されて沈殿され、固形物生産金属粉14になり、同時に陰極溶液中で還元された媒介金属が酸化されて高電位値に戻る。得られた循環溶液から、ステップS4において、目的に適したセパレータ装置16で、たとえば循環溶液を遠心分離することによって生産金属が分離される。
【0037】
生産金属粉14が回収されると、生じた循環溶液はステップS5で電解槽に再循環され、一部が陽極液1に、また一部が陰極液3に戻される。循環溶液が電解槽に送り戻される前に、循環液中に残されている可能性のある溶解した生産金属や生産金属粉がこの目的に適した清浄化装置18で除去される。清浄化操作は、たとえば電解による還元およびろ過で実行できる。循環溶液を電解槽に再循環させる前に、溶解した生産金属および沈殿した生産金属の両方を循環溶液から徹底的に除去することは、プロセスの信頼性、プロセス効率の改善、および生産金属粉の粒子サイズの制御性にとって有用である。
【0038】
上述の方法において、循環溶液の組成物は基本的に出発溶液の構成物と同一であるが、これは、沈殿において、媒介金属は出発溶液の値に戻るまで酸化され、陽極側の陽極液1に溶解されていた生産金属は沈殿され溶液から分離されているからである。したがって、本方法によって生じた循環溶液は出発溶液として再使用できる。もし循環溶液の陽極液および陰極液への再循環も、ステップS3で対応する電解液が陽極側および陰極側から沈殿室に供給された時に適用されたのと同じ比率で実行されれば、別途に陽極側6への溶液の追加あるいは陽極側6からの溶液の取出し、または陰極側8への溶液の追加あるいは陰極側8からの溶液の取出しを行う必要のない基本的に閉鎖された電解液循環を、プロセスで用いることができる。
【0039】
実際には、図1の方法は一般に連続電解液循環として実現されて、その結果、装置の電解溶液(循環電解液)の再循環が停止するまで、または供給材料(陽極2)に含まれる生産金属が電解槽にすべて溶解するまで、沈殿室12には循環溶液から分離して回収すべき生産金属粉14が連続的に堆積する。生産金属粉14をそれ以上生産する必要がない場合、または電解槽の陽極側6の供給材料の生産金属を使い切った場合、回収した生産金属粉14はステップS6の最終処理で処理し、プロセスは停止する。本発明のいくつかの他の好適な実施形態では、回収した生産金属粉14の最終仕上げは、プロセスの他のステップと同時に、生産金属粉14を分離し最終処理装置(図示せず)へ供給する過程で実行できる。
【0040】
図3の例において、ブロック図で示してあるように、用いられる媒介金属はバナジウムで、その高電位値は陽イオンV3+である。用いられる生産金属は銅で、陽極2として使用される供給材料中にある。バナジウム媒介金属陽イオンV3+を含有する出発溶液は、たとえば酸化バナジウムV2O3を、たとえば硫酸水溶液に溶解させることによって生産できる。陽イオンV3+を水溶液中に含有する出発溶液、その硫酸含有量はたとえば50g/l〜1500g/lであるが、上記溶液が形成されると、その第1部分は陽極液1として電解槽の陽極側6に、またその第2部分は陰極液3として陰極側8に供給される。電解槽に電流が流れると、陽イオンV3+は陰極側8において陰極液3中で陽イオンV2+に還元され、銅は陽極2から酸化された陽イオンCu2+として陽極液1に溶解する。その結果、陽極反応はCu0 -> Cu2+ 2e-、陰極反応はV3+ + e- -> V2+となる。
【0041】
銅の溶解およびその陽極液1中での酸化において、本発明のいくつかの実施形態では相当する反応に媒介金属が関与する場合があり、たとえば酸含有量がかなり低く、単なる電流と酸溶液の複合効果による溶解と酸化が十分でないようなプロセス条件において、溶解と酸化の両方が改善される。しかし、どのように媒介金属が生産金属の溶解および酸化に関与するかという正確なメカニズムは、選択された生産金属および媒介金属に依存する。上述の例において、生産金属が銅で、媒介金属がバナジウムの場合、バナジウムは陽極側6でV3+状態よりもさらに高位の中間酸化状態V5+まで酸化される場合があり、その後V5+は銅と反応し、銅を酸化および溶解させる。そこで「過酸化した」V5+は還元されて、その本来の高電位値V3+に戻る。陽極側6において、相当する中間酸化状態への「過酸化」は、バナジウム以外の媒介金属についても可能である。
【0042】
その後、陽極液溶液および陰極液溶液は適切な比率、たとえば1 : 3の比率で沈殿室12に送られて混合され、そこで銅は反応2V2+ + Cu2+ -> 2V3+ + Cu0によって沈殿する。この沈殿反応に基づいて、溶液中に存在するすべての陽イオンV2+およびCu2+を銅の沈殿に関与させるために、陽極液および陰極液は理論上、混合比1 : 2である必要がある。最適な混合比は、陽極反応の反応状態および電流効率ならびに陰極反応の反応状態および電流効率に依存する。
【0043】
プロセスの効率性および信頼性に関して、循環溶液に目立った量の陽イオンV2+および/またはCu2+が確実に残らないようにすることが有用である。本発明のいくつかの実施形態では、たとえばすべての陽イオンCu2+を沈殿反応で確実に消滅させようとすることは有利であり、その場合に陽イオンと陰イオンの実際の混合比は1 : N( N > 2)となり得る。しかし、パラメータNの値もまた、循環液が電解槽に戻される前にどの程度清浄化されるかに依存する。本発明の説明に基づいて適切な混合比を見出すことは、当業者にとって明白な日常試験である。
【0044】
銅が沈殿して粉14になり、セパレータ装置16によって残りの溶液から分離されると、残りの循環液は清浄化装置18によって浄化され、分離プロセス中の溶液に残されている可能性のある銅を、固形物および溶解して沈殿しなかった陽イオンCu2+の両方とも、除去する。清浄化は電解による沈殿およびろ過で実行できる。前記化学的および機械的清浄化の後では、残りの循環溶液は出発溶液と基本的に同一の組成であり、沈殿反応の結果、水溶液中にバナジウム陽イオンV3+および硫酸を含有している。循環溶液は再度適切な比率の陽極側6の陽極液1と陰極側8の陰極液3に分けられる。上述の再生の後、この循環電解液は、更なる/新たな銅粉14を沈殿させる装置および方法を経て、再度沈殿室12に送ることができる。
【0045】
溶液から分離された固形生産金属粉14には、仕上げ処理装置で仕上げ処理が行われる(図1、ステップS6)。最終産物の所望の特性に依存して、分離および仕上げ処理プロセスには多くの異なるステップを含んでよい。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、循環電解液から分離された生産金属粉14は水洗浄して、溶液から随伴した不純物を最少にする。その後、生産金属粉は乾燥され、とくに粉の酸化を防止するために保護層で被覆される。沈殿した生産金属粉14の循環溶液への再溶解を最少にするため、セパレータ装置16によって生産金属粉14を循環電解液から分離することが有用であり、沈殿反応後できるだけ早く洗浄することが望ましい。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、生産金属粉14はいくつかの分離洗浄操作を受ける。洗浄操作と洗浄操作の間では、生産金属粉14は洗浄液から分離される。本発明の一つの実施形態では、セパレータ装置16から得られ遠心分離によって循環電解液から分離されたもののまだ湿っている生産金属粉14は、質量混合比1 : 20(湿った生産金属粉14が1質量部、また水が20質量部)で水に混合される。混合操作と混合操作の間では、生産金属粉14は洗浄液から分離される。
【0048】
洗浄装置の的確な構造および操作は大きく変わることもあり得るが、本発明の説明を踏まえれば、当業者にとってそのような装置の製造は自明である。本発明のある好適な実施形態では、いくつかの連続した洗浄操作を実現する洗浄装置は、たとえばベルト型装置でよく、これは、湿った生産金属粉14をコンベヤベルト上に注ぎ、コンベヤベルトは生産金属粉14を洗浄液に運び、そこから生産金属粉を次のコンベヤベルトなどに注ぐものである。生産金属粉14が洗浄液から分離されると、すなわち生産金属粉を含有する洗浄液がコンベヤベルトに注がれると、生産金属粉14の沈降が生じる。
【0049】
上記の実施例に加えて、あるいはそこに記載されている手順に代えて、分離された生産金属粉は当然、多くの既知の方法、たとえばサイフォンを用いて洗浄することもできる。
【0050】
電解槽の陽極側で生産金属を溶解および酸化させるため、また電解槽の陰極側で媒介金属を還元させるため、種々の異なった電解槽構造が設計できる。図4に概略的に示した電解槽構造は、信頼性のある方法で効率よく生産金属粉14を生産する装置において使用できる。
【0051】
図4の電解槽において、陽極側6、陰極側8ともに数個のセクション、すなわち隔壁7によって画成された隔壁バッグを備えている。各隔壁バッグは、陽極2または陰極と陽極液1または陰極液3をそれぞれ含んでいる。もちろん陽極2および陰極4は電源(図示せず)に接続されている。各隔壁バッグの間には、導電性セパレータ溶液5が供給され、本発明の一つの実施形態においては、適切な高電位値、すなわち酸化状態の媒介金属を含有し、上述の実施例の場合、セパレータ溶液5は、たとえばイオンV3+を含有する場合がある。
【0052】
また、図4の電解槽は、隔壁バッグの間に残された中間スペース11にセパレータ溶液を供給するための供給管9と、セパレータ溶液4用オーバーフロー導管13と、陽極液溶液および陰極液溶液用排液導管15と、保護膜17とを備えている。図4の電解槽は別の装置、たとえば沈殿室12(図4には示さず)に排液導管15および供給管9によって接続することができる。
【0053】
本発明の一つの実施形態では、セパレータ溶液5は出発溶液としての役目を果たし、その場合、セパレータ溶液5の組成は出発溶液の組成と同一である。そこで、出発溶液は、供給管9に設けられた開口を通して図4に示された電解槽の中間スペース11に供給することができる。中間スペース11からセパレータ溶液5は、隔壁7に設けられた打抜き穴を通って陽極液1および陰極液3として隔壁バッグに流れる。それに加えて、またはそれに代わって隔壁は、半透過性であってセパレータ溶液5(出発溶液)が陽極液1および/または陰極液3として隔壁7を制御された状態で貫流するようにしてもよい。陽極反応および陰極反応は上述の方法で隔壁バッグ内で起こる。還元された媒介金属を含有する得られた陰極液溶液も、また溶解すなわち酸化された生産金属を含有する陽極液溶液も、たとえば排液口15を通して沈殿室12に送ることができる。本発明のいくつかの実施形態では、排液口15は過剰な電解液を装置から取り出すためのオーバーフロー導管としての役目を果たすことができ、その場合、陽極液溶液および/または陰極液溶液は、別のルート、たとえばこの目的のために設けられた吸入口を通って沈殿室12に送ることができる。沈殿室12で生成された循環溶液は、今度は、清浄化ステップがあればその後、たとえば供給管9を通って中間スペース11へ、さらには陽極液1および/または陰極液3に再循環することができる。
【0054】
図4に示された電解槽の隔壁7の透過性、または隔壁7に設けられた打抜き穴のサイズを調節することによって、単位時間に陽極側6および/または陰極側8を貫流する溶液量を効率的に制御できる。隔壁7の透過性は、陽極側6の隔壁7および/または陰極側8の隔壁7について別々に選択できる。中間スペース11に単位時間あたり供給される溶液量との関連において、隔壁7を通して隔壁バッグの陽極側6および/または陰極側8に流入できる溶液量を適切に制御することによって、中間スペース11に置かれたセパレータ溶液5の静水圧をセパレータ溶液5内に配置された隔壁バッグ内に含まれる電解液の静水圧よりも高くなるよう調節できる。このようにして、電解液が隔壁7を通って隔壁バッグから中間スペース11に向う望ましくない流れを防止できる。オーバーフロー導管13の寸法を適切に計画、たとえばオーバーフロー導管を適切な高さに配設することによって、図4によれば、確実に中間スペース11と陽極側6および/または陰極側8の静圧差が大きくなり過ぎずに、余分なセパレータ溶液がオーバーフロー導管13を通って電解槽外へ流出するようにできる。排液口15の寸法および配置をそれぞれ計画することによっても、前記静圧差の形成に影響を及ぼすことができる。隔壁7に設けられることのある打抜き穴の直径が大きい場合、隔壁7の透過性とともに、前記静水圧差は基本的に、単位時間に陽極側6および陰極側8を貫流する溶液量を決定する。本発明の説明に基づけば、上述の電解槽寸法の設計および打抜き穴の配置は、当業者にとって明白な日常試験である。
【0055】
上述したように、本発明のいくつかの実施形態では、出発溶液および/または循環溶液を直接陽極側6および/または陰極側8、たとえば隔壁バッグに直接供給する必要はなく、基本的に装置内のすべての溶液は中間スペース11を通って循環する。溶液に対して完全に不透過性となるような隔壁7を選択した場合、循環溶液および/または出発溶液は、中間スペース11経由ではなく、陽極側6および/または陰極側8、たとえば隔壁バッグに直接供給することができる。本発明のいくつかの別の実施形態では、隔壁7の代わりに、たとえばある種のイオンのみ透過させるイオン選択性膜を使用できる。
【0056】
図4の電解槽において、電解槽構造体は保護膜17によって覆われている。そこで、空気または周囲環境によって起こり得る酸化を防止するため、中間スペース11をたとえば窒素ガスまたは他の不活性ガスで加圧することができる。酸化を防止するため、隔壁バッグも密閉し、窒素で加圧することができる。
【0057】
図4の電解槽構造によって電解槽中の陽極液と陰極液の信頼性のある隔離が出来、それによって酸化および/または還元反応の進行が減少する。その結果、図4の電解槽構造を用いることにより、本方法において高効率が達成される。さらに、電解槽における生産金属粉の沈殿の進行リスクも減少し、それによって本方法の信頼性が向上し、本装置の維持管理が容易になる。
【実施例】
【0058】
図3に示すブロック図による方法を適用することにより、基本的には図2に示すタイプに相当する装置において、陽イオンV3+を含む硫酸の水溶液を出発溶液として使用することで銅粉を製造した。この出発溶液において、測定した硫酸濃度は約500 g/1、測定したバナジウム濃度は16 g/1であった。用いた供給材料はクラスAの陰極銅板で、これは電解槽の陽極としての役目も果たした。用いた陰極は鉛板で、大きさは275 mm x 130 mmであった。試験条件において、溶液温度はおおよそ20〜35℃であった。
【0059】
出発溶液は電解槽に供給し、電解槽にて銅陽極は酸化し、陽極液に溶解した。測定した銅溶解量はおおよそ4 g/1であった。その後、陽極液溶液は陽極側から、また陰極液溶液は陰極側から沈殿室に送り、沈殿室はこの実施例ではガラス瓶であった。陽極液溶液と陰極液溶液の混合比は1 : 3であった。混合操作の結果として、上記の説明のように、銅粉が沈殿室内で形成された。得られた銅粉の電子顕微鏡画像を図5に示し、この画像から、たとえば銅粒子の粒径分布はかなり均質であり、大きな粒子塊は生成されず、粒子の平均粒径はマイクロメートル領域を下回ることが観察できる。
【0060】
本発明を説明するいくつかの実施例および実施形態は、銅粉の製造方法として上述したが、本発明の種々の実施形態を摘用する場合、当業者はこの発明の説明に基づいて容易に銅以外の金属の粉を製造できる。同様に、この発明の説明に基づき、当業者は、本発明の種々の実施形態において、上述の実施例に用いられたもの以外の媒介金属および/または酸を容易に使用できる。本発明は上述の実施例だけに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内で多くの異なる修正形態にて実現できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの媒介金属を含有する溶液と溶解した生産金属とを混合し、該溶解した生産金属を沈殿させて生産金属粉(14)とする金属粉の製造方法において、該方法は、
酸含有出発溶液の第1部分を陽極液(1)として電解槽の陽極側(6)に送り、該陽極(2)および生産金属を含有した供給材料と接触させ、酸に加えて媒介金属も含有する前記酸含有出発溶液の第2部分を陰極液(3)としての前記電解槽の陰極側(8)に送って陰極(4)と接触させ、
前記陽極(2)に電流を流すことによって前記生産金属を酸化して前記陽極液(1)中に溶解させ、
前記出発溶液の第2部分に含有される前記媒介金属を前記陰極側(8)で還元し、
陽極液溶液および陰極液溶液を沈殿室(12)に送って前記出発溶液の第1部分に溶解された前記酸化された生産金属と、還元された媒介金属を含有する前記出発溶液の第2部分とを混合することを特徴とする金属粉の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記出発溶液の第1部分は媒介金属を含有し、前記陽極側の生産金属の溶解を促進することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれかに記載の方法において、前記陽極液溶液と陰極液溶液の混合によって生じた前記循環溶液の第1部分を陽極液(1)に戻すことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記出発溶液の第1部分は前記循環溶液の第1部分からなることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3ないし4のいずれかに記載の方法において、前記陽極液溶液と陰極液溶液の混合によって生じた前記循環溶液の第2部分を陰極液(3)に戻すことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記出発溶液の第2部分は前記循環溶液の第2部分からなることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5ないし6のいずれかに記載の方法において、前記循環溶液を基本的にすべて電解液に送り戻して、前記循環溶液を基本的に前記循環溶液の第1部分および第2部分とすることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、前記陽極液(1)と前記陰極液(3)を導電性隔壁(7)によって機械的に分離することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法において、前記陽極液(1)と前記陰極液(3)の混合が進行するのを防止するため、セパレータ溶液(5)を前記陽極液(1)と前記陰極液(3)とを分離する前記2つの隔壁(7)の間に送ることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法において、前記生産金属は銅であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法において、前記生産金属はニッケル、コバルト、亜鉛、銀、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、マンガン、ジルコニウム、錫、カドミウムおよびインジウムからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、前記媒介金属はバナジウムであることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、前記媒介金属はチタン、クロムおよび鉄からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法において、前記媒介金属はマンガン、ジルコニウム、モリブデン、テクネチウム、タングステン、水銀、ゲルマニウム、砒素、セレン、錫、アンチモン、テルルおよび銅からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の方法において、前記生産金属を含有する供給材料は前記陽極(2)に位置することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載の方法において、前記生産金属を選択して、前記出発溶液の第1部分に含有される前記酸の可溶性塩として前記選択された生産金属を前記陽極液(1)に溶解させることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載の方法において、前記出発溶液は硫酸を含有することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかに記載の方法において、前記出発溶液中の硫酸含有量は少なくとも50g/l、好ましくは50g/l〜1500g/lであることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載の方法において、前記出発溶液は塩酸または硝酸を含有することを特徴とする方法。
【請求項20】
溶解した生産金属と少なくとも1つの媒介金属を含有する溶液と混合させることによって生産金属粉(14)を沈殿させることで金属粉を生産する装置において、該装置は電解槽を含み、該電解槽は、該電解槽の陽極側に配置された前記生産金属を溶解してこれを陽極液中で酸化し、また前記電解槽の陰極側(8)に配置された溶解した前記媒介金属を還元し、該装置はさらに、基本的に前記電解槽と分離された沈殿室(12)と、陽極液溶液および陰極液溶液をそれぞれ前記電解槽の陽極側(6)および該電解槽の陰極側(8)から前記沈殿室(12)に供給して前記陽極液に溶解した前記生産金属と前記還元された媒介金属を含有する前記陰極液溶液を前記電解槽の外部から混合する手段とを含むことを特徴とする金属粉の生産装置。
【請求項21】
請求項20に記載の装置において、前記電解槽は、該電解槽の前記陽極側(6)と前記陰極側(8)の間にあって該陽極側(6)と該陰極側(8)を機械的に分離する導電性隔壁(7)を含むことを特徴とする生産装置。
【請求項22】
請求項20ないし21のいずれかに記載の方法において、前記電解槽は、該電解槽の前記陽極側(6)と前記陰極側(8)の間に2つの導電性隔壁(7)を含み、該導電性隔壁は、前記2つの隔壁(7)の間の残されたスペースに配された導電性セパレータ溶液(5)を用いて前記陽極側(6)と前記陰極側(8)を機械的に分離することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20ないし22のいずれかに記載の方法において、前記電解槽の陽極側(6)に供給された前記生産金属は該電解槽の陽極(2)に配置されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項20ないし23のいずれかに記載の方法において、前記電解槽は、前記隔壁(7)によって画成され内部に前記陽極液および/または陰極液を保持する少なくとも1つのバッグを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項20ないし24のいずれかに記載の方法において、前記電解槽は、セパレータ溶液を前記2つの隔壁(7)の間に残されたスペースから前記陽極側(6)および/または前記陰極側(8)に送る手段を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項20ないし25のいずれかに記載の方法において、前記電解液は、無酸素環境に置かれて該電解液中に含有する前記生産金属および/または媒介金属の酸化を防止することを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−518189(P2013−518189A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550483(P2012−550483)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/FI2011/050056
【国際公開番号】WO2011/092375
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(507221324)オウトテック オサケイティオ ユルキネン (33)
【氏名又は名称原語表記】OUTOTEC OYJ
【Fターム(参考)】