説明

金属粉末、導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサ

【課題】平均粒径が小さくかつ粒径の分布が狭い金属粉末であって、構成する各金属粒子の表面の平滑性が優れた金属粉末を提供することを目的とする。
【解決手段】金属粉末は、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記載する。)による測定に基づいて算出された平均粒径をD50SEMとし、BET法により算出された平均粒径をD50BETとするとき、以下の式(1)および式(2)をともに満たす金属粉末。D50SEM≦200nm…(1),D50SEM/D50BET≦2…(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末、導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサに関する。特に、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる導電性ペースト用の導電性微粉末として好適な金属粉末、金属粉末を用いた導電性ペースト、及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末は、種々の分野で使用されており、厚膜導電体の材料として、積層セラミック部品の電極等の電気回路の形成に使用されている。例えば、積層セラミックコンデンサ(Multi−LayerCeramic Capacitor:MLCC)の内部電極層は、金属粉末を含む導電性ペーストを用いて形成されている。
【0003】
この積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の導電層(内部電極層)とを、圧着により交互に積み重ね、これを焼成して一体化することにより、積層セラミック焼成体としたセラミック本体と、当該セラミック本体の両端部に一対の外部電極を形成したものである。
【0004】
より具体的には、例えば、金属粉末を、セルロース系樹脂等の有機バインダーをターピネオール等の溶剤に溶解させた有機ビヒクルと混合し、三本ロール等によって混練・分散して、内部電極層用の導電性ペーストを作製し、この導電性ペーストを、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート上に印刷し、セラミックグリーンシートと導電性ペースト層(内部電極層)とを、圧着により交互に積み重ねて積層体を形成する。そして、この積層体を還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体を得ることができる。
【0005】
かかる積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる導電性ペースト用の導電性微粉末として用いる金属粉末は、平均粒径が小さいこと、粒径の分布が狭いこと、および金属粉末を構成する各金属粒子の表面が平滑性に優れていることが求められる。以下にその理由を説明する。
【0006】
まず、積層セラミックコンデンサの小型大容量化に伴い、内部電極層も薄いものが求められている。薄い電極を製造するためには導電性ペースト用の導電性微粉末として用いる金属粉末は平均粒径が小さいことが必要である。近年、内部電極層の厚みは0.8μm以下のものが必要とされており、かかる内部電極層に対応するために金属粉末の平均粒径は200nm以下であることが望まれている。
【0007】
次に、かかる薄い内部電極層で形成する積層セラミックコンデンサは電極間の隙間が小さいため、内部電極層に凹凸があると短絡や容量低下が生じやすい。導電性ペースト用の導電性微粉末として用いる金属粉末の粒径の分布が広いと、極端に粒形の大きい金属粒子(以下、「粗粒」という)を含むこととなるため、この粗粒が含まれる部位のみ内部電極層が厚くなり、内部電極層に凹凸が生ずる原因となりうる。
【0008】
また、金属粉末に例えばチタン酸バリウムなどの添加物を加えて導電性ペーストを構成するが、金属粉末を構成する各金属粒子の表面の平滑性が優れていなければ、金属粒子同士が互いに絡み合いやすく、添加剤を均等に分散させることが困難となる。その結果、製造された内部電極層の電気特性も均一にならず、積層セラミックコンデンサの品質が低下する可能性がある。従って、金属粉末を構成する各金属粒子の表面の平滑性が優れていることが求められる。
【0009】
ところで、この金属粉末の製造方法としては、主に気相法と、液相還元法が用いられる。気相法によれば、構成する各金属粒子の表面が平滑な金属粉末を容易に製造することができるが、製造された金属粒子の平均粒径が大きくなるとともに、金属粉末の粒径の分布が広くなる。一方、液相還元法によれば、製造された金属粒子の平均粒径が小さく、かつ金属粉末の粒径の分布も小さいが、構成する各金属粒子の表面に凹凸が生じやすくいわゆる金平糖状の粒子となり、表面の平滑性が優れた金属粉末が得られにくい。
【0010】
そこで、液相還元法により製造された金属粉末表面の「微少な突起部分を粒子内部に押し丸め込む(特許文献1の請求項2)」技術が提示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、「衝突により導電性粉末3の表面に存在する突出部分1bは粒子内部に押し丸め込まれて、図2(a)ないし(d)に示すような略球状の一次粒子3aおよび一次粒子近傍の凝集体3b,3c,3dが得られる(特許文献1の〔0034〕)。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−297303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、液相還元法によって製造された金属粉末を更に加工することは、大幅な工程増加でありコストアップの要因となる。また、「衝突により導電性粉末3の表面に存在する突出部分」が常に「押し丸め込まれ」る保証もない。
【0013】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、平均粒径が小さくかつ粒径の分布が狭い金属粉末であって、構成する各金属粒子の表面の平滑性が優れた金属粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
まず、参考として、金属粉末の製造方法を説明する。
金属粉末の製造方法は、液相還元法による金属粉末の製造方法において、めっき用光沢剤を添加する工程を少なくとも含む。
【0015】
同構成によれば、液相還元法による金属粉末の製造方法であるため、平均粒径が小さく、かつ粒径の分布も小さい金属粉末を製造することが可能となる。また、めっき用光沢剤を添加することにより、金属粉末の成長過程において、金属粉末の表面の凸部にめっき用光沢剤の構成成分が吸着し、凸部の成長を抑制する。そのため、表面の凹部が相対的に大きく成長し、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面が滑らかな金属粉末が形成される。また、かかる金属粉末は液相還元法によって製造されるため、再加工の必要もない。
【0016】
金属粉末の製造方法において、めっき用光沢剤は硫黄を含む化合物を主成分とすることが好ましい。
同構成によれば、めっき用光沢剤は硫黄を含む化合物を主成分とするため、反応液中における金属粉末の成長過程において表面の凸部に硫黄が吸着し、凸部の成長を抑制する。そのため、表面の凹部が相対的に大きく成長し、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面が滑らかな金属粉末が形成される。また、表面に吸着した硫黄によって形成された硫化金属は、例えば、製造された金属粉末を積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる場合に、積層セラミックコンデンサ製造のための焼成時において金属粒子間の焼結が進行し、粒子同士が結合して凝集した粉末となることにより粗大化するという不都合を防止することができる。
【0017】
金属粉末の製造方法は、前記めっき用光沢剤がサッカリン、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホこはく酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、チオ尿素、ベンゼンチオールからなる群から選ばれる少なくとも1つの試薬を主成分とすることが好ましい。
【0018】
サッカリン、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホこはく酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、チオ尿素、ベンゼンチオールはいずれも、汎用且つ安価に入手できる試薬であるため、容易かつ低コストに金属粉末を製造することができる。
【0019】
本発明にかかる金属粉末は、SEMによる測定に基づいて算出された平均粒径をD50SEMとし、BET法により算出された平均粒径をD50BETとするとき、以下の(1)式および(2)式をともに満たす。
【0020】
50SEM≦200nm …(1)
50SEM/D50BET≦2 …(2)
同構成によれば、D50SEM≦200nmであるため、粒径が小さい金属粉末である。従って、積層セラミックコンデンサの内部電極層の厚みが0.8μm以下のものを製造する際に求められる平均粒径の条件を満たしている。また、D50SEM/D50BET≦2であるため、添加物を加えて導電性ペーストを構成際に添加剤を均等に分散させることが可能な程度に、各金属粒子の表面の平滑性が優れている。
【0021】
本発明にかかる金属粉末は、ニッケルを50質量%以上含むことが好ましい。
同構成によれば、金属粉末が良伝導体であるニッケルを50質量%以上含むため、積層セラミックコンデンサの内部電極層の原料として好適に用いることができる。また、ニッケルは磁性体であるため、磁石を用いることにより容易に不純物から分離することが可能であるため、取り扱いが容易である。
【0022】
本発明にかかる金属粉末は、50質量ppm以上10000質量ppm以下の硫黄を含むことが好ましい。同構成によれば、金属粉末が50質量ppm以上10000質量ppm以下の硫黄を含むため、この金属粉末を積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる場合に、積層セラミックコンデンサ製造のための焼成時において金属粒子間の焼結が進行し、粒子同士が結合して凝集した粉末となることにより粗大化するという不都合を防止することができる。
【0023】
本発明にかかる金属粉末は、導電性ペーストの主成分として好適に用いることができる。
本発明にかかる積層セラミックコンデンサは、内部電極層および誘電体層を交互に積層して形成されたコンデンサ本体を備える積層セラミックコンデンサであって、前記内部電極層が、本発明にかかる導電性ペーストにより形成されている。
【0024】
同構成によれば、粒径が小さく、表面の平滑性に優れた金属粒子を主成分とする導電性ペーストにより積層セラミサックコンデンサの内部電極層が形成されているため、薄くかつ電気特性が均一な内部電極層を有する積層セラミックコンデンサを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、平均粒径が小さいとともに粒径の分布が狭い金属粉末であって、構成する各金属粒子の表面の平滑性が優れた金属粉末を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1における金属粉末を示す電子顕微鏡写真であって、約30000倍に拡大した写真である。
【図2】実施例1における金属粉末を示す電子顕微鏡写真であって、約100000倍に拡大した写真である。
【図3】比較例1における金属粉末を示す電子顕微鏡写真であって、約30000倍に拡大した写真である。
【図4】比較例1における金属粉末を示す電子顕微鏡写真であって、約100000倍に拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明に係る金属粉末は、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる導電性ペースト用の導電性粉末として使用されるものである。金属粉末の製造方法としては、水溶液中の金属イオンを還元して、金属化合物を湿式還元処理する液相還元法により作製することができる。
【0028】
より具体的には、水もしくは水と低級アルコールの混合物に水溶性の金属化合物を加えて溶解して、金属イオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にめっき用光沢剤を添加した後、還元剤を溶解した水溶液を加えた反応液を作製し、当該反応液を攪拌して作製できる。この際、得られた粉末の結晶性を向上させるため熱処理を行ってもよい。
【0029】
例えば、金属粉末として、金属粉末を製造する場合は、純水に金属化合物としてのニッケル塩(例えば、硫酸ニッケル)が溶解した金属イオン(ニッケルイオン)を含み、分散剤が添加された水溶液と、還元剤として作用する3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を、所定の割合で混合して反応液を作製した後、当該反応液にpH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを調整し、攪拌を行うことにより、ニッケルイオンを還元して、金属粉末を析出させることにより製造する。
【0030】
本発明に係る金属粉末としては、特に限定されないが、金属粉末、ニッケルを主成分とする合金粉末が好適に使用される。これは、金属粉末は、導電性に優れるとともに、コストが低く、また、銅等の他の金属に比し耐酸化性に優れるため、酸化による導電性の低下も生じにくく、導電性材料として好適だからである。ニッケルの合金粉末としては、例えば、マンガン、クロム、コバルト、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、金、白金、銀、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とニッケルとの合金粉末が使用できる。また、ニッケルを主成分とする合金粉末におけるニッケルの含有量は、50質量%以上、好ましくは80質量%以上であることが好ましい。これは、ニッケルの含有量が少なくなると、焼成時に酸化されやすくなるため、電極途切れや静電容量の低下等が起こりやすくなるためである。
【0031】
また、本発明に係る金属粉末は、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる導電性ペースト用の導電性粉末として使用されるため、金属粉末の平均粒径D50が30〜300nmであるものが使用できる。薄い積層セラミックコンデンサの内部電極を製造するために、金属粉末の平均粒径D50は200nm以下であることが望ましい。
【0032】
また、使用するニッケル塩は、特に限定されないが、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、および水酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むものが使用できる。また、これらのニッケル塩のうち、還元剤である三塩化チタンと同じ塩素イオンを含むとの観点から、塩化ニッケルを使用することが好ましい。
【0033】
また、反応液中のニッケル塩の濃度は、5g/L以上80g/L以下が好ましい。これは、ニッケル塩の濃度が5g/L未満の場合は、十分な量の金属粉末を還元析出させることが困難になるため、生産性が低下し、また、ニッケル塩の濃度が80g/Lより大きい場合は、ニッケル粒子同士の衝突確率が増すため粒子が凝集しやすく、粒径の制御が困難になるという不都合が生じる場合があるためである。
【0034】
また、使用するめっき用光沢剤としては、例えば、サッカリン、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホこはく酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、チオ尿素、ベンゼンチオール等を主成分とする試薬が使用できる。このうち、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、チオ尿素を主成分とする試薬が特に好ましい。硫黄を含むめっき用光沢剤を使用すると、反応液中における金属粉末の成長過程において表面の凸部に吸着し、凸部の成長を抑制する。そのため、表面の凹部が相対的に大きく成長し、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面が滑らかな金属粉末が形成される。また、表面に吸着した硫黄によって形成された硫化金属は、積層セラミックコンデンサの内部電極層を形成する際の焼成時において金属粒子間の焼結が進行し、粒子同士が結合して凝集した粉末となることにより粗大化するという不都合を防止することができる。かかる効果を得るためには、製造された金属粉末において50質量ppm以上10000質量ppm以下の硫黄を含むことが好ましい。
【0035】
また、使用する還元剤としては、例えば、三塩化チタン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等が使用できる。このうち、金属イオンに対する強還元性を有する三塩化チタンを使用し、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を用いて金属イオンを還元することが好ましい。
【0036】
また、pH調整剤は、従来、金属粉末の還元析出工程において使用されているものであれば、特に限定されない。より具体的には、pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等を使用することができる。
【0037】
また、本発明の金属粉末の平滑性の指標としては、平均粒径D50を用いる。より具体的には、SEMにより直接求められた金属粉末の平均粒径D50SEM〔μm〕と、BET法により算出された比表面積〔m/g〕にもとづいて算出された金属粉末の平均粒径D50BET〔μm〕とを用いる。そして、上記の金属粉末の製造方法を使用することにより、平均粒径D50SEMと平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)が2以下である金属粉末を得ることが可能になるため、金属粉末の平滑性が向上することになる。その結果、金属粉末を含有する導電性ペーストにより内部電極層を形成する場合であっても、添加剤を均等に分散させることが容易になる。
【0038】
なお、ここで言う「BET法」とは、気相吸着法による粉体の表面測定法の一つであり、吸着等温式を用いて、1gの試料が有する総表面積(即ち、比表面積)を算出する方法であって、周知の方法である。
【0039】
また、比表面積A〔m/g〕が与えられた金属粉末の平均粒径D50〔μm〕は、以下の(3)式により求めることができる。
【0040】
【数1】

ここで、(3)式中、ρはバルク金属の密度である。
【0041】
(3)式は金属粉末を形成する各粒子が球体であると仮定して平均粒径を求めているため、粒子の表面に凹凸がある場合、実際の粒径より一般に小さな値となる。一方、SEMにより直接求められた金属粉末の平均粒径D50SEMは実測値であるため、一般にD50SEM/D50BETは1以上となる。ここで、実際の粒径D50SEMが比表面積より求められる粒径D50BETの2倍以下であれば、経験上ほぼ真球状の粒子と見なすことができ、D50SEM/D50BET≦2であれば、導電性ペーストを製造時に添加剤を均等に分散させることが容易となる。その結果、製造された内部電極層の電気特性も均一となり、積層セラミックコンデンサの品質が低下することを防止することが可能となる。従って、
50SEM/D50BET≦2 ・・・(2)
となることが好ましい。
【0042】
例えば、BET法を用いて測定された金属粉末の比表面積A〔m/g〕が10m/g、密度8.9g/cmの場合、上記(1)式より、平均粒径D50BET〔μm〕は0.067〔μm〕となる。そして、SEMにより直接求められた金属粉末の平均粒径D50SEMが0.1〔μm〕の場合、平均粒径D50SEMと平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.5となり、この場合、金属粉末が表面平滑性に優れていると言えることになる。
【0043】
次に、積層セラミックコンデンサの内部電極層用の導電性ペーストについて説明する。本発明の導電性ペーストとしては、上述の本発明の金属粉末と、有機ビヒクルを主成分としている。本発明において使用される有機ビヒクルは、樹脂と溶剤との混合物であり、樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル類、アルキッド樹脂、およびポリビニルアルコール等が使用でき、安全性、安定性等の観点から、エチルセルロースが特に好ましく使用される。また、有機ビヒクルを構成する溶剤としては、ターピネオール、テトラリン、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、カルビトールアセテート等を単独でまたは混合して使用することができる。
【0044】
導電性ペーストを作製する際には、例えば、セルロース系樹脂の有機バインダーをターピネオールに溶解させた有機ビヒクルを作製し、次いで、本発明の金属粉末と有機ビヒクルを混合し、三本ロールやボールミル等によって混練・分散することにより、本発明の積層セラミックコンデンサの内部電極層用の導電性ペーストを得ることができる。なお、導電性ペーストには、誘電体材料や焼結調整用の添加剤としてチタン酸バリウム等を加えることもできる。本発明の金属粉末は表面平滑性に優れているため、添加剤を均等分散させることが容易にできる。
【0045】
次に、上述の導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。積層セラミックコンデンサは、セラミックグリーンシートからなる複数の誘電体層と、導電性ペーストからなる複数の内部電極層とを、圧着により交互に積層させて積層体を得た後、当該積層体を焼成して一体化することにより、セラミック本体となる積層セラミック焼成体を作製したのち、当該セラミック本体の両端部に一対の外部電極を形成することにより製造される。
【0046】
より具体的には、まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.2μm〜4μmが好ましい。
【0047】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷して塗布し、導電性ペーストからなる内部電極層を形成したものを複数枚、用意する。なお、導電性ペーストからなる内部電極層の厚みは、当該内部電極層の薄層化の要請の観点から、0.2〜4μm以下とすることが好ましい。従って、内部電極層を形成する導電性ペーストに用いる金属粉末の平均粒径D50SEMは0.2μm以下であること、即ち、
50SEM≦200nm …(1)
であることが好ましい。
【0048】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された導電性ペーストからなる内部電極層とが交互に配置されるように、加熱・加圧処理により積層して、積層体を得る。なお、当該積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを配置する構成としても良い。
【0049】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはNガス雰囲気にすることが好ましく、脱バインダー処理を行う際の温度を200℃〜400℃とすることが好ましい。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間〜24時間とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、焼成を行う際の雰囲気は、NガスまたはNガスとHガスとの混合ガスの雰囲気にすることが好ましく、また、積層体の焼成を行う際の温度を1250℃〜1350℃とすることが好ましい。また、焼成を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間〜8時間とすることが好ましい。
【0050】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラッミック製の誘電体層が形成される。また内部電極層中の有機ビヒクルが除去されるとともに、金属粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極層が形成され、誘電体層と内部電極層とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。
【0051】
なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで電気的特性を高めるとともに、内部電極層の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後のグリーンチップに対して、アニール処理を施すことが好ましい。なお、アニール処理における雰囲気は、Nガス雰囲気にすることが好ましく、アニール処理を行う際の温度を800℃〜950℃とすることが好ましい。また、アニール処理を行う際の、上記温度の保持時間を2時間〜10時間とすることが好ましい。
【0052】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極を設けることにより、積層セラミックコンデンサが製造される。なお、外部電極の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。
【0053】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)金属粉末の製造方法は、液相還元法による金属粉末の製造方法であるため、平均粒径が小さく、かつ粒径の分布も小さい金属粉末を製造することが可能となる。また、めっき用光沢剤を添加することにより、金属粉末の成長過程において、金属粉末の表面の凸部にめっき用光沢剤の構成成分が吸着し、凸部の成長を抑制する。そのため、表面の凹部が相対的に大きく成長し、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面が滑らかな金属粉末が形成される。また、かかる金属粉末は液相還元法によって製造されるため、再加工の必要もない。
【0054】
(2)また、めっき用光沢剤は硫黄を含む化合物を主成分とするため、反応液中における金属粉末の成長過程において表面の凸部に硫黄が吸着し、凸部の成長を抑制する。そのため、表面の凹部が相対的に大きく成長し、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面が滑らかな金属粉末が形成される。また、表面に吸着した硫黄によって形成された硫化金属は、例えば、製造された金属粉末を積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる場合に、積層セラミックコンデンサ製造のための焼成時において金属粒子間の焼結が進行し、粒子同士が結合して凝集した粉末となることにより粗大化するという不都合を防止することができる。
【0055】
(3)また、金属粉末の製造方法においてめっき用光沢剤として使用するサッカリン、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホこはく酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、チオ尿素、ベンゼンチオールは、いずれも汎用且つ安価に入手できる試薬であるため、容易かつ低コストに金属粉末を製造することができる。
【0056】
(4)本実施形態における金属粉末は、D50SEM≦200nmであるため、粒径が小さい金属粉末である。従って、積層セラミックコンデンサの内部電極層の厚みが0.8μm以下のものを製造する際に求められる平均粒径の条件を満たしている。また、D50SEM/D50BET≦2であるため、添加物を加えて導電性ペーストを構成際に添加剤を均等に分散させることが可能な程度に、各金属粒子の表面の平滑性が優れている。
【0057】
(5)本実施形態における金属粉末は、良伝導体であるニッケルを50質量%以上含むため、積層セラミックコンデンサの内部電極層の原料として好適に用いることができる。また、ニッケルは磁性体であるため、磁石を用いることにより容易に不純物から分離することが可能であるため、取り扱いが容易である。
【0058】
(6)本実施形態における導電性ペーストは、本実施形態における金属粉末を主成分とするため、積層セラミックコンデンサの内部電極層の原料として好適に用いることができる。
【0059】
(7)本実施形態における積層セラミックコンデンサは、本発明にかかる導電性ペーストにより内部電極層が形成されているため、薄くかつ電気特性が均一な内部電極層を有する積層セラミックコンデンサである。
【実施例1】
【0060】
以下に、本発明等(本発明等とは、本発明と本発明以外のいくつかの発明をいう。)を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明等は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明等の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明等の範囲から除外するものではない。
【0061】
(金属粉末の作製)
金属化合物としての硫酸ニッケル六水和物を、反応容器内において10g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるサッカリンを、4g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としての塩化チタンを、80g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、25質量%濃度のアンモニア水を加えて、反応液のpHが9.0となるように調整した。
【0062】
次いで、この反応液を、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ100nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは60nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.7であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して100質量ppmであった。なお、本実施例で得られた金属粉末の電子顕微鏡写真を図1および図2に示す。
【0063】
(導電性ペーストの作製)
次いで、有機バインダーであるエチルセルロース10質量部をターピネオール90質量部に溶解させた有機ビヒクルを作製し、上述の熱処理後の金属粉末100質量部と有機ビヒクル40質量部を混合し、三本ロールによって混練・分散することにより、積層セラミックコンデンサの内部電極層用の導電性ペーストを作製した。
【0064】
(内部電極層の作製、積層体の作製)
まず、誘電体層用ペースト(セラミックの原料粉末であるチタン酸バリウムに、有機バインダーであるエチルセルロースと溶剤であるターピネオールとを加えたもの)を支持フィルムであるPETフィルム上にシート状に塗布し、次いで、乾燥させて溶剤を除去することにより、厚みが2μmであるセラミックグリーンシートを作製した。次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法により、上述の作製した導電性ペーストを印刷して塗布し、導電性ペーストからなる厚みが2μmである内部電極層を形成した。次いで、PETフィルムからセラミックグリーンシートを剥離するとともに、剥離したセラミックグリーンシートの内部電極層の表面上に保護用のセラミックグリーンシートを積層、圧着して、セラミックグリーンシートからなる誘電体層と導電性ペーストからなる内部電極層とが交互に積層された積層体を作製した。
【0065】
(積層セラミック焼成体の作製)
製作した積層体を所定サイズ(0.3mm×0.6mm)に切断してグリーンチップを形成後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理、焼成、およびアニール処理を行い、コンデンサ本体である積層セラミック焼成体を作製した。なお、脱バインダー処理は、大気雰囲気において、300℃の温度で、保持時間を1時間として行った。また、焼成は、Nガス雰囲気において、1300℃の温度で、保持時間を2時間として行った。また、アニール処理は、Nガス雰囲気において、900℃の温度で、保持時間を1時間として行った。
【0066】
(電極平滑性評価、および断線評価)
次いで、製作した積層セラミック焼成体を切断し、その断面を、走査型電子顕微鏡を使用して観察(倍率:2000倍、視野:50μm×60μm)して、電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断した。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0067】
(金属粉末の作製)
金属化合物としての硫酸ニッケル六水和物を、反応容器内において10g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)を、20g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としての塩化チタンを、80g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、20質量%濃度の炭酸ナトリウム水を加えて、反応液のpHが8.5となるように調整した。
【0068】
次いで、この反応液を、50℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ90nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは65nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.4であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して3000質量ppmであった。
【0069】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【実施例3】
【0070】
(金属粉末の作製)
金属化合物としてのスルファミン酸ニッケル四水和物を、反応容器内において15g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるドデシルベンゼンスルホン酸(LBS)を、10g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としてのヒドラジンを、6g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、25質量%濃度のアンモニア水を加えて、反応液のpHが9.0となるように調整した。
【0071】
次いで、この反応液を、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ70nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは55nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.3であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して2000質量ppmであった。
【0072】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【実施例4】
【0073】
(金属粉末の作製)
金属化合物としてのスルファミン酸ニッケル四水和物を、反応容器内において60g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるチオ尿素を、2g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としてのヒドラジンを、24g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、20質量%濃度の水酸化ナトリウム水を加えて、反応液のpHが9.3となるように調整した。
【0074】
次いで、この反応液を、10℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ120nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは80nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.5であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して500質量ppmであった。
【0075】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【実施例5】
【0076】
(金属粉末の作製)
金属化合物としての塩酸ニッケル六水和物および塩酸コバルト六水和物を、反応容器内においてそれぞれ10g/Lおよび1g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、10g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としての水酸化ホウ素ナトリウムを、5g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、20質量%濃度の炭酸ナトリウム水を加えて、反応液のpHが8.5となるように調整した。
【0077】
次いで、この反応液を、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ40nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは22nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.8であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して1500質量ppmであった。
【0078】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【実施例6】
【0079】
(金属粉末の作製)
金属化合物としての塩酸ニッケル六水和物を、反応容器内において10g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるスルホこはく酸ジ2−エチルヘキシルナトリウム(AOT)を、20g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としての水酸化ホウ素ナトリウムを、5g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、25質量%濃度のアンモニア水を加えて、反応液のpHが9.0となるように調整した。
【0080】
次いで、この反応液を、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ90nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは50nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.8であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して3000質量ppmであった。
【0081】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【実施例7】
【0082】
(金属粉末の作製)
金属化合物としての塩酸ニッケル六水和物を、反応容器内において10g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、ニッケルイオンを含む水溶液を作製し、この水溶液にメッキ用光沢剤であるベンゼンチオールを、10g/Lの濃度となるように添加した。次いで、還元剤としての水酸化ホウ素ナトリウムを、5g/Lの濃度となるように純水に溶解させ、3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を作製した。そして、これらの水溶液を混合して、反応液を作製し、この反応液に、pH調整剤として、25質量%濃度のアンモニア水を加えて、反応液のpHが9.0となるように調整した。
【0083】
次いで、この反応液を、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら反応させて、金属粉末を還元析出させた。次いで、反応容器の底部の外面に強力な磁石を密着させることによって析出した金属粉末を反応容器の底部に集め、デカンテーションによって、金属粉末を分離した。反応容器に純水を加え、デカンテーションすることを繰り返すことにより不純物を除去して、水を分散媒とする沈殿のないニッケル分散液を得た。そして、このニッケル分散液を乾燥させることにより、金属粉末を作製した。なお、析出した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ150nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは100nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は1.5であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性に優れていることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、ニッケル粉末全体に対して1000質量ppmであった。
【0084】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【0085】
(比較例1)
メッキ用光沢剤に換えてポリビニルピロリドン(PVP K30:分子量30000)を5g/Lの濃度となるように添加したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、金属粉末を作製した。なお、作製した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ100nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは45nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は2.2であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性において不十分であることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、硫黄は検出されなかった。
【0086】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。また、本実施例で得られた金属粉末の電子顕微鏡写真を図3および図4に示す。
【0087】
(比較例2)
メッキ用光沢剤に換えてポリアクリル酸(分子量5000)を2g/Lの濃度となるように添加したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、金属粉末を作製した。なお、作製した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ150nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは50nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は3.0であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性において不十分であることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、硫黄は検出されなかった。
【0088】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例1と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【0089】
(比較例3)
メッキ用光沢剤に換えてカルボン酸型アニオン系界面活性剤(分子量10000)を6g/Lの濃度となるように添加したこと以外は、上述の実施例3と同様にして、金属粉末を作製した。なお、作製した金属粉末において、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率30000倍にて観察した時の平均粒径D50SEMを測定したところ40nmであった。また、BET法により測定されたニッケル粉末の比表面積より求められる平均粒径D50BETは15nmであり、SEMにより求められる平均粒径D50SEMと、BETにより求められる平均粒径D50BETとの比(D50SEM/D50BET)は2.7であった。従って、このニッケル粉末は表面平滑性において不十分であることが確認された。また、高周波燃焼赤外線吸収法を使用して、ニッケル粉末が含有する硫黄量を測定したところ、硫黄は検出されなかった。
【0090】
なお、(導電性ペーストの作製)、(内部電極層の作製、積層体の作製)、(積層セラミック焼成体の作製)、(電極平滑性評価、および断線評価)については実施例3と同様であるので、その記載を省略する。電極の平滑性および電極途切れの有無を目視により判断し、その結果を併せて表1に示す。
【0091】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜7にかかる金属粉末はいずれもD50SEM/D50BETが2以下であり、上記(2)式を満たしている。また、D50SEMがいずれも200nm以下であり、上記(1)式を満たしているため、内部電極層の厚みが、0.2〜4μm以下の積層セラミックコンデンサの内部電極層の形成に適した金属粉末である。一方、比較例1〜3にかかる金属粉末はD50SEMがいずれも200nm以下であり上記(1)式を満たしているものの、いずれもD50SEM/D50BETが2以上であるため表面平滑性が低い。このことは、図1および図2に示した実施例1にかかる金属粉末の電子顕微鏡写真と、図3および図4に示した比較例1にかかる金属粉末の電子顕微鏡写真とを比較することによっても確認できる。等倍率である図1と図3、更に同じく等倍率である図2と図4を比較すると、図1および図2に示した実施例1にかかる金属粉末の表面は凹凸が少なく、表面平滑性に優れていることが判る。また、電極平滑性および断線についても、実施例1〜7にかかる金属粉末で作成した積層セラミック焼成体の内部電極層はいずれも電極平滑性に優れかつ断線が生じていないのに対し、比較例1〜3にかかる金属粉末で作成した積層セラミック焼成体の内部電極層はいずれも電極平滑性が不十分でかつ断線が生じていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の活用例としては、金属粉末、導電性ペースト、及び積層セラミックコンデンサに関し、特に、積層セラミックコンデンサの内部電極層に用いる導電性ペースト用の導電性微粉末として好適な金属粉末、金属粉末を用いた導電性ペースト、及び積層セラミックコンデンサが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡(以下、SEMと記載する。)による測定に基づいて算出された平均粒径をD50SEMとし、BET法により算出された平均粒径をD50BETとするとき、以下の式(1)および式(2)をともに満たす金属粉末。
50SEM≦200nm …(1)
50SEM/D50BET≦2 …(2)
【請求項2】
前記金属粉末がニッケルを50質量%以上含む請求項1に記載の金属粉末。
【請求項3】
50質量ppm以上10000質量ppm以下の硫黄を含む請求項1または2に記載の金属粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属粉末を主成分とする導電性ペースト。
【請求項5】
内部電極層および誘電体層を交互に積層して形成されたコンデンサ本体を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記内部電極層が、請求項4に記載の導電性ペーストにより形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67865(P2013−67865A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248276(P2012−248276)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2008−220389(P2008−220389)の分割
【原出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】