説明

金属粉末の製造方法、それにより製造された金属粉末、導体ペースト、セラミック積層電子部品

【課題】エレクトロニクス用導体ペースト用の導電性粉末として有用な、微細で粒度分布の狭い、高分散性、高純度の高結晶性金属粉末の製造方法、及び該金属粉末、導体ペースト、セラミック積層電子部品を提供する。
【解決手段】熱分解性の金属化合物粉末を、キャリヤガスと共に、キャリヤガスの単位時間あたりの流量をV(L/min)、ノズル開口部の断面積をS(cm)としたときV/S>600の条件でノズルを通して反応容器中に噴出させ、前記原料粉末を10g/L以下の濃度で気相中に分散させた状態で前記反応容器中を通過させながら、前記原料粉末の熱分解温度より高くかつ(Tm−200)℃以上の温度T(但しTmは生成する金属の融点(℃))で加熱することにより金属粉末を生成させる高結晶性金属粉末の製造方法において、前記ノズル開口部の周囲の温度Tが400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス用に適した金属粉末の製造方法に関し、特に導体ペースト用の導電性粉末として有用な、微細でかつ粒度の揃った、結晶性の高い金属粉末の製造方法、それにより製造された金属粉末、導体ペースト、セラミック積層電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス回路形成用導体ペーストに使用される導電性金属粉末としては、不純物が少ないこと、平均粒径が0.01〜10μm程度の微細な粉末であること、粒子形状および粒径が揃っており、凝集がなく分散性が良好であることなどが望まれる。またペースト中での分散性が良いことや、不均一な焼結を起こさないよう結晶性が良好であることも要求される。
【0003】
特に積層コンデンサ、積層インダクタ等の積層セラミック電子部品において内部電極や外部電極の形成に用いられる場合は、電極を薄膜化するためにより微細で、粒径や形状が揃っていると共に、デラミネーション、クラック等の構造欠陥を防止するため焼成中に酸化還元による膨張収縮が起こりにくく、かつ焼結開始温度が高いことが必要である。このため、球状で活性の低い、高結晶性のサブミクロンサイズの金属粉末が要求されている。
【0004】
従来このような結晶性の高い金属粉末を製造する方法としては、例えば塩化ニッケル等の金属化合物の蒸気を高温で還元性ガスにより還元する化学気相析出法(CVD)、金属の蒸気を気相中で凝縮させる物理気相析出法(PVD)、金属化合物を水や有機溶媒に溶解または分散させた溶液または懸濁液を微細な液滴にし、その液滴を望ましくは該金属の融点近傍またはそれ以上の高温で加熱して熱分解することにより金属粉末を析出させる、噴霧熱分解法がある。
また、原料に固体粉末を用い、気相中に分散させた状態で、高温で熱分解を行うことにより、高結晶性の金属粉末を製造する方法も知られている(特許文献1、2参照)。これは熱分解性の金属化合物粉末からなる原料粉末をキャリヤガスを用いて反応容器に供給し、これを10g/L以下の濃度で気相中に分散させた状態で、その分解温度より高く、かつ該金属の融点より200℃低い温度又はそれより高い温度で加熱することによって高結晶性金属粉末を得る方法、また、この方法において、原料粉末をキャリヤガスと共に、キャリヤガスの単位時間あたりの流量をV(L/min)、ノズルの開口部の断面積をS(cm)としたときV/S>600の条件で、ノズルを通して反応容器中に噴出させることにより高結晶性金属粉末を得る方法である。
【0005】
特許文献1、2記載の方法では、出発原料が固体の金属化合物粉末であることにより、噴霧熱分解法と比較して溶媒の蒸発によるエネルギーロスがないこと、また比較的高濃度で気相中に分散させることができることから、高結晶性で耐酸化性、分散性の優れた、球状の金属粉末を高効率で製造できる。また原料粉末の粒度および分散条件をコントロールすることにより、任意の平均粒径の、粒度の揃った金属粉末を得ることができ、しかも溶媒からの酸化性ガスの発生がないため、低酸素分圧下で合成する必要のある易酸化性の卑金属粉末の製造にも適している。更に、蒸気圧の異なる金属の合金を正確にコントロールされた組成で作ることが難しい気相化学還元法等に比べ、2種以上の金属の化合物を混合または複合化して用いることにより、任意の組成の合金粉末を容易に製造することができる利点もある。
【0006】
特に特許文献2の方法は、固体の原料粉末を、ノズルを通してキャリヤガスと共に反応容器中にV/S>600となるような大きい線速度で噴出させ、反応容器内で急激に気体が膨張することを利用して、原料粒子および生成粒子が互いに衝突を起こさないよう気相中に低い濃度で、かつ高度に分散した状態にして高温での加熱処理を行なうものであり、極めて粒度分布の狭い、金属粉末を、ローコスト、高効率で容易に製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−20809号公報
【特許文献2】特開2004−99992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、積層セラミック電子部品の小型化、高積層化の要求が強く、特に内部電極としてニッケルを用いた積層セラミックコンデンサにおいては、セラミック層、内部電極層ともに薄層化が急速に進んでいる。このため内部電極用導体ペーストには例えば平均粒径が0.3μm以下と極めて小さく、かつ粗大粒子の混入が少なく、より粒度分布の狭い超微細なニッケル粉末が要求されている。
【0009】
しかし、前述の特許文献1、2の方法により、従前と比べて更に微細なニッケル粉末を製造しようとする場合、粒度分布が大きくなる傾向があり、また製造効率や歩留りが悪化するという問題があった。
【0010】
これは、次のようなことに起因すると推測される。即ち、特許文献1、2の方法では、原料粉末1粒子あたりほぼ1粒子の金属粒子または合金粒子が生成するので、金属粉末の粒度は、原料粉末の粒度に依存する。従って、より微細な金属粉末を得るためには、原料粉末を予めより細かく粉砕、解砕しておく必要がある。しかし粉末は微細になるほど凝集力も強くなるので、分散させるのが難しく、解砕工程に極めて長時間を要したり、大きなエネルギ−が必要となったりして製造効率が悪化するほか、再凝集により大きな粒子が形成されやすくなる。原料粉末にこのような解砕しきれない大きい凝集粒子が存在すると、生成する金属粒子の粒度および粒度分布が大きくなる。また粗大金属粒子が混入する結果として、積層セラミック電子部品の特性に種々の悪影響を及ぼす。
【0011】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、より微細でかつ粒度の揃った高結晶性金属粉末を、より安定的に、歩留りよく製造する方法を提供すること、更にはこのような金属粉末を大量に、ローコストで生産しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、特許文献1、2記載の方法に基づいて更に研究を重ねた結果、原料粉末が熱分解を起こすときに発生するガスにより前記凝集粒子が自ら解粒する現象に着目した。そして原料粉末がノズルから噴出した直後に曝される温度を特定の範囲に制御することによって、この解粒を効率よく行わせることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は、熱分解性の金属化合物粉末の1種または2種以上からなる原料粉末を、キャリヤガスと共に、キャリヤガスの単位時間あたりの流量をV(L/min)、ノズル開口部の断面積をS(cm)としたときV/S>600の条件でノズルを通して反応容器中に噴出させ、前記原料粉末を10g/L以下の濃度で気相中に分散させた状態で前記反応容器中を通過させながら、前記原料粉末の熱分解温度より高くかつ(Tm−200)℃以上の温度T(但しTmは生成する金属の融点(℃))で加熱することにより金属粉末を生成させる高結晶性金属粉末の製造方法において、前記ノズル開口部の周囲の温度Tが400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度となるように設定されていることを特徴とする、高結晶性金属粉末の製造方法、を要旨とするものである。
【0014】
前記の温度Tは、500℃以上となるように設定することが好ましく、また、前記原料粉末としては、ニッケル化合物、銅化合物、および銀化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく用いられる。
【0015】
更に本発明は、上記の方法で製造された高結晶性金属粉末、および該高結晶性金属粉末を含む導体ペースト、並びに該導体ペーストを用いて電極を形成したことを特徴とするセラミック積層電子部品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、微細で極めて粒度分布の狭い、高分散性、高純度の球状高結晶性金属粉末を、ローコスト、高効率で容易に製造することができる。特に積層セラミック電子部品の小型化、高積層化の要求に応え得る、粒度分布が極めて狭く、かつ粗大粒子の混入のない超微細ニッケル粉末を、大量にかつ歩留りよく製造することができる。
【0017】
またこの方法で得られる金属粉末は活性が低く、耐酸化性が良好であり、このためセラミック積層電子部品の電極を形成するための導体ペーストに使用した場合、クラック等の構造欠陥のない、信頼性の高い部品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、特許文献2の方法において、ノズル開口部の周囲の温度Tが400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度となるよう設定し、原料粉末がノズルから噴出した直後に、温度Tより低温であるこの温度Tに曝されて加熱され、その後(Tm−200)℃以上である温度Tで加熱されるようにしたことが特徴である。ここで、Tmは生成する金属の融点であるが、金属粉末として合金粉末を生成する場合はその合金の融点を意味する。またノズル開口部周囲の温度とは、原料粉末をノズルから噴出させている状態で測定されたノズル開口部の周囲の温度の実測値であり、実際には、反応容器内において、ノズルの開口部の縁部からノズル径の6倍〜15倍程度の距離だけ離れた部分で、熱電対を用いて測定される。例えば後述する実施例においては、ノズルの開口面を含む面上で、ノズル口の縁部から10cm離れた位置に熱電対を挿設して測定した。
【0019】
具体的には、例えば特許文献2に記載されたような、電気炉等により外側から加熱された管状の反応容器を用い、原料粉末をノズルを通してキャリヤガスと共に反応容器中に高速で噴出させ、反応容器内において気相中に高度に分散した状態で熱分解し、生成した金属粉末を回収する方法において、ノズル開口部周囲の温度Tが前記範囲となるように設定された領域に原料粉末を噴出させる。
【0020】
が400℃より低い場合には、本発明の効果は得られない。また(Tm−200)℃以上である場合も、極めて微細で粒度分布の狭い金属粉末を得るのが困難になる。また、本発明においては、噴出直後に原料粉末を400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度で加熱することが重要であり、例えば400℃より低温の領域に噴出させた後にこの温度範囲に昇温させたり、或いは(Tm−200)℃以上の高温の領域に噴出させた後にこの前記温度範囲に加熱された領域に搬送したりするような方法では、本発明の効果は得られない。
【0021】
このことから、次のように推定される。本発明の方法では、原料粉末が噴出直後に400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度に曝されることにより瞬間的に熱分解され、このとき原料粉末内部から発生する原料化合物の分解ガスが高温で急激に膨張する。このため原料粉末に凝集粒子が含まれる場合でも、該凝集粒子は熱分解で生成したガスにより爆発的に分裂し、解粒される。また該分解ガスが分解によって生成した粒子の周囲を包み込むため、再凝集が抑制され、いっそう分散が促進される。即ち、原料粉末に凝集粒子が存在しても、熱分解と同時に解粒、分散され、極めて微細な酸化物等の反応中間体粒子や金属粒子等の粒子が生成すると考えられる。そして生成した粒子は、その後高度に分散された状態を保ったまま温度Tで加熱されることにより、還元や固相反応、粒子内部での結晶成長などを生じ、極めて微細な、粒度の揃った高結晶性金属粉末となる。Tが400℃未満の場合は、原料粉末が徐々に分解するためガスの発生も緩やかで、熱分解時の解粒効果が不十分となり、その結果粒度分布が広くなり粗大粒子も残る。一方、Tが(Tm−200)℃以上になる場合は、原料粉末の急激な昇温により、分裂が生じる前に粒子表面において焼結または結晶化が進行して固い殻を作るため、解粒が起こりにくくなる。このため生成粉末の粒度分布が広くなり、また微細化も困難になる。また、開口部が高温になるためノズル内で反応が進行してしまい、ノズルが閉塞し易くなって連続運転が困難になる。
【0022】
なお、一般に熱分解性金属化合物の熱分解温度は100〜400℃程度であり、原料粉末が噴出後直ちに熱分解を受けるためには、理論的にはTが該熱分解温度以上であればよい。しかし、反応容器中を通過させながら気流中で加熱する場合は、この領域における滞留時間が短いので、実際には熱分解温度より高温で、少なくとも400℃となるように設定する必要がある。最適な温度範囲は金属の種類や化合物によって異なる。例えば原料粉末として分解温度が約350℃の酢酸ニッケル四水和物粉末や無水酢酸ニッケル粉末、無水硝酸ニッケル粉末等を用いてニッケル粉末を製造する場合、400〜1250℃程度、好ましくは450〜1200℃に設定される。また例えば酢酸銀(I)粉末(分解温度約300℃)を用いて銀粉末を製造する場合は400℃〜850℃、炭酸銅(II)粉末(分解温度約300℃)を用いて銅粉末を製造する場合は400℃〜950℃程度とするのが好ましい。原料粉末の急激な分解をより確実に生じさせるためには、Tは好ましくは500℃以上に設定される。
【0023】
を前記の範囲内とするための加熱方法としては、電気炉等により反応容器外部から加熱する方法、電磁波式加熱炉で加熱する方法、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレンなどの可燃性ガスやナフサ、灯油、軽油、ガソリン、重油などの可燃性液体を反応容器内で燃焼させることにより加熱する方法、また噴出する原料粉末に随伴させるキャリヤガス(以下「一次ガス」とも言う)とは別に、ガス(以下「二次ガス」と言う)を予め高温に加熱してノズルの外部から供給し、ノズル開口部付近で噴出した原料粉末/キャリヤガス混合物と混合する方法などがある。これらの方法を適宜組合せて加熱を行ってもよい。
特にTを比較的低温、例えば800℃以下に設定する場合は、熱効率の観点から、電気炉による外部からの加熱より、他の手段、即ちバーナー加熱など可燃ガスの燃焼によって加熱する方法、可燃性液体の燃焼によって加熱する方法、高温の二次ガスを使用する方法などによって、直接加熱することが好ましい。或いはこれらの方法と電気炉等による外部からの加熱を併用してもよい。
【0024】
なお、前記高温の二次ガスで加熱する場合において、二次ガスとしては一次ガスと同様のものを使用してもよいが、高温炉、タービン、ボイラーなどの高温の廃ガスを利用することもできる。但し、前述のようにノズルから噴出させる前の原料粉末/キャリヤガス混合物を高温に加熱すると、気相中に高度に分散する前に原料粉末の熱分解が生じてしまうため、高温のガスを用いる場合は、ノズルの外から二次ガスとして供給する。
【0025】
前記可燃性ガスや可燃性液体の燃焼によって加熱する場合も、燃焼の結果生成するガスとは別に、予め加熱された、或いは加熱されていない二次ガスをノズルの外部から供給してもよい。
【0026】
また、特に金属がニッケル、銅などの易酸化性金属の場合は、金属化合物が熱分解して一旦酸化物等の中間生成物を生成し、これが高温で金属に還元されることが望ましく、このためノズル開口部周辺の雰囲気は中性から弱酸化性とすることが好ましい。熱分解時に還元雰囲気が強いと、粗大な金属粒子を生成する傾向がある。これは、例えばニッケル化合物が還元ガスとの接触により直接ニッケルに還元されるような場合、原料粉末が熱分解して分裂、解粒する前に、凝集したまま外側から還元されて金属の殻が生成し、この結果解粒が阻害されるためと考えられる。従って、可燃ガスや可燃性液体を反応容器内で燃焼させて加熱する場合は、還元性の強い火炎中や火炎の周辺部に原料粉末を直接噴出させないよう、可燃ガスや可燃性液体の燃焼部をノズル開口部からは離れた位置に設置することが望ましいが、可燃ガスや可燃性液体が完全燃焼して還元性を示さない状態であれば、燃焼部を開口部に近づけても差し支えない。なお、加熱手段として高温の二次ガスを供給する場合も、あまり還元性の強いガスを使用しないことが望ましい。ノズル開口部周辺の雰囲気を中性から弱酸化性に保つためには、適宜、酸素含有ガスや水蒸気などを反応容器中に吹き込むことも有効である。
【0027】
以下、上記以外の本発明の条件について詳述する。
【0028】
本方法で製造される金属粉末は特に限定されるものではないが、例えば銅、ニッケル、コバルト、鉄等の卑金属粉末や銀、パラジウム、金、白金等の貴金属粉末の製造に好適である。ことに、積層セラミック電子部品の電極用導体ペースト用の極めて微細な、例えば平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末を製造する場合、本発明の効果をより享受することができる。また、原料の金属化合物粉末の組合せにより、複数の金属の混合粉末や合金粉末を製造することもできる。本発明において「金属粉末」は、このような混合粉末、合金粉末も含むものである。
【0029】
金属粉末の原料となる熱分解性の金属化合物としては、熱分解時にガスを発生するものであれば制限はなく、例えば、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、ハロゲン化物、酸化物、アンモニウム錯体等の無機化合物や、カルボン酸塩、樹脂酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトン錯体、金属の1価または多価アルコラート、アミド化合物、イミド化合物、尿素化合物等の有機化合物の少なくとも1種が使用される。特に炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、炭酸銅、炭酸銀等の炭酸塩、シュウ酸ニッケル、シュウ酸銅、シュウ酸銀等のシュウ酸塩、酢酸ニッケル、ギ酸ニッケル、乳酸ニッケル、酢酸銅、酢酸銀等のカルボン酸塩、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)銅等のアセチルアセトン錯体や、その他樹脂酸塩、アルコラート等は、熱分解後有害な副生成物を生成せず、分解ガスの発生量も多いので好ましい。
【0030】
合金粉末や混合粉末を製造する場合は、2種以上の金属成分を含む原料粉末を用いる。この場合、成分金属それぞれの化合物の粉末を所定の組成比で均一に混合して供給してもよいが、個々の粒子が組成的に均質な合金粒子からなる粉末を得るためには、原料粉末の1粒子中に複数の金属成分が一定の組成比で含まれるよう予め複合化させた複合粉末を用いることが望ましい。複合化の方法としては、予め原料となる金属化合物粉末を混合し、組成的に均一になるまで熱処理した後粉砕する固相反応法や、ゾルゲル法、共沈法、均一沈殿法、錯体重合法など、公知の方法が使用される。この他、複塩粉末、錯塩粉末、複核錯体粉末、複合アルコキシド粉末、金属複酸化物粉末などを用いてもよい。
【0031】
粒度分布の狭い、微細な金属粉末をより効率的に製造するためには、原料粉末は、粉砕機や分級機で粉砕、解砕または分級を行なうことにより、予め粒度調整をしておくことが好ましい。粉砕機としては、気流式粉砕機、湿式粉砕機、乾式粉砕機等いずれを用いてもよい。粒度の調整は、原料粉末をキャリヤガスに分散させる前に行ってもよいが、気流式粉砕機等を用いることにより、キャリヤガスに分散させた後に、あるいは分散と同時に行うこともできる。
【0032】
原料粉末に随伴させるキャリヤガス(一次ガス)としては、貴金属の場合は特に制限はなく、空気、酸素、水蒸気などの酸化性ガスや、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、これらの混合ガスなどが使用される。酸化しやすいニッケル、銅等の卑金属の場合は不活性ガスを用いるのが好ましいが、これに水素、一酸化炭素、メタン、アンモニアガスなどの還元性ガスや、高温で分解して還元性雰囲気を作り出すようなアルコール類、カルボン酸類などの有機化合物を混合することにより高温加熱時の雰囲気を弱還元性とし、酸化防止効果を高めることもできる。
【0033】
好ましくは原料粉末を、ノズルを通して反応容器中に噴出させる前に、分散機を用いてキャリヤガス中に混合、分散させる。分散機としては、エジェクタ型、ベンチュリ型、オリフィス型等、公知の気流式分散機や、公知の気流式粉砕機が使用される。
【0034】
本発明の方法では、固体の原料粉末を、キャリヤガスと共にノズルを通して反応容器中に特定の線速度、即ちキャリヤガスの単位時間あたりの流量をV(L/min)、ノズルの開口部の断面積をS(cm)としたとき、V/S>600となるような条件で噴出させ、気相中に10g/L以下の濃度で高度に分散させる。ノズルには特に制限はなく、断面が円形、多角形またはスリット状のもの、先端が絞られているもの、途中まで絞られており開口部で広がっているものなど、いかなる形状のものを使用してもよい。また気相中での濃度は、10g/Lより高いと粉末同士の衝突、焼結により、粒度の揃った金属粉末は得られなくなるが、10g/L以下であれば特に制限はなく、用いる分散装置や加熱装置に応じて適宜決定される。しかしあまり低濃度になると生産効率が悪くなるので、好ましくは0.01g/L以上である。
【0035】
ノズルから噴出され前述のように熱分解された原料粉末は、次いで気相中に低濃度で高度に分散した状態を保ったまま、(Tm−200)℃以上の温度Tで加熱される。これにより高結晶性の金属粉末が生成する。Tが(Tm−200)℃より低いと、球状の高結晶性金属粉末が得られない。特に、表面が平滑な真球状の単結晶金属粉末を得るには、加熱処理を目的とする金属の融点近傍またはそれ以上の高温で行うことが望ましい。また、Tは生成した金属粉末の蒸発が顕著になる温度より低いことが望ましく、好ましくは (Tm+500)℃以下である。(Tm+500)℃より高くしてもさらなる改善効果はない上に、前記金属の蒸発が起こりやすくなる。
【0036】
での加熱は電気炉等で反応容器の外側から行うのが、効率がよく、また雰囲気やガス流、温度の制御が容易なので好ましい。前記の分散状態を保ったままで加熱処理を行うためには、例えばノズル開口部周囲の温度Tが前記範囲内となるように設定された比較的低温の領域と、温度Tに加熱された高温の領域を有する管状の反応容器を用い、ノズルを通して該低温領域に噴出されて熱分解された原料粉末を反応容器内の高温領域に搬送して金属粉末を生成させ、これを反応容器の出口から回収する。温度Tで熱分解された原料粉末は、温度Tから温度Tまで段階的に昇温するよう温度設定された反応容器内を通過させて徐々に昇温させてもよいが、直接Tに加熱された領域に搬送してもよい。また前記の分散状態が保たれるような条件下であれば、温度Tでの加熱と温度Tでの加熱を別々の反応容器で行うこともできる。
【0037】
反応容器内での粉末とキャリヤガスの混合物の滞留時間は、粉末が所定の温度に十分に加熱されるように、用いる装置に応じて設定されるが、通常は0.3〜30秒程度である。このように気相中に低濃度で、かつ高速気流によって高度に分散させた状態で加熱されるので、高温でも融着、焼結により粒子同士が凝集することなく、粒子内での固相反応により短時間で結晶成長が促進され、高結晶性で内部欠陥が少ない金属粉末が得られると推定される。
【0038】
生成した金属粉末は、回収される際に冷却されるが、このとき空気等の酸化性ガスを吹き込むなどの方法で表面酸化処理を行ってもよい。また、必要に応じて生成した金属粉末に分級処理を施すことにより、更に粒度分布の狭い金属粉末を得ることが可能である。
【実施例】
【0039】
次に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。なお以下において、「平均粒径」は走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察される任意の視野の画像において、無作為に選択した2000個の独立した粒子の粒径(μm)の平均値である。またD10、D50、D90はレーザー式粒度分布計で測定した重量基準の分散粒子径(μm)で、それぞれ積算分率10%値、50%値、90%値である。
【0040】
また、ノズル開口部周囲の温度Tは、原料粉末をノズルから噴出させている状態で、反応容器内部において、ノズルの開口面を含む面上でノズル口の縁から約10cm離れた位置に熱電対(岡崎製作所製シースK)を挿設して測定した。
[反応装置]
本実施例及び比較例(比較例9を除く)で用いた反応装置は、下部に原料粉末を噴出させるためのノズルが設置された縦型の管状反応容器を用いたものである。容器内のノズル開口部の下方にはバーナーが設置されており、このバーナーでメタンを主成分とする都市ガスと空気の混合物を燃焼させることにより、ノズルの周辺部分が加熱されるようになっている。なお、バーナーは、炎がノズル開口部に直接接触しない程度に設置位置を上下に移動させたり、向きを変えたりできるように設置されており、これによりノズル開口部周囲の温度を制御できるようになっている。さらに反応容器の外側にはノズル開口部の約1cm下方から上の部分に電気炉が設置されている。この電気炉は、反応容器内の温度がノズル周囲温度から温度Tまで、上方に向かって段階的に昇温するよう多段構成になっているものである。
【0041】
本装置において、原料粉末はキャリヤガスとともに前記ノズルから反応容器中に高速で噴出され、その直後に、ノズル周囲においてバーナーで、またはバーナーと電気炉加熱を併用して設定された温度Tに曝された後、反応容器内の前記温度Tに加熱された領域まで搬送されることにより、Tで加熱される。反応容器の上部出口には、冷却管が設置され、生成した金属粉末はここを通って冷却され、バグフィルターで捕集される。
以下の実施例、比較例において生成する金属の融点は、ニッケル:1450℃、銅:1083℃、銀:961℃である。
【0042】
実施例1
酢酸ニッケル四水和物粉末を気流式粉砕機により粉砕し、D50が約0.8μmの原料粉末を調製した。この粉末を開口部の断面積2cmのノズルから、流量2200L/minの窒素ガスを随伴させ、30Kg/hrの供給速度で、Tが600℃、Tが1550℃となるように設定された前記反応装置の反応容器中に噴出させ、ニッケル粉末を製造した。反応容器内における気相中の粉末の分散濃度は0.23g/Lであり、またV/Sは1100である。
得られた粉末をX線回折計(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)および走査型電子顕微鏡(SEM)等で分析したところ、金属ニッケルのほぼ単結晶の粉末であることが確認された。SEMによる観察では、粒子の形状は真球状であり、平均粒径0.19μmで、粒子間の凝集はほとんど見られなかった。また分散粒子径を測定し、表1に示した。(D90−D10)/D50は1.0で、極めて粒度分布の狭い粉末であった。
【0043】
実施例2〜3
をそれぞれ500℃、1200℃とする以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は真球状でほぼ単結晶の粒子からなる凝集の少ないものであり、平均粒径はそれぞれ0.21μm、0.20μmであった。分散粒子径は表1に示すとおりであり、(D90−D10)/D50はそれぞれ1.1、1.0と、粒度分布の狭い粉末であった。
【0044】
比較例1
を350℃とする以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は平均粒径0.26μmで、凝集が見られ、表1に示すように実施例1〜3に比べて粒径が大きく、粒度分布も広いものであった。
【0045】
比較例2
を1300℃とする以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は平均粒径0.26μmで、凝集が見られ、表1に示すように実施例1〜3に比べて粒径が大きく、粒度分布も広いものであった。また噴出開始後5時間ほどでノズルが閉塞し、長時間の連続運転が実施できなかった。
【0046】
実施例4
原料粉末のD50を約0.6μmとする以外は実施例1と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は平均粒径0.18μmで、ほぼ単結晶の真球状粒子からなり、凝集がなく、表1に示すとおり粒度分布がきわめて狭い粉末であった。
【0047】
実施例5〜7
炭酸ニッケル粉末を気流式粉砕機により粉砕し、D50が約0.5μmの原料粉末を調製した。この粉末を、流量2200L/minの窒素ガスを随伴させて、30Kg/hrの供給速度で、TおよびTが表2に示す温度となるように設定された反応装置の反応容器中に噴出させ、さらに温度が1350℃となる部分で一酸化炭素ガスを120L/minの流量で反応容器中に導入し、ニッケル粉末を製造した。反応容器内における気相中の粉末の分散濃度は0.23g/Lであり、またV/Sは1100であった。得られた粉末は、平均粒径がそれぞれ0.22μm、0.24μm、0.23μmで、表1に示すとおり凝集の少ない、粒度分布の狭い粉末であった。
【0048】
比較例3、4
をそれぞれ350℃、1300℃とする以外は実施例5と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は平均粒径はいずれも0.27μmであり、表1に示すように実施例5〜7に比べて粒度分布が粗大粒子側にシフトしており、分布幅も広いものであった。また比較例4では噴出開始後5時間ほどでノズルが閉塞した。
【0049】
実施例8
塩基性炭酸銅粉末を気流式粉砕機により粉砕し、D50が約1.0μmの原料粉末を調製した。この粉末を、流量2200L/minの窒素ガスを随伴させて、36Kg/hrの供給速度で、TおよびTが表2に示す温度に設定された前記反応装置の反応容器中に噴出させ、銅粉末を得た。なお、反応容器内における気相中の粉末の分散濃度は0.27g/Lであり、またV/Sは1100であった。
得られた粉末をXRD、TEM、SEMで同様に分析したところ、ほぼ単結晶の金属銅粉末であることが確認された。SEMによる観察では、粒子の形状は真球状であり、平均粒径は0.25μmで、粒子間の凝集は見られなかった。粉末の粒度分布を表1に示す。
【0050】
比較例5、6
をそれぞれ300℃、1000℃とする以外は実施例8と同様にして、ニッケル粉末を製造した。得られた粉末は、平均粒径がそれぞれ0.33μm、0.32μmで、表1に示すように実施例8に比べて粒度分布が粗大粒子側にシフトしており、粒度分布幅も広いものであった。なお比較例6では噴出開始後7時間ほどでノズルが閉塞した。
【0051】
実施例9
炭酸銀粉末を気流式粉砕機により粉砕し、D50が約2.5μmの原料粉末を調製した。この粉末を、流量600L/minの空気を随伴させ、4Kg/hrの供給速度で、TおよびTが表2に示す温度に設定された反応装置の反応容器中に噴出させ、銀粉末を製造した。反応容器内における気相中の粉末の分散濃度は0.11g/Lであり、またV/Sは750であった。
得られた粉末をXRD、TEM、SEMで分析したところ、金属銀のほぼ単結晶の粉末であることが確認された。SEMによる観察では、粒子の形状は真球状であり、平均粒径は0.59μm程度で、粒子間の凝集は見られなかった。粉末の粒度分布を表1に示す。
【0052】
比較例7、8
をそれぞれ200℃、900℃とする以外は実施例9と同様にして、銀粉末を製造した。得られた粉末は平均粒径がそれぞれ0.82μm、0.81μmであり、表1に示すように実施例9に比べて粒度分布が粗大粒子側にシフトしており、分布幅も広いものであった。なお比較例8では噴出開始後4時間ほどでノズルが閉塞した。
【0053】
比較例9
実施例1で使用した反応装置とほぼ同じ大きさであるがバーナーが設置されておらず、かつ原料粉末を噴出させるためのノズルを容器の下端に備えた縦型の管状反応容器を用い、反応容器全体が電気炉によってほぼ均一に加熱されるようになっている反応装置を使用し、該電気炉による加熱温度を1550℃とする以外は、実施例1と同様の条件でニッケル粉末を製造した。得られた粉末は金属ニッケルのほぼ単結晶の粉末であるが、凝集しており、平均粒径は0.29μm、分散粒子径はD10が0.27μm、D50が0.51μm、D90が1.09μm、(D90−D10)/D50が1.6であった。また噴出開始後2時間ほどでノズルが閉塞し、長時間の連続運転が実施できなかった。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解性の金属化合物粉末の1種または2種以上からなる原料粉末を、キャリヤガスと共に、キャリヤガスの単位時間あたりの流量をV(L/min)、ノズル開口部の断面積をS(cm)としたときV/S>600の条件でノズルを通して反応容器中に噴出させ、前記原料粉末を10g/L以下の濃度で気相中に分散させた状態で前記反応容器中を通過させながら、前記原料粉末の熱分解温度より高くかつ(Tm−200)℃以上の温度T(但しTmは生成する金属の融点(℃))で加熱することにより金属粉末を生成させる高結晶性金属粉末の製造方法において、
前記ノズル開口部の周囲の温度Tが400℃以上でかつ(Tm−200)℃より低い温度となるように設定されていることを特徴とする、高結晶性金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記温度Tが500℃以上となるように設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の高結晶性金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末がニッケル化合物、銅化合物、および銀化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の高結晶性金属粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法で製造された高結晶性金属粉末。
【請求項5】
請求項4に記載の高結晶性金属粉末を含む導体ペースト。
【請求項6】
請求項5に記載の導体ペーストを用いて導体層を形成したことを特徴とする積層セラミック電子部品。

【公開番号】特開2013−53328(P2013−53328A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191198(P2011−191198)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】